オリキャラ:画像検索用早見表
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=327602&uid=886
「食料は全部船に詰め込め! ガキ共もだ! 連れ帰る間に生き残っていればいい奴隷になる!」
「食い物だけじゃない! 持ち帰れる物は全て詰め込め! それが我らの国の礎になる!」
「民衆が立てこもっている? ちょうどいい、火を付けろ! 女は兵が手を付けているから見せしめに困っていた所だ!」
「燃え尽きた夫や父の姿を見れば、
アラバスタ王国国王コブラの政治の手腕は見事な物だった。
突如として先細りを始めた交易量を見越して余力のある国との繋がりを強化し、国内の開発を急がせて国力の低下を最小限に抑え、だからこそ偽装した者も含めた海賊らに狙われる事を予測して軍の拡大強化を可能な限り急がせた。
そのため民衆は大乱に巻き込まれた世界を余所に、『以前に比べて生活の負担が少々増した』程度の認識で日々を過ごしていた。
徐々に港町に増員される兵士の意味も、中古の船の買い取りを進めていた意味も、聞いてはいても正しく理解していなかった。
そのツケが今、目を背けたくなるような惨状として現れた。
―― 煉瓦だろうがベッドだろうがなんでもいい! とにかく道を塞げ!
―― お願いです、子供だけでもラクダに乗せて行ってください!
―― 手が空いてる男はなんでもいいから武器を取れ! 女子供を逃がす時間を作るんだ!!
対応に当たった兵士達は既に討ち取られるか捕虜にされている。
逃げ遅れた者は占領下の地域でどういう扱いをされているかさっぱり分からない。
すでに民衆に残された手は、少しでもか弱い者らを逃がすために命を懸けて立ち上がるしかなかった。
「恐れるな、もはやこのエルマルには民兵崩れしか残っていない! 捕まえて奴隷にせよ! 手に余るならば殺して見せしめに――なんだ……砂嵐!? これだから砂漠の国は――待て、なんだこの量は!!?」
―― クハハハハハ……。
今、この瞬間までは。
快晴だった緑の町エルマルが、突如として砂嵐に包まれた。
慣れている上に連合兵士達の銃火を逃れるために建物に入っているのがほとんどだった民衆達は慌てて窓を閉める。
一方で次の略奪とその成果を楽しみにしていた連合軍は、為すすべなく砂嵐に塗れて混乱するばかりだった。
―― ぶべっ、ごほっ! くそっ、口元を覆え!
とっさに略奪を指揮していた将がそう叫ぶが、文字通り砂の嵐の中でその声は誰にも届きはしない。
思わぬ
時間にして僅か一分のその半分。
たった三十秒の砂嵐で、略奪兵は為すすべもなく砂まみれになって地に臥せっていた。
「あれだけ海賊よろしく食い物漁って女子供を攫い、景気付けとばかりに火を放とうした割にはだらしがねぇな。……なぁ、総督?」
「訓練で慣らした上で装備を整えていないとウチの兵でも厳しいんだ。寄せ集めの急造軍隊にそれを求めるのは酷だろうさ」
そして砂嵐が晴れると、いつの間にか見知らぬ
どこかの国軍と見間違うような黒を基調とする統一された軍服を身に纏い、アラバスタの民衆らが立てこもる建物を守るように整列している。
その前列には軍服とは違う、黒いスーツに身を包んだ美男美女が武器を手にして牽制している。
一見強そうには見えず、だが漏れ出る覇気が明らかに他の将兵とは一線を画している彼らを、率いる者達が更に立っていた。
明らかに歴戦の風格を醸し出している片手がフックの男。
髪を剃った坊主頭の15前後くらいの少年。
片やピンクのふんわりした髪を、片や黒い真っ直ぐな髪を後ろで束ねる少女たち。
そしてその全員が従う事を是としている、二十歳ほどの眼鏡をかけた男がいる。
その男は手のひらで眼鏡の位置を直す、変わった仕草をしながら苦笑し、
「さて、戦力差は理解してくれたと思う。我らは黒猫海賊団。連合軍の諸君らはただちに降伏し、捕えた民間人を全員解放していただきたい」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ふざけるな! 我々は勝っているのだぞ!? この町も我らが押さえたのだ! その住人も当然我らの物であろう!!?」
おっとぉ。
どうやら話が通じない以前に常識を海の彼方に放り捨てた馬鹿が指揮官だったようだ。
周りの兵士も同調してるし、マジかお前ら。
え、一応正規兵なんだよね?
世界政府の私掠艦隊の真似でも始めたか?
「凄いな……」
口の中に入った砂をぺっぺと吐きながら怒鳴る軍人らを見て、ダズが感心している。
「今まさに無力化されたばかりだというのに、まだ戦意を維持できるとは」
「いや、これもう略奪やら暴力に味を占め続けて色々麻痺ってるだけだろ。これまで散々見た
それに対して、かつて西の海で暴れていた頃に比べて背が伸びてスーツが似合うようになったペローナが、閉じた日傘で肩をトントンと叩きながらため息をついている。
「ここアラバスタは散々人を弄んだ世界政府加盟国の最古参! それこそ天竜人の血を継ぐ者達の伏魔殿ではないか! その恩恵に与って繁栄を続ける者達に我らの――」
なおも叫ぶ髭面の男に対して、ペローナの隣に立つロビンが心底嫌そうな顔をしている。
うん、まぁ――
「もういい。そちらの主張は理解した」
――これ以上の問答は必要ないか。
俺達の背中には、立ち上がろうとした人達がいる。
コイツらの後ろには、今も非道な扱いを受けている人達がいる。
「我々とは相いれないという事がな」
覇王色。
西の海にいる間、レイリーに徹底的に叩き込まれ、そしてぶつけ合わせて磨いた覇気。
特にコントロールにかけてはレイリーから『異常』のレッテルを貼られるレベルだ。
――……っとっと…………どっとっ……っ!
見聞色で民間人の今の配置を確認し、そこに覇王色を編み込み広げながら、部分的に広げ威圧する。
――どんどっとっと! どんどっとっと!!
ガープさんが言う所の、解放の音色を響かせて。
連中が略奪品を詰め込んだ船は、別動隊がすでに押さえている。
まだこちらの増援が来るには時間がかかるが、戦災・災害支援用の物資倉庫の解放を命じてあるため日が経てば潤沢な物資を持って第三艦隊――揚陸戦ならびにその維持の精鋭部隊が駆け付ける。
解放の音色が響くたびに、略奪に勤しむ無法者に成り下がった兵士達がバタバタと倒れていく。
背後の民衆達が、なにが起こったのか把握できずにざわめいてる。
「ロビン、船の方はどうなってる?」
「親衛隊の人達がもう押さえたわ。こっちはさらに少数だから不安だったけど早いわね」
よしよし、これで攫われた人間も盗られた食料も回収できるだろう。
町の人間の説得もこれで早まる。
「……? おい、クロ。別動隊がこっちに来てるぞ」
「? ウチの?」
「んなわきゃねーだろ。敵だ。どうも上陸してから周辺の村を襲ってたみてぇだな。大量の荷馬車に加えて、若ぇ女が縄で繋がれてやがる」
「もう質の悪い海賊とか山賊じゃねぇか……」
真面目に仕事しろ軍隊。
物資の現地調達はわからなくもないが、それなら女かき集めてる必要はねぇだろうが。
正規兵なら軍規の一つや二つあるだろうが。
「大海賊のお前が言うのか。クロ」
せやかてクロコダイル君。
「非効率的だろ。無計画な略奪とか」
いやマジで。
仮に強制調達する必要があっても、キチンと出来る限り等価のリターンを用意してしかるべきだ。
…………。
うん、やっぱり略奪は後々を考えると一時的なカンフル剤にしかなれん。
ウチの方針は投資とその回収システムの構築一択だ。
魚人島を制圧してネプチューン王と魚人に返還すれば物流の幅が再び広がる。
新世界と西の海の直通航路を確立できれば更にドン。
その時それぞれの支配圏に差をつけるのは、生産力と同様にどれだけの市場を確保できるかだ。
「略奪もいわば経済活動の一種だ。ビジネスと言ってもいい。だからこそ実行に移す際は後々のヘイトリスクも考えて計画を練るべきだ」
「クハハハ! お前のそう言う所は好きだぜ、クロ」
だからこそ、この機会にアラバスタの
いや違うな、味方にしなければならないんだ。
「計画に変更はなし。我らはまずエルマルを完全に押さえて後続の第三艦隊を待つ。残る連合将兵を拿捕して我らの管理下におけ。アラバスタ民が私刑に走れば、今度は暴動が起こるぞ」
側に控えていたアミスが敬礼と共に返事をし、兵を動かす。
一応敵は眠らせたが、仮に起きたとしてもこのレベルならば親衛隊一人でも無双できるだろう。
いつも通りに小隊組んでいるなら猶更。
兵士の質だって魚人空手をベースに鍛えたウチはそれなりに強いハズ。
乾いたこのアラバスタの地でも十分戦えるだろう。
現に下士官が兵を激励しながら部隊展開を急がせている。
この練度なら町を任せても問題あるまい。
「クロコダイル、お前は精鋭百を率いて敵の別動隊を叩け」
「で、捕らわれた女らを救えと?」
「そうだ。お前が適任だろう?」
「……ペローナに周囲を観測させて、襲われた村の位置を出来るだけ正確に割り出してくれ。それと、兵も出来れば倍は動かしたい」
おろ。
クロコダイルが戦術面で注文を付けるとは珍しい。
それも兵数での。
「村に生き残りがいるなら、どう動くか分からん。女を返すついでに兵を常駐させるかこっちに連れてきて監視するべきだ」
「……表向きは、連合兵士への牽制として?」
「敵の敵は味方だろう?」
なるほど。
それに村を正しく把握すると言う事は、一番大事な水源の把握と確保にもつながるか。
「分かった、兵二百連れていけ。選別は任せるぞ」
そう指示するとクロコダイルはニヤリと笑い、将兵や親衛隊ほどキッチリした物ではない適当な、それでも確かに軽い敬礼の仕草をして待機している兵たちの元へ行く。
……丸くなったなぁ、アイツ。
一番不安だったロビンとの関係も、食事しながら雑談する程度にはなったし。
「さて……ほら、クロ」
「ん」
ロビンがちょんちょん、と脇腹を突いてくる。
頃合いだという合図だろう。
農具や工具、包丁、なにもないよりはと石やレンガを握りしめていざ飛び出そうとしていた男達が怪訝そうに、だがジリジリと様子を伺うように立て籠もっていた建物から出てきていた。
「必要だとは分かっていても、いい加減こういう仕事は教育終えた高級将校に任せたいんだけどなぁ」
「貴方以上の黒猫の顔役はいないじゃない」
まぁ、そうなんだけどさ……。
ペローナはさっきのクロコダイルとの話を聞いてすぐさま仕事に移ったし、ダズは少々しぶとかった連合残兵の捕縛と、捕まっていた民間人の保護を指揮している。
(……テゾーロもハックから将校並の太鼓判押されてるし、官僚候補がもうちょい増えたらアイツも連れてくるようにしよ……)
もはやおなじみになった黒いコートを翻し、民衆の方を向く。
小さくざわめく彼らの畏怖を肌で感じながら、すぅ、と息を吸い込む。
「民衆よ! どうか恐れないで欲しい!!」
そしていつものように叫ぶ。
本当にいつものように。
「我らは黒猫! この度、偉大なる
小さく、『黒猫だ……』『世経で見た、三本爪の旗だ』『本当に実在してたんだ……』という呟きが建物の中から聞こえてくる。
「これより、アラバスタの偉大なる王が
ロビンてめぇ、その笑いはなんだコラァ!!
お前俺が民衆相手にしてる時いつもそんなんだよな!?
「どうか武器を下ろし、諸君らの隣で苦しんでいる者達を救うために力を貸してほしい! 我らは少数精鋭で強行してきたため、傷病者を安全な場所に保護するための手が足りていない!」
ダズとか親衛隊の面々も似たような顔をするけど、俺にだって恥という感情はあるんだぞぉ!?
「今諸君らが立て籠もっている建物を、臨時の救護施設として使わせてもらいたい! 我らが治療の環境を整えるため、まだアチコチに潜み怯えている傷病者を説得し、連れてきてもらいたいのだ!!」
「一人でも多くの命を救うために! 一人でも多くの人間を一秒でも早く安心させるために!」
「どうか、諸君らの! 偉大なる砂漠の民が持つその団結の力を貸していただきたい!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「バレリアさん、総督より入電! エルマル制圧完了! 制圧完了! 作戦は予定通り進めよとのことです!」
本来ならば人知れずアラバスタ西部のどこかへ上陸するハズだったための少数精鋭での作戦行動が裏目に出た今、唯一の船は親衛隊の指揮の下アラバスタ戦の要として投入されていた。
指揮を取るのはバレリア。
先の西海海戦において部隊を指揮し、大将赤犬を引きずり出すまでに海軍に打撃を与えた女傑である。
片手では持ち切れないような大剣を背負った親衛隊の仲間の報告に、バレリアは小さくヨシと頷き、
「船長、敵影はどうだ!?」
「ハッ! ブリガンティン船二隻、並びに小型ガレー船五隻を確認! 恐らく連合軍がナノハナにて接収した船かと!」
「こちらに向かっているか?」
「ハッ、いいえ! 後方に位置するガレー船から順次反転! 後退していきます!」
本来ならばクロコダイルの部下であり、彼に一から教育を受けて育てられたカイゼル髭の船長の報告にバレリアは再度頷く。
「ガレー船と言う事は、外海に出る船ではないな」
「アラバスタの人の漁船じゃない? 沖寄りに定置網っぽい目印の浮きが浮かんでたし」
「なるほど」
親衛隊は
これは力不足だった頃の彼女らの初陣でもある対ゲッコー・モリア――正確にはそのゾンビ兵との戦いの時に指揮を取ったダズ・ボーネスの指示を始まりとしているが、今でも生きている。
大剣を背負ったボーイッシュな黒髪の少女とは別のもう一人。
長い黒髪を持つ、刀とは別に鞭を腰に下げている女がアラバスタの地図を手にしてその海岸線を指でなぞっている。
「それを接収して使っているのか。……輸送か?」
「だろうな。となると、使おうとしたのは島中央のサンドラ河か」
「……総督がエルマルを押さえた上で、河口部を封鎖するよう指示を出したのはそれが理由か」
「慌てての作戦行動だからいつもみたいな作戦説明すっ飛ばして即実行で、ちょっと新兵は戸惑ってるね……」
「あとで将校に報告しておくぞ。これでオタつくようでは話にならん」
「……一部士気が低い奴らもいるぞ、バレリア」
「分かっている。今回は守る相手が天竜人の血筋だからな……」
今回の敵は反政府連合軍。
ある意味で目指す所は黒猫と同じ、世界政府の廃絶を掲げて拡大している国家体の集まりであり、その敵は天竜人と言っても差し支えない。
それゆえに黒猫に入って日が浅い、単純に天竜人への反発で入った兵士はアラバスタ王家の血筋が天竜人と同じと知り、むしろ連合軍に協力するべきなのではと陰で話す事が珍しくなかった。
「総督の指揮に疑問を持つのはともかく、実戦に影響を出すわけにいかん。もし敵艦船が攻勢に出れば、我々で斬り伏せるぞ」
指揮官であるバレリアの言葉に、二人は強く頷く。
今後黒猫海賊団がアラバスタとどう関わっていくかはまだ不明だが、黒猫海賊団がこうして総督直々に出向くほどの作戦行動に移った以上、勝利に向けて全力を尽くす必要がある。
かつて地獄の有り様だった西の海からその先陣を切り抜け続けた親衛隊は、意見の相違が出る事はあってもその結束に揺るぎはない。
「船長、総督の指示通り本船はこのままサンドラ河河口を死守する。第三艦隊の到着まで、連合艦船は一隻たりとも通さぬと兵士に通達を」
「了解。船員は三隊に別けて五時間ごとに交代させ、万が一の強行に備えて休息を万全に取らせたいのですがよろしいでしょうか」
「許可する。ただし、急な大規模遭遇戦というのもあって先行きが不透明だ。水や食料の消費管理は念入りにな」
「ハッ」
敵は十万を優に超える大軍。
対してこちらは対応できる精鋭揃いとはいえ単艦での作戦行動。
仮に黒猫海賊団の武名を知っていても、今ならばと牙を剥いてくる可能性は十分にあった。
河口付近という偶発的に大きな戦闘が起こりやすいポイントにて、黒猫海賊団と連合艦隊の睨み合いが始まった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「接収した船を使って河を遡ろうとしたって事は、もうカトレアは制圧されて連合軍は北上を開始したってところかなぁ……」
民衆は最初こそ懐疑的で動きがぎこちなかったが、こちらが船医を中心に怪我人の手当を急がせた辺りで徐々にこちらの指示に従うようになり、日没までには代表者を選んで当面の情報や意見の交換を約束できた。
今はとりあえず寝泊まりできる無事な建物を片づけて、そこで休めるようにしている所だ。
うちの兵士も手伝っているが……やはり、元海兵の方がこういう仕事に対してスムーズだなぁ。
幸いまだないが、災害派兵なんかもその内起こるだろうし、教育メソッドの見直しが必要か。
「つまり、陸の軍隊が必要とする物資を船で一気に運ぼうとしたと?」
「最終的な目的はどうあれ奴らは首都アルバーナを攻略、最低でも包囲するつもりだろう。陸路だけではその行軍を支える膨大な物資の運搬はまず無理だ」
「砂漠だからな。奴らの通常の輸送方法では容易く足を取られるか」
とりあえず初日は乗り越えた。
クロコダイルは無法者と化した連合部隊を片っ端から無力化して、ついでに村の人間をこっちに呼び寄せて保護する事に成功した。
連合艦隊も動きは見せず、いざという時はアミスらと船の方に移って連合艦隊を片っ端から沈める必要があるかと思ったが、今の所は静かなままだ。
ペローナは一度仮眠を取ってから夜間偵察を続けていて、ロビンはウチの測量士等数字に強い面子を集めて今のエルマルの状況をまとめている。
そうして残る最高幹部の野郎三人は、少しでも町の人間に顔を覚えてもらうためにこうして外で焚火を囲んでの会食中というわけだ。
「しかし……連合の奴らは最初から河を全軍で上れば、すでにアルバーナを包囲できたんじゃないか? カトレアから砂漠横断するよりよっぽど距離は短けぇだろう」
「そりゃ、お前みたく強襲揚陸戦に強い兵隊がいりゃ出来なくもなかっただろうけど……」
単独でもやろうと思えばやれる能力者のクロコダイルからすればそう考えてしまうんだろう。
特に今は手足となる軍隊の運用に慣れて来たから尚更だ。
新世界は知らんけど楽園レベルなら上澄みも上澄みだぞ、お前の手足。
海戦ではまだハンコックやタキ爺ちゃんの艦隊の方が上だけど。
感覚として旗艦だけでも、海軍本部の将官クラスが数名いるし。
気になる所も新兵くらいしかない。
「河川沿いは毎年恒例の恵みの洪水を警戒して、畑はともかく町や村と呼べる居住区域がない。ウチみたく工兵に力を入れていれば港湾機能しかりベースキャンプしかり急造出来るけど、寄せ集めの連合軍じゃあまず無理だろう」
それに首都に近い所に拠点を築けば、当然アラバスタ軍の反抗が激しくなる。
船という箱を使っての輸送には当然箱の数という限界がある以上、一度に全軍は移せない。
砂漠に慣れたアラバスタの首都防衛隊を相手にするには不安要素がデカすぎるだろう。
何度か起こる小競り合いの果てに拠点が破壊され、最悪船も失うのが関の山だ。
クロコダイルクラスの戦術効果を出せる戦力がいるなら話は別だが、いるならカトレアはもっと早く落ちているハズ。
「……だから連合軍がその大軍をアラバスタで運用するには、港町のナノハナを起点に確実に兵と物資を進めていくのが絶対必要になる」
「船に物資を積んで、陸軍と並走させながら川沿いに進軍という我々の常套手段も難しいのか……」
ダズが難しい顔をして呟く。
大規模な攻勢――島攻めを行う時の俺達のやり方だが、海岸ならともかく河川のような場所でそれをやるのは座礁が怖いからなぁ。
それに砂漠地帯というのがあって、現地調達に限界がある。
食料だけじゃなく、体を休めるためのシェルターの材料集めですら苦戦するだろう。
必然的に運ぶ必要がある物資が増えてしまう。
幸いサンドラ河は大河だ。水路として使うには問題ないだろう。
だがここで水上輸送を最大限に機能させるには、陸路を押さえて軍をある程度進めた上で、中間拠点を築かせるしかないだろう。
(それに、アラバスタは変わり種の戦力がいるからなぁ)
隼のペル。原作ではアラバスタ最強の戦士と言われた男。
原作読んだ時は能力よりもガトリングが印象的だったけど。
あのペルがもうアラバスタ軍に入っているのか、
ウチみたいに対空砲用意している船なんて珍しいだろうし、手持ちの銃火器の一斉射撃で対処するには射程も精度も足りないだろう。
「それに、アラバスタは野生動物もやっかいだ。人の気配が少ない所にはそういう生き物が住んでいるし、毒を持つ虫も珍しくない。連合軍も試行錯誤はするだろうが、最終的に安全かつ確実な進軍ルートはアラバスタの人間が使う道に限られる」
いつもならば砂盤を用意する所だが、今回は計測に回せる人員は最小限だし民衆の救助や介抱で手が足りていない。
とりあえず作った地図を野郎三人で覗き込むという寂しい光景を作り出しているが仕方ない。
ギャルディーノがいれば蝋細工でアレコレ飾り立ててくれるんだが……。
存外、そういう方面でもギャルディーノは貴重な人材だったな。
「連合は入り口であるナノハナ、そして陸上物流の要としてカトレアを押さえた事で南東部を完全に押さえた。アラバスタ軍はカトレアからの進軍に対応せざるを得ず、サンドラ河への注意を向ける余力は割かれる」
「その機会にナノハナで接収した船まで用いて大規模輸送を行い、アルバーナへの進軍速度を早めようとした。それが連合軍の狙いだったか? 堅実だな」
クロコダイルのいう通り、堅実だ。
てっきり天竜人への憎悪で暴走した連中が東部に集まっていると思っていたんだが、キチンと作戦を立てている奴がいる。
「だからこそ、サンドラ河に蓋をする必要があった」
だけど、堅実な作戦だったとしても寄せ集めで意思統一がされていない軍だ。
最初から全軍を東部戦線に投入するか、あるいはエルマルの制圧にも等しく力を入れていればまだマシだったのだが……。
恐らくアラバスタを本気で攻め落とすつもりの国と、漁夫の利を得ようとする国が混在していて、軍行動に乱れが出たのだろう。
だから進軍に本気ではない漁夫の利狙いの連中にエルマルを攻めさせ、とりあえず制圧下に置いてサンドラ河の主導権を握るつもりだったのだろう。
実際、港湾機能がより強いナノハナの方が戦略的に遥かに重要だ。
「これで敵の輸送計画は白紙に戻った。首都アルバーナまでの進軍速度は大きく低下するだろう」
「連中が海軍が来る前に片を付けるつもりならば、当然狙うは短期決戦。だが、これでそうはいかなくなったな」
河を示す場所に、さっきまで口にしていた串物の持ち手を手で折って、それを閉じるように置いてみる。
うん、問題ない。
定時連絡からしても明後日には第三艦隊が到着する予定だ。
そっちにクロコダイルを戻せば、預けていた親衛隊も含めて駒が増える。
そうすれば相手がどう動こうが対応できるだろう。
(理想を言えば、短期での進軍が難しくなって即時撤退を決めてくれれば色々と助かるんだが)
「だがキャプテン、こちらは単艦だ。こちらの増援が到着する前に攻めてくる可能性があるのではないか?」
「それならそれで親衛隊の、そして俺とクロコダイルの出番だ」
だろう? とクロコダイルにエールの入ったジョッキを差し出す。
するとクロコダイルは、当然とばかりにクハハハと笑ってジョッキを受け取る。
おう、飲め飲め。
俺はこの後民衆と救護施設の様子を見て回るからそれまでお預けだ。
「万が一の強敵に備えて俺の旗艦には対能力者用に放水砲を装備させている。場所的に淡水かもしれんが、それでもある程度の効果はある。加えて威国以外のクロの足技を使える面子が三人いるなら、敵船を行動不能にするのは容易いだろう」
村人を助けるついでに狩ったというバナナワニとやらの肉が気に入ったのか、焼いたその肉をツマミにエールを楽しんでいるクロコダイルも太鼓判を押している。
「それにだ、ダズ。エルマルの傷病者の保護が一段落した以上、こっちにいる親衛隊も1チームは戻せる。並の戦力じゃ相手にもならんさ」
こっちから攻めるとなると、戦力はともかく混乱を抑えるだけの兵の数が足りないけど、向こうから攻めてくれるならむしろ願ったり叶ったりだ。
民間人や町の被害を気にせずに思いっきり暴れてこちらの武威を示せる。
そう言うとダズも納得したのか、なるほどと頷き手にした器のシチューに口を付ける。
今日はペローナが作った奴だ。
アイツも腕上げたな。
「まぁ、怖いのは闇夜に紛れて無理やり輸送を通そうとすることか。一応ペローナがいつもの高高度偵察で警戒しているが……」
「それこそ拿捕するチャンスじゃねぇか。民衆を支える食料はいくらあっても困りはしねぇ」
…………。
やや乱暴ではあるが、クロコダイルの意見は一理あるんだよなぁ。
連合軍がここまで被害を出している以上、相手が無条件で撤退を決断してくれない限り戦う必要がある。
その間に消費する物資を敵から奪うのが一番理に適っている。
―― お~~~い、クロ~~~~。
物資の回収について少し考えていると、臨時の基地から見慣れた小さい影が出て来た。
偵察を続けていたペローナだ。
「連合軍に動きがあったか?」
「いんや、そっちは全く。こっちが夜襲を仕掛けると思ってるのか港の守りをやけに厚くしてるけど、それだけだ。そっちじゃなくてだな」
夜でも変わらず手にしている日傘――さすがに閉じたままのそれを空に向ける。
「なんか、デケェ鳥がずっとこっちの様子を伺ってたぞ」
……おっとぉ。
そっちから接触来るか?
「ペローナ、誘導できるか? 丁重に出迎えたい」
「ん? あぁ、分かったけど遅ぇぞ?」
…………。
遅ぇぞ?
「あからさまに怪しかったからさっきネガティブホロウで撃ち落とした。落ちて来てるから話がしたいんなら受け止めろよ」
「はよ言わんかぁ!!!!!!!!」
あの白いの星かと思ってたらペルかい!
待て待て待て待て、このままじゃ臨時救護施設の上にヘッドダイブ!!?
うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! 間に合えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!