とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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157:開戦の狼煙

『先の西海海戦における活躍。並びに重なる哨戒活動における治安維持、魚人島攻防戦での魚人警護の多大な戦功を認め、ここに貴官を第二艦隊提督に任ずる』

『ハッ!』

『続き、ビグル。同じく西海海戦での戦功に続きスーペリア・リガロ解放戦、同スードッグ島の治安維持と開発における幅広い活躍・功績を認め、ここに貴官を陸軍第一師団団長に任ずる!』

『ハッ!』

 

 新たな艦隊、新たな師団の設立を祝う式典が、かつては荒れ果てていたモプチにて豪華絢爛な装いと共に催された。

 

 ギルド・テゾーロの提言で編成された、陸・海両軍楽隊によって演奏される行進曲。

 それに合わせて市街地を行進し、その勇壮な姿を見せる兵士達。

 

 かつてよりも華美に行われた提督受任式は、内外に黒猫の威光を知らしめるための盛大な祭りとして開催されていた。

 

 各国から来た姫たちも思い思いに着飾って参加し、その存在を知らしめた。

 黒猫という海賊団の下に、どれだけの国家が共に歩もうとしているのか。

 

 モプチの民や魚人達はそれを見て、黒猫がより大きくなることを――そうすればより暮らしが楽になるという確信をもって、日々の生活への希望を取り戻しつつある。

 

 巨大なネプチューン陛下も、さすがに馬ではなく特に膂力に優れた魚人達が担ぐ神輿に乗ってだが皆に手を振ってる。

 オトヒメ様もその横で手を振っているが……うーん、陛下が目立ちすぎる。

 王子様達もだ。陛下のインパクトがデカすぎる。

 いずれやり方考えないといけないな。

 

 とまぁ、まだまだ課題があるとはいえシャムロックという街のおかげで魚人や人魚に慣れている民衆は、ただ大きさに驚いているだけのようだ。

 酔っ払い程度しか今の所問題はない。

 魚人に対して害意や敵意も視えない。

 

 この様子ならば、オトヒメ様からここ最近突き上げられていた共存政策も、一段階目まではGOサインが出せるかもしれない。

 

(……にしても、思った以上に姫様達は全員覚悟が決まっていたなぁ)

 

 後続の馬車に乗って手を振っている各国の姫様達は、やはりというか俺に身を捧げる覚悟でモプチに来ていた。

 式典が始まる前にオハラへの私掠艦隊出撃は報せているが、不安げにする娘はいてもオタつく娘はいなかった。

 

 もうこの時点でこの前の天竜人よりも有能だわ。

 

 それどころか、王の名代として要請があり次第兵を送る事を約束する姫様までいる始末。

 有難いんだが覚悟が重すぎて胃が……胃がもたれる……。

 

(兵力や物資が乏しい国でも、なにかしらの形で誠意を見せようとしている。生き残るために相当考え抜いている。……ますます無下には出来んな)

 

 少し前の帰還パレードの時同様、馬車に揺られながら民衆に対して手を振るのと同時に今後を考える。

 自分達に続く馬車に乗って、同じように笑みを浮かべて手を振っている各国の姫――特に、今後を見据えて実利のある手土産を持ってきた姫の一人。

 

(特に、グリンヒルのテレーズ姫殿下。グリンヒルは小国で土地も人も少ない。おまけにこちらの提言に王は即座に礼を言っていたから、近場の他国に基地を設けて哨戒範囲に入れるのがギリギリ許容範囲かと思ってたんだが……)

 

 ある意味で、兵力や弾薬の提供を約束していた国よりも重視する必要が出て来た。

 姫自身が来たことに加えて、豊かではない国土から持ってこれるだけの有用な物資を持ち込んだ。

 さりげに城内の侍女に接して人柄などは伝わっているし、わざわざ緘口令を敷くわけにもいかない以上、民衆にも直にテレーズの噂を通してグリンヒルという国の存在が伝わるだろう。

 

(……切れるな。敵には回せん)

 

 木材という大きな土産は現場の人間を喜ばせているし、それがどこからの物かは当然知っている。

 というか、本人が直接魚人も含む港湾作業員に礼を言って回っている。

 生産管理の班員からは相当に好感を抱かれたハズだ。

 これでこの国に被害が出れば、黒猫の看板に傷が付きかねない。

 

 だからこそすでにマリーゴールドの部隊に親衛隊一組付けて送っているし、その地に掲げるための旗も持たせている。

 

 小国である事を逆手に取り、黒猫勢力圏に於いて意味のある地域へと塗り替えて見せたその手腕。

 

 頼もしい。

 

 実に頼もしい。

 

 頼もしすぎて吐きそう。

 

(おかしいな……頼りになる味方が出来たのは間違いないのに、心が全然休まらないぞう?)

 

 今送られてきた私掠艦隊しかり、オハラしかり、もう悲壮な決意と覚悟を持ってモプチに来ているお姫様達しかり――

 

 ずっと俺の横で、ニコニコしながら手を振ってる姫殿下しかり。

 

 ……殿下。

 

 あの、殿下?

 

 なんでずっと腕を絡めているんでしょうか。

 ちょっと動きづらいんですが……殿下?

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「さて。皆式典の準備に参加、ご苦労だった。テゾーロもよくやってくれたな。これだけの規模の式典が開ければ、モプチの民も国力の回復を強く実感してくれただろう」

「総督にそう言っていただけるとは……。ありがとうございます」

 

 式典そのものは終了したが、祭りはまだ続いている。

 外の大通りにはベッジが用意した屋台が立ち並び、皆思い思いに買い食いや酒を楽しんでいる。

 

「本来ならば我らも楽しみたかったのだが……世界政府が空気を読んでくれなくてな」

「むしろ読んだからこその嫌がらせなんじゃねぇか?」

 

 集まっている幹部勢が、ペローナの皮肉に笑い始める。

 客将であるが地味に古参組と言っていいミホークはもちろん、シャーロット家の二人もだ。

 

 姫様達は全員、親衛隊の面々が急遽建てた屋敷へ案内している。

 式典で決して悪い扱いをしないと態度で示したが、念のために主に女性で構成されている親衛隊が世話をする方が向こうも気が楽だろう。

 古参の兵である事も知られているだろうし、なんなら色々聞かれているかもしれんがそれはそれで好都合だ。

 ミアキスとフレアが指揮を取っているのならば十分対処できるだろう。

 

「ま、今ペローナが言ったのは正しい。今回のオハラへの出撃は俺達への嫌がらせ――遅延工作も含めた一種のハラスメント攻撃だろう」

「……前回、キャプテンがオハラを見せ札にしてあの島を奪ったのがよほど気に入らなかったのか」

「? 今あっしらが工事を進めている島ですかい?」

 

 防衛はハックに加えて、リュウグウ王国正規兵が就くという事でイッショウもこちらに来ている。

 ついでにネプチューン陛下にオトヒメ様も来ている。

 できればタイガーにもいて欲しかったんだが、タイガーは島船(・・)の防衛任務に就くと言って向こうに行ってしまった。

 ……幹部と言わずとも、魚人達の取締役の一人として残ってほしかったんだがな。

 

「あの島は隠れ家的な存在だったために行き来こそ不便だが、開発可能な土地が多くある。雨さえ降れば水を貯めてくれる山もあったし、水源もある程度は確保できる」

「なるほど……我々にとって喉から手が出るほど欲しかった物は、政府からしても欲しかった物だったという話ですか」

 

 まぁ、そもそもこの海洋世界だと、重視しなければならない物なんだけど……。

 

「……土地と人。自ら使い潰してきた物を今更になって必死に掻き集める。……世界政府め、なんと無様な姿か」

 

 ハンコックが吐き捨てた言葉に、幹部数名が力強く頷く。

 魚人島攻防戦を越えてから、ハンコックの中で世界政府は油断できない大勢力から唾棄に値する勢力に変化したようだ。

 俺も政府には怒りを感じているが、ともすればハンコックはタキ爺ちゃんと同じくらい政府に対して憎しみを持っているかもしれん。

 

「ま、それとは関係なく西の海で俺達をフリーにさせたくないってのがデカいんだろうが……」

「いっそ主殿に任せた方がまとまるわっ! どれだけこの海の安定に尽力したと思うておるのかっ!!」

 

 敵がオハラに向けて出陣したという情報が入った時には、先行させてほしいという嘆願が何回来たことか。

 

(……まぁ、怒り狂っている理由は、可愛がっているロビンの故郷が踏みにじられる事に対してなんだろうけど)

 

 現に今も、ロビンを膝に乗せて力強く抱きしめている。

 ほぼほぼ三人目の妹と言わんばかりに可愛がっているのだ。

 その故郷がよりにもよって私掠艦隊――ハンコック風に言えば下品な輩に踏みにじられるのは腹立たしい事この上ないのだろう。

 

「すまん、ロビン。これに関しては俺の失態だ」

「う、ううん! キャプテンさんが失敗なんて――」

「いや、俺の読みが間違っていた」

 

 シキの島は今後を考えると絶対に欲しかったから優先したが……。

 まぁいい。こうして見ると、政府か海軍の狙いも読めて来る。

 

「政府のオハラ再制圧にはやっかいな意味がある」

「……お前がさっき言った通り、軍事的な嫌がらせか」

「そうだ」

 

 嫌がらせ。

 言葉にすると幼稚に聞こえるが、侮る事は出来ない。

 

「後日改めて表敬訪問の中で形を作っていくが、我らは現時点で二十一ヵ国を庇護し、そして相互に協力し合う関係になった」

 

 こちらは軍事力と緊急事態での援助を。

 向こうは定期的な物資や金銭を渡す互助関係だ。

 

 強い軍権を持つこちらがどうしても強くなってしまうが、今は武力がモノをいう時代。

 いや、だからこそこちらの責任がすげぇ重いんだが。

 

「そして今回の式典。これから各島の海域で行う観艦式や陸軍による公開演習、行進式を見て、我々の庇護を求める国は更に増えるだろう。だが――」

 

 いつも通り地図の上に、駒を置く。

 モプチの上に王将の駒を。

 そしてそこから離れている、だが一直線に行ける島――オハラの上に桂馬の駒を置く。

 

「オハラに政府戦力が常駐することになった。しかも私掠艦隊の連中となれば――」

「近海の航行は危険ですな。特に、非加盟国は」

 

 加盟国ですら航行を控えるだろう海域に、非加盟国が船を出せるわけがない。

 加盟国がウチに接触を試みるならば他国・他島を経由するという手段も取れるが、島=自国でありかつ他のツテが限られる非加盟国では、航路の自由度が段違いなのだ。

 

「つまり、これは黒猫の勢力拡大を抑制するための部隊駐留。そういうことだな?」

 

 ミホーク――先ほどまで久々のモプチの耕作地を見て回っていたために、会議の場では珍しくツナギのまま来ている男が呟く。

 なんかシャーロット家のお二人が目を点としているが慣れてくれ。

 

 …………。

 

 うん、すぐに慣れるさ。

 特にクラッカーは。

 しばらくの間はミホークと組むだろうし。

 

 大丈夫? 君もツナギいる?

 

「そうだ。非加盟国から俺達への接触を減らすための駐留だな」

「なら先にこっちで占領したらよかったんじゃねーか? クロの事だから一応計画は立てていたんだろう?」

 

 ……あぁ、うん。

 確かに一応立ててはいたんだけどね、ペローナ……。

 

「いや、オハラは小さくない。勢力として若い我らにはより多く威名が必要である以上、一度兵を上げれば維持せねばならんが……。そうすれば現状の兵力では勢力圏の維持で限界になる」

 

 ペローナの疑問はもっともであり、それに対して陸軍師団を率いるビグルが異を唱える。

 

「加えて完全な基地にするには広すぎ、ならば開発地として島を維持するしかないが、それも民衆がいない以上難しい」

 

 そこに、島の管理面からミホークが口を挟む。

 そうだよ、オハラの面倒な所は島民が皆無なことだ。

 ある意味で一番重要な資源がない。

 あの島を開発するには、余所から開拓移民を募るしかないんだ。

 

 手にするには旨みがなさすぎて、だが敵の手に渡ると面倒極まりない。

 こうなると総合国力で大きく勝る世界政府の方がどうしても動きが早くなる。

 

 一応オハラ占領策もあった。

 ただし、その場合近隣国への外交行脚地獄になって開拓移民の確保やら物資の調達やらで俺とテゾーロは倒れるギリギリまで頑張る事になっただろう。

 

 オハラとほぼ条件が同じシキの島を優先したのは、現地での調達が楽だと言うのが一点。

 そして近隣に島が全くないため、防衛や影響面で見て楽だったというのが大きい。

 

 オハラの場合だと、バスターコールが起こってそれほど経っていないのもあるし、周囲の影響力を考慮する必要が大きかった。

 

 だから後回しにしたんだが……。

 

「敵戦力は数でみれば中々。魚人島攻防戦を見るに、偉大なる航路(グランドライン)クラスも入っているだろう」

 

 中々に上手い一手だ。

 

 …………。

 

 さすがに馬鹿やりすぎて政府も尻に火が付いたか!

 頼むからそのまま燃え上がってくれよ!!

 

「となれば、こちらも戦力を割かざるを得ない」

「排除し、制圧するのじゃな?」

「ああ。ただし、さっき言ったようにそれをするとオハラを使える土地にするのに時間がかかる」

 

 ちくしょう、面倒な一手を。

 

「だが放置するにはオハラという名は重い。せめて駐屯地を作らねばなるまい」

「その前に、あの島で戦闘をするなら、それなりの戦力を注ぎ込む必要があるガネ」

 

 本当に面倒な一手を!

 事前に制圧したらしたで、オハラは広いから防衛戦線を張るのクッソむずいし!!!

 

「……クロ」

 

 なんじゃいクロコダイル君。

 

「確かに戦力としてはやっかいだが、それでも倒せない数じゃない」

 

 せやな。

 

「……となれば私掠艦隊は、やはり使い捨てなのか?」

 

 せやぞ。

 

「クロコダイル、お前の言いたいことはつまり……使い潰すには早過ぎないか? って事かな」

「ああ、そうだ」

 

 …………。

 

 正直、俺も少しそこは気にかかっている。

 

「多分だけど、今回の私掠艦隊の出撃は海軍の意向があっての物だと思う」

「黒猫との戦争をか?」

「……というより、戦力を割く余裕が海軍にはないという事だ」

「再編がよっぽど上手くいってねぇのか」

「おそらく。ウチと戦いたくないってのも確かにあるだろうが、そもそも割ける兵士がいなかったのだろう」

「……なるほど。だが、使い潰されれば私掠艦隊の連中もどう動くか分からねぇぞ」

「うん。だから……多分」

 

 で、一つ……いや二つほど思い当たる事はあるんだが……。

 

「なにかしらの代用戦力に目途が付いたのだと思う」

「代用戦力?」

「……いくつか思いつくものはあるが、今は置いておこう。まずは我々の方針を示す。で、その前にだ――」

 

 さて。問題ないとは思うが、ここからは本格的に世界政府との戦いになる。

 これまでのように、グレーゾーンぎりぎりの所で手を結びながら――という事は出来ない。

 

「カスタード、クラッカー」

 

 俺の言葉に、最も早くウチに馴染んだカスタードが背を正す。

 

「諸君らはクイーン・リンリンより預けられた客将であり、我らの作戦行動に参加する事になる」

「ハッ」

 

 ……カスタード、ちょっと君馴染み過ぎじゃない?

 

「だが同時に、諸君ら二名には作戦の説明時に不服があれば、これを拒否する権利がある事を黒猫海賊団総督として、ここに宣言しておく」

 

 ……逆にプライド傷つけたかな?

 

「海賊団であればその目的は縄張りの拡大であり、勢力の拡大と安定だ。だが、我々はこれより本格的に、世界政府と事実上の戦争に入る。……場合によっては、ビッグマム海賊団にも影響が出るかもしれない」

 

 今から狙う所とか、バリバリの政府直轄地だからな。

 なんで海賊なのに思いっきり政府と全面戦争せねばならんのか。

 

「参加の判断は君達に任せる。その上で、まずは作戦を説明する」

「……ええっ!」

「あぁ。任せろ、総督」

 

 ……う~ん……断りそうにねぇなぁ、この雰囲気。

 

 まぁ、拒否権を全員の前で明確に認めるのが大事だからとりあえずは良し。

 少しでも手札は確保しておかねぇと。

 

「では、結論から言おう」

 

 で、今回の出兵を受けてこっちが陥とすのは――

 

「現在、私は二方面作戦を考えている」

 

 チェスのポーンを二つ用意し、ロビンの故郷の島を挟むように置く。

 

「一つは当然オハラ。大兵力が駐在するオハラを無視は出来ん。ここにそれなりの戦力を配備し封鎖。敵の動きを牽制する」

「上陸戦は?」

「未定だ。現場判断に任せる。オハラ戦はとにかく兵力を足止めするのが任務だ。本命は別にある」

 

 で、もう一つ。

 ナイトの駒を用意して、目的地の上に置く。

 

「我々が攻め落とすべきは――ここだ」

 

 …………。

 

 うん。

 

 すっげぇざわめいているけどそりゃそうだよね。

 

 普通海賊はこんな所攻めんわ。

 

 ただ、カスタード達はやる気満々なようだし問題なさそうだ。

 将としての能力が高いカスタードもそうだが、クラッカーが使えるのはデカい。

 

 よし、いける。

 さっそく細部を詰めよう。

 

 

 

 ……王女殿下、姫様達への挨拶を終えて、もう俺の部屋で待っているって話だし急がないとなぁ。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「私掠艦隊の連中はもうオハラに着いたかい?」

「ハッ、つる中将。三日前に到着。準備が整い次第、近海の非加盟国より調達(・・)を行うそうです」

「……坊やの動きは?」

「新設された艦隊の出航を確認しております」

「じゃあ、タキの?」

「いえ。そちらではなく、『砂漠の王』が率いる方です。……確認されていた船より数が増えているとの報告も」

「……クロコダイル。人の下に付くような男じゃないと思っていたんだけどねぇ」

 

 海軍は今現在、再編のためにアチコチを駆け回っている所だった。

 未だ残っている加盟国からの正規兵借り受け、予備役の一時復帰、残存新兵の訓練期間短縮、各防衛ラインの見直し、縮小など。

 

「……中将。黒猫はやはりオハラを?」

「必ず攻める。黒猫にとって、私掠艦隊は絶対に許しておけない戦力だ」

 

 なにせ略奪のための艦隊戦力である。

 本来ならば海軍こそが認めてはならない、政府戦力。

 

「ただ……今オハラを攻めれば、どういう方向にせよ黒猫の組織活動に大きな負担を掛ける事になる。坊やもそれを理解しているハズだが、さて――」

「……草案を描いたのは……メルセス伍長でしたか」

「今は曹長だよ。……大した子だ。黒猫の足止めを口実に政府に出撃を認めさせ、私掠艦隊――いや、政府戦力を坊やの手ですり潰させようだなんて」

 

 先日の魚人島攻防戦で『黒猫』指揮下の魚人戦力と互角に渡り合って見せた伍長は、人手が激減した海軍にとって貴重な人材となっていた。

 政府からしても、あの『黒猫』に競り合って見せたという事実は眩しく映ったらしく、帰還するやいなや、異例となる二階級特進が決定することになった。

 

「正直な所を申せば、黒猫には申し訳ない気持ちで一杯です。戦う事になる彼ら黒猫にも、その余波で犠牲になる者達にも」

「……そうだね。だからこそ、この時間を無駄にしちゃいけないよ」

「ハッ! 一刻も早く海軍を立て直し、偽りなき正義を掲げなければ……っ!」

 

 しばらく病院にいるセンゴクに代わり指揮を取る事になったつる中将は、部下の言葉に頷く。

 だが皮肉にも、それに最も邪魔なのは政府であり、その直属でありながら制御の難しい私掠艦隊の存在であった。

 

 

(坊やの一手によって、西の海の情勢はまた大きく動く)

 

 

(さて……どこに打つんだい? クロ坊や)

 

 

―― ドンドンドンッ!!!!

 

『緊急! 緊急! 黒猫海賊団が動きました!! 現在オハラ、ならびに政府要地に黒猫戦力を目視したとの報告が!!』

 

 果たして。

 待っていた――聞きたくもあり、同時に耳にしたくなかった報告が入る。

 

「入りな! どこが攻められてる!?」

 

 つるが考えていた一手は二種類。

 

 全軍を以ってオハラにて私掠艦隊と決戦。

 その勝利を以って周囲の国家を多く取り込むという手。

 

 そしてもう一手は――場所こそ思いつかなかったが、オハラに私掠艦隊を引きつけながら、どこかの海軍基地か要地を攻める事。

 

 果たして――

 

「ハハッ! 攻められて、いるのは……、――橋です!」

 

 慌てて走ってきた若い兵士が息を切らして報告するが、一部がそのせいで聞き取りづらい。

 兵士もそれを自覚していたのか、再び声を上げる。

 

「現在、ウエストブルーの橋の国(・・・)に、黒猫本隊! 並びに第一艦隊が接近しつつあります!!」




東の海の「テキーラウルフ」以外に「ウォッカウルフ」「ラムウルフ」「バーボンウルフ」があることは原作でも出ているんですが、西の海にどれがあるかは不明なのでとりあえず「――ウルフ」というふわぁっとした感じでGO!
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