「クロコダイル君、制圧するの早くない? 急な作戦変更もあったのに」
「お前が言うか、クロ。あの広大な橋の国を容易く攻め落とした男が」
橋の国制圧戦でこちらが手に入れた労働力は莫大な物だった。
なにせ未だに総数が把握できていないくらいだ。
今現在あの国に残ったハンコックやタキが整理に走り回っており、ペローナ率いる医療班が使い潰される所だった人員の回復に全力を尽くしている。
で、その中から体力が安定していて、かつこちらの協力要請に快く応えてくれた人員七百名は、それを支える食料などと共に鹵獲した政府輸送船に乗せて、途中捕虜達を加盟国に放り出したのでおおよそ二週間の航海。
最後の一戦には間に合うかと思っていたがたどり着けばすでに戦闘は終結しており、すでに戦場の後片付けへと入っていた。
「……ミホークとクラッカーが張り切り過ぎてな」
…………。
爆笑してんじゃねぇぞ実行犯二名!!
兵士達が付いて行けなかったらいくらお前らが特級戦力っつっても包囲されて面倒な事になりかねなかったんだからな!?
共に戦ったミズキ達はもちろん、マキシンに感謝しておけよ?!
当然兵士達にも!!
マキシンが後続の進軍速度を下げないために余計な障害物や死体を都度排除、除去することに徹してたおかげで兵士達も死ぬ気で走り続けてお前らの後ろを固められたんだから!
「さすがの政府戦力も『死の教師』と『千手』の前には無力か」
お前もそれに並ぶぞ、クロコダイル。なにせ『砂漠の王』だからな。
実際、これだけ短期でオハラの戦線――戦力としては橋の国よりもやばかっただろうコチラの戦闘を終結させたのは、報告を聞く限りクロコダイルの役割が大きい。
そしてカスタードとロビン。
カスタードはビッグマム海賊団の名に恥じぬ武力を以って、ロビン達の砲撃に釣り出されて主力が消えた上で混乱している簡易拠点を制圧、防衛。
そのまま敵を何もない更地に追い出し、クロコダイルが全力を振るえる場所まで敵勢を押し出してた。
一度広い面に出てしまえば、最低でも親衛隊級の腕前がない限りクロコダイルはほぼ無敵だ。
そしてその誘導に大きな役割を果たしたのがロビンだ。
いつもどおりの凧を用いた観測とかつての土地勘を併用して適切な位置を計算、そこまでの道筋をカスタードに伝えて、一切の無駄なく敵を押し出す一助となった。
「それで?」
「む? なんだ、クロコダイル」
「どうして無茶をしたんだ。当初の予定では時間を掛けた上で、効率的に政府戦力の戦意を折る計画だっただろう」
「……クロには説明したのだが」
オハラも再開発する必要があると聞いて同乗したミホーク――すでにクラッカーに指示を出して、開発予定地の掃除を進めている。
一刻も早く測量と縄張りに入り、連れて来た人員の作業を進めさせるためだ。
「奴らはなんというか……
「
「降伏するという選択肢すら思いつかん程に、世界政府の立場と言い訳で頭が一杯だったのだ」
ミホークは戦闘は好きだが、雑魚狩りに関してはそこまでではない。
かつてのジェルマ戦ではその役目を果たしたが、あれはクローン兵士という存在に興味があったのが大きい。
「思った以上に脆く、戦意も疾うに折れていたのに引き金を引き続ける。投降を促してもその後の政府からの扱いに恐怖し、奴隷を盾にする程度の知能はあってもそれしか出来ない」
「……逃げる選択肢も出て来なかったと?」
「俺にはそう見えた」
だから今回は指示通りに動くという予測に未来視――さすがに覇気の貯金はもうなかったのでかなり限定的な範囲になったが――で視えた範囲の戦闘面では特に問題がなかったので気にしていなかった。
だが、直接現場で敵を見たミホークにとって敵勢は強い違和感を覚える相手だったそうだ。
「政府という存在が絶対すぎたのだろう。政府に入った人間ではなく、政府の膝元で育った人間ではないかと俺は思う」
「……逃げ出す事。つまり政府を裏切るという事は、そいつらの世界になかったという事か」
先に適当な加盟国に捕虜達を放り出してきたが、確かにミホークの言うとおりだった。
誰も彼もが「政府に盾突くなど正気か!」だの「降伏するなら今の内だ!」だのわめいていた。
いや、捕まっているのお前らだから。
「ついでに補足するなら、どうも船乗りがいなかったようだ。輸送のほとんどは海軍頼りだった」
「……ちっ。つまり連中には、そもそも逃げ場がなかったのか」
「向こうからすりゃ、職場兼自宅が強盗に押し入られたって感じだったのかもな」
おかげで血が多く流れて掃除が大変だ。
後々の事を考えると腐食の可能性もある海水を使うわけにもいかず、今頃ハンコック達が必死に頑張っている事だろう。
「あ、キャプテンさん!!」
そうしてると、多くの護衛を引き連れたロビンが現れた。
ハックにヒナ、イッショウ、ドール。
こいつ、多分世界でも屈指の贅沢な護衛を引き連れているな。
付けたのは俺だけど。
ロビンを連れて根を張っている以上、セキュリティに関しては石橋破壊して立て直してもう一回叩く勢いで綿密に組み立てる必要がある。
「おう、ロビンもお疲れ。皆もよくやってくれた」
「まったく、海賊としての初仕事が土掘りだなんて……ヒナ、驚愕よ。驚愕」
「……ヒナ」
「ええ」
「ご職業は?」
「海兵よ」
「せめて会話の中では統一しろや」
定番の会話を振ってやると、腰の入ったパンチを放ってきたので掌で受け止める。
パァンッ! という小気味いい音をさせるがそれでも不満だったのか、さらに殴りかかってこようとするので額を押さえてやる。
待て。
待て!
蹴りは無し! 蹴りは無しだってば!
具体的に言うと金的は勘弁して――つま先は絶対アカン!!
あと、作業中だったっていうのは分かるけどお前……ウチのツナギをもう着こなしやがって。
ロビン、麦わら帽子作ってやれ。
ミホークと並べたらそれだけで絶対面白い。
「へっへっへ。まぁ、いくらか強い敵さんはいやしたが、こちらの兵士さんがしっかり抑えてくれたおかげであっしも随分と戦いやすかったもんで」
「……想定よりも兵が少ないってのもあったな。ロビン、クロコダイル、こっちも海軍は来なかったんだな?」
ともあれ、今後の動きを決める必要がある。
ロビンには魚人と協力して橋の国を調べてもらう必要があるし、ついでに言えば橋の国もあるいは予定ひっくり返して生存圏として開発する必要があるかもしれない。
古い支柱の方など、一本丸々土砂を詰め込んで植樹をしている箇所があったのだ。
政府がわざわざ新たな生存圏として、余所の島を潰す勢いで物資をかき集めてまであの国を作っている。
七百年以上かけて、莫大な労働力や物資のロスを良しとしてだ。
「ああ、輸送船すら残していなかったぞ」
「キャプテンさんはこちらへの圧力をかけるための常駐って読んでたけど、それに対する黒猫の動き込みで時間稼ぎと、少しでもこっちの兵隊さんを削ろうとしたんじゃないかな」
……こっちの動きのクセが読まれたか。
いや、それは仕方ない。土地に根を張り縄張りが増えるってのはそういうことだ。
(……思ってたんとちゃう)
当初の予定では第二艦隊――つまりはこの西の海の主力艦隊の基地として使おうと思っていたんだが……。
いや、面積だけでいえば相当あるし、第二艦隊の基地としては申し分ないのだが意味合いが相当に変わった。
具体的にいえば世界政府を相手にした軍事面に割り振るリソースを、あるいは橋の国もそうだが各国の――違う意味での安全保障に割く必要が出て来た。
その上で魚人達の感情も無視できないため、三年後の出発は変更できんし……うごごごごご。
「七武海も出て来なかったな。あの英雄と渡り合ったというから少々期待していたのだが」
「クハハハハ、楽出来るに越した事はねぇよ」
そうだね、それに関しては本当にそう思うよ。
ただ――
「出来る事ならば今回の作戦で迎撃して、初手黒星を付けておきたかったんだがな……」
「? クロさんは、七武海に警戒を?」
イッショウ――そういえば皮肉なことに原作では七武海と敵対していたな――がそう呟く。
「正確にはその背後の世界政府だが、可能な限り勢いを削いでおきたかったんだ」
「すでに十分削れている気がするがな」
「それでもさ。特に、戦力の回復に関しては」
なぜドン・チンジャオが七武海になったかも――いや、そうしなければならなかったのかも大体分かる。
高名な海賊であった事実。
英雄ガープと渡り合ったという逸話――すなわち、海軍とぶつかった事があると言う事。
その上で国家に所属するギャングである事。
(大方、そこらへんのグレーだった部分を政府に突かれたんだろうが……)
だけど皮肉なことに、七武海としての役割はウチの牽制以外に求められていない。
少なくとも、政府には。
七武海になった時点ですでにその役割はほぼ終わっている。
「ドン・チンジャオを七武海にしたのには、こっすい意味があるのさ」
「意味?」
「ああ」
「戦力の呼び水さ」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ジハハハハァ! モリア、目当てのモンは押さえたな!?」
「すでに船に移している! いつでもいいぞ!」
「おのれぃ!」
北の海では戦争が続いている。
片や大海賊、片や軍事国家。
無数のゾンビと無数のクローン兵がぶつかり合い、
「製造装置をまさか奪われるとは……っ!」
だがその戦況は海賊側が圧倒的であった。
クローン兵は頑強さにおいてゾンビ兵を上回っているが、不死性という点ではゾンビ兵の方が上手である。
その上でゾンビ兵は改造された個体は頑強さにおいてもクローン兵士に並び、なにより数でジェルマの兵士達を圧倒していた。
船上国家であるがゆえに極めて限定された国土に積める兵士は限られている。
それゆえのクローン兵、それゆえの性能向上。
だがそれでも一騎当千の特級戦力ではなく兵士である以上限界はあり、数の差という物が重くのしかかっていた。
その戦場の中で、一隻の中型船はふわりと浮かび上がる。
このジェルマという国の根幹といえる代物だ。
「さて、ついでだし強化技術のサンプルも頂いていくか。この嬢ちゃんとその女の腹ン中にいるガキ共がそうなんだろう?」
「貴……っ様ぁ!!」
ジェルマ王国国王――ジャッジが身に着けている靴に仕込まれた噴射口が蒼く輝き、一気に噴射する。
人間にまず出せない超加速。
狙ったのは幼い少女を取り押さえているゾンビの群れだ。
人間に触れればただでは済まない威力の電気を纏った槍を振るい、吹き飛ばす。
本来ならば少女も感電するハズだが、あいにく少女は普通の人間ではない。
ヴィンスモーク・ジャッジが手を掛けた戦うための肉体を持つ存在。
もうじき産まれて来る傑作――そのプロトタイプと言える強化人間。
「レイジュ! ソラを!!」
――斬波っ!!
多数のゾンビに囚われているもう一人目掛けて放たれた斬撃に対して、ジャッジは素早くその前に飛び出し槍を振るい、拡散させる。
「ジハハァ! テメェのガキに頼るとは! どうやらテメェの兵隊には判断できる駒がいねぇようだな!!」
「抜かせ!!」
唯一幸いだったのは、この船が特殊な巨大電伝虫の上に建てられたものであり、金獅子の能力で一網打尽に全てを空へと持っていけない事だった。
フワフワの能力では、自身以外の生物を浮かせることが出来ない。
「あぁ、チクショウ……やっぱり西の海に行くべきだったか。クロやレイリーが新世界にいる間に奴の兵隊を少しでも押さえてりゃ、こんな数合わせにしか使えない連中とは違っただろうさ」
「――っ! ク……ロ……っ」
「知ってるぜ。今よりも勢力として弱かったアイツに戦争吹っ掛けて、結果全滅したらしいな」
ヴィンスモーク・ジャッジが思わず噛みしめた歯が、嫌な音を立てる。
「軍事大国にしちゃあ兵隊の数が少ねぇのは、大方『黒猫』への再戦に向けてより強化した個体を作るための調整中だったって所か。奴に負けた兵隊でも数合わせには使えると思ったが……なるほど、課題点を教えてくれて助かるよ」
幼い子供とはいえ膂力はすでに人間を超えているレイジュが、捕えられている女性――自分の母親に群がるゾンビ兵を押し飛ばす。
気管を圧迫されていたのか、慌てて咽る母親の身体を引いて逃げようとするが、ゾンビ兵が周囲を取り囲んでいる。
「妻も娘も渡さん!」
王とその妻――王族の危機にクローン兵士が駆け付ける。
だが、その行く手を阻むのは同じクローン兵。
この戦いの中で倒れたクローン兵士に、ゲッコー・モリアが適当に刈り取った影を縫い付けた即席のクローン・ゾンビ兵。
一度は倒れているため頑強さはやや下がり、だが不死性を手にした兵士は極めて危険な存在となった。
「やっと! やっと産まれてくるのだ!」
それらにジャッジは高電圧を纏わせた槍を振るい、突き刺し、確実に動けなくしていく。
「俺の理想! 国の無念! 先祖の悲願! そのための!!」
少しでも自分の兵士達が、妻たちを守りやすくなるように確実に止めを刺し、筋繊維を焼き潰して
「ソラがようやく、ジェルマが再び北の海を制する最高傑作を産むのだ!!」
少女の顔が、恐怖と違う感情でわずかに歪む。
「貴様などに! 海賊などに!!」
「はっ、お前もお前で歪んでいる。実に世界政府加盟国らしい王様じゃねぇか」
王の怒り、王妃の悲しみ、娘の嫌悪。
それはしかし、この戦場になんら動きをもたらさない。
ゾンビ兵は、明らかに身動きの取れない妻に目標を定めた。
強化人間であるレイジュ一人ならばそれでも逃げ出せただろうがただの女性――しかも身重の人間を連れての脱出は不可能。
「まぁ、んなことはどうでもいい。貴様の悲願うんたらよりもそっちの嬢ちゃんの方が興味ある。すんげぇ力を持つその身体をどうやって作ったのか、まぁバラしゃ何かしらわかるだろ。そっちの腹の中身も予備として――」
絶体絶命。
その言葉がこの国の
轟音がアチコチから響く。
今あちこちで鳴り響いている銃声とは違う。
大砲の砲火が。
「あぁ? このタイミングでわざわざ攻めてくるなんざ……海軍かぁ? この海に戦力はろくすっぽ残ってねぇだろうに」
ただでさえ独立志向の強い国家が多いこの北の海において、海軍の立場は
残っている加盟国もあるにはあったがそういう国は天竜人に
まだしぶとい所もあるが、ほとんどは同盟を組んだ脱退国や非加盟国に攻められ、今度は全てを奪われている。
それに対応すべき海軍も出動しているが、すでに多くの船が沈められている。
この海において、もはや海軍の威光は消え失せた。
「金獅子、手伝うかぁ!?」
「おぉ、そうだな」
絶対に確保すべきクローン製造装置を上昇させ続けながら、金獅子は海を見る。
クローンゾンビを量産し続けているゲッコー・モリアも、同じく。
「ジハハハハ。喜べ王様、どうやらお前の寿命が数分くらいは延び――」
そうして見た海の上には、
「「――なにぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!???」」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「サー・クロの分析により、金獅子という海賊が明確に世界政府の崩壊を目論んでいる事はすでに明らかでありました」
大艦隊を率いる旗艦である一隻の軍艦。
その甲板に立つ薄い褐色の肌の海兵は、戦場を通して敵の動きを見ていた。
「そしてサーのように協調での実績を持たない賊である以上、その手段はどうしても暴力を用いた物に限られる」
メルセス曹長。
先の魚人島攻防戦に於いて、
未だ階級は低いものの、それでも無視できない発言力を身に着けつつある彼女は、自身の思考を整理する様に呟く。
「そして暴力を用いた勢力拡大には、多くの人員が必要。戦力に成り得る者、戦力を支える者。……今まさに海軍が直面している問題と同じですが……」
各船長の号令で、大砲の一斉射が始まる。
逃げる海賊を追うために備えられた、前部三門の追撃砲が発射され、ゾンビ兵達が操舵する敵船目掛けて撃ち放つ。
「この暗躍にどれだけの人間が関わっているかは不明なれど、前線役となっている金獅子は身を隠しながら最優先で人員を確保しなければならない」
曹長である彼女に命じられたのは、戦況の観察だ。
異変があり次第報告、場合によっては付けられた部下を用いて好きに行動しろと言われている。
「それを可能にするには多くの人口を持つ国を襲う事ですが、それはすなわち抵抗もあり、場合によっては海軍が間に合う可能性がある」
だがそもそも、すでに彼女は大任を果たしていた。
「ならばもっとも有効なのは、船団国家であるために移動し続ける特殊な環境を持ち、かつ人員を文字通り作成できる――」
「このジェルマ王国は、まさしく金獅子にとって最も豪華なご馳走に成り得る」
敵の動きを読み切り、捕捉するという大仕事を。
「大将戦力がまだ動かせないのは残念でしたが、それでも歴戦の中将を始め可能な限りの戦力を――」
「だったらアタシらまで出てくる必要はなかったでしょうが!!!」
―― ズビシッ!!!
そして成功させたにも関わらずその頭蓋にチョップを食らっていた。
「あいたぁ!!?? モイラ様!!!?」
「アンタの仕事は敵の行動予測だけでしょ! なんでわざわざ駄々こねて前線に出たの!?」
「いえ、高い確率ではありましたが確実とまでは言えませんでしたし、その場合ジャッジ陛下に戦力の供給依頼をするつもりであったので――」
「他の奴に任せなさいよ! アンタが動くとどういうわけかアタシまで動かされるんだから!!」
「しかし、仮にも自分の仕事ですのでその結果はこの目で見届けないと」
「海兵に任せなさい!!!!」
「私が海兵ですが!!!?」
メルセスの階級が間違っていたので修正いたしました
軍曹→曹長