とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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134:魚人島攻防戦―⑦

 目の前で広がる冷気は弱弱しい。

 かつて肩を並べてモリアと交戦した時に比べて全てにおいて練りが甘い。

 

「クザン! どうしようもないのか!?」

 

 おまけに何問い掛けてもほとんど答えてくれねぇ!

 

「戦う以外の道を探さなきゃ、何もかもが終わるぞ!! 多分今頃外では――」

「ずっと……海兵を信じていた」

 

 話聞けよ!!

 

 ってか知ってるよ!

 

 ガープさんから聞いたよお前さんガープさんに憧れてしつこく弟子入り志願してたってな!!

 あの人に茶に誘われたら三回に一回はその話が出て来たわ!!

 

「強くなって、手ごわい海賊をバッタバッタと薙ぎ倒して、何でもない町や村の人達守って……」

「ならそうすればいいだろうが!!」

 

 覇気がここまで弱くちゃ攻撃にも防御にも使えねぇだろう!!

 となると能力に頼るしかなくなるが――っ

 

「でも違った。違ったんだよ……クロ……」

 

 本来だったら結構な脅威になるハズの氷の剣が脆すぎて牽制にすらならない。

 さすがにそれは分かっているのか冷気を広げた範囲攻撃に入ろうとしているが、撤退にもたつく兵士達を巻き込んでしまうために撃てずにいる。

 

「海賊は――」

 

 

「海賊は……俺達だった……」

 

 お前マジで何があった!!?

 っ、覇気!? 後ろから、この気配は!

 

退()けぃ! 主殿!!』

 

 ハンコック!

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 抜き足。

 かつては黒猫海賊団の頭であるクロの唯一無二の足技であり、その二つ名でもあったそれは今では黒猫という海賊団そのものの象徴となっている。

 クロ直々に鍛えられた親衛隊に加え、黒猫の()である『海賊姫』の武器となっている。

 第一艦隊提督の名に恥じてはならぬ。

 海賊姫の二つ名に恥じてはならぬと。

 

「ぐぉ……っ! っ、ハンコックちゃん……!」

 

 冷気と一体化した()の体を、覇気を込めた蹴りで少女が撃ち貫く。

 

「ちゃん付けは止めよと申したであろう! クザン!!」

 

 そして、大将青雉。

 つい先日まで、肩を並べて共に民のために働いていた男が、酷い顔でそこにいる。

 ハンコックは、まるで亡霊と相対しているようだと思いながら警戒をしている。

 

「ハンコック! お前ら、まさか凪の帯(カームベルト)を渡ってきたのか!?」

 

 そして彼女の登場に驚いているのは海軍だけではない。

 総督のクロも驚愕していた。

 海楼石はともかくとして外輪船(パドルシップ)がまだ作れない以上、凪の帯(カームベルト)の横断は命がけの決死行に他ならないからだ。

 

「うむ。隠居の案内でな」

 

 一方でハンコックは、クロの顔を見て僅かに安堵した。

 やや疲れが顔に出ているものの、久々に見る総督の顔が何も変わっていない事をその目で確認できたからだ。

 

 クザンのように生気が消えそうになっているわけではない。

 先ほどの海兵達のように、己の存在する意義を見失っているわけでもない。

 

 まだ、クロという男は何も諦めていない。

 まだ、目に見えぬ『ナニカ』を相手に戦い続ける気概を持っている。

 

 それが確認出来た以上、ハンコックに迷う理由はもはやない。

 

「主殿、ヒナから大まかな状況は耳にした。クザンはわらわが引き受ける」

 

 それゆえ、今すぐ後方にて指揮を。

 

 一将としてハンコックがそう進言するが、クロは少し苦い顔になって目の前の敵を――クザンを見ている。

 

 敵である。

 この男を最低でも足止めしなければ、自分たちはおろか魚人勢の脱出もままならない。

 

 だが、この男は先日まで確かにハンコックにとっての戦友であった。

 なにより、総督のクロとは親友同然の付き合いをしていたのだ。

 

 だからこそ、ハンコックは覚悟をする。

 クロではない。

 自分がこの男と戦わなければならないと。

 

「我らでは魚人側の情勢が分からぬ。主殿が親衛隊やタキ老の隊を率いれば活路を開くなど容易いであろう?」

「タキ殿まで来たのか!?」

「そうじゃ。……皆、主殿を信じておる」

 

 一団の頭目として、というだけではない。

 副総督のダズしかりロビンしかり。

 西の海で復興の陣頭指揮のために資金・資源のやりくりをしてるテゾーロやそれに従う海兵達も。

 

「煉獄と化しつつあるこの時世を救えるのは、主殿しかおらぬと信じておるのじゃ!」

 

 あの自由気ままなミホークですらそうだった。

 

 ハンコックの出港前にミホークは珍しく、『必ずクロと共に帰ってこい』と航海の無事を祈る言葉と共に見送りに来ていた。

 

 今頃どこかの土地を治めるために、刀なり鍬なり振っているだろうとハンコックは――そして彼女と共に凪の帯(カームベルト)を渡り切った兵士達は確信していた。

 

「頼む主殿、ここはわらわに任せて全体の指揮を。決して下手は踏まぬ」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 ハンコックの言葉を受けて、クロは姿を消した。

 ハンコック達が来た船の方に行ったのだ。

 そこには親衛隊をはじめ、文字通りクロの手足となる者達がいる。

 

「まさか、お主のそのような顔を見る事になろうとはな」

 

 ふぅっ、と小さくため息を吐いてから、ハンコックがボヤくようにそう言う。

 

「その前にこうしてこんな所で、お前さん達と戦うハメになった事が予想外だよ」

 

 ハンコックは確信している。

 勝ったと。

 クロが手足を得て、頭脳として万全に機能したのであれば負けはないと。

 

「おそらく主殿がすでに提言しておるじゃろうが……クザン、退けぬのか?」

「…………ああ」

 

 クザンは確信している。

 負けたと。

 手も足もちぎれそうになっている海軍と海賊くずれの寄せ集めでは、あの三本爪の旗に蹴散らされると。

 

 全軍でのぶつかり合いならともかく黒猫が撤退のための防衛に動くのであれば、クロの指揮下に入った親衛隊率いる部隊を突破しなければならない。

 

 急遽掻き集められた私掠(しりゃく)艦隊(かんたい)の海賊崩れは見目が良く、楽しめそうな獲物が来たとしか見ていない。

 だが、多少でもその存在を知っている海軍将兵の目には、悪夢の布陣に見えているだろう。

 

 もし、海軍が目的を完全に達成するとしたらまずは一勝が必ず要る。

 黒猫の将一人。『海賊姫』ボア・ハンコック。

 それを討ち取れば、あるいは流れが作れるかもしれない。

 

「そうか。ならば仕方あるまい」

 

 が。

 

「許す。かかってくるがよい」

「……ハンコックちゃん」

「無論、こちらも蹴り返すが構わぬな?」

 

 クザンが西の海から離れてから、ハンコックは恐ろしい速度で成長していた。

 艦隊を率いて海賊連合残党を狩り立て、海軍本部戦力を迎え撃ち、『死の教師』と共にとはいえ本部大将『赤犬』を打ち破っている。

 

「クザン」

「……」

「これがどのような意味を持つ戦にせよ、あるいは意味無き戦であるにせよ――」

 

「将が戦場でそのような顔をするでない」

 

 少し前まで西の海の海兵と、一部の本部の将校以外は碌に知る者のいない、無名と言って良かった少女は一端の海賊に――否、将となっていた。

 

「黒猫の一味に入ってから、わらわは初めて『兵』という物を率いた」

 

 それが海賊と呼ばれる者であっても、『提督』という肩書が相応しい者へと成っていた。

 

「九蛇の『戦士』とは違うの。おかげで戸惑うことばかりじゃ」

 

 クザンは、勝てないと思ってしまった。

 

「武技を鍛え、敵を討ち取り、戦利品を持ち帰るのが戦士の誉れであったが。……兵士とは難しい」

 

 より洗練された足技。より鍛えられた覇気。

 くわえて『海賊姫』と呼ばれるにふさわしい、凶悪な制圧力を持つ悪魔の実の力。

 

(今使わないのは、下手に石像量産すれば犠牲が増える上に撤退を阻害しかねないからか)

 

 兵士として、下された命令を守る。

 今のクザンにはそれしかなかった。

 

「皆、戦いたくないのじゃ」

 

 だが、ここにいるのは『黒猫』の将。

 

「殺されたくないし、殺したくもない」

 

 武の力ではなく、政の力で勢力を一気に拡大させた一団の将。

 

「死にたくないのじゃ。死が(ほまれ)とはならぬ。兵は皆、生きて帰りたいのじゃ」

 

 その言は、他のどんな刃よりも鋭く、打より重くクザンの心に響く。

 

「それでも武器を手に取る。立場ゆえ、あるいは残してきた者のため、故郷のため故国のため」

 

 ハンコックが一歩踏み出す。

 クザンは動けない。

 身じろぎもせず、ただそこに立っている。

 

「そして戦場に立つ。右に並ぶ者のために銃を握り、左に並ぶ者のために剣を抜く」

「……兵隊ってのはそういうもんだろ」

「そうじゃ」

 

 

「まさに、今お主の背を守っている者達のように」

 

 

 

 だがハンコックのその一言に、クザンは目を見開いて後ろを振り向く。

 

 兵士がいた。

 

 西の海の時から付いてきていた兵士数十名。

 

 五十にも満たない兵士が付いてきていた。

 

 悪魔の実なんて当然口にしていない、覇気も纏えない普通の兵士達が。

 

 クザンの能力の余波ギリギリの所で、凍える身体に鞭を入れて必死の形相で銃をこちらに向けていた。

 

 その姿を、クザンは呆然と見つめている。

 

 ガチガチ震えながら必死に耐えている男達から、目が逸らせなくなっていた。

 

「先に降った兵達の様子を見れば分かる。海軍は今、ただならぬ事態の中にあるのじゃろう」

 

 ハンコックは海兵とも肩を並べて戦っている。

 

「直視することが耐えられぬ程の、おぞましい物を山ほど見てしまったのじゃろう」

 

 タキと復興を協議し、ビグルと物資輸送に関して頭を悩ませ、コリーと負傷兵を見舞い、サモエドと共に敵海賊を蹴散らしてきたのだ。

 

「だからこそ! お主は立たねばならぬ!!」

 

 敵であり、故に先の西海海戦では蹴散らしたが、同時に海軍という括りの中には戦友も確かにいた。

 

「そうでなくては死の恐怖を抑え、手を汚す罪悪感を抑え、それでもなお死地に立たんとする兵達の覚悟は! 決意は! 一体どこへ行くというのか!!!!」

 

 覇気が走る。

 膨れ上がるのではなく、まるで血流のように『海賊姫』の身体を流れてゆく。

 

「前を見よ!! 大将青雉!!」

 

「背を正せ!」

 

「お主の敵は――!」

 

 

「海賊はここにおる!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 海賊の喝破に、視界の端に映る兵士達が倒れる音が聞こえた。

 付いてきてくれた兵士達ではない。

 この魚人島で散々クロに引っ掻き回され、今必死に生き延びようとしていた兵達だ。

 

「ふざけるなよ……」

 

 クザンは肌にビリビリと感じる覇気の気配に。

 今一瞬、目の前の少女を中心にこの戦場に広がった()の気配に「やっぱり」としか思わなかった。

 

「ふざけるなよぉっ!!」

 

 だからこそ、目の前の少女の姿を見る事がクザンには辛くて仕方なかった。

 

「お前さんも! クロも! いい加減にしろよ!!」

 

 あの時のように肩を並べている訳でも、まして軍議のために顔を合わせている訳でもない。

 

「お前みたいな――」

 

 敵として向かい合っている。

 自分が冷気を広げるのが援護ではなく、捕縛のため――あるいは殺害のためになっている。

 

「お前らみたいな海賊がいるかぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!」

 

 それがどうしようもなく悲しかった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「クロ殿! やはりご無事でしたか!」

 

 本当にタキ爺ちゃん来てんじゃん!! 黒猫のスーツにコート着てんじゃん!!

 マジか! マジでか!

 

「タキ殿! まさかこの海の底まで来られるとは!」

「ハンコック提督の進言でございます。総督は必ず、この地を一目確認されるハズだと」

 

 そうか、そりゃハンコックなら読むか! ってか知ってて当然か!

 俺の計画を話してからはテゾーロやベッジとちょくちょく物流や交易に関する話してたもんな!!

 西の海をいずれ偉大なる航路(グランドライン)と結ぶならば、魚人島は最重要要所になるってそりゃ分かる!

 西の海は新世界としか繋がってないんだから!!

 

「そしてもしそこに騒動があらば、魚人側に立って戦われるとも」

「ええ。……実際にそうなりました」

 

 ふとアーロン達魚人勢がどうしているか気になり辺りを見回すと、ヒナの指示で篝火を灯す燃料を運搬していた。

 魚人達の脱出の安全確保には光源の確保が必須だとヒナが言って、それに納得したんだろう。

 助かる、魚人の膂力ならば一度に運搬できる量が段違いだ。

 

 明らかな逃げ道を照らす光が一気に増えれば、こちらが制圧したというメッセージになる。

 ネプチューン王も島の一時放棄を唱えやすくなるだろう。

 

(あとはあの訳わからん海賊モドキ共を大通りから追い出せれば……っ)

 

 ペローナは観測中。――すまん、この暗闇だとお前が頼りだ。

 その情報を受け取ったMr.3が代理指揮官のマリーに献策している。――なんでや。

 一方でクロコダイルは適度な砂嵐で海賊連中の視界を奪っている。――なんでや。

 

「タキ殿」

「ハッ」

 

 止めて止めて、年上どころじゃないお爺ちゃんに傅かれるのすっごく心に悪い!

 

「……復讐、でしょうか?」

「ハッハハハ! 先の戦において、モモンガ本部准将にも同じことを問われましたな」

 

 あの人も西海大戦に参加してたんかい。

 マジで俺達潰そうとしてたんだな世界政府。

 その結果お前らが潰れそうになってるけど。

 

 …………。

 

 潰れるなら勝手に潰れてろよアチコチ巻き込むな!!

 

「ないと言えば、きっと嘘になるのでしょう。ですが……」

 

 少なくともタキ爺ちゃんの表情に、険しい物はない。

 怨嗟やそういった物は感じない。

 西の海で散々見た、優しそうな顔のままだ。

 

「総督は、孫の名を覚えていてくださいました」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 フセ。

 四年前――あの子が十七だった頃に事故に見せかけ聖地に連れ去られ、目の前の少年海賊が親衛隊の者達を救出した頃に処分(・・)されてしまった三等兵。

 ゴッドバレー事件で戦死した息子が遺した一人娘。

 

 父――息子のような海兵になるんだと、体を鍛えるために走り回るのが大好きだった可愛らしい娘。

 

――『……フセ三等兵の件か』

―― っ、孫娘の事を知っていたのか?

 

「海兵奴隷事件の数多の犠牲者の一人でしかないとも言えるあの娘の事を、総督は自ら知ろうとしてくださったのでしょう」

 

 何百何千という犠牲者が出たこの事件を解決に導いた小さくも大きな存在が、辛そうに顔をしかめてくれている。

 

――『黒猫は、ある意味で彼ら奴隷事件の犠牲者達の上に立ち上がった組織だ』

――『……総督である俺が、忘れていい名前じゃないさ』

 

 顔も知らなかっただろう。知るはずがない。

 そもそも何の義理もない一海賊だったハズだ。

 敵でしかない海兵に手を貸す理由など何もない。

 

 だが、闇に葬り去られるハズだった事件を引きずり出した。

 不可解であった孫娘の事故の真実を明らかにし、そしてなお顔も知らぬ多くの民のために、多くの海兵のために戦い続けてくれた。

 

 海賊ではある。誰もが知っている。

 

 それでも、その行動には仁義がある。

 

 それでも、その言葉には正義がある。

 

「これまでの総督の行動に我ら西の海兵は皆、『(まこと)』を見ました」

 

 後ろに控えている兵達――自分の声かけに賛同し、故郷も家族も捨てる覚悟で黒猫へと合流した者達が頷く。

 離れた所で兵士を休ませている降兵達は、逆に項垂れている。

 

「だからこそ、総督を容易く裏切ろうとする今の海軍、政府には付いていけませぬ」

「……信が置けない、か」

「ハッ。ましてや先の事件に何の反省も見せず、再び民をくいものにする顛末を見せつけられたのです」

 

 それどころか、嗚咽を零している者までいる。

 兵士達をまとめ上げようとしていたTボーンという将も、声をあげず静かに涙を零している。

 

 哀れだと、心から思う。

 もし自分達も海兵のままであれば、何を信じればよいのか分からぬ戦場に送られていたのかと思うと心が割れそうになる。

 

 だが、今背負うのは海を渡るカモメではなく、人の心に積もる汚泥を斬り裂く三本爪の猫。

 

「総督、先の西海海戦にて寝返った我ら2377名、並びに先日降伏した46番基地の海兵3600名」

 

 総督の顔が悲しみと驚愕が入り混じった顔になる。

 先日の通信で副総督から報告を受けた自分達の事はともかく、46番基地の者達に驚いているのだろう。

 

「皆、貴方の旗に夜明けを見たのです」

「……タキ殿」

 

 重いのだろう。当然の事である。

 

「俺を盟主として、信じると言うのだな?」

「ハッ!」

 

 皆、ただ縋るつもりはない。

 皆、命を懸けて総督に仕える覚悟である。

 

「俺に、命を預けると言うのだな?」

「然り!」

 

 この海賊に死ねと言われれば死ぬ覚悟で三本爪の印を背負っている。

 

 だが同時に、この少年に未来を託そうとしている。

 全ての命を等しく弄ぶ(・・)者達との大戦争に駆り立てようとしている。

 

「総督が示し、切り拓き続けた『義』の道に、我らは殉ずる覚悟にございます!!」

 

 一瞬、静寂が辺りに広がる。

 総督はしばし、目を瞑って一度深く息を入れ、

 

「皆の想い、確かに受け取った」

 

 口を開く。

 自分達へ。

 海軍を裏切り、三本爪の旗に集った者達へ向けて。

 

「ならば俺は諸君の忠誠に! 信義に!!」

 

 ずっと戦い続けていたのだろう。

 いつもと違い随分とくたびれた、礼服でもあるコートをなびかせ、黒猫海賊団総督が立つ。

 

 

「全身全霊を以て応えよう!!」

 

 

 総督が腕を振るい、叫ぶ。

 

 

「総員、整列!!!」

 

 

 海賊となって初めて下される総督直々の命令に、皆反射的に列を作り真っ直ぐ立つ。

 

「海軍勢力を押し出し、退路を確保する!!」

 

「我らの双肩に、多くの罪なき民の命がかかっている!!」

 

「命を賭して戦え!! その生命、全て私が背負う!!!」

 

 

―― 『ハッ!!!!!』

 

 

 黒猫の軍が、海の底にてついに立ち上がる。

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