とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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159:オハラ戦線。そして――

 オハラ。

 かつては考古学の島と呼ばれた、多くの学者達が集まっていた島にかつての賑わいはない。

 

 人が住んでいた町は砲撃とその後の放火で徹底的に燃やし尽くされ、住んでいた人間は脱出した船諸共海に沈められた。

 

 残るのは学者たちが必死に残した知識の残火と、それを支えて来た知の大樹。

 森すらほとんどが焼け落ち、アチコチには政府管理下の私掠兵に連れて来られた奴隷達が必死に建てた宿や酒場に、ガラの悪い男達が屯している。

 

「おい、いつまでここに居座りゃいいんだよ。連れて来た女達はもう飽きたぜ……飯だって変わりねぇし」

「インペルダウンにいた頃よりマシだろ。熱湯(くぐ)らされた挙句に飢え死にしそうなまま毒蜘蛛やらから足斬りながら逃げる真似しなくていいんだ」

「なにより、うかつに動けばあの『黒猫』が出るだろ」

「俺達には政府の御旗があるんだぜ!? それよりもさっさと近くの襲える国を襲おうぜ! 西の海の女は美人が多いらしいじゃねぇか! 非加盟国みてぇなチンケな国でも儲けられるぜ!」

「馬鹿野郎、その前に皆で楽しもうぜ!! 海軍のお目付け役もどっかいったんだぜ!?」

「それに黒猫領に近ぇんなら、ひょっとしたら迷い人魚が流れるかもしれねぇんだ! しっかり見張ってろよ!!」

「そりゃいい! いいツラの可愛い子ちゃんなら歓迎してやらなきゃな!!」

 

 かつては学者が多く知的な雰囲気が強かったその町が、数日で完膚なきまでにならず者の国となってしまっている。

 

 その生活を支えなければならない奴隷達は、手足を枷で拘束されたまま適当に繋がれており、地べたに横になって目立たないように休息を取っている。

 目立てば男なら銃や刃物の的役に、女ならば、あるいはもっと悲惨な目に遭いかねない。

 

 静かに、静かに。

 死んだ方がマシな世界の中で、それでも生きるために。

 死んでいるように息を潜めて、疲労しきった身体を少しでも休めていた。

 

 

 そのオハラの反対側の区域。

 碌に見張りがいない、警戒の薄い地域では――

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、敵は内陸部に警戒網を設定していなかったね」

「ただここに私掠兵がいるだけで意味がある。逆に言えばそれだけでしかない……ってのが総督の言葉だったっけ――かっと!」

「黒猫内なら駐屯責任者が吊し上げられるレベルよ。アイツら、黒猫のお膝元でよくも呑気でいられるわね。疑問よ。ヒナ疑問」

 

 当初の予定を変更し、上陸してからの潜入・挟撃作戦が進められていた。

 

 敵私掠兵の主力が集まっているのは、黒猫領――モプチの方面を見据えた浜辺側。

 

 その方面で頻繁に動く新造艦隊――砂漠の王と名高いクロコダイル率いる艦隊に気を取られつつも好き勝手やっている私掠兵を尻目に、ニコ・ロビンを中心とする部隊は――

 

「おかげで気付かれずに作業が出来るよ。土が入ったバケツはどんどん後ろに送るから、手の空いている兵士さん達は塹壕の補強をお願いします」

 

 ひたすらに塹壕を掘り進めていた。

 土を掘り進め、木材で側面を補強し、一定間隔で飛び出せるように梯子を設置し、所々に休憩できる大きさの地下壕を掘りながら先へ先へと掘り進めていた。

 

 なお彼らは海賊である。

 

 その陰で野砲や銃火器、弾薬も密かに運び込みながら、数だけは多い私掠兵を徹底的に削り倒すための陣が、私掠兵達が飲んで騒いでいる後ろで築かれつつある。

 

「敵が動いたら私には分かるし、その時はクロコダイルやキカさんの艦隊がすぐに駆け付けて牽制に入るから大丈夫。ドンドン掘り進めて」

 

 本来ならば、作戦の主軸は海上砲戦。

 徹底的に敵の船を削って、余所に私掠兵が行き来する可能性を減らそう、と。

 

 だが、その際多少でも必ず動くと読んでいた海軍に増援の動きが全く見られない。

 それどころか、明らかに基地から艦船が減っている事が分かり、作戦の見直しが入った。

 

 まず考えられたのは罠。

 動ける兵数を減らしたように見せて黒猫の動きを誘導している可能性が真っ先に議論に上がり、そのため偵察も念入りに行っていた。

 

 だが、近隣の基地はもちろんオハラにも、最初に一度大規模な補給が行われて以降輸送船すら出ておらず、出航用意すら見られないと言う事で作戦の見直しが入ったのだ。

 

 すなわち――喰えるのならば、喰う。

 

 今彼女達は敵陣からもっとも遠い地域から全力で、ジグザグの塹壕網をアリの巣のように掘り進めている。

 

 適切な広さの通路を掘り進みながら、その側面にはロビンのハナハナの能力による手が等間隔で伸びて、兵士達が掘り進める度に土砂で一杯になった大きな作業バケツの数々を休みなく後方へと送り続ける。

 さすがに最後尾までは無理なので、後方では陸軍分隊の者達が敵の進軍に備えながら、運ばれた土砂を更に後方へとリレー方式で送り出している。

 

 本来ならばさすがに音で気付かれる所だが、幸い私掠兵達はほぼ全員が酔っており、時には喧嘩などで暴れたりして常に騒いでいた。

 

 時折酔ったその足でこちらまで来る者もいたが、それはハンコックが作戦の補助にと派遣した第一艦隊の黒刀持ちによって、血痕一つ残さず静かに処理されている。

 

「まったく、黒猫として初めて参加する作戦が陸戦――それも塹壕戦なんて。ヒナ驚愕よ。驚愕」

「むしろ総督らしい。向こうもそうだけど、ここらで訓練を終えた兵士達に船とは違う集団戦を経験させようって事なんだろう。今後は他国の兵士が交ざる事もある。その前に訓練ノウハウを実戦で試して、より洗練させるためにね」

「問題点の洗い出し――っと! 新兵がどれほど実戦で恐怖を覚えるかっ、ね! ……もう、ちょっとここ硬いわね……ごめんなさい、ドール。そっちのピッケル貸してちょうだい」

「ああ。崩した分はアタシが掬うから気にせず掘り進めな。スパニエル、そっちの空バケツよこしてくれ」

「はい、ドールさん。足元に置いておきますよ」

 

 塹壕用に加工された木材を側面の土が崩れないように打ち付け、更にそれらを支えるための杭を打ち込む。

 一応は新入りであるヒナやドール、スパニエル達がシャベルやピッケルを振るいながら小さく呟く。

 元海兵である事に加えて魚人島攻防戦を経験しているために戦力としてカウントされ、万が一の際のロビンの護衛役として派遣されたハックの管理下でこの戦場に配備されている。

 

 そうして掘り進めては角度を変えて掘り進めてを繰り返して数時間。

 トータルでは六日ほど。

 昼夜問わず、人員を交代で入れ替えながら掘り進めた結果――

 

「ロビン嬢、聴力に長けた魚人仲間から連中の声にかなり近づいたと報告があった」

「うん、目視でギリギリの距離……やっとだね。イッショウさん、いざという時はお願いできる?」

 

 そしてニコ・ロビン――政府の黒猫への判断を複雑化させている要因の一つである少女を守る最後の砦。

 クロ直々に頼んだロビン直衛の最後の砦である盲目の男が、ロビンがいる方向に頷く。

 

「へい、お任せください。あっしは目こそ見えませんが、助けるべき人達は決して見逃がしやせん」

 

 黄猿との戦いを越えたクロが新世界で拾ってきた能力者。

 クロが戦力としてミホークやクリスに並ぶ信頼を置いている男が、仕込み杖をわずかに抜く。

 

「……第一、第七工兵隊はこのまま掘り進めて。角度は変更、敵陣――α目標地点に対して60度。以降はこれまで通りの距離と角度でジグザグに」

「ハッ、了解しました」

 

 幼いロビンを侮る黒猫兵士など、もはやとっくにいない。

 新兵であってもだ。

 

 それほどまでに『黒猫』最高幹部の名は重い。

 ましてや『死の教師』と共に多くの土地を治めている実績は、誰にも無視できない物である。

 

 そして本作戦において、本船オペレーターとしての能力もそうだが、もっともオハラの土地勘を持つ彼女によって描かれた地形図があったからこそ、今回の作戦が実行可能になっていた。

 

 橋の国の作戦では、仮に制圧失敗しても多くの人員と物資は持って帰るように作戦を立てている。

 ここでオハラを奪還できればこの島の復興に彼らを注ぎ込める。

 最終的に牽制止まりになったとしても、人手が欲しい島はいくらでもある。

 そういう条件もあって、オハラ作戦は当初の牽制戦から本格的な攻略戦に変更となったのだ。

 

「……銃兵さん、作業取りやめ! 弾込め始め!」

 

 作業を続けている兵士以外が、ロビンの合図でシャベルやピッケルをその場に突き立て、ライフルを手に取り装填する。

 海軍基地にて大量に入手できた鹵獲品であるために、兵士達の多くが扱いに慣れている銃火器に弾を装填し、塹壕に身を隠しながら銃を構える。

 

「迎撃用意!」

 

 ドールやヒナ、スパニエル達も同じくだ。

 素手の方が強いドールとヒナでも、数日とはいえ演習で叩き込まれた黒猫の基本戦術に倣い待ち構える。

 

「砲兵さん。七番野戦砲、射撃用意」

 

―― 七番野戦砲、射撃用ー意!

 

―― 七番野戦砲、射撃用ー意!

 

―― 七番――っ

 

 一定間隔ですでに運び込んでいた野戦砲――バラバラに回収した大砲を、試射観測によって可能な限り性能を揃えた中で七番群と設定される、特に射程と弾道が安定している砲が、復唱と共に用意されていく。

 

 気付く私掠兵も出て来るだろうが、黒猫には構わなかった。

 すでに迎撃用意は出来ているのだから。

 

 砲兵たちが塹壕の陰に隠しながら運び込んでいた野砲が、その姿を現し始める。

 本来ならば労力も時間もかかるその用意を容易くしているのは、魚人戦力による協力のためだ。

 

「目標、α目標手前。当たらなくていい。こちらの射程と精度を再確認するつもりで」

 

 銃は到底届かない距離だが、砲撃ならば確実に届く。

 陸軍を編成できる程の土地を手にしてから、両軍混じっての砲撃演習は繰り返している。

 落ち着いた環境とはいえ、その中で経験を積んで来た砲兵が角度を調整する。

 

 今陸にいる兵士達の指揮権を持っているのは、ロビンだ。

 生まれ育ったこの島で。

 この島を取り戻すための戦いの火ぶたを切る役目を、彼女は買って出た。

 

「全砲兵隊、射角確認ヨシ! ロビンさん! いつでもいけます!」

 

 護衛に付いている親衛隊小隊の隊長を務めるトーヤが各砲兵小隊の報告を確認し、叫ぶ。

 

 ロビンが小さく息を吸う。

 

 緊張をほぐすため。

 

 なによりも――自分の手で戦いを始める覚悟を決めるため。

 

「全砲兵、撃って!!!」

 

 ここに、オハラ奪還戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 一斉に鳴り響く開戦の号砲に、クロコダイルは大笑いをしている。

 

「クハハハハ! 陣地を固めるとかいってもう一日くらいは待つ事になると思ったんだがな」

 

 あの戦いを疎むところがある少女が、それでも予定通り事を進めた事が――すなわち、戦う事を迷わなかったという事実が愉快でたまらなかった。

 

「彼女はオペレーター兼観測手ですが、テゾーロに並ぶ内務官でもあります。日数をかけて物資を無駄には出来ない事は、我々の中でもっとも理解しているでしょう」

 

 その横に、サーベルを腰に下げた親衛隊がいる。

 珍しくラフに親衛隊のスーツを着崩しているが、それでもなお似合っている赤毛の女親衛隊――キカは船員たちに出撃の号令を出して、前方の島を睨む。

 

「まぁいい。実際、絶好の機だ。風はあまりねぇが魚人達の協力で船を加速させられる」

 

 一方でクロコダイルは、この戦争を楽しんでいた。

 艦隊戦力として預けられていた兵六百に加えて陸軍二個分隊に本隊予備戦力に魚人兵、合わせて二千四百名もの追加戦力をその手で動かしている。

 

 ただのならず者ではない。

 半数はロビンの手で動いているがそれでも間違いなく、自分の命令通りに動く兵が軍隊と呼べるレベルで揃っている。

 

 白ひげに挑んだ時とはまた違う、満足感と高揚感を合わせたようなものがクロコダイルの中に膨れ上がっていた。

 

(……いや、満足するには早いな。俺の艦隊、俺の戦力と言うには遠すぎる。そもそも、まだ訓練すら不完全だ……)

 

「キカ、船を進めさせろ」

「了解。――メイプル、頼むぞ!」

 

 帆は張られていたが、風が弱いために少々速度が遅かった。

 だが、艦隊の下には多くの魚人達が控えている。

 

 先日親衛隊の候補生入りしたイカの女魚人の指揮の下、多くの魚人がそれぞれの船底に取りつき、押し進める。

 普通の帆船では感じる事のない急発進に、一部の船員が少し不快気に顔をしかめている。

 

「提督、それでは砲戦から?」

「ああ。まずは動きの早い奴らをすり潰す」

「……腕に自信がある連中だと?」

「というより、一番面倒な連中だな。強い弱いの部分じゃない所で」

 

 クロコダイルがキカに砲戦用意を命令する。

 すると素早くキカが各艦に連絡を飛ばし、砲撃態勢に入る。

 

 各艦もすでに態勢を整えている。

 上手く寄せればすぐさま砲撃出来るだろう。

 

「まぁ、陸の方は精鋭で固めた上に塹壕掘ってから引きつける以上問題はねぇ。むしろ逃げまどう雑魚狩りの方が重要だ。奴らを海に散らせば、この作戦は意味をなさねぇからな」

「故に、我々は確実にまず船を潰す」

「そういうことだ。聞けば、お前達親衛隊のお得意戦術なんだろう?」

「はい。一隻たりとも逃がしません」

「クハハハハ! 沈めた所で魚人がいりゃあ回収も容易いってのは楽なもんだ」

 

 キカの真っ直ぐな返事に、クロコダイルは更に愉快そうに笑う。

 

「となるとやはり注意すべきは、俺達が船を潰した後か」

「……ロビンさんの護衛戦力もあるので、散ってしまえば大した事はないと思いますが」

「気を張るべきだな。オハラは広い」

 

 ロビンは幹部であるが、同時に黒猫の面々にとってペローナと並ぶ庇護対象である。

 親衛隊も兵士達も、ロビンを狙う敵が出ればその命を奪うつもりであるし、どうしようもない事態ならば逃げる時間を死んでも作るという覚悟がある。

 

 しかも今回同行しているのは、動かせる中のほぼほぼ最強戦力。

 隊長のアミスよりも強い剣士二名に魔弾の射手、さらにダズ・ボーネスと共に大将戦力と戦った投げナイフ使いや潮風のトーヤまでそこにいるのだ。

 

 生半可な戦力では返り討ちに合うだけ。

 加えて、塹壕に身を隠した兵士達の弾幕がある。

 しかも到達し、塹壕を制圧した所で今度は魚人空手という面制圧に長けた武術を修めた魚人兵士が待ち構えているという二重三重に部隊が揃えられている。

 

「それに、海軍が増援でも率いてこちらの砲火力を牽制するか、あるいは迂回して陸上戦力に砲撃をすれば崩れかねない」

「そのことですが……やはり見張りに残した先行偵察隊からも、海軍に動く様子は見られないと。加えてカポネ・ベッジより、ある程度まとまった海軍戦力がこの海域から離れているとの情報が」

「…………そうか」

 

 そう、圧倒的に有利だった。

 不自然な程に。

 作戦の展開に負担を掛けかねない海軍戦力が明らかにいない。

 

「向こうからも連絡がありましたが、橋の国にも海軍戦力は来ていないそうです」

「……明らかに動きが鈍すぎるな」

 

 やろうと思えばこの戦力でもオハラは制圧できる。

 だが海軍戦力の動きによっては部隊を分けねばならず、その流れによっては牽制止まりになるかもしれないとは確かに幹部勢は備えていた。

 

 が、ここまで動きがないのは完全に予想外だった。

 

「モプチは? 他に狙われるとしたら、こちらに付いた国の小娘共が集まっているあそこだと予測していたが――」

「副総督に確認を取りましたが異常なしとのこと。レイリー殿も警戒していますが、まったく気配がないとの事です」

「……こちらか橋の方で黒猫の部隊を釣るにしても、部隊展開にはもう間に合わん。哨戒が厳しいモプチやモグワ、スーペリアは尚更、だ」

「しいて言うならキャネットが少々手薄になっていますが、こちらも駐留部隊からマフィアの偵察らしき船以外に発見はなしとのことです」

 

 クロコダイルが葉巻を軽く噛みしめ、少しだけ何か考えるが首を横に振って気持ちを切り替える。

 

「今は目の前の戦力を確実に削る事に専念するか。そろそろ射程だ」

「ハッ。……敵はまだ出航にもたついている様子ですね」

「風が碌にないからな。良い的だな」

「ええ」

 

 艦隊砲戦の主軸であるペローナはおらず、ロビンもいない。

 だが、数々の艦砲戦術を重ねて来た経験は兵士達の身体に染みついている。

 

「取り舵一杯! こちらの砲火力を密集させる!」

 

 キカの号令を旗艦操舵手、並びに各船船長が「とぉーりかぁーじっ!!」と復唱して、動き始める。

 すでに砲撃用意は整っており、最も大砲が並んでいる船体側面を、慌てて逃げ出そうとしている私掠兵達の船に向ける。

 号令を聞いた魚人達もその補助に入り、驚くほど素早く、正確に火線が集中する形に船が揃う。

 

()ぇーーーーっ!!!!」

 

 すでに砲火と銃声が瞬くオハラの島に、今度は海からも轟音が響き始める。

 

「クロコダイル、我々は?」

 

 魚人の補助による同時方向転換からの大砲による一斉射。

 かなり手前を狙ったそれが、海に浮かぶ数々の船を次々に吹き飛ばす中、クロコダイルの後ろに立つ女が尋ねる。

 

 ワインレッドの上下の上から白いマントを羽織った美女が。

 

「クハハハ、大駒を出すのは相手が崩れてからだな。橋の国でもそうだろうさ」

 

 

「ビッグマム海賊団の名前ってのは、ここぞという時に使ってこそ意味がある。そうだろう?」

 

 大海賊の一人が、ここにいた。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 西の海にて黒猫海賊団が本格的に政府との戦争を開始した頃、同じように他の海も激動の中にあった。

 

 新世界では白ひげ海賊団が密かに、孤立した海軍基地に接触を始めていた。

 

 楽園では海賊が激増し、その対処に間に合わない政府への不信が高まり、離脱が相次いでいる。

 

 東の海では英雄ガープの手が届かない所で反政府勢力が手を結び始めた。

 

 南の海では革命軍が一部海軍を取り込み一大勢力となり、悪政蔓延る加盟国を攻めている。

 

 

 そして、北の海では――

 

 

「貴様――、海賊めがぁっ!!!!」

 

 

―― ジハハハハハ!!

 

 

 まさにある国が、海賊になにもかも奪われようとしていた。

 大海賊、金獅子のシキ。

 

 今の世界情勢を作る一因となった、最悪の海賊の一人。

 

「悪いな王様。ウチの兵隊も増えちゃいるんだが、今のやり方じゃ兵隊っていうには数はともかく質が……まぁ、ちぃと効率が悪くてな」

「おのれぇい!!」

 

 その国の王は、また戦士でもあった。

 槍を持ち、特殊な鎧に身を包み宙を駆ける。

 

 妖鳥(ガルーダ)の異名で恐れられた軍事国家の王であり、科学者の一人。

 

「電磁シャフト!」

「斬波ぁ!!」

 

 その男が振るった電気を纏った一撃を、宙を自由自在に飛び回る海賊は、両足の刀(・・・・)から放った斬撃で相殺する。

 

「キッシシシ! こいつぁいいな、影を狩るだけでも十分儲けだ! 完成した兵士の影なんざそこらの海賊なり海兵の死体にぶち込むだけでいい兵隊になる!」

「ほどほどにしとけよ。後々手を加えるためのサンプル分も確保しておきてぇしな」

 

 そしてその下では、巨漢が多くの兵士をかき消していた。

 

 影を切り取られた兵士達は、巨漢の手の中でもがき続ける影だけを残して塵のように消えてしまう。

 

 日光を浴びればそうなると理解した兵士達は、それでも恐れずに攻撃するが巨漢の海賊が纏う覇気を抜く事が出来ない。

 それどころか、気が付けば生命活動を止めたハズの倒れた兵士達が立ち上がり、敵として襲われる始末だ。

 

「それに、後々材料(・・)さえ用意できればいくらでも作れるんだ。あんまがっつくんじゃねぇよ」

「キシシシ、確かにそうだ! 悪かったな金獅子!」

 

 ジェルマ王国。

 国土無き王国。

 かつての栄華を求め彷徨う国家。

 戦乱のこの時代でこそ輝くハズだった国家は今、多数の土砂や船などの弾丸(・・)によって、どこもが燃え上がっている。

 

 

「おのれ、貴様ら――!!」

 

 

「狙いはクローン兵の製造技術か!!!」

「ジハハハハハ!!! 当たり前だ!!」

 

 

 多数の強靭な――似通った顔ばかりの兵士達は、それを遥かに上回るゾンビ兵によって動きを押さえられていた。

 

 

「頂いていくぞ、ジェルマ!!」

 

 

 幼いながらも強靭な力を持つ二、三歳程の幼女も、彼女を守ろうと泣き叫びながら必死に手を伸ばしている、お腹が大きく膨れた顔色の悪い女性も取り押さえられている。

 

 

「なにもかもなぁ!!!!」

「賊の分際でぇぇぇぇ――――っ!!!!!」

 

 

 北の海でもまた後々の大火、その火種となる戦いが始まっていた。

 

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