とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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169:進む制圧。目的地は――

 黒猫海賊団が偉大なる航路(グランドライン)入りして更に一か月。

 その一か月の間に、クロ達は三つの島と四つの海軍基地を制圧していた。

 

 当初の予定通り、確実に開発できるサボテン島を制圧し拠点化。

 その後クロコダイル率いる第三艦隊は海軍基地の制圧、周辺の島へのエターナルポースを確保することに成功した。

 

 もっとも、制圧というよりは孤立して餓死者が多数出ていた基地を保護したというのが正解だった。

 

 別行動中のハンコック率いる第一艦隊も似たようなことを言っている。

 制圧した島の安全保障上の邪魔だった基地を制圧しにいったらそもそも壊滅状態だった、と。

 

 それはすなわち、政府がいかに崩壊しているか、海軍が制海権を喪失したか、なにより楽園と呼ばれた偉大なる航路(グランドライン)が地獄になったかを示しているのだが――

 

「だからって焦土戦術喰らうとは思わねぇじゃん!! 誰も意図してない自然発生型!! 海軍の基地がある周辺がこうまでほったらかしだとは思わないじゃん!! 僕海賊だもん!!!」

 

 そもそも送るだけの物資がなかったのか、あるいは海賊かどこかの勢力が根こそぎ持っていったのか物資どころか人もいねぇ!

 

 海賊連合事件なんて比じゃないレベルの被害が世界中で吹き上がってんぞクラァ!!!

 

「おい、ニコ・ロビン。クロがまた壊れ始めているぞ」

「あらあら」

 

 またとはなんだぁ!!!

 忙しくなることは想定していてもこういう忙しさになるとは思ってなかったんだクロコダイルくぅん!!

 

「クロ、大丈夫? 一休みにとコーヒーを淹れた所だったんだけど、ちょうどよかったかしら。お菓子も」

 

 すまん、助かる!

 カフェインと甘味のコンボが今は染み渡る!

 

 受け取り、口の中の火傷を恐れて少し啜るがちょうどいい温度だ。

 俺が熱い飲み物が苦手なのを良く知ってるロビンらしい一杯だ。

 

「それで、状況はどうだ?」

「作物が育ちにくいのは想定通りだったから問題なし」

 

 人数の問題もあったんだろうけど、食料のためにわざわざ離れた所にいる鯨を狙って定期的に戦力送り込んでたからなぁ、原作。

 

「それでも農業が出来ないわけではないし、それを踏まえたうえで面積も十分」

 

 今俺達がいるのはサボテン島――別名墓場島。

 馬鹿でかい大岩の上に無数に墓が建てられている不気味な島であり、原作では賞金稼ぎの町ウイスキーピークがあった島。

 

 最初は原作で読んだ通りバロックワークスが殺したり生け捕りにして政府に処刑された海賊達の墓であり、故に今は丸坊主なのかと思っていたらそうでもなかったようだ。

 最初ここに住んでいた先住民の風習だったのか墓はいくつか立っており、まばらなサボテンのようになっていた。

 

 まずは偉大なる航路(グランドライン)という外海と隔てられた海に、確固たる黒猫の基盤を築かなければならない。

 そう考えてまずここを制圧したのだが――

 

「とはいえ、そもそもここに縄張り張ってたのは偉大なる航路(グランドライン)の情報を碌に持たず、運よく流れ着いただけの三流海賊。しかもそういう流れ着いた船の積み荷を狙って、同じような連中と奪い合いを繰り返している内にほぼ壊滅。投降を促す前にそもそもほぼ無人とか……」

「おかげで労働力の確保にいきなり(つまず)いたな」

「私は旗揚げの頃を思い出して楽しかったけど?」

「……そりゃあ、お前はそうだろうさニコ・ロビン」

 

 今この島に広がる町は、ほぼほぼ黒猫が作った町だ。

 それぞれのならず者が縄張りにしていた廃墟から死体や腐敗物を排除・殺菌した後に手を加えて、増設を繰り返して作った砦町。

 

 いつも通りやんと思ったけどそりゃそうだわ。

 

 ぶっちゃけ、昔モプチでやった事を再び繰り返しただけだ。

 あの時と違い労働力として使える民衆もいないし気を遣う王族もいなかったが。

 

「ハンコックに感謝しなきゃな……アイツが労働力送ってくれなければ、もっと作業が遅れていた」

 

 今もっとも黒猫に貢献しているのが誰かと言えば、間違いなくハンコックだろう。

 海賊や病気に悩まされていた島を縄張りにして内政の指示を出して、こちらが電伝虫で労働力を要請したら二百人の人足を手配して輸送計画の段取りを詰めてくれた。

 

 向こうだって人手は必要だろうに、ギリギリの所まで削って用意してくれたんだ。

 

 マジで足向けて寝られねぇ。

 

「それで、本当にこの先の島にはいかねぇのか? リトルガーデンっつったか」

「あぁ、とりあえずそこは無視。一応ここはこのまま人足……というか移民を受け入れながら発展させていくけど……第一目的地までのルートは別を選ぶ」

 

 ログが溜まるまでに一年かかるし、じゃあ開拓するかっつってもまだ輸送航路が確定していない上に絶対その物資も足りないんだ。

 

 あの巨人達の決闘場ならぬ決闘島も、価値がないわけではないんだが今ではない。

 

「最低でも前半をある程度制した上で、ダズが第二師団と一緒に構想している軍医部隊とその船団の人員が揃ってからだな」

「……病気か毒が?」

「太古の島なんだ、何があってもおかしくない」

 

 実際、俺が開発をするとなれば多かれ少なかれ交易や輸送のための設備を建てるから船の行き来が増える。

 その結果根絶したハズのケスチア拡散なんて結果になったら目も当てられねぇ。

 

 そしてあの馬鹿でかい金魚……は、まぁどうにかなるだろうけど、確実に仕留められるかどうかは見てみなくちゃ分からん。

 万が一取り逃がしてアレが余所に縄張り移したら大問題だ。

 

「クハハハハ。となると、当面の間は俺の第三が先行部隊になるわけか」

「そうなる。上手くやってくれよ?」

「あぁ、任せろ。実際、人手を連れて来ただろう?」

「痩せ細ってるけどな」

「海兵だぞ?」

 

 で、クロコダイル(こっち)もこの島を攻めやすい位置にある基地を襲ったらボロボロだった。

 投降促す前に降伏してきた海兵達を纏めて回収し、結果労働力として少しずつ体調を回復させながらこの島に住んでもらっている。

 

 ある意味でこの島は海兵の島になっているな。元だけど。

 

「まぁ、実際話してみたけど政府や海軍への忠誠はもうなかった」

「むしろ、出来るなら故郷を占領してくれと言われなかったか?」

「縄張りにして! 家族らを守ってくれって! 言われたんだよ!」

 

 笑ってんじゃねぇぞオラァ!

 ロビンも!!

 

「悪い話じゃないでしょう? 元海兵を引き連れて故郷の島に向かえば、現地住民の説得が早いわ」

「ならいいんだが……海兵は今世界中の嫌われ者だからなぁ……」

 

 これは投降した海兵の情報だが、海軍のカモメのマークに赤い×マークを描いて浜辺に突き刺している島が増えているらしい。

 国がそうしているというよりは、曖昧な情報錯綜に疑心暗鬼に陥った村や町の長が独断でやってるっぽいんだが……。

 

 文字通り『海軍お断り』というヤツだ。

 自衛戦力足りてんのか?

 今はどこも自警団を組織する時代だけど……そういえばまだそういう連中と接触したことないな。

 

「まぁ、いざという時に訓練受けた予備役がいると思えばいいか。今は重要拠点であっても、戦略的な最終的な価値は良くて二軍」

「失ってもいいと?」

「よくはないが、トラブルで使えなくなっても問題ない」

 

 すでにハンコックやクロコダイルが制圧した島があるし、仮にこの島が反乱なり敵対勢力の制圧なりで使えなくなったりしても、すぐにサブラインにつなげられる。

 

「とにかく今は制圧圏を広げて安定させながら前進する」

「言えばそれだけの事だけど、実際にやる事は山積みね」

「あぁ。だがそうしなくては、いずれ集まるだろう楽園に散った魚人勢力の受け皿が間に合わん」

「つまり、相変わらず土地が足りないのね?」

「それと人手」

「クハハハ、本当にいつもどおりだな」

 

 今はカスタードがクロコダイルとバトンタッチして、海軍が所持していたエターナルポースの一つが指し示す島を目指して侵攻している。

 おそらく半月もすれば報告の通信が入るだろう。

 

「いつもどおりという事で確認するんだが」

「なに? クロコダイル君」

「目的地は本当にあそこ(・・・)でいいのか?」

「クロの言う通り国そのものじゃなく一部を制圧するだけだと、地形からみても相当旨みが少ないわよ?」

 

 いい、構わん。

 

「正直、世界政府の動きがさっぱり分からなくてな」

「……あぁ、確かに妙に動きが鈍い」

「ん。で、それを確かめるためにアソコに少しだけ干渉して、相手がどう出るかを確認しておきたいんだよ」

 

 なにせ、あの国はあまり語られない二十番目(・・・・)の始まりの国。

 

「制圧はしないが、アラバスタには様子を見ながら適当に干渉する」

 

 原作では偉大なる航路(グランドライン)に入って最初の大場となった島。

 

「多分、滅茶苦茶お前を使う事になるから備えておけよ。クロコダイル」

 

 この男がボスを務めた、砂漠の国。

 

 世界政府の出方やその目的を把握するには、あの橋の国同様に重視せざるを得ない国。

 

 アラバスタ。

 

 原作でも重要だったあの島を目指すのは、俺達『黒猫』にとっては必須事項となっていた。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「で? 聞きたい事ってなんぞや、ヒナ」

 

 今はとにかく生存圏の確保が課題だ。

 なにせ仮に人が住んでいる島を発見して物資を補給しようにも、売買――最悪強制調達しようにもそもそも物がない可能性がデカすぎる。

 

 で、その根幹となる現時点で制圧した島のアレコレに関してテゾーロ、通信越しにハンコックやギャルディーノ、アドバイザーとして西の海のミホークとの内政――『ビリオン・ラック』計画の進行についての協議が終わり、用意された俺の家に帰ったら、玄関前でヒナが待っていやがった。

 

「出発前の演説についてよ」

 

 一々応接室で仰仰しく対応する相手でもないし、部屋に入れて適当に駄弁る事にした。

 こっちは疲れていたからベッドの上に身体を投げ出していたら、コイツ普通に横に座りやがった。

 

「あれがどうした?」

「あれ、ただの決意表明じゃなかったんじゃない?」

「あぁ……。おう、一応意味があげふぅっ!!」

 

 おっま!

 なんで鳩尾にヘッドバットかました!?

 

「ごっほ……。つまり、聞きたいのはアレになんの意味があったのかって事か」

「ええ。今までの貴方の演説に比べて、なにか違うように思えたのよね」

「……簡単に言えば、政府と海軍の離間だ」

 

 こいつ、出発前の再編と軍政改革で正式に三等海尉に任命したけどあんま変わらねぇな!

 いや外面は滅茶苦茶カッコつけているけど、こうしてダベってる時は聖地から帰ってる時となにも変わってねぇ!!

 

 …………。

 

 いやロビンを始め他の幹部も大体同じか。

 ペローナも海将補佐だけどアレだし。

 

「今、俺が一番やりたくない事は何か分かるか?」

「戦闘かしら? 一番肝心の内政計画――ビリオン・ラックが遅れるから」

「合っている。が、その中でも特にやりたくないのがだな……」

 

 後頭部が見えるようにヘッドバットかましたピンクの頭が、全体的に体をよじって反転して俺を見上げる形になる。

 なんだお前は。猫か。

 

「海軍とは今戦いたくない」

「……それは、貴方の心情的に?」

「それもある。だが、これ以上海軍に減られると困るんだ」

 

 いや、減らしたい気持ちもあるんだが……。

 そうすれば魚人島奪還戦の時に楽になる。

 さすがにあの周辺の守りを私掠艦隊に任せるとは思えん。

 

 センゴクさんとおつるさんの指揮下にいる大軍とか……相手する事を考えると頭が痛ぇ。

 

「もう治安がどこも完全に崩壊している。まだ無事な加盟国も、直にその影響を無視できなくなるだろう」

「……多分次の上級幹部会で議題に上がるし報告も上がってるでしょうけど、明らかに死体を集めて回ってる連中がいるわ」

「ああ、シキだとみて間違いない。さすがに奴の本隊が集めて回ってるとは思えん。雇うなりなんなりで集めた、今のアイツの手駒だろう」

 

 本来ならば町があるハズの島に襲撃された痕跡がある事は珍しくないが、同時に死体が残っていないという報告が来ている。

 

 あんの腐れニワトリ野郎とマッスルデブ、ゾンビ兵を着実に増やしてやがるな。

 そろそろ別の作戦行動に出る頃かもしれん。

 

「海軍は敵ではあるが、こちらに離反している兵士も多く出ている以上余り恨みを買いたくない。ついでに、彼らの数が減る事はコントロールが利かない海域が増える事に繋がり、それはつまりシキのような敵対海賊勢力の拡張を意味する」

「……政府も、一応は同じことを考えているはず……よね?」

「すまん。正直それに関してはなんとも言えねぇ」

 

 マジで空白の100年直後の状況を作り出そうとしているのならば、反政府感情が根付いた民衆は一人残らず消したいハズだ。

 それが滅茶苦茶な略奪による資源・物資の回収というクソ極まる作戦行動の根幹だろうし、だからこそその尖兵は使い潰せる私掠艦隊――というか、もういわば犯罪奴隷兵か。

 

 マジでアイツら、『下々民はもっと死ね』とか考えていてもおかしくねぇんだよな。

 

「だから、細かく政府が海軍を軽視している事を俺達が喧伝することで、俺達が海軍に好意を持っていることを報せる」

「海軍の将兵の気を引くため?」

「……それがないと言ったら嘘になる」

 

 実際、あの演説の効果は多少なりともあったようだ。

 救助したり投降した兵士達の態度もそうだが、こちらへの馴染みが早いのはそれがある。

 

(クロコダイルが言ってたように、俺らに故郷の占領を陳情する兵士も多いしなぁ)

 

「ただ、一番の理由としては、政府が対黒猫戦力に海軍を使おうとする理由を減らしたいんだよ」

「……減るかしら? 忠誠の証に黒猫を攻撃しろって言わない? 西の海でも動きがあったんでしょう?」 

「ミホークがドールらと一緒に全部沈めたけどな。文字通り。全部」

 

 まさか、俺が主力を全部偉大なる航路(グランドライン)に連れて行ったと思ってたのかね、政府は。

 

 曲がりなりにも各国の王から信を寄せられている以上、万全を期するのは当然じゃん。

 じゃねーと、テレーズ殿下の親父さんみたいな厄介な王に余計な口実与えるし。

 

「と、まぁ。戦力でもすでに木っ端戦力ではウチの相手にならん。最低でも本部戦力が必要だが、かといってそう命じれば、今や貴重な本部戦力からさらに黒猫に靡く将兵が出るかもしれない。――と、政府が不安に思えば迂闊に海軍と戦闘になる事はない」

「……まぁ、西海海戦や魚人島攻防戦で実例が出ているものね」

 

 おう。いやマジで。

 ドールらがそうだけど、元海兵は現地からの新兵と共に滅茶苦茶真面目に訓練や任務に取り組んでいる。

 ガープさんから教えられたあのアタオカ訓練の軍艦バッグすらキチンとやっている有り様だ。

 

 間違いなく、俺が西の海に帰還した頃より兵士の練度は跳ね上がった。

 

「細かく離間計を挟む事で、俺達と政府の戦争という盤面から可能な限り海軍には降りて欲しいんだ」

「……もし、政府を倒す。あるいは、政府の影響力を取り返しがつかない程に削いだら?」

「世界政府から独立させる」

 

 多分、これがベストだろう。

 

「取り込むってのも考えたんだが、そうなるとウチが強くなりすぎて困った事になる」

「他が手を出せなくなるなら、強いに越した事はないんじゃない?」

「そしたら『黒猫』が誤った道に進んだ時に誰が止めるんだよ」

 

 海賊勢力では駄目だ。海賊では良くも悪くも頭の意向が大きすぎる。

 大海賊なら猶更だ。

 

 俺が欲しいのは個人の私兵集団ではなく――

 

「だから黒猫とは別の、新しい国際秩序の、新しい国際司法の下に執行される軍事勢力が絶対に必要になる」

「……それが、貴方の求める新しい海軍?」

「そうだ」

 

 黒猫は、可能ならば最終的には各国を結ぶ物流を担当する武装輸送船団という形に落ち着きたいところだ。

 ミホークやテゾーロのおかげで内政力も上がったし、緊急時に備えて生産と備蓄を重ねる土地も持っていれば尚良し。

 

「……まぁ、こうも『海軍』というありふれた名称が嫌悪感に(まみ)れているなら、なにかしら変更する必要があるかもしれんがな」

 

 そうなった場合はどういうのが適切だろう?

 海上自衛隊……は、なんか違うよなぁ。

 保安隊? コーストガード?

 いや……。

 

「ヒナ」

「なに?」

 

 こういう時は他人の意見を聞くに限る。

 それはそうとしてお前、人のシャツのボタンをカリカリひっかくの止めろ。

 

「新しい海軍に名前を付けるとして、お前ならなんて名付ける?」

「私?」

「おう」

「……そう、ね」

 

 ヒナは一度、頭の位置を鳩尾の辺りに直してからしばらく無言で考え始める。

 十秒ほどそうして、

 

「私なら」

「おう」

「……NEO海軍……とか?」

「だせぇ――ごふぉっ! ちょ、ま、げふっ! まがっ!!」

 

 鳩尾に重い連撃が叩き込まれる。

 

「アンタが! 言えって! 言ったんでしょうが!!」

「素直な感想が――ぉふっ! 零れた――ぶふっ! だけだろうが!!」

「せめて! 胸の内に! 仕舞って! おきなさいよ!」

 

 テメェ人の鳩尾目掛けて体重乗せたヘドバンするのやめ――まて! 待て!

 マウントポジションからの攻撃はアカ――デンプシーロール!!!??

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