とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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130:魚人島攻防戦―⑤

 外からは砲撃による爆発音や銃声、剣戟が聞こえてくるが、捕虜の海兵たちが収容されている部屋を含む船にはさほど影響はない。

 轟音による振動が時折来るだけで、それも不安を感じさせる程ではない。

 それどころか、それらを発する行為(・・・・・)に今自分が関わっていない事に安堵する兵すらいる程だ。

 

「ねぇ、アンタ」

 

 そういった捕虜達の中には当然、緊張感を崩さない者もいる。

 両方の二の腕に彫った花びらを模したタトゥーとトゲの付いたチョーカーが特徴的な女兵士――ドール曹長が、より若い少年兵に声をかける。

 

「アンタ、確かスモーカーと一緒に来た奴だったね?」

「ぁ、ハッ」

 

 つい先日まで食事も喉を通らず、敵であるはずの海賊からその身を心配されていた少年兵はどもりながら頷く。

 基礎的な体力訓練と、それも兼ねた荷運びくらいしかやっていなかった少年は、慣れない銃を撃ったおかげで肉刺(まめ)だらけになった手を撫でながら「なんでしょうか?」と質問を促す。

 

「スモーカー兵長は、戦闘訓練では優秀だが生意気でやんちゃな奴だと聞いていた。それがああも取り乱して交戦したり、戦闘を止めるためとはいえ海賊と手を組もうとするなんてちょっと信じられないのさ」

 

 まったく信じられないと言えば嘘になるのを、ドールは自覚していた。

 捕虜の虐待というか同期の殴り合いという事故(・・)こそ発生したが、自分達の扱いは極めて良かった。

 食事はもちろん、敵意を持っている魚人を遠ざけクロに付いて行った海兵達で面倒を見ていた。

 寝床こそ窮屈ではあるがそれに関してはキャプテン・クロ直々に頭を下げて理解を求めて来た。

 皮肉な事だが、天竜人直々の命令で軍事活動に加担していた先日までよりも身体も心も休める事が出来ている。

 

(兵士達に尋問という名目の雑談を繰り返しては懐柔していく『黒猫』様の手腕も大したもんだが……)

 

 ドールの目から見て最低でも三分の一の兵士はすでにクロに心を許している。

 少なくとも非道な真似をされることはないと信じてしまっている。

 

「アンタがもしアイツと同じ部隊から一緒だったんなら――何があったのか聞いてもいいかい?」

 

 正直、ドールにとっても口にしたい質問ではなかった。

 自分の隣で毛布を被ったまま、クロが来た時以外口を開こうとしない兵士は食料の強制徴収の中でその奪還を試みた暴徒――つまりは民間人との戦闘で多くの人員を殺傷してしまったことを悔やんでいる。

 他にも労働力徴収という名目の誘拐任務にてその怨嗟の声がずっとこびり付いている者がいれば、本当に普通の哨戒で立ち寄った町で多くの民間人から石や瓶を投げつけられた者もいる。

 

「じ、自分は……」

「嫌とか無理とかなら言わなくてもいい。アタシの手も酷く……酷く汚れちまった。無理強いはしないよ」

 

 ドールもまた、天竜人直々の命令で住民たちがまだいる街に火を付ける片棒を担いでしまった。

 

 先の戦闘で囚われてから、海賊に隙を見せるわけには行かないと気丈に振舞おうとしていたが震える手を『黒猫』に見つかり、以降結局色々と気を使わせている。

 

 人によっては立ち直りつつある者もいるが、今も外で戦っている兵士達も皆魚人島に来る前までの地獄での痛みを引きずっている。

 

「……砕かれたんです」

 

 少年兵は、その地獄を思い出したのか両の手で顔を覆う。

 

「スモーカーさんや皆の目の前で――」

 

 

「――砕かれたんです…………」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

『敵の首魁であり最高戦力であるキャプテン・クロは拠点の船から動くことが容易には出来ません。あの高威力長射程の蹴り技を出す予兆に注視する必要はありますが、この環境下であれば現戦力でも敵反乱勢への対処は可能だと考えます』

 

 海軍の動きを決めたのは、その少女の言葉だった。

 

『海賊クロは政治的な解決のために天竜人を利用し互いに反目させようとしていますが、だからこそ向こう側の天竜人に万が一があってはならない。ゆえに彼は必ず船に張り付いていなければならない。天竜人に対して殺意と等しい不安や不満を抱く魚人は大勢いるのです』

 

 そして彼女の言葉の通り、クロは本船から動かず防御に徹していた。

 どの兵士にも――将校にさえ恐怖があった。

 アレが目の前に現れれば、瞬く間に殺される。

 旗揚げして一年程しか経っていないが、クロとはすでにそのレベルの海賊になったのだ。

 

『その隙を突いてクロの手足となる兵士を削ります。最優先目標は脅威度の高い盲目の剣士。可能であれば捕縛、撃破をしたい所ですが、足止めだけでも敵に大きな負荷を掛けられます』

 

 そうして戦闘は開始された。

 敵の行動は少女の予想通り、天竜人の乗る本船目掛けての突撃。

 

(――ですが、一番大事な所の予想(アテ)が外れましたね)

 

 必死に敵の進撃を堰き止めて、海兵達は長く戦っている。

 こちらの中で個の武力が高い人員を予想進路上に配置したのが功を成し、恐ろしく腕の立つ二人の魚人を中心にした突撃部隊を相手に、ジリジリと後退こそしているがどうにか守れている。

 

「メルセス伍長、戦況が少し想定と違うようだが――」

「ええ。魚人戦力が一度暴走した以上、確実に天竜人を捕獲するにはあの盲目の剣士と直弟子らしき女の子を主軸に攻めてくるしかないと思ったのですが……」

 

 メルセス達の眼下に広がる戦場は先日と同じく人間が主体となっている海軍と、魚人が主体となっている反乱軍(・・・)の戦いとなっている。

 もっとも警戒していた敵側の人間戦力は、遊撃戦力としてこちらが狭めようとする包囲網の起点を次々に潰している。

 その脅威度は極めて高く、だが止めるだけの戦力を動かそうとすれば敵主力への備えを崩すことになる。

 

(実際に崩して天竜人を持っていかれるというのも、この戦争を終わらせる理由に使えるといえばそうですが……)

 

 そうなった場合、更に上の政府がどういう指示を出して来るかが全くの不透明である。

 ただでさえ世界中で理不尽な徴収や誘拐が燃え広がったのだ。

 天竜人の暴走で悪化した戦場という意味ではこの戦いは海軍にとって使える()ではあるが、扱い一つ間違えれば世界を二分する大戦争の引き金に成りかねない。

 

(海軍と政府の対立・戦争そのものは避けられなくとも、せめて情勢を一度落ち着かせて市井への被害を最小に抑えたい。いえ、抑えなくては本当の意味での地獄の蓋が開く。とはいえ――)

 

 敵の中で特に広範囲の攻撃に長けた鮫らしき魚人が陣を離れようとしているのが見える。

 突破するために邪魔な防衛要地を、別動隊を率いて陥とそうという腹積もりなのだろう。

 

 隣にいる将校もそう判断したのか、即座に旗で信号を送り別動隊を動かす。

 Tボーンという剣術に長けた佐官率いる部隊を用いて迎撃するつもりのようだ。

 

(最大戦力に率いられた主力を海軍が止めたという実績があれば、あるいは魚人側が島の放棄を選択肢に入れ始めるやもしれないと思ったのですが……)

 

 つい先日暴走した一団とは思えないほどに統率を取り戻している。

 軍隊程ではないがそれでも行き過ぎた突出はせず、ある程度陣の形を保ち各々の役割を果たしていた。

 

 そしてその動きを援護するのは、遠い本船から砲弾を蹴りで撃ち出すという離れ業を見せた海賊クロ。

 魚人はもちろん海兵達にも直撃させず、だが着弾の煙幕で弾幕が乱れた所を突かれ第二陣まで突破されてしまっている。

 

(これがクロ。……サー・クロ)

 

 幸い、戦線が蹴りによる砲撃射程を越えたためにそれ以上の攻撃は来ていない。

 だが、もしあの男と本格的に戦うのであれば、それなりの犠牲を覚悟しなければならない事を思い知らされていた。

 

(聖地の奇跡を起こした軍神)

 

 その男こそ、海賊にしてすでに戦術教本に載せられた男なのだから。

 

 改めてメルセスは、敵となってしまった男の手腕に感服していた。

 戦場という盤面を、こんなバラバラな状況でも整える戦術・戦略眼は到底自分の及ぶものではないと。

 

(つる中将が処分覚悟で無茶な養子縁組を用いて取り込もうとしたのも頷ける。サーが海軍将校であれば、このような事態に陥る前に海軍や各国、天竜人の手綱を握れたでしょう)

 

 メルセスは、後ろから自分達にライフルを突きつけている者達へチラリと視線をやる。

 恐怖、保身、そして――思考の放棄からこの地獄の維持に走ってしまった役人や兵士達を。

 

 それも仕方ないとは思いつつ、腹立たしい所もあった。

 

「伍長、やはり緊急事態という事で臨時昇進を受け入れるべきではないかね」

「そうだ、現状あの女が責任者というのは将兵が納得しないだろう」

「暫定でも君の階級が上がれば、指揮系統としても安定する」

 

 そして左右を固める、比較的年長の将校が口々にそう言い始める。

 先日の戦闘が終わってから、ほとんどの将校からメルセスはそう言われていた。

 口元が引き攣りそうになるのを堪えてから、適当な断り文句を言おうとメルセスが口を開こうとした時に、

 

「何馬鹿なこと言ってんのよ、戦いが続いている時に!!!」

 

 将校達からは蛇蝎の如く嫌われている女性が怒鳴り散らして来る。

 

「モイラ様」

「メルセス、今どうなってんの!?」

「敵の突撃部隊をどうにか押し留めていますが、別動隊二隊が恐ろしく精強でございます。……今のままでは押し切られるかと」

「対策はあるんでしょうね?!」

「――はい」

 

 口は悪く、差別的で、海兵を見下す典型的な政府の人間でこそある。

 

 ただ、現状もっともメルセスが頼りに出来るのは、他の誰でもなくこの女史だった。

 

「敵別動隊は放置。戦線を縮小し、敵主力の迎撃に当たっている陣営の側面を死守する事に専念させれば、少なくとも突然大敗することはないかと」

「勝つことは出来ないの!?」

「……プルミング聖らの安否と保護の成否を、天運に任されるのであれば」

 

 勝つ策もなくはなかった。

 ジリジリと包囲を狭めている残存部隊を全て特攻させればいい。

 恐らく、それでこの戦闘(・・)は勝ち切る事は出来るだろう。

 ただ――

 

「……天竜人の方々は、全軍突撃命令を出したくて仕方ない様子よ」

「それを行えば、さすがにキャプテン・クロが動くでしょう。そうなればどれだけの兵士が犠牲になるかは考えたくありませんし、その上で敵本船におられるプルミング聖らや捕虜を救出できる可能性は極めて低いです」

 

 全軍に攻撃を出せば、魚人軍には(・・)勝てる。

 勝てるだろうが、そこから先が続かない。

 

 状況の隙を可能な限り突いて、クロの動きを封じている今が奇跡なのである。

 もしここでクロまで動き出せば、今度こそ全ての天竜人が向こうの手に落ち、海軍はおろか政府の面目も完膚無きまでに潰される可能性は十分にあり得る。

 

 ただでさえタガが外れた世界から、抑止になり得るものが消え去ってしまう。

 

「……時間を稼ぐにも限度があるわよ」

「はい」

 

 メルセスは、そっとモイラ女史の体を窺う――衣類で隠されているが、袖口から見える美しかった肌には青痣が広がっていた。

 少し鼻を嗅がせるとどこからか、だが確実にモイラ女史の体から血の匂いがわずかにしている。

 

「……天竜人の救出だけでも無理なの?」

「残念ながら。救出するとしたら兵士達に突撃させて、本船から『黒猫』を引き剥がさなければならないのですが、その際にこちらの兵士の多くが削られれば、その後に一網打尽にされかねません」

 

 ましてや向こうの天竜人はクロに心を許し始めているのだからとメルセスが締めくくると、モイラはガサガサと潮でベタ付いた髪をかきむしり、周囲の将校をジロリと睨みつける。

 

「幸い、ここ魚人島は聖地の真下。地形的には恐ろしい天然の要塞ですが、聖地や海軍本部にも近い所にある以上、増援が来るのは間違いありません」

「天竜人が動くのならば最初からちゃんとした将校を同行させなさいよ……っ」

「……ご期待に沿えず、申し訳ありませ――」

「アンタじゃないわよ!!」

 

 ひどく痛むのだろう腕部をそっともう片方の手の平で押さえながらモイラが叫ぶ。

 

「なんとか粘ってみるけど、多分二日……遅くても三日が限度よ。それ以上は突撃命令が出される」

「……それまでに勝てと」

「出来ないんでしょう?」

 

 モイラのその言葉に、将校達は忌々し気に彼女を睨みつける。

 逆にメルセスは驚いた顔でモイラを見上げている。

 

「だから、なんとかマシな状態にしてちょうだい」

 

 

「お願いよ」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

『海軍が戦線を一気に下げた? っ、ヒナ! 遊撃隊を下がらせろ! 下手に進めば二方から銃撃を受ける! 殺し間に誘い込まれるぞ!!』

『悪いけど、手練れが相手で下がれないのよ!』

『――ちっ、ならばその場を維持! 敵が逃げたとしても深追いを禁ずる! 当初の目標を忘れるな!』

 

『ステンレス少佐が敵別動隊に張り付きました!』

『少数故に彼らは必ず包囲を恐れ、焦ります。そのまま膠着させて陣を変える時間を稼いでください』

 

 

 

『狙いは時間稼ぎか。ジンベエ、敵が放棄した海軍艦の一つを敵陣の方向に吹き飛ばせ! どこでもいい! 敵兵を散らし陣を崩せ! その後突撃!』

『承知した!』

 

『メルセス伍長! 敵が船を弾丸に――』

『っ、すぐにメイナード大佐の隊を前に! 敵の突撃が再び来ます! 進路は恐らく、飛ばされた船の左舷をかすめる形に。近隣の部隊に伝令を飛ばし、守りを固めてください!』

 

 

 

『駄目! 海軍の守りが思ったよりも固い! アーロンが……兄さん達がこのままじゃ――』

『…………アラディン! 王国兵五百とウィリー隊を率いてヒナ隊を援護、奴らを自由に動けるようにしてくれ! 側面からの圧がなければあの守りは抜けない!』

 

『散った兵士の再編が完了次第、今一度打って出てください。守りに回りすぎるとまた盤面が整えられます。敵の突破力を多少でも減じなければ瞬く間に崩されます』

 

 

 

 …………。

 

 

 

 …………。

 

 

 

 

 

 

「まさか日没まで決めきれんとは思わんじゃろがい!!」

「落ち着きなさいよ、クロ。王族の前で取り乱すなんて珍しい」

 

 失敗するとは思わんかった! 失敗するとは思わんかった!

 幸い怪我人はともかく死傷者あんま出なかったけど、船に辿り着く前に止められるとは思わんかった!!!

 

「やはり、数の差はいかんともしがたいんじゃもん」

 

 違うんですネプチューン陛下! 完っっ全に自分の手落ちです!

 あとこんなボロ布で船の外に作った即席の陣幕ですみません! 船内に陛下が入れる部屋なかったんです!

 かといって狙撃の可能性考えると甲板飾り付けて会議ともいかなかったんです!!

 

「純粋に指揮の差が表れた結果です。力及ばず、なんとお詫びすればよいか……」

「逆じゃ。もしお主がいなかったら、最悪全ての国民が奴隷にされていたかもしれぬ。お主の尽力に、どう報いて良いか分からぬ程じゃもん」

 

 陛下はそう言ってくださるが、悔しい物はやはり悔しい。

 自分達が決め手になり得ると張り切っていたヒナ達も、いい所まで行ったが防御網を抜く事が出来ず悔しそうにしている。

 

 マジで誰だ指揮取ってるの、原作にこんなタイプいたか?! ヒナくらいだろうが!!

 こうもギリッギリの所をかわされ続けるのはあれだ、おつるさんとお高い羊羹賭けて将棋で対局した時以来だ!

 海軍の層の厚さはどうなってるんだ!!?

 頼むからちょっと人材分けてくれ! 主に中堅将校!!

 あと出来れば今の指揮者もウチにくれ!!

 

「それで、どうする。明日も攻撃するのか? 海兵の数は削ったかもしれねぇが、防衛に成功して士気が少しは上がっている。より守りは固くなってんぞ」

 

 あとスモーカーくん! キミ捕虜だよね!?

 なんでスゲェ自然にここにいるの!?

 

「陛下、やはり島を一度放棄する方向で動くべきかと」

「む……ぅ。やはりそうなるか」

 

 こうなったからには完勝は難しい。

 消耗度合いで言えば海軍の方がデカいから、明日再度仕掛けて目標を達成できる可能性はゼロじゃない。

 ゼロじゃないけど、やっかいな指揮者がいる以上絶対ではない。

 

 恐らく、次戦う時には更に上の権限を持たされるハズ。

 それがどういう意味で持たされるかによっては本気でやっかいだ。

 

「戦闘の推移を見ながら儂も一通り民や有力者達と話して来たのだが……」

「反対意見が?」

「うむ。……富裕層の一部が未だ躊躇っておる。それになにより、外をまったく知らぬ魚人街の住民を含む貧民は……」

 

 ここに来てもやっぱ捨てられんか。

 生まれ育った島に加えて、外はつまり人間の海だから理解は出来るんだが……。

 

 うごごごご、どうする。

 

 正直俺は切り捨ても止むを得ないと考えているんだが、そうなるとネプチューン王が残ると言い出すだろう。

 いっそオトヒメ様や幼い王子たちがここにいれば、そこから説得できたかもしれんが。

 

「クロ」

「ハッ」

 

 膝を突き、改めて頭を垂れる。

 ジンベエを始めとする王国軍の面々は、こういう作法を大事にしていたのもあってかなりの兵が信頼してくれている。

 

 兵士から他の民衆へ俺に関する情報が流れれば、もうちょっと撤退論を流せると思うんだが。

 ……やはり、問題は孤立気味の貧民だな。

 

「一つだけ民達と完全に合意出来たのは、女子供の命をそなたに預けようということだ」

「ハッ。…………は?」

「今戦っている兵士――いや、戦士達の妻や子供達をこの船に乗せ、いざという時は其方に外に連れ出してもらいたいと皆言っておる」

 

 何人おると思っとるんじゃボケェ!!?????

 

 待て待てお前ら落ち着け、仮に全員連れだせたとしてどこで預かる?

 こちとら旗揚げしてやっと一年経つかどうかの海賊団だぞ!!??

 養うだけの食料も土地も――うるせぇ太鼓うるせぇよ!!

 

「それは、白ひげの勢力圏まで護送せよという意味で捉えてよろしいでしょうか?」

「………………うむ」

 

 その間!! is!! なに!?

 

 期待されてもさすがにウチは無理だぞ!

 一月どころか初週で崩壊して大量の難民が発生するのが目に見えている!!

 もし無事にたどり着いたっていうんなら、西の海でオトヒメ殿下ら避難民の受け入れだけでもかなり圧迫されてるハズだ!

 

「であるのならば陛下が共に脱出し、白ひげ勢力と交渉・調整をされるべきです。腹を割って口にすれば、イッショウとヒナ達を付けますのでこちらの天竜人と共に今すぐ脱出していただきたいというのが本音でございます」

「……すまぬ、見捨てる事は出来ぬ。そこに民が一人でもいるのであれば。儂は――」

 

 ソッとアーロンとジンベエに目配せすると、二人同時に頷いてくれた。

 やっぱりイザって時はネプチューン王ぶん殴って連れていくか。

 こうなるとその役割できるの本当に自分しかいない。

 

「イッショウ、船を数隻まとめて動かす事は出来るか?」

「恐らく出来るとは思いやすが……そうですね、今のあっしなら海軍の軍艦もう一隻が限度かと」

「十分だ。備えておいてくれ」

 

 海に入るまで無防備になりやすい一般人魚と怪我人を優先して収容させるにはギリギリ足りるだろう。

 となれば、明日の攻撃は天竜人の確保に見せかけて船の確保に全力を注ごう。

 向こうも向こうで追い詰められているだろうが、こっちも時間がない。

 少しでも早くプルミング聖を取り巻く今の環境に変化を齎さなければ『毒』がこっちに回りかねない。

 

「クロ、儂も島の放棄という策そのものに関しては理解しておる。だから、なんとか皆を説得するための時間が欲しいのじゃもん」

 

 強権振るってくれれば助かるんですが……いや駄目ですよね。

 魚人にとってこの島は人間にとっての故郷のソレより重い。

 多分、俺の感覚でいうと聖地に近いソレなんだ。

 

 王権を持っている君主とはいえ、その感情を無視することは出来んだろう。

 

「…………ハッ、畏まりました。ですが、そう時が残されていない事を重ねて申し上げたく」

「うむ。……我儘を言ってすまないんじゃもん」

「いえ」

 

 それに、魚人や人魚から聞いた話だとネプチューン陛下が王位に即かれてまだ数年。

 一大事とはいえ――というか一大事だからこそ、強権を振るおうにもいささか早い。

 

(立場と状況に振り回されてるな。……俺も人の事言えんけど、さて)

 

 なにより現状、勝ってもいないが負けてもいない。

 海軍への恐怖よりも怒りが(まさ)っている空気が蔓延して引っ張られている人が多いのだ。

 

 せめて白ひげの艦隊が間に合ってくれればそれでいいんだが、政府がなにか仕込んだのは間違いない。

 相当に白ひげ戦力の到着が遅れることへの確信があるとみた。

 でなければ、こんな遅延戦術は使わない。

 もし急ぐのであれば、魚人街側の部隊を使って包囲を狭めていたハズ。

 

(この人数を支えて時間稼ぎ。脱出後に白ひげの勢力圏までの護衛も見据えると燃料や医薬品はともかくとしてさすがに食料に不安がある。さてどうしたものか――???)

 

 ふと、見聞色に何かが引っかかった。

 やや遠いけど――上の方か。

 海の中に何かがいる。

 かなり強い気配が……広がってる?

 

 

―― ……………………………………待て。

 

 

 遠くの方から『パキン……ッ』という音がした。

 

(待て待て待て待てちょっと待て!)

 

 思わず立ち上がる。

 ヒナは――気付いたな。その上で顔色一つ変えていないのは頼もしすぎる。

 イッショウも同じくだ。

 白杖を握り立ち上がり、

 

「クロさん。この気配は――」

 

 分かってるよ!!

 あとスモーカー君大丈夫?! 顔真っ青だよ!!?

 

(おっま馬っ鹿!!! ここでお前は駄目だって!!!!!!)

 

 頭上から、ちょうど中間地帯になった塹壕の辺りに何かデカい物が落下して、砕け散った(・・・・・)

 

 巨大なソレ――凍り付いた(・・・・・)海王類の残骸を見て皆一瞬静まり、だが次の瞬間海兵側から今日までの雰囲気と一転して大歓声が沸き上がる。

 

(なんでお前がこのタイミングで来ちゃうんだよ!!)

 

 この暗い中を、恐らく能力を駆使して無理やり渡ってきたのだろう船を先頭に、その後方から何隻もの軍艦が続いてこの魚人島に降り立とうとしていた。

 

「クザン」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「――そりゃ、嫌な仕事はさっさと片付けておきたいとは思ったさ。だから出発を急がせた」

 

 それまで飲んでいた安酒の瓶が、男の手から滑り落ちた。

 暗闇の中、こちらの灯りを目指して襲ってきた海王類を凍らせた左手から冷気を漂わせたまま。

 男は帆先に呆然と立ち竦んでいる。

 

「けど、なんでだ」

 

 その先にあるのは、予想していた地獄とは違う戦場(地獄)となった魚人島だった。

 陽が差し込まぬ暗い中に大量の篝火が焚かれ、敵対しているのだろう二陣を照らしていた。

 

「なんであそこに、あの旗がある」

 

 その片方。巨大なガレオン船を中心に組み立てられた陣の所々に、リュウグウ王国の国旗に交じって見覚えのある旗が掲げられていた。

 

「まさかお前、来ちまったのか?」

 

 決して忘れる事のない、三本爪の猫の旗。

 

「よりによってお前と、よりによってこんな場面で出くわすのかよ……っ」

 

 

 

 

 

 

「クロ…………」

 

 




?????『あ、おみやげ持ってきたからどうぞ!!』




年末辺りまで更新が不安定になると思いますが、何卒ご容赦願います。

ドール中将もっと出番増えて情報なりヒントくれないかな。
滅茶苦茶気になってる海兵さんですわ。

それではまた次回
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