本来使われるハズのない電伝虫が鳴ったことに、『ジョーカー』は眉を顰めて不快そうに取る。
『よかった、こいつが当たりだったか……! おい、アンタが例の『ジョーカー』なんだろう!? 助けてくれ!!』
流れてくる声は慌てていたが、それがますます『ジョーカー』と呼ばれる男を苛立たせた。
『海兵奴隷の件がバレた! 人質の監視も一斉に消えて、海兵が動き出して――どうすりゃいいんだ!?』
この言葉に『ジョーカー』はさらに眉を顰め、そこで初めて電伝虫の受話器に向けて口を開いた。
「おい」
『あぁ、『ジョーカー』! 『ジョーカー』か!? なぁ、俺達どうすりゃ――』
「動きの読めないガープは先日脱獄した『金獅子』のシキの足取りを追うために中将のつると一緒にグランドラインに残っている。センゴクは堅実な男だから、オハラの一件を落ち着かせるまでは動かないハズだ。誰が動いた?」
『ジョーカー』は頭の中に描いていた海兵リストに、要注意人物を追加するために尋ねる。
『違う、海兵じゃない!』
「ならどこぞの保安官か?」
『そうじゃない――ガキだ! 海賊のガキだ!!』
そこで『ジョーカー』は、その顔から苛立ちを消して呆然とした様子を見せる。
『よりによってあの海賊ごっこのガキ、地区本部に乗り込んで全部バラしやがった!! バレねぇように証拠もちまちま消させていたのに、ソイツもセンゴクにとっ捕まった! 全部あのごっこ野郎が――』
――ふ、ふふ……フフ、フッフッフッフッフ……!
『じょ、『ジョーカー』? おい――』
「『ごっこ』? 馬鹿か。賞金首は賞金首、どんな理由でそうなろうと背負った重みは変わらねぇ。それが……ふふ、フッフッフ!!」
「自分から海軍に出頭!? 協力!? フッフッフ! どんなイカれ方をしたらそんな海賊が出来るんだよ!」
『おい、『ジョーカー』……っ』
「あぁ、どうしたらいいかだったな。そうだな――」
「あきらめろ。運が悪かったな」
なにかまだ叫んでいる声を無視して受話器を置いてから、『ジョーカー』は一人で静かに笑い続けていた。
「べっへへへへへへ」
その『ジョーカー』に近づく大男が現れた。
「んねードフィ、どうしたの? 随分機嫌いいけどどうしたの?」
「なに、イカれた海賊の話を聞いてな……おい、トレーボル」
「なになになに?」
「今すぐ『抜き足』のクロの情報を集めろ。そしてその情報を、噂として西の海全体に回すように手配するんだ」
「抜き足? 例の取引ぶち壊した海賊?」
「ああ、多少頭が回るだけのルーキーかと思ったが――」
「面白れぇ。あぁ、面白れぇイカれ方をした海賊だ。フッフッフッフ――」
「気に入らねぇ……だが、同時に気に入ったぜ」
「『抜き足』のクロ、か」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「キャプテン・クロ! 進路合わせ完了しました!」
「よし! そのまま出せる最大船速で船を進ませてくれ。手の空いている者は船室に、この航海の説明をする」
ダズたちはもちろん、海兵達にも悪い事したなぁ。
戻ってきて突然今すぐ船を出してこのポイントを目指せって命令受けたら、交渉失敗して逃げなきゃならんって思うよね。
海兵達も緊張感があったせいか、滅茶苦茶行動早かったし。
船室に入ると、現在船を動かしている人員以外の海兵組と幹部全員が揃った。
よし、やっと説明できる。
「結論から言おう。本部大将センゴク殿と話が付いた。現在諸君らの家族の保護のために一計を案じている」
安堵の声が上がるかと思ったが、海兵達は妙にざわめいている。
「キャ、キャプテン・クロ」
「む?」
「センゴク大将と話をしたんですか?」
「あぁ、サカズキ、クザン両中将もいた」
「あのサカズキ中将と!!?」
あぁ、うん。やっぱ普通の海兵からしてもサカズキってそういうイメージなのか。
まぁ仕方ないよね……。
青ざめている海兵達の顔を眺めていても仕方ない。
「事前に書いてもらった筆跡と制服のおかげで話は早かった。すぐに照会できたのだが、その最中に貴官らの書類を処分していた海兵を発見した。……まぁ、一枚噛んでた連中というわけだ」
「……証拠の隠滅に入ったか。なら、この船の目的地は――」
ダズはおおよそを察してくれたようだ。
さすがだ副船長。
「すでに奴らは海兵奴隷というビジネスから
ここでようやく、海兵達も話を理解したのか顔が引き締まる。
「これを見てくれ。この西の海の海図は、センゴク大将から借りてきたものだ。事故の報告があった海域と、その近辺の海軍の哨戒順路が記されている」
正確には、「この海図を部屋に置いてしばらく我らは席を立つ」とか言ってこっそり……こっそりか? まぁ、内密に渡された物だ。
要件終わったら、またこっそり潜入して返しにいかないとな。
「その中で事故があった海域に近く、にも関わらずその後の捜索任務などの回数が他の基地に比べて少ない基地をリストアップした。さすがに基地に囚われているということはないだろうが、近隣に――失礼な物言いになるが、『商品の集積所』があると見ている。センゴク大将も同じ意見だった」
「では、我々は今そこに向かって……?」
「そうだ、連中の
海兵たちは同胞の窮地を救いに行くという事で士気があがり、顔色も元に戻っているが、それとは逆にロビンが難しい顔をしている。
「キャプテンさん」
「なんだ、ロビン」
「時間は大丈夫?」
「……そこが問題だ」
これはセンゴクさんともあの後大声で何度も話し合ったっていうか口喧嘩したんだけど、正直五分五分だ。
「見つけたら必ず助け出す。必要ならば食料も水も、医薬品も全部突っ込んでいい。そして仮に手遅れだったとしても」
「それがご遺体だろうが、遺品のわずかな欠片だろうが、必ず海軍基地に――ひいては家族の元に返す」
「諸君――矜持を掲げろ」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「センゴクさん、例の馬鹿たれが吐きました。どうやら、基地の管理任されとる支部大佐の一部までもが、奴らのいう『ビジネス』に関係しちょるそうです」
「…………そうか」
つい先日、三人の海軍将校と一人の海賊による対談という奇々怪々な出来事があった部屋で、センゴクは能面のような顔で話を聞いていた。
怒りがないのではない、怒りを通り越して情けなくなっていた。
「西の海は、調査のためにマフィアと繋がりを持つ者も珍しくはない。結果を手にすればと一部は黙認していたが……ここまで腐敗が広まっていたとは」
センゴクは執務机に手を置き、ため息を吐く。
手を置いた場所は、先日自分が不注意で紛失した海図を置いた場所だった。
「クザンの奴は?」
「隠密に動いてもらっている。こういう仕事は奴の得意分野だ。船を使わずに海を渡れる。奴が上手く能力を使えば目立たずにだ」
そしてクザンから送られてくる報告も、センゴクの頭を痛めるものばかりだった。
すでに何名か、捕縛されていた海兵の救出に成功しているが、同時に救出できなかった海兵達の発見報告も来ている。
「どれも人数は20人前後。『抜き足』の話から考えるに、出荷前に『一時保管』されていた海兵達だろう」
4つの海の一画とはいえ、西の海もそれなりに広い。
ましてや、今回の事件は西の海だけの話ではないのだ。
「不安は残るが、私はマリンフォードに戻らねばならん」
「わかっちょります。他の海でも多かれ少なかれ、海軍の恥が馬鹿な事をしちょるのは」
「……幸い、『抜き足』の行動のおかげで奴らの前提条件は全てひっくり返った」
――彼女達は海賊と戦ったわけでもない、災害に遭ったわけでもない。
――同志であるはずの仲間と上司に裏切られて、何一つ成せぬままにその人生を奴隷として骨の髄までしゃぶられようとしている。
――それを惨いと! 救われるべきだと確かに自分は思った! ならば征くのみ!
――どのような結末が待とうとも、ここで立たねば『矜持』が死ぬ!!
なぜ戦うのか。
なぜ海兵のために戦うのかという問いに、海賊は『仁義』と答えた。
たった一言。
たった一言の宣言に、そしてその後に続いた海賊の想いに、敵でなくてはならない三人の海兵は圧倒されてしまっていた。
「……センゴクさん」
「なんだ」
「あの男、なんとか海兵にすることは出来んかのう」
センゴクは、驚愕してサカズキに顔を向けた。
「……難しいだろう。彼は天竜人に逆らっている。罪を消すのは簡単な事ではない。可能性があるなら七武海だが――」
「七武海も所詮は海賊。それじゃあならんと思うんですわ」
「あの男は……海賊の看板を背負うような男じゃあない……」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
(……おかしい)
目的の拠点にたどり着いたが、見張りの気配が一つもない。
真昼間だというのにだ。
「キャプテン、あれは……」
「わかっている」
自分達が目指したのはとある無人島。
事故現場からそれなりに離れていて、かつ海軍の哨戒範囲から外れている島だ。
いや、ここが当たりだった場合外れているというよりは外されたという方が適当なんだろうが。
(あの黒く塗られた船、あれが密輸船か。一応当たりは引いたようだけど……)
自分達が襲撃した船は商船に偽装していたが、これは完全に隠密活動のための船だ。
「ホロホロ、ものの見事に横転してるな」
「船底までまっすぐに穴が開いてる……大砲の攻撃じゃあない」
ペローナは笑っていてロビンが険しい顔をしている。……いつもの事だな。
(ペローナの奴、能力に対する過信があるし多少は強敵と戦わないとなぁ)
実際自分が覇気を纏って見せてペローナのネガティブ・ゴーストを耐えて見せれば話は早いんだろうが……。
(上手くいってるかどうかが分からないんだよなぁ)
瞑想自体はそれなりに効果は出てると思う……いや、今はそれどころじゃなかったな。
「上陸する。ペローナ、ロビンは船を頼む。海兵諸君は……5名は船に残っていつでも船を出せるように用意を。残りは付いてきてくれ。武器を忘れるなよ?」
どいつもこいつも、隠し倉庫というものは足の下に作りたくなるらしい。
上陸した無人島の中にあったゴーストタウンの中の建物の一つの中に、また同じような隠し階段が作られていた。
(本当に見張りが一人もいないな。こりゃあ……だめか?)
その場合は、預けられた電伝虫でクザンに連絡を取り、彼の能力で遺体を保存してもらって自分達が運ぶ手はずになっているが……。
(ペローナ達を残しておいたのは正解か)
問題の扉にダズが手を触れて、以前と同じような仕掛けがあるか確認してもらっている。
右手で触れたまま、左手が刃物になる。
「キャプテン、あの石は仕掛けられていないようだ」
「みたいだな。すまない海兵諸君、数名はここで退路を守ってほしい。残りは自分と共に」
考えてみれば、新兵や内勤がほとんどの彼女達では、これが初の実戦になるかもしれないのか。
「大丈夫だ。最前線は自分とダズが受け持つ。仮に戦闘になっても、貴官らは敵を倒すことよりもその場で耐える事を優先してほしい」
しかし、と声を上げる海兵を手で制する。
「ここにいる全員が実戦経験がない事は知っている。だけど、そんな貴官らがこっちに向かう敵を一人でも多く足止めしてくれればその分自分達が有利になる」
下手に万歳アタックされて死なれでもしたらセンゴクさんに申し訳ないし、なにより士気への影響が問題だ。
「ダズ、海兵諸君はお前に任せる」
「キャプテンは……まぁ、好きに暴れた方が強いか」
これでも考えて暴れてるんだけどな。
基本頭を潰せば勝負は勝つんだから。
「まぁ、そういうわけだ。行くぞ」
「だめ! お願い!!」
開けた先には、やはり同じように両手を吊るされている見目の良い海兵達が集められていた。
「お願いだから! 扉を閉めて!!」
前回の船の時と違い、倉庫も兼ねているためかかなり広い。
ちょっとした運動場くらいはある。
問題はその先に、どうやらギャングらしき一団の死体があって
「
それが全員立ち上がってこっちを見ている事だ。
おまっ
「キシシシシシシシ」
おっま!!
「立て直そうにも碌な死体も影も手に入らなくて、せいぜい雑兵集めくらいにしかならないと思っていたが」
馬鹿!! 俺の運命の馬鹿!!
なんか原作より体引き締まってる馬鹿の顔があるんだけど!!
「イキのいい奴が来たじゃねぇか!! なぁ!!」
ポンポンポンポン、俺の通り道に原作キャラを配置するんじゃない!!
毎回毎回的確に邪魔なキャラクター配置しやがって!
タワーディフェンスゲームじゃねぇんだぞ!!!
「6500万ベリーの大物ルーキー! 『抜き足』のクロ!」
「ゲッコー・モリア……!」
毎回俺の胃にストレステストをかましてるつもりか!? 南無三!!
「ちょうどいい、骨のあるゾンビが欲しかった所だ!!」
「てめぇの死体をよこせ! 『抜き足』のクロぉ!!」
「黙れ、ゲッコー・モリア。おそらく、捕らえられた海兵の影をギャングの死体に入れたのだろうが……」
「一つ残らず返してもらうぞ!!」
助けて……もうホント助けてクレメンス……。
――申し訳ありませんがクレメンス氏は外出しております。
誠に恐れ入りますが、ピーーっという音が鳴った後に貴方の人生の電源を切ってください。