大きな戦いと続く大規模作戦を成功させての凱旋という事で、黒猫別働艦隊はややお祭り気分ではあるが、それでもこの海域は泣く子も黙る新世界。
当然警戒は必要であり、交替で親衛隊は兵士達と共に見張りに立っている。
「おや、私の黒猫としての初仕事に付き合ってくれるのか? ヒナ伍長」
「ずっと潜入していたスパイに好き勝手やらせるわけないでしょう!」
「まったくもって正論だ。総督も、もう少し慎重でいてくれた方が私も気が楽なんだがね」
陽が暮れて、甲板では宴の灯りこそ点いているが外はもう真っ暗だ。
それでも見聞色を扱える親衛隊の面々には、さほど苦にはならない。
すぐ側には、酷い言い方になるが金になりやすい魚人の集団がいるのだ。
万が一がないように目を光らせ、時折見聞色を張り巡らしている。
「……ねぇ」
「なんだい?」
「ずっと、政府の人間だったの?」
「ああ。生まれた時……というよりは物心が付いた頃から、というべきか」
マキシンと名付けられた、新しい黒猫の一人はヒナを引き連れて船の内部を探っている。
万が一船に侵入した工作員がいた場合、隠れるのによく使われる場所を確実に潰していっているのだ。
「なら、ずっと政府の言う事を聞いて生きてきたわけじゃない」
「ああ、当然さ」
「それなら――」
ヒナも生真面目な所があるので、マキシンになぜそこを調べたのかを確認してメモを取りながら、まるで姉妹のようにその後ろを付いて行っている。
「どうして、裏切れたの? これまでの自分の人生を否定するようなものじゃない。ヒナ、疑問よ」
「ならば君は、なぜ総督にそこまで拘る? 君の家は西の海の良家。いわば政府寄りの家じゃないか」
「……調べたの?」
「君に自覚はないかもしれないが、君は総督に極めて近い兵士と見られていたんだ。政府――五老星すら君には目を付けていたのさ」
「……クロへのスパイ?」
「いや、人質の最有力候補だな。君が総督の付き人を命じられたのは、妙な話だがそちらの方が君が安全だと上層部が判断したのだろう」
マキシンの言葉に、ヒナの顔が強張る。
少なくとも聖地出航時までは、自分に期待されているのはクロとのパイプ役だと思い込んでいたのだ。
まさか、上層部が自分を守るために――クロに自分を守らせているとは思いもしなかった。
「でも……それならどうして海軍は襲撃を……」
「黄猿が総督に勝てばそのまま潜入任務を達成した勇敢な若き海兵として回収。負けても総督ならば君を大切に扱うだろうという読みだろうさ」
「……もし、クロが私を……その――」
「あぁ、その、あぁ……害したら? 悲劇の海兵として総督のこれまでの名声を傷つける材料にするつもりだったんじゃないかな」
まぁ、これは海軍というより政府の狙いだろうが、とマキシンが締め括ると、ヒナは口元に手を当てて顔を蒼褪めさせる。
「とまぁ、君は色んな意味で都合が良かったんだ。当然我々も君の事は調べ上げていた」
「いざという時は誘拐を?」
「ああ、君は見目がいいから天竜人に目を付けられていたし……あるいは、暗殺して総督に罪を擦り付けるか、かな」
ついにヒナの足が止まる。
これまでの戦いで海軍との決定的な対立も覚悟はしていたのだが、より直接的な危機が身近に迫っていたことにさすがに恐怖を覚えたのだ。
「……でも、貴女はそれをしなかった」
「ああ」
「さっきも聞いたけど、どうして?」
マキシンも足を止める。
アミスや親衛隊程の忠誠心があるかと言われれば当人も疑問を持つだろうが、それでも黒猫の一人となった事をマキシンはそれなりに重く受け止めていた。
だからこそ、今後総督であるクロの側近の一人になるだろう少女とは良好な関係を築いておきたかった。
(質問で返して誤魔化すのはさすがに無理があったか。総督が重用するだけあって鋭いし真っ直ぐだが……さて、『黒猫』に付いた理由か)
マキシンにとって、自分は道具そのものである。
持ち手の意志のままに対象の命か身柄を献上する。
それが、こうして持ち手に見切りをつけた理由。
思想というよりも感情であるソレの言語化という難解な作業に、マキシンという女は少し迷いを持ちながら、今の自分なりの答えに辿り着く。
「もし、私が他のCPのようにアチコチに異動しながら任務に就いていれば――あるいは今頃総督と本気で殺し合っていたかもしれない」
「異動?」
「ああ、そうだ。ヒナ伍長。私がずっとCP8だったというのは曲げられない事実だし、手を汚してきたのも事実だけど――」
「入隊してからずっと、私もまた『海兵』だったのも事実なんだ」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「世界政府の根本的な戦術はあくまで
「今回の魚人島の様にか」
「あれにはまた別の目的があったんだろうが……まぁそうだ」
クロコダイルにとってクロとの会話、会議はもはや一種の娯楽となっていた。
クロ本人の知見に、その影響を受けながらも多方面へと知識や経験を伸ばしていく幹部勢や親衛隊――時には一兵士ですら思わぬ知識や発想を以て組織の一助にならんとする事がある。
その根っこを覗くようなこの軍議が、どうしようもなく楽しかった。
「タキが懸念していたゴッドバレーの件も、聖地や今回の騒動で得た情報と一致する」
「では、やはり……あの時我々が包囲を命じられていた理由は……」
「あの島の王族や住民――加えて
ただ同時に、明らかになっていく世界政府の滑稽ですらある裏の汚れ具合に、昏い歓喜を覚えているのも確かだった。
「これは統治者として――いや、征服者としてもあり得ない」
「住民はそのまま労働力。すなわち自分達の財にして血肉でもあろう……なんと醜悪な」
復興作業や制圧作戦を通して、統治という物に多少の理解がある少女提督が顔をしかめている。
「その最終的な狙いは分からないが、少なくとも奴らは土地を活用……ん……いや……うん、運用するつもりがない。むしろ、資源だけ頂いて天竜人でない人間は減ればいいとすら考えている節がある」
そういってクロが取り出したのは地図だ。
「これは……
「そうだ。俺が聖地にいる間に、この海のいくつかの島で事件が起こっている」
クロがいつものスーツの懐からペンを取り出し、二つの大きな島を丸で囲む。
「ビタワ国、そしてソルベ王国」
どちらも親天竜人で知られる大国だ。
そしてどちらも、先日多くの者を非国民として認定。その人権をはく奪することを決定していた。
「どうもソルベ王国の方は元自勇軍――革命軍にやられて現在幽閉中、国の実権を奪われたみたいだが……」
クロコダイルも自勇軍の事は知っていたが、最近の動きは全く知らなかった。
聖地にいたと言う事もあるだろうが改めて『黒猫』の視野の広さ、視座の高さに、内心砂漠の王は舌を巻く。
「ビタワの方は相次ぐ王の暴挙に対して未だに暴動が多発、多くの国民が政治犯として囚われ、劣悪な環境での強制労働刑に処されている」
「つまりは奴隷化。……正しく、世界政府の所業そのものですな」
タキという老将はほぼクロコダイルと同じタイミングで参戦した新入りではあるが、海兵時代に黒猫と協力しており、その思考や思想は極めて近い物がある。
孫娘の事を考えれば当然だが、奴隷という存在を率先して生み出す世界政府という枠組みに強い不信があるのだろう。
「どちらも世界政府からの後押しがあったことを確認している。国民を減らせば天上金は減る、とな」
「……主殿、先から話を聞く限り……」
マグカップに入った白湯を飲み干してから、じっと何かを考えていたハンコックが重たげに口を開く。
「世界政府は、なんといえばよいか……傘下の国を富ませようとせず、ひたすら……主殿の言葉を借りれば消費ばかりを促し国体の……成長の流れを堰き止めるのが目的のように聞こえるのじゃが……」
ハンコックの言葉に、誰もが頷く。
元海兵組も思う所があるのだろう、深い納得の表情を見せている。
「現時点で得ている情報を見て、俺も同じように考えている。政府は加盟国に成長・発展を望んでいない、と。……天上金も、単なる税金以上に加盟国の余力を削ぐための意味合いがあるのかもしれない」
「つまり、各国へ目は光らせていても気を配る事はせぬか」
「そうだ。重要な島や国は多少まともだろうが、他はどうなってもいいのだ。でなければ、海賊被害にあった国をああも放置するものか」
クロは心を許している仲間に囲まれているためかなり表情は豊かになっており、それゆえに今は相当に不機嫌そうにしている。
ネプチューン王や魚人達の前では滅多に出さない表情だ。
「だからこそ、政府が大きく勢力圏を失った今の内に俺達は今後を見据えたノウハウを一つでも多く積み上げねばならない」
「……まるで、国造りだな」
口にしてからクロコダイルは、自分の言葉が上擦っていなかったかと小さく冷や汗をかく。
強大な世界政府ですら手出しできない国家の建立。
それこそクロコダイルが考えていた事だった。
だがここに、
「国造りもやる事の一つだ。ただ――」
「俺が作ろうとしているのは国ではない。国そのものも含めた、政府に代わる器だ」
それすら超えていく軍略が組み立てられていた。
「……器」
クロコダイルは、クロが言った言葉を飲み込むように呟く。
「政府の器では足りない事が証明されつつある。国体の安否すら危うい上に、天上金という還元率が極めて低い税がある以上貧しさから抜けるのも難しい。一度搾取され始めたら、世界貴族やそれに
クロコダイルの目の前で、年相応に不機嫌そうにしている少年は、歳に相応しくない大局を見て顔をしかめている。
「故にそれを上回る正当性を持たせるための器を作り、各国にそれが政府よりも上――いや、信に足る物だと認めさせなくてはならない。そうして初めて、俺達は真正面から世界政府を否定できる」
「……なら、占領統治というのは……」
「器が完成するまでの間に、戦略上どうしても押さえねばならない場所が出てくるだろう。そこに生まれるだろう反発の種を少しでも減らしながら、確実に勢力圏として組み込む」
国ではなく、より強固に国を繋ぐ国家連合体の樹立。
「これからの戦いはただ眼前の敵を討てばいいという物ではない。その後の対応も含めた、正当性というパイの奪い合いになる」
文字通り、『新時代』を紡ぐための戦い。
「そのために必要なのは飢餓の一掃に加えて民衆との接し方、歴史・文化の研究と分析。民心掌握からの治安維持。その方策を決定するための情報収集体制の確立。この一通りの流れを、たとえその一端でも掴むことが必須となる」
そのための大計を張り巡らそうとしている海賊は――
「……まずは自領での活動で陸軍としての活動の基礎を固め、徐々に制圧戦を含めて慣らしていく。政府が動けるようになる前に、最低限形を作っておかないと不味い」
どこまでも冷静に、新しい事実上の『世界政府』を組み立てようとしていた。
本来とてつもない時間を掛けて進めていく計画。
それをこうも矢継ぎ早に一手を放っていく。
実際に面と向かって考えを聞いて、クロコダイルはようやく理解した。
この海賊は焦っている、と。
政府の混乱は長引くだろうが、それでなおクロは一切油断をしていない。
危機感を持っている。
「焦る理由があるのか? クロ」
「……規模は小さくなるだろうが、俺が求める陸軍の雛型になり得る部隊が海軍内部に発足されるハズだ」
タキは「ほう」と感心したように息を吐き、ハンコックは眉をひそめて考えを深める。
「つまり、政府――あるいは海軍もお前と同じ危機感を持っていると?」
「いや、違うんだクロコダイル」
もし政府がクロと同じ考えを持っているのであれば、未だ強大な国力に任せてクロの欲する物に近い軍を設立するだろう。
そうなった時、不利になるのは当然規模で大きく負ける『黒猫』に他ならない。
だが――
「俺が作っちゃった」
「なにやってるんだテメェ」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ゼファー特別大将、人員の紹介ありがとうございました」
「ハハハハ、気にするな。クロが残した君達の周りに、怪しい者を付ける訳にはいかんからな」
海軍本部、マリンフォード。
先日の魚人島攻防戦から続くレッドポート周辺の警備体制の見直しや再編、近隣の島の兵士の回収や現地住民への謝罪や賠償などで連日連夜主計課の人間が悲鳴を上げている中、広いが古ぼけた部屋に、真新しい机や棚が運び込まれている。
その部屋の主となるのは特別大将、『黒腕』のゼファー。
現場から離れ、政府役人でありながらクロの教え子の後ろ盾になる事を決めた男だ。
「海軍も、今は大変な事になっていると耳にしています。例の会談の直後、センゴク元帥が倒れられたと……」
「うむ……」
そして実質この部屋を動かす事になる若い女性。
かつて聖地に於いて、クロを引き留める一因になる事を望まれていた若い役人――ジェネッタは、重苦しいため息を吐く。
ゼファーも同時にだ。
「状況が状況だ。サカズキなど政府の暗殺と思いこんで、聖地に殴り込む所だったぞ」
その言葉にジェネッタは、続けてため息を吐きたい気持ちになった。
直前まで元帥が話していたのは『海賊』なのだ。
その時の様子を他ならぬ大将赤犬が見ていたとはいえ、暗殺を試みる勢力としてその場にいた『海賊』よりも『政府』が真っ先に出てしまう。
それがどうしようもなく、今の世界の様子を示す縮図となっている。
「……心労が祟ったためというのは、間違いないのですか?」
「ああ、こちらの軍医も確認した」
海軍だけの問題ではない。
政府もこの状況の悪化は当然把握しており、だがしかし有効な政策が出て来ず会議という名の無駄な責任のなすりつけ合いが連日続くばかりであった。
「それにおつるから聞いたが、もとより拒食症の疑いがあったそうだ」
「……その、もとよりと言いますと……」
「クロが聖地を出航する少し前かららしい。何を口にしても体が受け付けず、例の会談が起きた頃には点滴頼りだったと」
ジェネッタも聖地にいた頃にセンゴクとは会っている。
クロが今後を見据えて海軍とのパイプがあった方が安全だろうと紹介したからではあるが、そういう縁があったのだ。
そしてジェネッタにとって、知人のいたたまれない状況はショックに値する物だった。
「折を見て病院に――お目にかかれずとも、見舞いの品を持って出向くべきでしょうか?」
「……どうかな」
海軍元帥という、一役人でしかないジェネッタからすれば天上人に等しい人物である。
政府内部から引き離して保護してもらったという恩義もある故、ジェネッタからしても無下に出来ない相手なのだが――
「君もソマリ達も、いわばクロの教え子にして……ある意味で彼の一味とも言える存在だった。今のセンゴクに、彼を匂わせる人間との接触は辛いだろう」
ある意味で、センゴクはクザン同様クロに近すぎたのだ。
状勢が落ち着いてさえいれば、センゴクもジェネッタ達と普通に接する事が出来ただろうが……。
今のセンゴクにとって、クロとは彼の過ちの象徴になり得てしまう存在だった。
命を懸けて裏切りを阻止していれば――
命を懸けて自ら護衛に入り、政府戦力の暗躍を防げていれば――
あるいは今頃、と。
「それに、気分を悪くするかもしれんがあまり君達を動かしたくない。護衛の関係でな」
「……そうですね」
「政府が君達をどう見ているか、いまいち掴めん。だからこそ用心をしておきたい」
ゼファーは元々腕っぷしと、その教育力でのし上がった人物だ。
頭は切れるが、それでも政治の経験はほとんどない。
ゆえに政府内部の情報の入手や精査は不得手なのだが、それでも必要な事だとあの手この手で探っていた。
「クロ――『黒猫』に対する動きがさっぱり定まらんようだ。攻撃するのかどうか処か、敵として扱うのかなんとか再度味方に引き込むのか、その方針すら決まっておらん様子。ハッキリ言って、CPも含めて連中がどう動くか分からんのだ」
ジェネッタはその言葉に眉を顰める。
「これだけの事があって、まだ総督を引き込めると考えているのですか?」
不快だったからだ。
ジェネッタを始め、クロの下に付いた人間達は皆彼に敬意を抱いている。
ほぼほぼ捨てられたような自分達を、あの少年海賊は誰一人として無下にしなかったからだ。
間違いなく理想の上司であり、彼女達もクロが従えるに足る部下になろうとしていた。
だからこそ、政府の右往左往っぷりは裏切り云々を置いても、『黒猫』という存在を軽視していたように見えてしまったのだ。
軽く見ていたから。どこかで侮っていたから。
今こうして、方針一つ決まらず醜態を晒している。
「例の天竜人入りの件に加えて、西の海の全権を彼に任せる事で手を打てないかと主張している者達がいる」
「魚人島攻防戦前ならばともかく、今や総督は白ひげと共に500万前後はいる魚人種族の庇護者となりました」
「……やはり、成らんか」
「恐れながら」
対して海軍は、一貫して『黒猫』を味方にするべきだと考えている。
こうして戦闘になったのも、政府の無為無策な命令による止むを得ない所があったと見る者が多いため、かつてのクロの部下――ジェネッタ一派からもそこまで厳しい目で見る者はいなかった。
「総督にお仕えしたのは短い間でしたが、あの方は悪政や暴力に泣く民衆を捨てられる方ではありません」
「……クロは立つか」
「必ず」
魚人島奪還のために、必ず『黒猫』は
そうして点在する様々な島や国家を傘下に収めながら、決戦に備えて用意を進める。
この海に、世界政府が最も恐れた事態が起ころうとしている。
黒猫という勢力が、世界中に広がる。
「ジェネッタ」
「ハッ」
「代理としておつる、並びに大将赤犬、黄猿両名から許可をもぎ取った」
「……もうですか? まだ根回しを始めたばかりだったのですが」
「元々必要性が高まったというのもあるが、あのクロの置き土産というのが大きいようだ。賛同する将校も多数いる」
ゼファーが一枚の紙を取り出す。
書類などに使われる紙とは違う、えらく上質な真っ白い紙。
それは赤と金の模様で縁を飾られ、まるで何かの賞状や証書のようだった。
「あるいはいずれ、海軍や政府が思うのとは
海軍の正式な部隊発足に関わる書類。
特別大将――実質海軍を辞めたゼファーを、それでもどうにか繋ぎとめるために用意された将位を部隊長に据えるという、前例のない特殊部隊の編制。
「いよいよ、君達が大手を振って動けるようになったぞ」
「ハッ」
ゼファーはもちろん、ジェネッタもこの部隊の進む道が極めて困難である事は分かっていた。
静かに海軍――それどころか政府の中にすら広がりつつある『黒猫派』という、海賊の異名を冠した派閥。
これから自分達が作る部隊は、恐らくそういった者達のまとめ役になるだろう。
「先ほど言ったように現場の指揮官役も選び、すでに呼び出している」
「話を聞かされた時から思っていたのですが、選別が随分と早かったですね」
「立候補してきた者がいてな」
「……大丈夫なのですか?」
「ああ、信頼できる兵士だ。本人もクロに恩義があると言っている」
ゼファーが教官らしく良く通る声で、「入ってくれ」と叫ぶ。
すると部屋の外から「ハッ」とキレのいい返事が返り、同時にドアが開かれ兵士が一人入ってくる。
「早朝に失礼いたします。本日を以って本部隊に配属となる――」
パッと見はガリガリに痩せた大男と思うだろう。
だが、そう見える最大の理由であるこけた頬と裏腹に、身体の方は鍛え抜かれていた。
「Tボーン少佐であります」
海軍の敬礼をする、海兵の見本と言われる男に対してゼファーとジェネッタも敬礼で返す。
後にこの日が、海軍黒猫派が本格的に動き出した日として記憶される事になる。