とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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136:魚人島攻防戦―⑨

「足の割れていない人魚は全員中に! 周りは兵士で固めよ! 海にさえ出れば一気に飛び出せるんじゃもん!」

 

 楽園側への道は、次々と着けられる海軍艦から湧き出る海兵達によって閉ざされた。

 逃げ道である新世界への道は、徐々にだが確実に明るく照らし出されつつある。

 

 あの海賊と、その加勢に来た彼の仲間。そして白ひげ海賊団の一団が海軍を迎え撃ち、ジリジリと退路を切り拓き、篝火で明るく照らして制圧した範囲を伝えてきている。

 

「クロさん達は今、どれほど兵隊を進めていやすかい?」

 

 盲目にして、恐らくこの王国のほとんどの兵士より強い男の言葉にネプチューン王は、つい先ほど直接目にした篝火の場所を思い返す。

 

「八割を超えた所から勢いが増しておった。先に突出していた白ひげ戦力を……まぁ、利用しておるのじゃろう。途中からアーロン達も運び込んだ大砲などを使って、妙な軍勢を上手い事挟撃に持ち込んで散らしておった」

 

 王は改めて、『黒猫』という一団の頼もしさに安堵すると共に、これがどう動いてもおかしくない海賊集団だという事に静かに恐怖する。

 

 クロという海賊の用兵の、舌を巻くほどの巧みさは分かっていた。

 訓練を受けた海軍を相手に、ほぼ素人ばかりな上に数でも劣る魚人を率いて状況を拮抗させたのだから当然だ。

 

 だからこそ、王としてどうしても考えてしまう。

 

 もし、あの力が自分達に向けられたらどうなるのか。

 クロの人柄からしてあり得ないとは重々分かっている。

 

 だが、どうしてもその考えが、恐怖が頭をよぎってしまっていた。

 

「ネプチューン王!」

 

 その時バタバタと、一人の魚人が駆け込んできた。

 ジンベエ。

 王国軍の中でも屈指の力を持つ最強の兵士が。

 

「どうか、脱出の先陣として儂らを行かせてくれぬか!!?」

 

 そんな男が、必死な顔で頭を下げている。

 

「ジンベエ。しかし……」

 

 海軍の中にはクロ程の速さではないが、宙を飛び回る兵士もいる。

 今は白ひげの戦力が押さえ込んでいるが、備えは必要だ。

 クロに付き従う海兵に加えて魚人街の腕自慢や王国兵が付いているが、出来る事ならば最大戦力であるジンベエには残って甲板を守ってほしかった。

 

「今ここでクロに加勢しなければ、儂は自分を一生許せなくなる!! 先の戦いで――っ」

 

「先の戦いで魚人の者達を暴走させたのは、儂のせいなのです!!」

 

 だが、ジンベエは引き下がらない。

 引き下がれなかった。

 

「儂がアイツらに……決して気を許すなと……疑ってかかれと……っ」

 

 決してクロ達を信じ切るなと、そう周りに零していたからだ。

 どうあがいても人間だから。どうあがいても海賊だから。

 だから何をしてきてもいいように、信用するなとそう言っていた。

 

「その結果がこの戦です。儂がアイツらの手綱を緩めるような事をしなければ、今頃一応の決着は付いておったかもしれんというのに……!」

 

―― 魚人を諦めた上で逃げ帰ってくれれば良かったんですが……

 

―― それはオジャン。

―― 暴徒によって海軍艦のコーティング機能が破壊されて、天竜人は海軍諸共立ち往生。

―― 私達はこうして無駄な睨み合いを続ける羽目になったわね。

 

 ジンベエの脳裏に、少し前のクロとヒナの会話が過ぎる。

 

 本来ならば、すでに海軍は引いていたかもしれない。

 

 ここまで戦況が悪化することはなかったかもしれない。

 

 少なくとも、長引くことはなかっただろう。

 あれほど親しんだ城下町が下劣な一団に踏み荒らされ、砂や蝋が飛び交い、血に塗れる事はなかったかもしれない。

 

「どうか、どうか出陣の許可を! あの人間達――クロやヒナだけではない。アーロンや魚人街の者達までもが、皆を守るために戦っておるというのに……っ」

 

 もはや土下座に等しい姿だった。

 涙を零し、嗚咽を漏らしながら額を地面に擦り付けている。

 

「……人には誰しも、出番という物がございやす」

 

 返す言葉に詰まり口を開けないネプチューンを制して、静かにジンベエの言葉を聞いていたイッショウが話しかける。

 

「あっしも、叶うならば今すぐあの人の隣で戦いてぇ。あの人の指示で思う存分、この刀を振るいてぇもんですが……」

 

 出会ったその日に起こった事だけで、海賊だと嘯く少年がとんでもなく面白い男だとイッショウは確信していた。

 それがこうして海の底に辿り着き、魚人と海軍の戦いを調停し、その上でソレを破った――いや、破らせた天竜人まで利用して罪のない民を助けようとこの大きな戦に身を投げ出している。

 

 この大戦(おおいくさ)はイッショウにとってこれまでにない、まさに心が躍る戦いだった。

 先の戦闘も優れた現場指揮官の卵であるヒナと共に敵陣を斬り裂いていくのは、不謹慎ではあるがどこか晴れ晴れとした気持ちで刀を振るっていた。

 

「あっしがここを抜けたら、走れねぇ人たちが捕まってしまいやす。腹立たしい事に、天竜人の方々はそういう人こそを手に入れたいご様子」

 

 話を聞いている魚人や人魚達が、嫌悪と怒りで顔を歪めるが事実だった。

 彼らがもっとも望んでいるのは若い女の人魚を鑑賞物に、あるいは奴隷にする事だった。

 

「若ぇ娘さん達が、恐怖を押し殺して必死に耐えているんです。その心を軽くするためにドッシリ構えるのも、守るための戦いというものでしょうや」

 

 イッショウの言葉に、ジンベエは更にこぼれそうになる嗚咽をこらえて頷く。

 少なくとも、ここに自分がいる意義を改めて見出したのだろう。

 

「ネプチューン陛下!」

 

 甲板の守りに付いていた兵士――人間の兵士が駆け込んでくる。

 クロが伝令役や天竜人の世話係に任じたスパニエル一等兵だ。

 

「大通りを塞いでいた敵兵が完全に押し出されました! 今は黒猫海賊団の皆さんがわき道を塞ぎながら、退路を確実な物にしています!」

 

 その言葉に、ネプチューン王のそばを固めている兵士がわずかにざわめく。

 そして、イッショウが白杖――仕込み刀を杖にして立ち上がる。

 

「出番が来やしたか」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「あの『冥王』が気にかけている一味だから、まぁそれなりにやるとは思っていたがよい」

 

 海兵を蹴り飛ばし、『青雉』の攻撃の余波を広く盾のように広げた炎で防ぎながら戦況を見下ろし、白ひげ海賊団一番隊隊長マルコは小さく笑う。

 

「あの嬢ちゃんも、頭だっていう奴も大したもんじゃねぇか!!」

 

 当初より戦力が増えたとはいえ、それでも敵戦力は膨大な物だった。

 正直、自分達の頭である白ひげの友人ネプチューン王とその家族や周りの数十名を救えれば御の字だという覚悟で魚人島に向かっていたのだ。

 

 それがここに来て、取り残されていた民のほとんどを守り切ったまま脱出できる目が出て来た。

 

 退路を支える黒猫という海賊団の陣形は、精強無比という言葉がそのまま具現化したかのようにとにかく堅い。

 

 近寄れば精鋭によって斬り伏せられ、どうにか崩すか逃げようかとモタついている間に陣が回転して壁に蝋で固定される。

 能力などを使って陣を飛び越え、どうにか後方の魚人を一人でも捕まえようとしたものは、この海の底でも日傘を差した少女の能力によって叩き落されるか、後方に控えている部隊の銃撃に貫かれている。

 

 そしてなによりもマルコの目を引いたのは、自分達と離れた所で本部大将と一騎打ちを演じている少女。

 ここに来るまでの数日間の間に交流した、奇しくも自分と同じ一番隊の頭を務める将。

 

 海賊姫、ボア・ハンコック。

 

 海賊らしい武力と、海賊らしくない知略の片鱗を見せた女傑の卵。

 

 敵の動きが悪いというのもあるが、それでもなお新世界クラスでも上位に当たる攻撃を受け流し、時には圧倒して、この場で最もやっかいな敵を完全に足止めしている。

 

(おかげで助かるよい。こっちの兵隊じゃあ向こう側程の統率は無理だからな)

 

 自分が直接指揮しているからこそ、こうして本部の大戦力を相手に渡り合える。

 もし自分が大将の足止めに動いていたら、犠牲者が次々に出ていた筈だ。

 

「隊長! あいつらやってくれました! 逃げ道が!」

 

 部下の一人――高所に上げて見張りをさせていた男が歓声を上げる。

 

 マルコは自分の姿を鳥に変えて軽く飛翔し、黒猫の一団の姿を見る。

 

 例の海賊崩れの連中のほとんどを拘束し、残るは先ほどまでクロコダイルの砂嵐によって視界を奪われでたらめに暴れるしかなかった連中のみ。

 

(こりゃすぐに動くな)

 

「お前ら、押し出るぞ! 船の周りではしゃいでいる連中にコイツらを押し付ける!!」

 

 不死鳥と化した足に炎を纏わせ、目の前の本部兵――なるだけ強そうな、指揮官である可能性が高い者に狙いを付ける。

 

鳳凰印(ほうおういん)!!」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

(白ひげの者が大技で海兵を吹き飛ばした! ならばすぐに動きが出るハズ!!)

 

芳香脚(パフューム・フェムル)!!」

 

 マルコの動きを見て状況が岐路に達した事を悟ったハンコックが、足に覇気と能力を纏わせてクザンの胴体を貫く。

 命中すれば瞬く間に石化するハンコックにとっての必殺技は、だがクザンは事前に身体を冷気に変えて躱していた。

 

「頼む、命までは取らねぇからよ……っ!」

 

 そのままハンコックの足を掴んで凍らせようとするが――

 

「たわけ! わらわが『黒猫』の将であることを忘れたか!」

 

 その瞬きよりも短い間にハンコックの姿が消えていた。

 クザンが舌打ちして気配を感じた方向を向いて防御態勢を取るのと同時に、『ぱぁん!』という乾いた音と共に飛んできた見えない打撃が突き刺さり、吹き飛ばされる。

 

「ぐ……ぉ……っ! それ……クロの技だろ……っ」

 

 噛猫(ごうびょう)

 CPや海兵が覚える嵐脚(らんきゃく)が足で放たれる飛ぶ斬撃であるのに対して、黒猫のソレは飛ぶ打撃と言える。

 

「主殿はわらわの足技の師でもあるのでな。おかげでまだまだ未熟とはいえ、技だけならば一通り使える」

 

 洗練されれば放つ打撃の面積をより小さく、その先端をより鋭くしてライフル並みの威力を無音で出せる足技。

 形だけならば習得していたそれを放ったハンコックは、クロのように足音一つ立てずに着地し髪をかき上げる。

 

「あんにゃろう……っ、軍人も政治家も出来る上に教官も出来るのかよ」

 

 いくらなんでもズリィだろ、とぼやくクザンにハンコックは内心で肯定しながら、それでも油断なく周囲を見る。

 

(後方に控える三十前後の兵士達を除けば、どうにか主殿が乗ってきたであろう船を陥とそうとしている部隊以外は離散しておる。その部隊も――)

 

 たくさんの人魚や魚人、そしてリュウグウ王国の国王はじめ重鎮と天竜人が乗っている船だ。

 敵からすればなんとしても陥とさなければならない最重要目標であるにも関わらず、動きは恐ろしく鈍い。

 

(士気が低いというだけではない。今どのような状況であるのか、増援の中で把握している者が碌におらぬというのもあるじゃろうが……)

 

 ハンコックはその理由を、全てを大将であるクザンに頼り切っているためと見切っていた。

 仮にも大将が戦っている戦場に、邪魔にならない範囲とはいえ控えている兵士が三十余名というのがその理由だ。

 

(……無様な。我らの新兵にすら劣る)

 

 もっとも、多くの兵士の目が大物に集まっている事もあるだろう。

 海賊姫のハンコックだけではない。

 不死鳥、千視万計、砂漠の王に王佐の剣、死を呼ぶ舞踏。

 兵士数十名が集まった所で一息で蹴散らせる者達がこうも集まっているのだ。

 これで冥王まで控えていると知れば、札を公開する機会次第では士気を砕けるかもしれない。

 

 そこまでハンコックが考えを深めていた時、動きを感じる。

 聞き覚えのある者達の歓声――鬨の声が耳に届くのと同時に、巨船が動いた。

 

 文字通りフワリと浮いてゆっくりと、だが徐々に速度を上げて、その巨体に見合わぬ動きで新世界へと飛び立っていく。

 

―― よぅし! 全員俺達に続け!!

―― まっすぐ大通りを抜けて港に! 黒いスーツの奴らは味方だ! あの子の兵隊だ!

―― 船から溢れた人魚は抱えてやる! 手の多い奴は頼んだぞ!!

 

 その先には完全にがら空きとなった大通りがある。その先には港が。

 本来ならば船がなくては出ていけない、だが魚人にとってはただの玄関口を目指して一斉に魚人達が動き出す。

 

「悪いが逃がすわけには――っ!」

「クザン!!!」

 

 次の攻防に備えて距離を取ってしまった己の愚策に内心舌打ちしながら、ハンコックが抜き足で移動する。

 クザンに向けて、ではない。

 そのクザンが反射的に撃った、魚人を捕らえんとする氷河の山の前に。

 

(ミホークめがいればっ! あるいはトーヤさえ……!)

 

 この場にいない戦友の存在を惜しむが、同時に迷わず足に覇気を流す。

 

芳香脚(パフューム・フェムル)……っ」

 

 大技の態勢に入るのを、クザンはただ見ている。

 それ以上は必要ないと見たのか、あるいはやる気がなかったのか。

 もしかしたら、この大氷河も反射的に撃ってしまった物なのかもしれない。

 

「ラグナぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 抜き足を用いた超加速から放つ能力を込めた一撃。

 西海海戦では加速に任せて赤犬に突撃し、その勢いを以て吹き飛ばしたその技を、今度は勢いを利用した噛猫(ごうびょう)へと転じて放つ。

 

 威力を殺さず、広範囲に。

 ハンコックに、そしてその遥か後ろで港に向かって走りだした大集団めがけて迫る大氷河を吹き飛ばす。

 

 周囲の海兵達すら思わず身をすくめるほどの轟音が響き、迫る氷河は見事に吹き飛んだ。

 だが、

 

「いかん、足りなんだか!!」

 

 展開された氷河が余りにも広範囲だった。

 それだけならば良かったのだが、冷気が広がり徐々に二つに分かれた氷河が広がり始めている。

 勢いは間違いなく落ち、魚人の集団に辿り着くまでには少しは時間がかかるだろうが――

 

「っ! 主殿!!!」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「使って、海賊さん!! 貴方のだそうよ!!」

 

 ペローナが蹴って寄こした――だが届かなかった木箱を、側にいた女性魚人が運んできてくれた。

 床に置かれた木箱を思い切り踏み抜くと、蓋と一緒に中身が吹っ飛び、浮き上がる。

 

 猫の手。

 

 別に正式名称というか名付けた訳でもなく、そう呼んでいるだけの俺の象徴。

 

「感謝する、ミズ・シーラ」

 

 手持ちの刀剣で再現しようとして諦めていた武器を手に嵌める。

 久々の重さが手に馴染む。

 

「タキ率いる第四隊は魚人達の誘導を。レイリー、クロコダイル。出るぞ」

 

 船が通り過ぎて港に辿り着く。

 そのまま島を出ない理由は明らかだ。ワイアード達が後部に大砲を集めて構えている。

 万が一海兵達が脱出している魚人達に接近してきた場合の援護に備えているのだ。

 

「ほう、ようやくかね」

「クハハハ。まぁ、一番面倒な連中は削ったんだ。後は楽なもんだろうさ」

 

 靴こそ普段の物だが、別に問題はない。

 迫る氷河に向けて、突撃する分には何も問題ない。

 

「ああ、そうだ。レイリー」

「む、なにかね?」

「そういや言っておくことがあったのを思い出した」

 

 パリ……ッと音を立てて左右十本の刀が黒く染まっていく。

 クロコダイルはそれを見て、なぜか満足そうに笑っている。

 だけど今はそれどころじゃない。

 

「あの殺意しか見えない訓練にも言いたい事はあったが、感謝している所もある」

 

――『あったたたたた。……ふんっ!!』

――『おや、また失敗して脱臼かね?』

――『あんだけの貫通力をなんで腕一本で出来るんだよアンタは……』

 

 テメェにはマジで言いたい事がありすぎんだよこの悪魔!!

 

「でもなぁ!!!!!」

 

――『まぁ、私が見せたのも見様見真似の一撃だからね』

――『もう片方の奴はどうにか形になりつつあるんだけどなぁ』

――『おや、妙な事になっていた武装色が形になったのかね?』

――『ああ』

 

 あの時のすっとぼけた顔思い出すと、ここまでのアレコレに加えて怒り――いやもう怒り通り越して殺意が芽生えて来た!!

 より覇気を体中に回して、武器は当然身体を全体的に強化する。

 

――『勝手に広がろうとする覇気、か。もう制御が?』

――『完璧に。どういうわけか、広げて見聞色の補強をすることも出来るようになった』

 

「何が変わった覇気だ! 覇王色なら覇王色と言え!!!!」

 

 てめぇ何馬鹿笑いしてやがる!!

 ずっと武装色が変な事になったと思ってたんだからな!!?

 

 流す覇気は二種類。

 体の中を流れる覇気と、広がろうとする覇気を重ねて。

 

――『ならばせっかくだ。出来栄えを見てみたい』

 

 飛び出す。

 より強化の深度が増したために、無音のままより速く、より遠くへと。

 

 迫る氷河――ハンコックが真っ二つに割ったために勢いが落ちたそれらを、左右同時に斬り砕ける空中の位置へ。

 

――『一度、海に向けて放ってみせてくれ』

 

 もはや、両手に雷雲をぶら下げているかのような状態のまま。

 

 交差させた猫の手を同時に、広げるように横薙ぎに払う。

 

 

 

 

――『私の、友の技を』

 

 

 

 

 

神避(かむさり)――っ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 轟音と共に、魚人にその手が届きそうになっていた大氷河が吹き飛ぶ。

 海軍将兵の誰もが――わずかに残っていた私掠艦隊の海賊くずれ、黒猫と合流した白ひげ海賊団の者達まで唖然とした顔で、まるで雪のように舞う氷の破片の数々を見上げている。

 

 パキリ、と。

 世界政府の命令で動いていた者達の前に、細かくなった氷の欠片を踏みしめる音が響く。

 

 三人の男達が、前に出て来ている。

 その三人の存在に海兵達――比較的古参の兵は驚愕に目を見開く。

 

―― め、冥王……。

―― まさか。そんな……そんな……っ!

―― 本物だ。嘘だ、なんで……本物だっ!!

 

 誰かの呟きが、瞬く間に広まっていく。

 冥王、シルバーズ・レイリー。

 言わずと知れた海賊王の右腕。

 

 その反対側にいるのは砂漠の王。

 多くの海軍艦を沈めて来た、ルーキーの中でも屈指の実力を持つ海賊の一人。

 

 更に一人の海賊が降り立つ。

 海賊王と渡り合った、現在の世界最強の右腕。不死鳥マルコ。

 

 その三人の中央には、まさにこの戦争を主導してきた男が。

 

 一匹の黒猫が、彼らを率いるように立っていた。

 

「海軍諸君」

 

 その後ろでは多くの魚人達が次々に島から逃げ出している。

 その集団を守るために、親衛隊を始めとする黒猫の軍勢が陣を組みなおし、戦いに備えている。

 

「もはや勝敗は決した! これ以上戦う意味はない!!」

 

 その男から、威圧感が放たれる。

 重力がさらに重くなったとすら感じる程の圧に多くの兵士達がバタバタと倒れる。

 本部から招集されたベテランの将校ですら、その半分近くは膝を突き、歯を食いしばって耐えるのが精一杯だ。

 

「それでもなお魚人達を追い回し、捕まえるために蛮行を続けるというのならば!!」

 

 

 

「来い!」

 

 

 

「我らが相手になる!!」

 

 

 その一喝が、事実上の『第一次魚人島攻防戦』の決着を知らせていた。




※ハンコックの大技がマグナではなくラグナになっているのは、作中で描写している通り加速を利用した蹴りではなく噛猫のため、違う技としてカウントされているからです
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