とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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013:対面

 結果として、一時しのぎの拠点のはずだった無人島は多少とはいえ総員での開拓が進み、自分達の本拠点となりつつあった。

 

 ダズとペローナが捕まえた獣は捌いて干し肉にしたり焼いたり、海兵組が自作した竿で川や海で魚を釣ったり、ロビンが能力で木の実を集めたりと……まぁ、ここで過ごす分での食料面に関しては問題はなさそうだ。

 

 少し栄養失調っぽかった海兵も回復しつつある。

 

 寝泊まりする所も最初は流木や枝、葉っぱで組んだ簡素なシェルターだったのが、海兵組の中で修繕などの大工仕事が得意な人間が少しずつ家を建てつつある。

 

 というかすでに一軒建った。

 俺達幹部組(子供勢)の家である。

 怪我人や衰弱した人間を優先して家に住ませるように提案していたのだが、結果としてこうなった。

 

 まぁ、俺達の家兼倉庫みたいになっている。

 

「さて、貴官らに集まってもらったのは他でもない」

 

 ぶっちゃけ畑まで作ろうという話が出ているくらい、拠点化というか開拓計画が海兵諸君から提案されている。

 

 つまりまぁ……海兵組も気付いているんだろうなぁ。

 

「海兵諸君らの身の振り方も交えた、今後の我々の行動についてだ」

 

 元の生活に戻れるどころか、故郷に帰れる可能性も低いという事に。

 

 ダズは相変わらず鉄面皮。多分一番人の良いロビンは不安そうな顔で海兵組の面々の顔色を窺っている。

 

 ペローナ、お前はホロホロ笑うんじゃない。空気を読みなさい空気を。

 

「何度か話し合いに参加した諸君らの仲間から聞いていると思うが、貴官達を表に戻すのは現状極めて危険だ。関係者に奪還される可能性が高い」

 

 海兵の一人、例のたしぎに似た娘――アミスという名前らしい――が暗い顔をしながらも頷く。

 実質この人がまとめ役になっているな。

 

「どこかの支部に出頭した所で、そこに例の一件に関わった連中が紛れ込んでいないとも限らない。再び貴官らの誘拐を画策するか……あるいは口封じをしようとするかもしれない」

 

 やはり、ここでの開発、開拓作業に熱心だったのはそこから目をそらしたいという想いもあったのだろう。

 

「だが、いつまでもこの島にいては現状を打破できない。そこで、一つ賭けに出ることにした」

 

 色々考えたけど、色んな所の暗躍の果てに生まれた海兵奴隷売買とかいうクソ案件から、この面子を無事に逃がすにはこれが一番早い。

 

「自分が西の海(ウェスト・ブルー)の海軍地区本部に単独で潜入。上級将校と直接話をして状況を説明。貴官らとその家族の保護を陳情してくる」

 

 うん、全員目を点にしている。そりゃそうか。

 

 だけどこういうヤバイ話は、まず関係ないだろうお偉いさんに話を通すのが一番間違いがないんだわ。

 

「その際、地区本部まである程度の所までは船を出す必要がある。出来るだけ日持ちのする食料をたくさん作っておいてくれ。途中の港町で補給はするが、そこにたどり着くまでの食糧を確保してもらいたい」

 

 そもそもここで過ごすんならともかく、船出する場合の食料面は割とカツカツだしね、今。

 それに一応略奪品はあるけど、出来れば換金は海兵達の身の安全を確保した上で逃げやすくなってからにしたい。

 

 今使える金は10万ベリーとちょっとくらい。……それと物々交換に使えそうな物品もいくつかあったか。

 ……うん、人数のこと考えると補給だけでギリギリだな。

 

「時間をかけすぎると関与していたファミリーや海兵がどう動くか想定するのが難しくなる。最低でも一週間後には出発したい」

 

 本音を言えば海兵と、念のためにロビンを置いて出航したいところだが、さすがにロビンを海兵だけの所に置いておくのは拙い。

 

「全員、そのつもりで動いてくれ」

 

 ダズは小さく頷き、ペローナはホロホロ笑い、以前襲撃の話をした時は不安そうにしていたロビンも、ちゃんとこっちを見ている。

 

 よし、大丈夫そう――

 

 

 

「待ってください、キャプテン・クロ!!」

「いくら貴方でもあまりにも無謀がすぎます!!」

「貴方に危険を冒させるくらいなら、私達だけで出頭しますから!」

 

 

 …………。

 

 うん、ちょっと待ってくれたまへ海兵諸君。

 

 

「貴官らは事故(・・)に遭って行方不明になっている」

「それでも海兵です! 顔を知っている者だって――」

「駄目だ。真正面から上に陳情しようとしても、指揮系統からしていきなり地区本部のトップに話は行かないだろう。……もし自分が貴官らを罠に嵌めた者の立場なら、絶対にそこは押さえておく」

 

 絶対バレないようにするということは、知られてはいけない人物に情報が届かないようにするという事だ。

 それに、顔を知っている者が味方だと今は断言できない状況でもある。

 

「そも、地区本部周囲の海域は見張られていると見るべきだ。うかつに近づけば問答無用で沈められる。貴官らだけで船を出したとしても、死んだ人間には好きに札を付けられる。例えば、事故に遭った貴官らの装備を奪い海兵に偽装していた、卑劣な名もなき海賊……とかな」

 

 実際、もうそんな感じの噂が出まわっていてもおかしくないなと今思った。

 隠匿に力を入れすぎて情報収集を怠ったのは自分のミスだな……。

 

 地区本部への潜入自体は頭にあったが、そこまでの航海をまっすぐ乗り切るための物資不足や海兵達の体力の問題などを考えると、どうしても一回休まなければならなかった。

 

 ……まぁ、特に自分がベッジに轢かれまくったダメージ滅茶苦茶残ってて、潜入どころか長時間の差し足が無理だったというのが一番デカいんだが。

 

 

―― やっぱ完全に俺のせいじゃねぇか!!!

 

 

「自分ならば、離れた所から無理やり宙を走って上陸できる。敵に捕捉される可能性は大幅に下がるし、単独ならば逃げる事も容易い」

 

 ホント、足を鍛えまくったのはこういう時のためだし。

 

「今回の一連の流れを本当の意味で食い止めるには、海軍の力が必要だ。そして現状では、直接上層部に、敵にも悟られずに話を説明する必要がある。それができるのは自分だけだ」

「ですが、キャプテンは海賊です! 潜入に成功したとしても支部長やその周囲が信じるとは限りません! せめて、我々の中から一名付けて……」

「そうすると上陸と潜入が困難になる。以前ダズとペローナを抱えて走ったこともあったが、そうなると高度が保てない」

 

 だが、海兵が言う通り最大の問題は、話を聞いてくれるかどうかだ。

 

「貴官らの懸念も分かる。自分も海賊がいきなりこんな事を言い出したら鼻で笑うだろう」

 

 とりあえず、それらしい証拠が必要だ。

 

「略奪品を貴官らの身に着けさせるのは心苦しいが、数名は服を交換してほしい。その制服と……そうだな、適当な紙に貴官ら全員にサインをしてもらって、それをとりあえずの証拠としよう。その上で……まぁ、あれだ」

 

 

 

「単独で潜入した命知らずの馬鹿な海賊の言葉なら、あるいは耳を傾けてくれるかもしれないだろう?」

 

 

 

「危険を冒すだけの価値はある」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「――海兵達は納得してくれたと思うか?」

「そう簡単には割り切れんだろう、キャプテン」

「まぁ、普通に考えたら自殺行為だからなぁ。ホロホロホロ」

 

 なんとか方針は決定できたが、何人かはまだ納得がいかないらしく泣いて抗議する海兵もいた。

 一応前にもやったんだけどなぁ、ペローナの時。

 

 ……あ、でもこれ失敗してんな。

 

「でもキャプテンさん、危ないのは本当だよ?」

「まぁ、それはそうなんだが……。大勢で押しかけるメリットがないし、隠れ続けるのはリスクが高まり続ける」

 

 オハラやロビン捜索の件で、今この海には後の本部大将が最低二人は来ている……ハズ。

 さすがに正義の狂犬サカズキ――今は中将だったか? はどう動くか想像は……いやなんか大噴火する姿は想像は付くんだけど、話に乗ってくれるかどうかが全く分からん。

 話に乗ったあと「じゃあ死ねい」とかもあり得る。

 

(理想を言えば青雉……クザンと会うのが一番なんだけどなぁ)

 

 こればっかりは行ってみなければ分からん。

 だかまぁ、仮に不味い状況になったとしても最悪逃げればいいだけの話。

 

――問題はその場合のその後である。

 

「ダズは海兵達と話をして、造船を請け負ってくれそうな会社や職人についての情報を聞き出してくれないか?」

「む? 確か船は東の……いや、そうか。戻る必要がなくなったのか」

 

 そう、東の海の置き土産である海楼石だが、その倍くらいの量を手に入れてしまった。

 これならそこそこの大きさの船でも、底部に専用の船倉を作って敷き詰めれば海軍の船と同じく凪の帯(カームベルト)を横断できる船になるだろう。

 

(出来ればジャンゴを確保してからにしたかったんだけど……こうなったら一度偉大なる航路(グランドライン)で勢力を伸ばしてからにしたほうがいいかもな)

 

 ロビンが能力を使って操船手伝ってくれるならちょっとした船でもやっていけるだろうし。

 

「あぁ、まだ船を作るのは先になるだろうが一応な」

「今回の一件にケリを付けてから――か」

「そうだ。……ここから先、戦闘が続く可能性もある。船やその装備の手入れをしっかりやっておくぞ。ペローナとロビンは――」

「ホロホロ、その手伝いをしながら船番だろう?」

「今あそこには換金品と海楼石があるから、万が一がないように……ですよね?」

「そうだ、退屈だろうが頼む。制圧に偵察、いざというときの船の操作と万能性ではお前らがずば抜けている」

 

 いやホント、グランドラインの前半のさらに前半くらいまでなら冗談抜きでペローナ一人でも大抵は制圧できるだろう。

 

 ロビンは戦闘面は教えてないけど、手がたくさんあるというだけで出来る事が無限にある。

 それに目と耳を使った諜報に口を使った連絡と、色々な場面での活躍が期待できる。

 

 うん、これ戦力面だけなら今すぐにでもグランドライン行けるな。

 

「例の大工組の海兵達が船室を改造してくれるって話だし構わねぇよ」

「木材が余ってたら、ちょっとした家具を作ってくれるって」

 

 お、おう。

 まぁあの海兵達にはロビンのことは口止めしてるし、あの様子だと喋りそうにはないけど気を付けるようにな?

 

 まぁ、全ては海兵達を裏世界から逃がし終わってからか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、海軍の基地に一人で忍び込むふざけた海賊がおるとはのぅ」

 

 そして五日後に出航し、それから更におおよそ半月の航海を経て到着した。

 

「あらまぁ、まだ小さいのに随分と度胸がある海賊じゃない。いくつだっけ?」

 

 途中港町で補給を数回しながら、おおよその海域に到達。

 

「14だ。14歳にして6500万ベリーの大物ルーキー、『抜き足』のクロ」

 

 海兵から預かった畳んだ海兵服を持って出発した――地区本部に。

 

 ねぇ、西の海(ウェストブルー)の地区本部だよ? 分かってる?

 マリンフォードにカチコミかけたわけじゃないんだよ?

 

「中将サカズキ殿、同じく中将クザン殿に……本部大将、センゴク殿とお見受けします」

 

 未来の海軍トップ勢達が雁首揃えて待機してるのってちょっとおかしくない?

 

「貴官らが正道を征かれる正しき海兵であると聞き、馳せ参じました。差し支えなければどうかしばし、お耳を拝借したく存じます」

 

 そりゃあクザンかサカズキのどっちかはいるかもしれないな程度は想定していたけど、センゴクさんまで勢ぞろいしてるのはちょっとひどいよね。人生が。

 

 ローンでいくらでも払うから、誰か俺の人生に難易度修正パッチ当ててくれない?

 

「海賊風情が生意気抜かすな、小僧――!」

 

 頭下げても駄目ですかそうですか。

 まぁ、後の赤犬はそうだよね!

 

「まぁまぁ、話くらい聞いてあげてもいいでしょうよ。丁寧に畳まれてるその海兵服も気になるし」

 

 出来れば話を聞いた後にちゃんと逃がしてくれませんかね。

 ……駄目?

 

「――いいだろう、話を聞いてやる『抜き足』のクロ。貴様は一体何の用事で、この地区本部の最深部まで潜入した?」

 

 

 サカズキさん、話を聞いてくれるってセンゴクさんが言ってるんだからガチの殺気飛ばすの勘弁してください。肌がビリビリして気を抜くと意識持っていかれそうなんです。

 

 助けて! 助けてクレメンス!!

 




油断してるとクザンの喋り方がアイスバーグになる病

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