とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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第五・五章~西海諸島連合・発足~
148:ようやくの帰路、増える仲間


「さて。総督の無事を改めて確認し、団としてのおおよその方針も決まった」

 

 総督キャプテン・クロの無事。

 これを確認できたために、西の海に残っている将兵達の士気は極めて良好なものとなっている。

 

「それで……ロビン、ミホーク。まずはお前達の方針こそが我々にとって最重要となるのだが……」

 

 ダズの言葉に他の幹部や付き添いの兵――特に民衆と接することが仕事の一部になりつつある陸軍のビグルが強く頷く。

 

「先ほど言った通り、耕作地はとりあえず確保している。確かに急増した人口を支えるには不安がまだあるが、拡張の余地がある事を考えると問題なのは農作業に従事できる人足の調達の方だろう」

「……どうしても労働力は限られてくるからな」

 

 今問題なのは文字通り働き手だった。

 幸い被害がさほどないリガロという制圧領域があるためにある程度は調達できるが、それでも好き勝手に使えるわけではない。

 ここで占領したからと農奴のように扱えば、それは自分達が否定しようとしている天竜人の在り方と変わらなくなってしまう。

 

「そこは陸軍や、テゾーロの手腕に期待するしかない。むしろ、それ以上に問題なのは――」

 

 ミホークがお付きの親衛隊員に作らせた書類――ロビンと共有しているそれを見て、隣に座っている少女に目をやると、ロビンが立ち上がる。

 

「今急務なのは『塩』だよ、テゾーロさん。今から急いで塩の生産を拡張しないと、多分不味い」

 

 ロビンの断言にテゾーロが「やはりですか……」とボヤき、ビグルも難しい顔で唸り声を上げる。

 

「勢力圏がモプチを中心にしている間は問題なかった。私達はジェルマ戦の戦利品として手に入れたあの食料保存庫があったから、保存に関しては何にも問題がなかったし比較的近場のモグワにも手を出せた。それにあの頃は流通が生きてて、塩はベッジからまとめて買えてたけど……」

 

 会議室の前面に広げられている、本拠地であるモプチと様々な島を繋ぐ赤い糸が垂れたり、走り書きのメモが貼り付けられている地図。

 広がった『黒猫海賊団』の勢力圏を示すソレに、ニコ・ロビンは鋭い目線を送る。

 

「今のままじゃあ、あの保存庫頼りでは食料保存に不足が出て来る。魚人さん達の受け入れもあって食料の消費が早いのもあるんだけど、それも含めていろんな事に大量に使う塩にもう少し余裕がないと……」

「いざという時に崩れるか」

「うん。これから畜産体制も整えて拡張しようって時だったし、スーペリアとリガロ――フードッグ島の統治に絶対必要なお馬さんの世話にだってやっぱり塩は要る」

 

 広大な耕作地を擁する島を勢力下においたからこそ、求められる設備や物資というのも当然ある。

 その一つが『馬』であり、その馬を育て健康を維持するための飼料である。

 

 仮とは言え陸軍の統率者になっているビグルにとっても無視できない問題であるために、真剣に二人が用意した資料に目を通している。

 

「ベッジ。これまで塩の不足分はお前達から買っていたが、難しいか?」

「……そうだな……今の所先行き不透明、としか言えねぇな」

 

 離れた所に座っている黒猫の同盟者――カポネ・ベッジは渋い顔をしてグラスの水を口にする。

 

「クロが話した通り、この西の海でも物流網が急速に悪化している。……塩は、まあ……作っている所は当然ある……あるがなぁ――」

 

 そう口にしてから再びベッジは考え込み。

 

「岩塩ならともかく、海水から塩を作るにはそれなりの面積の設備が海辺に必要だ。海賊が多発してる今じゃあそういうのを作る場所をかなり制限している……」

「数がないと?」

「売り物にするほど多く作ってたのは、それこそスーペリアのような大国だった。軍需物資でもあるからな」

 

 スーペリア制圧の先遣隊として参加していた親衛隊の二人、フリックとキカが、急行した時の様子を思い浮かべる。

 

「海辺の施設は破壊されるか、そうでなくとも荒らされていた……」

「ああ、そうか。何の施設か分かってなかったが、あれは塩を作る物だったのか。師匠、リガロはどうなんだ? あそこならそういう設備も残っているだろう?」

 

 親衛隊の中では珍しく黒のスーツをラフに着こなしているキカの言葉にミホークは「ああ」と肯定する。

 

「だが、あくまでリガロ民を養うための物だ」

 

 そう答えるミホークは、頭が痛そうにしている。

 ロビンも似たような表情で――

 

「あの、リガロでは塩作りがそこまで盛んじゃなくて……設備もその量もそこまでじゃなかったの」

 

 塩は身近なものであるが、それゆえに軽視される事も珍しくなかった。

 指導者によっては作る労働者に給金を支払うよりも買った方が安く付くと判断するのは良くある話だった。

 それこそ、リガロのように。

 

「一応、今蓄えている余剰分の物資は取引――場合によっては流すようにトーヤが向こうの残された王女を説得したが……恐らく、それでもいずれは足りなくなるだろう」

「毎日消費するものだもんね……。それに食料の保存や馬を増やすのにもっと使うなら」

 

 二人の深刻な顔を軽視する者は一人もいない。

 ミホークとロビンは今は勢力圏内の食料問題を一手に引き受ける専門家であり、いずれ二人を補佐する農務官という部署が設立される事になっている。

 

「……素人の思い付きだが、海水を煮込むだけではダメなのか?」

 

 指揮官代理としてダズはよくやっているが、知識に関してはまだ足りないところが多い。

 ダズの疑問に対して、それを補足しようとロビンが答える。

 

「一応それでも出来る事は出来るんだけど、海水に含まれるお塩は大体3%ちょっと。これを煮詰めるだけで生活や作業、畜産に使用するだけの量を回収するにはちょっと……」

「大量の海水を流し込める大きな、あるいは大量の釜が要り、かつそれらを煮詰めるための莫大な燃料を消費せねばならん。……仮に復興や拡張の予定がなくても、我々の手持ちの技術や物資では難しいだろうな」

 

 あとを続けるミホークの言葉に、物資管理に携わる者達はうなり声と共に顔をしかめる。

 

「最終的に煮詰めの作業はやはり必要だが、ただでさえ今後を見据えた建材確保が課題の今、木材の大量消費を前提とする計画は理に合うまい」

「……なるほど、だから煮詰める前に日光などの自然熱を利用する仕組みが必要なのか」

「うん、そうだよダズさん。……すぐに取り掛かるなら、それこそ砂浜を使って海水を撒いて……」

 

 絵に描いて説明しようとしたロビンを制し、ミホークが先に描いておいた図解を用意する。

 これまでの執筆経験の中で図解を必要とする場面もあった事から、ミホークやそれを手伝う者達の画力は著しく上がっていた。

 

 ロビンも頑張っている。

 すごく頑張っている。

 

 親衛隊やミホークが、後でクロに渡そうと丁寧に保管しているくらいに。

 

「流れていかないように平坦にならして打ち固めた粘土の上に海水を撒き、これを放置して太陽光と風で乾燥させる」

「それで、乾いた土を集めて更に海水で洗い流す事で塩分濃度がすごく高い海水を作って、それを煮詰めてお塩を取り出す……っていうのが、今すぐ取り掛かれる塩作りだと思う」

 

 ミホークの絵図を交えた二人の説明を聞いて流れを理解したダズは、だからこそ顔をしかめる。

 

「話を聞くに結構な面積が必要だな。それに労力も要る。海水をくみ取るだけでも大仕事だ。赤犬戦で使ったポンプホースがあるが、話を聞くにアレでは勢いがありすぎるだろう」

「うむ……。俺もそれが問題だと思い、ロビンと共に潮の満ち干きを利用出来ないか等あれこれ考えたが……」

 

 その問題点は、当然ミホークとロビンも気にかかっていた。

 海賊連合事件のみならず、それを超える規模の天竜人の強制徴収によって、使える人足は限られていた。

 

「リガロの設備を参考にアレコレ設計して見たが、それには結局海水を留めるための堤防など、いくつかの用意と試行錯誤が必要だと結論が出てな。後々手を付けるのはいいとして、今の状況を考えると……まずは形だけでも整える事を優先すべきだと思う」

「この作業ならば手間はかかるけど難しくはないし、力持ちの魚人さん達の協力があればなんとかなると思う」

「! なるほど、魚人ならば器さえ用意出来れば運べるか」

 

 ダズがテゾーロをチラリと見ると、メモ紙にいくつか数字――今動ける人足の数から、残しておかなくてはならない人数を引いて、そこで手が止まる。

 

「最も早い種まきまでは多少時間が空いていますし、それまでになんとか作業に取り掛かれる事を目指し最優先で用意させます。ロビンさん、縄張りの方は――」

「スーペリア側なら、一応試算に使ったスペースの縄張りをそのままにしているよ」

「その時の写しだ。使えるか?」

「すみません、お借りします」

 

 ロビン達が計算した一面当たりの必要面積とその造りに目を通したテゾーロが、労力の分配の計算式を走り書きして付き人に渡す。

 付き人も急ぎである事を理解しており、何も言われずともそのメモを持って計算手の下へと駆け足で向かう。

 

「午後の部までには大まかな数字と日程の草案を用意します。とりあえず、もう一つの優先事項――軍事面での活動について決めておきましょう」

「オハラの制圧か」

「はい」

 

 ロビンがピクリと肩を跳ねさせるが、皆それを見なかった振りをして次の資料を開いていく。

 バスターコール以前の物だが、かなり正確に描かれたオハラの地図だ。

 

「ですが、総督は言葉を濁しましたがオハラの制圧はあくまで第二目標。本命は別にあります」

 

 元海兵組はまだ黒猫内部でのコードが浸透していない者もいるためピンと来ていなかったが、ダズ達古参の幹部達は、他に狙いがある事を正しく読み取っていた。

 

 青いファイル。

 それも号数ではなく番数で伝えた物は、黒猫内部では交戦記録を表す言葉。

 すなわち黒猫の兵がなんらかの形で戦った島を示す符丁。

 

 三番はエリア。かつての防衛戦においてアルファベットの三番目の文字を付けられたエリアC。

 ページ数は参加した兵数を百で割った数字。

 

 そのエリアで発生した戦闘はただ一つ。

 いや、そもそもそのエリアは島は一つしかない。

 

「かつての海賊連合事件のピリオドとなった島」

 

 本来存在しないハズの島。

 総督であるクロも交戦したことのある大海賊が運んだ島。

 

 

「海軍からリオン島と仮称されているあの島を、完全に我ら黒猫の制圧下に置くこと」

 

 

「それこそが、総督が求めている最優先制圧目標です」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「クロ、まだかなり離れているけど島が見えて来たわ」

「ん。白ひげからもらった永久指針(エターナルポース)は正しかったか」

「島が聞いていた通りの島ならね」

 

 白ひげの勢力圏をどうにか落ち着かせて、ダズとの会議を終えてからはまさかの大宴会になった。

 死ぬほど食わされ死ぬほど飲まされ死ぬかと思った。

 なんだあれは、新手の暗殺か?

 胃袋と肝臓を狙ってきやがった。

 

 しかもやたら俺に酒を注ぐのはあの『黒ひげ』である。

 心臓止まるかと思ったわ!

 

 アミス達がクッション役になってくれたから助かった。

 

「ネプチューン王は? 後で様子を見に行くけど」

「同行している兵士達と一緒にハック先生と話しているわ。西の海での話を聞いているんじゃないかしら」

「あぁ……」

 

 というか、そうか。

 ヒナ、お前もとうとうハックを先生と呼ぶようになったのか。

 剣こそ習っていないけど、お前もうほぼ親衛隊だよな。

 戻ったらミホークに師事してみるか?

 俺の負担がものすごく軽減されそうだし頼むよ。

 

「陛下もそうだけど、あのジンベエって兵士もかなり聞き入っていたわ。先生の友達なんだって」

「おろ、マジか」

 

 そういや二人とも魚人空手の達人だったな。

 同門とか、そんな感じだったのかね。

 

 ……そういや、向こうにハチがいるんならアーロンも来りゃよかったのにな。

 まぁ、残った連中のまとめ役が必要ってのはそりゃそうなんだが……。

 

 それでも妹のシャーリーをこっちに預けるのはどういう考えなんだよ。

 

「陛下とはもう少し親交を深めておきたいし顔を出しておきたいけど……」

「ハンコック提督から休むように言われているでしょう。あれ、本気の嘆願だったわよ?」

「ああ、親衛隊の皆にもスパニエル君にも色々気を使わせてしまって申し訳ねぇ」

 

 特にスパニエル君は、ホントに海兵とは思えん程に身の回りの世話をしてもらっている。

 なにからなにまで、本当に申し訳ねぇ。

 時間が空いた時はハックから体の鍛え方を見てもらっているという話だし。

 彼も今のまま行くと準親衛隊候補かなぁ。

 

「……ねぇ、クロ」

「ん?」

「海軍と一緒に世界政府に反旗を翻すことは出来ないの?」

「……心情面で言えば不可能ではない。敵ではあるが、同時に戦友足り得ると考えている」

 

 ただ、な……。

 

「だが、海軍には三つの鎖が付けられている。それらをクリアしない限り、海軍が蜂起するのは難しいだろう」

「鎖?」

「ああ」

 

 政府は海軍に三つの鎖を用意している。

 大きく分けて、だが。

 それを意味する様に、まずは指を一本立ててヒナの前に出す。

 

「まず、当然だが大義名分」

「海軍は政府の犬であれって?」

 

 どうしたヒナ。

 もうほとんどお前の発言海賊だぞ。

 

 …………。

 

 あ、いやお前はすでに賞金掛けられてて、でも海兵として海賊に同行しているからまだ海兵の海賊……。

 

 ??????

 

 いや、まぁ……いいや。

 

「そんなのほとんど意味ないじゃない。海軍を踏みにじったのはアイツらよ」

「全くもってその通りだ。……ただ、海軍は広い。情報がどこまで行き渡っているか分からないが、かつての大義名分をそのまま信じている海兵も決して少なくないと見るべきだ」

 

 世界政府の弱点でもあるわけだが、それでも800年間積み重ねてきたという事実は結構重いんだよなぁ。

 

「二つ目、土地。正直これが一番重い」

 

 そして二本目の指を立てる。

 

「海軍は基本的に、支部を決して大国の側には置かない。置いたとしても、必ずその近くの小島を改造した物になる」

「……国の中に作れば、その国の国力を削りかねないからだって……基地を建てられる所は耕作地になりやすいし……」

「なら、例えばアラバスタは? あの広大な砂漠の国の海岸線のどこにも条件を満たす場所がないと? 国の邪魔にはならず、それでいて展開しやすい、国を守るための牙城に相応しい場所がどこにもないと?」

 

 予想通り、政府は何かしらの理由付けをしていたようだが正直弱い。

 そういう所もなくはないだろうが、それだけでは弱すぎる。

 

「じゃあ、政府はどうして――」

「政府は、海軍が政府の手綱から放れないように、土地を極力与えないようにしている」

 

 スパニエル君が持ってきてくれていたバスケット――パンが積まれていたそれを持って、中に適当に違う籠に入っている蜜柑や林檎を放り込む。

 

「このように土地が限られていれば、積み込める物量は大きく制限される」

「……武器に弾薬」

「軍事組織だから当然それも大事だが、同時に食料や生活必需品も制限される」

 

 ぶっちゃけ、大海賊時代を助長している最大の原因だと俺は思うんだがなぁ。

 結果海軍は、大規模な作戦を行うのにより大きく負担がのしかかる事になっている。

 

 まぁ、それこそまさしく世界政府の目論見の一つなんだろうけど。

 

「基地があるのが他に何もない独立した島であれば、当然輸送が必要だ。輸送がなければ瞬く間に動きが取れなくなる」

「……それが、鎖?」

「言っただろう? 本部戦力が決起すれば、すぐさま各地の支部がすり潰されると」

 

 恐らく、海軍の大事な役目は海賊の対処ではない。

 求められている最大の役割は、目標の島の封鎖(・・)だろう。

 

 そして逆に、加盟国側は政府戦力の海軍に対する耳目である事を求められている。

 いざという時には政府戦力で、海軍への輸送を断ち切る役目を。

 

(相互が相互に鎖になるように仕組んでいた矢先に、天竜人がその全てをひっくり返してもう訳わからん事になったんだが……)

 

「食料、衣類、装備に砲弾。いつでもこれを断ち切る備えをして、海軍の万が一が起こった時に対処しやすいようにしている」

「……どこ……っ、までも……!」

 

 そもそも、そういう目で見てなきゃ海兵奴隷事件なんざ起こらんよ。

 

「多分だけど、いわゆる海軍の大要塞と呼ばれる所なんかは政府戦力も相応に常駐しているか、あるいはなんだかんだと理屈をつけて閑職地に追いやられているんじゃねぇかな。本部以外」

 

 例えば施設の維持費あたりを名目にして。

 

 思い当たる節があったのか、ヒナは「ハッ」と息をのむと口元に手を当てて何かを考え込んでいる。

 うん、それこそエニエス・ロビーとかそんな感じだった。

 

「そして、三つ目」

 

 そうして指を立てた時に、トントントンっと扉がノックされる。 

 おぉ、ちょうど来たか。

 

「? 誰かしら」

「俺が呼んだんだよ。入って来てくれ」

 

 俺がそういうと、「失礼します」と断りを挟んで一人の女が入ってきた。

 ワイアード大佐。

 聖地での防衛戦から何かと世話になっている、事実上のゼファー特別大将の特命を受けた部隊長である。

 

「目標の最も凪の帯(カームベルト)に近い島までは休憩されるとの事でしたが、なにか」

「すまん。魚人島の攻防戦で確信を持ったことがあるんだが、一応確認しておきたい事があってな」

「? 何でしょう?」

 

 ヒナ、見ておけ。

 これが海軍に掛けられた三本目の鎖だ。

 

 

 

「先の追撃戦に於いて、潜入していたCP工作員を手引きしたのは貴官だね?」

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 クロの言葉に、思わず彼の顔を見ようと振り返る。

 いつもと同じく平然としていて、だがどこか苦笑染みた笑みを浮かべている。

 

 今度はその向かい側に視線を送る。

 ワイアード大佐。

 聖地防衛戦ではクロが『いい意味で無難』と評した海軍本部大佐。

 

 肩口の辺りでザックバランに切った黒髪が印象的な彼女も、なぜかクロと似たような苦笑を浮かべ、

 

 

「はい」

 

 

 と肯定する。

 

「その顔は変装か?」

「はい」

 

「入隊した時から?」

「はい」

 

「サイファーポールか?」

「はい。CP8です」

 

「という事は、いざという時は俺の暗殺かヒナの誘拐を指示されていた?」

「はい」

 

「元の任務は……海軍内部の情報収集。あるいは誘導か」

「はい。不穏分子の始末も命じられていました」

 

 流れるようなクロの質問に、ワイアード大佐――大佐だった誰か(・・)は、微笑んだままスラスラと肯定する。

 

「まぁ、大体の所は分かっていたけど最後に――」

 

 クロもまた、緊張した様子が一切ない。

 いつもは後ろで束ねている髪を下ろしたまま軽く掻きむしり、

 

 

「寝返りかな?」

 

 

 クロの最後の問いかけに、ワイアードと名乗っていた女が笑みを深める。

 それまでの苦笑染みた物とは違い、ニヤリと。

 

 自分の頬に手を当て、撫でるのかと思いきやその肌に爪を立て、引きちぎる。

 否、自分の皮膚を隠していた物を引っぺがした。

 

 海兵らしく日焼けした肌が、まるでずっと日の差さない場所にいたかのように白く。

 クロやハンコック提督のように黒い髪が、その真逆と言える真っ白な髪に。

 心なしか目も違う。

 意思の籠った力強い目から気力は抜けどこか虚ろな、見る者を不安にさせるような眼へと変貌し、

 

 

 

「――ああ」

 

 と、

 どこか気さくな様子で、クロの言葉に笑って頷くのだった。

 

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