とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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あけましておめでとうございます
新年初の黒猫は彼女の話


135:魚人島攻防戦―⑧

「隊を四つに分ける!」

 

 重い! いやもう流れとか情勢とかがアレでアレだから仕方ないのは分かっているんだが!!

 

「うち一つはタキを中心に、先の海戦で下った者のみで編成し即応部隊として待機! 残る三隊を以って敵勢を押さえる!」

 

 背負わなきゃならんものが一々一々クッッッッッッッソ重い!

 人の一生は重荷を負うて遠き道を行くが如しとか抜かした偉人はいる。

 いるけど偉人クラスの荷物をまんま背負わせる選択肢しか選べないのはどういうことなの!? 

 普通に俺が潰れるわボケェ!!!

 

「親衛隊は一度集合し、三隊それぞれに付いて先陣を! 要になるのは諸君らだ!!」

「ハッ!!」

 

 というかいい加減にしろよ世界政府!

 世界征服なりなんなり勝手にやってろとしか思わんが、支配者として島と民を手にしたんならキチンと背負えよ!! 管理者責任って言葉を知らねぇのか!!!

 おかげでこんな目も当てられねぇ事態になってんだろうが!!!

 

「そして……サー・クロコダイル、それに……」

「お初にお目にかかる、クロ総督。説明は省くが、現在仮の第一艦隊参謀として籍を置かせていただいているギャルディーノというものだガネ」

「クハハハ、俺の方は知っているようだな」

 

 どっちも知っとるわ! 3ニーサンの方は本名知らなかっただけで!!

 

 戦場の方で轟音が響く。

 伝令を受け取った最前線の親衛隊が、兵士達を一度後退させるための隙を作るために大技で吹き飛ばしたのだろう。

 ならばすぐに全員揃う。

 

「ああ、知っているとも。ここまで来たという事は、協力してくれるという事でいいのか?」

「無駄な問答だな。お前と話をしてみたくてここまで来たんだ。さっさと片付けるぞ、『黒猫』」

 

 なんで俺と!?

 そもそもどういう経緯でお前ら来たんじゃい!? 特にワニ!

 くそぅ、海軍や政府に手の内知られすぎないように向こうからの報告を最低限にしていたからマジで分かんねぇ!

 

 …………。

 

 あれか、古代兵器目当てでロビン狙ってミホークあたりに返り討ちにあってそのまま西海海戦でなし崩し的に加勢したとかそんな感じか!?

 

「総督!!」

「! っと、アミスか! 久しぶりだな!」

「はい! お顔を見れて……っ、ようやく安心しました、総督!」

 

 いかんいかん、クロコダイルの言う通りだ。今は時間が惜しい。

 アミス達が戻ってきた。

 すでに話を聞いていたのだろう兵士達が、部隊の再編に取り掛かっている。

 

 ペローナの方を向くと軽く手にした日傘を振ってくれるが、真剣な表情のままその場――レイリーの側から動かない。

 聞こえてくる音からして、前線が引いた穴を大量のミニホロによるラップ連打で埋めてくれているのだろう。

 

 そうさせるつもりだったが、先に自己判断でやってくれるのは助かる。

 このタイミングで編成して、一旦隊を落ち着かせる時間を稼げるのはかなりデカい。

 

「話は聞きました。親衛隊もすでに元海兵も含めた兵員と共に、三隊を編成しております」

「よし。三隊の指揮はそれぞれ親衛隊が取れ。合図と共に、まずは二隊を並べて平陣で攻める。一隊は右翼後方に待機」

「ハッ」

 

 怖いのはクザンと共に派兵された本部精鋭戦力だが、それはマルコ率いる白ひげ海賊団が相手をしてくれている。

 ……待っていたとはいえ、俺の海賊団が白ひげ海賊団と共闘する事になるとはなぁ。

 旗揚げから一年経つか経たないかの組織なのに。

 

「……あの、総督。もしかしてこの陣形は……」

「理解が早くて助かる。そうだ、実戦では初めてだがアレを使う」

 

 本当は三隊どころか最低五隊での運用で計算、演習していた戦術だけど仕方ない。

 兵数から四隊編成が恐らく限界だが、最短・最高効率で群がる敵を削るにはこれがベストだ。

 海兵組だけならば無理だったけど、これの訓練やった上でハンコックが黒刀渡したレベルの第一艦隊精鋭が部隊の中核ならばやれる。

 

「これは船上での戦いを想定した物のはずですが」

「ああ、大丈夫だ。代用策がある」

 

 そう、本来は船上での戦いを想定した戦術。

 効率的に敵を船から落とす(・・・)ために試行錯誤の上に生まれた策だが――

 

「ギャルディーノ!」

「ハッ」

 

 

「初の総督命令だ。働いてもらうぞ」

 

「――フッハッハ。ああ、承知したガネ」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「魚人だけじゃねぇ! 売るにせよ楽しむに十分すぎる連中が来たんだ! とっ捕まえろ!」

 

 王下私掠(しりゃく)艦隊。

 元は海軍の大規模離反を恐れた政府が、海軍に代わる戦力を確保するために進められていた計画。

 そのために集められていた戦力に付けられた名前である。

 

「ケッヘヘヘヘヘヘ!! いい女ばっかじゃねぇか! おい殺すなよ!? 殺人で捕まってた奴らに言ってんだぞ!!?」

「手足くらいはいいだろ!? それくらいは許せよ、ひゃっひゃっひゃ!!」

 

 当初は各国の優秀な兵士や戦士を、多額の金を払う事で借り受ける事で戦力の補充に当てようとしていた。

 それを以って、海軍を押さえるに足る新たな政府直属の軍組織を組み立てようと。

 

 だが、スーペリアを皮切りに各地で起こった天竜人の暴走によりその流れは断たれた。

 

―― 海賊被害が増えている現状、彼らは国防に欠かせぬ貴重な人材。

―― 大変心苦しいが、今回の政府要請にわが国は答えられない。どうかご理解されたし。

 

 言葉は色々あれど、そのほとんどが世界政府の要請への拒否であった。

 大抵の国家は海賊被害を理由に挙げたが、最大の理由は政府への不信に他ならなかった。

 

 だが政府としても黙って引き下がる事は出来ない。

 海軍までもを巻き込んだ独立、反乱が各地で勃発し始めたのだ。 

 それらを鎮圧・制圧するには、とにかく多くの兵士がいる。

 戦える人間が必要だった。

 

 その結果政府は、各国が出し得る戦力を大金で買う事にしたのだ。

 

 各国で囚われていた虜囚――終身刑や死刑といった重刑判決を下された凶悪な犯罪者達を。

 

「やれやれ、あの島での金獅子一派に負けず劣らず品がない奴らだな」

「ええ。……ここで少しでもコイツらを排除しなければ、後の情勢に多大な懸念を残す」

 

 それに相対するのは、黒いスーツに身を包んだ武装集団。

 その先陣を切る女達は、手にした武器が違う者もいるが、それでも皆共通して腰に刀を下げている。

 

「征くぞ! 三本爪の矜持を見せる! 総員、再突撃!!」

 

 そして戦闘が始まる。

 バカスカと私掠艦隊員を吹っ飛ばしていた爆発する幽霊はいつの間にかいなくなっていた。

 能力者も交じっている私掠艦隊の者は能力者が疲れたのだろうとほくそ笑み、目の前の女達を捕らえるために斬りかかる。

 

 だが。

 

「ぐっ……コイツら、女の癖に強ぇ……っ」

「なにやってやがるさっさと押し込め!!」

 

 何人もの人間を切り刻んで来たとある男は、斬り結んだだけで女達――親衛隊の力量を悟る。

 強い。

 恐ろしく強い。

 私掠艦隊が発足して最初の仕事で殺したり、持ち帰って楽しんでいる女達とは明らかに違う。

 

(クソッ、コイツはやべぇかもしれねぇ!)

 

 そう判断した者はこっそり力を抜いて後方に潜り込もうとするが、それはできない。

 大通りの左右へ通じる道は全て砂と混ざった蝋の壁で塞がれており、後方からやってくる艦隊兵は一人でも多くの魚人――できるのならば人魚を手に入れようと殺到している。

 

(ちくしょうが、魚共が欲しいならあっちの船の方を攻めろよ! どいつもこいつも青雉を恐れやがって!!)

 

 そう毒づいているこの男もその口である。

 クザンの冷気による攻撃、そして白ひげの右腕である『不死鳥』マルコが暴れる戦場に巻き込まれる事を恐れてこちら側に来たのだ。

 

(とにかくどうにかしてやり過ごす! このまま時間が経てばどっちかが逃げるしかなくなるんだ! それまで!)

 

 男の後ろの方で爆発音がした。

 さきほどの能力者による攻撃だとすぐに分かったが、それと同時に後ろからの圧が明らかに減った。

 チャンスだと男は後ろに潜り込もうとする。

 

 

「って、おいテメェら押すんじゃねぇ! こっちは壁に――」

 

 

 が、

 

 

―― そう、そのまま押し付けてくれれば拘束も容易いというものだガネ。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「コイツは……」

 

 砂漠の王と恐れられる男は、目の前で起きている事象を冷静に観察しようとして――だがしかし、わずかに興奮していた。

 

 ゴーストプリンセスの能力による砲撃で敵前線が一度躊躇った瞬間、三つの部隊がまるで一つの『個』のように、寸分違わず一斉に動き出したのだ。

 

「……こんな戦術もあるのか」

「見ての通り結構危うく繊細な陣形なので、相当な数の演習を繰り返してやっとなんですが……ハンコックの奴、俺がいない間も艦隊戦力の底上げに相当力を入れていたみたいだな」

 

 三つに分けた部隊の内二つが大通りを塞ぐように、ごく普通の隊列を組んで敵を迎え撃つ。

 数では圧倒的な敵を完璧に受け止めただけでもクロコダイルには驚嘆に値するべきものだったのだが、問題はそこからだ。

 

 しばらく受け止めている内に、部隊の片方――左翼が徐々に後退し始める。一部だけが。

 

 まるで斜線を描くように徐々に後退すると、右翼が左翼側へと移動し圧をかけ始める。

 

 その時に隙が出来る右翼前面の敵は、『ゴーストプリンセス』がタイミングに合わせて放った能力による砲撃で吹き飛ばされ、その隙に右翼後方に控えていた隊が前に出て穴を埋める。

 

 その頃には左翼側の敵は相当が壁へと追い詰められており、そこを――

 

『キャンドルウォール・ロック!!!!』

 

 第一艦隊参謀長である男の能力によって生み出された壁を這う蝋の海に押し付けられ、固められる。

 力自慢の動物(ゾオン)系の能力者でもまず抜け出せないだろう強度のソレだ。

 拘束力としてはピカイチだろう。

 

 その頃には押しつけを担当していた左翼の者達は後方へと抜け、先ほどまで右翼にいた部隊が左翼を担当するようになっている。

 

 そして後方に下がった部隊は再び右翼後方へと付いて、次の攻撃に備えながら体を休めていた。

 

「黒猫」

「ハイ」

「この戦術は、お前が……?」

「きっかけはハンコックの提言です。それを受けて試行錯誤を繰り返した結果、出来上がった陣形戦術の一つとなります」

 

 クロコダイルという男は、淡々とそう言いながら戦場から決して目を離さない少年海賊を見る。

 幼くてもいい歳の、だが幼さなど微塵も見せないその横顔を。

 

「本来ならば突出させた敵兵士を海に落とすための物なんですが、今回はギャルディーノの能力を使って拘束する方向に」

「炎熱系の能力者がいたらどうする」

「そのためのペローナの観測と、控えている予備部隊や魚人戦力です」

 

 後方では、タキという老兵率いる部隊の他にギザギザの長い鼻を持つ魚人率いる一派が構えている。

 何かあった時に飛び出せるようにだ。

 その横にいる海兵だという少女も、同じように。

 

 イヤイヤ従っているのではない。

 この海賊の指示に、全幅の信頼を預けている。

 だからこそ、戦闘中という極限の緊張状態で乱れず待てているのだ。

 

(クハハハ……只者じゃあないとは思っていたが想像以上だ。だが、コイツは……)

 

 全てがクロコダイルの見たことない戦い方だった。

 海賊の戦い方ではない。

 断じてない。

 策を弄する海賊も、統率力に優れた海賊も、クロコダイルはこれまで山ほど見て来ていた。

 

 だがこれほどに統率され、群体として機能する程に練度を積み重ねた精強な海賊など見たことがなかった。

 

 軍事強国の軍ですら、こんな戦い方が出来る一団はいないかもしれない。

 

 あるいは、海軍よりも――。

 

 

(コイツは一体……)

 

 

(何者なんだ?)

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

(よしよしよし上手く機能している! 単純な押し合いにならなくて本当に良かった!)

 

 単純な押し合いだと数が圧倒的に足りていないこっちが明らかに不利だったからな。

 その場合はマジでペローナの面制圧がカギになってアイツが過労死するわ! まだ子供なのに!

 

(サブプラン1から4は保持したまま、5番以降は破棄。予備戦力はこのままでよし)

 

 もう少し――大通りの半分まで前進した辺りでヒナとアーロン達を投入しよう。

 そこからは蝋の壁が所々ない。敵の動きを誘導する別動隊が必要になる。

 

「元々は、数で上回る敵との限定空間における戦闘の立ち回りを研究している際に出来た陣でした」

 

 参考にしたのは車懸りの陣だ。

 とはいえ戦国時代の戦術なんて研究したことがなかったので、あくまで回転することで兵を休ませながら戦うという超うろ覚えの部分だけを参考にしてあれこれモプチで演習を繰り返した結果だったが。

 

「いつからこれを……」

「おおよそ半年ですかね。ある戦争で敵艦に乗り込んでの交戦が主となった時に、現場から挙げられた反省点を元に船上での戦い方を見直す必要があると幹部会で議題に上がったのが切っ掛けです」

 

 ぶっちゃけジェルマ戦だ。

 ハンコックから『結果として勝ちはしたが、兵士の消耗の激しさが気にかかる』という報告を受けて、俺達の白兵戦術の研究の深化が始まった。

 

 体力をつける基礎訓練の効率上昇はもちろん、より兵士が効率的に戦える方法をあれこれ探し始めたのだ。

 

「クハハハハ。なるほど、面白い。あれだけの兵士がこうも戦術を駆使して機能するなら、生半可な連中じゃ手も足も出ねぇか」

「……そうでもないんですよね」

 

 あ? と葉巻を咥えたままクロコダイルが怪訝な顔をするが、うん。

 

 あるんだよ、弱点。

 

「この陣……風車陣と呼称しているこの戦術は、本来なら前後三隊ずつの六隊。最低でも五隊での運用を想定したものなんです」

 

 状況に依ってどちらかになるが、敵を引き込むために陣を動かす左右の隊――の後方でそれを支える部隊と、後方から兵圧を加えながら一旦確実に体を休ませる繋ぎの隊。そして崩されないように中間後方部隊として支える隊。

 これらを省いてギリギリ同じ動きだけ出来る状態でなんとか回している。

 

 第一艦隊と本艦隊での、俺が直接目にした最後の定期演習では三隊でも一応形になっていたから大丈夫だとは思うが……。

 兵数が圧倒的に足りてない以上、これが限界だった。

 

 ……やっぱり全兵員をつぎ込むべきだったか?

 いや、それで想定外の事態が更に起きたら完全に詰む。

 タキ爺ちゃんたちの部隊は元海兵で編成させたから指揮系統のズレは一切ない。

 緊急時の予備、即応部隊として待機させておくのは間違っていない。

 

 ―――ハズ。

 

「この陣形で大事なのは、いかに敵勢を支えながらそれを受け流すか」

 

 そもそもは、兵士のほとんどを防御にだけ専念させながら敵を排除させ、同時にわずかでも休息を挟むための陣形戦術だからなぁ。

 だけど今回は――

 

「つまり、本来ならば受け身故に有効な陣なんです。それをあえて攻撃的に使っている。なので――」

「っ、そうか……っ。あれだけの大群を押しこんだり受け止めたりするには、兵数――兵圧に不安があるのか」

「はい。元海兵組も含めて兵達は良くやっています。陣の機動時に敵の圧を乱す役割のペローナも」

 

 特に元海兵達はよく付いていけている。

 合流してからそんなに時間は経っていないハズだが、恐らくダズかハンコックが簡単に教えていたのだろう。それぞれの位置での役割を理解している。

 

「陣列を崩さずに移動し、ジリジリと確実に拘束しながら前進している。並の練度ではすでに崩れていたでしょう」

 

 そうだ、本当によくやっている。やっているからこそ――

 

「その分、すべての行動の起点となる親衛隊の負担が非常に大きいのです」

 

 ペローナには観測中に不味いと思ったらこっちへの報告と、自己判断での援護を伝えてある。

 大将級二名という大海戦を乗り越えたのならば、ペローナの判断の信頼性はかなり高いと思うが……。

 

 …………。

 

 いっそクロコダイルを前線に……このデリケートな戦場で完全初見かつコミュほぼ0の戦略兵器投下とか制御できる自信ナシ! 保留!

 退路になるこの大通りに変な被害出たらさすがにカバーしきれん!!

 せめて天竜人乗せた俺達の船が安全ラインに到達できるまでは動かせん!!

 

 文字通りの最終兵器レイリーを投入することも考えたが、それをやると本部戦力の流れがどう変化するか計算できない。

 

 とにかく、この現状でネプチューン王や天竜人がいる船だけでも押さえようなんて動きをされると不味い。

 クロコダイルにせよレイリーにせよ、やるとしたら最後の最後。盤面を詰めに持っていくその時だ。

 

 いざという時は予備隊として残したタキ爺ちゃんの部隊も投入するしかなくなるが……。

 

 向こうの船の防衛も気になる。

 今はワイアードや魚人達による砲撃で兵は碌に近づけていないようだけど……。

 

(皆、頼むぞ……っ)

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 陣が四度循環し、かなりの数の下品な兵士を斬り伏せ、壁に押し込み蝋で拘束をするが、それでもまだまだ数が多い。

 

(この陣を使うと言われた時は不安だったけど、もし正面からの押し合いだったら……っ)

 

 アミスはクロの知略に改めて敬意を抱きつつ、踏ん張って剣を振るい敵の喉に突き立てる。

 一瞬嫌な予感がしたので多少無理な姿勢になったが、それでも踏み込んで突き殺した。

 

 恐らく能力者だったのだろう。

 一瞬自分の見聞色が、自分の首に光で出来たロープだか輪っかのようなものを巻き付けられる未来を伝えて来たので無茶でも斬った。

 

 体勢が崩れたと見たのか体臭のきつい大男が斧で殴りつけて来るが、咄嗟に左手でもう一本の刀を抜いて斧ごと男の体を両断する。

 

「おお、アミスさんも二刀持ちですか! 練習に付き合った甲斐がありますねぇ、このままコンビ組みますか?!」

「この戦況でそれだけ無駄口が利ければかえって頼もしいわね、ミアキス!」

 

 隣で同じく両手で――ただし短い物を振るう同僚が返り血が舞う中を切り抜け、敵の放った銃弾を短剣の切っ先で上へと逸らし、返す刀で目の前の敵の喉を斬り裂く。

 

 中には切り結んで体格差で押し切ろうとする者も出てくるが、横に並ぶ親衛隊員や後ろに控えている精鋭が後ろから支えるなり攻撃するなりで援護する。

 

 本来の陣形の使用法なら待ちながら削っていく所を、今回は自分達から進軍して敵を削っている。

 

 敵を押し込み、受け止め、そしてペローナの爆発を合図に受け流す親衛隊はかなりきつい戦闘を強いられているが、それでも未だ乱れる気配はない。

 

 当たり前だ。

 

 ミホークやレイリーの二人を相手に同時に戦う時に比べれば全然楽だ。

 ミホークのように巧みな技もなく、レイリーのように圧倒的な圧迫感もない。

 ただ――

 

(顔を見て確信した。総督はかなり消耗している! もし敵を削れるのであれば、指示の後に敵兵圧を削るために暴れているはず。それこそジェルマと戦った時のように)

 

 定時連絡で最低限の互いの状況は報告し合っていたので、クロが初めから聖地の中で相当の激務に身を置いていたのは幹部全員周知していた。

 

 そこで起こった金獅子を相手取った聖地防衛戦、聖地復興作業の中での各国との調整、黄猿との交戦に少人数での新世界航海、そしてヒナから聞けばここ数日の間、面識の全くない魚人の暴徒や王国軍をどうにかまとめ上げて海軍勢力と睨み合っていたという。

 

(さらには大将青雉との戦闘まで……。一刻も早くこの戦いに区切りをつけて、撤退に移らなければ……っ)

 

 万が一自分に何かあっても問題ないように組織を構築、運営していく。

 あの島での旗揚げ以降――いや、その前から総督はずっとそう言ってその通りに組織を構築してきた。

 ミホークやハンコックといった当初の想定を超える戦力が加入したのもあるが、総督不在の戦力で海軍本部戦力――しかも大将二名という世界屈指の戦力を撃退できたのはその証だ。

 

 そうだ、きっと組織としては本当に問題ない。

 だが、そうではない。

 黒猫海賊団という組織が、クロ不在でも機能するとしても――

 

(ハンコック提督が言うとおりだ。この先の世界には、総督の存在が必ず必要になる!!)

 

「くそがぁ!! 女がチョロチョロとうっとうしい!!」

「こちらの……台詞だ!!」

 

 サーベルによる一撃を刀で受け止め、それを捻って弾き飛ばす。

 その刀身は明らかに水とは違う何かで濡れていた、恐らくなんらかの毒が塗られていたのだろう。

 

 得物を弾き飛ばされた男は反射的に後ろに下がろうとするが、一歩も動くことなくその額に穴が空いている。

 

 振り返らなくてもアミスには分かった。キャザリーによる狙撃援護だろう。

 彼女が的を外す所など、旗揚げ前の頃の訓練時しか見たことがない。

 

(それでも、手が足りない!)

 

 進んでいる自信はある。

 終わりの見えない戦いとは到底言えないが、同時に敵勢の勢いが重い。

 

(もう一手……っ)

 

 それを受け止め、押し込めるにはせめて親衛隊が各部隊にもう一隊――三人ずつは欲しい。

 あるいは面での制圧に長けたトーヤがいればと思わずにはいられない。

 

 次の敵は五人がかりで一斉に襲い掛かってきた。

 アミス達親衛隊さえ崩せば後は勝てると踏んだのだろう。

 

(いいや、私が――)

 

 刀で一本一本受け止めても、残る刃が身体に突き刺さるだろう。

 後ろから飛んできたナイフと短刀が、敵の一人ずつの身体を貫く。

 絶命させるには足りないが、攻撃を止めるには十分な一撃。

 投げナイフの名手であるアイリとミズキによる援護だ。

 

(私が誰よりも踏ん張らなくてはいけない!)

 

 ここから見えない場所でも、あの船底で救われてから死に物狂いで共に鍛えて、死地を潜り抜けてきた仲間が戦っているのが分かる。

 

 アミスへの援護を妨害している者達の喉を一瞬で搔き斬ったミアキスが、桜のように舞い散る血風の中で踊るように剣を振るい殺到する敵を次々に絶命させている。

 

(私が親衛隊の――隊長なのだからっ!)

 

 足元に転がっていたそれを、爪先で掬い上げて蹴り上げる。

 

「もらったぁぁっ!!!」

「後で楽しんでやるから死ぬなよぉ!? キッハハハ!!!」

 

 刃が迫る。

 恐らく偉大なる航路(グランドライン)にいた者なのだろう、親衛隊のソレに比べて弱いが覇気を纏っている一撃が。

 

 だが、それよりも早く。

 

 

―― ギィ………ィン……ッ

 

 

 刃の数々でそれらの攻撃を受け止めた。

 

 三本の刃。

 

 右手に握った刀。

 左手に握った刀。

 

 そして咄嗟に口にくわえた(・・・・・・)刀。

 

「!!? てめぇ!!」

「下らねぇ曲芸を――!」

 

 たとえ覇気を纏おうとも、振るう剣は力任せの雑な物だ。

 ならば、一度受け止めてしまえばどうという事はない。

 

 同時に振るわれた三刀による斬撃によって、下卑た口しか開かなかった者達は絶命し、血を撒き散らしながらその場に崩れ落ちる。

 

「……三刀流って、さすがにそれは予想外ですよ。アミスさん」

 

 本来ならば手で持つ『握り』の部分を口から外しながら、アミスは苦笑してミアキスに曖昧に頷く。

 

 更に押しかけようとした敵勢は、ミアキスが一瞬で首を斬り飛ばして黙らせていた。

 それでもと――あるいはもうすでに自分達で勢いを止められなくなったのか――敵が押し寄せてくるが、その一団が一斉に吹き飛ぶ。

 

 半ば地中に潜りながら、目視されにくいように放たれたゴースト爆弾。

 

 ペローナによる援護砲撃。

 

 つまり、陣を機動させるタイミングが来たという事だ。

 

「よし、()せぇ! すし詰めになっているからこそ、もはや敵勢に打てる手は前進しかない!」

 

 刀の一本を鞘に戻して、足で拾った抜き身の刀を左手に持ち二刀流のまま、アミスが叫ぶ。

 

「大通りも半分を越えた! 我らの一歩は戦いの趨勢を決める一歩、決死の覚悟で足を踏み出せ!」

 

 

「第一隊、動くぞ!!! 他部隊も合わせろ!!」

 

 

――『応!!!!!!!!!!!!』

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