とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

130 / 198
128:双璧

『リュウグウ王国国王として、そしてこの世界で当たり前に生きる事を許されない魚人を代表し、私ネプチューンは、現在リュウグウ王国を制圧している武装勢力に対し宣言する』

 

『この数日に渡る野蛮極まりない占領行為を、多くの国民たちは事態を解決するための一時的な物であるとして耐えていた! だが貴軍は事態を改善するどころかひたすらに混乱を撒き散らし、さらには交渉に当たっていたそちら側の代表者を自ら排除する始末!』

 

『そして今朝方、ようやくこちらで保護した天竜人との協議が進み、事態の解決に向けて一歩を踏みだした!』

 

『だがプルミング聖らが決断した宣言に対してそちらは一切の返事を出さないばかりか、自兵員を無駄に処刑し、さらに包囲網を狭める愚行を繰り返す始末!! 断言する! もはや其方らは理解の及ばない賊軍に成り下がったのじゃと!!』

 

『対話の道は途絶えた! 我らは我が国民を守るために、汝らの繰り返される蛮行に対し銃火を以って答えよう!!』

 

『リュウグウ王国は不当な制圧、並びに略奪を行う武装勢力に対し正式に宣戦を布告する!!』

 

 

 

 

 海軍からすればグゥの音も出ない宣誓が出され、各部隊はますます士気が下がっている。

 もしこれが海底ではなくどこかの広い島であれば、とうに軍が崩壊してもおかしくない程である。

 

「分かってるの!? このままじゃ天竜人に殺されるか、魚人達に殺されるしかないのよ!?」

「…………ハッ」

 

 一方で天竜人から指揮を命じられた女は、ただ焦るばかりで状況の把握すらできていなかった。

 いや、どうしようもない状況という事を理解できている以上天竜人よりもはるかに現状を把握できていた。

 

 女の指示でもなんでもないただの罵詈雑言を受けながら、将校のコートこそ羽織っているがまだ制服に着られている三十ほどの男は、直立したまま黙って女の言葉を受けている。

 

「お言葉ですが、先にお受けしたプルミング聖の提案に乗る事は出来なかったのでしょうか?」

「そう主張した連中を処刑しろって命令が出たのをもう忘れたの?!」

 

 

―― 何をこんなふざけた物を真に受けているえ!

―― わちきは魚人を捕まえて捕らわれている天竜人を救えと命令を出したではないか!!

 

―― で、ですが提案書にはそのプルミング聖らの署名に拇印、印章まで押されております!

―― 無事に天竜人の皆様を安全圏に保護できる絶好の機会なのです! どうか!

 

―― うるさいえ! 聖地であれだけ金をかけて揃えた調度品も奴隷も焼けて、屋敷は煤塗れ!

―― だから損失を回収しようと来たのに、何も手にせずただ帰れとはどういうつもりだえ!!

―― プルミング聖らを助けろと命じたのに負けた上に訳の分からん書面をノコノコ持ってきて!

 

―― おい、コイツらを引っ張っていけ!

 

 

―― さっさと処分して軍を進ませるえ!!!

 

 

 一時見えた光明が、どうしようもない絶望へと姿を変えた。

 逆らえば処刑され、だが投降しようにも相手は魚人勢力。

 散々人間が虐げて来た種族で、今こうして多くを奴隷にしようとして攻めているのだ。

 ましてやこちらは向こう側が用意してくれた政治的解決のための鍵を踏みにじって包囲網を狭めている。

 たとえあの(・・)海賊が付いているとはいえ、ただの人間ならばともかく海軍兵士がどうなるかなど想像に難くない。

 

「ああもう! 適当に魚人を連れて帰って焼き印押し付ければ済む話がなんでここまで拗れるのよ!」

 

 身勝手極まりない事を言い放つ政府の女に、将校やその側に控える少女兵も冷たい視線を送っている。

 どうにか黒猫が繋ぎ直そうとした政府と海軍の関係は、この一月ほどで完全に冷え切ってしまっていた。

 海兵奴隷事件を知らなかった者達にまでその事実がばら撒かれた今では尚更だ。

 

「とにかく、こうなったら勝つしかないわよ。……そうよ、宣戦布告をしてきたのはアイツらなんだから……っ」

 

 普段は丁寧に整えられていた髪を乱雑に掻きむしり、ブツブツと呟くモイラという女の目には明らかな疲労が目に見える。

 政府から送られた特別中将であるスキッパーに付いて回っていた時にはあった色香は薄れ、その美貌には影が落ちていた。

 

「すぐに攻撃用意をしなさい! すぐによ!!」

 

 その女が、追い詰められた顔でがなり立てる姿は狂気をはらんでいた。

 

「数ならこっちが圧倒的に勝ってるのよ!? それにさっきまでに比べてプルミング聖らの身柄の安全度は高まってる! そうでしょう!!?」

 

 本来ならば指揮権などない、だが幾多の不幸によって奇妙な立ち位置に押し上げられた女の言葉に、将校は頷く。

 言っていることそのものは間違っていないのだ。

 

「天竜人の短気は私がなんとかするから、アンタらは一刻も早く勝つための作戦を組み立てなさい!」

 

「今すぐに!!!」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「女狐め、無茶を言ってくれる……っ!」

「ええ。……ですが、海軍という立場上致し方ない所はあります」

 

 作戦会議室にいるのは、残る将校の中で比較的戦歴の長い者達や、あるいは士官養成学校にて好成績を残した者達がかき集められていた。

 

 モイラの罵詈雑言を浴びせられた二人も、その一団に加わり作戦立案に入っていた。

 

「数で(まさ)っているだと? 馬鹿を言うな! 圧倒的な戦力差を幾度もひっくり返してきた、あの『黒猫』が魚人に付いたのだぞ!!?」

「聖地の戦いでは数だけではなくゾンビという不死に近い特性を持った何十倍もの戦力差を策一つでひっくり返したんだ……それが魚人戦力と合流した上に、向こう側の天竜人の後ろ盾も得た。……これで尚戦ってこいだなんて、イカれてる」

「ちくしょう、さっきの戦いの時点で負けておくんだった。そうすりゃ……」

 

 軍組織としてはあり得ない弱音が、それも将校の立場にある人間の間で交わされている。

 この時点で今の状況がどれほどの異常事態であるかがよく分かる。

 

「……ですが、モイラ女史の言う事も間違ってはいません」

 

 彼女の泣き言を耳にしていた一人、薄い褐色の肌に蒼いメッシュの入った金の髪の少女海兵が発言する。

 

「メルセス伍長」

「先の戦闘でもそうでしたが、かの『黒猫』といえどこの戦場では、彼の能力を万全に発揮することは出来ません」

 

 階級で言えば低いのだが、それでもこの場における発言力は高い。

 先の戦闘において決着が付けられない可能性を考え、特に士気の低い兵士を包囲網に回して持ち場の防衛を提案する事で、その損耗を最小に抑えたのが彼女だったからである。

 

「これまでの『黒猫』戦力に比べ今回の戦場で大きく違うのは、『黒猫』の指揮を心から信じ、その通りに動く兵のほとんどがいない事です」

 

 作成された魚人街や、今敵の拠点となっている防衛陣地を可能な限り正確に記した地図を覗き込んで、メルセスと呼ばれた伍長が続ける。

 

「魚人達が各船を壊してまわった事を見ても、彼らが『黒猫』の指揮に従っているとは思えません」

「この足止めは黒猫の意図するものではなかったと?」

「はい、『黒猫』の善性はこれまでの行動で明らかです。彼は常に、事態を解決するために武力を振るいます」

 

 もし船が壊れておらず、『黒猫』が適度に天竜人を脅せばあるいは今頃撤退中だったかもしれない。

 将校の何人かは、そうなればよかったのにと後悔していた。

 天竜人の命令で彼らの護衛を厚くしたが、それを無視してでも打って出る事で船を守るべきだったと。

 

「今回の宣戦布告においてもそれが読み取れます。リュウグウ王国側は『海軍』ではなく『武装勢力』という言葉を用いているのです」

「……つまり、どういうことだ?」

「我々と政府に対して、逃げ道を用意してくれているという事です」

 

 少女の小さなため息と重なり、宣戦布告の意味を察した一部の面々の重いため息や唸り声が部屋に響いた。

 

「正式に宣戦布告をした上で宣言そのものに正確な名称を使わずに誤魔化している。後々政治的な決着を図る際にノイズになると、恐らくは『黒猫』が取り計らったのでしょう」

「なぜだ。海軍を名指しして非難した方が、彼らは優位に立てるのではないか?」

 

 この中では最も戦歴が長い将校の言葉に数名が頷く。

 この場にいる誰もが、自分達の行いに非があると――非しかないと理解していた。

 だが、その言葉に少女は首を横に振る。

 

「政治的な状況において、すでに彼らは優位に立ち過ぎているのです。政府が余りに失点を重ね過ぎたというべきなのですが……」

「ぐ……っ。失点などという言葉で済むものか。……奴らめ」

「申し訳ございません。他にふさわしい言葉を思いつきませんでした。……ともあれ、失点が余りに大きく非は全て政府にあるといえど、全てを明らかにすれば政府がこれ以上の強硬手段に出る可能性が高まると考えたのでしょう」

「……こうして島を攻め落とさんとしている以上に、何があると言うのだ」

「例えば、魚人という種族の否定(・・・・・)

 

 少女の言葉に、政府への不平不満でザワめいていた会議室が一瞬で静まり返る。

 

「かつて彼ら魚人を虐げていたのはまさしく政府であり、我々であり、人間種族であります。現に、特に最近増え始めている人身売買所を職業安定所(・・・・・)と呼び黙認している以上――」

「メルセス伍長!」

「事実でしょう」

 

 最も若い兵士の言葉に、将校達は口を閉ざしてしまう。

 海兵の――本部にいた人間ならば誰もが知っていて、誰もが目をそらしていた事実。

 その事実が海兵に牙を剥いている。

 

「そしてその中で魚人――特に人魚は高額で取引されているのです。政府の一言で魚人らの人権はく奪を宣言されれば、世界中で大規模な魚人狩りが再び始まってもおかしくないのです」

「……政府が、それをやると?」

「すでに政府は追い詰められています。誰も土台の脆さに気付かなかった。それが海兵奴隷事件を引き起こし、更には聖地襲撃から始まった天竜人の暴走、各地の反乱まで……」

 

 ここにいるのは言うまでもなく海兵である。

 故に、魚人島へ出航する前の時点でどれほど各地で地獄が生み出されているか、よく知っていた。

 

「最悪、政府が全てをなかった事(・・・・・)にするために、再び虐殺まがいの真似を企むかもしれません」

「そのような非道を命じて来たのならば、今度こそ我らは政府に反旗を翻すぞ!!」

「……ええ。だからこそ、政府は独自の戦力整備を慌てて始めたのでしょう」

 

 海軍という組織そのものが、政府も含めたどの勢力から見ても厄介な存在となりつつある。

 つまりはその全てから敵視されているという事に他ならない。

 余りに暗い先行きに絶望しかないが、それでもまずはここを切り抜けなければならない海兵達は、諦める事を許されない。

 

「話を戻します。以上の事から『黒猫』は間違いなく事態の解決を望んでいますが、そのためにはどう動くか分かった物ではない魚人戦力を扱わなければならない」

 

「つまり――」

 

 

 

 

 

 

「俺は今回、前線に立つことは出来ない」

 

 同じ頃、宣戦布告を終えて攻撃部隊のザッとした編制を終えた海賊が、各部隊の指揮官を集めて作戦を説明していた。

 

「戦う士気はこちらが向こうより勝っている。これは大きな強みだが、先の戦闘のように思わぬ形で事態を動かしてしまう可能性がある」

 

 海賊の言葉に何人かの魚人が決まりの悪そうな顔をするが、海賊はそれを気にする事なく説明を続ける。

 

「今現在海軍は追い詰められている。他ならぬ身内によってだ。つまり、今度は前回残していた包囲戦力も動かすだろう。総力戦と言う奴だ」

 

 今現在、もっとも高所であるこの船の甲板には、前回の戦闘での撤退戦時に魚人の人間離れした腕力に任せて略奪してきた大砲を並べている。

 

「が、単純な防衛戦に専念すれば我々に待つのは敗北のみ。なぜなら――」

 

 

 

 

 

 

「こちらの殲滅にせよ脱出にせよ、魚人勢力は打って出なければ活路を見出せません」

 

 最も若い海兵少女の言葉を、皆黙って聞いている。

 なぜか。

 昨年末から将校の教育に使われるようになったある海賊――『黒猫』の実際の戦いを元とした盤上戦戯にて、彼女は『黒猫』の取ってきた戦術に追いついてきた、特に優秀な士官候補生だったからである。

 

「各部隊の士気こそ低いですが単純な兵量と、それを支える装備はこちらがはるかに上回っています」

「だが偵察班の話では、魚人軍は船の両舷に大砲を並べている。それは防衛戦の用意そのものでは?」

「防衛戦に専念するのであれば少ない大砲を全方位に設置するより、もっともこちらの兵層が厚い方面に隙間なく並べて野戦砲術に徹する方が理に適っています」

 

 少女が地図に書きこまれた船の絵の上にチェスの駒――黒のキングを置き、その周囲を囲むように同じ色のポーンを置いていく。

 

「敵が警戒しているのは物量。そして何よりも――」

 

 

「――こちらの射程(・・)を危険視するはずです」

 

 

 

 

 

 

「一番最悪なのは、包囲されたまま火力ですり潰される事だ」

 

 海賊が取り出したのは、戦術の練習も兼ねてヒナと遊ぶために海賊自ら削って作り出した将棋の駒。

 まんま歩兵を表すコマを敵側を示す部分に並べて、解説を続ける。

 

「数と装備は圧倒的に相手が上。つまり、囲んだままひたすら大砲を撃ち込まれ続けたらこちらの兵士は容易く蹴散らされる。ある程度砲弾や火薬を略奪したとはいえ、総数は当然向こうが上だからな」

 

 現に海兵の銃撃で多くの同胞を失ってしまっている魚人組は、一様に顔を蒼褪めさせている。

 中には気付いている者もいる。

 もし船を壊さずに天竜人が海上へ逃れていれば、今の状況はなかったのだと。

 

「だからこちらの兵を結集させ、砲撃範囲を絞る。それなら高所に陣取ってる俺が、蹴りで砲弾を着弾する前に吹き飛ばせる」

 

 天竜人の奪還を狙う別動隊への備えと全体の指揮を兼ねてだがな、と付け加える海賊の言葉に誰かが「なるほど」とつぶやく。

 

「それなら、今並べている大砲は?」

「迎撃時に射程を少しでも稼ぐためだ。敵は必ず大挙して押し寄せる。出来るだけ包囲を薄くするように策を練ったが、それでもある程度は各方面の部隊に応戦してもらう事になる。その際、白兵戦には参加できない元奴隷や救出したばかりの民間魚人、それに訓練による経験値を持つ海兵組に砲撃させて攻撃の圧を減らす」

 

 下手に突出しなければ巻き込む事はないという言葉に、リーリン達人魚組や海兵、元奴隷組が力強く頷く。

 何も出来る事がないと思っていた所に役割を与えられたためか、全員の士気は高い。

 直接害された元奴隷や、囚われていた面々は特に。

 

「……クロ、お前が残る理由は分かった。その上で、お前の指揮に従う事に異論はねぇ」

 

 ギザギザの長い鼻の魚人の言葉に、部隊指揮を任された者達が頷く。

 少なくともここにいる魚人達は、そして海兵や元奴隷、流れ者も、海賊の少年を総指揮を執るに相応しい人間として認めたのだ。

 

「それで、俺達はどう動けばいい?」

 

「――なに、簡単だ」

 

 そうして海賊の少年は小さく息を吸い――

 

 

 

 

 

『この戦況で海賊が取り得る戦術はただ一つ』

 

―― 目標はただ一つ! 今現在戦争が継続されている最大の理由を黙らせる!!

 

 

 

『膂力に優れた魚人戦力を中核にした突撃部隊の編制。目標は――』

 

―― 敵性天竜人を押さえ、海軍の撤退に向けての動きを阻害する要因を排除する!!

 

 

 

『であるのならば、敵の戦術はシンプルかつ防ぎにくい物。すなわちこちらの防衛陣の――』

 

―― 故に戦術は突撃! 敵陣中央を突破する!!!!!!!

 

 

 

『各部隊は防衛配置を。上手くいけば兵力を大幅に削り取れます』

 

―― 敵砲兵の配置が動く前に叩く! 総員、突撃用意!!

 

 

 

 海軍は海賊の狙いを的確に読んでいた。

 海賊も海軍に気付かれている事を読んでいた。

 

 そしてそのキッカリ十五分後。

 

 

 

 

 両軍、再度激突。

 第一次魚人島攻防戦は後半戦へと流れていく。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「無事に海が荒れるようになってかなり経つが……レイリー、魚人島まではどれほどなのじゃ?」

「そうだな……風さえ吹き続けてくれれば、おおよそ十日程といった所か」

「分かっちゃいたが時間がかかるなぁ。短縮は出来ねぇのかよ」

「ハッハッハ。退屈な旅ですまんなペローナ君。一応、出来るだけ安全な航路を選んでいるのだがね」

 

 本来ではありえない航路。

 そこを横断するだけで大きな、そして分の悪い賭けとなる凪の帯(カームベルト)を通り抜けて、西の海からやってきた船の甲板で、年齢も性別もバラバラな一団が海模様を眺めている。

 

「チッ、仕方ねぇ。……にしても、本当に偉大なる航路(グランドライン)に入ったんだな」

 

 その男女の中で間違いなくもっとも若い――というか幼い幼女は、手にしたコンパスがどこも指し示さずにグルグルと回ってるのを見てため息を吐く。

 

「恐ろしいかね?」

「ホロホロホロ。お前やハンコックにクロコダイル、それにアミスもハック達もいるんだから怖くねぇよ。それよりも――」

 

 ここは赤い土の大陸(レッドライン)に近いせいか、先ほどまでかなり海が荒れていたが今は落ち着いている。

 つかの間の休憩と能力のゴーストで見張りをこなしながら、ペローナは親衛隊が入れたココアに口を付けて小さく息を吐く。

 

「アタシが初めてここに入る時は、クロとダズも一緒にいるもんだと思ってたんだよ」

 

 黒猫海賊団という新興海賊団の中でも特別な、始まりの四人。

 その中でも最初は三人で旗揚げし、そして偉大なる航路(グランドライン)に入る予定だったという事もあってペローナはこの想定外の、それも正規ではない横道を通り抜けるような入り方に思う所があったのだ。

 

「ハッハッハ! まぁ……そう思うのも分かるがね」

 

 そして大荒れする船の上でも涼しい顔で酒を飲んでいた初老の男――『海賊王』の右腕、シルバーズ・レイリーは今も変わらず酒杯を呷り、未だ幼女と言っていい年頃の『お尋ね者』に微笑んで見せる。

 

「それはきっとクロ君も同じだろう。西の海の情勢を落ち着かせて、偉大なる航路(グランドライン)に入る日を楽しみにしていたからね」

「……そういや、海軍から譲ってもらった偉大なる航路(グランドライン)の島の情報を何度も読み返してなんかアレコレとメモ取ってたな」

 

 クロが西の海にいた頃から散々狙われてきたクロ直筆の各種計画書。

 どこかクロと似たような動きをする奴や、一部の海兵がどうにか探ろうとしてきたソレを守り続けて来たのは他ならぬペローナだった。

 今は拙い物に限ってはロビンとミホークに預けている。

 

「しかし、偉大なる航路(グランドライン)の解放か。……ハッハハハハハ、彼はそれが何を意味するのか、分かっているのかね」

「どうだろうな。アイツ切れ者なのにちょいとズレた視点で世界を視ているからなぁ」

 

 また海が荒れ始めたらゆっくり飲んでなどいられない。

 貴重な休息の時間を無駄にしてたまるかとココアを再び口にして、その甘味で楽しむペローナは珍しいボーッとした表情のまま、

 

「世界政府が死に物狂いで潰しに来るかもしれない計画、とまでは思いつかなかったんじゃねぇか?」

「ワハハハハハ! それはそれで大物だな、彼は!!」

 

 会話に参加しているわけではないが、甲板で仕事をしているハックを始めとする魚人達や親衛隊の面々が小さく笑う。

 

「まぁ、今はとにかく魚人島だろ。海が落ち着いたのはいいけど風も止みやがった」

「こればかりは運頼みだからな。心配かね?」

「……クロが一人なら何も心配はいらねぇ。強えのもそうだが、逃げ時を見失うバカじゃねぇんだが――」

 

 わずかに顔を曇らせるペローナの隣に、ハンコックが空の木箱を持ってきて近寄り、それを椅子代わりにして腰を下ろす。

 

「うむ。あの時の通信を聞くに、ヒナも主殿の側におるのじゃろう。であればヒナや他の兵士を守るために、少々の無茶をするやもしれぬな」

「最初は少々の無茶でも結局アイツは大火事の中に飛び込むからなぁ」

「それが戦争でもか?」

「あの時点で旨みなんざ全くなかったモプチを捨てなかっただろ。ジェルマが攻めて来た時によ」

「……確かに、そうじゃのう」

「今でこそまぁまぁの収穫はあるけど、ぶっちゃけ制圧したばかりのキャネットの方が――待て、なんか近づいてきた。九時の方向!」

 

 その言葉に、親衛隊の面々は素早くその方向を向いて刀の柄に手を当て構える。

 魚人の面々も拳を握りしめ、兵士達は万が一海戦が起こった場合に備えて持ち場を固める。

 

「ペローナ君、来ているのは海からかね?」

「ああ、多分海賊船だ。距離およそ15キ――気付かれたか?! 真っ直ぐこっちになんか飛んできやがる!! 数1! 速え!!」

 

 ハンコックが木箱を倒す勢いで立ち上がる。

 

「防衛戦用意! アミス!!」

「ハッ! 親衛隊、前へ!!」

 

 兵士の一人が緊急事態を示す鐘を激しく打ち鳴らす。

 

 その音を聞いて、船内にいたサンダーソニアやギャルディーノ、クロコダイルといった面々が上へ上がって来る。

 無論、それぞれの得物を構えて。

 

「来るぞ!」

 

 そしてそれが轟音と共に甲板へと降り立った。

 特に動体視力に優れた者の目には巨大な鳥に見えたソレは、蒼い炎を身に纏った男へと変化していく。

 

 その姿を見てハンコックは警戒を強める。親衛隊の面々もだ。

 

「急ぎの最中とはいえこの近くを海賊船が通っていて、しかも魚人を連れているんなら念のために確認する必要があるとは思ったんだが……」

 

 一方でクロコダイルは興味深そうに「ほう?」と呟き――

 

「なんでアンタがここにいるんだよい!?」

 

 そしてレイリーは爆笑していた。

 

「『冥王』!!!」

 

 更に酒が進むとばかりに爆笑していた。

 

「ハハハハハハ!!! いやなに、奇縁という奴さ!! そして幸運かな。お前まで来てくれるなら話が早い!!」

 

 金髪染みたオレンジの髪をパイナップルの房のようにし、胸に錨にも見えるマークを彫ったいかにも海賊という格好をしている男が叫ぶ姿を肴に飲んでいた。

 

 

「こちらも急ぎでね。魚人島まで道案内を頼むよ」

 

「――白ひげ海賊団一番隊隊長」

 

「『不死鳥』マルコ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。