とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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126:象徴

「ちっ。ようやくお出ましか、海賊の犬野郎!」

「だから猫だって言ってるでしょう!?」

「人類だよバカ共」

 

 許されるよなアーロン?

 コイツらぶん殴っても俺許されるよな?

 

 というか海兵が捕虜を殴るな。せめて海賊の俺に殴らせろ。

 ……。

 いや殴る理由がないんだけどさ。

 

「とにかく、そちらの状況は大体把握した」

「あ゛ぁ!? なんですでに把握してやがるんだ!?」

 

 お前とヒナがROUND2を繰り広げている間に他の海兵達から聞き回ったからじゃい!!

 皆お前らに微妙な目を向けながら答えてくれたわ!!

 

「具体的な内容も分からないまま出航だけを急かされ、いざ現地に到着すれば天竜人の暴走により拡大し続ける被害の後始末。各部隊で緘口令こそ出されていたけど実質用を成していない、か」

 

 ヒナと喧嘩してちょっと元気を取り戻してきたケムリン君が小さく舌打ちする。

 君、なんでそんなに仕草が一々海賊っぽいのさ。

 ……原作のスモーカーは大人になったんだなぁ。マジで。

 

「作戦内容が不明瞭だったのは天竜人関連の情報の拡散を嫌ったのもあるだろうが、本当に作戦が分かっていなかったのだろう」

 

 思い当たる節があるのか、捕虜の数名がますます顔を暗くしてしまう。

 

「天竜人を守ればいいのか、地域を安定させればいいのか、あるいは海賊や反乱が発生したのか。そういった現場の情報そのものが錯綜していて何も分からないが、とにかく人手がいる事だけは確か。それで兵士だけでも派遣しようとして……」

 

 で、その先々の悉くが天竜人製の地獄の数々だったわけだ。

 それが結果として緘口令が意味を成さないとかいう軍組織にあるまじき事態を招いたようだけど。

 

(いや、反乱が多発している時点で軍組織としては崩壊したも同然か)

 

 もうこれ革命軍とは違う革命軍が出て来る予兆でしかないなぁ。

 ヒナに話した通り、直に独立した海軍同士が国を巻き込んで手を結び始めて地方軍閥と化すぞ。

 

(まずは軍組織を維持するための生産力の確保。……モプチ占領直後のウチと同じだ。戦力と労働力がほぼ同一化する状況になる。そこに一刻も早く事態を鎮圧したい政府の思惑も加味すれば……各海の夏前までには一度大規模な戦いが起こるだろうけど、反乱勢力を完全に鎮圧しきる力はもはや政府にない)

 

 つまり――面倒なことになる。

 

 恐らく、政府と反乱軍による島と労働力の奪い合いの加速は避けられない。

 最悪のパターンとしては、シキとモリアのやっかいコンビがそれに乗っかって確固たる勢力圏を持つ事だが……。

 

「まぁ、今は置いておきましょう。私が欲しいのは今回の魚人島への出兵に関する情報です」

 

 ねぇスモーカー君。頼むから協力してくれないかな。

 戦えとまでは言わないけど、情報が出来るだけ欲しいのは戦闘――というかこれ以上の流血を少しでも減らすためなんだ。

 

 ……本当は戦闘そのものを回避したかったんだけどね。

 

「すでにこちら側で保護(・・)している天竜人様――プルミング聖らより今回の一件を手打にしたいというお言葉と、それを証明するいくつかの宣誓書にご署名を頂いております」

 

 ざわり、と海兵達がザワめく。

 あのパンクちゃん――ドール曹長だっけ? なんか特に驚いているな。

 

「戦いを――終わらせられるのか!?」

 

 スモーカー君が食いついた。

 やはり、この戦いに思う所があったんだろう。

 そりゃまぁ当然だろうが――

 

「微妙です」

「「「「「微妙ってなんだぁ!!!!?」」」」」

 

 海兵君達ノリいいよね。

 いい連携だ。

 ツッコミの。

 

「要するに、条件をクリアしているのはこちら側だけだという事です」

 

 パチンと指を鳴らすのと同時にアーロンとヒナが黒板を持ってきて壁に掛けてくれた。助かる。

 そこにこちら側の天竜人の数だけ小さな丸を書いて、それらを大きな丸で囲む。

 

「これ以上魚人で揉めて不自由な人質のままでいるくらいならばさっさと聖地へ帰りたい。とまぁ、そういう内心を利用してその権威を使わせてもらう事に成功しました」

 

 実際にはこっちの毒を呑み込んだ結果、向こう側の天竜人がちょっと怖くなったって話だけど。

 

「魚人側は現在意見の調整中ですが、魚人島への天竜人の干渉と奴隷問題をどうにか出来れば意見は傾くでしょう。今回の戦闘で島全体が疲弊しているのです。その復興に一刻も早く取り掛かりたい」

 

 もっとも、その被害がデカすぎて一般層の恨みつらみがヒデェ事になってることが大問題だけど。

 ……まぁ、それをどうするかはネプチューン王の仕事だ。

 餅は餅屋に任せておこう。

 海賊には海賊の仕事がある。

 少しでも政治、戦闘両面で優位を確保しなくては。

 

「解決のための条件はほとんど揃っているのですが、唯一の問題は――現在、どういうわけか海軍部隊の実権を握ってしまった天竜人にあります」

 

 で、丸で囲ったこちら側の反対側にチョークで『天竜人2』と書いてグルグルグルッと丸で囲む。

 ついついそれが乱暴になってしまうが許してほしい。

 現状一番の問題にして、解決の糸口が全く見えない奴らなんだ。

 

「魚人を諦めた上で逃げ帰ってくれれば良かったんですが……」

「それはオジャン。暴徒によって海軍艦のコーティング機能が破壊されて、天竜人は海軍諸共立ち往生。私達はこうして無駄な睨み合いを続ける羽目になったわね」

「おい、ヒナ」

 

 ヒナが後を続けると、アーロンやジンベエといったこちら(・・・)側の魚人達が気落ちし、そしてそれ以上に捕虜の海兵達がうなだれている。

 

(……厭戦気分がここまで酷いとは。夜明けと共に交渉を振ってみるけど、これで天竜人が引かなければマジで向こう側は瓦解……ならまだマシだけど、最悪モラルハザード起きるんじゃなかろうか)

 

「クロ……」

「いい、気にするなアーロン。そちらに責任がないとは言わんが、魚人の人間に対する不信の見積もりが甘かった自分の責任も当然ある」

 

 作戦の立案者だったんだぞ。と言うとアーロンも引き下がってくれる。

 ……そしてジンベエは……救出作戦が終わってからずっと調子おかしいな。

 夜明け前にちょっと声をかけておくか。

 

「向こうの天竜人がプルミング聖らが署名した休戦協定書の条件を飲んで包囲網を解除し、魚人島の外周部まで全隊を下げてくれるならばそれでいい。だがそうでない場合、再び攻撃が開始されるでしょう」

 

 薄々、そうなるだろうなぁと皆感じているのだろう。

 うん、正直俺もそう思う。

 

(そもそもキチンとした書類作って署名をもらったのは、天竜人が署名した公的な文書を違う天竜人に取り扱わせ、対等なハズの天竜人に上下関係を作らせるのが目的だしなぁ)

 

 書類の条件を受け入れられればプルミング聖が向こうの天竜人の上に、破られれば下となる。

 少なくともプルミング聖はあの性格だ。この小細工が上手くいけば自分が状況を動かしたと見るだろうし、無視されればそうした向こう側の天竜人に敵意を持つだろう。

 

 そう仕向けたのは俺だし、更に煽るつもりだけど。

 

 これで天竜人が互いを敵視してくれればこちらは大義名分を得やすく、海軍側は公的文書を用意して戦闘に区切りを付けようとした天竜人と、それを無視して戦闘続行を叫ぶ天竜人の間で挟まれる事になる。

 

(打てる小細工は全て打つ。その上で戦闘が避けられなかった時に、その被害を抑える方法はただ一つ)

 

 勝つ。

 最短で敵陣を突き崩し、この部隊の実権を握っている天竜人を捕らえて海軍側の選択肢を潰す。

 事態を収拾するにはそれしかない。 

 

 その上で海軍に連れ帰ってもらう。

 その時はこちら側の駒になった天竜人が帰還まで主導してくれるだろう。

 

「もう一度聞くというか確認ですが、向こう側の海兵はほぼほぼ新米と考えていいんですね?」

「……本部の精鋭もいるにはいるが、おおよそは輜重隊なんかの後方支援で残っていた兵士の寄せ集めだ。基礎体力はさすがに最低限あるだろうが、斬った張ったの経験は碌にねぇだろうさ」

 

 うん。こちらの推測通りだ。

 それはいい。

 

 ヒナに目配せするとチョークで黒板――天竜人2と書いてる所に『海軍』と付け足し、実戦経験不足と続ける。

 

(だがそうなると、指揮者に助言を与えている人間の手腕が想定よりかなり高い)

 

 元より油断するつもりはないが、怖い相手だ。

 優秀な指揮能力――あるいはそれに準ずる戦略、戦術眼を持つ敵は下手な能力者よりも脅威だ。

 実権を握っていない事にも確信は持てたが、それでも最大限の警戒がいる。

 

「現在スキッパー特別中将に代わり指揮を執っているのは?」

「モイラとかいう女だ。階級は知らねぇ」

 

 ……知らない。

 なるほど。

 

「政府の?」

「多分な。だが切れ者って感じはしねぇし鍛えた感じもねぇ。色気とご機嫌取りで上に昇ってきたタイプの女だろうさ」

「……スキッパー特別中将と一緒に海軍へ?」

「ああ。……いかにもな腰巾着っぷりだったぜ」

 

 本人に指揮能力があるとは思えないか。

 鵜呑みには出来ないが参考にはなる。

 

(なるほど、保身に走るタイプだな。攻め手は遅く、守りが早かった事にも納得が行く)

 

 敵の動きの傾向は読めてきた。

 幸い捕虜の皆は意外と俺達に協力的だ。

 聞いたことは大体正直に話してくれるし、広く情報を集めて組み立てていけば敵勢の実態を掴むのは難しくない。

 

(唯一不安なのは時間か。陽が差し込むまでに相手に突きつける声明文も完成させなきゃならんし――)

「おい」

 

 ん?

 どったのケムリン。

 

「なんでしょう?」

「なんで戦ってやがる」

 

 ……いや、なんでって言われても。

 

「この船を飛ばしてきたのは、そっちの仕込み杖の奴の能力だろう? 逆に言えば、お前らだけならこんな包囲網いつでも抜けられる」

 

 そしたら犠牲者の数がとんでもねぇ事になるだろうが!!

 民間人だけ乗せて脱出することは確かに考えたけど一隻じゃ絶対に足りねぇし!!

 今も外にどれだけの民間人がいると思ってるんだ、負傷者だけですら収容しきれてねぇんだぞ!

 

「なのに、なんで海賊のお前はまだ戦っていやがる。こんな――何も得る物がねぇ……っ!」

 

 いやめっちゃ利益得てるよ。得まくりだよ。

 世界政府の失点を直接確認出来た上に天竜人に細いとはいえ悪くないパイプ作れたんだから。

 それに加えてリュウグウ王国国王に加えて一部魚人勢力とのコネクション。

 十億,二十億ベリーどころじゃない利益があるわ。

 

「なんでだ」

 

 

「お前が! ここまでして命を賭ける理由はなんだ!!!?」

 

(……そりゃ、あるけどさ)

 

 まさにこの部屋にある。

 あるし、別に隠す必要もない。

 だからそれを指で指し示す。

 

 …………。

 

 なにキョトンとしてるんだお前らぁ!

 

 アーロン! ヒナ!! ついでにイッショウ!!

 この現状でお前ら以上に俺が命を賭ける理由があるかっ!!!?

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 同期で、何かと規則を生真面目に守っていた小うるさい女が、進んで海賊の下に付いて戦っていた。

 正直な話とても信じられない光景だったが、そもそもそれ以前に信じがたい話を山ほど聞いていた。

 海兵奴隷事件、裏切っていた多数の将校、海賊連合事件における本部戦力と海賊の共闘、そして聖地襲撃事件からの――地獄の始まり。

 信じた物が全て崩れていく。

 訓練を終えて、これから始まる闘いの日々を乗り越えていくための支柱が腐り果てていた。

 

 対して、同期の女の目は生きていた。

 身の安全のために渋々従っているような目ではない。

 この海賊の進む()が正しいと信じている目だ。

 

 それが、海軍(自分達)と戦う道だとしてもだ。

 

「なんでだ」

 

 それを知りたかった。

 

「お前がここまでして命を賭ける理由はなんだ!!!?」

 

 ある意味で最も世界政府の正義(規則)を守り続けていた女が付いて行く海賊の、その理念を。

 そうして思わず発した言葉に、海賊は指一つで答えた。

 人差し指で同期を――ヒナと、その周りにいる魚人や元海兵、剣士達を指し示す。

 

「ここに」

 

 指さされた当人たちはキョトンとしている。

 自分達が引き合いに出されるとは思っていなかった顔だ。

 

「ここに、私を信じて戦う者がいる」

 

 まるで軍人のように、ピクリとも微動だにせず真っ直ぐに立って、捕虜ではない海兵達や魚人達を指している。

 

「ここに、私の言葉を信じて耐えている者がいる」

 

 その言葉に、特に大柄な魚人の二人がピクリと反応する。

 ギザギザの長い鼻を持つ魚人は軽く鼻を鳴らし、もう片方は何も言わずにジッとこの男を見つめている。

 

「その事実だけで十分です」

 

 同期が――ヒナが、まるでゼファー教官やセンゴク元帥を見るような目で、本来相容れない男を見ている。

 

「それだけで私は、たとえそれがどれほどの地獄であろうとも、ためらわずにこの命を賭けられる」

 

 海賊を。本来そう呼ぶべき政府の敵を改めて目に入れる。

 歳はそう変わらない。

 

「……お前は、役人じゃねえ」

「はい」

 

 だが聖地復興に最も尽力し、その加盟国への影響を最小限に留めたという嘘のような実績がある。

 

「海兵でもねえ!!」

「……? はい」

 

 だが、西の海での海賊連合騒ぎに於いて、派遣されていた海兵がもっとも戦果を挙げた指揮官として誰もが名を上げたのはこの男だった。

 

「そして――海賊でもねぇ!!!」

 

 眼鏡をかけた男は虚を突かれたようにキョトンとしている。

 だが、叫ばずにはいられなかった。

 

「なんなんだ、お前は……っ!」

 

 

「お前が海賊であるハズがねえ(・・・・・・・・・・)!」

 

 男は答えない。

 というよりも、困ったような顔をしている。

 何かを言おうとしているのだがそれが形にならないのか、数秒沈黙した後にその苦笑をより深くし、

 

「貴官の目に、私は何者に見える?」

 

 と問い返してきた。

 その、困った笑い方に無性にイラッと来て言い返そうとした。

 した、が――答えが出て来なかった。

 悪態も罵倒も、そして答えも出て来なかった口を閉じて、忌々しい思いを呑み込んで俯くしかなかった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 南の海、ソルベ王国。

 国土の南半分を削り、国民すら削り多くを奴隷とする悪法を通したがために革命軍の攻撃を受けた加盟国は、現在革命軍の制圧下に置かれていた。

 

「イワンコフ、運び込まれた資材が倉庫に詰まっている。人員を割り振って加工するなり場所を移すなり――ともかく港周りの倉庫を空けてくれ。まだまだ輸送船が来るんだ」

「ヒーハー!! こっちを襲おうとしていた海賊の積み荷だけでも大変だったのにまだ来るのネ!?」

「思わぬ援軍が来たからな」

 

 革命軍――元は自勇軍という自警団もどきの集まりが組織化されたそれはまだ構成員が少なく、出来る事も限られている。

 国を立て直すことなどまず無理なのだ。

 それが今、復興に従事できているのは――

 

「ドラゴン、連絡が入った。二時間もすれば港近くに辿り着くそうだ。倉庫整理に手間取るようなら、こちらからも人員を貸そう」

 

 援軍が来てくれたおかげである。

 援軍勢力の指揮を執るその男は、白い(・・)制服とコートを翻して革命軍のリーダー、ドラゴンに報告と提案をする。

 

「この夜の闇の中を航行するのは危険ではないか?」

「ここらは我々の哨戒範囲だった海域だ。危険の最も少ない航路は熟知している。任せてくれ」

「……感謝する。まさか、海軍(・・)が手を貸してくれるとはな」

「すでに我らは海兵ではない。……時間がなかったために着替える事も出来なかったがな」

 

 世界政府直属の軍組織。海軍の象徴である『正義』の二文字が書かれたコートを身に付けた大柄な男は、だがその象徴を忌々しげな目で見ている。

 

「先ほど申した通り、我ら――仮に南海独立軍と名乗っているが、革命軍と同盟を結ぶ用意がある」

「……正直に言えば助かる。混乱に乗じてこの国を襲ってきた海賊の対処も、そちらの助力がなければ危うかった」

 

 革命軍が死守した港湾に並んでいるのは革命軍や元海軍の船だけではない。

 砲撃によってボロボロになった上で、資材として使えると解体待ちの海賊船の数々の姿もある。

 

「ああ。貴殿ら革命軍がただの反政府組織ではなく、民衆のために立ち上がる存在だとこの復興活動を見て理解した。故に力を貸すし、手を結んでも良い。が、条件がある」

「……その、条件とは」

 

 ドラゴンの問いかけに元海軍将校は、港に並ぶ海軍艦に目を向ける。

 当人は知らないだろうが西の海のとある基地がそうしていたように、彼らの軍艦の帆のカモメは()に捕えられていた。

 

「ある海賊(・・)を待っている」

「……黒猫か?」

「! 知っているのか!」

「その船出をこの目で見届けた」

 

 誇り高い、見事な船出だった。

 ドラゴンがそう言うと、元将校は嬉しそうに顔を破顔させた。

 

「いつの日か、彼らはこの南の海まで勢力を伸ばすだろう。その時に彼らの理念が変わっていないのならば――」

 

「我らは我らの行く末を、彼に託したいと……そう考えているのだ」

 

 

 

 

 

 交渉はすぐさま纏まった。

 そもそも革命軍はいずれ黒猫とは接触、状況によっては同盟、あるいは融合しても構わないと考えていたのだ。デメリットは特になかった。

 

 一通り指示を出し終え、拠点も兼ねている自分達の船の自室に戻り、机に着く。

 部下から出された報告の数々を隅に避けて、一枚の手配書を机の中央に広げる。

 

 海賊、キャプテン・クロ。

 

 誇り高い海兵達が、その存在のために海軍を抜けて自警団もどきを組織し、更には待ち続けるとまで言わせた男の顔だ。

 

「気付け」

 

 かつてドラゴンがクロを目にしたのは、あのオハラが遺した物を一つでも――あるいは一人でも救うために駆け付けた矢先だった。

 多くの軍艦に囲まれる中、たった一隻でそれでも勝機を逃さず立ち向かう姿に圧され、半ば反射的に小さく手を貸した。

 

「気付け、少年……っ!」

 

 その後直接顔を見る事はなかったが、その活躍は全て聞いていた。

 だからこそ。

 だからこそドラゴンは、強く思う。

 

「お前はもはや、海賊と言う立場に甘んじて良い存在ではなくなったのだっ!」

 

 政府の敵であるが故の海賊。

 オハラの遺志の守り手であるがゆえに――ニコ・ロビンを守るために海賊を名乗り、政府の敵である事を強調しているのだろう。

 

 だが、それでも――海賊を名乗るには。

 名乗り続けるには、余りに多くの人間を惹き付け過ぎた。

 クロの言葉を借りるのであれば、心の汚泥の底にある輝く物を掬おうと必死に藻掻きながら生きている者にとって、余りに眩しすぎる象徴となった。

 

「お前こそ」

 

 夜が明け、おぼろげな赤い光が窓からわずかに差し込む。

 その淡い光と手元の小さなランプの光がうっすらと、一匹の黒猫を照らしている。

 

 

 

「お前こそが――!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魚人島にて、海賊『黒猫』が対立している海軍勢力に天竜人プルミング聖の発した休戦協定を届ける少し前。

 

 そして第一次魚人島攻防戦の第二幕が上がる二時間前に起こった、南の海でのひと時の話である。




前話でやりたかった事を結局ここまで広げてしまった……ちょいと反省
長い繋ぎ回を終えて次回魚人島攻防戦後半
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