とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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7月7日より「ぐらんぶる」Season2が放送開始!
つまり!
トーヤのイメージ元である!
乙矢君がいよいよ映像化されます!

オリキャラ:画像検索用早見表
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第六章:『楽園』への進軍
168:進出、『偉大なる航路(グランドライン)


『天竜人による暴走が引き起こしたスーペリア――否、スーペリアを始めとする各地の悲劇が起こり三年以上の月日が経った』

 

 西海諸島連合と名乗る国家連合が成立した一週間後。

 西の海の非加盟国にして、西海諸島連合の首都とも言えるモプチの近海には、数十隻に渡る海賊船が陣を組んで、いつでも出発できるように待っている。

 

 

『その間の悲劇は、もはや知らぬ者はいないだろう。各国は手を結び、残る加盟国と敵対。それに伴う戦火の拡大、あぶれた民や兵士の賊徒化による町や村への襲撃被害』

 

 

 その先頭の大型船に、一人の男が見目麗しい精鋭達に囲まれて電伝虫を握っている。

 

 

『それらに対して世界政府は有効な打開策を打てないままである』

 

 

 西の海の希望であり、だからこそ『世界』が恐れざるを得ない男。

 

 

『本来世界を守る剣であり盾である海軍を、彼らは自分達を不信の目で見ているからと疎かにし、彼らが多くの犠牲を出しながらも拿捕した海賊らを、国策と言う名の略奪の尖兵にする始末』

 

 

 かつては、その雰囲気はともかく背格好には幼さを見ようと思えば見えたが、今やそういった物はどこにも見られない。

 

 

『この時代のうねりの根幹はどこにある!?』

 

『天竜人の横暴か? 確かにそれもあるだろう』

 

『では天竜人を一人残らず討ち取れば世界は平和になるのか?』

 

『否だ。そうではない。もはやそれで解決する段階を遥かに通り越してしまった!』

 

 

 その男が、世界に向けて語っていた。

 

 

『なぜならこの惨禍の根幹は天竜人の存在ではなく、その在り方にあるからだ!』

 

『他者を認めず、その悉くを自らのために働く奴隷であると見下し、その在り方へ理解を示さず己の業を貫き続けた事こそがこの業火に燃える時代を生み出した!!』

 

 

 この通信は一切秘匿されていない。

 聞ける者は誰でも聞ける。

 

 西海諸島連合に参加した今や三十にも渡る国家群も、それと睨み合う加盟国やマフィアも、事実上の同盟を結んでいる他の国家連合体も。

 

 

『ゆえに私は確信した!』

 

 

『一つの意志、一つの思想、一つの文化だけで世界を包みこむ事は、断じて不可能であると!!』

 

 

――遠く離れた天竜人も、海兵達も、海賊達も。

 

 

『それぞれの島に生きてきた者達が歩んできた文化という道筋を認め、己らとの差異を知り、衝突があるのならばその妥協点を探すために言葉を尽くし、新たな関係を結んでいく』

 

『ただそれだけの事を800年間に渡り行わず、ただ天竜人の、天竜人による天竜人のための世界を押し通し続けたために! その歪みが限界を超えての今日(こんにち)がある!!』

 

 

 望む者は、知る者ならば誰もが、この放送を聞くことが出来る。

 海から高く離れた聖地だろうと。

 陽樹によって陽の光が差し込む海の底だろうと。

 

 

『今も世界政府はその名の通り、世界を治める政府を自称している』

 

『だが、その下に集まる国家を! その内にて生きている人間をただの資源や玩具として扱うと言うのであれば!』

 

 

 神の敵と呼ばれ恐れられている青年の――

 

 

『忘れるな、私は海賊だ』

 

 

 ――海賊の演説を。

 

 

『その理不尽極まる法を、私の意思で踏みにじろう』

 

 

―― 海賊の宣誓を。

 

 

『私は海賊だ!』

 

『ただ奪う事しか出来ぬ国を見れば、その国そのものを奪い取ろう』

 

 

『私は! 海賊だ!!』

 

『民に無意味な犠牲を強いるだけの国があるのならば、迷わず噛み砕こう!!』

 

 

 その宣戦布告を、誰もが聞いている。

 

 

『そして今、世界に広がる飢餓と貧困に立ち向かい、互いの不理解を取り除かんと我が庇護下に入った彼らを――』

 

『西海諸島連合に属する国家に害を与えようとする者が現れたのならば!』

 

『私が持つ全ての武と知を以て、三本の爪を突き立てよう!』

 

『我ら『黒猫』は真なる敵への――』

 

 

 

『人が人であるが故の人類普遍の敵に染められつつある、この時代への宣戦を布告する!』

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「で、偉大なる航路(グランドライン)に入ったのはいいんだけどさ……」

 

 驚く事に、海軍の妨害が一切なかった。

 それどころかリヴァース・マウンテンの向こう側にさえ敵がいない。

 

 魚人達の誘導もあったが、無事に本艦隊に加えて第一、第三艦隊は全船通過できた。

 

 チクショウ、最悪奪還戦前に海軍との決戦もあると覚悟して二重三重に策を考えていたのに全て不発とは。

 第二艦隊には大分負荷をかけてしまって申し訳ねぇ。

 

 おかげでえらく気が抜けてしまった。

 

「やれやれ、最近ここを通る輩は増えておったが、これほどの大所帯は初めてだぞ」

「ご迷惑をおかけして申し訳ありません、クロッカス殿」

「……まったく、お前が紹介する海賊にしてはやけに礼儀正しいじゃないか。レイリー」

「わはははは。あぁ、彼はそういう男でな。なに、砕けたら砕けたで面白い男だよ」

 

 そうして無事にルフィ曰くの『不思議山』を突破した俺達は、あの灯台へと到着した。

 当然あのクジラのラブーンもいたが、幸いルフィの時のように遮っているわけではなく全艦無事に到着出来た。

 

「クロ、確認終わったぞ。船から落ちた奴はなし。全員揃っている」

「ご苦労、クロコダイル。とりあえずログが溜まるまで休憩だ。後続の船の邪魔にならないように船団を移動させたら、交替で休ませてくれ」

「了解だ」

 

 完全に提督としての貫禄が板についたクロコダイルは、この三年間で完全にウチの幹部になった。

 テゾーロから国家運営に関してアレコレ学んだり、部分的に実践して成功したり失敗したりを繰り返したおかげで、古参級に重要な立ち位置だ。

 

 原作での動きが動きだったのでちょいちょい警戒はしているが、それでもコイツ無くして楽園での作戦行動は立ち行かない。

 

 ……ミホークに頼まれて渋々砂を量産したり湿地帯の水気を抜いたりしてる姿を見てるから、正直かなり警戒薄れてきている所はあるが。

 

「なら、儂らは先に出るぞ。クロ」

「ジンベエ……ああ。どうか、皆の説得と保護を頼む」

 

 一方でそそくさと出発しようとしているのは魚人勢力だ。

 シャムロックに残る者もそれなりにいたが、戦える者のほとんどは偉大なる航路(グランドライン)に同行している。

 

 別に防衛力の低下が問題というわけではない。

 

 そもそも、後ほど合流する手はずとはいえミホークが残っている。

 

 一方でフィッシャータイガー率いる面子もシキが運んだ島を完成させるために残っている。

 用意が整えばミホークと共に、あの島船(・・)を使って新世界へ出発する予定なのだ。

 

 ならばなぜ、ジンベエ率いる魚人勢力がこの偉大なる航路(グランドライン)で先行する必要があるのか。

 

「うむ。……各地で魚人の海賊団が出ていると両方の新聞に書かれている。信憑性はかなり高いじゃろうて」

 

 魚人島陥落の情報を知り、暴走を始めている各地の魚人勢力を保護する必要があるからだ。

 

「奪還戦に向けて戦力として囲いたいってのも正直な話だが、同時に彼らをむやみに争いの中に放置したくない」

「儂も同じ気持ちじゃ。……ネプチューン様達を頼むぞ」

「ああ、万全を期させてもらう」

 

 ネプチューン陛下はオトヒメ様と共にこちらで預かる事にした。

 それでいいのかと念のために魚人達に話を聞いていたのだが、俺の手元の方が安全だという認識らしい。

 

 …………。

 

 まぁ、俺の本艦隊には親衛隊の主力クラスにダズ、ペローナ、ロビン、ヒナがいるしなぁ。

 それにイッショウとクラッカー、カスタードのペア。

 

 この三年で三人――ペローナはまだそこまでではないが、成長に合わせて修行もしていたから、覇気や能力の扱い方がトンデモなく上がったんだ。

 

 ぶっちゃけ下手な海賊団ならダズかペローナのどちらかがいれば十分すぎる。

 ダズは言うに及ばず、ペローナもミニホロにならば武装色を乗せられるようにはなった。

 

 というかそれに関係なく、兵力だけでもやろうと思えば今すぐ国を攻め落とせる数が揃っている。

 

「それに陛下もオトヒメ様も、産まれたばかりのマンボシ王子を置いていくのは難しいでしょう」

「そちらにも期待しておる。……正直、トーヤ殿がお二人の側に付いていると言うだけで儂らも安心できるというものだ」

「……トーヤの奴、男女問わず魚人や人魚から本当にモテるな」

 

 元よりハックの直弟子と言う事もあってハチを始めとする魚人組と接する機会は多かったが、陛下達の護衛を兼ねた世話役にしてから尚更だな。

 

 リーリンの姉妹もアーロンの妹も懐いてるし。

 

「主殿、ここにいたか」

「クロ、お待たせ」

 

 そのまま魚人達の出発用意を手伝っているとハンコックとロビンが歩いてきた。

 まだ少女と言っていいが、それでも大分大きくなった。

 ロビンは段々原作に近い性格になってきたが、ずっと俺達といたからかそれでもかなり明るい。

 

「おう。第一艦隊も問題なしか?」

「うむ。とはいえ、クロッカス殿に確認した所、目的地までのログが溜まるのは我らがもっとも遅い」

 

 ハンコックがチラリと、レイリーと酒盛りしている初老の男へと目を向ける。

 クロッカス。

 おおやけにされてはいないが、あのロジャー海賊団の船医を務めていた男。

 

「……ハンコック。お前の意向は俺にとっても都合がいいし、止めるつもりはないが……」

 

 第一艦隊提督。

 この三年間の間、私掠艦隊やらどこからか湧いてきた政府の刺客からロビンに次いで狙われていたウチの女傑は、『ビリオン・ラック』計画について細部を詰めている時に、俺にある計画を提案していた。

 

「生まれ故郷だろう? 女ヶ島(にょうがしま)は」

「うむ」

 

「だからこそわらわがあの島に君臨し、黒猫の庇護下に置かねばならぬ」

 

 女ヶ島へ凱旋し、その上で女王と決闘。

 女ヶ島の――九蛇海賊団の長となって、その戦力を黒猫に組み込むという計画をだ。

 

「……凪の帯(カームベルト)における航法が安定すれば、確かに女ヶ島は『東の海』への最適な中間拠点になるわ」

「うむ。ロビンも忙しい中あれこれ調べてくれてすまなかったのう」

 

 ハンコックは相変わらずロビンを猫可愛がりしている。

 仲間にしたばかりの頃は、常に眠りは浅くて物音一つに即座に起きて周囲を警戒していた少女。

 

 そのロビンが平然とハンコックのハグを受けて微笑んでいるのを見ると、もう原作なんてあってないような物だと思い知らされるな。

 

「必要な事であろう? それに正直、ずっと女ヶ島を主殿の物とする計画は考えておった」

「ずっとって……いつから?」

「モプチの復興に従事していた頃から薄々。真面目に考え始めたのは魚人島に向かっていた時からじゃ」

 

 でもハンコック。その静電気が発生しそうな頬擦りは程々にして差し上げて?

 ロビンも困ってるから。

 

「あの航海は緊張の毎日じゃったが、結果として安全に凪の帯(カームベルト)を渡り切った。それも二度じゃ」

「……帰りはイッショウの能力を使った時間短縮が大きかったがな」

「それでも、凪の帯(カームベルト)を航行する事が不思議ではなくなる未来を見たのじゃ。……であれば、女ヶ島はこのままではいずれ滅ぶであろう」

 

 …………。

 

 実際、この世界ではどうなるんだろうな。

 政府は軍事力を元に戻したいだろうが、今はそう簡単に動けない。

 海軍だけじゃなくて聖地すら荒れ果てて、天竜人が二派――どころかいくつかの家を中心に別れて食料物資や奴隷の所有を巡って派閥争いが起こっているという情報が入ってきている。

 

 ……海軍や政府内部からのリーク情報でもあまり名前が出てこないベガパンクの権限がどこまで強くなっているかだなぁ。

 場合によっては、予想よりも早くクローン兵が出てくるかもしれん。

 

 …………。

 

 あるいは――

 

「九蛇の戦士を説得できるかどうかは正直不安ではあるが……それでも、黒猫の存在と現在の世界情勢くらいは周知させねば不味い」

「……実際、九蛇が今どこで活動しているかも調べなければならないし、私も九蛇を降す事には賛成よ、クロ」

 

 ……ロビンもか。

 いや、実際女ヶ島の制圧か確保はいずれやらなきゃならない事なのは分かっているんだが……。

 

「わかった。とはいえ、こちらの最優先は楽園での勢力圏の確保とその安定だ」

「承知しておる。女ヶ島までの航海の中で、獲れる島や基地があれば制圧し、発展させるのであろう? 先ほどテゾーロから代官候補を預かってきた所じゃ」

 

 テゾーロも、この数年間は仕事に加えて幹部教育で滅茶苦茶忙しかったからなぁ。

 二人目が産まれたのに色々すまねぇ。

 ステラさんまで一緒に付いてきてくれて。

 

「ちなみに誰?」

「主殿が目をかけていた姫……テレーズといったか。その護衛じゃ。ほれ、偉大なる航路(グランドライン)にいる間、自分の代わりにと寄越して来た」

「ああ。……そうか、そういえばあの子もテゾーロの勉強会に参加してたか」

 

 クロコダイルに物怖じせず真っ向から討論していた娘だったっけ。

 

 (まつりごと)に関して滅茶苦茶心強いテレーズ姫も、正直来てほしかったが……父のお目付け役が必要だと言われたらどうしようもねぇ。

 マジで親子なのかと疑う程に父のグリンヒル王とは器が違いすぎる。

 

 ……。

 

 いや、まぁ、平時の王としては問題なかったのかもしれんが。

 

「残りも同じく、主殿やテゾーロの講習会の中で良い成績を出していた者を借り受けておる」

 

 ん、なら問題ないか。

 最悪住民とこちらの兵士との摩擦を抑えられればそれでヨシ。

 

「レイリーもここでクロッカスさんと酒盛りしてから島を出ると言っているし、しばらくの間は寂しくなるな」

 

 そしてレイリーともしばしお別れだ。

 なんでも、西の海にいた頃から時折手紙を出していた相手の所に帰るのだとか。

 とはいえビブルカードはもらっているし、面白い話になった時は呼べと言われているし奪還戦が始まる頃にはまた会えるだろう。

 

 …………。

 

 というか、下手に放置してたら突然どこからか斬撃が飛んでくるかもしれん。

 

「わっはははは! 年単位はかかるだろうが、それでもお前達ならば楽園後半まですぐに来るだろうさ」

 

 正直こうして酒飲んで楽しそうなレイリー見てても安心出来ねぇ。

 

 別れの一撃!!!

 

 とばかりに覇王色纏わせた一撃飛んで来ても驚かん。

 おかげでウチの兵士の胆力とんでもねぇことになったよ馬鹿が。

 

 覇王色耐性がアホみてぇな事になってんじゃねぇかな。

 

「まったく……この数年ずっとこうだったのか? 黒猫」

 

 クロッカスさんはどうやら、俺の呼び方は黒猫で決まったようだ。

 もうなんか本当に定着したな。抜き足と呼ばれていた頃が懐かしい。

 

「むしろ大人しい方ですよ。もう一人の剣士と組んでほぼ毎日私を殺しに来てました」

「……よく生きていたな」

 

 ホントにな!!?

 最近じゃクロコダイルに視界潰された状態で手の空いた幹部に親衛隊も含めた対多数戦だったから滅茶苦茶だったわ!!

 

「わはははは! 攻撃力はまだまだだが、しぶとさにかけては既に偉大なる航路(グランドライン)でも最上位だろうとも!」

 

 アンタやミホークみてぇに気軽に海を割って山を斬る連中に襲われてたらそうもなるわ。

 ダズも大分おかしい事になってきてるからな。

 

「キャプテンが強くなればなるほどミホークもレイリーも本気を出してキャプテンが死にかけ、それを潜り抜けて強くなると更に二人のギアが上がるからな」

 

 ダズ、お前サラッと二人と一緒にいたのか。

 あと頼むからトラウマを掘り起こさないでくれ。

 この数年で寝ても覚めても剣戟の音が耳から離れてくれないんだ。

 

 あといつもの太鼓の音も。

 なんか覇王色纏いをやる度に『どんどっとっと』といつもの奴が鳴り響き始めてあれなんだよな。

 俺自身から鳴ってるんじゃなくて、辺り全体で鳴っているから戦闘時の邪魔にはなってないけどさ。

 

「それで、どうする? キャプテン」

「……ロビン、ハンコック。とりあえず飯にしようぜ」

 

 海の方では恐らく声が届く人魚がいたのか、ラブーンが魚人達と戯れている。

 ……アレ、側に船があったら危なかったな。

 

「ようやくの偉大なる航路(グランドライン)なんだ。ここからの航海はその実感が強くなるだろう」

「その前の腹ごしらえか」

「ああ、久々に俺も腕を振るおう」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「ミホーク、今の通信は総督から?」

「ああ。無事にリヴァース・マウンテンを抜けたそうだ」

 

 西の海でも、黒猫の仕事は未だに残っている。

 法整備は軍規を優先させたために、未だ各国との調整は続いているし、なにより食料問題は毎年毎年の課題である。

 

 西の海に残ったミホークはいつものツナギを身に纏い、クロ達の出航を見送った後は製粉作業などに使う水車や風車の視察で西海諸島連合加盟国を回っていた。

 

「……やはりまだまだ穀物の主流は麦か」

「後は芋だね。そもそも稲作は始めたばかり。流通させるにもまだかかるよ」

「そうだな」

 

 魚人島での戦いで黒猫に降り、その後の新世界謀略戦においてクロの補佐を務めた元海兵の少女――ドールは今の上司にして師の一人の後ろをついて回りながら、これまでの活動やその成果をまとめた書類をめくっている。

 

「もっとも、最近始めた蕎麦の方は割と需要が多い。ロビンがよく食べてる麺じゃなくて、薄いパンみたいにして肉や野菜を包んで食べるのが主流みたいだけど」

「パン食に近いというのが大きいのだろう。出来るならばクロやトーヤとそこらを開発してもっと米食を定着させたかったが……しばらくは自分で試行錯誤するしかないな」

「……とうとう鍋まで振るい始めたか、この剣豪」

 

 黒猫の中にいれば自ずと多芸になるのは兵士達には周知の事実。

 だがその中でも、このミホークという黒猫の最大戦力は余りに多芸が過ぎた。

 

「にしても、アンタが残るとはね」

「うむ。……まぁ、勝負に負けたのであれば仕方あるまい」

「勝負?」

「イッショウとな」

「ああ」

 

 ミホークという男が黒猫に居続ける理由に、適度に手合わせできる強者が多いという事があるだろうとは黒猫の兵士達の中ではよく語られる噂だった。

 

 レイリーと共に鍛え上げている総督のクロはもちろん、ダズやハックに親衛隊、ハンコックに一部の上級兵士。

 そこに今ではイッショウにジンベエ、クラッカー、カスタードといった新世界級の強者と手を合わせられる。

 

 血に狂っているわけではないが、それでも強者との戦いに楽しみを覚えるミホークならばお気に入りでもあるクロへの同行を賭けて戦っても不思議ではない。

 

 クロもミホークとイッショウのどちらを西の海に残すか散々迷っていたから尚更だ。

 

「能力で私掠艦隊の船の真上に隕石落として沈めてるのは見たけど、剣の腕も凄いんだ?」

「クロ程ではないが、速い。剣の腕だけでもクリスやリヒャルトを超えるだろう上に、能力を使えばその剣撃に重力操作が乗るのだ。本気でやり合えばタダではすまんだろう」

 

 剣に関しては他の追随を許さない男の、掛け値なしの誉め言葉にドールは思わず舌を巻く。

 

 イッショウという男がロビンの護衛を任せられるほどに強い事は知っていたが、どちらかと言えば能力者としての強さであると思っていたのだ。

 

「それに、盲目である事がハンデにならないほど高度な見聞色を持っている。さすがにクロ程ではないだろうが、かなり近いタイプだろうな」

「……総督と同タイプなら、こっちの手を視て(・・)封じてくるとかお得意そうだね」

「あぁ、俺もそれでやられた」

 

 改めて、頼もしいとドールは思う。

 

 海賊である以上、強さは必須だ。

 この海賊団は他者を踏みにじるのではなく、守るために活動しているからこそ敵も強大な物になる。

 

 それこそ、世界政府のような存在を相手にするには、強者はどれだけいても困りはしない。

 

 その『黒猫』戦力の筆頭と言える『死の教師』は――

 

 

「あの時、俺の見聞色にはグーが視えていた」

 

 

 

「……………………………………ん?」

 

 

 偉大なる航路(グランドライン)行きを賭けた決闘(・・)を思い返していた。

 

「互いに見聞色は鍛えている。それゆえ手を出し切るまでの間にその手をどう変化させるかがカギだと睨んでいた。可能性が高いのは当然指二本のみの動きで出せるチョキだが、ただ開くだけのパーもまた捨てがたかった」

 

「――あの」

 

「己の出した役が決まるまで残りコンマ数秒という時、奴の拳がわずかに動く未来を見た。その時点で引き分けを狙いチョキに決めたのだが……。今にして思えば、引いた事で奴に勝利を譲ってしまった」

 

「――もし?」

 

 死の教師にとって痛恨のミスだったのだろう。

 苦悶に満ちた表情で己の失態を口にする。

 

「俺が二本の指を突き出したその時、奴は――そのまま拳を突き出していた」

「……だろうね」

 

 負けたからここにいる訳で。

 

「クロにも見切られ始めていたからな。ちょうどいい」

 

「新世界へ進出するまでに見聞色を更に極める。これが農作業以外の俺の課題というわけだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、その、うん。…………アンタがそれでいいならいいんじゃないかい?」

 

 ドールはそっと、ペローナからもらった胃薬を飲んだ。




以前お話した通り、親衛隊の詳しい解説は量が非常に多くなりそうなので、いずれ活動報告に手ページを作成してリンクを載せる形にしたいと思います
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