とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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144:人の価値、時の価値

 色々あったものの、ようやく交渉のその日を迎える事に成功した。

 ハンコックはもちろん、白ひげ艦隊の補佐役として同行させていたアミス達親衛隊も全員戻ってきた。

 

 その間に世界経済新聞も今回の件を嗅ぎつけ新聞にしたことで、自分と白ひげの友好関係も大きく広がった。

 これで白ひげとの間に約束していた新世界での工作の布石は打てた。それはいい。

 

 で、アレコレ向こう側に顔を出して段取りを組んで、ようやく向こう側の交渉団……という形で元帥達を迎え入れたのだが――

 

「セン……ゴク……さん……?」

 

 聖地であったのが最後だ。

 だから――二か月と少しぶりの再会を、気まずいなりに喜ぶ気持ちはあったのだが……。

 

「久しいな、海賊」

 

 まるで別人だ。

 髪は以前よりも白くなって、くたびれている。

 

 なにより、海兵らしく鍛え上げていた筋肉質な身体が、驚くほどにやせ細っている。

 

 さすがに元が元だったのでガリガリとまではいかないが、それでも以前のセンゴクさんを知る身としては驚愕と言う他ない。

 

「どうした。要請したのはそちらであろう」

 

 心なしか声まで老いたように聞こえる。

 というより、少し枯れているようだ。

 

 視線にすら力がない。

 こちらの交渉団を一瞥するが、以前のような威厳がかなり薄れている。

 

 こちらに控えているのはネプチューン王とその護衛のジンベエ。

 黒猫からはハンコックとギャルディーノ、そしてアミス。他の親衛隊は会談場の警備を任せている。

 

 白ひげはこの会談そのものには関係ないという形を取っているが、一応事態の推移を見るという形でマルコを寄こしている。

 

 そして捕虜というか海兵側からは、Tボーン少佐にヒナとドールも呼んでいた。

 捕虜を粗末に扱っていない証として同行させた三人は、変わり果てた上官の姿に目を剥いている。

 

「……そう、ですね」

 

 そして向こう側から来ているのはセンゴクさんにおつるさん、サカズキさんにボルサリーノさん……気まずいな。

 

 後その後ろに……なんかこう、軍師というか孔明っぽい海兵が来ている。

 あれだ。資料でしか見ていなかったけど、聖地行きの切っ掛けになった労働力の徴収がなければクザンの補佐に来るはずだった、おつるさんのお弟子さん……だったかな。

 

 一度資料に目を通しているけど、直接話す機会も顔を合わせる機会もないままだったから色々とおぼろげなままだ。

 

 そして中将らしき人物が更に数名。センゴクさんの周りを固めている。

 

「ですが会談を行う前に、一つ確認させていただきたいことがあります」

 

 まずは魚人島の処遇や捕虜交換を取り決めて魚人の無事を確保するしかないんだが……。

 

「……なんだ。言ってみろ」

 

 その前に、どうしてもこれだけは確認しておかなければなるまい。

 

「――大将青雉の身辺に、いったい何があったのですか?」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「グラララ……。まさか本当に、海軍のトップと正式な会談を開く海賊がいるとはな」

「あれだけの腕っぷしと頭があるなら、全面対決でもどうにかしそうなものだが……随分と理知的な男だ」

 

 会談が始まろうとも、白ひげ海賊団のやる事は特にない。

 別にさぼっているというわけではなく、クロという海賊が提示した作戦がそもそもこうであった。

 

『ある程度の兵力を一か所に集めて、艦隊を率いる方に少しだけ働いてもらえば後は酒を飲んでいるだけで海軍の動きを封じられます』

 

 そう断言した『黒猫』の言う通り、ただ兵力を集めて言われた場所で(たむろ)しているだけで、面白いように海軍は弱体化していった。

 

 挙句、酒宴だけでは退屈だと暇つぶしがてらに『黒猫』の面々を腕試しして見れば、その誰もが強かった。

 さすがにただの兵士――元海兵だという兵士はピンキリであったが、親衛隊という準幹部連中はもはや新世界の中堅海賊団の船長クラスの強さは最低限備えている。

 中には隊長であるビスタやサッチに迫りつつある者すらいた事に、『黒猫』という存在をルーキーと侮っていた者達は一様にその意見をひっくり返した。

 

 そして――クロ。

 あの精鋭達が頭目と認める男が、弱いハズがなかった。

 

 幹部勢でも危うい場面を何度も作り出し、その上でなぜか奇襲を繰り返す『冥王』の攻撃すら捌いてみせる。

 

 その後本気でキレ散らかしながらの『冥王』とのほぼ実戦そのもののソレは、白ひげ達からすれば最上級の剣劇となって場を沸かせた。

 

 白ひげ本人もクロの事はかなり気に入ったようだ。

 酒、ときおり珍しく茶を酌み交わしながら、これまでの『黒猫』の活動の話――特に街の復興や発展に関する話を楽しんでいた。

 

「さて、問題はこの後だな」

 

 会談が行われている会談場――黒猫の面々が手早く立てていた、即席にしては立派な小屋を見て、二刀を扱う四番隊隊長――サッチが呟くと、大柄な男が酒瓶を両手に一本ずつ持って近づいてくる。

 

「海軍がこの後襲う可能性はないってあの小僧は言っていたが?」

「それは本当だろう。マルコが色々情報を持ち帰ってきたが、海軍はもう戦える状況じゃねぇ。問題はそっちじゃねえ」

 

 そして大柄な黒い髭を蓄えた男から酒瓶を一本奪うように受け取り、サッチはそれを呷る。

 

「あの坊主の言う通り、本当にこの後俺達『白ひげ』が有利になるように流れが動いたんだとしたら……」

「したら?」

「アイツらだけは、絶対に敵にしたくねぇな」

「違いねぇ」

 

 大柄な男は会談場の周りを固める、黒猫の精鋭に目を向ける。

 見目麗しく、高度な教育を受けていて、それでいてそれぞれが強者である極上の兵隊を。

 

 

「本当に、怖ぇ兵隊だぁ」

 

 

 

―― ゼハハハハハハハァ……。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「――以上が、事の顛末になる」

 

 ウチだけならともかくネプチューン王や、しかも白ひげの右腕であるマルコがいるため渋るかと思った提案だったが、思った以上にあっさり口を開いてくれた。

 

「……なんという……なんということじゃもん」

「おいおい……ひでぇ話だよい」

 

 天竜人による表敬訪問――という名目の実質強制徴収の中で、両親を連れていかれた子供が天竜人に石を投げつけた事に始まる大混乱。

 

 クザンのことだ。恐らく、一時の保護として凍らせたのだろうが脆くなっている事には変わりない。

 それを天竜人が射殺した事で事態が最悪の方向に動いた。

 

 民衆を守ろうとした兵、天竜人を守ろうとした兵、そして家族を守ろうとした民衆による三者三様による大混戦。

 最終的にはクザンが全てを凍らせて事態を止めたが、その時にはすでに天竜人二名が海兵に殺害され、一名が民衆の投石により負傷。

 

 連絡を受けてきた応援の海軍によって、クザンが天竜人への殺害幇助――はっきりいえば反逆容疑で拘束された所で世界中の混乱が拡散し……いわば特赦を受けた状態で戦場に送られていたらしい。

 

 他の兵士や残された民衆がどうなったかは……センゴクさんですら口籠る所を見ると、あまり考えたくないな。

 

「各地の状況は?」

「――っ。……それは本会談で話す事ではない」

 

 本当は、話したいのだろう。

 思わずといった様子で口を開きかけたが、慌てて閉ざした。そんな様子だ。

 

(……この状況下で、にも関わらず政府は動いている。……海軍よりも、私掠艦隊の方に重きを置いていると見るべきか)

 

 非加盟国の結束は思った以上に固くなりそうだ。

 となると、政府がまずどこに手を付けようとするかで今後の戦略が変わって来る。

 

(とはいえ、さすがに今のこの状況じゃあ探る事は出来んか)

 

 さて、まずは――

 

「海賊姫」

 

 ……ん?

 サカズキさん?

 

「なぜじゃあ」

 

「なぜ、貴様が泣いとるんじゃあ」

 

 横目でハンコックを見る。

 確かに、泣いていた。

 

 いや、泣いているというと過剰かもしれないが、確かに目尻に涙が小さく球を作り、そして壊れて頬に線を作っている。

 

「……すまぬ。会談の場において、不要な情を見せて進行を阻害したことを詫びる。本当にすまぬ。じゃが……」

 

「これでは……これでは誰も報われぬ。将も、兵も……民草も」

 

 ハンコックの言葉は、この場にいる全員の共通認識だろう。

 なんとか海賊と対峙する将校の威厳を保とうとしていたセンゴクさんや大将の二人も、軽く目を伏せてしまう。

 後ろに付いている中将達に至っては、ただでさえお通夜状態の空気が出棺されるレベルにまでなってしまっている。

 

「ハンコックちゃん。アンタと顔を合わせるのは初めてだけど……」

 

 重苦しい沈黙の中、内心で誰か口を開いてくれと祈っているとおつるさんが口を開く。

 センゴクさんほどではないが、より老いて見える彼女がしみじみと、

 

「アンタもまた、確かに『黒猫』なんだねぇ」

 

 ハンコックと直接交戦したという赤犬は身じろぎもしない。

 俺が蹴り飛ばしてしまったせいで所々に包帯を巻いたままのボルサリーノさんもだ。

 

「……元帥、そろそろ始めましょう。どうか、お掛けになってください」

 

 即席にしては良く出来ている椅子とテーブルに着くことを促すと、センゴクさんもゆっくりと椅子を引いていく。

 

 

 

 

 

 

「では……捕虜の返還はともかくとして、魚人島の返還は難しいと?」

「うむ、政府が頑なにソレを強調している」

「……こちらが用意した資料に示している通り、現在の各国の物資不足は魚人だからこそ運用できる海中の流通網が途絶えた事にも一因があります。その上で、でしょうか?」

 

 で、さっそく話し合いが一番の難題――すなわち魚人島の扱いになったわけだが……。

 

(分かっちゃいたけど難しいか。政府め、新世界を可能な限り封鎖するのが目的だったとは思うのだが、なんでそこまで拘りやがるんだ……)

 

「……お前達が用意した資料の価値は認める。現在の各地の混乱とも符合する所がある」

「西の海は冬こそ無事に抜けましたが、世界全体の規模で見ればこれから危機に陥る国家は数多くあるでしょう」

「…………」

「その上金獅子勢力の暗躍が続いている以上、一刻も早く魚人島を彼らの手に戻し物流網の補強をせねば、再び海賊連合事件のような混乱が起こってもおかしくありません」

 

 偉大なる航路(グランドライン)の冬島とかどうなってんだろうな。

 こればっかりは直接目にして確認しないと分からないけど、イメージ的には他の島より生産が難しそうだが……ドラム王国なんかは結構人口多そうな感じだったしなぁ。

 

「……仮に魚人島を解放、返還せよと言うのであれば、今回の事態を押さえられなかった王族の身柄を政府に引き渡してもらいたい」

「ふざけたことを抜かすな!」

 

 センゴクさんらしからぬ発言に怒声を挙げたのはジンベエだ。

 まぁ、当然だが――

 

「そもそもは天竜人が好き勝手をした結果ではないか!」

「だがそちらが逃亡奴隷を匿っていたという情報も入っている」

「それすら正当な理由があったわけではあるまい!! 勝手に捕らえて勝手に奴隷にされた者が多くいるが故に今の混乱が起こっているのではないか!? のう!!?」

 

 ……でも、なんでこのタイミングで王族の身柄を要求している?

 ネプチューン王は自分の身柄一つで事が収まるのであればとか確かに思っていそうだけど、そもそも連中の言葉にもはや正当性どころか信頼ガタ落ちだし乗る理由はない。

 ジンベエだって、もし陛下が頷きそうになったらそう言って止めるだろう。

 

 しかし……ここで王族?

 

(仮にネプチューン陛下が出頭した所でどうするつもりだ? 魚人の暴動が更に活発化してもおかしくない。そこまでして……)

 

 …………あぁ……あ?

 

 そう……いう……こと……か?

 

 長すぎるスパンで考えているのならば……。

 あり得なくもない……のか?

 情報発信元が裏切ったと言っても……それこそ数十年後までを通してトータルで考えると……。

 

「仮にも世界を治める者らの軍というなら――!」

「ジンベエ」

 

 さらに怒るジンベエを手で制する。

 俺も怒鳴られるかなと思ったが、どうやら自分でも興奮しすぎたと思ったらしい。

 少しためらい、海軍ではなく俺とネプチューン王に対して「すまぬ。場を弁えなんだ」と頭を下げる。

 いやいや、いいよ助かる。

 

 正直アーロンじゃなくジンベエを連れて来たのは、政府の蛮行にブチ切れて怒り狂う正規兵がいるんだぞっていう演出のためだから。

 

「少しネプチューン陛下と話をしたいため、一度席を外します。構いませんね?」

 

 あえて一度断定することで、あくまで会談の主導権がこちらにある事を強調する。

 

 おつるさんがピクリと眉を動かすが、センゴクさんの方をチラリと見て「行っておいで」と肯定する。

 センゴクさんは……「ああ」と小さく頷くだけだ。

 

 ……凄いな。

 こんな大事(おおごと)なのに不毛な会談、中々経験出来る事じゃねぇ。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「クロ、話とはなんじゃもん?」

「世界政府の狙いについてです」

 

 ネプチューンにとってこの少年海賊は、あるいは友人である白ひげを超える味方であるかもしれないと思う程の存在になっていた。

 白ひげの武力による頼もしさとは違う、どのような搦め手でもつかみ取り、それすら利用してみせようとするクロの知恵と舌は恐ろしいほどに頼もしかった。

 

(敵に回った時にどう立ち向かえばいいのか分からんという意味では白ひげ以上ではあるが……)

 

 白ひげが自分個人と友諠を結んでくれたのに対して、この海賊は魚人種族そのものを守るために戦ってくれた。

 その揺るぎのない事実が、あの頑迷であったアーロンを始め多くの魚人達の心を解きほぐしている。

 

「魚人の王族という存在を除いて、魚人を直接管理しようとしているんじゃもん?」

「いいえ、違います。さすがの世界政府もこの状況で魚人を御せるとは考えていません。彼らの狙いはふた……いえ、」

 

 事前にクロとネプチューンの周りからは人払いが命じられていた。

 ここにいるのは二人だけ。

 やや離れた所にクロが信頼する親衛隊の隊長が控えているが、声を潜めれば届くことはないだろう。

 隊長も意識して、何も聞かないようにしている。

 更に周りを固めている親衛隊も、細心の注意を現れかねない侵入者へと向けている。

 

「恐らくは、魚人の更なる暴走を望んでいるのです」

「!? 馬鹿な!?」

「今の混乱は間違いなく世界政府のせいですが、長引けば長引くほど人はより身近にある物に全てを擦り付けようとします」

 

 クロは手にした資料――海軍が魚人島を手放す理由になるやもしれぬとこの一月の間に作った魚人島を介した流通の存在と、その規模をまとめた物の原本をパラパラと振る。

 

「もし陛下が政府に出頭したら。あるいは陛下御自身やその周囲が激高し、人への憎悪を高ぶらせたのならば、魚人勢力が軽挙に出る可能性は高まります」

 

 その資料は、クロが推測した通り魚人島を通して楽園と新世界を行き来したい船の誘導や、あるいは自身で運搬していた者達がそれなりの数いたことを示していた。

 

「問題は政府の規模が縮小しつつある今、その軽挙の矛先が政府の船とは限らない事です」

「……独立した国家群」

「ただでさえ混乱している航路への被害が拡大し、そのほとんどが魚人となれば最悪人間と魚人の戦争になりかねません」

「馬鹿な! そのような事……は――」

 

 ない。

 とは到底言えなかった。

 まさしく海賊行為に手を染めていたアーロンのような者がいたし、此度の事で人間種族への憎悪を深めた者も多数いる事は想像に難くない。

 

「そもそも、そうした所で今の世界政府への不満は止まらぬ。意味がないんじゃもん」

「はい。今はありません。……今は」

 

 ここに来て、クロの言葉が濁り始めた。

 

「政府を我々の常識で考えるのは危険です。恐らくですが、政府は極めて長い視座で物事を捉えている。それゆえに足元で起こっている事を軽視――」

 

「いえ、どうとでもなると思っているのでしょう」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

(視点がこうも違うと読みづらいが……少なくとも現状に――少なくとも魚人に関しては危機感を覚えていないのは間違いない)

 

 どういう意図があったのかは分からないが、先日の侵入者の件がそれを物語っている。

 むしろ海軍の部隊展開の遅さを考えるに、反乱の方が気にかかっているのだろう。

 

「放置し、一度盤面を整えた後に人、物、情報の流れを封鎖し対処(・・)する。恐らくこれが世界政府の基本戦術です」

 

 おそらくはすでに、世界経済新聞に代わる直属の広報紙を作り始めているだろう。

 

 …………。

 

 むしろ、なんで今まで作ってなかったんだ??

 

「対処というのは……やはり……」

「少なくとも気持ちの良い結末ではないでしょう」

 

 タキ爺ちゃんも報われねぇ。

 フセ三等兵だけじゃなくてその父親がゴッドバレーの――つまり天竜人の無茶な略奪のお楽しみを守るために殉職したとか……。

 

「おそらく、魚人という分かりやすい別種族を悪役にすり替えていくための用意があると私は見ています。徐々に。ゆっくり。長い年月をかけて」

 

 天竜人自身がそれを証明している。

 融和を謳ってリュウグウ王国を加盟国にしてからかなりの年月が経っているのに、連中は魚扱いを止めていない。

 いずれ手にするつもりであったと考えるべきだろう。

 

「後年において政府の正当性を盛り返すためには絶対的な()が必要になります。海賊などもいますが、政府の敵にするのは少々規模が小さい。ですが、人ならざる種族(・・)なら……」

「む……ぅ……」

 

 それにそもそも魚人が決起したとしても、彼らには生存圏としても軍事的にも陸地の運用ノウハウが全くない。

 魚人が勢力を伸ばすには陸地の運用が必須であり、それには必ず人間の力が必要になる。

 

 これが戦略的に理性を持って行われるのならともかく、暴走の果てにそうなったのならば……。

 

(その果てにあるのは、原作本来の流れにあった『アーロンパーク』の量産だ)

 

 あれが世界中で広がったのならば、正しく人と魚人の戦争になる。

 狭い範囲で起こっても、政府がその情報をばら撒けば政府への不信に匹敵する『人類の危機』が煽られる。

 

 その時の状況や時期にもよるだろうが、政府が正当性を再び掲げる一助にはなり得る。

 

 そうして長い年月が経ってから、かつての責任を取ると言えば過去の話への清算になる。

 天上金なんかの恩赦なり適当な影武者の処刑なり、その頃には誤魔化せる札は揃っている事だろう。

 

(普通ならば労働力が大きく減りかねない大戦争を呼び込むなんて、政治的には絶対に避けるべきなんだが……)

 

 それでも、アイツらはやりかねん。

 800年もかけて戦争終わらせる事が出来ないってのが、どれだけ致命的な事態なのかに気付けないような奴らだ。

 

(そして……二つ目(・・・)の狙い……)

 

 で、問題はこっち。王族確保の一番(・・)の狙い

 恐らくこれが本命だろう。

 政府が王族を欲しがる最大の理由は恐らく――

 

(出来るならば、ポセイドン(・・・・・)の可能性を確保したいんだろうなぁ)

 

 政府がポセイドンという存在をどう捉えているか分からないが、海王類に兵器として『命令』が出来ると考えているのならば危うい。

 魚人との戦争になっても、いずれ状況を覆せる種を手にしていればいずれ(・・・)勝てると考えかねない。

 

(敵が本当に不老不死ならば、古代兵器に関しての知識もそれなりにあるハズ)

 

 実際にはあくまで会話するだけだから、言う程便利な物ではない気がするんだが……。

 

 ともあれ、絶対に王族を渡すわけにはいかない。

 ならば魚人島の平和的な奪還は……この会談ではとりあえず無理。

 

 元帥があの資料を持ち帰った時にワンチャンあるが、種族全体の責任者である王族の扱いで揉めるのは確実。

 

 フィッシャー・タイガー。

 彼が逃亡奴隷であり、それが魚人島にいたという事実もある。

 

 幸い魚人暴徒が天竜人を捕らえて立て籠もった件に関しては、それらを不問にするという宣誓書を書いてもらった上にサインもキチンともらっているが……。

 向こう側にいたあの天竜人達がどういう主張をしているのかを探らないとなぁ。

 

(まぁ、こりゃあ事前の予想通り――)

 

 

(奪還戦は避けられんか)

 

 

 西の海に戻ったら、本格的に偉大なる航路(グランドライン)入りの作戦を立てないとなぁ。

 

 すぐにではない。

 数年はかかるだろうが。

 

 また、乗り越えなきゃならない大戦が待ち構えていやがる。

 

 

 

 

 

 

 

 なんで海軍から逃げずに戦争の用意しなきゃいけないの???

 海賊なんだよ?? 普通は逃げるもんじゃん海賊だもん。

 

 たすけて、たすけてクレメンス……。

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