親衛隊:画像検索用早見表
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=327602&uid=886
オハラを制圧して一年が経った。
ミホークという黒猫における内政の代表者による急速な開墾、開発によって穀物の収穫体制が整い、まずは橋の国から連れて来た二千人の民間人によってとりあえずの町が完成しつつある。
それに伴い繰り返される挑発への報復計画が発動され、現時点の傘下の国を守るための要所となる四か所の海軍基地の制圧に成功。
これまで海軍の陰に隠れるように動いていた黒猫海賊団は、まごうこと無き西の海の覇者となっていた。
「珍しいのう。
そして黒猫の団員が爆発的に増えたために、サロンを始めとする黒猫団員用の娯楽施設も大きく増設された。
それゆえに幹部専用の場所となったシャムロックの旧サロンには、周辺の兵や民どころか国家すら恐れる面々が集まっていた。
海賊姫、ボア・ハンコック。
「いやはや全く。まぁ、ちょうど橋の国――ブリッジランドの防衛配備に一区切りついたのでちょうど良い機会ではありましたが」
灰の将、タキ。
「ああ。予定されていた大きな作戦行動がひとまず終わり、ここからはそれぞれが艦隊を大きくしながら守りを固める時だ。集まるタイミングはここしかねぇと思ってな」
そして彼らを呼び集めた砂漠の王、クロコダイル。
黒猫海賊団の象徴と言える艦隊戦力の長が、この場に揃っているのだ。
表に出れば、間違いなく必要以上に耳目を集めてしまう面々がこうして会談できるのは、この幹部用のサロンと黒猫館だけである。
そしてクロがモプチに出向くリガロ王妃の護衛に出ている今、警備上の問題からモプチ王城内への行き来は制限がかかっている。
クロコダイルが残る艦隊提督を集められるのは、このサロンしかなかったのだ。
「それで、どうしたのじゃクロコダイル。正式に就任式典を開いて以降、作戦も全て成功させているであろう?」
三人が着いているテーブルには、すでに料理が運ばれている。
肉や魚、野菜料理の数々。
そしてタキの前にはなぜか盛り蕎麦。
「あぁ。目標の海軍基地も全て制圧。死傷者をほぼ出さずに捕虜も返還した」
「うむ。これで総督が気にされていた勢力。『
「世界政府は花ノ国を中心に戦力を集めておるが……打って出る事は出来まい。残る勢力圏の統率で精一杯じゃ」
サロンの壁に普通に掛けられているこの海の全体図。
そこに描かれた島々は、七つに色分けされている。
赤く塗られた『世界政府』加盟国。
青く塗られた『黒猫』勢力圏。
黄色く塗られた、かつて『橋の国』と呼ばれた場所。
緑に塗られた『
ピンクに塗られた『自由独立戦線』勢力圏。
紫で塗られた、マフィアの影響が強い『五大ファミリー』勢力圏。
そして灰色で示される未だどこにも所属していない、あるいは不明な島々。
「我らの勢力圏に二つの勢力、そして勢力圏であるが別枠の特別な区域として数えている橋の国。これらを同盟や協定で結び、勢力として世界政府と拮抗させる」
「……セキュリティ・ダイヤモンド構想とクロは名付けていたな。
クロコダイルはすでに切り分けて提供されていたステーキをフォークを使って口にし、口内の脂をワインで流し込む。
「これが成功すれば世界政府は、この海で軍事侵攻を起こす事がますます難しくなる」
「うむ、私やビグルは総督から今のうちに傘下の国の軍と共に演習を行い足並みを揃え、同盟が成れば合同演習などを政府に見せつけろと言われている。第二艦隊や陸軍にはそういう見せ札の役割もあると」
「……そしてここまで大将級に並ぶ戦力が差し向けられていないと言う事は、本当に政府には動かせる戦力がないらしい」
元はクロ不在の間にダズが提唱し、テゾーロが考え実行した方策の成果でもある。
ダズの希望のために考え出した、主に革命軍らしき一派の影響を受けたと見られる勢力への支援。
せいぜいが彼らへの海賊や海軍の圧力を軽減する程度の作戦だったのだが、そのわずかな軽減のために聖地襲撃に苛立つ天竜人が来ることもなく、そしてその後の崩壊でいち早く勢力としてまとまる事が出来た。
今の西の海の落ち着きは、その頃からの小さな各島の負担軽減の積み重ねがあってこその物だった。
「だからクロやテゾーロはともかく、艦隊提督にとってここからは
「クラッカーはともかくとして、レイリーまで巻き込むとは思わなかったのう」
「総督は毎日の斬り合いが減ったと喜んで日々仕事に打ち込んでおりますが……」
「……あの元海兵には酷だが、担当として良くやっているぜ。なんつったか」
「ドールじゃ。名誉殉職者の名ぐらい覚えておかぬか」
「……そうだな」
「彼女も不憫な……」
カウンターの側にいる若いウェイトレスの娘が、小さく「生きてますよね?」と呟く。
バーテンダーの男は何も言わず、ただ静かにグラスを磨き続けている。
「俺が気にしてんのは、その間の艦隊要員の教育と訓練だ」
「ああ、その話をしたくて我々を集めたのですか」
「確かに、艦隊提督の集まりらしい話題ではあるのう」
「……出来る事ならビグルからも話を聞きたかったが、まだ建設途中のリガロースーペリア間の基地から責任者を引っ張る訳にはいかねぇからな」
ワインはボトルで渡されている。
クロコダイルの手元の杯が空になっている事を音で察したハンコックがそれを再び満たし、クロコダイルは平然とそれを受け取る。
普段ならばハンコックの気遣いとも言えるそれに、色んな意味を込めて「クハハハ」と笑いを零すのだが、今日のクロコダイルは笑わなかった。
ただ小さく頭を下げて礼を言う。
「どうにもお前らの兵隊を借りていた時に比べて、自分の兵士共の動きがしっくりこねぇ」
「妾の兵は黒猫の古参、タキ翁の第二は陸軍の拡張に伴い再編したとはいえ、それでも中核は歴戦の元海兵。比べて其方は本隊の人間も入っているが新兵も少なくない。当然ではないのか?」
「それはそうだが……もどかしいのも事実だ」
「ふむ」
ハンコックはおおよそ食べる分は終えたのか箸を置き、果実水を一口入れて一息つく。
「そもそも、どういう艦隊にしたいのじゃ?」
「? というと? 命令通りに動く精強な兵士、では足りないのか?」
「……足りなくはない。というか大事な要素ではあるのじゃが」
クロコダイルの回答にハンコックとタキは顔を見合わせる。
「……お主も知っての通り、妾の第一艦隊は『最優』の艦隊を目指しておる」
「ああ、聞いている」
「うむ。追いつき、追い抜かすつもりではあるが『最強』はミホークがおるからの。故に妾は最優を目指したのじゃが……」
ハンコックは当時を思い出す。
ジェルマ戦を乗り越え、ようやくモプチを良く治められると内政に目を向けていた矢先の海賊連合事件。
どうにか海賊連合の中核を捕捉し、拠点を攻め落としはしたが被害は大きく、そしてはぐれ海賊への迅速な対処が求められていた中での艦隊提督への就任。
「今ならば分かる。あの時『最優』という言葉を目指して盲進しておれば、恐らく相当に艦隊戦力の編成と統率にもたついたであろう」
「? 最優を目指してか?」
「最優はあくまで最終的な――否、追い続ける目標である。艦隊指揮官として手探りだったあの状態でそれだけを目指せば……おそらく相当に苦戦しておったじゃろう」
ハンコックにとってもっとも誇らしくあったあの就任式は、同時にとてつもなく重い物であった。
「……そうですな。今でもついつい忘れる事がありますが『黒猫』は海賊。……ノウハウもなにもない武装集団のはずでしたな」
「主殿の下にいる時は主殿が明確な組織の理想図と、その手足の役割をハッキリ伝えてくれたから上手く行っていた。それが妾を頭とした独自行動を取る艦隊の編成となると、より明確な艦隊の形を決めなくてはならなかった」
今でこそギャルディーノや妹達の助けを借りて十数隻の船をまとめ上げているが、当時は三隻の統制ですら苦労していた。
「最優という言葉では余りに目指す物が広すぎ、どこから手を付けるか迷った挙句……恐らく兵士の戦闘力強化のみに
間違いではない。
兵士の強弱は戦況の重要な要素である。
だが、それだけで戦いは決まらない。
戦術や戦略に関わる、多少尖っている集団としての『強み』の有無。
それが勝利に必要な事だと、ハンコックはジェルマ戦で強く感じていた。
単純な兵力では圧倒的に強かったクローン軍団は、均一であるが故に黒猫に勝てなかったのだ。
「なら、お前の艦隊が……いや、お前が艦隊提督としてこうも短期間で成長できたのはなぜだ」
「……状況、じゃな」
その一戦で弱兵を鼓舞しながら戦い抜いた少女が、今では名実ともに黒猫が誇る艦隊提督となっている。
黒猫海賊団第一艦隊。
いざという時にクロが真っ先に頼りにする『黒猫』第一の槍。
海賊姫、ボア・ハンコック。
「その時の状況に課せられた課題が明確であった事じゃろう」
「課題」
「うむ」
ハンコックは髪をかきあげて見せる。
幼いながらもすでに色気となっているそれは、ハンコックの癖だ。
「妾が艦隊提督に任ぜられた時に求められていたのは、海賊連合事件の後始末であった」
「……残党狩りか」
「復興は主殿がクザンと組んで働いておった。妾に求められておったのは敵船の把握と拿捕、そして防衛じゃ」
防衛、という言葉にクロコダイルとタキは眉を顰める。
海賊という広い海を征く賊の攻撃というものが、いかに唐突に来るものかを理解しているからだ。
かたやその海賊として。
かたやそれを追う海兵として。
「其方らなら分かるじゃろう。海賊を捕らえるというのは、運よく現場近くに居合わせない限り極めて難しい」
「それを埋めるのがお前の課題だったわけか」
「そうじゃ。……正しく課題を受け止められたかはともかく、妾はまず『速さ』を求めた」
ふとクロコダイルは、クロから手渡された艦隊提督の教本を思い出す。
クロが艦隊に求める事を書き留めたのだろうその一冊の後半に、真新しく書き足された項目があった。
「……展開基礎力」
兵士の乗り込みから物資の積み込み、それらを一秒でも早く完了させ出撃させるのに現在まで試して来た様々な工夫やその結果、課題などが詳しく書かれていた数ページ。
クロコダイルのつぶやきに、ハンコックは頷く。
「あれは妾達の試行錯誤を記した報告書を元に、主殿がロビンと共にまとめた物じゃ。……命名したのはテゾーロじゃな」
失敗の方が多く、兵士に無用な怪我をさせる事もあったソレを、ハンコックは苦々しい顔で振り返る。
「黒猫の提督であれば分かるであろう? 船に物資を積み込み兵士を乗せ、出港し、陣を組んでそれを維持し、目的地まで乱れず急行する。言葉にすればこれだけの事がどれだけ難しいか」
海賊としては古参でも、提督としては新米であるクロコダイルも顔をしかめながら頷く。
歴戦の海兵であるタキもだ。
「ですな。海軍がパトロールの際、大型船に多くの砲と兵員を乗せて単艦で活動させることが多いのは、そういった手間を少しでも省きながら戦力を落とさせない為でしょう」
「……そいつはそいつで実戦では色々と制約がありそうだな」
「だがそれゆえに、攻める目標が動かず定まっているバスターコールなどでの海軍は強い。忌々しいのう」
恐らく
だがそれでも小競り合いはあるだろう難敵の存在にハンコックは重い息を吐く。
「ともあれ、そういう理由で我らは機動力の強化を第一とした。……ついでに港湾設備に求める物やその設営に一枚噛んだりしながらのう」
一方でクロコダイルは、この少女が黒猫第一の槍である事に改めて納得していた。
戦力だけではない。
戦力を含めた多方面で、確かにハンコックの行動は黒猫の血肉となっているのだと理解させられた。
「……うむ、そうじゃな。クロコダイル、兵士にお主の理想を求めるのであれば、まずはお主の理想の形を明確にせよ」
「明確、か」
「確かに。これは元海軍の将校としても耳が痛い話ですな」
今も成長を続けるが故に、悩み続けている少女は二人の表情に親近感を覚える。
提督という身分は間違いなく黒猫の花形ではあるが重圧もあるのだ。
そしてここにいる二人の男は、間違いなく同じ物を共有している同僚であった。
「我らは将である。故に部下に服従と最善を求めるのは当然じゃし、期待に沿わぬ働きの者には罰を与えねばならぬ」
「……ああ」
「まぁ、さすがに多大な裏切りでも働かねば死罪とまでは行かぬがな」
組織が大きくなり、戦いが長引けばあり得る事態を自分で口にして自分で嫌な気持ちになったハンコックは、とりあえず果実水でそれを誤魔化す。
「とにかく、罰を与える存在であればこそ枠組みや規律を明確にし、それを周知させねばならぬ」
クロコダイルの悩みが理解できるものであるために、ハンコックも当時の記憶を引き出し、真摯に言葉を紡ぐ。
「兵士に何を求めておるのか、何をさせないのか。何を目指すためにその決まりがあるのか。これを明確にするべきじゃ。目指す形が曖昧では兵――特に部隊長は動くに動けぬ」
「……ただ強くなれ、では限界があると?」
「現にしっくり来ぬのであろう? 本隊の人間や元海兵が交ざっていても」
「…………」
クロコダイルは、ハンコックの問いかけにすぐには答えずワインを呷る。
「まずは目指す形を明確にし、そのための演習の型を作って満足いくまで繰り返すのはどうじゃ。その中で兵士の動かし方を見て、何がどう気に食わぬかを己の言葉で明確にせよ」
そうして出された一つの結論に、クロコダイルは小さく「なるほど」と呟き、杯を空にする。
「……今、お前達は艦隊に何をさせている?」
「任務と哨戒以外、じゃな? 妾は護送演習を繰り返しておる。輸送船しかり商船しかり、そういう船を守る機会は確実に増えるからの」
「第二艦隊は海軍の戦術分析と対策演習ですな。総督が
クロコダイルは二人の言葉を飲み込んで、またしばらく考えだす。
十数秒ほど、沈黙が続く。
そして――
「……俺には、野心がある」
知っている、と反射的に老兵は言いそうになった。
だが、今は余計な言葉を挟むべきではないという優しさが老兵に――タキにはあった。
「知っておるわ。じゃからロビンを狙ったのであろう?」
ハンコックにはなかった。
「そうだ。俺は……政府が手出しできない俺の国が欲しかった」
「……オハラの知識。……古代兵器か?」
「ああ。もしそれが実在し、手にすることが出来れば政府は手出しできない」
兵器一つで政府が止まるか、という疑問がハンコックの口から出そうになった。
だが、それが実在したと仮定して、その威力や効果がどういう物か不明なために今度は口を閉ざす。
「そう思っていたが……。魚人島からのクロの働きを見て、少し考えが変わった」
「主殿の?」
「ああ。奴の手腕はまさしく国を治める者のそれだが……だからこそ、国家を建てるという事に思う所が出て来た」
灰皿の上に置いていた葉巻を再び手に取りながら、クロコダイルはポツポツと零す。
「今の俺には、国を建てたとしてもそれを回すだけの知識も経験もねぇ。兵力で劣っていても戦術でひっくり返し、経済を始めとする様々な要因を使って世界政府の動きを封じてみせた奴には遠く及ばん」
ハンコックとタキが、小さく驚く。
この男が、自身がクロに劣ると認めるとは思わなかったのだ。
「今は黒猫の中で力を付け、学ぶべきだと思っている。艦隊提督になれたのを切っ掛けに、ここで伸し上がろうと思ったんだが――」
「……実感が上手く掴めないので、我々に相談ですか」
「ああ、そうだ。……そうだった」
そうして銀貨――
ここまでの飲食代に、更にだいぶ色が付けられている。
「好きに飲み食いしろ。いい話を聞けた礼だ」
「形が見えたか?」
「ああ」
そうしてコートを羽織る。
真っ黒だった――今は自分の艦隊の印が刺繍された、第三艦隊提督のコートを。
「お前の言う通り、とにかく強くなろうとしていた。だからこそ今の俺は組織の一人で、その中での役割を見つけ、組み立てる必要がある事を見落としていた」
この会食が始まって初めて、いつものようにニヤリと笑いだしたのだ。
「何を目指されるのですかな?」
「クロは戦略的にやや受け身だ。現にお前達は防衛を念頭に置いた艦隊を作ろうとしている」
事実だった。
クロはまず傘下の王とその民衆の信頼を得る必要があると考えており、ゆえに艦隊はなにかを守るための作戦行動を想定して鍛えている。
「ならば俺は、オハラや橋の国の作戦のような攻め手の際の要を作る」
「ハンコックが即応隊、タキが西の海の要ならば――」
「俺は攻勢の際の前線の頭を目指す」
だからこそクロコダイルは攻防ではなく、攻撃に振り切った艦隊を素早く頭の中で組み立てる。
「……ほう。その心は?」
「島を奪い、基地を制圧するには当然上陸しなければならない。これまでもそうだった。つまり――」
「
砂漠の王、クロコダイル率いる艦隊。
黒猫海賊団第三艦隊。
後に増設される第四艦隊と並び、黒猫の『楔』と称される艦隊が始まったその瞬間であった。
当面の間は火曜か水曜の午後七時の週一投稿になりそうです
この章書き終わったら一回親衛隊やオリキャラまとめるのでお待ちを~