とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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遅ればせながらあけましておめでとうございます
早速新作書いたりしてやらかしていますが、どうか今年もよろしくお願いいたします


186:アラバスタ防衛戦ー⑩

「全く、例の硫黄の島が全くの手つかずどころか無人だったから何かあったとは思っていたが、化け物の軍団を相手に二手に分かれての防衛戦とは予想外にも程があるガネ……っ!」

 

 黒猫海賊団第一艦隊参謀長。

 艦隊行動の意思決定において、かなりの発言権を持つ男は必死で自分の能力を発動させて、ボロボロに崩れていたアルバーナの城壁を補修していた。

 

「すまないが消火作業を急がせてほしいガネ! 私の壁は物理耐性こそ相当な物だが、火や熱にはめっぽう弱いのだよ!」

 

 突然現れた、しかし自分達の民衆を守るために戦っている者達と同じ旗を掲げる一団の言葉を、アラバスタ兵も無下には出来なかった。

 ましてやこの危機的状況で、民を守るべき城壁の代用品をその場で用意してくれた――いわば大恩人の言葉だ。

 

「承知いたしました! すぐに兵を向かわせます!」

 

 現場の指揮に当たっていたアラバスタの将軍がその場に片膝を突き、頭を垂れて了承する。

 

「頼んだガネ。この怪物共の対処には、こちらの兵士を充てる。なに、女ヶ島での戦いで怪物との戦闘には皆慣れている」

 

 事実、すでに現れた海賊達によって、崩壊していた防衛線が復活していた。

 巨体故に効果的な『魚人空手』を使う兵士達によって怪物たちは押し出され、餌場(・・)から大きく引き離されている。

 

『やっぱりギャルディーノか! ここで第一艦隊の増援は助かるぜ!』

「ペローナ君、久しぶりだガネ」

 

 一人一人が各国の精鋭に匹敵する、第一艦隊の最精鋭を動かすギャルディーノの下に幽霊のようにふわふわと浮いている少女が降り立つ。

 最高幹部の一人にして夜間戦闘のプロであるペローナだ。

 

「さっそくだが状況を確認したい。敵はこの怪物達だけカネ?」

『それとどっかの海賊連中だ。これを仕掛けたのか、あるいは混乱に一噛みしたのかは分からねぇが城壁をボロボロにしたのはソイツだ。今ダズが戦っている』

「他には?」

『こっちでは今の所確認してねぇ。……あぁ、ついでに最重要護衛目標は無事だ。今こっちで確認した』

「ふむ……ならば問題は戦闘面のみ。副総督ならば問題ないか。ソニア君、作戦に変更なしだ。まずは正門前の敵を完全に駆逐してアルバーナ内部の安全を確保するガネ」

 

 ギャルディーノの言葉に、敬礼を取る女戦士がいる。

 サンダーソニア。

 最高幹部ではないものの黒猫の古参であり、第一艦隊では実戦部隊を率いる事が多い将校となった、ボア・ハンコックの妹の一人だ。

 

 すぐさま動き、その後ろに待機していた兵士達が武器を抜いて最前線へと向かっていく。

 

『……で、だ。ギャルディーノ』

「うむ」

『一個聞きたい事があるんだが』

「奇遇だね。実は私もだ」

 

 

 

 一方、それとは違う方では斬撃の嵐が飛び交い、怪物が次々に細切れとなっている。

 斬り飛ばされ、その肉片が宙を舞い、それでも止まらない者達は精鋭によって殴り飛ばされたり斬り払われたりしている。

 

 

 

 

『なんで新世界側にいるはずのミホークがここにいるんだ?』

「同じ事を聞きたいのだガネ……いや、ホントになんで?」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「う~~~わっ、やっぱり先生だ。ドールさんにマキシンさんに……この感じは魚人さん達かな?……皆派手にやってるなぁ」

 

 三本爪のマークが入ったスーツを着た若い男は、大型の化け物の首を斬り落としたにも関わらず血が一滴も付着していない剣を一度振るってから、トンットンッと自分の肩をほぐすように叩いている。

 

「まぁ、この分ならアルバーナは大丈夫か。あのデカブツはダズさんが倒すだろうし」

 

 戦場は未だ混乱の最中にある。

 怒っているのか空腹なのか、あるいは狂っているのか怪物は未だに前進を止めない。

 にも関わらず、この空気に弛緩した物が漂い始めている。

 連合軍の侵攻以来ずっと見えなかった希望が、ここに来て輝き始めた。

 

 それを、この若い男に助けられたアラバスタの兵士は感じていた。

 

「うん、君ももう下がった方がいい。先生が来て3兄さんも来ているなら、多分正門前の安全を確保して緊急救護区域を設営するハズ。そこまでいけば安心だよ。治療も受けられるし、多分一息吐ける」

 

 黒猫の親衛隊は、傷だらけの兵士を気遣ってそう言う。

 あとは黒猫の兵士のみで大丈夫だと。

 

 事実、今更ただの兵士一人が加わった所で大差はないだろう。

 アラバスタの将兵は不満に思うかもしれないが、黒猫第一艦隊が到着した事で、この戦争はまごうこと無き『黒猫』の戦争となった。

 

「……あの、俺、ついこの間軍に入ったばかりで……」

 

 戦わなくていい。

 もう帰っても許されると、その兵士は理解した。

 

 親衛隊――リヒャルトもそう告げた。

 

 だからその兵士が、武器を納めずに立ち上がった事に、リヒャルトは「おや?」と首を傾げる。

 

「俺、家族から出来損ないって言われてて……弟は高級商人から認められて見習いやってて、妹はいい所に嫁入りして、どっちも両親は自分の事のように喜んでいて……」

 

 とても戦場で話すようなことではない。

 少なくとも、後方の駐屯地などに戻って話すような事だ。

 

「俺はずっと訓練ばっかりで、仕事なんて重い荷袋背負って吐くまで走るだけで、なにかやってるって実感なくて、えぇとその……だから――」

 

 当人もそれを分かっているのだろう。

 本当に話を続けていいのか。聞かせていいのかとビクビクしながら話している。

 

 一方でリヒャルトは特に気にせず、「うん、うん」と頷いて先を促す。

 

「だから、今ここで……兵士の仕事を放棄したら、俺には何も残らないんじゃないかって……」

 

 兵士の言葉に、海賊の精鋭は「そっか」と一言呟いて、しばらく考えだす。

 

「……ねぇ」

「は、はい!」

「君は、まだ走れるんだね?」

 

 そして兵士に、そう問いかけた。

 

「……はいっ!」

「ん、分かった。それじゃ行こうか」

 

 そして行動を決めた。

 後は剣を抜き、立ちはだかる存在を斬るのみだ

 

 

「道は三本爪()が斬り拓く。進む先は君が決めてくれ」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「……増援、か」

「そのようだ、ミスター・ドフラミンゴ。第三艦隊の後続に加えて第一艦隊。あとはまぁ……こっちにも想定外の戦力がいるんだけど」

 

 うん。

 

 …………。

 

 いや、あの、ホント……なんで?

 

 予定通りならば、今頃アイツは例の島船に乗って新世界に渡って要人とのコネ作りと拠点造りに動いているハズなんだけど……。

 この感じ、もう懐かしいけどアーロンも来ているよね?

 なに? 新世界でなんかトラブル……あったらそもそも白ひげから連絡来てるハズだよなぁ。

 ビッグマム――リンリンとの文通の中でも特に引っかかる情報はなかったし。

 

 …………。

 

 まぁ、ミホークが頭ミホークなのは今に始まった事じゃないか。

 平常運転平常運転。

 

 あれで完全な考え無しというわけでもないし、あとで報告聞いて判断すれば問題なかろう。

 気配からしてクリスがいないし、恐らく彼女が残って向こう側の指揮を取っているんだろう。

 

 うん、とりあえずは問題なし。

 

「最後に一つ、聞いておきたい」

「……なんだ、黒猫」

「事前の用意から見るに、貴方は我々の介入に関わらずアラバスタを狙っていた」

「そうだ。この国は……心底気に入らなかった」

「それだけですか?」

 

 それよりも、今のうちに聞いておくべきことがある。

 明らかに戦略を立てて動いているコイツらが、なぜアラバスタに狙いを定めたのか。

 

「フッフッフ。なんだ? 引っかかるものがあるって?」

「はい。実際、貴方も気になっているのでしょう?」

 

 私怨があるってのは嘘ではないのだろう。

 コイツの内情は原作で知っているし、俺が干渉しようがない部分だ。

 そもそも魚人島の一件の際にプルミング聖と茶をシバいてた時にドンキホーテ一家の話出て来たし。

 

 ただ――

 

「これだけ広範囲に通信障害を起こしておいて、このエリアで最大の大国であるアラバスタに()()()()()()()()()()()()()()()()という現状が」

 

 俺が元々確認したかった事であり、現状で最も不自然なその事実を言葉にすると、『天夜叉』の笑いがピタリと止まる。

 

「貴方がこの国に細工を施したのは、我々を測るのと同時に『世界政府』を測るためだった。違いますか?」

 

 笑みが止まった――かと思いきや、また「フッフッフ」と笑ってる。

 なに。ホントなんなのお前。

 

「クロ」

「ああ」

「千視万計と世界政府が恐れたその頭脳なら、俺が何を求めているのかも……分かるか?」

「当然」

 

 だから千視万計の二つ名は皆忘れてくれますようにって毎晩毎晩祈ってるでしょ!!?

 天に!

 

 ……駄目だ。考えてみれば俺、今まさに『天』の敵だったわ。

 

 ついでになんか死ぬほど悔しいというか腹立たしいんだが、今現在俺の戦略に最も邪魔なのはお前らだわ。

 全容を見せていない今、今ここでコイツを潰して用意しているだろうなんらかの()()を起動させるわけにもいかねぇ。

 ちくしょう、そういうのがあるってのが確信できるくらいには動きに筋があるのが面倒だなコイツら。

 

「戦争を」

 

 後ろのティティ様が、怯えた顔をするのが分かる。

 

「大戦争を」

 

 それを守るように。

 これ以上コイツの邪気に当てられないようにミアキスがその前に出た。

 

「全てがぐっちゃぐちゃになる程の大乱の世を望んでいる」

 

 護衛兵はしっかりしろと言いたいが……まぁ、当然だ。この邪気はどうしようもない。

 純度100%の負の感情の煮凝りだ。慣れた人間じゃないと気圧される。

 

「――ふ、ふっふ…………フッフッフ……っ!」

 

 どうしようもない世界への憎しみ。

 

「クロ」

 

 

 残念な事に、俺もコイツが抱えるソレを否定できない。

 

 

「キャプテン・クロ!」

 

 

 けど、なんでそんな俺に執着すんのさ。

 

 

「それを知ってどう動く! それを知ってなお、お前は世界を正すのか!?」

 

 

「――当然」

 

 

 そんな質問されたら肯定するしかないじゃろがい!!

 

 

「私はすでに、人が人であるために生まれ続ける悪意に寄り添い、立ち向かい続けると宣誓している」

 

 

「故に――ドンキホーテ・ドフラミンゴ。刃を交える前に言っておこう」

 

 

「貴方の発する悪意は、憎しみは――正しい物だ」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 思わず、はっ、と。

 肺から空気が漏れた。

 

「テメェ……まさか……」

「プルミング聖より耳にしている。もっとも、下界に降りてからの事は正確に把握していないが……想像は容易い」

 

 眼鏡越しに、奴の目を見る。

 俺のように目元を隠すサングラスじゃなく、より良く物を見るための眼鏡をかけたその向こう。

 

 その目に、侮りは窺えない。

 そして俺のような憎しみも、怒りも――同情もなかった。

 

 多少の焦りと、苛立ちのような物はあっても、たったそれだけだった。

 それだけで――

 

「その怒りは当たり前だ。世界への憎しみは当然の物だ。それは否定できない――いや、否定してはならないものだ」

 

 ただ真っ直ぐ、

 

「それほどの憎しみを生んだ――いや、生ませる形となった悲しい世界には、確かに非がある」

 

 真っ直ぐ、こっちを見ている。

 

「その上で聞く。その憎しみを破壊だけではなく、破壊に並ぶ再生に向けるつもりはないだろうか?」

「……再生」

「現状の世界を破壊せねばならない。その一点に於いて、私と貴方の意見は一致している」

「政府を潰すと? お前はまだ、奴らをギリギリの秩序の旗印と見ていると思っていたがな」

「我ら黒猫が興った理由を考えてみて欲しい。忠誠を誓っている己の兵士を遊びで使い潰す政府なぞ、害悪でしかない。一応の秩序を保つ意思があるならともかく、今の状況を見ればな……」

 

 そこで少し、奴は申し訳なさそうな顔をする。

 背中に守っている王妃に対してのソレだろう。

 

「だが、私はその後の無秩序を放置するつもりはない。……当たり前だ。黒猫宣言を経て力を得た私には、世界に対して負わねばならない責務がある」

「お優しい王様として、世界中のか弱い民衆を率いると?」

「いや。それでは世界政府の二の舞だ。大地に生きる民を遥か上から見下ろしてそれらしい指揮をする王の存在は強大な階級差を生み出し、多かれ少なかれ同じ時代を繰り返すだろう」

「……では、お前の言う再生とは」

 

 知っている。

 黒猫はずっと、各地を復興させながら航海を続けている。

 どう見ても非効率的なそれが、ロックスの残党に匹敵する勢力圏と、他のどこも持っていない統率力でまとめ上げられた、かつての海軍に匹敵する()()を『黒猫』にもたらした。

 

 

「世界政府を解体し、各地の王の権限を強めた上で王権を律する最低限の世界憲法を敷く。その上で現在発生している各国の紛争を調停し、各国をいくつかのエリアに分けてまとめあげる」

 

 

 世界を、コイツらは倒すかもしれない。

 世界を、立て直すかもしれない。

 

 でも、そこから先は――

 

 

「世界政府が黙認し、天竜人が踏みにじり続けた『人権』の意義を立て直し、それらを国家が踏みにじる事を防ぐための共通憲法を組み立て、国家を繋ぎ、制する」

「フッフッフ、矛盾しているな。そいつは天竜人と同じじゃねぇのか?」

「分かっているさ。行動だけなら限りなく近い。だが、政府が本当に倒れた時にこそ最悪の戦乱が起きる。それを少しでも小規模にするためには、どうしてもそういった物が必要になる……」

 

 どうあがいたって地獄だ。

 

 どうしたって英雄は権力者に成り下がる。

 

 コイツが変わらず高潔なままでも、関係ない。

 

 その時になれば各国の損得によって英雄と崇められ、独裁者と貶され、口だけの二心ある者へと引き摺り落とされるのが世界の常だ。

 

 英雄が英雄のままでいられるのは、英雄である時に死ねた者だけだ。

 

「貴方は世界を知る者だ、ドンキホーテ・ドフラミンゴ。聖地で胡坐をかいているだけの者より、はるかに」

「フッフッフ! 海賊に世界を救えと誘うか! 黒猫!」

「こちらも海賊である。忘れたか?」

「そうだな、フッフッフ……海賊だったな」

 

 確かに、下手な戦力よりも俺は役に立つだろう。

 下手な王よりも、俺はコイツの役に立つだろう。

 

 それだけの自負はある。

 

「誘いは嬉しいぜ、クロ。だがなぁ――」

 

「余計な事に割ける程、オレの憎しみは軽くねぇんだよ!!」

 

 だが、それだけは駄目だ。

 全部を焼かなければ意味がない。

 

「あの日の罵声! 痛み! 屈辱! 恐怖! 怒り! 憎悪! そして絶望!!」

 

 全部を否定しなければ意味がない。

 

「全てを! 全てに!」

 

 全部を壊さなければ意味がない。

 

「味わわせなきゃ気が収まらねぇ!!」

 

 あのクソ親父のクソみてぇな理念なんぞ、ありもしねぇ幻だったと!!

 

「お前が()()()のように動こうって言うんなら!!」

 

 父上を殺した俺には――!

 

「俺はお前の全てを、否定する!!」

 

 全力で攻撃する。

 狙うのはクロじゃない。

 アラバスタ王国王妃。

 ネフェルタリ=ティティ。

 

 奴にかすり傷の一つでもつけば、それだけで――

 

 

「……まぁ、やはりこうなるか。仕方ない」

 

 

 例え、大勢に欠片も意味がないとしても――

 

 

()()()()()()()()

「…………は?」

 

 

 クロが、そんな事を言うのと同時に、

 

 

―― 承知した、主殿!

 

 

「!!? お前は!!」

 

 宙を蹴って、腹が立つほど美しい女がそこにいた。

 黒い髪をなびかせ、王の覇気を纏わせ、

 

「そう言う事じゃ。貴様の相手はわらわが――」

 

 

「第一艦隊提督、ボア・ハンコックが務める!!」

「……っ、がぁ……っ!!」

 

 武装色で強化された脚が、俺の腹に突き刺さる。

 

「ふざ……けるなぁ……!」

 

 黒猫海賊団の正しく中核。

 あの男が心から信を寄せているのだろう女傑。

 

 だが――

 

「お前じゃない」

 

 俺の相手は、戦うべき相手は。

 語る相手は問い掛ける相手はこの感情をぶつけるべき相手は――

 

 俺が、俺の――!

 

「お前じゃねぇっ!!!!!」

「知らぬ! 文句があるなら踏み越えてゆくが良い!!!」

「っ!――クソがぁぁあぁぁぁあああああああっっ!!!!!!」

 

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