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―― 通信が断絶していたG-121基地の反乱を確認! 加盟国トラインを制圧し『新秩序連合軍』の発足、独立を宣言! 近隣地域への侵攻を進めていると報告が!
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―― ペティ王国の復興防衛に当たっている部隊より緊急連絡! 海軍旗に大きな×マークをつけた所属不明の海軍艦八隻が襲来! 首都を含む各地では同時に暴動も広がっており、至急援軍を求むと!!
もはや、世界政府の秩序は崩壊した。
これまで絶対であった政府の威信は崩壊し、全ての国家が政府を、そして隣国を信じられずに軍備を整え始めた。
「……まさか、まさかこのタイミングでこのような物が出まわるとは……な」
この十数日で、まるで十年経ったように急速に老け込んだ海軍元帥センゴクは、政府から回収命令が出たとある新聞の上に、力なく手を置く。
世界経済新聞。通称世経。
数ある新聞社の中で、唯一世界中で読まれている最大規模の新聞社。
実態は世界政府の広報誌に等しいその新聞の最新号の見出しはこうだ。
『暴かれた世界政府の欺瞞! 食い物にされてきた海兵達の悲劇!』
新聞の中で語られているのは、世界中で発生していた海兵奴隷事件のその詳細。
主に現場が動いた西の海だけではなく、各地の海で犠牲となった者達の名前のリストまで載っている。
すでに犠牲者の家族にも、この新聞は届いているだろう。
そして――
『世界に義を通す三本爪の猫! 大将すら退ける新勢力!』
その詳細の中で頻繁に出て来る、海兵奴隷事件の解決とその事後処理に最も貢献した
「センゴク、東の海でも始まったよ」
ノックもせずに入ってきた海軍中将、大参謀のつるに苦言の一つも言わずに、力ない視線をセンゴクは向ける。
「309番基地、ならびに113番基地が反乱、近隣の非加盟国と共に『自由東海連合』の樹立を宣言。反世界政府を旨とする声明を発表したよ。幸い、今の所他国へ侵攻するような動きはないけど、この動きに乗ろうとする動きがかなりある。加盟国にさえだ」
「…………そうか」
センゴクはそういうだけで、静かに新聞から世界地図に目を戻す。
新たな指示を出して動かせる部隊は、もはやどの海のどの基地にも残っていなかった。
世界政府は反乱を起こした国への対応を急がせろと命令をよこしたが、結果として海賊被害を受けて加盟国から発せられた救援要請への対応が後手後手に回ってしまっている。
つまり、加盟国にとって尚更海軍という組織への信頼が――ひいては世界政府という存在の意義が音を立てて崩れつつある。
「ゼファー達――黒猫への攻撃部隊の生存者は?」
「さっき無事に回収完了したよ。負傷者多数に加えて食料を奪われた事もあって士気はガタ落ち。幸い餓死者こそ出ていないが、恐慌状態に陥った者多数」
復帰できる兵士がどれだけいるか……。
小さくそうぼやくつるに、センゴクは何も言わず嘆息だけを返す。
返す言葉が何もない。
あの時、本当に命を賭けて作戦の撤回を直訴すべきだったのか。
事態がこうも致命的に悪化の一途を辿る中で、センゴクは常に自問していた。
あの時点ではすでに止めようがなかった。
仮に直訴が通った所で、すでに交戦していた。
だが――その前ならば?
無茶な作戦だと、蹴り飛ばせる時はなかったのだろうか。
(あるいはどこかで……どこかで、私もクロを恐れていたのか)
もっともこの事態に対処しながらも、ある意味でこの事態の引き金を引いた者。
多くの民衆を救っている。
多くの兵士を救っている。
それゆえに世界政府を今、根幹から崩しかねない存在となった
海軍の存在意義を根こそぎ奪いかねない新しい秩序――平和と、自由を兼ね備えた輝かしいソレを掲げる者。
―― 解放の旗手。
新聞がそう囃し立てる事に、『黒猫』を知る兵士は誰も異を唱えない。
そもそも、クロの一味を取り込もうとしていた政府が噂を流していたこともあって疑問を持つ者もかなり少なくなっているのだ。
すでに海軍本部の中には、実際にクロの薫陶を受けた者達によって『黒猫派』とでも言うべき派閥が静かに形成されつつある。
派手な動きは見えない。
反乱や反政府活動といった動きは見せない。
ただ静かに、クロと関わった将校や兵士が頻繁に連絡を取り合い、関係を深めている。
(だからこそ、政府も手が出せん。あれだけ政府と海軍の関係改善に動いたクロの影響を受けた者こそが、今の海軍――それどころか政府にとって必須の存在となっている。たとえ不穏分子の最筆頭であろうと!)
聖地復興に於いて見せた、物流と経済、そして労働力を完全に掌握して最高効率で計画を進めて見せたあの手腕。
それを多少なりとも理解し、身に付けている将兵は政府としても手放すことが出来なくなってしまっている。
この危機的状況では、特に。
「金獅子と
「まだ断定は出来ん。金獅子が情報をリークし、それに乗っただけかもしれん。どちらにせよ追ってはいるが……」
大抵何かしらの虚飾に塗れている政府の広報紙と言えるソレに、今回に限っては一切偽りはなかった。
ただただ真実のみで綴られた、西の海での海兵奴隷事件から続くクロという海賊の軌跡がそこにあった。
「一つ確実なのは、金獅子は再び地下に潜むという事だ」
「そうだね。クロ坊やの情報を拡散させれば、世界中の目があの子と、あの子の行動に当てられた人間達に向く」
「世界の目をクロに向けさせ、情報を塗りつぶしている間に態勢を立て直すか」
「……坊やの読みが正しいのならば、金獅子はすでにどこかの国に下地を作っていたハズさね」
つるが手早く煎れた薄めのお茶を啜って、一息つく。
「つる、北の海の調査は出来ないか? クロが警戒していたのはあそこだが」
「ただでさえ戦争だらけだった所に、さらなる侵略・独立戦争が乱発し始めている海だよ。危険だ。下手な数の海軍艦を送り込めば巻き込まれかねないし、かといって大艦隊を送り込めば各国を刺激する」
それに、と言葉を続けるつるに、センゴクは嫌な予感を覚える。
「敵に金獅子がいるとなった以上、そのアジトや拠点を発見するのは極めて難しいよ」
「……フワフワの能力」
「どの海にいてもおかしくない。目撃情報が得られればともかく……この情勢じゃあね」
ただでさえゴールドロジャーの遺した
海軍へ非協力的な態度を隠そうともしない勢力が増えているのに加えて、賊もその被害も短期間で目を覆いたくなるほど増えている。
当然情報は錯綜しており、信頼できる物はそうそうないだろう。
「センゴク、政府は?」
「政府の意向に沿うように対応しろという一言以外何もない。……あのクズ共め」
「ガープみたいな事を言うんじゃないよ」
ここまで事態を悪化させた天竜人に対して政府が取った手段は緊急の帰還命令のみ。
しかもそれ以外に特に令を出していなかったため、急いで帰るために随分無茶な強制徴収――事実上の略奪を行った上でだ。
その結果被害情報が劇的な速度で広がり、世界経済新聞によるリークと合わせてその支配基盤はボロ布の如く崩れ落ちようとしている。
海軍支部によるクーデターも、内心では無理もないとセンゴクですら思うのも仕方のない状況だった。
それでもなおセンゴクがギリギリの所で踏ん張っているのは、ひとえにそれでもまだ政府を頼らざるを得ないような弱い立場にある者達のためである。
実際加盟国の海賊被害は広がっており、支部から上げられる交戦報告も過去に類を見ない程大量の物となっていた。
黒猫との戦いで最大戦力はそのほとんどが動けなくなり、英雄と呼ばれたガープは平和の象徴――
「センゴク。世界政府は、全加盟国から徴兵を行おうとしているよ」
「ああ、小耳に挟んでいる。この状況では止められんだろう」
「だからこそ止められないかい? こんな情勢でまともな兵力が来るわけがない。私達海軍に協力してくれる役人――『黒猫派』の人間が情報を回してきたけど、15歳以上は男女問わず適性があるならば引き立てるそうだが……」
政府の考えている事を、この場にいる二人は正しく察している。
未だ在野に埋もれているやもしれない第二第三の『クロ』を探し、取り込んでおきたいのだ。
それこそ、強引な手を使ってでも。
「これまで散々人材を使い潰しておいて、よくもこのような恥知らずな真似を……っ」
「クロ坊やが懇意にしていた役人――ピンシャー卿だったかい? も、どうにか一命を取り留めたようだけど……」
「軍病院に預けて、信頼できる手練れを張りつかせておる。最優先で保護した
センゴクだけではない。
今回の黒猫への攻撃に反対だった海軍の上層部や政府関係者の中には、それこそ頭を下げてどれだけ重いペナルティを払う事になったとしても、今すぐ『黒猫』との関係を改善するべきだという意見を挙げる人間が多数出ている。
皆、世界政府という組織が崩壊しつつあるという事実に心から恐怖しているのだ。
そしてこの状況をひっくり返せる人間がいるとしたら、それは今対応が後手に回り続けている五老星や政府の重役ではなく、たった一人の海賊しかないと。
「坊やが、話し合いに応じてくれるかね。相手はただの海賊じゃないんだ」
なにせ海賊が裏切ったのではない、海軍が裏切ったのだ。
これで相手がただの海賊ならば策略の一つと胸を張って言えるだろうが、むしろ多くの将兵が心に負い目を感じる始末。
せめて成功していたのならばまだしも、結果としては大敗。さらには世界貴族の暴走に先日の演説――『黒猫宣言』と呼ばれ多くの将兵が記録している『黒猫』の時代への
裏切りの代償は、想定をはるかに超えて重かった。
話をしたい。
秩序を担う者として、今の状況・情報を全て開示して意見を交わしたいというのがセンゴクの本音であり、つるの本心であり、海軍上層部のある意味統一意見でもあった。
現時点でセンゴクはまだ把握していないが、三本爪の旗が――『黒猫』の正式な艦隊勢力が近づいた時に速やかに投降するために、関係者家族の保護を含めた身辺の整理を進めている海軍基地が多数点在している。
特に、西の海では。
海軍の完全な自壊をすんでの所で食い止めた『黒猫宣言』は、海軍にとって救いの手に等しいのと同時にジワジワと効いてくる毒の言葉にもなっていた。
逆に言えば『黒猫』の言葉、『黒猫』の提言した策ならば、今もバラバラにほころびつつある海軍を今一度まとめ上げる事も不可能ではない。
聖地防衛戦とその後処理で見せた西の海の『軍神』の名は、それほどまでに重い物になっている。
今取るべき方針、そして『黒猫』との今後を二人が考えている中、トントンッと丁寧に扉がノックされる。
―― 失礼いたします。
そしてドアの向こう側から、女性の声がする。
軍人らしくない優しさを含んだその声にセンゴクは少しだけ表情を柔らかくする。
「ああ、あの時の子達だね?」
「そうだ。構わん、入ってくれ」
「――ジェネッタ君」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「どけフォラァッ!!」
「腰の抜けた人間の兵士なんざ俺達の敵じゃねぇ! 海賊に続け、野郎共!!」
開幕ブッパした威国――俺の持つ足技の中で最も射程と貫通力に優れた技で吹き飛ばした道に、俺とアーロン、そしてジンベエを主軸とした突入部隊が一気に突っ込む。
…………。
というか弱い!
弱くて脆い!
弱くて脆くて酷い!
なんかもう色々と大丈夫か海軍!!?
せいぜい地区本部海戦時の海兵レベルがいい所だ。
個々でそれなりにはやれそうなやつもいるにはいるんだが、周りが動線を把握していないために対応が遅れて、一方的に俺達がぶっ飛ばす羽目になっている。
嘘でしょ、圧倒的にこっちが不利なのに弱い者いじめしているような気分だ。
こっちの主戦力は魚人なんだから一対一で対応しようとしたらぶっ飛ばされるに決まってんだろうが!
平陣上手く使えよ! 横長の陣形なんだから上手く動けば包み込んで圧を加えられるだろうが!
(策を考えた奴、それなりの有力将校かと思ったが違うな!?)
方針の助言は出来るが、こうしてリアルタイムになると判断が遅れるか、あるいは
(前者ならば頭はいいけど実戦経験不足の出来立てホヤホヤ指揮官、後者ならば出来るけど階級低い――精々曹長止まりの奴か!!)
少しだけ心配だったヒナ率いる別動隊だが、これなら問題ねぇ。
万が一強い駒が現れたとしてもイッショウがいる。
加えて俺の我流の物とはいえ戦術的な判断が出来るようになったヒナが意思決定を担うならば、攻めるにせよ逃げるにせよ機会を逃すことはない!
「海賊! 船は壊したら駄目なんだな!?」
「そうだ! 天竜人がいる以上逃げてもらわないと面倒なことになる。救出した上で逃げ帰ってもらえればいい!!」
サーベルを構えた海兵に見事なラリアットをかましたアーロンの質問に答える。
そうだ、陸続きじゃない上に海の
絶対に連中には帰ってもらわないといけないんだ。
そうすれば残している天竜人は、逃げた天竜人から見捨てられたと思うだろう。
いや思わなくても口先で連中に悪印象を押し付けてやる。
憎悪の先を誘導してやれば、親魚人とまでは言わずとも多少軟化させる事だって出来るだろう。
いや、だろうじゃなくてやらなくてはならん。全力でペラを回す時が来た。
「そうなると、問題は敵船の足止めではないか!?」
一方、撃ち水でライフル持ちの兵士達を片っ端から沈めているジンベエが怪訝な声で質問してくる。
「いや。奴らは一度勝つか、あるいは大敗しないと多分引かない」
「なぜ!」
「そのつもりがあれば、とっくに捕まえた魚人や人魚を上に運んでいる」
俺がそう答えると、言われてみればとジンベエが目を丸くしている。
「明らかに数が合わない魚人島の今の人口。西の海に逃げたという人数を足しても到底足りない。となると、かなりの魚人や人魚――が! バラけているんだろう!?」
一部隊の指揮官と見られる能力者――多分蜘蛛か何かのゾオン系だろう。粘着性のある糸が発射されるが、それを
よしよし、退路を確保する意味でもこういうヤツは確実に倒さなければ。
「そういう魚人達が、まだ周囲にいる。少なくとも敵はそう考えている。向こう側にチラホラ見える沈められた海軍の船は、そういう奇襲でやられたんじゃないのか!?」
部隊長がやられて、部隊が及び腰になった奴とでたらめに攻撃する奴に分かれる。
馬鹿め! 疾うに弾切れになってるのに無駄に引き金引きやがって!!
却って危ないからちゃんと慌てず迅速に退避しろくださいお願いします!
一対一ならともかく対多数での手加減はまだ調整中なんだから!!
噛猫・弱!!
「お前のっ! 言う通りだ海賊!」
アーロン君死体蹴りは止めてあげて!!
その子戦意はもうなくなってるから!!
「島から逃げたものの、それでも島の周囲に潜んでいた者達が沈めた! 今奴らがどこにいるかは分からんが……っ」
「天竜人か、あるいは海軍かは知らんが、恐らくそれを恐れている」
恐らくは海兵かな。
天竜人に振り回された挙句心中なんて心底ゴメンだろう。
「だから、確実に戦場を終わらせて万全の状態で警戒しながら帰りたいってか! 海軍共め、ふざけやがって!!」
「熱くなりすぎるな、アーロン。もうすぐ敵船の防衛ラインに突っ込む」
攻める側だったから士気がバラけていたが、天竜人の待つ船の直衛となればある程度は纏まるハズ。
かといってこの距離でもう一発威国を撃てば、確実に船に穴が空く。
一気に『抜き足』で敵陣の側面に行って一列に並んだ敵を一掃するという手段もあるが、それだとさすがの
少なくとも民間人の救出完了まではジッとしていてもらわなければならない。
「まずは一隻、確実に内部の人間を全員助け出して安全地帯まで連れ出す。そうすれば収集欲にかられた天竜人はムキになって、必ず取り戻そうとする。今の陣形すら崩して」
そうなれば奪還のために動かせる戦力は限られる。
船を守る最終防衛ラインの兵士だ。
彼らを削って向かわせるしかなくなる。
(魚人の逃走者を許さないために組んだガッチガチの陣に無茶な移動をさせれば、一気に崩れる!!)
そうすれば、今俺達のはるか後ろで海兵達としのぎを削っている魚人達が前線を押し上げるだろう。
そのタイミングで逃げようとしても、出航にはかなり手間取る。
あとは――
(ヒナ!)
当初は作戦に入れていなかった、想定外の戦力がどう動くか。
(俺の作戦! ほぼ完璧に読んだんなら分かってるよな!!?)
(頼らせてもらうぞ!!)
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ヒナ、進行方向はこっちでいいんだな!?」
「はい、大佐!!」
そこまで攻撃的な兵士がいなかったクロの護送隊は、偶然合流したイッショウという特級戦力によって理想的な遊撃隊として機能していた。
イッショウが道を切り開き、ヒナとワイアードの女性コンビがイッショウの一撃をどうにか耐えた兵士を倒し、その後ろにいる兵士達が更に道をこじ開け、敵陣を斬り裂く。
「クロの当初の作戦には、一つだけ不安要素がありました。私達で、少しでもそれを埋めに行きます」
今ワイアードとヒナ率いる遊撃隊はクロ隊が切り開いた道へと向かっている。
合流ではなく、その後ろ。
こじ開けられて、クロを追うか迫る魚人を迎え撃つかで迷いが生じた一団を徹底的に潰していく。
「おヒナさん、クロさんの作戦の不安要素とはいったい?」
「この突撃作戦の目的はあくまで救出。だけど、部隊として動かせるのが一つしかない以上――救出した民間人の安全と退路の確保が極めて難しい!!」
ヒナは西の海にて行われた、あの金獅子によって運ばれた島の攻略戦でのクロの指揮を思い出していた。
「最初から見聞きしているわけじゃないからあくまで最悪の仮定だけど、あの大型戦艦にギッシリ魚人が運び込まれていたんならば数はとんでもないことになる。多分、最初の作戦では一隻を落とした直後に、さっきの大技で混乱状況を作ってから立ち回ろうとしたんだろうけど――」
能力によって高精度の夜間偵察が出来る『ゴースト・プリンセス』からの情報を元に民間人の数と敵の配置を把握・計算し、精鋭の親衛隊と海軍の混成部隊を要所に配置し、安全に退避できるようにしていたクロの手腕を。
「それだと運に頼る所もあるし、そのカバーに動くクロの負担がすごく大きい」
後の海兵育成のための参考にするために、クロの手腕を少しでも調べておけ。
センゴク元帥直々のその命令を、ヒナは必死に遂行していた。
「だけど私達という想定外の戦力がいるのならば、退路のための中間拠点が確保できる」
そして命令を守り続けたヒナは、クロと共にいた経験を確実に血肉にしつつある。
護送兵総員40名。
西の海への航海だという偽装のために配備された、新世界を渡るには少なすぎる人員。
完全な退路の確保には全く数が足りないが――
「今クロ達が攻めているあの船と、明らかに受け入れ態勢を進めている装備が統一された魚人軍がいるエリアを直線で結び、その中間地点となるエリアを押さえて陣を立てる」
先日立ち寄った島で海賊達から徴収した剣やライフルを手に、黒いスーツに着替えた海兵達が真っ直ぐに走る。
それを見て数で勝ると襲い掛かった海兵達は、飛び跳ねたヒナの回し蹴りによって全員が頭を蹴り抜かれて昏倒した。
「クロが必殺技とその後の突撃で二重に引っ掻き回したおかげで滅茶苦茶になっているここに陣を敷いて、前後双方の海軍に圧を加えれば、魚人勢力の進行を早められる」
「包囲されませんか? おヒナさん」
「いいえ、むしろ海軍は兵を下げる。ただでさえ及び腰で、さらには天竜人がいるだろう船にまでクロが迫っているのならば、そちらに兵力を集中させたいとなるハズ」
陣形が崩れに崩れた中に、敵が陣を立てたと知れば必ず敵は守りを固めに動く。
そうなるだろうと、ヒナを確信を持っていた。
「大佐! ここです、大佐!!」
「総員! 方陣態勢!!」
ワイアードの指示に、やや新兵が多いとはいえ訓練を受けていた兵士達がグルリと並んで円を作り、四方八方の敵を警戒する。
(大丈夫、必ずこれで士気は崩壊する)
ヒナは、ここまで運んできたその布を出来るだけ長い棒に取り付ける。
全ての人間が憎いだろう魚人に、ここは違うと示す物。
「ここに――」
今先陣を切って魚人を助けようとしている男の背中にある印を。
「この旗を!!」
手描きの、少々歪でこそあるが確かにそうだと分かる物。
三本爪の黒猫の旗が、この海の底に確かに突き立てられた。
黒猫に入ったわけではない。
一応はまだ海兵であるスーツの集団が鬨の声を上げる。
「次は――」
「! っ、おヒナさん、おさがりを!!」
ここを確実な中継地点にするために、次の行動を指示しようとしていたヒナの手をイッショウが掴み、自分の背に庇うように引っ張る。
それと同時に、轟音が響く。
未だ鞘から抜かれていない白杖の仕込み刀と、巨大な
―― 行方不明になったと聞いていたが……っ!
十手を握る手は、その手首の先がなかった。
そこにはただただ、
そして煙は集まり、人の形となり――
「どういう事だ! 説明しろ、ヒナァ!!」
ヒナよりやや年上――おそらくクロとそう変わらない、白髪の少年海兵へと変化した。
「スモーカー君!!!?」