とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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本当は昨日投稿するハズだったのですが、盛り込むシーンがごっそり抜けていた事に気が付いて加筆修正を加えて本日にズレ込んでしまいました

というわけで珍しい土曜日投稿!


147:『黒猫』のお仕事 in 新世界

―― ようし、野郎共上陸だ!

―― 勝利の宴だ! 海軍共め、俺達を前にして指咥えて見ているしかなかったぜ!!

 

―― 申し訳ありませんが、魚人の皆さんは三本爪の旗の方に集まってください!

―― 念のために皆さんの戸籍を作成したいので、そのための前準備へのご協力お願いします!!

 

―― 体調やご気分が優れない方は赤い十字の旗へどうぞ!

―― 白ひげの方々と共に緊急の救護施設を設営しますので!

 

 無事に白ひげの縄張りの島へと到着したが、すぐに受け入れが済むわけではない。

 なにしろ魚人の数が数なのだ。

 リュウグウ王国の文官とウチの人員でタッグを組んで、急いで亡命政府として最低限の機能を復活させるための事務仕事に入っている。

 

 まだウチのやり方に慣れていない元海兵組は、簡単な魚人の居住区作成だ。

 あくまで仮住まいなので相当粗末なものになるが、その事も含めてアーロンやジンベエ、ハックには難民への説明をお願いしている。

 逃げた矢先という事もあって当面の間摩擦はないだろうが、人間社会の中での生活体系の組み立ては双方にかなりのストレスがかかるのは避けられない。

 

(これに関しては白ひげ直々に『すまんが頼む』と頭を下げて頼まれたからなぁ)

 

 白ひげから頭を下げられただけでもアレなんだが、マルコからもお願いされてしまった。

 まぁ、それはいい。

 こちらとしても白ひげから頼まれて魚人難民に尽力したという形の方がいい。

 

 モプチで姫殿下に収穫を祝う祭事実施の御下命を頂いたのと同じだ。

 魚人島が白ひげの縄張りであり、そこに住む人間の救出に俺達が強く噛んでしまった以上、今度は白ひげ主導という形を取った方が外聞もいいだろう。

 

 白ひげ海賊団は傘下の海賊団が多い。

 つまり白ひげ勢力ではあるが一味ではない者達だ。

 あの頂上戦争ですら、甘言というか流言に乗って反乱起こす奴がいたんだ。

 可能な限り、付け入られるような隙は埋めていくべきだ。

 

「ビッグマムの食料補給艦、積み荷の整理はどうなっている?」

「ハッ。現在一番艦、並びに二番艦と仮称した補給艦を中心に整理を行い、残る一隻はもうじき指示された通り完全に空になるかと」

 

 アミスの答えは満足できるものだった。

 ビッグマムの持ってきた食料は本当に膨大だったが、同時にこっちは何百万と抱えているんだ。減るのも早い。

 

 幸いビッグマムがまだ能力で手を付けていなかったか、あるいは傘下の海賊の物だったのか喋るような事はなかったのでやりやすい。

 一隻に全部詰め込むのはさすがに不安だが、使えるのであれば資材として船も使いたい所であった。

 

(この状況では、釘はもちろん木材、(にかわ)(かす)すらも滅茶苦茶貴重だからな……)

 

「倉庫を空にしたら再点検。不備がなければすぐに解体作業に」

「ハッ。白ひげ側の人員にも、こちらの判断で協力要請を出してもよろしいでしょうか」

「3番隊隊長のジョズ殿が受け口になると先の会議で決定している。多少調整はあるだろうがすぐに借りれるハズだ。その上で問題が出たら自分かハンコックに通達を」

「了解」

 

 キレよく敬礼をして、アミスと他の親衛隊が回れ右をして駆け足で船を着けた浜の方へと駆けていく。

 

(船そのものを居住地として使えればよかったんだが……本当に輸送艦――いや、倉庫艦だったからなぁ……衛生面の問題もあるし、仕方ないか)

 

「ハンコック、臨時居住区はどうだ?」

「やはり資材が足りぬ。白ひげから許可を得て向かいの森を伐採してよいとは言われたが……現地住民にとってあの森にどういった価値を持って居るのか確信が持てぬ故、少し手間暇をかけておる」

「ヒアリングか?」

「うむ。タキ翁がおらぬのはそのためよ。住民と言葉を交わしてここでの生活を把握しながら調達しておる」

 

 ……そうだな。

 あくまで外様の身なんだ。念には念を置いて損は――あるけど必要経費だな!!

 

「わかった。ただし、その後の作業を少しでも円滑にするように、資材置き場とそれを結ぶ道の縄張りを――」

 

「クロ!!」

「総督!」

 

 指示を出していると、ヒナとドールが護衛の兵士と共に戻ってきた。

 布の調達を任せていたけど……トラブルか?

 なんか紙を持っているけど。

 

「アナタの手配書が更新されているわ! 他の幹部達も!」

 

 あぁ、なるほど。

 

「ワッハハハハハ! やはり値が上がったか!」

 

 レイリー、テメェこの野郎。

 確かに客将というより客人だが本当に楽しそうだなコンチクショウ。

 ずっと仕事してる俺の側で笑いながら酒飲みやがって貴様ぁ……。

 あと、せっかく作ったツマミなんだから少しくらいは味わって食いやがれ。

 

 にしても、マジでここにミホークいなくて良かった。

 この雰囲気俺知ってる。めちゃくちゃ良く知ってる。

 普通に歩いていたら突然気まぐれで全方位斬撃×2を撃たれて、潜り抜けた所に城壁切り裂くレベルの斬撃三連が飛んでくる奴だ。

 

「ハンコック、まぁそういうわけだ。ギャルディーノとクロコダイルがいればそう苦労はしないと思うが頼むぞ」

「うむ。いざという時はミアキスを遣いに出す」

 

 やはり気にかかるのか、ヒナ達が持ってきた紙束にチラリと目を落とすが、今は一刻が惜しい事を理解しているハンコックは、アミス同様敬礼して素早く駆け足で去っていく。見習え冥王。

 

 イッショウだって能力使って重い資材の運搬手伝っているんだぞ。

 

「で、どれくらい上がった?」

「幹部勢や親衛隊がかなり……でも」

「総督はそれほど上がってないよ」

 

 おろ??

 トップの俺が??

 

(……政府が上げろって命令して、海軍がそれに反発したとか……かな)

 

 あの直後に暗殺でもされていない限りスキッパー中将からは最初の交渉のやり取りを、ケムリンやTボーンからは二回目の交渉とその結果の処刑劇、そして督戦隊の話を聞いたハズ。

 

(海軍が立ち上がってくれればとも思うんだが……海軍には厄介な()があるからなぁ)

 

 下手に動くと、本部はともかく他支部の兵士がすり潰されかねん。

 決起するにはまだ早いか。

 

「まぁ、今更いくら上がっても誤差か。俺、いくらになった?」

「29億9626万2000ベリー」

「端数がひどすぎねぇか!!!!?」

 

 そこまで行くなら30億でいいだろ!!

 

 …………。

 

 あぁ、いや、30億を超えさせない事が海軍としてのメッセージか。

 俺に、というよりは政府への。

 

「まぁいいや。他には?」

「こんな感じだよ」

 

 そういってドールが手渡してくれた手配書の数々は――

 

『鋼刃』ダズ・ボーネス 三億ベリー

 

『ゴーストプリンセス』ペローナ 一億三千万ベリー

 

『悪魔の子』ニコ・ロビン 一億二千万ベリー

 

『王佐の剣』アミス 二億四千万ベリー

 

『死の教師』ジュラキュール・ミホーク 四億ベリー

 

『海賊姫』ボア・ハンコック 四億二千万ベリー

 

『闇金』ギャルディーノ 五千万ベリー

 

『灰の将』タキ 一億七千万ベリー

 

『砂漠の王』クロコダイル 二億ベリー

 

『白杖』イッショウ 七千万ベリー

 

(……なるほど、全体的に上がっているけど、魚人島攻防戦に参加した面々は特に上がっているな。三千万だったペローナが僅差とはいえロビンを超えるとは)

 

 親衛隊はアミスとクリス、ミアキス、キャザリーが二億越え。

 それ以外で魚人島攻防戦に参加していた奴らが大体一億後半。そうでないのは前半、と。

 

 第一艦隊で鍛えられた一部の精鋭兵士にも少額ながら賞金が懸けられているな。

 

 …………。

 

 今のウチの海賊団のトータルバウンティ、一体どうなってんの??

 新世界の海賊団並なんじゃない、コレ?

 いや確かに俺達今新世界にいるけども……。

 それでも暴れた兵力は三分の一以下だぞ。

 

 ……あとついでに、サラッとイッショウが手配されてやがる。

 クロコダイルもウチの団に参加するって言うし、イッショウもこのままウチに入ってくれねぇかな。

 今後の予定を聞いても、とりあえずは西の海――モプチを見てみたいというだけでそれ以降は決まってないからな。

 

「というか、まずここに突っ込むところだったんだが……」

「何に?」

「おめーだよ!!」

 

 

『黒姫』ヒナ 七千万ベリー

 

 

「なんでお前がアッサリ賞金首になってんだよ! 一応スパイだろうが! まだ海軍だろうが!」

「スパイが堂々とスパイだって触れ回るわけにもいかないから仕方ないじゃない」

「どの口で言ってんだテメェ!!?」

 

 確かに今は着替えてウチの兵士っぽいスーツ着ているけど、お前海兵服キチンと保管しているだろうが!!

 

「まぁ、一応特別大将の特務という形は取っていても傍からみれば海賊さ。アタシもいずれ、タキさんみたいに賞金が付くだろうね」

 

 ドール――道中身の回りの事を任せながら、ハックから覇気の基本と格闘の訓練をしている女性海兵も肩をすくめている。

 

 えぇ……それでいいのか……。

 まぁ、いずれ海軍は独立させるか吸収――最悪孤立させて盤面から一時退いてもらうつもりだから別にいいっちゃいいんだが。

 

(しかし、ハンコックの妹達にも賞金が付けられたか)

 

 西の海に残っているソニアが二千万、今回の遠征に同行してハンコックの副官を務めたマリーが二千五百万。

 

 本格的に政府がこちらを敵視しているのはもう分かっていた事だが、同時に俺達の脅威度も跳ね上がっているんだろう。

 

 ほぼほぼ自爆というか、800年間の間足場固めをサボっていた結果というかアレなんだけど。

 

(ま、テゾーロにまだ懸賞金が付いていないのは良かった。最悪偉大なる航路(グランドライン)入り、出来れば魚人島奪還戦前後くらいまではアイツとステラの存在は隠し通しておきた…………ん?)

 

 受け取った紙の最後――俺の手配書を受け取ったが、金額以外にも変化があった。

 二つ名の部分が短くなっていた。

 

 懸賞金、29億9626万2000ベリー。

 

『神敵』

 

 

 …………。

 

 しん……何……?

 

 

 

 

 

『神敵』キャプテン・クロ

 

 

 

 

 

 

 

 ?

 

 ???

 

 …………。

 

 ????????????

 

 

 

 

「ワハハハハハハ!! 神の敵と来たか!!! ハハハハハハハハ!!」

「笑ってる場合じゃねぇんだよシバきまわすぞコノヤロウっ!!!?」

 

 神敵!? 神敵ってなに!?

 神様の敵ってアレか、お前らが神様って言いてぇのか冗談はアホみてぇな金魚鉢だけにしろ!!

 

「どれ、白ひげの所に行って見せて来るか。奴の事だ、大笑いして今晩も宴になるぞ」

 

 タダ酒にありつきてぇだけだろうが! テメェの腹は読めてんだよ!!

 分かってるのか、宴の度に俺が腱鞘炎になるレベルで包丁と鍋振ることになるんだぞ!!?

 場合によってはシェイカーとバースプーンも!!

 

 ちくしょう、天竜人向けの手の込んだヤツも含めてレシピがそろそろ一巡しそうだ。

 ヒナ、後で案出せ!!

 

 魚人達のガス抜きも兼ねた宴会云々もそうだが、白ひげともやり取りしなくちゃならねぇ事が山積みだなチクショウ!!

 

 あ、だめだ、ちょっと足がフラついた。

 エナドリ……なんてねぇし……。

 ヒナ、ちょっと紅茶淹れてくれ。

 ドール、悪いけどハチミツの用意頼む。たっぷりと。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「と、いうわけで連日急ぎの仕事と宴の繰り返しで時間が取れなかった。生存報告はともかく本格的な会議が遅れて悪かったな、ダズ」

 

 とりあえず、バラック小屋ではあるが最低限の住居を確保した上で宴会と腕試しを繰り返しながら、どうにか魚人達の生活に安定の兆し――の、とっかかりくらいは掴めた。

 

 そこでようやく、西の海へと連絡を取る事が出来た。

 一応魚人島脱出直後にハンコックが無事だけは一度知らせておいてくれたんだが……。

 

『仕方あるまい。こちらもそうだが、魚人難民の数が数だからな』

「トータルで何人だ?」

『現在六千強だな。人魚が思わぬ稼ぎ頭となったために、食料面以外の問題はかなり軽減されている』

「逆に言えば、食料がやはり問題か」

『とはいえそちらほどではない。数百万の魚人を連れての退避だったのだろう?』

「? すでに話していたかな?」

世経(新聞)でな。キャプテンが天竜人を救助し、送り返した事も記事になっている。……魚人や海兵達の事も書かれていたのでな。完全に信じる事は出来んが、ある程度の流れはこちらでも把握していた』

 

 情報が出まわるの早過ぎるだろ。

 あの鳥の部下が魚人島にいたのか?

 

 ……いや、海軍や政府の人間がリークしたと考える方がまだ自然か。

 それはそれで、世界政府の統率力がどこまで低下したのかという証明になってしまうので胃と頭が痛いのだが。

 

「さっそく情報を交換しよう。まず、西の海はどうなっている?」

『スーペリアを始め、天竜人が訪れた国で何が起こったのかという情報を新聞が伝えた結果、多くの国が疑心暗鬼に陥っている』

「海賊の増加か?」

『……他の海域ではそうらしいが、我々の勢力圏近くでは起こっていない。……ただ……』

 

 ただ?

 

『難破船の発見報告が増えている。かなりの数だ』

「難民か?」

『ああ。……いや、正確には難民だった存在だ』

 

「興味本位だよい」と同席しているマルコの顔が、悲し気に歪む。

 イッショウもだ。

 

「……亡くなっていたか」

 

 餓死……だろうなぁ。

 海洋世界とはいえ――いや、海洋世界だからこそ島の外に出ようとする人間がそもそも少ない。

 

 それが碌な知識も用意もないまま外洋に出れば……。

 

『船がそもそも、どれも海を渡れるものではなかった。地元の漁船として使われていたのだろう小舟やガレー船もどきばかりだ』

 

 外洋の大波が入ればすぐさま沈む小舟はもちろん、ガレー船のようないわゆる『手漕ぎ』が動力の船では波が荒くなればなるほどコントロールを容易く失う。

 波の高低によって、進むための人力を動力として伝えるオールが海面にすら届かない事が多々あるのだ。

 

 島廻りの陸地に近い海域ならばともかく、島から離れれば離れるほど危険だ。

 

(島を捨てると言う事は、そこでは生きていけないということ……つまり)

 

「西の海も相当荒れているようだな。あるいは政府が徴収に走ったかもしれん」

『だが、海軍に動きは見られない。新設されたという私掠艦隊もだ』

「西の海には工作員が多く集められていた。多分、そいつらはスーペリアの騒動の後も撤収してなかったんだろう」

『……例の事件で天竜人が食糧庫を奪われた事は新聞でも広まっていた。その焦りか?』

「多分な」

 

 さて、こっからどうなるかな。

 俺が聖地にいる間は、大規模な反政府組織がなかったために影響力は最小に出来るだろうと仕事を頑張っていたわけだが……。

 

「ここまで表が荒れれば、裏の影響も酷いハズだ。ベッジ、そっちはどうなっている?」

『お前が西の海を発つ前に言っていた通り、混乱に乗じたブラックマーケットが拡大している。裏を相手にする大規模な取引じゃなくて――』

「……食うに困る民衆相手の闇市か」

『元よりそういう部分もあったが、お前の縄張り以外ではもはやマフィアの助けなしには生活が立ちいかなくなっている。ただ……』

 

 恐らく葉巻での一服を挟んだのだろう。

 少しだけ間が空いて、ベッジが続ける。

 

『ただ、マフィアも正直やせ我慢だ。どこも物資がなく、食い物なり薬なり奴隷なりを売って稼いでも金の使い処がねぇ。仕入れも含めてな』

「……となると、ウチにちょっかいかけてないか?」

 

 ウチの勢力圏は、恐らく各国に比べると相当安定している方だろう。

 特に食料面は、こっちもギリギリとはいえ少しは余裕がある。

 民の生活基盤など計算に入れないただの略奪者からすれば宝の山に見えるだろう。

 

『えっとね、キャネットの方に海賊みたいな船が一度たくさん来たけど、常駐していた親衛隊の皆がビグルさん達と一緒に全部沈めたから被害は出てないよ。それ以降は怪しい船も来てないし』

 

 今度はロビンが答えてくれる。

 ……ホント、考古学者なのに内政官みたいな事させてスマンな。

 でも助かっている。

 武力面でも兵力でも申し分ない一団になっているからこそ、勢力圏を成長・維持させられる人間がマジで貴重。

 

「……正直、毎日海賊が来てもおかしくないと思っていたんだが」

『むしろ、最初にダズさんが言った難破船の方が数多いかも。……近くの国はこっちで海域を安定させているのもあって比較的落ち着いているけど……』

 

 こちらの哨戒範囲内の海域にある国家か。

 将来の市場になり得るから、育てる意味やこちらのプロパガンダも兼ねて哨戒を広げるとは聞いていたな。

 

 ……しかしそうなると、五大ファミリーも相当やせ我慢しているな。

 仮に暴発した所で対処は可能だが……厄介だな。

 

『多分、こっちの勢力圏から少し離れている国や村の人たちが、無茶な横断をしてこっちに来ようとしてそのまま……』

『そうだな。今俺達がいるスーペリアでも、三日に一度は難破船の遺体を焼いて埋葬している。こちらの政務日誌にも記録しているが、ロビンの提案で慰霊碑を建てた。鎮魂の式典も並行して開いたが、お前が戻った際に改めて開いた方がいいだろうな』

 

 ミホークが後を続けるが……マジか、そんなレベルなのか。

 ロビンがわざわざ慰霊碑建てようとか言い出すって事は、最低でも三桁くらいは死者がいるって事だろう?

 

 いや、ダズが大量と言っているし、下手したら四桁に届きかねないくらいか?

 

 うおわぁ……。

 後々の市場になることを期待していた国がどうなってんのか……考えたくねぇ……。

 

「そこまでか」

『我々の活動が認められつつあるという証でもあるのが、またなんともな……。何が起こったかまでは分からぬが、西の海の少なくない民が庇護者として三本爪の旗を求めている』

「まさか国家――王家もか?」

『すでに接触してきている』

 

 ……黒猫としては悪くない。

 政府よりも強い正当性を打ち立てたのであれば、後の戦争でより強くこちらの大義名分が補強できる。

 

 悪くないんだが……。

 

 ちょいと早過ぎない?

 

『ああ。キャプテン、その事なんだが』

「おう」

『国名は伏せるが、みかじめ料を払う上で娘を差し出すので国土に旗を立ててくれと要望を出して来る国が結構出ている』

「俺は海賊か!!!!???」

『海賊だ』

「……そうだった。俺、海賊だったわ」

 

 やっべぇちょっとド忘れしてた。

 ヒナ、今の脛への一撃はなんだ。

 

(にしても、娘ってお姫様かぁ……)

 

 扱いに困る。どうすんべか……。

 

「あ~~~……数は言わなくていい。とにかくたくさん来てるんだな?」

『ああ』

 

 みかじめ料の方は正直助かる。

 資金にせよ食料、物資にせよ定期的な収入があれば、その国も含めて開発する速度が跳ね上がる。

 防衛力も増やせるならばより海域が安定し、生産や商取引の活発化にも繋がるだろう。

 

(問題は人質か。……こっちが海賊――強力な独立武装勢力というのもあって少しでも繋がりを持つためだろうが……なら、断るのは相手を不安にさせるか?)

 

 正直、娘とかより土地を差し出しますの方がありがたかったなチクショウ。

 

「とりあえずは俺が戻るまで保留。もし受け入れる事があっても、その時は決して粗末には扱わないと伝えておいてくれ」

 

 ……あ、土地で思い出した。

 

「そうだ、ダズ」

『なんだ?』

なるはや(・・・・)で特別艦隊を編成、出撃させて欲しい」

『攻撃か?』

「場合によっては。敵兵士がいたとしても、可能ならば制圧してほしい」

『……このタイミングで言うという事は、政府関係の島か』

 

 おう。

 

「そうだ、可能ならばオハラをウチで押さえておきたい」

『? オハラ? ロビンの故郷の?』

 

 ロビンの声がぼそりと混じる。

 

「手配書が更新されているのは見たな?」

『ああ、キャプテンは妙な額になっていたな』

「海軍の意思表示って奴だ。気にしなくていい。それよりも気になるのは二つ名だ」

『……神敵』

「あぁ、うん。それに関しては滅茶苦茶政府に物申したいが……もう一つの方だ」

 

 ニコ・ロビン

 手配当初から『オハラの悪魔』と呼ばれていた彼女の名前が更新されていた。

 

『悪魔の子』ニコ・ロビン、と。

 

「この情勢下で、わざわざあの二つ名を変更したのが少し気にかかってな」

『つまり……どういう意味だ?』

「政府は、オハラという名前を消したがっているのかもしれん」

 

 俺の『神敵』という絶許空気もそうだが、個人的にはこっちの方が引っ掛かった。

 

「五老星の一人ウォーキュリー聖と会談した際に、オハラの知識の今後が話題に上がったことがある」

 

 原作でも確かにロビンはそう呼ばれてたから不思議ではない。

 だが、彼女を有する黒猫がより強く注目を浴びるこのタイミングというのは――

 

「あるいは何者かが、オハラが研究していたという建前としてでっち上げた古代兵器の知識を求めて動き出すのではないかとな」

『……あの地にそういう動きがあったから、少しでも存在を隠すために二つ名の更新を?』

「わからん。気のせいならばそれでいい」

 

 ただ、ゴールド・ロジャーの名前のようにわざわざ時間をかけてDを消したりと、そういう印象操作を政府は好む。

 

 ならば恐らく……。

 

(なんらかの痕跡か何かを見つけて焦った……って所か)

 

「ただ、政府としても一度消した土地に関わっている余裕はこの混乱でなくなった。押さえるなら今が絶好の機会だ」

 

 確か湖だかに本が沈められていたんだったな。

 有益な物もあるだろうし出来ればそれも回収。

 政府か何者かに回収されていたとしても、あの地を今新聞でかなり正確な情報が流れている『黒猫』が兵を出して押さえる事には大きな意義がある。

 

「まぁ、無茶しろとは言わん。さすがに必須目標というわけではない。その艦隊にはついでに頼みたい事があるんだが、青いファイルの三番、確か12ページくらいだったかそれを見ればわかる」

 

 

「さて、それじゃあそろそろ一番の本題。現在の内政状況について、各担当は報告してくれ。軍に関しては戻るまで現場に任せる」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

(こりゃオヤジが気に掛けるハズだよい。オヤジからしてみても、喉から手が出る程欲しい男だよ)

 

 クロという男は見た。だから次は黒猫を見て来い。

 それがマルコの受け取った、自分達のオヤジであり頭である白ひげの命令だった。

 

 

 

『――というわけで、穀物に関しては目標面積の三割増しの開墾が完了している。問題なのは馬を始めとする家畜のための牧草地、塩田、そして治水だ』

「兵力が想定よりも増えている。陸軍に兵二千を割いた上でリガロ-スーペリア間の河川の測量調査を急がせてくれ。水害時の、水の退避所も兼ねた牧草地にするならばそこが適当だ」

『こちらで議題に上がった、その河口付近に関所も兼ねた我らの軍事拠点を建てる計画に関しては?』

「ハンコックが持ってきた資料から変化がないのであれば、まずは陸路を挟んだ物資集積機能を優先して組み立ててくれ。その後それに合わせて港湾機能を。港湾化は時間がかかる故、物資の運搬拠点はスーペリアの港町をしばらくは使おう。今の時点で馬は足りてるか?」

『リガロ側が飼い葉も含めてかなりの数を確保していた。問題ない』

「よし。塩はミホークとロビンに任せる。それも含めた食料問題に関しては、強引な人足の調達も許可する。最優先事項だ。制圧地域の民を飢えさせるのは三本爪の恥と心得よ」

 

 数百万という魚人を抱える事になった以上、白ひげ海賊団にとっても縄張りの整備が急務となった。

 その時に現れた、正しくそれだけの数の魚人を救ったクロという海賊の知識――いや、知識も含めた全てがまさに必要とする物そのものだった。

 

(とはいえ、取り込むにはすでにデカすぎる。中身も元海兵が多いとなるとよい……)

 

 兵隊も同じく、信頼がおける面子が揃っている。

 縄張り内の住人に酒に酔って絡むような事はしないし、それどころか常に民衆に気を使っている。

 規律によって統率され、そうあるように訓練された兵士がどれだけ多目的に使えるかの見本と言っていいだろう。

 

(……オヤジの言う通り、クロとクロの手勢が来るだけで一気にウチの団は安定するだろうが)

 

「ベッジ、これだけ海運がぐっちゃぐちゃになれば恐らく物価が跳ね上がっていると思うが、そっちの商いは大丈夫か?」

『ヘッヘッヘ、問題ねぇ。……と、言いたい所だがこっちも少々()不足だな』

「金か?」

『いや、物だ。ここまで情勢が悪化すると、物々交換の方が話が早い。クロ、食料は仕方ねぇが一部の医薬品と……木材、石灰なんかは少しそっちに流す量を減らさせてもらうぞ』

「医薬品と石灰はともかく、木材もか。了解した。ダズ、製材所は完成しているか?」

 

 話す内容が完全に海賊の物ではない。

 商人のように利益を得て、利益を元に生産を整えるという循環の話をそれぞれが真面目に話し合っている。

 

(なんでレイリーがここにいるのか分からねぇほど、ロジャーの船とは真逆じゃねぇか。クロがあの船にいたら絶対にロジャーと何度も喧嘩してるだろうよ。その光景がリアルに目に浮かぶよい)

 

 かつて白ひげに襲い掛かった男――クロコダイルもドールという先に降った女海兵と共に会議を聞きながら、事前に親衛隊という連中が用意していた資料を真剣に読んでいる。

 

『建設そのものは終わり、労働者の選定や訓練も終えている。だが、本格的な稼働はこれからだ。今まで伐採していた木材を寝かせていたからな』

「伐採したのは冬だな?」

『当然。おかげで水がかなり抜けていた。経験の長い職人の目利きの後に、本格的な製材に入る予定だ』

「よし。燃料に余裕があるなら煉瓦も頼む。食料も大事だが、これからを考えると建材の確保も重要になって来る」

『……魚人の受け入れ、か?』

「それもあるが、恐らく各地の復興にまた手を貸す事になるだろう。難破船の話を聞くに、俺の想定以上に西の海も荒れてしまったようだ。……すまん、見積もりが甘かった」

 

 共に新世界に残ってくれれば――あるいは西の海の連中を引き連れてこっちに渡って来てくれれば、それこそ縄張りのどこかを任せるような形で取り込むことが出来ただろうが……。

 

(クロ、か。なんというか……不憫な男だよい……)

 

 恐らく、本人は指示を受けて動く方が得意な男なのだろう。

 白ひげ(オヤジ)の要請を受けて、魚人の住処の用意というとりあえずの目標を聞き素早く態勢を整えた。

 まだ完成というわけではないが、それでもこの短期間でなんとか雨風を凌げる寝床を本当に用意してみせた。

 

 誰かが示した指示や方向性を素早く噛み砕いて実行に移すことに恐ろしく長けている。

 隊長ではないティーチが『手駒に欲しい』と言う程に優秀だった。

 

 だけど時代は、この少年海賊に――どうしても秩序を求めてしまうクロに自由に泳いでもらうことを求めている。

 

 多くは助けられぬと分かっているのだろうが、結果として最大値を救う。

 救えてしまうからこそ、苦労ばかりを背負ってしまっている。

 

 魚人街の暴徒を見捨てる選択肢を常に頭に入れながら、結局それをしなかったように。

 

 利益のために見捨てると宣言する頭がいれば、あるいはそれに倣えるのかもしれない。

 だが話して伝わる気質からして、そういう人間に忠誠を誓える男ではなかった。

 

(だからこそオヤジの――俺達の家族になって欲しいんだが……)

 

 この男に一番必要な物は恐らく……上手く言えないが、全てを任せられる『主君』。

 もしくは、それに似た『頭』だとマルコは思う。

 

 性根が真っ直ぐで、清濁併せ持つ上で決断力があり――多分、悩みを笑い飛ばしてくれるような陽気な人間が。

 

 だけど、そんな人間はそうそう世に出るまい。

 ましてや今は大海賊時代。いや、それを超える戦乱の時代に足を踏み入れた。

 

 この男と敵対するに足る人間は山ほどいるだろう。

 この男に仕えるに足る人間も山ほど現れるだろう。

 

 だが、この男を従えるに足る人間が果たしてどれだけいる事か。

 

―― この会談に決着が付く頃には海軍の撤退が進んでおります。

―― それゆえに不安を覚える国が多数出る事でしょう。

 

 ふとマルコは、今拡大しつつある白ひげの縄張りの事を思い出す。

 

―― ビッグマムは敗走、そしてカイドウが動きが見えず。という情報が正しいのであれば、

―― 恐らく船が着く頃には、膨大な電伝虫の呼びかけなり親書なりがそちらに届く事でしょう。

 

 クロの予言通り、縄張りを希望する国の数々。

 白ひげ本人ではない、留守を務めているだけの隊長の下に王様本人が頭を下げに来たと慌てて報告が入った時は、さすがの白ひげも呆然としていた。

 

 だが、そのおかげで数百万の難民が、少なくともすぐさま路頭に迷う事は無くなった。

 それでもなお安堵と言える状況には程遠く、ゆえに白ひげはクロを求めているが――

 

(クロも背負うモン背負った一端の長だよい。なら、電伝虫なりなんなりで都度意見をもらうってのがいい所だろうなぁ)

 

 余りに多くの人間がこの男を求めるだろう。

 それこそ、戦って降してでも手に入れようとするだろう。

 

 この男を手にした者が世界を握る。

 そう言っても納得しそうな希少な才がここにいる。

 

(……本当に、難儀だよい)

 

「よし、大体の所は決まったと思う」

 

 そうしている内に黒猫の会議は終わりに近づいていた。

 ネプチューン王の西の海行き、段階的な調整を挟んだ魚人の受け入れ態勢、彼らの防衛と臨時政府機能の詳細。

 

 いずれ再び、今度こそ黒猫と白ひげは手を組んで魚人島の奪還に動く。

 それに対してクロ直々に白ひげ、ならびにネプチューン王に参戦を約束していた。

 

「今度は寄り道は特にない。今度こそ急いで西の海に戻る。それまでの間は、これまで通り政務を――」

 

 そうして最後にクロが激励かなにかの言葉を発そうとした時、電伝虫の向こう側にノイズが走る。

 

『――すまん、少し待て。クロ』

 

「? ミホーク?」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 とっさにダズ・ボーネスから、電伝虫を奪い取るようにして取ってしまった。

 当のダズも珍しく呆然としているが、恐らく自分も同じような顔をしているのだろう。

 

 本当に反射的だった。

 

 だが――

 

(ロビンが、あのような顔を……)

 

 クロの声に何かを感じ取ったのか、ここしばらくは見ていなかった不安そうな顔で電伝虫を見つめていた。

 

「クロ」

『あぁ』

 

 そうして、恐らくはロビンも咄嗟にだったのだろうが自分の服を軽く引っ張った。 

 その時、咄嗟に身体が動いてしまった。

 

「その……正直、話すべきことは全て話した」

『だろうな』

 

 現在の開墾状況、備蓄食料とその消費傾向、稼働できる人足の数にこちらでの議題に上がっていた開発計画、現在浮き上がっている問題点。

 

 黒猫の一人として活動してきたこれまでの経験の中で、今話さなければならないと判断したことは全て話していた。

 

「……電伝虫を手にして、何を話すために取ったのか分からず今必死に考えているのだが……」

『オイ』

 

 会議の時とは違う、刃を交えた後にサロンで食事を共にする時のような砕けた口調がわずかに出てきた。

 酷く懐かしいその口調に、小さく笑う。

 自分も、横で呆然としていたダズも、ロビンもだ。

 

(――ああ、そうだ)

 

「クロ」

『おう』

「皆、食べている(・・・・・)

 

 ふと、クロがいた時の事を思い出した。

 クロはいつも、幹部はもちろん兵士と共に食事を取る事を重視していた。

 時にはモプチの民衆とも。

 

 ダズにロビン、今は向こう側にいるペローナ達も、クロと食事を取りながらアレコレと仕事の話から他愛のない話まで幅広く駄弁っていた。

 

「モプチ、キャネットの民も、お前が出てから制圧した四諸島も、スーペリア・リガロの民も。逃げ込んで来た魚人の者達も」

 

 民衆と共に食事をする時は随分気を使い、あまり相手が気を張らなくていいようにわざわざ民と一緒に野良仕事を終えてから軽食を共に取っていた。

 

「皆、食べている」

 

 特に意味はない。

 仕事の報告とはまた別の、ただ自然な事を――言うまでもない事を改めて口にしただけだった。

 

 とっさにそれくらいの事しか、口に出来なかった。

 

『……そっか』

 

 もう少し他に言いようがあったのではないか。

 そう思っていた所に、クロが向こう側で口を開く。

 

『皆、食べているか』

 

 クロの身を――溜まっているだろう疲労を案じていたロビンを見ると、小さくクスリと笑い一度頷く。

 少なくとも、先ほどまでの不安の影は見えなかった。

 

『ミホーク』

「ああ」

 

 

 

『ありがとう』

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 ミホークからの思わぬ会話を終えて電伝虫を切り、振り返る。

 ペローナ達、凪の帯(カームベルト)を越えて俺を迎えに来てくれた面々が待っている。

 

「さて、これで大体の懸念は解決した」

 

 タキを始め、自分達の居場所を失う覚悟で俺の旗の下に集った兵士達がいる。

 

「皆、遠路はるばる渡ってきたというのに、待たせてしまってすまなかった」

 

 ネプチューン王を始め、アーロンやジンベエ達がいる。

 脱出させた王妃達の事もあり、一度西の海に同行する魚人達が。

 

「あと少しだけ雑務が残っているが、さっさと片付けて」

 

 

 

 

「――帰ろう。西の海へ」

 

 




やや駆け足な所もありましたが五章終了
再びのリザルト回に加えて、半ば幕間の要素が強い次章へと向かいたいと思います

なお、多分更新速度は少し落ちると思います
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