とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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153:艦隊編成

「グララララ……」

「どうしたよい、オヤジ。手紙を読んでからご機嫌じゃねぇか。何回も読み返したりして」

 

 魚人島を巡る戦いに一応の決着がつき、大量の難民の受け入れ態勢を整えながらいずれ起こる決戦に備える白ひげ海賊団は、縄張りの拡大と開発に大忙しだった。

 

「クロからな。どうやら無事に西の海(ウエストブルー)に辿り着いたようだが、その途中で変わった荷物を拾ってしまったと律儀に報告の手紙を送ってきやがった」

「アイツ、本当にそういう所はマメだよい……」

 

 もっとも、その拡大は極めて順調と言える。

 事前に起こったビッグマム海賊団との戦争に勝ったという情報。

 そして同時に、今世界でもっとも有名な海賊である『黒猫』と手を組んで海軍相手に立ち向かったという話のおかげで、みかじめ料と引き換えに庇護下に入れて欲しいという国が多数現れたのだ。

 

 そのみかじめ料や渡す物品の取り決めなどこそ大仕事だが、それでも白ひげ海賊団という組織には大きな追い風が吹いている。

 

「リンリンの子供を二人拾ったらしい。凪の帯(カームベルト)に入る所で、漂っていたのを発見したんだと」

「ハッハハハ! あの野郎、相変わらずとんでもねぇ引きだよい!」

 

 大笑いするマルコの横で、同じく大幹部である『ダイヤモンド』ジョズが、仏頂面のまま頷く。

 言葉はそれほど交わしていないが、誰に対しても丁寧に接していたクロにはそれなりに良い感情を持っていた。

 

「クロの事だ、しばらくの間は奴の所で面倒を見るだろうよい」

「グラララ! ああ、そう書いてあったぞ。まったく変わった野郎だ」

「確かに。魚人達を救った礼にと欲しい物聞いたら変わった物を欲しがるし、トコトン変わってやがるよい」

 

 普段の手紙に使うカモメ便は状況を見るに届くか怪しい上に検閲の恐れがあるため、『白ひげ』から『黒猫』へは、数羽の海バトという郵便用の鳥を渡している。

 電伝虫という通信手段もあるがどうしても傍受される可能性があるため、こうして連絡手段を用意したのだ。

 

 どちらかがそう言ったわけではない。

 あくまで魚人島奪還のための共同作戦を約束しただけではあるが、実質同盟に等しい繋がりだと捉えていた。

 

「奴が北か東の海の人間ならば、とっくに動いたんだろうが……西の海に大きな勢力圏を持ったまま偉大なる航路(グランドライン)入りするには、ある程度あの海を纏めなきゃならん。となると、リンリンの子供に恩を売ったってのは存外デカいかもしれんな」

「……クロは数年で偉大なる航路(グランドライン)に入り、奪還戦に向けての作戦行動に入ると言っているがよい……」

 

 海賊組織としては何も心配はいらない。

 頭目であるクロはもちろん、その下にいる連中も新世界でやっていける――それこそビッグマムの一団にも迫る強さがあり、しかも海軍以上に戦術・戦略を用いて規律正しく戦う兵隊である。

 

 先の会談の終了を告げる『黒猫』の一味総勢の素早い整列と敬礼は、見る者が見ればその恐ろしさが分かる物だった。

 明らかに相当なレベルの団体行動を叩き込まれていると一目で分かる。

 あの強さと練度の一隊ならば、恐らく海戦も相当に鍛え上げられているだろう。

 

 敵に回せば厄介すぎる。

 それが実際に黒猫を目にした隊長たちの共通した想いである。

 

 だが、黒猫の進む道は相当に険しい道だ。

 海賊ならば海軍からは逃げるものだが、黒猫は海軍どころか政府を相手に引く姿勢を見せない。

 

 むしろ魚人島の一件がなくても、間違いなく政府と全面対決するだろう組織だ。

 恐らくクロ本人は気付いていないだろうが、あの思想とそれを押し通すだけの知略と武力は、外から見た者には余りに眩しすぎるのだ。

 

 世界政府の旗よりも。

 

「……おそらく、出来るだろうな。なにせ新世界に入った事もなかった奴が、こうも的確にこっちの時勢を読んでみせたんだ」

 

 白ひげの手元には一冊の書物がある。

 多数の紙を紐で縛っただけの、だが間違いなく書物といえるだけの価値がある一冊。

 

 魚人島を脱出してから出発までの間にクロが合間を見て書き上げた、領内整備の教科書と言える直筆の書だ。

 

 生産活動の活性化に関する草案の数々、物が増え過ぎ民衆の生活に影響が出た際のパターンとその対処法、食料生産に長けた新世界の国家のリストや率先して白ひげに頭を下げに来るだろう国家とその分析、抱えている問題等々。

 

 今後白ひげ勢力が必要となるだろう情報や対処法が書かれていて、その内のいくつかはすでに書かれた通りの事が発生しつつあった。

 

 国家の情報に関しては聖地で得た情報なのだろうが、それでもこの一冊にまとめられているそれは、下手なお宝よりも価値がある。

 

 あまりに有用なために絶対紛失してはならないとマルコの命令で写しが大量に作られる程だったし、それで出来上がった写しの本を部下のティーチが珍しく本気で欲した程だった。

 

 クロの知見は、歴戦の幹部達を心底驚かせていた。

 

 クロが予測した国家が、予測した順番どおりに白ひげ海賊団へと接触を求めてきている。

 クロが予測した通りの理由で頭を下げてきて、余裕がないのを必死に隠して言葉を飾り立てるが、実質助けを求めて来た。

 

 

「今度奴と会う時には、楽園側に相当な勢力圏を作っているハズだ」

「それを起点に、楽園側と新世界側双方から攻め込む」

「……それまでの間に政府の戦力を削る必要があるな」

「なら?」

「グラララ……。クロはどうもピンと来ていないようだったが、あの『三本爪』の旗と組んだという噂は十分に使える」

 

 

 

「準備を進めておけ、マルコ」

 

 

 

「俺達で新世界の海軍を取り込むぞ(・・・・・)

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

―― うわぁぁぁぁっ! やめろ! やめてくれママ!!

―― 駄目だ、何も見えちゃいねぇ! 食い煩いだ!!

―― よりによってこんな時に!!?

―― 不味い、船が!

―― 誰かブリュレを抱えて向こうの船に! ブリュレ! 皆を鏡の中へ!! 急げ!!

 

 魚人島に急行するだろう白ひげを攻撃し、討ち取った上で政府から堂々と魚人島を手に入れる。

 勝算はあるはずだった。

 こっちは事前に政府から情報をもらっていたために白ひげと違って余裕をもって艦隊を出せる。

 

 ママは『大方天竜人が馬鹿をやった上になにか(・・・)が起こって動けなくなったために、自分達を動かそうとしている』と読んでいたが、それでも旨みは大きいと言っていた。

 魚人島はレッドポートと凪の帯(カームベルト)を除けば唯一の新世界への出入り口。

 ここをビッグマム海賊団が直接押さえる意味は大きいと。

 

 だが、結局それは叶わなかった。

 白ひげ――エドワード・ニューゲートは恐ろしい程に『化け物』だった。

 そしてそれを支える隊長クラスは、将星と同じく精強だった。

 

 数で圧倒的に勝っていたにも関わらず膠着状態になり、戦いが長引いた時にそれが起こった。

 

 食いわずらい。

 

 滅多に起こらないが、一度発生したら街だろうが城だろうが人ごと(・・・)食い荒らしていく最悪の人災。

 海賊シャーロット・リンリンの持つ最悪の発作が、長い戦いの中での強烈な空腹状態で発生してしまった。

 

「クラッカー」

「……ああ、カスタード」

 

 結果、ママは敵味方の区別なく周囲の船ごと食らい始め、自分達は海へと落下してしまった。

 食いわずらいだけならばどうにかなったかもしれないが、その時はよりにもよって白ひげとの戦争中。

 能力や覇気が飛び交う中――さらに言えばすでに陽がほとんど沈んでいたのも良くなかった。

 戦いの余波で起こった高い波に足を取られ、能力でどうにかしようにも二重の意味で水に弱い自分の能力では届かなかった。

 非能力者である三つ子の姉が飛び込んでくれなかったら、自分はとっくに魚の餌になっていただろう。

 

「もうすぐ上陸だ。船を着けて陸に上がったら、用意した私達の家へ案内してくれるということだ」

「……何から何まで、世話になってしまっているな。海賊とは思えない程至れり尽くせりだ」

「普通ならば、ママ――ビッグマム海賊団の目を気にしての事だろうが……」

「そんな事を気にする海賊団ではないだろう。カスタード、この一味は――強い」

 

 気が付いた時にはこの船の病室に運び込まれており、その時には当然本来見せない自分の姿はそのままだった。

 港に着く前には再び能力を纏い隠すが、黒猫の面々には知られてしまっている。

 その上で何も問わぬのは、この一味の頭である年下の少年が手を回してくれたからだと聞く。

 あくまで海賊であるからどこまで信用できるかは分からないが、病室に入る人員を最少にした上で緘口令を敷いたらしい。

 

「そうだな……。まさか、『冥王』が鍛えた戦力がこれほどゴロゴロしているとは」

「親衛隊の一人と試しに軽く戦ってみたが、もう少し戦えば恐らく鎧が割れていた。――いや、斬られていた」

「! それほどまでに?」

「ああ。本人もそう感じたのか手を止めてくれたが……恐ろしい一味だ。この質の高さはロジャー海賊団を思い出す」

 

 さすがに幹部勢と親衛隊という手練れの精鋭部隊は知っているが、命を助けてもらった以上ケチは付けられない。

 そもそもキチンと手当てをして食事を出してもらうだけで十分すぎるのだ。

 

「それにしても、えらく歓迎されているな」

「海賊らしくなく?」

「……フフ、ずっとその言葉しか出て来ないな」

 

 もう間近に迫った港には、多くの人間が集まっているのが分かる。

 海賊かと思いきや、集まっているのはどうも普通の人間だ。

 中には黒猫の一味らしい、ここしばらくの航海で見慣れた黒いスーツの人間や魚人が整理をしているが、それ以外はごく普通の町人だ。

 

 いや、人混みの最前列。

 もっとも整列された中には、恐らくもっともあの少年海賊を慕う一味の者達だろう。

 

「……例のニコ・ロビンもいるのだろうな」

 

 姉のカスタードは、憂鬱そうにボソリとつぶやく。

 かつて、それこそ西の海への遠征すら考える理由であった賞金首。

 ママが執拗に欲している――正確には欲する『知識』を有する少女。

 

「カスタード。俺達が黒猫に助けられた事を、ママはどう思うかな」

「……少なくとも、恩義は感じるハズだ。ママはだからこそ、他にいる殆どのロックスの残党を押さえて大海賊なんだ。ただ――」

 

 姉妹の中でも相当な美人に入るカスタードは、物憂げにため息を吐く。

 

「欲しい物を全て手にしてきたからこそ、大海賊でもある」

 

 この半月ほどの航海で、カスタードが黒猫に心を開きつつあるのは知っている。

 海水に浸かったまま無理やり能力を不眠不休で一月近く行使し続けた結果、衰弱しきっていた自分を支え続けてくれていた彼女もまた衰弱しきっていた。

 

 どちらも億越えの賞金首で、名を上げるにはビッグマムの気を引きすぎるだろうが、それでも大金になる。

 自分は顔を知られていなかっただろうが、それでも殺せばビッグマムの戦力は大きく減った。

 あの時の自分達は、それこそ幼子でも容易く殺せただろう。

 白ひげに大敗した今、自分達の喪失は尚更重くのしかかったハズだ。

 しかも聞けば、黒猫は白ひげと半同盟関係にあるという。

 ならば尚更自分達はいい手土産になっただろうに拘束一つしなかった。

 

「なんにせよ、向こうの拠点に着いたら電伝虫を貸してもらえる。後はママと――」

 

 

「総督次第だ」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「やれやれ。あのゼファーさんをぶっ飛ばしたとは聞いていたが、随分と男前になったな」

「そういうキャプテンは黄猿を蹴り飛ばしたのだろう?」

 

 帰港次第、しばらく見ていなかった顔が全員港に兵を並べて待っていた。

 ダズ、ロビン、ベッジ、ミホーク、テゾーロにステラ、ハチ。寝返ったとは聞いていたがビグル大佐――元大佐を始めとするかつて肩を並べた海兵の皆。

 

 サンダーソニアは残念ながらいなかった。

 俺のコードを読み取り制圧した島の防衛のためだ。

 

「ああ。海軍大将を足蹴にしてしまったんだ。……だからこそ、殿下には控えて欲しかったんだが……」

 

 港に降り立った途端に、駆け寄る人間がいた。

 最初は一味の誰か――それこそロビンあたりかと思っていたのだがそれにしては大きかった。

 とっさに身体に力を込めて抱き留めたのは、姫殿下だった。

 

 この国の実質代表である、シャンティリー王女殿下だった。

 

 道理で兵隊がガッチリ固めていたハズだわビックリしたわ!

 ビグル達陸軍に振り分けられた兵士がガッチガチに緊張するのも当然だわ!

 

 おかげで護送も兼ねた即席の凱旋式を開く事になり、姫様とロビンに挟まれて馬車で城まで帰ったけど滅茶苦茶疲れた……。

 笑顔のままアチコチに手を振るの疲れるんだよ。包丁握っている方がよっぽどマシだ。

 

 大丈夫かな。モプチが非加盟国どころか反政府国家とか言われたりしないだろうな?

 もしそうなったら滅茶苦茶困るぞ。

 

 主に西の海の海軍戦力が。

 

「無理もあるまい。キャプテンの懸賞金が跳ね上がった時など、どれだけ政府に追われる事になるのか、あるいはこの国を見捨ててしまうのではないかと泣き腫らしていたぞ」

「安心しろ、数年はこっちのターンだ。海軍が何も出来ないうちに手を打ち、西の海の制海権を確保する。殿下も直に安心されるだろう……改めて謁見してある程度方針を説明しないとな……」

「ああ、そうしたほうがいい」

 

 ロビンが「ちがう、二人ともそうじゃない」と呟くのが聞こえたが問題ない。

 この国を見捨てる事は断じてない。

 今の戦力――それこそ俺を迎えに来てくれたハンコック達の戦力だけでも打てる手はいくらでもある。

 ヒナやドールに加えてイッショウまでいるのならば、それこそ無数に。

 

 仮に頂上戦争張りに戦力引き連れて全面戦争になったとしても、この西の海での迎撃戦なら半年で本部主力を壊滅に追い込んで――いや、削り倒して見せるさ。

 

「さて。改めて皆、久しぶりだ。私が不在の間、よく西の海を守ってくれた」

 

 縄張り――とは言わない。

 誇張無しでマジで西の海を守ったんだ。

 スーペリア事変のあと、スーペリア・リガロの混乱を放置していたら物流網の更なる滞留が起こる可能性が極めて高かった。

 あの時エリアAに設定したのもあって、被害度が明らかに低い国家群が集まっているあそこで混乱が広がればマジでとんでもない事になっていた。

 

「まずは改めて状況を確認したい。スケジュール的に定例会からそう時間は経っていないようだが、改めて頼む」

 

 

 

 

 

 …………。

 

 

 

 

 

 

 やってくれたなあんの鶏野郎!!???

 

「偽札とは……やってくれる」

 

 まさかいきなり俺の想像を超える一手を打たれるとは思わなんだ。

 コレ相当前から用意してやがったな!?

 

「まだ量は少ねぇが、それでも確実に出回り始めている」

「ベッジ、発見した場所は?」

「おう、当然記録している」

 

 もはやお決まりとなった透明なシートが西の海の全図の上に重ねられる。

 ……レッドポート寄りの島が多いな。

 レッドポートをどうにか抜けられた交易船の中に混じっていたか?

 あるいは、海軍の中にばら撒いたか?

 発覚しても、海軍が偽札をばら撒くほどに政府は力を落としたという武器になり得る。

 

 ……もしそうなら、すでに相当の数の奴の手先が海軍に潜り込んでいるな。

 さすがに行動を左右できる程の階級にはまだいないと思うが……。

 

「おそらく、西の海で出回っていないのはそもそも効果が薄いと判断してあまりばら撒いてないからだろう。むしろ範囲は狭い方だ。だが、交易船か海軍艦が来ただろう街で偽札が出まわっているとなると……」

「…………他の海では、すでに相当な偽札が出まわってしまっている??」

 

 ねぇヒナ。

 スパイを自称するんならもうちょい立ち位置考えろや。

 なんで堂々と俺の横にいるんだよ。

 

 …………。

 

 あ、ん? いや、スパイだからいい……のか?

 

「まぁ、ヒナの言う通りだ。ますます政府は打つ手が無くなった。こうなっては加盟国の統制どころか軍艦――いや砲弾1ダース揃えるのにすら滅茶苦茶苦労するぞ」

 

 純粋に敵対者としてなら「ひゃっはー! ざまぁみろ!」で済むんだけどそうはいかない。

 これまで中間層に属していた者達すら一気に生活が危うくなる。

 つまり貧困層が増大するという事で、それはつまり賊徒になるまで追い詰められる人間が多く増えると言う事だ。

 

「これを解決するには、いよいよ本格的に我々独自の経済圏を組み立てる必要がある――ベッジ」

「印刷機だな? できるだけ精度の高い、真似るのが難しい物を作成できる物」

「それと紙。偽札の対策は当然並行してやるべきだがまったくの新札、新通貨は経済基盤と合わせれば強い武器になる」

 

 製紙ギルドは確かリガロにあったハズ。

 この後リガロ王に置いて行かれたという王女やそのご子息に謁見した際に、相手の利益を保護した上で人員をいただけないか交渉してみるか。

 

「テゾーロ」

「流通の段取りですね?」

「まずはやはり食料や燃料が妥当だろう。今の配給券に追加して、夏を目安に発行した紙幣でそれらの自由売買を開始できればと考えている」

 

 テゾーロ――俺がいない間に一児の父になる事が決まった男が考え込む。

 

(……軍事面も合わせて考えれば、出来るだけ早く経済面の根っこを作ってから勢力を拡大させたいんだが……やっぱり無茶があったか?)

 

 やや自由度の高い配給券というデモンストレーションがあるとはいえ実物もまだできていない。

 デザインすら本来、年はかかる仕事だが……。

 

「……紙幣となれば偽造の対策などの問題もありますが、なにより信用を付加するのにより時間がかかります。無論準備は整えますが、まず新規通貨の作成と定着を目指すのであれば、少額硬貨――例えば銅貨などの用意を優先する方がいいと考えます」

 

 …………。

 

 言われてみればそりゃそうだ。

 紙の束突然渡して「これはお金として使えます」っていうより、銅なり銀なりそのものに一応の価値がある物でやった方が話早いに決まってるじゃん。

 

 特定の交換目的を持たせていた配給券とは全く違うんだ。

 

「資材はあるのか?」

「えっとね、キャプテンさん。人魚さん達のサルベージで銅と銀ならそこそこ溜まってる。建築にも武器にも使わないから、全部こっちとモグワの倉庫に保管してあるよ」

「加えて、先の話になりますが我々の庇護下に入る事を希望している国家の中に、鉄や銅の鉱山を所有している国家があります。後ほど再編の議題時に報告するつもりでしたが、これらの国には部隊を先行して駐屯させておりますので、ご命令さえ頂ければすぐにでも作業用意に入れます」

 

 テゾーロ、よくやった!

 

 いや……本当によくやってくれた!

 

 イカン、細部を詰める前に聖地に行ってそっから経済基盤に関してはふわふわ~っとした考えだけで、しかもずっと現場を見ていなかったから完全に地に足ついてなかった。

 ストッパーいなかったら無駄足踏むところだった。

 

「鋳造設備はすぐに用意できるのか?」

「元々鉄工所に人員を確保してありましたので。……そうですね、シンプルなモノで良ければ秋口までには形にしてみせます」

「……よし、それでいこう。いい献策だった。テゾーロはしばらくそっちの手配に専念してくれ。領内の経済調整は他の者を選び、引き継ぐように」

「ハッ」

 

 どうせしばらくは金儲けよりもいかに最高率で各地に物と人を運ぶかの方が重要になるからこれでヨシ。

 生産についても現段階で全員で頭を悩ませるほどの問題は……あるっちゃあるけどとりあえずは現状維持からの経過観察。

 ロビンのまとめた資料でも、耕作地は計算上難民もギリギリ食わせられる量の取れ高が見込める。

 まだ扱いの答えを出していないが、娘すら差し出すと言っている国家からの収益を含めればそれなりに余裕を生み出せるだろう。

 

 むしろ問題なのは現地住民や王族との交流と懐柔の方で、つまりは――

 

「次に軍事。知っている者もいるだろうが、タキを第二艦隊提督に任命。主にこの西の海の治安維持を主任務とする艦隊を編成し、これを拡大させる」

 

 まずは俺達の存在意義のアピールだ。

 

「勝負はこの三年間だ。三年で領海内部を落ち着かせ、かつての安定を取り戻す。偉大なる航路(グランドライン)に入るのはそれからだな」

 

 ……やっぱり元海兵組に大受けしているな。

 ヒナとドールは苦笑しているし、タキ爺ちゃんは再び大笑いしている。

 ずっと顔が暗かった46番基地にいた将校も、少し顔が明るくなってきた。

 

「同時に陸軍も拡大させることが急務になる。これから先、陸軍なくしてはやっていけないからな」

「……クロ、陸軍の役割は分かったが、それでもまだ実験部隊ならば海上戦力を大きく強化すべきじゃないのか? 増えるのは海賊だろう」

 

 クロコダイルがそう疑問を口にするが、

 

「例えばだが、千の兵士がいる島を数人で攻めようとするか? 能力者とかはさておき、武器頼り数頼りの駆け出しの海賊が」

「……なるほど。防衛力をひけらかして雑魚の襲撃を減らすのか」

「公開とか強調って言えよ」

 

 言い方は大事だぞクロコダイル。

 

「で、改めて各部隊の編成と運用。主に現在我々の縄張り入りを希望する国の防衛体制を決める訳だが、その前に――クロコダイル」

 

 お前には大事な役割があるんだから。

 

「編成待機中の兵士500名に、訓練中の新兵100。現在改修中の大型海軍艦一隻に改造商船二隻、輸送船一隻をお前に預ける」

 

 会議を起こす前に幹部級・準幹部級には話を通している。

 

 ポカンとしているけど、間違いなくお前にしか出来ない役割だ。

 親衛隊でも艦隊を編成するけど、それとは別個に自由に動ける攻撃隊が必要になる。

 

「ハンコックやタキと協力して、年内にモノにしてみせろ。……意味は分かるな?」

 

 

「――クハハハハハ……」

 

 理解が追いついたのか、美味そうに葉巻の煙を吐き出して笑い始める。

 

「一度は敵対した海賊にか?」

「そもそもダズやベッジ、ミホークとは刃を交えている。今更だ」

「……俺に出来ると?」

 

 バロックワークス率いる事になってたっていう原作知識もあるけど、お前帰りの船の中でハンコックから可能な限りの知識を吸収しようと必死だったじゃん。

 

「出来る奴にしか言わん」

「クッハハハハハハハハ!!!」

 

 ……なんか、本当にイメージと違うな。

 こんなに大笑いする奴だとは思ってなかった。

 正直、もっと他の仲間との調整が必要になるかなと思っていたけど……。

 

 

「本当に……どこまでも生意気な男だ……」

 

 

 

「ああ」

 

 

 

「了解だ、総督(・・)

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