とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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某漫画の『機熟』って言葉をどっかで使いたくてウズウズしているけどあんな濃い二人を文章だけで表現できる気がしない

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172:非公式協定―①

「ぶわっはっはっは! 改めて今回の事には礼を言うぞ! センゴクやおつるちゃんからも丁重に礼を言っておけと言われたしのう!」

「ならばもうちょっと我らの胃に優しい登場をせぬか、たわけぇ!!」

 

 とある海軍基地の一つ。

 偉大なる航路(グランドライン)に入り込んだ海賊たちの、とりあえずの略奪に対して目を光らせる要所の一つにて、本来ならばあり得ない海軍の『英雄』と海賊『姫』の非公式会談が行われていた。

 

「ともかく、救助した兵士達は急死せぬように食事を最低限の量にしておいたゆえ、そちらでもしばらくの間は重湯などを与えて臓腑と体力の回復を待つが良い」

「? なぜじゃ? 腹が減って倒れたのなら食わせれば回復するじゃろうて」

 

 ハンコックの言葉に、英雄と呼ばれたガープが不思議そうな顔をする。

 

 ミホークのようにとりあえず肉を食えば怪我も病気も治りそうな男ならば仕方ないと、ハンコックは首を横に振り――

 

「伊達に西の海で飢えと戦って来たわけではない。飢えに飢えた者が突然腹を満たした結果死に至るところを散々見ておるのじゃ。ここは我らを信じよ」

 

 と答える。

 

 主に住民救助や支援を主な任とするのは黒猫陸軍の仕事であるが、海賊提督にして最優の艦隊である第一艦隊を率いる者として、そういう知識も当然積み重ねている。

 

「ぶわっははは! 海賊が海兵を前にして人命救助に関して信じよとはな! 黒猫でなければ言えん台詞じゃわい! わはははは!!」

 

 海軍基地内部の応接室。

 本来ならば一時的に保護した王族などを持て成す部屋にて、監視も兼ねた海兵が揃ってこそいるもののそこに敵意はほとんどなく、純粋に客人として海賊を招くという海軍ではありえない光景がそこにあった。

 

「しかし、海軍もやはり政府との関係は相当にギクシャクしているようだガネ?」

「ほう、わかるか」

「ガープさん、一応相手は海賊なので肯定するのは止めましょう」

 

 煎茶と茶菓子が置かれたテーブルを挟んで席に着いているのは英雄ガープと海賊姫ハンコック。

 そしてその後ろにそれぞれに兵士の精鋭を立たせ、隣にはそれぞれの参謀が付いている。

 

 海軍は長くガープの補佐を務めるボガードという将校が。

 黒猫にはここまで第一艦隊の活動を支えていた参謀長のギャルディーノが控えている。

 

「ボガード殿には悪いが、いくら何でも丸わかりだガネ。新兵の格好こそしているが、そちらのメガネをかけた少女。サイファーポールの構成員か、あるいは訓練生に見えるガ?」

 

 もはや第一艦隊――どころか黒猫内でも有名な謎に光る眼鏡を直しながら断言するギャルディーノに、目立たぬ位置にいた海兵服の少女は顔を引きつらせてしまう。

 

「ぶわっははは! やはりセンゴクが目を付けている男は違うのう! 分かるか!」

「中将、断言するのは駄目だと……」

 

(……ンンッ!? 元帥がカネ!?)

 

 そしてそのギャルディーノも、思わぬ新情報に顔を引きつらせる。

 

「我らが偉大なる航路(グランドライン)に出るまで――いや、それ以前からCPは散々に邪魔をしてくれたからのう。だがそのおかげで、おおよその気配や立ち振る舞いですぐに連中だと分かる程にはこちらの将兵も慣れたわ」

「ついでに言うならば、そちらは熟練者程自分の戦力としての力を過信してすぐ戦闘や暗殺に走ろうとするから、顔と戦力の分析も容易いガネ」

 

 準備期間であった三年の間、防諜体制も整えた上で親衛隊候補として黒猫での修練に力を入れたマキシンを、総督であるクロは『国の三つや四つでは到底足りない程の財を得た』と言って厚遇したが正しくその通りだった。

 

 黒猫は主に防諜を主軸としてマキシンが中心となって諜報部を育て、特に軍事行動に関してはそれなりの動きを隠し、あるいは偽装できるようになっていた。

 

 偉大なる航路(グランドライン)に入ってから政府がクロがいるウイスキーピークに集中する間に、他艦隊による勢力圏の拡大が余計な邪魔をあまり気にせず専念できたのはソレが大きい。

 

 翻って世界政府は、これまでの潤沢な資金力と使い潰せる豊富な人員などで回っていた諜報工作力がここに来て土台からガタツキを見せているのだ。

 

 そしてそれを耳にしたCP候補生であり、海軍の監視役として駆り出された少女の身体が強張る。

 とっさに席に座りくつろいでいるハンコックとギャルディーノに向けて殺気を飛ばし――

 

 

―― バリィ……ッ……!

 

 

 次の瞬間には白目を剥き、口から泡を吹いてその場に倒れていた。

 

 

「……あのレイリーがクロを鍛えておったことは耳にしていたが……ハンコックちゃんも随分しごかれたようじゃな」

「えぇい、ちゃん付けは止めぬかガープ。クザンを思い出す…………むぅ、そういえばクザンはお主の弟子であったか」

 

 この場にいる兵士は海賊、海兵問わず精鋭の中の精鋭である。

 ゆえに、一瞬この場で膨張したその肌がピリつく程の威圧感にも容易く耐えて見せる。

 

 ましてや、本来ただ膨張するその王の威圧(・・・・)が、まるで針の如く研ぎ澄まされてただ一人を撃ち抜いたのだ。

 いわば余波に過ぎぬそれを耐える程度には、ここにいる兵士達の肝は十分に据わっている。

 

「それで、どうしてわざわざお主程の者が出て来たのじゃ。ここは偉大なる航路(グランドライン)の辺境も辺境。お主の威光が生きる場でもなかろう?」

「わはははは」

 

 そしてこの場にいるどの兵士も、この少女が『王の威圧』を以て邪魔者を排除した事に何も驚いていない。

 

「知らん!! 黒猫の将と会ってもよいと言われたので、ちょうどいいから来た!!」

「おい」

 

 この英雄が自由すぎる事にも驚いていない。

 もう慣れた。

 

「えぇと……ボガード殿?」

「申し訳ありません。説明いたします」

 

 ギャルディーノが、自分に似た立場の――そして多分、自分よりも苦労してそうな将に声をかける。

 

「政府の意向は分かりませんが、我々海軍としては黒猫と戦っても一利無し……いえ、害にしかならないとの見解です」

「……上層部で、か?」

「ハッ。……無論、残念ながら全ての将兵で共有しているとは言えません。中には金や女で釣られ、事実上天竜人の私兵部隊となった者も多く出ております故」

 

 ボガードの言葉に偽りはないと判断し、ギャルディーノはハンコックに向けて小さく頷く。

 マキシンが築いた諜報網の中でも、似たような話は出ていたのだ。

 

 天竜人同士でも割れつつある状況で、天竜人が個人的に支払える財を使って海兵などを取り込もうとしていると。

 

「ですので本部は、現在統制が取れている部隊を纏め次第、残る加盟国の防衛力を強化した上で聖地襲撃の大罪人、『金獅子』のシキ、並びに同行していると思われるゲッコー・モリアの捜索と討伐に全力を挙げたいのです」

 

(……ギャルディーノ)

(ああ。もっとも天竜人にとって納得のいく理由をぶつけて、戦力を少しでも多く手元に残す策だろうガネ)

(逆に言えば、そうしなければ兵を割けないと海軍は踏んでいる。政府がぶつけたいのはどこじゃ?)

(普通に考えれば各地で割拠し始めた独立国家群。あるいは――)

(我らか! もっと他にやるべきことがあるじゃろうに……っ)

 

 元海兵が多い事もあって、海軍の行動に関して黒猫内部では未だ賛否が分かれている。

 今の海軍を恥さらしだと蔑む声がある一方で、うかつに動けない海軍を理解する者もいる。

 

 ただし、世界政府に関しては嫌悪と侮蔑と憎悪の声で埋まっていた。

 クロ達黒猫上層部がそのコントロールに苦心している程に。

 

「……実際、今回我々が救助した兵達を見るに……あれだけの脅威を無視するわけには行かないのは確かだガネ」

「うむ。それは我々黒猫と海軍の確かな共通認識じゃ。確かに奴らは一刻も早くなんとかせねばならぬ。……ならぬ、が……」

 

 なにせ、その黒猫上層部であるハンコックやギャルディーノでさえ、ここの海兵達はともかく世界政府を滅ぼす所まで行かないと今後害悪にしかならぬと確信してしまっているのだ。

 

 海軍に対する懸念も、海軍そのものというより『政府の下にいる海軍』を問題視している所が大きい。

 

「とはいえ、お主ら海軍は魚人島を占拠しておる。いずれ我ら黒猫と海軍の決戦は避けられまい」

「全くじゃわい。いっそクザンがあそこで海賊になれば儂が援護――」

「――決戦は! 避けられまいが! そこはどうするつもりじゃ!? のう!!?」

「本当にすみません、ハンコック提督」

 

 ボア・ハンコック渾身のインターセプトに、ボガードは小さく頭を下げる。

 ギャルディーノも彼女やボガードと共に、中々に危ない英雄の発言に冷や汗を掻いている。

 ガープは鼻をほじっている。

 

「ええ、元帥を始め軍上層部もそこで頭を悩ませております。本音は先ほど申した通り、今は全戦力を現勢力圏の維持に加え、金獅子の捜索に向けるべきだと政府には何度も上申しているのですが……」

「政府は相も変わらず我らを敵視しておる、と」

「……一応、勢力圏の回復も並んで叫ばれていますが……ええ。さすがに今すぐ交戦し撃破せよとは言いませんが……色よい返事はいただけないそうです」

「そもそも、海軍は制海権がボロボロ――というよりズタズタ。現状打って出る事に限界があるはずだガネ」

「主殿曰く、それでも今は相当マシらしいがの」

「? マシ、ですか?」

「うむ」

 

 いわば敵地で出されたにも関わらず、ハンコックは平然と茶と菓子に手を付ける。

 CPの一人らしき眼鏡をかけた金髪の少女――海兵達によってどこかへ運ばれた者が事前に毒を盛っていた可能性もあるにはあるのだが、この場にいる海兵に関しては問題ないと見たハンコックの判断である。

 

 実際、レイリーやクロによって鍛え上げられた見聞色でもそういう未来が見えなかったというのがある。

 

「良い機会じゃから聞いておく。ガープ、貴様はどこまで計算しておったのじゃ?」

「? 何がじゃ?」

「主殿が四年前の貴様の行動を賞賛しておったぞ」

 

 ズズッと軽く煎茶を啜り、ハンコックは目の前の英雄を改めて観察する。

 鍛え抜かれた肉体、身構えておらずとも漂う覇気。

 

 九蛇はおろか、これまで見て来た強者の中で間違いなく最上位。

 あのレイリーに匹敵する武の極致を見た。

 

「もし貴様が東の海を押さえてなかったら、今頃海軍どころか世界政府は散り散りになっておった可能性が高いと」

 

 なにより多くの将兵を率いる提督として、クロが絶賛した将の知見を確認しておきたかった。

 

 

「――なんじゃ、そうなのか??」

 

 

「ガープさん……」

「……おぬし……」

 

 だがハンコック、この将への見立てはクロの方が見当はずれだったのではないかと初めて総督の智謀を疑う。

 

「実際、今の時勢で聖地へある程度まとまった食料を送る事が可能なのは西と東の二海だけだろう。その上で世界政府通貨のベリーが比較的安定しているのは東の海のみ。ここが崩れていたら天上金を含めた補給面でも、政府はもうどうしようもなかったガネ」

「いくつか海軍基地を制圧……制圧というか実質保護じゃが……その結果内部情報も手にしておる。この偉大なる航路(グランドライン)も中々に酷い有り様……。加盟国はどこも自国が生き残るので精一杯じゃ」

 

 とはいえ、ガープが東の海を重視して押さえ、結果として世界政府が首の皮一枚繋がったという事は間違いない。

 それはハンコックも、共に机上演習やシミュレートを繰り返したタキやクロコダイル達も納得する事実だった。

 

「ともあれ、戦わねばならぬ事は決定しておるが可能な限り遺恨が残らぬよう、無用な小競り合いは避けたい。それが海軍の見解じゃな?」

「ハッ。そのため、魚人島決戦までの間、非公式とはいえ黒猫とは本部戦力との間に休戦協定を結びたいと」

「本部戦力、とあえて言うという事は……だガネ……」

「……末端はもはや統制が取れていないというか」

 

 知将と謳われたセンゴク元帥ですらその統制に相当苦労している事を、ハンコックとギャルディーノは正しく読み取る。

 

 そのため突発的な基地戦力との戦闘が十分あり得ると言う事と、最悪本部が彼らを切り捨てざるを得ないという現状の酷さに、思わず深いため息を吐きたくなる。

 

(いや、悪い事ばかりではないか。本部上層が本気でそれを口にしているのであれば、取り込むことも黙認するという事)

(……海軍が我らの兵力拡大を黙認したという事実は、どこかで使えるカードになり得るガネ)

 

「しかし休戦というが、そもそも以前それを一方的に破ったのはお主ら海軍であろう」

「……返す言葉もありません。元帥もそのことは大変反省しており――」

「謝罪はもう良い。それより、海軍本部はそもそもの原因である政府に対しての策はあるのか?」

 

 そもそも海軍との休戦協定は初めてではない。

 当初の予定では、少なくとも西の海の治安がある程度回復するまでは続くハズだったのだ。

 

 その時のために計画していたのが『緑の狐』計画であり、結局それが範囲と手間が広がった『ビリオン・ラック』へと繋がったわけだ。

 

「幸い、世界政府はもはや外へ余力を向ける余裕がありません」

「口出し出来ぬと?」

「しても無視できます。政府の軍部に対する発言力はこの数年でますます低下しており、故にかつて我々の同胞が命を懸けて捕らえた海賊達を外に出すような真似をしているのです」

 

 ふむ、とハンコックは一息つく。

 

 無論、海軍とは戦わねばならない。

 海賊として、黒猫として。

 特に故郷を追われた魚人種族の怒りと悲しみを背負う事になったクロの先槍であるハンコックからすれば、それは揺るがない事象である。

 

(西海海戦は、個人戦力こそ特級を揃えて来たが、肝心の兵力は大事にしたくなかったために主殿の想定すら超える少数であった。その後の天竜人の暴走もあり、ゆえに我らへの畏怖の伝播は少々薄い物となってしまっておる)

 

 総督であるクロはしばらく盤面から海軍は退いて欲しいと言っている。

 

(時も経っている故、出来る事ならば今一度海軍を委縮させたいところではあるが……)

 

 だが、ハンコックとしてはその前に今一度叩いて関係の上下を決するべきだとも思っていた。

 

 無論、ハンコックは自分がクロの将であることを強く自覚しており、それゆえ幹部会での決定に沿うのは当然の事。

 しかし、それはそれとして決戦の前にそれなりの数の一部とぶつかるべしというのがハンコックの意見だった。

 

「わらわはあくまで一艦隊の提督。休戦協定に関しては主殿や他の幹部に相談する必要がある。……話は通しても良いが、それはそれとして我らの海軍への不信はどうする。この話を確かなものにするなんらかの証くらいは用意して欲しいの」

 

 ゆえに、話を通すことは良しとしても黒猫が――特に自分が海軍に強い不信を持っている事を言葉にする。

 

 ハンコックの言葉に顔を悔しさに歪ませるのは海賊ではなく、ガープの後ろに並ぶ海兵の面々だった。

 ハンコックは知らないが、英雄の後ろに立つ面々の多くは聖地防衛戦にてクロの指揮下に入っていたかつての将兵達である。

 

 ある意味、海軍将兵の中で魚人島攻防戦に関わった者達よりも強く『軍神』クロの手腕を知っている者であり、故にその先槍であるハンコックから信を失っている事に、改めて現政府へ失望していた。

 

「まぁ、当然じゃな。世界会議(レヴェリー)にすら出席を拒否する国が出ておる程じゃ。ここで一度……いや、二度裏切りを経験しておる黒猫へ儂らを信じろと言ってものう……」

「ガープさん、それ一応機密事項ですし交渉放り投げているんですが」

 

 一方でギャルディーノや第一艦隊の兵士達は自由過ぎるガープを見て、自分らの上官がハンコックで本当に良かったと密かに安堵の息を吐いている。

 

「ただ、言った通りセンゴクやおつるちゃんはクロを裏切る羽目になった事を、本当に悔やんでおり、申し訳なかったと繰り返していてのぅ」

「……いや、まぁ、ここしばらくの海軍の落ちぶれぶりを見れば、それはそうであろうとは思うが……」

 

 ついでに、政府から監視役を付けられた上でこうして密談を行っている時点で、相当に海軍の心情が政府から黒猫に傾いているのは一目瞭然だった。

 

(主殿とヒナが言っておった『海軍関係者とその家族のより強固な保全』とやらが悪い方向に作用しているとマキシンから情報が入っておる。海兵の中には動くに動けず従うしかない者も少なくないと)

 

 同時にそこまでして海軍が大規模に動けない理由もハンコックを始めとする黒猫幹部は知っていた。

 

(4年前の天竜人の暴走直後、海兵への民衆の心証が最悪になり犠牲者すら出かねなかったため、各地に作られた海兵のための隔離都市(ゲーテッドコミュニティ)に家族を預けた者が多数出ているとマキシン君は言っていた)

 

(恐らく、世界政府ならば数年で立て直すと踏んでいたのであろうが……。それがこうして体制を立て直せず、家族や親族を実質人質に取られたままの兵士が多数おる。であれば、海軍とは距離を置いて互いに警戒したままの方がマシだとは思うのじゃが……)

 

 今の海軍には下手に近づくべからず、というのがハンコックとギャルディーノの素直な所感ではある。

 ただクロが海軍とのパイプは維持するべきだと考えているのに加えて、それにも一理あると考えてしまっているために切り捨てる訳にもいかなくなっていた。

 

「……せめて今回の謝礼と手数料代わりに何か寄越さぬか。こちらは物資を消費して海兵を救った上に運んできておる。状況的には貴様ら海軍の方が下手であろうが」

「ぶわっはははは! まったくじゃ!!」

 

 とりあえず話だけある程度の決着をつけて、引き渡した海兵達の回復を確認次第出発したい。

 

「実は、その事に関してつる中将から言伝がありまして」

「ほう」

 

 そう考えたハンコックとギャルディーノだが、このまま話を持って行っても無駄に(こじ)れる可能性があると判断。

 非公式休戦が成るにせよ崩れるにせよ、クロはともかく周囲の人間――せめて幹部勢がある程度納得できるように海軍側からの目に見える譲歩は事前に欲しいと考えている。

 

 とりあえず二人揃って茶を啜り、

 

「過去の謝罪も含め、まず(・・)は軍艦五隻分の食料と水。そしてすでに手にしているかもしれませんが、近海の島々への永久指針(エターナルポース)に海図。加えて、協定の人質としてつる中将の孫娘をそちらに寄こすと」

 

―― ぶふぅーーーーーーーっ!!!!

 

 二人揃って、盛大に茶を吹く。

 

「馬鹿者ぉっ! 海軍が容易く海賊に譲歩するでないわ!」

 

 ハンコック、ここに来て盛大に内心の掌を返す。

 

「待ってくれ、孫娘と言ったネ!? 歳はいったい……いくつ……なのカネ?」

 

 一方でとんでもない話が出て来たと、ギャルディーノは震える声でそう尋ねる。

 

「今年で八歳になると」

「あぁ、もう連れて来ておるぞ」

 

「本当に子供ではないかっ!!」

「せめて十歳は――いや十五は越えてくれないカネ!!!?」

 

「お主らの中には同い年くらいの幹部級がゴロゴロおるじゃろう?」

「というか、本来ならば十五も子供です」

 

「そもそも海賊に幼い子供を容易く預けるでない!」

「しかも上級将校の孫娘など、何かあったらどうするつもりだガネ!?!?」

「幼子が見知らぬ海賊連中に囲まれるなど、どれほどの恐怖じゃと……っ!」

 

 海賊二名、海兵に向けて渾身のツッコミを入れて常識を説く。

 

「ぶわはははは! まぁ、なにか考えがあるのであろう。おつるちゃんも、クロなら分かるし大丈夫じゃろうと言っておったしのう」

「えぇい、そういう話ではないわ!!」

「話だけなら悪くない。物資はおろか海軍が海賊に人質を出すというのは前代未聞であり、機密事項扱いになるとはいえこちらの上層部も海軍がこれまでの事への謝罪として親族を送りこんだと……言えなくもないのだが我らは海賊だガネ!!?」

 

 海軍と堂々と会談を行える海賊は果たして海賊なのだろうか。

 

「まぁ、そっちはともかくとしてじゃハンコックちゃん」

「ともかくで済む話カネ!?」

「おい、ボガード!」

「申し訳ありません、私が代理で始末書を仕上げますのでお納めください」

「それを受け取ったわらわはどう処理すればいいんじゃ!?」

「ぶわはははは!!」

 

 後日、クロが海兵から始末書を受け取った海賊となった事に頭を抱える事が決定したその瞬間である。

 

「でだ、それに加えて儂からも頼みがある」

「この混乱の上でか!?」

「そう言わんでくれ、ハンコックちゃん。儂も悩んだんじゃが、黒猫以外に頼める所がなくてのう」

 

 

 

 

「頼む。どうかそっちで、儂が東の海で捕まえた海賊ら(・・・)を引き取ってくれんか?」

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