とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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146:標的は『海賊』

 世界政府――否、天竜人にとって、自分達に当てつけるような三本爪の猫の旗ほど忌々しい存在はなかった。

 

 三本爪とは天翔ける竜の輝き、その証に他ならない。

 

 断じて下界を駆け回る獣畜生風情のそれではない。

 

 あってはならない。

 

 ましてや、下々の者が竜より畜生の爪を有難がることなど。

 

「お……のれ……っ」

 

 だが、事実として三本爪の獣に世界政府は敗れ続けていた。

 政治力で上を行かれ、政府の表の顔でなければならない海軍をたらし込んで不穏分子を増やし続けている。

 

 だからこそ潰す事が決まったというのに、その旗に集う者を潰すことが叶わなかった。

 忌々しい黒猫はおろか、悪魔の子すら潰せなかった。

 

 そうして起こった魚人島事変。

 忍んで訪れていた天竜人の半数が魚人に捕らわれるという大事件の中に、またもや『黒猫』が現れた。

 魚人に加担して政府と敵対するならばともかく、報告が入ってきた時にはすでに天竜人すら抱き込んで停戦交渉に入っていた。

 

 この時政府が最も恐れたのは、ただでさえ手に負えない黒猫に『天竜人を救った』という、断じてあってはならない実績を積まれることだった。

 経緯はどうあれ、天竜人を救うのは海軍か、あるいは天竜人でなくてはならなかった。

 

 そのための特務。そのための潜入。

 ゆえに、男がその役に選ばれた。

 

 同胞を救うために。

 

 実際、容易い任務だと思っていた。

 

 敵は海賊なのだ。

 たとえ何かしらの取り決めがあろうと、下々の者との契約などどう扱おうが問題にならない。

 

 ならば自分が侵入し、顔を見せればそれで事は済む。

 見張りに手練れが要るだろうが、向こう側も無理に攻めて天竜人に手傷を負わせることは躊躇うだろうと。

 それゆえ、倒すのではなく連れての逃走ならば容易いと。

 

 そう確信を持っていた。

 

 が、その目論見は初手で崩れてしまった。

 

 恐れていた。

 海賊ではない。

 救う対象であった同胞が。

 

 顔を知らぬ訳がない、自分を見て酷く怯えていた。

 

 真っ先に叫んだのは誰であったか。

 女の声が響いた。

 

『クロ! クロはどこアマス!!?』

 

 助けを求める叫びだった。

 自分に向けてではない。

 よりにもよって、下賤にして下等な海賊に助けを求めていた。

 

 その事実が剣を握る腕から力を僅かに、だが確実に奪った。

 

 すぐさま貧相な扉を蹴り破り、『海龍』の二つ名を持つ海賊が斬りかかってきた。

 確かな覇気を纏った『海龍』の一撃を受け止めるが、すぐさまなぜか協力している海兵二人が襲い掛かって来る。

 一人は大剣、一人は長十手。

 片や熟練の、片や未熟な兵だが三人がかりともなれば手間であった。

 

 挙句その後に飛び込んで来た三人。

 

 黒猫の一味の中でも特に警戒されている一人、『銀の乙女』。

 黒猫にいるハズがなかった一人。あの忌々しき()で刃を交えた男、『冥王』。

 そして……他ならぬ下賤な海賊。

 なんとしても討ち取らねばならぬ下々民。

 

 キャプテン・クロ。

 

 何よりも男に打撃を与えたのは、その誰それの斬撃ではない。

 黒猫のその姿だ。

 

 下賤な海賊が、真っ先に天竜人を守るようにその背に庇っていた。

 

 助けるハズの同胞達が、自分よりも海賊のその背中に安堵を覚えていた。

 

 まだ幼い子供(・・)が、真っ先にクロの服を掴んでしがみ付いていた。

 討ち取るべき、奴隷になってしかるべき男を誰よりも信じていた。

 

 天竜人である自分よりも。

 

 その事実に打ちのめされている間に不覚を取り、男は深手を負いながら逃げるしかなかった。

 

 あの島以来の屈辱。

 あの島以来の恥辱。

 

「海賊……、風情が……っ!」

 

 神の騎士団に所属するその男は、久しく忘れていた負の感情の全てを一人の海賊(・・)へと注ぎ込んでいた。

 

「この屈辱……っ、決して忘れん!!」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 あの双子島を出航して半月。

 もうそろそろ最寄りの白ひげの縄張りに着く頃だ。

 

 白ひげの島で、軽く祝宴を行うと共に新世界側の動きを軽く確認しながら補給して出発。

 今度こそ西の海に帰還するという流れになる。

 

 まぁ、ついでに魚人関連のこれからに関して話し合いやら書類作成なんかが待っているが。

 

「クロ、少しいいか」

「ん? どうした、クロコダイル」

 

 クロコダイルも暴発せずに、特にウチの面子とはよくやっている。

 

 先日も船の中でスーペリア・リガロの島の測量データを元に正確な砂盤を作成して蝋で固めて、ハンコックやタキ、ヒナ、ギャルディーノと共に『もっとも効率的な陸上輸送路と補給基地の設置場所』というテーマで一日中仮想軍議を繰り広げていた。

 さりげなく記録を取っていたドールは偉い。よくやった。

 

「お前の策は大体理解した。バラバラに反乱が起こっていたが故にがら空き、かつ各国の輸送船ですし詰めになっていたレッドポートに圧をかけて政府勢力圏の経済・軍事両活動に打撃を与え、その余波を以て政府の勢力維持限界範囲を大きく下げる」

 

 うん、その通り。

 ついでに捕虜となっていた海兵達や、政府の命令で軍に入った挙句天竜人に撃たれたスキッパー特別中将という貴重な証人を海軍に直接渡せたのがデカい。

 このまま何があったか証言してくれて良し、その前に消されたり奪われたりしても海軍と政府の間のデカい火種になる。

 

 ……すでに燃えている所に放り込まれるのは火種じゃないな。

 なんていうのが的確だろうか。

 ダイナマイトは派手過ぎる。

 

 …………。

 木炭?

 

「その結果間違いなく海兵は命だけは助かり、だが海軍と政府は身動きが難しくなっただろう」

「ああ。多分部隊どころか、まだ所属している兵士の把握だけでエラい時間がかかるだろうな」

「……それは分かったんだが」

 

 ? 後なにかあったっけ?

 

「金獅子の牽制ってのはどうなったんだ?」

「ああ。それももう終わっているよ」

 

 そうか、そういえばその説明をしてなかったか。

 少し話をする気配を察したのか、ドールがコーヒーを淹れに立つ。

 いつも側に控えていたヒナは今、イッショウと見聞色の訓練中だからな。

 

 雑務を任せてすまん。

 でもやっぱり、それを請け負ってくれる人間がいるだけでかなり助かる。

 

「まず大切なのは、大規模な飛行能力を持っているシキが一歩先を行くのは避けられないという事だ」

「……あの盲目の奴も空は飛ばせるだろう」

「イッショウの能力は重力操作だから似た事は可能だが、効果範囲やその持続力など色々と厳しい。対して奴は浮かす事に特化している分、どうしてもな……」

 

 シキみたいに一度浮かせれば解除するまで飛ばし放題ってのがどれだけチートか。

 だからこそ聖地ですら堂々と襲撃できたわけだ。

 あの船の雨だけで聖地は致命的なダメージを受けた訳だしな。

 

「話を戻す。その上で奴を牽制するには、奴が勢力を伸ばしやすい条件を削るしかない」

「……条件……混乱か?」

「そうだな。それも一つ。海軍にすら状況がさっぱり分からない先日までの状況ならば、奴は容易く非加盟国や離反国に紛れ込む事が出来た」

「だが、それは今も変わらなくないか? 海軍の連中は碌に動けまい」

「それも正しい。シキがどこかの勢力に物資なり兵力を送り込むのを、海軍は現状指を咥えて見ているしかない」

 

 もっとも、それをやれば目撃情報も広がって目星が付けやすく――

 

(いや、海軍にも海賊にも奴を追い詰めるのは、少なくとも今は無理か)

 

 奴を確実に潰すには、今の所迎撃戦しかない。

 とはいえアイツの側にモリアがいるなら、まずそもそもの兵力がヤベェ事になっているしなぁ。

 

(金獅子のヤベェ所がコレだな。ただ敵になっているだけで、こちらの防衛戦略に相当な負担を掛けざるを得ない)

 

「……なら、金獅子は今の所フリーなのか」

「残念ながら。多分今頃、各地の兵士の死体なんかを回収しながら兵力を増産しているだろうな」

 

 ちょうどドールが淹れてきてくれたカップの一つをクロコダイルに差し出して、自分の分に口を付けて少し渇いた喉を潤す。

 

「――だが、それゆえの隙がある」

 

 強力な能力に頼った勢力拡大方法だからこその、絶対に避けて通れない隙が。

 

「隙?」

「ああ。金獅子は当然だけど、見つかれば最大戦力を向けられる。ぶっちゃけウチを狙うくらいならば全力で奴を探せと言いたいくらいに明確な脅威だからな」

「……実際、聖地を襲ったのは奴だった」

「その通り。奴は隠れながら大勢力を維持する事に専念した結果、今勢力を拡大させるには制約が多い」

 

 なんというか、クロコダイルってもっとこう……何かとあればクハハハと人を嘲笑うニヒリストに近い印象があったんだが、こうして同行するようになってからは意外と真面目な一面が強く見える。

 

「だから奴の理想は傀儡国家を作る事だったのだろうと推測している。非加盟国の後ろに隠れ潜みながら軍事力と物流の根幹を握り、徐々に徐々に勢力を広げさせながらその実権を握る」

「……そういえば、そう言っていたな。だが、それは今でも可能じゃないのか?」

「無論。それでも、その難易度は格段に高くなった」

 

 例の会談を終えて出航してから白ひげの面々とは何度も話しているが、その度に色々と土産をもらっている。

 宝物とか金じゃなくて、主に書籍だ。

 読書好きの船員が多く、そういった面子と特に仲が良くなったために色々とくれるのだ。

 特に誰それの旅行記のような、偉大なる航路(グランドライン)の島々の記録は助かる。

 おかげで今後の計画の助けになる。

 

「クロコダイル、現状をまとめるとどうなっている?」

「……海軍が退き、攻められていた国は立て直しと軍の増強のために周辺国と相互に繋がろうとしている」

「そうだ。海軍……は少し違うんだが、少なくとも政府が再び手を伸ばすだろうことは確信したハズ。幸いにも今回手が伸びなかった国家も、必ず対策を練ろうとする」

「だろうな」

「なら、クロコダイル」

 

 

「片方は近場に確かにいる、油断は出来ぬが取引可能な、国力をその目で確認できる国の王」

 

「もう片方は根無し草で、いつどこにいるか分からないけど物資や兵力だけは豊富な海賊」

 

 

 

「お前個人が武力を持たない王様だとして、果たしてどちらと結束を強める?」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

『こりゃ、思ったよりは好きに出来る国が少ねぇな』

 

 北の海。スパイダーマイルズ。

 言わずと知れたならず者たちのたまり場で――数か月前の頃より徐々に立派になりつつある廃酒場では、アフロの男が電伝虫から入る報告を受けて苦い顔をする。

 

『海軍の晒した醜態がデカい上に撤退が早かったおかげで、思ったよりもデカいまとまりが出来つつある』

「孤立した国家……はあまりないか」

『ゼロとは言わねぇがな』

「やはりそうか。当初の計算じゃあ、もうしばらくは海軍と非加盟国合わせて泥沼で踊ってくれると読んだんだが……」

『各国が急速に結びつきやがった。兵や食料で恩を売れても、こちらに全面的に頼らざるを得ないって状況までは――』

「いかねぇ、か」

『理由はなんだ? 空の上(ここ)からじゃあ把握が難しくてな』

 

 通信の相手、大海賊金獅子の言葉に祭り屋は渋い顔を――だが口元を楽しそうに歪めながら答える。

 

「黒猫だ」

 

 祭り屋はそう答えた瞬間、絶対にウケると確信していた。

 その一言で詳細をある程度察すると。

 

『ジハハハハハハ!!!! ああ、あの太鼓といい覇気といい! やっぱりアイツだったか!!』

 

 その読み通り、シキは大笑いしていた。

 あの聖地での戦い以降、それこそあの海賊王に匹敵する執着を見せていた。

 

「元々奴だと心当たりがあったのかい?」

『いいや。だがこの状況下では、世界政府すら面子に足を取られて海軍を泥沼に進ませるしかなかったんだ』

「そうだな。まぁ、そうなるように誘導したのはこっちだが」

 

 祭り屋ブエナ・フェスタは、戦火がもっとも広がるように噂をばら撒く事で海軍の侵攻ルートをある程度誘導していた。

 

―― あの非加盟国の下に海賊のアジトがある。

―― あの国は地形が険しい。屈強な奴隷が多く獲れる。

―― あそこの隣国は昨年が不作で民は飢えており、捕まえるなら容易い。

 

 天竜人の暴走が始まった時、各地で分断されつつあった部隊の実権を握ったのは政府から派遣された直属の特別中将だった。

 彼らにとって大事なのは天竜人の意向に沿う事。

 だからこそ、天竜人に逆らった国々の討伐には意気揚々と向かうと祭り屋は読んでいた。

 

 なるだけ短期間で噂が広がるように、時折金獅子の力も借りて海賊の目撃情報を実際に作り出したりして海軍の動きを後押ししていたのだ。

 前にではなく崖へと、だが。

 

『んな状況で海兵救うような動きをするとしたら、奴しかいねぇ。性格もそうだが、それだけの策を思いつくのも実行できるのも奴だけだろうな』

「アンタも気に入ったようだな」

『当然だ! 聖地の時から面白ぇ奴だと思っていたが、まさかレイリーが一緒にいるとはなぁ!』

 

 レイリーという男の名前に、祭り屋は更に笑いを深める。

 楽しそうで、嬉しそうで、そして何よりも攻撃的な笑みを。

 

「まぁ、しばらくは互いに好き勝手やるしかねぇな。アンタも、もう目を付けた国がいくつかあるんだろう?」

『ああ。俺の客人も今兵隊を増やしている所だ。直に奪うさ』

「ああ。それじゃ、お互いに用意が整うまで――」

 

 長くやり取りをすれば見つかる可能性が高まる。

 話す事を話して電伝虫による通話を切った祭り屋は、振り向いてソファーでくつろいでいる教え子に、

 

「というわけで、計画は少々遅延だ。戦力の補強に関しては別の手段を取った方が良さそうだな」

「なんなんだよお前は! 祭り屋だなんて呼ばれておいて計画はズレてばっかじゃねぇか!!」

 

 その報告に応えたのは教え子――ドフラミンゴではなく、その側に控えている異様に大柄でベタついた男だった。

 サングラスを付けたまま叫び散らかす男に『祭り屋』は、

 

「今の状況をなんにも分かってねぇ奴は黙っていろよ。三下」

 

 と言葉で斬り返した。

 これまで『祭り屋』の口から滅多に出なかった暴言が出て、ベトベトする男は一瞬怯んだ。

 

「分かってねぇ――ああ! 分かってねぇなぁ! おい!!」

 

 その怯んだ隙に祭り屋は椅子を蹴り倒し、まだ少し残っていた酒瓶を地面に叩きつけて叫び続ける。

 

「これだけの大暴走を制御したって事の意味が!! なんっっっっっにも分かってねえ!!」

 

「たとえ白ひげの後ろ盾があったとしても!! どうしようもねぇんだ! どうしようもなかったんだよ!! 普通は!!!!」

 

 狂ったように、いやまさしく狂人となって叫ぶ祭り屋の姿に圧される面々の中、ソファーに座ったままの若い男は笑っていた。

 

「ドフラミンゴ!!!!」

 

 祭り屋に弟子入りし、策謀を巡らすその男だけが不敵に笑い続けている。

 

「ドンキホーテ・ドフラミンゴ!!」

 

 その前に並べられた料理の数々を吹き飛ばしかねない勢いで、

 

「そうなんだな!?」

 

 一枚の手配書を叩きつける。

 

「コイツが! そうなんだな!!?」

 

 

―― フッフッフ……。

 

 

 その手配書を――新しく更新されたその手配書に、ドフラミンゴは静かに笑う。

 

「そうだ、祭り屋」

 

「そうだ、ブエナ・フェスタ」

 

 

 

「――これが、クロだ」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「と、まぁそういうわけだ」

 

 横で話を聞いていたドールが慌てて海軍の世界地図に目を走らせているが、無理だ。

 さすがに候補が多すぎて、金獅子がどこを下界……天竜人っぽくて響きが嫌だな。青海にするか。

 青海での拠点をどこに設けるかは不明だ。

 

(モリアというただでさえ強靭な兵隊を増産できる奴がいて、それを強化できる技術も持っている)

 

 となると、より『素材(死体)』が手に入りやすい場所に目を付けるハズ。

 聖地にいた頃でさえ戦争が多発していた北の海が真っ先に思いつくが……ん……。

 

(もはや本当にあの陰険チンピラドピンク腐れサングラスが関わっているのか怪しくなるほどに戦略的に事態を動かしている奴がいるからな……)

 

 関係ないのならばやはり北に。そうでないのならば拠点を別けた上で、海賊の流入などで激化しやすい『楽園』が怪しいとは思うんだが……。

 ここら辺はどうしようもない。

 やはり迎撃戦ありきで対策を考えるべきだ。

 

「シキも取引や援助は行うだろうが、その国の主導権を握る所まではいかない。まとまり始めた各連合体にとっての予備商人といった所が限界だろう」

「奴が脅しで潰すことはないか?」

「……例えば近隣に二か国しかなくて、片方を潰せば残された方が更にどうしようもなくなる……みたいな場所があれば分からんが、基本的に反世界政府国家を潰す事は政府への圧を減らすことになるから……」

「なる、ほど……な」

 

 クロコダイルは鉤爪を口元に当てながら、凄く考え込んでいる。

 ……シキの今後を予想している、とかかな。

 

「クロ」

「ああ」

「お前はこれから、どうするつもりだ? まずは西の海をまとめ上げるんだろうが」

 

 これからなぁ。

 クロコダイルの言う通り、確かに西の海はまとめ上げる必要がある。

 少なくとも三分の一。可能ならばその倍は押さえておきたい。

 

(完全に西の海を制圧するってのもありかなぁとは思うが……そうすると政府とのパイプが激減してしまう)

 

 重要度は駄々下がりしたとはいえ、だからと言って無視していいわけではない。

 動きを探るためにも、一応は残す必要がある。

 その候補も、あるにはあるが……。

 

「西の海は無視できない。少しは見たと思うけど、あの海域を発展させて落ち着かせることがそのまま『黒猫』の権威に繋がる」

「政府がここまで失態を見せた後では尚更か」

「ああ」

 

 多分、魚人島の一件が流れた辺りでこちらと繋がりを持とうと動いた国がいくつかはあるんじゃねぇかな。

 スーペリアという実例がある。

 恐らくあの新聞も配られている上で、政府の人間がどこまで情報を制御できるかにも掛かっているが、近隣の国は間違いなくスーペリアを調べようとするハズ。

 

(もしそうだった場合、応対するのはロビンとミホークか。親衛隊も誰かいるハズだし問題あるまい)

 

「で、その後なんだが……」

「クハハハ、そのまま聖地を攻めるか?」

「……選択肢の一つだな」

 

 クロコダイルは冗談のつもりだったんだろうが、十分候補に入る。

 打ち倒せなくとも襲撃して、奴隷の逃亡幇助、あるいは回収救助するというのは十分にアリだ。

 数年は碌に動けんだろうし……もし領土面積が目標に届いていたのならば……。

 

「黒猫」

「ああ」

 

「世界を、獲るつもりか?」

「ああ」

 

 クロコダイルも、その隣にいたドールも驚いている。

 この情勢でそんなに驚く事かな。

 

「もはや世界情勢の激動は避けられない。ここで小さく縮こまるという選択肢はない」

 

 特に、俺達みたいな海賊組織が小さくまとまっていれば潰されるだけだ。

 それこそ他国を食って組織の身体を大きくしていかねば呑まれる。

 

 理由がいささか不透明だが、世界政府の陰にいる存在にとって俺は相当に邪魔らしいしな。

 

「まぁ、正しく言うならば、世界政府と違う形で世界を統合する必要があると考えている」

「それは、支配という意味ではなく?」

 

 ドールの言葉に頷いて肯定する。

 

「そもそもこれだけの醜聞が流れた以上、強い実権を持つ者を軸とした国家連合という物に対して……こう、アレルギーが起きると思うんだ」

 

 数か国による連合ならばともかく、大規模な国家連合をやるのは現行政府も含めて恐らくどこも無理。

 ある程度真っ当な形で再設立するには、各国を納得させるだけの実績を持つ組織が必要だ。

 

「だがそれでも、この世界は海洋世界。安全保障もそうだが国を富ませていくには必ず他国――あるいは他連合体との協力が必要になる」

「……テメェん所のモプチのようにか」

「ああ。モプチはまさしく、他国がなければ発展出来なかった国だ」

 

 土地があるとはいえ他国からは遠く、しかも当時は軍事的に姑息な真似をしていたモグワ国が近海を好きなように押さえていた。

 今やってる工業力の底上げが成果を見せれば一気に状況は変わるんだが、それでもやはり市場という意味で他国が必要不可欠になる。

 

 農業一本でやっていくにはあの広さでは限界が早いだろうし。

 

「ともあれ、今俺達が作っている勢力圏のような形の連合体が各海でこれから出来上がっていく。反政府で纏まっている内はともかく、その後戦争になる可能性もまた極めて高い」

 

 最悪なのは、政府が弱まった所で政府を利用しようとする連合体が現れ、元通りになってしまう事だ。

 ある程度勢力図が形になる頃までに、組織の根を各海に張り巡らせる必要がある。

 

「それまでの間に、世界を主導……とまではいかなくとも調停・調整する者に足る規模の、法理とその実績を兼ね備えた組織を組み立てる事が俺の目標になる」

 

 まぁ、天竜人――の裏にいる奴とその手足である五老星らを排除した上で政府機構を乗っ取るのが理想だけど、さすがにそれには何もかもが足りていない。

 

 クロコダイルもドールも、一応は納得してくれたようで頷いている。

 うむ、ならば聞いておくか。

 

「逆に、聞いておこう。クロコダイル」

「ああ?」

「君はこれから、どうするつもりだ?」

 

 …………。

 

 クロコダイル君。

 

 なに?

 その意味ありげなクハハハ笑いは。

 

 ねぇ。

 ロビンの事があるから行先だけは把握しておきたいんだけど。

 

 …………。

 

 クロコダイル君?




ロビンが『悪魔の子』になっている理由は次回
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