「
「噛猫・乱れ柳!」
二本足だがカクばりに乱れ撃った嵐脚もどきで、モリアから飛び出してきた大量の蝙蝠を撃ち落とす。
なんで西の海でこんな奴が出てくるんだよ馬鹿じゃないのか!?
暗闇の中で見えづらいが、吹っ飛ばした蝙蝠の一匹がうごめいたのが分かる。
「入れ替わるな!!」
「ぐお……っ!?」
入れ替わった瞬間を狙って、全速力でデカい顔を蹴り飛ばす。やっぱデカいだけあって重いしダメージを与えた感覚がない! クソわよ!
「ダズ、海兵を率いてゾンビどもを押さえろ! 救命食の塩を口の中に叩き込め! 数名は囚われている兵士の解放に! できるだけ場所を空けてくれ!」
「ガキがぁっ!
「遅いっ!」
とにかく固い、素の状態で城壁ガード発動させたベッジよりも固いし破壊力はやべぇし、ホラーゲームで一番勘弁してほしい密閉空間に大量のゾンビ配置とかクソみたいな事をしやがるが――
(想像していたカイドウレベルには遠い!)
「刺突――!」
「ちょろちょろするな!
コイツの基本的な技は、能力で生み出した大量の蝙蝠が基点になっている。
そこさえ見切れば!
「もうそこにはいないぞ! モリア!!」
「ご――っ!」
確信した。
速さという一点においては俺の方が上をいっている。
「げほ……っ……ふっざけるな!
「こちらの台詞だ」
ホントおめぇに言われたくねぇんだよクソが!!
「だがいい。いいぜ抜き足……てめぇの身体にそれなりにやる海賊なり海兵の影を入れてやろうと思ったが……逆だ」
……モリアさんモリアさん。
なんか蝙蝠さん達ちょっと黒光りしてない?
「てめぇの影を抜いてやる! なんならそこらの雑魚海兵の死体でもてめぇはいい仕事をしそうだ!」
今ここには女海兵しかいないよねぇ!?
「キシシシ!」
やっばい、来る!!
「見せてやるよ『抜き足』……グランドラインの海賊の力をなぁ!!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「邪魔だ……っ!」
ダズ・ボーネスはスパスパの実を食べた刃物人間だ。その防御力は一味の中でトップクラスであり、特に一対一の戦いではこれまで苦戦すらしたことない。
「
『きゃあああああ!!!?』
切り裂いて崩れたゾンビから影が抜け、元の持ち主であったまだ吊られている海兵の元に帰っていく。
ゾンビという存在に一瞬驚いたが苦戦する相手ではない。
だが、他ならぬダズ・ボーネス自身が理解している。
今の自分が勝てないだろう敵は、全てキャプテンであるクロが受け持ち、倒してきたことを。
あの海軍支部中将しかり、ギャングしかり、そして今目の前にいるグランドラインの海賊。
それらを相手に一歩も引かない船長の姿はあまりに遠く、だが眩しかった。
「ダズさん! ロビンちゃんが能力で塩を袋ごと運んで追加してくれました!」
「全員、ポケットでもどこでもいい、すぐに手が伸びるところに塩を詰め込め」
そして理解している。
副船長の役職を与えられている自分に求められているのは堅実な仕事だということを、誰よりも。
(膂力はあるが、まだ動きが拙い。海兵の影を入れたとキャプテンは言っていたな。能力か)
目の前に敵がいて、すぐさま交戦に入ったためにクロも十分な情報を伝えられなかったが、ダズはその断片から状況を組み立てる。
(それが暴力に慣れたギャングの身体であっても、その動きは中に入れた影に左右されるのか。そして弱点は塩、と)
「三人で一組になれ。最低でも二人一組だ」
あの島で過ごしていた間に、ダズは海兵達の訓練に付き合っていた。
全員新兵かそれ以下だったが、奴隷にされかけた恐怖のためかそれ以外の理由か、海兵は全員開拓を進めながら必死に訓練を行っていた。
能力者な上に場慣れしているとはいえ、子供のダズに頭を下げてだ。
「敵は力が強くても動きが鈍い。数こそ脅威だが防御役と組んでいれば、早々崩されることはない」
まだ戦力と呼ぶには遠いのだろう。
だが、もう彼女達が新米ではない事をダズ・ボーネスは知っている。
「一人が対峙し、一人が防御の補助に。残る一人は乱入を警戒しながら口の中に塩を叩き込め」
「二人一組の所はとにかく崩されるな。発見次第加勢する」
「確実に戦力を削っていけば、訓練を重ねたこちらが負けるような相手ではない」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「
「ワンパターンな!」
「だが威力も速度も大違いだぜ!」
「そうだな――だがそれがどうした!!!!」
(クソが! クソがクソがクソが!! クソガキが!!)
内面を隠して笑いながら、ゲッコー・モリアは焦っていた。
覇気を纏わせたはずの蝙蝠は、先ほどよりも『抜き足』に肉薄するが直撃まではいかない。
飛んできた斬撃に耐えきり、近づいた蝙蝠は直接蹴り砕かれている。
常人の目ではとても見えないだろうが、一瞬でそれぞれが5回以上蹴られてたのがモリアの目には視えた。
(どういう足をしてやがるコイツ!? しかもうっすらとだが
グランドラインで戦ってきた敵の中での強者程のプレッシャーはない。
攻撃に関してはまだグランドラインの前半レベルだ。
新世界のレベルまでは届いていない。
だが、足は……速度に関してはまるで――
(当たらねぇ! どれだけ
――ズキッ
(体が万全だったならこんなガキ――!!)
部下を失いながら挑んだ海賊――百獣のカイドウ。
怪物とも呼ばれる男との闘いは、尋常ではないダメージをモリアに残した。
そしてその後の敗走。
それは確実に、大海賊であったゲッコー・モリアの心身に消えないダメージを与えていた。
(だが足さえ止めりゃただの雑魚だ。このクソガキの足を止めるには――)
チラリと、とりあえずの兵力として適当に作ったゾンビ軍団を抑え込んでいるクロの部下たちを見る。
「キッシシシ、おいガキ――おごぉっ!?」
部下らしい能力者の子供や、その指揮下でジリジリとゾンビを無力化しているやけに美形揃いの兵士たちの影を奪い、人質にしようとした瞬間。これまでにない一撃が顎を蹴りぬいた。
――じ、じじ……っ、ジジジジジジジジジ!!
「お前の考える事はなんとなく分かるが……そうはさせん」
「てめぇ……その足は……っ!!?」
青く輝く、雷を纏った黒い足。
そして先ほどから、視えても避けられないその速さを持った一撃は――
――『雷鳴八卦!』
海賊、ゲッコー・モリアの心にこびり付いた一撃を思い起こさせるには十分だった。
「お前に、この場でこれ以上カゲは切らせない」
「てめぇ……抜き足ぃ……っ!!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
やると思ったやると思った! お前は絶対にやると思ったよそういう奴だもんな!!
ギリギリ『冬猫』の発動間に合ってよかった!
(やっぱりこの時期だと覇気を纏うか。でも――)
遅い。
より正確に言うなら、どういうわけか攻撃に入る瞬間と覇気を纏う間にわずかなタイムラグがある。
しかも、攻撃にこそ覇気を纏うが、それを維持したままには出来ないようだ。
その瞬間ならば蹴りは入る。
問題は蹴りが入ってもダメージが入っているかどうか分からない点か。
(筋肉固すぎるだろうコイツ、何食ったらこうなるんだ!?)
今の時点で一番威力が出るのは悪魔風脚の真似事だ。
ベッジの城壁も抜けてダメージを入れられる今の自分の必殺技だ。
西の海にいる間はこれだけでも十分やっていけると思っていたのにこれだよ!
「あぁ、俺の認識が甘かった。クロ、お前は海賊ごっこのガキじゃねぇし、ましてや駆け出しでも生ぬるい略奪しかできねぇ奴でもねぇ」
いやもう、出来ればずっと油断しててくれませんかね。
なに? その刀……刀……ちょっと待ってそれひょっとして――
「全力で相手してやるよ! 抜き足ぃ!」
――っ、速い!
刀身……いや、覇気込められてたら靴の鉄板ぐらい斬られる!
とっさに握っている手に狙いを変更して上へと蹴り上げ――
「そこのガキも上でさっきから鬱陶しい能力を使っているガキ共もさっさとカゲを剥いで!! そしてゾンビになれ!! そして!!」
「――ぐあ……っ!!」
次の瞬間、思いっきり吹っ飛ばされて端に積まれていた木箱や樽の中に叩きつけられた。
ペローナのネガティブゴーストが飛んでいるのが見えたが、全部覇気を纏わせているんだろう蝙蝠に叩き落されている。
「俺を海賊王にならせろ!!」
(クッソ……カゲを切られたら不味い!)
体を動かそうとするが、残骸に足を取られて『抜き足』が上手くいかない。まっず――
――アイス
最悪カゲを取られる事を覚悟していたら、接近してきていたモリアが大量の氷の槍でぶっ飛ばされた。
……なんで!?
「あらら……あのニコ・ロビンが自分で電伝虫使って助けを求めるなんてただ事じゃないと思ってたら」
「クロ君、君とんでもない大物と戦ってるじゃない」
「クザン中将!!」
ロビーーーーーーーーーーーーーン!!!!
お前今度好きな物なんでも食わせてやる!!