とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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今回短め

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176:アラバスタ防衛戦―①

―― ネフェルタリ家こそ真実を隠していた裏切りの家。

―― その実は天竜人である事を我らに伏せたまま、下界に身を潜めていた監視役に他ならぬ!

―― 見ろ! 我らの国は食い荒らされたのに、なぜ奴らは平然と変わらず君臨しているのか!?

 

 世界会議(レヴェリー)開催が通達され、世界政府加盟国の動きが活発になる。

 それは海軍の動きが内へ向くことを意味しており、現在敵対、あるいは距離を取っている非加盟国からすれば動く絶好の機であった。

 

 それゆえに、その一報は各国の王に様々な可能性を過ぎらせた。

 

『現在アラバスタ王国には天竜人の血筋を引く幼子が、防備の薄い状態で残されている』

 

 天竜人の血筋。その幼子。

 天竜人を絶対の存在としている世界政府だからこそ、ともすれば交渉の材料になりえる子供。

 

「これ以上奴らの好きにさせてたまるかっ! 今こそ……っ」

 

 ある王は義憤を以って立ち上がった。

 天竜人の血筋を途絶えさせ、反撃の狼煙にするのだと。

 

「天竜人の子供……仮にただの加盟国王の子供だとしても、最古の加盟国の姫。使い道はいくらでもあるか」

 

 ある王は打算を以って立ち上がった。

 天竜人――あるいは加盟国王の一人娘を、行き詰りつつある現状を打破する駒とするために。

 

「海軍の守りが薄い上に、首都アルバーナまでの進軍は鼻息荒い国家がやってくれるだろう。我らは我らの実利を得るまで」

 

 ある王は欲望のために立ち上がった。

 他国の侵攻に合わせて奪えるものを奪い、可能ならば土地も奪い後の侵略に備えようとしていた。

 

「行くぞ! 我ら虐げられし者の意地を見せる!」

「搾取を続けてきた一族に、正義の鉄槌を下す時!!」

 

「偽りに(まみ)れたアラバスタの大地に、我らの旗を立てよ!!!」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「ベッヘヘヘヘへへ! ドフィドフィ、思った通り四か国連合がアラバスタに上陸。もうナノハナもエルマルも落ちて、カトレアも時間の問題だ!」

「フッフッフ、俺達が『正義の味方』らしく現れるにはまだ早いな」

「そうだな、首都にまで迫った方が残っている王妃や親衛隊の面々にも覚えられるだろうさ」

 

 アラバスタことサンディ島から遠く離れた海域の小島にて、一隻の海賊船が泊まっている。

 

 ドンキホーテ・ファミリー。

 かつて北の海で静かに勢力を拡大させていた一味は、予定を大きく繰り上げて偉大なる航路(グランドライン)入りしていた。

 

 その中で進めていた計画の第一段階が無事に始まったことを祝い、ささやかではあるが酒宴を開いている。

 

「問題はカトレアから首都アルバーナまでの間の戦線だな。連合側は砂漠での戦いが不得手だ。兵数でも将数でも勝っているが、万が一があり得る」

「一応、それなりの集落に成長しているオアシスの場所は把握してリークしている。王が不在の今、以前金獅子が一度支援した国のような焦土戦術も出来まい。多少小競り合いで負けたとしても、補給(略奪)の目途がある以上進軍には問題ねぇさ」

 

 同時にトップであるドフラミンゴと、その師匠役であり参謀役でもあるブエナ・フェスタは地図を前にコンパスや物差しを使って戦場の推移を予測している。

 

「それより一番避けたいのは、この戦争が無駄に長引く事だ」

「待っていたら海軍の増援が出てくるからな。一応連絡船は全部潰したからかなり遅れるハズだが……ドフラミンゴ、アンタの情報網が正しければ漏れはねぇハズだ」

「そちらは信用してもらっていい。信頼できる男がこの数年で海軍内部に入り込み、立場を得て手にした情報網だ。他にも紛れ込ませている連中からの情報とも一致していたからまず間違いない」

「俺と出会う前の仕込みか。へっへへへへ、抜け目ねぇな。オイ」

 

 ドフラミンゴの計画は、世界政府の懐に入るのと同時にアラバスタ王家の権威を叩き落し、その上に居座る事にあった。

 彼らには狙っている物があり、そのために政府の中に入り込んだ上である程度信頼を得る必要がある。

 

「金獅子の旦那に頼めば、連合軍に物資の追加供給くらいはやってくれると思うがどうする?」

「……やめておこう。他の事はともかくとして、聖地を直接襲った金獅子との共闘はその時までバレるわけにはいかねぇ」

「万が一黒猫が参戦した時の保険を借りてサブプランを用意しておいてか?」

「フッフッフ、仕方ないだろう。黒猫とはそういう連中だ」

 

 地図の上には赤と青の駒が乗せられている。

 太陽を表す赤い駒はアラバスタ軍。

 対する青はアラバスタの陽を呑み込まんとする連合国軍。

 

 その外にポツンと用意されている、黒い駒。

 

「今現在、黒猫の本隊は奴らが制圧した国の守りに就いている。今のクロの手足は、一番新造の第三艦隊。――噂の『砂漠の王』率いる艦隊だ」

 

 ともすればふざけているようにも聞こえる甲高い声の、甲冑を着込んだ男が答える。

 

「フッフッフ、やけにおあつらえ向きな奴を手元に残していやがる。他の幹部は?」

「親衛隊は大体が各地の防衛に付いたようだ。手元にいるのは『王佐の剣』と他数名。他はハッキリしていない」

「ベッヘヘヘ、主だった幹部も他の場所で確認できていない。『鋼刃』に『ゴーストプリンセス』『悪魔の子』と勢ぞろいだ。なら――」

 

 そして続く、サングラスをかけたやけにベトベトしている不快な男の言葉に続くかのように。

 

「若! 来ました!」

 

 各地に伏せていた監視の報告を受けて、新入りが報告に来る。

 

「帆船一隻、旗は三本爪! 黒猫海賊団、アラバスタ海域に出現! 後続の連合艦隊部隊は拿捕され、連中そのまま上陸するようです! ――!!?」

 

 そう叫んだ新入りは、その途端に口から泡を吹いて倒れてしまう。

 

 サングラスの男は、ただ嗤っている。

 それだけだが、漏れ出る覇気は誤魔化せなかった。

 

「来たか……」

「どうする、ドフィ? どうする、ドフィ?」

「決まっている。作戦変更だ」

 

 ベトベトした男が嫌にニヤついてサングラスの男の背後に回り、左右から鬱陶しく顔を出しながらそう問いかける。

 

 だが、その顔はここ最近でもっとも喜色を浮かべていた。

 

「正義の味方は一旦お預けだ。黒猫に一当てし、俺達が奴らと敵対している事を政府に示す」

 

 甲冑の男や初老の男、少女といった多種多様な面々が、力強く。

 

「保険の出番も出てくるかもしれん。奴らの動きに注視しろ。肝心なのはタイミングだ」

 

 そして頭領の指示に頷き、出発用意のために甲板へと駆けだしていく。

 

「ふ、フフ……フッフッフッ……」

 

 その『家族』の背中を見て、ドフラミンゴは満足気にグラスに残っているワインを呷る。

 

「分かっているハズだ、クロ。お前なら分かっているハズだ」

 

「アレだけ綺麗事を並べて実践しながら、正義という分かりやすい言葉を掲げないお前だ。痛い程分かっているハズだ」

 

「この世に、『正義』なんてありはしねぇ……っ!」

 

 そして、飲み干したグラスを目の前のテーブルに叩きつける。

 空っぽになったグラスが砕け散り、まるで雪のように舞う。

 

「人はおしなべて『悪』を背負って生まれている。『悪』を背負い『悪』に揉まれ、その中での淘汰を緩める保身のためのルールこそが『正義』の正体!」

 

「だから人は正義を求めない。求めるフリをするだけだ!」

 

「己が正であるための証として、他者の『悪』をほじくり出し、それを有難がりながら罵声を浴びせて殴りつける!!」

 

「どうだ! 噂一つでアラバスタは瞬く間に敵に囲まれている!」

 

「どれだけそれまで善行を積んでいようが――いや、善とされていた裕福な者にこそ、ここぞという時に人は嬉々として『悪』を擦り付ける!」

 

「流れはもう止められねぇ! それでも足掻くんなら――クロ!! えぇ!?」

 

「やってみせろよ!! フッフッフッ!!」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「こりゃちょっと止められねぇな」

「……キャプテンでもそう思う程か」

 

 連合軍の増援部隊をとりあえず拿捕して一時停止させているが、すでにアラバスタの大地に十万を超える軍が上陸している。

 最大の港町であるナノハナへ向かう船は膨大で、ちょっと一隻じゃどうにもならん。

 一応クロコダイルを通して、待機していた第三艦隊に出撃を命じたが……うぅむ……。

 

「今までみたくさっさと奪うもん奪って街に火を付けてトンズラこくような馬鹿共ならどうにかなったんだが……ペローナ、ロビン、どうだ?」

 

 そう、そういうアホ共ならば要救助対象の扱いにこそ困るが、それでも強襲揚陸戦のプロであるクロコダイルとその麾下が揃えばどうにかなっただろう。

 

「完全に押さえられているな。対海軍を想定しているのか、港や浜辺には大砲が並べられて……灯台も臨時の砲台として改修されているぜ、クロ」

「町の中も厳重ね。……ごめんなさい、さすがにこの距離で朧気にしか分からないけど町の人らしき人はあんまり見当たらなくて、代わりに兵士が巡回しているわ」

「十分だ。連合軍がれっきとした軍事作戦を進めている事が判明しただけでも大きい」

 

 この数年で色々汚い物を見て来たロビンが顔をしかめているという事は、今見えている範囲であまりよろしくない真似が起こっているのだろう。

 

 町の人間をあんまり(・・・・)見ないとロビンは言った。

 てことは、逆に言えば多少は見たのだろう。

 占領下の町の人間に、しかもそれっぽい『正義』の大義名分を掲げた兵士が紳士的に当たれるとも思えん。

 

 主に官僚の真似事をさせてきたせいかだいぶ原作みたく冷静であろうとしているロビンだが、根っこは純なままだ。

 不安げな目で俺を見てくる。

 

 …………。

 

 どうしよう、いつもみたいに頭を撫でてやりたいが今は作戦行動中で、俺は総督だ。

 ハンコックもいねぇしペローナ、頼むわ。

 

 ……よし。

 

「現状兵力が全然足りていない。増えに増えてトータルではもうじき総兵力六万に達するとはいえ、ほとんどは縄張りの防衛が主軸だしな」

 

 矛と盾の競争は矛の方が有利ってのはそれこそRPGとかでもおなじみの理論なんだが、こっちは運営上どうしても防衛力の方を重視せざるを得ないんだよなぁ。

 

「で、流れは止められねぇってのはどういうことだ?」

「ん。倒すだけなら不可能じゃないんだけどさ」

 

 主戦場はサンドラ河で東西に割られたサンディ島の、その東側。

 アラバスタ最大の港町ナノハナから、その北東にあるオアシスの町カトレア。

 そこで水源を確保してから、北にある首都アルバーナ目指して進軍といった所だろう。

 

「カトレアからある程度――大体行軍速度で考えて三日分くらいの距離離れた村あたりを目安に潜入し、その道中にクロコダイルを伏せておく。それだけで軍を壊滅させる事は出来るだろう」

「だが、そう出来ない理由があると?」

「ん。まず一つに、カトレア位大規模な物ならともかく、中小規模のオアシス村の位置を確認できていない為、巻き込む可能性がある事」

 

 基本的には大きくまとまっているのがほとんどだと思うが、あの国は常に次の生存圏を発見するために開拓隊を出してあちこちに村を築いているからな。

 さすがにセンゴクさんからもらった情報でもそこまでは把握出来んかった。

 

 後々の事を考えると無茶は出来ん。

 ことアラバスタという国においては、象徴になり得るクロコダイルに余計な重荷を背負わせるわけにはイカン。

 

「次、対天竜人で集まった連中を反政府組織である俺達が真正面から全部叩き潰すのは避けたい」

「……やはりそれか」

「最終的に対立する可能性がある国はちょいちょいあるけど、せめて魚人島の奪還戦を終えるまでの間、敵を増やすことは出来るだけ避けたい」

「だが首を突っ込むのならば、そうもいかんだろう」

「うん、それはそう」

 

 その上で、邪魔する奴らは踏みつぶさなければならない。

 

「だから、まずは足を引っ張る所から始める」

 

 とはいえ、踏みつぶす対象を最小限に絞っておくに越したことはない。

 あと、避けられないだろうウチへの不平不満に対して、とりあえずカウンターというか言い訳は欲しいよね。

 

「連合軍の増援はとりあえず防いだ。出来れば補給も潰したいが、下手に締め付けると現地の略奪を加速させかねないので、とりあえずはコレでよし」

「では、攻撃に?」

「ん。ただし、ナノハナはまだ放置。優先するのは主戦場である東側ではなく、西側」

 

 連合軍が一枚岩なわけはないし、その作戦行動によって方向性は見える。

 

「『緑の町』と名高いエルマル。まずはここを俺達で押さえる」

 

 方針を示すと、クロコダイルがニヤリと笑う。

 

「出番だな?」

「揚陸戦だから尚更な。旗艦の兵のみとはいえ、主戦力がいない西側なら問題ないだろう」

 

 そもそも、補給やら被害やらを気にしなければここではお前無双モード確定だもんな。

 

「ダズ、クロコダイルが最前線を安定させたら、残る兵士を率いて突撃。エルマルを最速で制圧しろ」

「了解」

「ロビンは観測に徹して情報を常に更新。ペローナ、兵士による市民への乱暴狼藉を発見次第無力化しろ。位置を報告すれば親衛隊を向かわせる」

「おう、任せろ」

「よし、なら――」

 

 

 

「総員、戦闘用意!! 我らの矜持を、この砂漠の地に立てよ!!!」

 

 さて。

 

 出来るなら、さっさと海軍が駆け付けてくれれば丸く収まるんだけどなぁ。

 

 

―― ハッ!!!!!!

 

 

 無理だよなぁ。

 だって一番海軍が集まりにくい時期だもん。

 俺達だってそれ狙ってたもん。

 

 助けて……助けてくれめんす……。

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