とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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間に合った!

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181:アラバスタ防衛戦ー⑤

 大地が、揺れている。

 

 つい先日まで他国の兵による暴力に晒されていたエルマルの民たちは、各々の今の居住地にて家族や恋人と身を寄せ合い、震えるしかなかった。

 

―― 提督より許可は出た! 野砲を撃ちまくれ! 冷却は最少で構わん!

―― 土嚢を持ってこい! 少しでも壁を作るんだ! 急げ!

―― エルマルの皆さんは町の中心へ移動してください!

―― 慌てずゆっくり! 大丈夫です! 皆さんを確実に安全地帯まで誘導します!

 

 先日までの兵士達のような略奪者とは違う、海賊の一団が動き出している。

 大砲や銃を用いて、暗くなりつつある砂漠を埋め尽くさんばかりのナニカに対して攻撃し、その足を遅らせている。

 だがその地響きは確実に迫っている。

 確実に、その音が迫っていた。

 

「こんな……こんなにもエルマルがボロボロになるなんて……」

「アラバスタは、もう……」

 

 これまでにアラバスタという国に危機が訪れた事は当然ある。

 海賊に襲われたことだって一度や二度ではない。

 

 だが、これほどまでの脅威は初めてだった。

 これほどまでに民がいたぶられ、凌辱され、屍が積み上がった事が果たしてあっただろうか。

 

 こうして兵士達による蛮行に続いて、今度は意思の通じぬ獣の群れによる襲撃が続いている。

 アラバスタの砂漠にも巨大な人を食らう怪物は存在するが、こうして津波と見間違うような群れを成すことは断じてなかった。

 

 そして今、若き王たるコブラはこのサンディ島にいない。

 守るアラバスタの兵士は本来の数に比べてわずか。

 

 

―― もう、この国は駄目なのかもしれない。

 

 

 長くこの島で暮らして来た者ほど、その一言が脳裏をよぎる。

 あんな怪物に、人間の兵士が太刀打ちできる訳がない。

 一方こっちはただでさえボロボロになっている港町で、船はそのほとんどを連合軍に持っていかれている。

 

 逃げ場が、ない。

 どこにも。

 

 

―― 顔を上げろ! 愚民共!

 

 

 その時だ。

 突然このエルマルを覆うように――否、囲うように。

 

 砂嵐が吹き荒れる。

 

 どこからか鳴り響く、この地獄に不似合いな太鼓の軽快な響きと共に。

 

 その光景に、エルマルの民衆は数日前の光景を思い出す。

 

 暴力と凌辱の魔の手がエルマルを完全に覆いつくそうとするまさにその時に、略奪者達を一掃した砂漠の恵み。

 

 砂嵐の音に紛れて、長いコートを翻す風の音がする。

 港町エルマルの一等高い建物。

 アルバーナにも存在する、だがそれよりは低い時計塔の頂にその姿をさらしていた。

 

「どうした、もう全部終わった気でいるのか?」

 

 クハハハハと特徴のある笑い声を上げながらも声をかけているエルマル市民には目もくれず、ただ眼前に迫りくる怪物の群れを見据えていた。

 

「俺達がわざわざ拾ってやった命なんだ。それを無駄に諦めるなんて贅沢が、お前達にあると思うか?」

 

 弱さに押しつぶされ、諦観に落ちる者達の上に立ち、海賊は揺るぎもせずにただ敵のみを見据えている。

 

砂嵐(サーブルス)

 

 そして男が、まるで魔法使いが呪文でも唱えるような気軽さでそう呟くと同時に砂嵐はますますその勢いを激しくさせる。

 

(ペサード)!!」

 

 だが、その一言だ。

 そのたった一言で、目に見えて状況が変わっていった。

 

 先が見通せない程の砂嵐が怪物の群れ達を包みこむ。

 目線を砂嵐に奪われていた者は気付かなかったが、それと同時に男は身体を砂と化して姿を消していた。

 

 砂嵐の中に紛れ込み、人の肉と血液、臓物を求めて殺到する獣の群れに飛び込む。

 轟っ、という音と共に、砂嵐が晴れる。

 

 怪物の群れの、その先陣を切っていた者達が物言わぬ存在に成り果てていた。

 未だ群れは止まらず、肉を食わんと前に進み続けているが間違いなく民衆から遠ざかった。

 

 まるで砂漠に放置された遺体のように干からびた巨大な身体が、砂の中へと沈み込む。

 

「生きろ! 今この瞬間、お前達を支配している者としての命令だ」

 

―― クハハハ、拒否権があると思うなよ。

 

 そう笑う海賊の背――三本爪の黒猫を守るように囲む三頭のワニの刺繍。

 その印に、ずっと地獄の中にいたエルマルの民は希望を見た。

 

「……クロコダイル」

 

 一人の市民が、彼の名を呟く。

 

「砂漠の、王」

 

 続いて一人。

 

 彼の顔は、誰もが知っていた。

 政府が手配書を発行し、世界中に配っているのだから。

 黒猫海賊団幹部。第三艦隊提督。

 

「クロコダイル」

 

 知らない者はいない。

 誰もいない。

 砂漠の民だからこそ誰もが恐れ、

 

「サー・クロコダイル!」

 

 同時にどこかで、その名に憧れたのだから。

 

「サー・クロコダイル!!」

 

「サー・クロコダイル!!!!」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 なんでアイツの人気が爆発しとんねん!!?

 総督の俺だって当然頑張ってるんだぞぉ! 覇王色で!

 

 

 

―― オ゛オ゛オォォォォオオォォォォオォォォォォォッ!!!!!

 

 

 

 …………。

 

 効き悪いけどさぁ!!

 

「ペローナがここにいなくてよかった……」

「そうですか? こういう状況こそあの子のゴーストが――」

「この体たらくを見られたら「サボってんじゃねぇ!!」って日傘でぶん殴られる所だった。覇気込みで」

「そこですか」

 

 えぇい、うるさいミアキス。

 アイツ武装色をギリギリ使えるようになったあたりからたまに俺への当たり強いんだよ。

 

 うん。

 

 …………。

 

 元から当たり強かったな。

 なにかと日傘の先でザクザク刺されてたわ。

 アミス達を確保した頃とか、ロビンを起こしてしまった時にザックリいかれたわ。

 

 

―― どんどっとっと! どんどっとっと!!

 

 

「にしても、これだけの覇王色で半分どころか三分の一も潰せないんですか!? そこらの海賊ならば全滅させている覇気だと思うんですけど!!」

「……民衆を巻き込まないようにコントロールを挟んでいるのもあるが……」

 

 今できるギリギリまでの覇王色の拡散を納めて一息吐く。

 ミアキスが差し出してくれたタオルで汗を拭うが……クソッ、今後の戦闘の可能性を考えるとこれ以上の消費は出来んな。

 

「ただの生物じゃない。外から見ても分かるが、あきらかに人の手が加えられている」

「それで覇王色に耐えられます?」

「……獣性を暴走させているのか、あるいはもっと違うアプローチかもしれんが……」

 

 見聞色でコイツら調べているんだけど、なんとなくジェルマの兵隊っぽい改造されている気がするんだよな。

 身体の頑丈さあたりはまさしく。

 クソ、ゴーストを通して感覚的に奴らの兵隊を知っているペローナがここにいれば、もうちょい詳しく分かったかもな。

 

 こっちの観測役はロビンだが、ちょうど日没間際だったこともあって篝火が足りていない。

 今急いで迎撃と並行して光源を確保させているが……。

 

 敵の展開範囲――もうほぼ波と言えるが、それでも無秩序なそれには厚みのムラがあるハズだ。

 ドンドン暗くなっていく中で、ロビンは少しでもその痕跡を見つけようと両目をフルに酷使している。

 

「クロコダイルと第三の精鋭は最善を尽くしている」

「ええ、あの数で良く防衛線を維持しています」

 

 いや本当に。

 第三の精鋭は強襲揚陸での第一波と、後続を支えるための突破戦や防衛戦の訓練を積み重ねた連中だ。

 本来は砂漠特有の洪水や鉄砲水対策の土嚢を積み上げ壁を作り、多少なりとも時間を稼ぐための策を片っ端から実行に移しながら砲撃で敵の足を止めている。

 

 砲撃でデカい怪物の足を止め、その巨体をそのまま足止めの仮防壁として利用して後続の動きを止めている。

 

 ……とはいえ、

 

「でも、さすがにこの戦力差ではクロコダイル提督でも……キカさんの船を回して艦砲射撃による援護を要請されては? 範囲は限定されますが多少は――」

「この異常事態で連合軍がどう動くか分からん。今だからこそキカの戦力とその目をナノハナから離すわけにはいかない」

 

 ついでに今は単艦だから、仮にこっちの戦線に召集かけたとしても絶対的に火力足りないんだよな。

 砲戦に特化している船なら話は別だが、今回は輸送力を重視していたからなチクショウ。

 

 クッソ、俺も乗り込んで杓死で蹴散らしたいけどティティ様の側を離れるわけにはいかねぇし!

 準ミホーク級のリヒャルトはキャザリーらと組んでダズとペローナの補助に回したし!

 

 元々はアラバスタにこっそり拠点を作って、仮に戦闘が起こっても小競り合いで済ませるハズの出航がなんでこうなるのさ!?

 

 肝心の硫黄が取れる島放置したまんまだし!!

 本当なら今頃温泉にゆっくり浸かれてたかもしれないのに!!

 

「こっちの親衛隊は? アミスが指揮しているだろう?」

「はい、隊長はアメリア、フリックの二名と隊を組んで遊撃に走り回っています。幸い、クロコダイル提督が広範囲を抑えてくれているので今はどうにかなっていますけど……」

「あの獣共は町を包囲する様に攻め寄ってきている」

 

 正確には包囲というより、海へと追いやるように圧をかけてきている、か。

 

 親衛隊ならばただ強いだけの獣相手に後れを取る事はない。

 ちょっとした群れまでならば。

 だが、これほどの数となるとさすがに勢いを削るので精一杯だろう。

 

「ええ。地形や敵の配置からして提督の能力で一網打尽とはいきませんし、こちらも少ない戦力を結集させるために防衛線を下げなくてはなりません」

「ああ、嫌らしいな。……だからこそ作為的な物を感じるが、そのタネが分からん」

 

 敵の主戦力は獣だ。

 調教されたというわけではなく、あくまで本能――あるいは狂気に任せて手当たり次第に襲っている。

 

 それが示し合わせたように、一斉にエルマルに殺到しているというのは不自然極まる。

 

(何かしら操っている……あるいは誘導するためのタネがあるんだろう。そして、ヒントは一応ある)

 

 奴らが夜でも夜明けでもなく、夕暮れを狙って攻めたという点だ。

 理に適わない――とまでは言わないが、もっと効率的な攻め時があったにも関わらず、この獣を放り込んだ連中は夕暮れを狙った。

 

 そこにこの化け物達を操っているナニカに関しての鍵があるはずだ。

 

「ミアキス、ペル殿は?」

「クロコダイル提督の指揮の下、もっとも敵生物の層が厚い所を上空から攻撃しております」

「分かった。通信が封鎖されているため、クロコダイルに伝令を送ってくれ。ペル殿を前線から抜いて問題なさそうなら彼を一度こちらに……」

 

 …………。

 

 ……???

 

「待て、クロコダイルの指揮下?」

「はい」

「アラバスタの近衛兵が?」

「はい」

 

 

「……それ、大問題じゃない?」

「でもウチだとよくある事ですよね? 国の将軍とか王子・王女様とか」

「それもそうだったわ」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

―― サー・クロコダイル! サー・クロコダイル! サー・クロコダイル!!

 

 民衆達が挙げる歓声を背に受けながら、クロコダイルは能力の制御に苦心していた。

 

(ちっ、そう焚き付けたとはいえ呑気なもんだ。俺の能力がなければ、部隊の維持どころかクロが民衆の被害を二の次にして殲滅戦に専念するほどの数が相手だぞ)

 

 砂漠というフィールドにおいて、クロコダイルという男は対軍では限りなく無敵に近い。

 砂嵐を起こして自分がコントロールする砂塵の中に取り込み、水分を奪うなり砂の中に沈めるなり自由に出来るのだ。

 

 それ自体は今回も同じだ。

 人間の大軍を相手にするのと同じやり方で、エルマルに殺到する怪物達を無力化している。

 

 だが、今回の相手は人間ではない。

 単体でもちょっとした軍勢など走るだけで一掃できそうな巨体を持つ怪物が相手なのだ。

 

(体の表面に何かしら手が加わっているのもあって効きがやや悪いし、なによりデケぇ分水分を奪うのにも時間がかかる。砂の中に埋もれさせるのも同じく)

 

 その巨体が数を揃えているがゆえに、砂漠での戦闘において常勝を謳うクロコダイルですら油断できない状況となっている。

 

―― バサ……ァ

 

「サー・クロコダイル!」

「ペルか。状況を報告しろ」

「ハッ!!」

 

 通常ではまず耳にすることない大きな羽ばたきの音と共に、巨大な半人半鳥の姿がクロコダイルの隣に舞い降りる。

 アラバスタ王国護衛隊という精鋭の中での新入りであり、しかしてすでに精鋭の一人に数えられているペルが、クロコダイルの隣で膝を突いている。

 

「ここ西部は勢いこそ変わりませんが、特に大型の個体はある程度倒し切った模様。ですが今度は、サンドラ河に沿うように進む北からの群れの中に大型複数を確認しました! 数多数!」

「ちっ、第二陣というわけか」

「ハッ。……もし、これが人為的なものであれば」

「当然、この西部にも更に敵勢が来るだろうな」

 

 鉤爪と同じく自身のトレードマークとなっている葉巻はすでに口にない。

 とっくに吸い尽くして、新しい一本を用意する一瞬すら今は惜しいのだ。

 

「サー、この攻撃は」

「お前も薄々察しているだろうが、足止めが目的の可能性が極めて高い」

「……狙いはクロ殿でしょうか。それとも……」

「分かり切っている答えから目を逸らすな。判断を誤るぞ」

 

 狙いは間違いなく、アラバスタの王族であるとクロコダイルは確信していた。

 これまでの状況全てが、少数精鋭を率いてアラバスタに来たクロ達をエルマルに誘い込み釘付けにする策だったと。

 

(クロの首が狙いならばダズ・ボーネスらが首都に着いた時点で敵主力をエルマルに叩き込んでいるハズ。幹部勢や親衛隊の首でも、戦力を送り込む場所が違うだけで同じだ)

 

 この攻撃で誰が一番危険かと言われれば、まずはエルマルの民衆が挙げられる。

 連合軍の攻撃により船の多くを奪われ、しかも陸路を怪物に閉ざされている以上逃げ場が存在しない。

 

 だが民衆を一々削るなどどの勢力にとっても旨みがない。

 今や世界中で求められる労働力を失うなど、あまりに馬鹿げている話なのだ。

 

 ならば、残るのは。

 

(狙いはアラバスタの王族。この様子じゃアルバーナにも仕掛けられていそうだが……同時に何が何でもという必死さも感じない。もし本気で王族の殺害なり誘拐を企んでいるんなら、確実に状況を詰めに持っていくためには戦場を観察する奴がいなきゃおかしい)

 

「ペル、指揮官らしき人間の影は見たか?」

「いえ、少なくとも自分は目にしておりません。アミス殿らも怪物を討ち取りながら指揮官がいないか探し回っているようですが、未だに網にかかった者はいない様子でした」

「やはり、黒猫勢力そのものは交戦するだけして放置されている。…………狙いは王族、あるいはアラバスタへの痛打。……いや、敵はすでに目的そのものは達成している?」

「であれば、持ちこたえれば引くやも?」

「……そう上手い流れにはならねえだろうな。コイツらはどう見ても使い捨ての駒だ。それに目的そのものは達していても、狙える所にあるボーナスは狙われるものだ。気を抜くなよ。背中に王妃ティティと民衆共がいる事を忘れるな」

「っ、ハッ! 申し訳ありません!」

 

 主従でもなんでもなく、それどころか王国兵と海賊という殺し合ってもおかしくない間柄の二人が、どう見ても上官とその部下のやり取りをしている。

 

 クロあたりがいれば『待てぇい』とツッコミを入れただろうが、今そんな余裕がある兵士や将校はどこにもいなかった。

 

「さて――となれば、俺の仕事は少しでも多くの敵を無力化しつつ引き寄せて、他部隊を動きやすくしてやることだな」

 

 クロコダイルが鉤爪となった腕を高く掲げると同時に、舞い続けている砂嵐が一段と重々しくなる。

 

「ペル、各部隊に持ち場の保持を伝えて来い。ただし、無茶はするなと。俺達が死守すべきなのはエルマルにいる人員であって防衛線じゃない。最悪エルマルが潰れる事になってもだ」

「エルマルを、ですか?」

「人がいれば町はまた作れる。国すらだ。だが住む奴がいなきゃ、どれだけ立派なモンを再建した所でハリボテにしかなれん。……急げ。自由に飛び回れるお前には、出来る事が山ほどある」

「……ハッ」

「それに、まだ敵に本命が残っている可能性がある。獣の群れと相打ちになって王族の誘拐実行犯への対策がなくなっても仕方ねぇ。クロが控えているとはいえ、余力は残してしかるべきだ」

「ハッ、直ちに各部隊を回って参ります!」

 

 これで渋るならば、総督であるクロに物資や人員の提供の進言を約束する事で納得させようとしていたが、ペルがあっさりと飛び去った事にクロコダイルは少々肩透かしを食らう。

 

(随分とまぁ、真面目な事だ。ウチで鍛えた兵隊に近いから扱いやすいが……)

 

 砲撃音は変わらず続いている。

 この状況下で音が減る様子がないと言う事は未だに前線は崩れておらず、この生物兵器とも呼べる存在の群れを前に、ギリギリとはいえ粘れている証でもある。

 

――『提督』とはどういう仕事か、ですか。クロコダイル殿からそのような質問が出るとは。

―― 海軍での戦歴があるからな。お前に聞くのが一番だろう、タキ。

 

 砲兵達の怒声と号令、そして炸裂する火薬の音の変化を聞き逃すわけには行かない。

 部下の報告には耳を傾けるが、それだけに頼って戦場を見誤る愚行が許される立場にいない事を、クロコダイルは深く理解していた。

 

―― ハンコックも言っていたが、ここは海賊と名乗っているが実態はほぼ『軍隊』だからな。

―― なるほど、それで私に。して、提督とは……ふむ。

 

(今の第三の多くは、西の海で家族を失い行き場を失くした元海兵が主流。前と違い、間違いなく民衆を守るためのこの戦いで士気は問題ねぇハズだ)

 

―― 自分と部下を疑い、そして信じる仕事ですな。

―― ……随分と矛盾しているな。

―― えぇ、その矛盾こそが求められる。人を恐怖で支配するのではなく、率いるのであれば――

 

「実務の過程を疑い、結果を疑い、その報告の文面や意図すら疑い、自分の出した指示が適切だったかを疑い続け……だがしかし、部下が費やしてきた訓練を、経験を、時間を信じて胸を張る……か」

 

 偉大なる航路(グランドライン)に出るまで訓練を繰り返させ、共に演習に挑んだ部下らが戦い続けている。

 

「……中々に面倒な役職と立場に就いてしまったが」

 

 そして後方では、先ほどまでの威圧が消えた代わりに多くの凧が挙げられ、各地の篝火が増え始めている。

 

 覇王色による牽制にキリを付け、本格的な戦闘に入る用意を始めたのだろう。

 

 

「かといって、トップの役割も面倒か」

 

 

「部下を持つってのも、面倒なもんだな」

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