とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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127:開幕、第二戦

『私プルミングを始めとする、現在不幸な事故によって魚人島に取り残された天竜人達は、これ以上の混乱を抑える意味も込めてこの戦闘の終結に尽力すべきであるという意見の一致を見た。』

 

『そのため、現在の混乱の元である逃亡奴隷の無許可での保護に関するリュウグウ王国への容疑、ならびにその追及を一時撤廃する事を求める。その証として強制査察がための制圧を一時解除し、海軍部隊全軍の後退。並びに現在行われている王国国民への拘束を解除する事を提案すると同時に、今現在軍指揮権を保持している天竜人の理解を得たい。』

 

『この条件に同意されるのであれば即座に海軍部隊を後退させると同時に、同封している連名誓約書へ我らに続き署名と拇印を願う。』

 

『どうか、より良き世界の明日のために、熟慮されたし。』

 

『世界貴族:サミュエル・C・プルミング聖』

 

 

 

 

 

「――という内容の文書に加えてそれぞれの署名を入れた連名誓約書を向こう側の海兵に渡してもうすぐ二時間になりますが……返答どころか動きもありません」

 

 キチンと世界政府の便せんに加えてアレコレちゃんと書式整えたってのにクソ共め……。

 

「むむむ。内容が内容だけにすぐになにかしらの動きがあると思ったのじゃが……困ったものじゃもん」

「ええ、まったく」

 

 まぁ、おかげで天竜人への食事の用意にそれなりに時間が割けたのは地味にありがたかった。

 魚人に抑えられていた間は適当な水と干し魚位しか口にしていなかったみたいで、俺程度の腕前の料理でもキチンとしたご馳走だと見てくれたようだ。

 

 おかげで少しずつ心情がこちらに傾いているのを感じる。

 傾きすぎて再度奴隷宣言をされたらたまった物じゃないが……。

 バランスを細かく感じ取って調整する必要があるな。

 

「しかし、申し訳ありませんネプチューン王。此度の戦ではともかくとして、戦後処理の段階において海軍が御身の身柄を要求する可能性がありますが……」

「元よりこの国の王なのだ、民のために命を懸けるのは当然の事じゃもん。なにより……両軍の激突を止められなかった儂にはその責がある! お主は少年の身でありながら、あの最悪の状況から膠着状態まで立て直してくれたというのに……っ」

 

 真に申し訳ない、心から感謝する、とネプチューン王が王冠落ちそうになるくらい頭を下げて来るがそれなら逃げてくれないかなマジでさぁ!!?

 多分本人としてはオトヒメ王妃や王子殿下たちをこちらに逃がしているから万が一が起こっても問題ないとか考えているんだろうけど、魚人の王様が天竜人の訳わからんイチャモンで捕まえられたって事実は間違いなく魚人の更なる暴走の引き金になるのよ!!

 ただですら散らばった魚人達がその内各地で旗揚げし始めるだろうから!! 絶対にそうなるから!!

 

 俺の横に控えているアーロンもジンベエも王様がここにいるのは当然みたいな顔してるけどさぁ!!

 

(決起した魚人達の説得、鎮火にはネプチューン王の存在が絶対にいる! 変な形で失うわけには行かないんだってば!!!)

 

 最悪蹴り倒して気絶させてからの拉致、魚人が多数犠牲になってしまうだろうがそれでもあえての強制脱出も考えている。というかその段取りも同時進行で進めている。

 内容が内容だからアーロンとジンベエに最悪の時はそうするかもしれんと相談した時に、両者から「万が一の時は頼む」とお墨付きもらったから問題なし。

 

 ……なんとか、全員で島に残るか脱出できるようにするけどさ。

 

「ネプチューン王、話は変わりますが救出された民間人の様子はいかがでしょうか?」

「思っていたよりも怪我人が少なかったのは幸いじゃった。ただ……皆その心に深い傷を負っておる」

「……では、人間への憎悪は」

「やはり、深まったじゃろうな。今は目に見えてはおらんが、落ち着きを取り戻せばあるいは……」

「一度暴れてしまった暴徒達に感化されかねないと?」

「あるいは、あの者らに更なる影響を与えるやもしれん」

 

 チラリとアーロンとジンベエを横目で見ると、その表情は重苦しい。

 先の戦いで、あの無計画な暴走がどういう損害を出してどう不味くなったかを説明して、次の戦いで勝手はしないと約束を取り付けて来たとアーロン達は言っているが……。

 

(捕虜の連中の拘束を解いたのは正解だったな)

 

 下手に拘束したままだと私刑が起こったかもしれねぇ。

 一応捕虜のいる大部屋――元は人魚を捕らえておくための牢が置かれていた部屋にはイッショウを付かせているから問題は起きないと思うが……。

 

「クロ、お主も気を付けるんじゃもん」

「魚人民が、自分に対して害を加える可能性が?」

「……ある意味で、お主は今の魚人にとって最大の問題が形となった存在なんじゃもん」

「と言いますと?」

 

 あれかな、奴隷になりかけて海賊になったって前例だからか――

 

「――魚人という種族が人間の助けがなくては生きていけぬという、まさに実例となっておるのじゃもん」

 

 …………。

 

 は?

 

「お主も知っての通り魚人島は唯一魚人が安心して、そして安定して暮らせる島である」

 

 今はこのような有様じゃが、と皮肉気に小さく王様は笑うけど笑えないッス。いやマジで。

 

「魚人が暮らす、魚人によって治められている魚人のための島じゃと」

「はい。大変美しい島で、確か偉大なる航路(グランドライン)屈指の観光地としても有名になっていたと――」

 

―― あっ。

 

 そう……か……。

 

 そうか。

 そういうことか。

 

「つまり……人間がこの島を訪れる事で、この島はかろうじて成り立っていたと。魚人は自分達を迫害してきた人間の存在無くして暮らしてはいけないという状況に、鬱屈した物があったと?」

「うむ。……この国にも当然富を築いた富裕層はおる。ではそれがどうやって築かれたかというと……」

 

 ははぁ。

 

(人間相手の交易だよなぁ、当然。この海の底に金や物資を落としてくれるのは人間しかいない)

 

 たとえそれが海賊であってもだ。

 

(ここは海の底だ。一応海底独特の食料生産も可能といえば可能だけど、太陽光が当たる面が限られている以上大規模な耕作地は存在しない)

 

 つまり本来であれば、あれほど大きな街を維持するだけの人口を抱えられるハズがないんだ。

 それがここまで大きな国となるには、食料などを買うだけの金が大量に必要になる。

 

 人間相手の交易や取引がいかに大規模で、つまりは人間と関わらざるを得ない機会が相当なものだったのだろうと推測できる。

 

「魚人が皆、地上に憧れているという話を開拓団の方々から耳にしたことはありますが……」

「羨ましくて仕方ないんじゃもん。穀物を好きに植えられる土地、夜明けと共に当たり前に降り注ぐ太陽の光、時折その光を遮って違う恵みを与えてくれる雨雲」

 

 皆、この海底には存在しない物だ。

 

「人間などいなければ地上で暮らせた。そう考える方もいそうですね」

「うむ、おるじゃろう」

「そしてそう考える者にとって、私の存在はまさしく目の上の瘤の象徴であると」

「……お主に救われているのは理解しておるじゃろう。それは間違いない。現に、お主に救出された人魚たちが揃ってお主の人柄を称え、他の民に協力を促しておる」

 

 リーリンやこの島の近くで救出した子達か。

 ありがたいが……大丈夫か?

 喧嘩だけはしないようにな。

 変に揉められるくらいならば悪者役の一つや二つ喜んで引き受けるぞ。

 海賊なんだし。

 

「だが、その庇護下でなければ生きられぬという事を強く思い出させる存在として、お主を疎んでおる者も少なくあるまい」

「…………はぁ」

 

 そりゃまぁ、いい気はしないが仕方ない。

 完全に感情の問題だからこそ解決が難しいのは分かり切っているし、今それをどうこう出来る人間はアーロン達も含めてどこにもいない。

 行動にさえ気を付けてくれれば、それでヨシとするしかあるまい。

 

(にしても、開拓団の面子がえらく島の開発、開拓に協力的だったのはそういうのもあったのか……)

 

 この島は一種の極地だったんだ。

 使える土地が限られるというのは原作で見た空島も同じだが、ここはそれ以上に色々と環境が制限されている。

 

(……帰ったら真面目に魚人に島を一つか二つ任せる方向で行ってみるか。後々魚人を取り込む際のカードになる)

 

 人間と交ぜると話がややこしくなるだろうから、まんま一つの島を魚人の物にしたほうがいいだろう。

 生産物や売り上げの一部を定期的に徴収する形ならば島も無駄にはならない。

 

 問題は手にした領土を実質手放す事に対して、団員から不満が出るだろうことか。

 税として回収すると言っても確実に目減りするだろうし、なにかしらの理由付けや根回しの段取りを立てる必要があるが……。

 

(まぁ、そういう仕事を円滑にこなすためにも、可能な限り魚人には無事でいてもらわないといけないんだが)

 

「魚人と人間の確執は深く、解決にはいくつもの壁を乗り越える必要があるでしょう。だからこそ、まずはこの窮地を乗り越える必要があります」

「しかしどうするんじゃもん? こちらの天竜人は協力的になったとはいえ、政府がどう動くか……」

「ハッ。……その、一応、いくつか策は考えているのですが」

 

 上手く……行く……かなぁ?

 正直考え付いた作戦のほとんどに疑問符がついてしまう。

 戦力どうこうだけの話ならばなんとかなる。キッツイけど。

 だが一番の問題はどう「収束」させるか。この一点に尽きる訳だが……。

 

 政府側の信頼も信用も底値割ってる今、どうすりゃいいのか。

 

 一つだけ、それが出来そうな所があるとすれば――

 

(……賭けになるのはしょうがない。これしかないか)

 

「もし再び戦の火ぶたが切られた際、リュウグウ王国国王の名の下に、敵武装勢力(・・・・)に対し正式に宣戦を布告していただけないでしょうか?」 

 

 俺の提案に対してアーロンやジンベエ達から怪訝な気配が漂っているが、逆にネプチューン王はその立派な髭を触りながら思考を深めている。

 

 

「……なるほど」

 

 

「この戦を、正式な戦争として仕切り直すのじゃな?」

「はい」

 

 やはり政務に長けた王族は理解が早くて助かる。

 

「策の肝は戦争(・・)をする相手です。こちら側の天竜人はあくまでこの事件(・・)の象徴であり、戦の実権は私とネプチューン王が持っています。一方、敵勢力はそれすらもあやふやな状況でしょう」

 

 そうだ。スキッパー中将がいたならともかく、今は名目上海軍の人間が戦いの実権を持っていない。

 モイラとやらはあくまで海軍に付けられた首輪の補佐役にすぎない。

 仮にも軍人であるスモーカーたちですら階級を知らないという時点で、軍組織の中では浮いた存在になっているだろうに無駄に権力がある。

 だからこそ今の状況で、政府と海軍の橋渡しも出来ない不安定な立ち位置になっていると見た。

 

 それに対して海軍上層部から後々強い不満が出てくることは避けられない。

 必ず政府と海軍の間には再び強い摩擦が生じるだろう。

 

 そこを突けば、政治的な活路が切り開ける可能性が出て来る。

 

「だからこそ我々が、海軍らしき(・・・)武装勢力へ向けて正式に宣戦を布告することに意義が生まれてくるのです」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「相変わらず悪どい事を考えさせたら天下一品ね」

「海賊なんでな」

「公式の声明と文書で戦う海賊なんて貴方しか知らないわよ、私」

 

 ネプチューン王との謁見を終え、ヒナと共に船の甲板で敵陣を見張りながら遅めの朝食を取っている。

 アーロンは一度暴走した面々の監視も兼ねて船の外で備えていて、今ここにいる魚人はジンベエとリーリンだけだ。

 まぁ一人は人魚だが。

 

「だけど考えたわね。政府を介入させずに海軍上層部と直接、捕虜交換(・・・・)を名目に終戦のための講和を持ちかけようだなんて」

「……どうにかひねり出した苦肉の策だけどな」

 

 こちら側も多数の捕虜を抱えているが、それは向こうも同じだ。

 主に暴徒組だが、先ほどの乱戦で捕縛された魚人が多く出ている。

 これを犯罪者としての捕縛ではなく、戦争での捕虜と定義させるにはネプチューン王直々の宣戦布告が必要になってくる。

 

「こうなってくると政府を噛ませるだけで話が拗れるのは目に見えている。なるだけ奴らの意思を排除した上で状況の決定権を持ち得るのは、何度考えても海軍しかいなかった」

 

 政府の判断が甘かったせいでここまで混乱が広がり離反が相次いでいるのならば、センゴクさん達も政府の手綱を緩めるために今頃仕事と並行して各所を駆け回っているだろう。

 

 そこに、天竜人の暴走を天竜人が証言しうる状況があると知れば乗ってくるハズだ。

 

「でも大丈夫かしら。声明文にせよ宣戦布告にせよ、ちょっとタイミングが遅いんじゃない?」

「元々奴らの攻撃は一方的な奇襲に近い物があるんだし、プルミング聖に署名させた公文書にリュウグウ王国への容疑、ならびにその追及を一時撤廃する事を明記させている。それを材料に仕切り直させるさ」

 

 話し合いにまで応じさせることが出来れば、だけど。

 材料は少しずつ揃えているけど、まだ確実に飲み込ませるには足りていないな。

 

 まぁ、最高なのはここで敵勢力が後退してくれる事なんだが……。

 

「しっかし、マジで海軍に動きが出ないな」

「そうね、私もそれが気になってるの。炊事してる様子もないし……ご飯ちゃんと食べているのかしら」

「? 夜明けからずっと?」

「ええ、ないわ。船の煙突部も注視してたんだけど、煙が出た時間は短かった。きっと天竜人の食事ね」

「いつ頃だ?」

「……貴方が公文書を渡しに行った三十分程前くらいかしら」

 

 ……三十分か。

 二時間半。夜明けからちょいと経った辺り。

 

(船の中じゃ娯楽もねぇだろう。囚われていた人間――どう見てもお楽しみ用だった女子供は残らず救出した。……それで暇になって早寝早起きになったか? ふざけてやがるな)

 

 ともあれ、天竜人は相変わらず活動中と見てヨシと。

 となるととっくに文書も届いて目を通しているだろうに、まだ動かない理由はなんだ?

 こっちは民兵連中を休ませるのと、加えて飯食わせる時間が確保できているから別にいいんだが。

 

(捕虜の痩せてる海兵達は、俺が作った(かゆ)には口を付けていた。向こうにいた時は食べる気がしなかったと言っていたが……)

 

 逃げ場のない海底。絶対権力者である天竜人。

 軍人であるが故の命令への順守。敵対者は自分達に正当な怒りをぶつけて来る魚人達。

 罪悪感。大型とはいえ船という閉鎖環境を主とした生活。

 

(それと、実際に皆の目の前で撃たれてしまったスキッパー特別中将。……ある意味で監禁状態での洗脳に近い環境下を作り上げちまったのか)

 

 なんでコイツら人様の家に喧嘩吹っ掛けた挙句に勝手に自滅しそうになってんだ。

 内ゲバやるなら余所でやれよ。

 

(これでこっちが人間勢力だったんならば兵士の脱走煽って形勢逆転も狙えたんだが……魚人勢力ってのがつくづく変な問題を全方面に起こしていやがるな)

 

 なにせ異種族である事に加えてまさに理不尽な攻撃をしたばかり。

 こっちに逃げようという選択肢は中々意識出来ないだろう。

 奴隷にしようとした連中に投降なんてしても殺される! くらい考えていてもおかしくない。

 

 せめて黒猫の艦隊くらいの勢力を引き連れていれば話は違ったかもしれないが……。

 

「向こう側の海兵達の精神状態が心配だな。せめて最低限の食事くらい摂っていて欲しいが」

「敵なのに?」

「犠牲者だよ、ありゃあ。……いや、確かに今は敵なんだが……」

 

 なんだろうな、この感情。

 もうお労しいという言葉しか出て来ない。

 余裕なくて手加減出来なかった上にぶっ飛ばしちまったけど、ボルサリーノさんとか大丈夫かね。

 

「スモーカー兵長を見ろ。頑張って虚勢を張る元気はあったが、精神ズタボロだったろう」

「ええ。あんなスモーカー君を見る事になるなんて、今でも信じられない気持ちよ」

「……何か、情報は引っ張れたか?」

 

 聞けば、編成直前までクザンが指揮する艦隊を構成する船に乗ってたらしいんだが……。

 

「駄目ね。なに聞いても『うるせぇ』とか『話したくねぇ』って言うばかりよ」

「お前が殴ったからだろう……」

「殴った方が頭に血が昇って口滑らすタイプなのよ。もう一度殴った上で煽り倒そうかしら」

「止めて差し上げて。というか、だからってアッパーカットはねぇだろ」

「金的はちゃんと思いとどまったのよ!!?」

「レディが金的って言うんじゃありません」

 

 お前いつからそんなバーバリアンになった。

 原作だと能力と艦隊指揮で――まだ悪魔の実は食べていないし、艦隊どころか船任されるにもさすがに若すぎるか。

 

 ……ウチのハンコックはまぁ、ちょっと例外という事で。

 

 ともかく、こんな殴る蹴るに特化してなかったと思うんだが……。

 

「で、そろそろ見張りも交替するけど、やっておく事はあるかしら」

「……捕虜からの証言は全てお前が文章にしたんだよな?」

「ええ、調書の書式でまとめておいたわ。貴方に言われた通り、誰も通さずに直接ネプチューン陛下に渡してある」

 

 ん、ならOK。

 

「どういう形で決着が付くにせよ、戦後処理に備えての用意を欠かすな。仮に敗走する形になったとしても、積み重ねた物によっては天竜人の今後の動きに鎖を付けられるかもしれん」

「……海軍が今より権限を強めないと無理でしょう? 出来るかしら? 政府のやり口は想像以上に乱暴だわ」

「だからこそ、今の内にやれる事をやって手札を増やしておかなきゃならないんだ。時間を置けば、恐らく政府はお雇い海賊を始め別の戦力を用意して――」

 

 海軍側の様子を遠目に、干し魚を細く切った物を齧りながら細かい所を詰めていたその時に――

 

 

 遠くの方から、銃声が響いた。

 

 一発だけに一瞬聞こえたそれは、多数の銃を一斉に発砲した物だった。

 

 

「――っ、クロ!」

「やっと動いたか」

 

 銃声を聞き付け、魚人達も騒ぎ出す。

 すぐに暴れる事はないと思うが――

 

「ジンベエ! すぐにアーロンと共に前線部隊の指揮を執ってくれ! 敵の前進を確認するまでは絶対に手出しをさせるな!!」

「心得た! 今度こそ任せてくれ!!」

 

 ジンベエが甲板からの高さをものともせずに飛び降り、ざわつく魚人達に大声で指示を出している。

 よし、とりあえずこれですぐさま暴走することはないだろう。

 

 ……?

 

 逆に、敵側の海兵は動きが悪いな。発砲音は間違いなく向こう側からしたのに。

 

「…………クロ」

「ん?」

「これ」

 

 ヒナが、首から下げていた双眼鏡を渡してくる。

 

「船の方よ。天竜人が乗っている奴」

 

 そう言って指を指すのは、確かに奴らが乗っていた船――先日の戦闘において最後の戦場になった馬鹿でかい船。

 俺達が到着した時には魚人と海兵の死体でぐっちゃぐちゃになっていた場所だ。

 

 そのすぐ外――死体を片づけ、血液や臓物を洗い流した上で砂をかけて綺麗にした地面が、再び血に濡れていた。

 

 横一列に並べられた十名程の海兵達が、柱に括りつけられて絶命していた。

 その離れた所にはやはり一列に並んだ――しかしライフルを構え直し、これだけ離れていても分かるくらい顔を蒼褪めさせている兵士達がいる。

 

「……マジか、アイツら」

 

 そして船の甲板には、それを見て頷いている天竜人達が。

 

「アイツら、マジか!!?」

 

 容易く最悪に最悪を塗り重ねていくな馬鹿!!

 しかも今度はマジでやりやがった――いや、やらせ(・・・)やがったな!!?

 

(今後の事を考えれば政府としても海軍としても最悪だが――!!)

 

 ただこの戦場(・・)だけに限定すれば、兵士に処刑をさせるってのは兵士達の思考を縛る意味がある。

 最悪のこの状況下で、暴動らしい暴動が起きる気配がないのがその証拠だ。

 

 馬鹿みてぇなミラクル起こしやがってあのクズども!!!

 

「クロ。あいつら、また攻めさせるつもりじゃないかしら!」

 

 だろうな!! アイツら本当に……っ!!

 

「ヒナ、イッショウも含めて部隊指揮官全員集めろ。捕虜は放っておいて構わん」

 

 

 

「第二幕だ。作戦を説明する」

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