とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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暫くの間、またも不定期更新になるやもしれませぬ

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178:アラバスタ防衛戦ー③

「かたじけない、クロ殿。警戒し、偵察を行った上にペローナ殿の手を煩わせた上に救助、介抱までしていただき……」

「いえ、まさかアラバスタ王家護衛隊がこうも早くこちらに向けて動くとは私も考えておらず、部下に対しての警告が遅れ――」

「本当に……アルバーナ目前まで敵勢の進軍を許した上に偵察一つも碌に出来ない無様な存在風情が何も考えずに夜中にいい気で空を飛んでいて申し訳なく――」

「すいませぇぇぇぇん! 後で部下に追加で二本持って来させるので、誰かさっき配った支給ワインを一本頂いてもよろしいでしょうか!!? 大至急お願いしまーーーす!!!!」

 

 ペローナおっっめぇどんだけネガティブホロウぶち込んだんだよ!?

 

 速くて捉えきれなかったから四十以上で包囲してからオールレンジ一斉アタックかました?

 

 そりゃ効果長引くわバカチンがぁ!

 

 すみません心優しいエルマル市民さん――えぇと、確かその口ひげはモッセさんだっけ? まだ資料全部に目を通してないから微妙に顔と名前が完璧に一致しないけど、臨時救護施設に必要なベッドやら布やら掻き集めてくれた人たちの一人だったよね。

 そのワインちょっとこの人に使わせてもらいます!

 

 市民さん達に提供した支給ワインの一本を頂いて、適当なカップに注ぐ。

 ペローナの訓練に付き合う中で気付いた発見だが、どうもネガティブホロウ喰らった時は甘い物か、あるいは酒が効くみたいだ。

 

(ミホークが酒造に凝り始めたのは幸いだったな……)

 

 西の海でミホークが試作して一応のGOサインが出た軍用の支給ワインはわんさかある。

 正確には、その時の経験を元に偉大なる航路(グランドライン)の縄張りでリソースが許す限り仕込ませている。

 

 質より量を優先させているためミホーク本人が手を掛けていた畑の奴より果実はスカスカで糖度は低く、それで作った以上ワインと言える及第点ギリギリ――あるいはちょい下かもしれんが、それでも軍隊では貴重な嗜好品だ。

 

 ……蜂蜜はあったかな。

 そこの……オーリ陸士長。どう? ある? ……あるか、助かる。

 すまんがちょっと分けてくれ。回復が早まる。

 

 ワインの入ったカップに差し出されたソレを少々匙で垂らして、かき混ぜる。

 

 なんか見たくなかったアラバスタ最強の戦士のネガティブ姿を元に戻すために蜂蜜入りワインを勧めると、受け取り一口だけ口を付ける。

 

 酒精(アルコール)は十分足りていたみたいで、蜂蜜の甘さも手伝ったのだろう。

 ネガティブホロウ喰らった奴独特のジメジメした気配が徐々に薄れて来る。

 

「落ち着きましたか?」

「ハイ。……重ね重ね、かたじけない」

「いえ。では改めて――黒猫海賊艦隊総督、キャプテン・クロです。貴方は――」

「アラバスタ王国護衛隊所属、ペルと申します。この度のエルマル解放、並びにアラバスタ国民の保護に心から感謝を」

 

 本部機能を整えている建物はちょっとこっちの機密関連がちょいちょい転がっているからペルを招くわけには行かなかった。

 今は到着時に連合軍と揉めた、現臨時救護施設の前の広場に開いた簡単なテント村兼調理場の一か所で適当に腰を下ろして、こちらの兵士やアラバスタの人達に囲まれながら話している。

 

 実際、今現在のペルの知名度に自信はなかったが鳥に変身できる兵士という点でそこそこ名は知られていたのだろう。

 俺がペルに酒を渡し、それを口にして互いに挨拶をしたことで少しだけ民衆の緊張が解けた。

 

 暴発因子を少しでも軽減できたのならば十分だ。

 

「さっそくですが戦況をお聞きしたい。連合軍は今、どこまで?」

 

 ペルさんが周囲のエルマル市民へ目を配る。

 情報を漏らしていいのか迷ったのだろうが、俺らとしては市民にも情報を開示してもらいたい。

 かなり危機的状況だとは分かっているのだが、サンドラ河を挟むエルマル民は多分情報が全く入っていないままだ。

 

 妙な噂なんかで暴走されるよりは正規兵からの情報を受け取ってもらった方がマシだ。

 

「……御推察の通りカトレアが制圧され……ここへ来る直前に見た限りでは現在動きがありません。どうやらナノハナに運び込んだ物資を可能な限り運び込もうとしているようですが……」

「我々『黒猫』がサンドラ河河口に船をおいて封鎖しているので、急遽カトレアを陸の集積拠点として使うつもりなのでしょう」

 

 それしかない。

 少なくとも、現時点では。

 水路として河をまだ使うつもりならば、こちらの船を沈めるか交渉するしかない。

 

 連合側の意思決定がどうなっているかは分からないが、恐らくサンドラ河制圧の用意も並行して進めている事だろう。

 

 ペルさんは、こっちが河を封鎖しているという情報に「なるほど」と呟き頷いている。

 戦略上、アラバスタ側がかなり時間を稼げている事に気が付いたのだろう。

 

 そう、原作のような内乱ではなく、サンディ島を攻略(・・)する事を考えた時、サンドラ河を押さえた勢力が優位に立てる。

 

 もしもが許されるなら、アラバスタは水軍を整備した上での防衛展開を用意するべきだったのだ。

 

(恐らく、明日の夜明け頃にでも連合側から使者が来る可能性が高い。向こう側が変に意地を張ったりしなければ、とりあえず内情探りながら民間人への扱いに対してのなにかしらの協定位は結べる……か?)

 

 ぶっちゃけ黒猫が参戦している大義名分は、ひとえに『民間人への不当な蛮行の阻止』だ。

 これを解決できればこちらの戦績に数えた上で周辺国に喧伝出来るが、同時にそれ以上動けなくなる。

 

「我々『黒猫』の参戦により、被害を抑える事は今からでも可能です。ですが、ある段階を達成してしまうと我らは参戦理由を失う。アラバスタの進退は海軍がいかに早く事態に気が付き、十分な部隊を送れるかどうかに左右されるでしょう」

 

 俺の言葉に、渋い顔をしながらペルさんが再度頷く。

 こりゃ、マジでアラバスタ軍は相当押し込まれてるな。

 東部の戦線は観測できていないが、連合軍の数は相当な物なのは間違いない。

 

(特に地の利が大きく影響するこのサンディ島で、未だに優勢を維持できる兵力か……)

 

 現状、俺達が拿捕した後続以外に新しい船影は確認できていない。

 その上サンドラ河封鎖を以って連合の戦略に大きな罅を入れたにも関わらず、陸上輸送で作戦をすぐさま続行しようとしている。

 

 つまり、強行するのに十分な兵力と物資をすでに運び込んでいる。

 正気じゃねぇ。

 軍を強行させる事は、そのまま国に相当な負担をかける事に繋がる。

 

 ならば、そうする理由が連合にはあるハズだ。

 兵士達の士気。指揮官かそれぞれの島に残っているだろう王のプライドなり欲望。あるいは……民衆の後押しが強い?

 

 ……この状況で?

 強欲で軍を動かしているだけなら、いくらでも引っ掻き回せるが……。

 

「クロ殿。『黒猫』のアラバスタへの加勢は難しいのでしょうか?」

 

 一方、ペルはターバンを被ったままの頭を下げる。

 そりゃ、港を押さえられたアラバスタは今本気でピンチだからなぁ。

 

「今の状況を維持できるのならば……ただ、すぐに連合もこちらに使者を差し向けて来るでしょう。相手の言い分やその精査の結果によっては第三軍として、『黒猫』をこの戦争の監督役として縛り付けようとするやもしれません」

 

 それはそれで蹴散らす事も可能ではあるし、アラバスタ民への非道も事実である以上ゴリ押しは出来るが……。

 

(そもそも、加盟国のアラバスタから土地以外の旨みが現状期待できない。俺やダズはともかくとして、そこら辺をキチンと用意して提示出来ないとそれは将兵への裏切りになるからなぁ)

 

 民衆の保護という名分を維持したままで、こちらが最大限の旨みを取るには……。

 

(……通るかなぁ……)

 

 出来る事ならば西部の一角は確保したいが、これに関してはアラバスタの意向はどうでもいい。

 そもそも最初の予定ではこっそり上陸して、アラバスタが軍勢を差し向けてくる前に拠点を築くハズだった。

 

 つまりここから先、変な暴発や横やりがない限りこっちはボーナスゲームにチャレンジできると言う事になる。

 

 おっと、少しやる気が出て来たな。

 

「ペル殿」

「? はい、なんでしょう」

「アラバスタとしては王妃ティティ様とビビ殿下、そして首都アルバーナをコブラ王の帰還まで死守する事が現時点で最も重要である。そうですね?」

「ええ。……無論、各地の民衆を守る事も――」

「はい、分かっています。申し訳ありません、それはアラバスタ軍にとって息をするように当然の事。言葉が抜けてしまった事を謝罪致します」

 

 よし。

 周囲の反応からして、ペルはすでに結構知られていたようだ。

 彼自身の口から王族と首都を守る事と民衆の保護が同じ位にある事を言って、それを民衆が聞いた。

 

 そして、それ以外(・・)はあえて口にしていない。

 

「なれば――この身に一つ、策があります」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「おのれ『黒猫』め! なぜアラバスタに助力をするのだ!」

「奴らのいう人類普遍の敵とは、まさしく天竜人とその末裔! 奴らこそ滅ぼすべき存在ではないか!」

 

 新諸島連合。

 偉大なる航路(グランドライン)前半の島の中でも、比較的力を持っていた四つの諸島国家群が結成した連合国家。

 そのアラバスタ攻撃部隊の隊長である四人の将――元となったそれぞれの国の将軍のうち、二人が怒鳴っているのを残る二人が冷めた目で見ている。

 

「……やはり、略奪を控えさせるよう奴らの兵士に念を押させるか、あるいは全軍を纏めて運用すべきだった……」

「最初からそれが目当ての貴族のガキとその腰巾着の集まりだ。止めれば肝心の東部で無計画な略奪に走りかねなかったし、そして我らの兵を混ぜていればそれに引っ張られる者が出て来た。已むを得ん」

「だが――」

「落ち着け! まだ致命的な段階ではない! 『黒猫』がその戦力を以って行ったのがナノハナの襲撃ではなく、エルマルの解放とサンドラ河封鎖だった事を考えろ!」

 

 かつての天竜人が全ての海で無秩序に起こした大規模略奪劇は、これまで一応は存在していた秩序を完膚なきまでに破壊した。

 世界政府は日を追うごとに散り散りになり、だが未だ残る強大な戦力を用いて返り咲こうとしている。

 

 潰さなければならない。

 たとえどれだけ陰惨で、卑劣で、誇りからは程遠い愚行であろうと自分の家族の、連なる血筋の――次代への脅威はなんとしても除かなければならない。

 

「国家間の争いだから介入したのではない。漁夫の利を得るためでもない。明確な虐殺を止めるために彼らは参戦せざるを得なかったのだ」

「得なかった? それにしてはタイミングが――」

「我らがこの時期にアラバスタを攻めると考えたのは何故だ? なぜこの時期まで我らは待った?」

「……世界会議(レヴェリー)か!」

「そうだ。各国の王には護衛が付き、だが国元の防備が薄くなるこのタイミングだから彼らは来たのだ」

「奴らもアラバスタを狙っていたというのか? ならば、本当にここには――」

「決めるな、判断を引き摺られる。……だが少なくとも、なにかしらの狙いがあって来たのは間違いないだろう」

 

 尚も憤りを口にしながら、ナノハナから奪った酒に早朝から溺れる二人――高位貴族だという名ばかりの将を余所に、二人は今後を決めようとする。

 

「夜明けとともに先触れを出してから、まずは私が直接会う。その際に、どうにかあの二人を抑えて欲しい」

 

 強欲な王が治める国の貴族であり、他者から奪う者であり、だが(戦力)だけは十分あった故に世界政府に盾突いた二国の将を見て、ある男はため息を吐く。

 

「幸い、『黒猫』の精強さは知れ渡っている。あの二人もいきなり正面から戦おうとはせんだろう。しばらくはカトレアへの輸送計画とナノハナの防衛で注意を引いてみるが、いつまで持つか分からんぞ。『黒猫』によって後続の物資が断たれたのも事実なのだ」

「すまん、どうにか彼らの求める物を――せめて不干渉の材料になり得る物を探って来る」

 

 もし黒猫という存在が噂と違わない存在だと確信出来れば、あの二国を切ってもいい。

 二人の将は、静かにそう考えていた。

 軍事力の関係から一つにまとまっているが、それに取って代わる後ろ盾が支えてくれるのであれば今すぐ兵を引いて王に黒猫領への参入を直訴する事も辞さないと。

 

「……万が一の時は、私と貴公の首を罪人としてアラバスタ民の衆目に晒す事になるが――」

「構わん! 略奪蛮行を黙認した事は事実なのだ! ……ただ、その場合は我らに付いてきた部下の汚名は……それは……」

「分かっている! 分かっているとも! だから……最善を尽くすと約束しよう」

「……頼む」

 

 直、夜が明ける。

 アラバスタの砂漠は夜は驚くほどに冷え込み、兵達に無理な横断を指示できなかった。

 今も物資や荷馬車の整理が交代で続けられている。

 道が照らされ次第、すみやかにカトレアに兵と物資を運ぶために。

 首都アルバーナに圧をかけ、ともすれば世界政府の反攻の一大拠点となりかねないアラバスタの力を削がねばならない。

 

「……黒猫は、何のためにこの国に来たのだと思う?」

 

 暗くなった空気を換えるためか、ポツリと片方から話題が出される。

 

「単艦、しかして精鋭。あの(・・)クロコダイルも確認されているのならば、アラバスタに対して何らかの攻撃に出るかとも疑ったが……」

「総督であるクロ本人の他に、『鋼刃』まで参戦している」

「……『灰の将』もそうだが、少なくとも国家に対して問答無用で攻撃に出たという話は聞かない」

「問題はそちらではない。彼らの船から()が上がっていた」

「……悪魔の子」

「そうだ、その意味が私には気にかかっている。黒猫に取ってあの少女は特別な存在だ。それはもはや誰もが知っている周知の事実だ」

 

 

「その黒猫が、戦場に悪魔の子を連れてきている」

 

 

 重苦しい空気を換えるはずだった話題は、気が付けば違う重みを纏っていた。

 

 

「あの噂は本当なのか?」

歴史の本文(ポーネグリフ)の存在を政府は否定し続けている。前回の世界会議(レヴェリー)では古代遺物保護法が制定され、政府は回収に躍起になっている。ただでさえ暴落しているベリーに代わり、いくつかの外貨での報奨金まで用意する程にだ」

 

 彼らとて、この数年の間無為に時を過ごしていたわけではない。

 世界政府の暴虐を迎え撃つために、あるいは討ち滅ぼすための武器を探していた。

 

「もし『黒猫』が『悪魔の子』と共にこの地に来た理由が、噂にあるようにこの地に隠されているナニカを解読するためだとしたら……」

「……無理に探るつもりはないぞ。黒猫の参戦により、状況は大きく変わった」

「分かっている。黒猫とはなんとか手打ちとしたうえで、可能ならば我らの祖国の後ろ盾になってもらいたい」

 

 そして会話が堂々巡りの着地をした時、定時報告の兵士が走って来る音がした。

 再び、戦争が始まる。

 

 

―― そのハズだった。

 

 

 首都アルバーナに、三本爪の黒猫の横顔が風に煽られ、靡いていると聞くまでは。

 

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