とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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141:世界政府の『喉笛』

『天竜人、魚人島にて奴隷の回収を強行。現地国軍と同行を命令された海軍の交戦を確認』

 

 そんな目を疑うような情報が本部に流れて来たのは、つい先日の事であった。

 無論本部上層は荒れに荒れた。

 各地での天竜人の暴走の余波が余りに大きすぎる事による状況把握の困難さが、事態の悪化を加速させていたのだ。

 

 すぐに兵を送ろうとした矢先に起こった五老星直々の魚人島制圧、並びに王族の確保命令。

 

 先の作戦にて天竜人の殺害を幇助した容疑で拘束されていた大将青雉への出撃命令が出されたことで、元帥であるセンゴクやつる中将は歯噛みしながら推移を見守る事しか出来ない。

 

 そう思っていた矢先に、更なる続報が入る。

 

 『黒猫』ことキャプテン・クロ、リュウグウ王国軍に加勢。指揮を執り海軍と交戦。

 さらに一部の天竜人と和解し、停戦交渉をまとめようとした所、残る天竜人による強行命令が出され交戦続行。

 

 その結果、リュウグウ王国のほぼ全員が天竜人の一部と共に離脱。

 しかもその『黒猫』が『冥王』と繋がりを持っている事が判明し、『白ひげ』の部隊と行動を共にしているという事実が海軍上層部を打ちのめした。

 

「……もはや、どこのなにから手を付ければいいか……それすら分からん状況か」

 

 ただでさえ急速に老け込んでいたセンゴクの身体は、くわえて更に痩せ細っていた。

 

「クロ達への追撃は?」

「ハッ、すでに軍艦三隻を向けておりますが、なにせ新世界ですので航路の特定が極めて難しく……捜査は難航しております」

 

 状況を少しでも理解している者に報告をさせるが、分からない事の方が余りに多い。

 本来ならばあくまで情報を共有するためのオブザーバー止まりのハズの特別中将が、政府直属という肩書を盾に好き勝手にやった結果である。

 

(状況の悪化が重なったというのもあろう。天竜人の暴走とその情報の拡散。無茶をしてでもそれを止めようとしたか)

 

 その結果がこの最悪の現状である。

 天竜人の誘拐と言う、史上最悪の事態に動かせる軍艦がたったの三隻という時点でもはや異常なのだ。

 

―― ドンッ! ドンッ! ドンッ!

 

 もう幾度目になるかの乱暴なノックがされる。

 もはやセンゴクも聞き慣れた、悪い知らせが入った時の仕草だ。

 

「構わん、入れ。何が起こった」

「――ハッ!」

 

 入ってきた伝令の兵士が慌てて敬礼する。

 

「じ、G5支部から緊急連絡!」

 

「海賊『黒猫』! ならびに行方不明中のプルミング聖の連名で緊急通信を受け取ったとのことです!!」

 

「早くそれを言わんかぁ!!!!!」

「えぇっ!? す、すみません!!!!!」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「グララララララ!! 慌てて兵隊を引っ張り出して来たか、センゴクめ」

「通信してから十日も経っている辺りに、海軍の今の限界を感じてしまいますね」

 

 自分とプルミング聖で近くの基地に連絡を入れた三日後に、海軍はようやく到着した。

 魚人の協力もあってほぼ禿山ならぬ禿島と化した小さい方の島を占拠し、こちらと睨み合っている。

 

 最初はたった三隻だったが順次追加の部隊が到着し、現在小島の方を急いで簡単な砦にしようと大砲を並べている。

 もっとも、なんとかギリギリ戦闘が成り立つかどうかというレベルの数を揃えられたのが十日も経った今日なのだが。

 

 ……上手く行っているハズなんだけど大丈夫かな、チクショウ。

 

「しかし……改めて感謝いたします、エドワード・ニューゲート殿。食料の援助がなければこれだけの作戦行動は取れず、捕虜の交換という形で魚人を救い出すだけで精一杯だったでしょう」

「グララララ! 作戦を聞いた時はそんなこと(・・・・・)だけかと思ったが、よくよく聞いてみると中々に面白ぇ。気にするな、坊主。どうせリンリンの落とし物だ」

 

 マルコ曰く、昨日の時点で更に部隊が近づきつつあるらしいけどそれも二隻。

 天竜人を迎えるにはやや少なく感じる。

 

(とりあえずは視た可能性の範囲内だが……やはり、念のために長めに期間を取っておいてよかったな)

 

 合流した白ひげとの交渉はトントン拍子に話が進んだ。

 というか、元から乗り気だったようだ。

 マルコの仲介ほぼなしで作戦の決行が決まり、今に至る。

 

 むしろ、叶うならばこのまま魚人島に殴り込みたいとすら一部の幹部は言っていたのだが、マルコが言う通り兵士がかなり疲れている。

 

(……ひょっとしたらと思ったけど、魚人島の奪還はさすがに今は無理だ。それに、一応交渉時の条件に盛り込んでみるが……魚人側も今回の件を通して聖地の近くに住むリスクを思い知ったからなぁ)

 

 全員とは言わないが、一部の魚人や人魚達はえらく懐いてくれた。

 見覚えのあるアーロン海賊団の幹部とも酒を交わしたし、アーロンも妹のシャーリーと一緒に俺の指示に従って働いてくれている。

 最初に助けたリーリン達もだ。

 

 だが……。

 

「ネプチューン陛下、民の様子はいかがでしょうか?」

「うむ、無事に逃げ切れた事に安堵しておる様子じゃもん。念のためにジンベエ達兵士が護衛も兼ねて様子を見ているが、今の所は変わった様子はない」

「……仕事を任せたのが功を奏しましたかね?」

「おそらくそうじゃろう。……まったく、お主は海賊にしておくのが惜しい手腕じゃもん」

「恐れ入ります」

 

 向こう側が簡単な防衛陣を築いているように、こちらも万が一の迎撃用意を済ませている。

 本物そっくりに加工し、着色した大量の大砲モドキを本物を交えて並べた上でクロコダイルとギャルディーノの合作である防壁も設置済み。

 

 ここらへんの下準備やら材料の加工を魚人や黒猫に任せることで、多少なりとも人間と自然なつながりを持たせるのが狙いだったが、同時に作業があるという事で彼らを落ち着かせることも出来たようだ。

 

(とりあえずはなんとかなっているが……解除に時間のかかる時限爆弾と見るべきなのか、キツいな)

 

「……魚人、か。俺ぁ気にしねぇが、そっちからすりゃあそういうわけにもいかねぇか」

「うむ。不幸中の幸いであるが、先日の攻防戦でクロ殿の奮闘を見た者が多いおかげで多少は人への不信は減った所もある。だが……複雑な事には変わらんじゃもん」

 

 だろうなぁ。

 先日陛下がおっしゃっていた『人間無くして生活を維持できない種族』っていう事へのコンプレックスをどうにかしないと、ここら辺は解決しないだろう。

 

(正直、実態としては俺達人間も魚人の存在が必要だったんだが……。まぁ、この戦いで初めて分かったことだしなぁ)

 

「そういえば『黒猫』、砂の小僧はどうしている?」

「ハンコック率いる見せ札役の別動隊についています」

「ほう。てっきり隙を見て俺の首を狙うと思ったがな」

「……我慢する自信がないから外に出せと言われまして」

「グラララララ!!!!」

 

 いや、実際にそうなる未来はあったんよ。

 残念なことに成功している未来は視えた範囲には一つもなかったけど。

 

「あのやんちゃな鼻ったれが随分と殊勝になったもんだ」

「私としましては、あの『砂漠の王』が自分の下にいる事が今も信じられませんが……」

 

 話を聞けば予想通りだった。

 クロコダイルは古代兵器を求めてロビンを狙った結果、ミホークとクリス達によって捕縛。

 Mr.3ことギャルディーノはシキ一派の誘いに乗って南の海から運ばれ、そのまま各地の扇動役をしていた所でこちらに投降。

 

 そしてそのままギャルディーノはハンコックの補佐になり、クロコダイルは捕虜兼客将となっている。

 なんでや。

 

(ウチの海賊団、なんというか……ますます意味わかんねぇ事になってんな)

 

 今も白ひげの幹部達と酒盛りしている『冥王』とかその筆頭だろう。

 この間のアレからやたらと酒に誘うようになってきて、昨日も白ひげの連中と飲み比べになったが……ちくしょう、お前も頭ミホークか。

 とりあえず白ひげの連中は全員潰したがレイリーには勝てんかった……。

 

「グラララ。レイリーといい、それがお前の器なんだろう。……しかし、思ったよりも集まりが悪ぃな。こっちの目論見通りにはいかねぇんじゃねぇか?」

「……マルコ殿の偵察結果次第ですね。大艦隊が動いてくれれば、その編成次第で相手の現状や次の一手が見えて来るかと」

 

 これだけの兵力があって、かつ大戦力たる白ひげの幹部勢が白ひげを通してとはいえ俺の指揮に従ってくれているんだ。

 万が一にも失敗があってはならない。

 

 いざという時はそれこそセンゴクさんやガープさん相手に俺達が殿務める形になるだろうけど……。

 

(さすがに作戦の成否までは見通せなかったけど――)

 

 バサァ……ッという、翼が大気の壁をこじ開ける音が遠くから聞こえる。

 白ひげや幹部勢も気付いたのか、顔を上へと上げる。

 

 かくして、少し待っている間に蒼く燃える翼が見えて来た。

 

(ここまでは視切っているはず。つまり――)

 

―― オヤジ! 黒猫よい!

 

 鳥の姿から人に戻りながら、島へと到着する。

 その光景は間違いなく、向こう側に陣取る海軍も目視したことだろう。

 

「グラララ、戻ったか」

「マルコ、どうだった!?」

 

 ただ、通常不可能な広範囲の未来視かつその分岐点までの把握、演算なんて練習したことない以前に前例がない。

 確信があるにも関わらず、やや背筋に寒い物を感じていたが――

 

「大艦隊だ! かなりの数の船が楽園側に集まっている!!」

 

 

「そして、クロ! お前さんの予想通りだ!」

 

 

「そのほとんどは輸送船(・・・)だ!! 軍艦はほとんどねえ!!!」

 

 よし!!!

 それだよ! その報告を待っていた!!

 

 白ひげはニヤリと笑って、電伝虫に手を伸ばす。

 俺も同じくだ。

 ハンコック達別動隊に、これを伝えなければならない。

 すぐ側に備えられたソレに手を伸ばす。

 

「ハンコック」

『――主殿! ようやく動きがあったか!』

「ああ」

 

 

「フェイズ2クリア。繰り返す、フェイズ2クリア。作戦を次段階に進めてくれ」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

『まずは概要を説明する』

 

 遡る事二週間と少し。

 魚人島を脱出し、目を覚ました『黒猫』が海兵捕虜の声とハンコックの問いかけに対して、肯定をしたその時だ。

 

『言った通り、戦う必要はない。戦闘ではなく、交渉を武器として政府に致命打を与える』

『あ~、つまり……話し合いか?』

 

 不死鳥の問いに、だが黒猫は首を横に振る。

 

『いいえ。確かに捕虜の交換を名目とした民間魚人の解放は狙いますが、それはあくまで口実です。天竜人の解放も同じく』

 

 海賊姫ことハンコックが、各地の戦況を説明するのに使った地図を全員によく見える位置へと置き直し、

 

『作戦は極めてシンプル』

 

 ある一点を指し示す。

 

『我々が狙うのは――レッドポート(・・・・・・)

 

 聖地とほぼ同一の位置にある赤い港。

 先ほどまで行われていた戦況確認でも出て来た港を、真っ直ぐに『黒猫』は指し示している。

 

『交渉の機会を餌にレッドポート、並びにその周囲の国家により多くの海軍の部隊を牽引(・・)し、そこに釘付け(・・・)にする』

 

『――以上です』

 

『それだけで、世界政府は致命的な打撃を負う事になる』

 

 確信をもって黒猫が断言する。

 だが誰もが――この中でもっともクロに近いだろうハンコックやヒナでさえ納得していない。

 

『先ほども言いましたが、政府が魚人島を占領したのは大きな間違いだったのです』

『おかげで各海を越える全ての物流がレッドポートに集中した。クロ、貴方はそう言ったわね』

『そうだ。これまでの各海を繋ぐ物流網は、ハッキリいって魚人(・・)が魚人島を管理していたために存在できたルートあってのものだった』

 

 ペンを手に取ったクロが、軽くマルコに確認するかのような視線を送ると『不死鳥』が頷く。

 それを見たクロが聖地――すなわち赤い港があるポイントに赤い×を付ける。

 

『それがなくなり各国の疲弊は加速し、調達力は減退した。二度に渡る大規模徴収令に加えて天竜人による此度の略奪。近隣の国家も同じく疲弊している上に、周囲の環境次第では独立している国家も出ていて海賊も激増している。……その本質が本当に海賊か、あるいは偽装したものかはともかく』

 

 偉大なる航路(グランドライン)に比べて配置がハッキリしている四つの海の島々を、乱雑に丸に囲っていく。

 覗き込んでいた捕虜の海兵達やハンコックは、それが政府から離脱した国家である事に気が付く。

 情報収集を欠かしていなかったために、かなり正確に各海の状況をクロは把握していた。

 

『そうなれば政府は残る国家を安定させるために、ある程度資源が残っている国に物資の援助要請を出した上で、提出されたそれを各国に再分配せねばならない。つまり――』

『どうあれ、政府はレッドポートを使わないといけない。……そうかっ』

 

 ずっと黙って話を聞いていたクロコダイルが、くわえていた葉巻を落としかねない程に大きく口を開ける。

 

『海軍の本部は楽園側にある。新世界側で天竜人が絡む交渉を行えば、必ず海軍は新世界へ大部隊を派兵しなければならない。だが――』

 

 クロがハンコックの使っていたボードゲームの駒を借りて、楽園から新世界側に進めようとして赤い×の上で止める。

 

『大規模な新世界への派兵は確実に、ただでさえ滞留している物流に更なるダメージを与える。その事実は、なんとか残った加盟国が更なる不満を覚える事に恐怖している政府を更に追い詰める事になる。そして――』

 

 更に数個駒を掴み取って、赤い×の近くにある島のそれぞれに駒を置いていく。

 

『一刻も早く派兵したい海軍は、レッドポートの整理をしながら少しでも早くたどり着くために、おそらく本部よりも近い近隣の島へ一時駐留する事でしょう』

 

『駐留した海兵は、当然そこで生活をしなければならない。食料などは備蓄品でどうにかするかもしれないが、人はパンだけでは生活できない。兵士はなおさらだ。必ず街から何かしらの調達を行おうとする。無論、略奪ではなく売買という形で』

 

『街の人間はそれを歓迎するでしょう。海賊に対抗する軍が留まり、しかも金を稼げるのだから』

 

 

 

『…………最初(・・)は、ね』

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「いつまで居座るのかねぇ、海軍は」

 

 南の海のとある小さな国。

 レッドポートに最も近く、そこを通りかかる交易船を相手に商売をしてベリーを稼いでいる港町の小さな茶屋では、中年の男達が額にしわを寄せて話し合っていた。

 

「金払いこそいいけど、持っていくばかりでこっちの商品を減らすばかりで……」

「普段ならば他の商船が通る頃合いだけど、ここ最近はめっきり通らないからなぁ」

「この間なんて表通りのサミーさんと揉めてたぜ。金はあるんだから酒を出せってさ」

 

 男の一人は煙草――もはや残すは一箱となった貴重なその一本に火をつけて、一息つく。

 

「あれが海兵かと思うと、世界政府のお先が目に見えるようさ」

「お前らに売った分だけ俺達の酒も煙草も無くなるっていうのに」

「しかも日に日に態度が悪くなっていきやがる」

「この間なんか、馬小屋の井戸に勝手に手を付けていたぜ。水を買わせろってよぉ」

 

 海兵が求めるのは嗜好品だけではない。

 物資を喰い詰めているのか時折酒場や飯処に来ては肉を注文したり、酷い時には店の看板娘を侍らそうとすることも徐々に増えていた。

 

 本来ならばそんな事はしないのかもしれない。

 品行方正な、れっきとした海兵だったのかもしれない。

 

 だが、今この島にいる海兵達は確実に堕落を始めていた。

 それを止める事が出来ない指揮官も含めて。

 

「肉だってスッカラカンだ。こっちはもう農耕用の家畜しかいねぇってのに、ステーキは出せないか? だなんて……」

「ここ最近食料品は片っ端から値上がりしたってのを知らねぇのか、海兵様はよぉ」

「酒なら先月の船が大量に卸していったからまだまだあるが、それで酔った海兵が何をするか……」

「……お前らも、念のために娘や女房は隠しておけよ。若ぇのはなおさらだ」

 

 

「酒場の娘も最近は海兵を怖がって、風邪だと言って引っ込んでるからな」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「フェイズ2クリア、か」

「うむ、本格的に我ら別動隊の役割が大きくなる。ペローナは観測を。イッショウはいざという時の高速機動を頼む」

「ホロホロホロ! それこそアタシの専門だ、任せやがれ!」

「こちらも問題ありやせん。ただこの通り目が見えねぇもんでして、その時はどなたかに補助をお願いしてぇんですが……」

「であるな。……よし、キャザリー。其方がついてやれ」

「ああ。了解したよ、ハンコック君」

 

 総督からの知らせを受けて、黒猫の精鋭達が無駄のない動きで配置に着いて行く。

 それを見てクロコダイルは紫煙を燻らせ、再び電伝虫へと視線を送る。

 

―― 軍はとにかく消費する。どれだけ物資を持って行こうが、存外それが尽きるのは早いもの。

―― しかも混雑しているレッドポートの整理はそれだけで一仕事。いつ出撃できるか不明だ。

 

 電伝虫の向こう側には、これだけの策――シンプルながら、驚くほどの戦果を勝ち得るそれを用意してみせた海賊がいる。

 

―― そしてもし出撃出来れば、その先に待つのは白ひげとウチとのにらみ合い。

―― すぐさま出撃ならまだしも、中途半端な待機期間を設けられた海兵の士気は確実に下がる。

―― その時軍需物資の消費はともかく、駐留地での売買もまた確実に増える。

―― ……指揮官の手腕によっては、現地住民との摩擦も増えるかもな。

 

 クロコダイルにとって、もはや『黒猫』という海賊は好奇以上の対象となっていた。

 

(……ちっ。あの海兵狩りを従えるに足る海賊、か)

 

―― 最初は商売の活性化に喜んでも、軍は交易商ではない。武力を振るうために消費する組織だ。

―― 金があっても自分達の備蓄が明らかに目減りし続けていけば、さすがに国民も不安に思う。

―― しかもこの状況下では確実に物価が跳ね上がっている。消費する軍隊が側にいれば尚更。

 

(フェイズ2。すなわち海軍による消費が拡大し、世界政府の足元(・・)となった地域への物資輸送が始まった事の確認。……本格的な作戦はここからだな)

 

「クロコダイル! ないとは思うが万が一の時は牽制を頼むぞ! 貴様の能力はそういう時に便利じゃからな!」

「クハハ。ああ、分かっているさ」

 

 タキ率いる部隊は、会談の場となる島の整備に加えて天竜人の警護と世話役。

 クロ曰く、あるいは本当に天竜人の暗殺があり得るかもしれないとの事だ。

 あの海兵狩りが認める腕前の親衛隊、『銀の乙女』を始め精鋭を以て万全の体制を整えている。

 

 そして、『海賊姫』ボア・ハンコック率いる別動隊は――

 

「よし、フェイズ3に移行する! これよりG3基地方面へと進軍。連中と睨み合い、牽制に入る!」

 

 より確実に海軍へ、そして政府へ圧を加えるための役割を果たそうとしていた。

 

「こことG5を押さえれば、主殿達がより安全に場を整えられる。こちらからは手を出すでないぞ! 敵の出撃を押さえればそれでよい!!」

 

「正念場である! 各員、気を引き締めよ!」

 

 

(……見せてもらうぞ、黒猫。テメェの描いた絵図を)

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

(さて、いよいよフェイズ3か)

 

 まずは自分とプルミング聖の連名で声明を出し、強硬手段の可能性を減らした上で海軍の大規模出兵を早めるフェイズ1。

 

 防備を構えた島に大軍を結集させ、少数での攻略は不可能だと見せつけた上でより多くの海軍投入と、それに付加されるレッドポート近海の情勢不安を待つフェイズ2。

 

 そして今度は――

 

「兵士じゃなく物資を優先させたって事は、お前の予想通りレッドポート周りの島が穏やかじゃなくなったか」

「まず間違いなく。でなくては、明らかに新世界のここに兵士が足りていないにも関わらず各地への物資輸送を先に進める理由がありません」

 

 天竜人が絡んでいる以上どうしてもここを優先させなければならない。

 一瞬各地の戦線に送る分かとも思ったが、それだけの物資を送るには海上輸送の安全面を考えるとやはり兵士が足りない。

 

(兵の不平不満を抑えきれず、さらには住民との摩擦も増えて現場の指揮官が上に泣きついたって所だろうな)

 

 作戦通りとはいえ、現地の兵や民衆には悪い事をしたなぁ。

 

「にしても急すぎないか? 声明出してから十日そこらだぞ?」

「ですが魚人島の戦いから二週間と少し。そして物流の滞留はそれ以前から始まっていたのですから、早くから駐留していた部隊も多くあったと見るべきでしょう」

 

 五老星め、俺のメモに目を通したとは言っていたがその分析までしていなかったようだな。

 

 なんで俺が東の海にいる時に、海軍基地を擁する生産地や倉庫街ではなく、軍事的交易(・・)港に拘ったのかに辿り着かなかったか。

 

(物資がキチンと循環して、且つ船への積み込みや荷の保存などを含めた軍需物資の管理運用体制を整えておかないと、普通の街での部隊維持は難しいんだよ!)

 

 基地ならばそのための設備があるのは当然だけど、他の街ではそうはいかねぇんだよ!!

 そして民衆主体の『街』なら物資が減った時に双方の士気に影響するし、ある程度の循環性は確保しておかないとどうしようもなくなる。

 

 そしてそのための街づくりってのは最初から計算に入れておかないと絶対に無理が出るんだよ!

 特に後から手を入れるのが難しい港町では!!

 

 …………。

 

 まさに西の海で俺達がスッッッッゲェ苦労している事だからな!!!

 分かっていてもこんだけ苦労しているんだから、それがなければさもありなん!!!

 

「そして政府にとって、今海軍が駐留している島は生命線なのです。彼らは魚人島を奪い、だからこそ結果レッドポートの唯一性が跳ね上がった。つまり――」

 

 マジで最悪の選択だったとしか言えねぇ。

 恐らく、最初は天竜人の暴走から始まったんだろうが……。

 

「レッドポートは現在、むきだしの世界政府の喉笛(・・)となってしまったのです」

 

 色々書きこんでしまった地図に改めて目を通す。

 各海出身の海兵達から耳にした情報を元に、特にレッドポート周りの島々は調べ尽くした。

 

「新世界側はともかく、他の海は特に警戒が緩い。恐らくはレッドポートを通して海軍本部戦力が近い事もあったのでしょうが……」

「グラララ。確かに最近暴れはじめた新入り共も、魚人島前の所では大抵が大人しくなりやがったな」

「はい、本部戦力に加えて政府の船も出入りしますから……下手に暴れれば本部大将戦力の投入を招く……のですが」

 

 だからこそ、今の現状になって一気に政府は根元がグラついた。

 

「ここに来て海軍の信用失墜。天竜人の暴走による国の離反。もしこれがレッドポート周りで起これば、最悪聖地はあらゆる物資が断たれて日干しにされかねない」

「だから今回の天竜人絡みの交渉と並行して、そこらも尚更無視できなくなったわけか」

「ハイ。今現在、政府は改めて聖地への補給(・・)ルートの確保と再整備を要しているのです」

 

(どうも、ギリギリのギリギリまで気付いていなかったか、あるいは他のエラー因子に引っ張られていたっぽいけど)

 

 なにせ海軍すら離反してるんだ、聖地への輸送船が襲撃されるリスクは跳ね上がっている。

 今まではどれだけ物資が豊富だからと政府船を狙う馬鹿は中々いなかったが、ここからは政府船だからこそ(・・・・・)襲う連中が出て来る。

 

(その上で各地に戦線が伸びきったせいで、防衛網は却って穴だらけになった。ここに来て、貴方達が散々買ってくれた私と白ひげの共闘戦線。と、なれば――)

 

 

 

(さて。センゴクさん、おつるさん)

 

 

 

(久々の一局、よろしくお願いします)

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