「ペローナさん、能力は……っ!」
「駄目だ! あの筋肉達磨、どういうわけか私のネガティブ・ゴーストを蝙蝠で撃ち落としやがる!! あぁ、くそ! ミニホロも駄目か!!!」
戦闘に入っていたことは分かっていた。
ペローナもロビンも、覗き見る事は得意分野だ。地下の広い倉庫の中で何が起こっていたかはすぐに分かっていた。
そしてゾンビの軍団という、大量の敵にもっとも有効な手段を取れるペローナは当然能力で加勢するつもりだったが、妨害されていた。
「嘘だろ、今度こそ当てたと思ったら弾けた!? 私の能力が通用しないなんて……ロビン!」
「うん、今もっとお塩を送ってるから……ダズさん達も頑張ってる」
船室の中では、残っていた海兵達が大急ぎで食糧庫の中から塩を集め、それを適当な大きさの袋に詰め直し、それをロビンが能力で大量に腕を生やしてバケツリレーのようにして目的の場所まで運んでいた。
「ペローナさん、他の敵は?」
「ちょっと待て……」
塩を送る事と、地下の戦闘を見る事に集中しているロビンにこれ以上の作業は出来なかった。
代わりにペローナがゴースト達を使って島や周囲の海域を見渡す。
「大丈夫だ、さっきのチャリンコ野郎が通ってきた以外異変はねぇ」
「うん……」
ロビンからしたら、複雑な救援だった。
クロから渡された電伝虫は、今回味方になってくれた海兵と繋がっていると全員には説明していたが、ロビンにはこっそりそれが誰かを教えられていた。
だから、電伝虫を取ろうとした手が何度も止まった。
だが、能力で見ていた地下の戦闘で、敵である大男を蹴るたびに納得がいかない顔をしているキャプテンを見て、それが強敵であることを理解した。
そして状況は、ロビンが以前
後ろには、キャプテンが守ろうとしている海兵達がいて、さらには能力による攻撃を受けて一歩間違えれば死ぬ状況になっている。
そして対峙している敵はあのギャングよりも大きく、一目で分かるくらい鍛えられていて、そして強敵に見えた。
そしてその巨体に足を突き立て――キャプテンが苦痛でわずかに顔を歪ませたのを見た瞬間、ニコ・ロビンは決意した。
「……キャプテンさん」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「よりにもよって、あのカイドウと戦争起こしたゲッコー・モリアを相手に戦ってるとか、君の人生どうなってるの?」
「……上手くいってないのは事実ですね」
そんな哀れな物を見る目で見られても……。
いや本当に、どうしてこんな人生になったのか色々な物を呪う日々ではあるけど。
「ニコ・ロビンもそうだ。ちょーっと14歳には荷が重すぎるんじゃない?」
「…………」
「俺は今のところ上に報告するつもりはないけど、知ったら政府は全力を挙げて君ごとニコ・ロビンを殺そうとする。……まぁ、その顔は分かっているようだけど」
「手にした宝を手放す海賊なんていませんよ」
「…………ホント凄い度胸だよ。君」
「どういうことだテメェら……海賊と海兵が手を組んでるだと!?」
ホントにどういうことなんだろうね。
ここ最近俺の人生がジェットコースターばりの急加速と急旋回で振り回されまくって意味が分かんねぇんだよ。
頼むから誰かパッチかMOD当てて難易度調整してくれないかな。
easyとか贅沢言わないから、せめて普通のHardくらいにまで調整してくれないかなマジで。
「この海兵奴隷の一件に気付いたのがこの子でね、その後色々手助けしてくれてるのさ」
「テメェどういう海賊だ!!!?」
ホントそれな!?
いや、そもそも海賊やる予定はなかったんだけどさぁ!!
「海賊に身を落としはしたが、自分の矜持に背を向けるつもりはない」
この世界、自分なりの筋を見つけないととんでもないデバフかかるからな!
筋通しても勝てない時は勝てないんだろうけど、そん時はせめてキャラエピソードばりに華麗に散ってやるわ!!
守るもん守って部下全員逃がせりゃ俺の勝ちじゃボケェ!!
「救うべきだと思ったのならば、それが海賊だろうが海兵だろうが救ってみせる」
「……いいぜ、ますますお前のカゲが欲しくなった」
「お前を必ず部下にしてやるぜ! ゾンビとしてなぁ!! キシシシシシ!!」
すいません、その斬新すぎる勧誘は……ちょっと、はい、ノーサンキューの方向で……ええ……。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「てめぇ、まだ速くなるのか!!?」
「これだけ蹴ってダメージが入るのはこちらの足だけか……っ」
「テメェとは海賊の格が違うんだよ!」
「こちらが上か?」
「ほざけガキぃ!
「――っ……中将、兵士達を!!」
(何度も何度も思っちゃうけど、この子4つの海のレベルじゃないでしょ……!)
クロ目がけてと見せかけ、ゾンビと戦っている子達の方に飛ばした蝙蝠を氷壁で防ぐ。
自分でも反応自体は出来ただろうが、呼びかけのおかげで完全に防げた。
「ほんと君……いい目をしてるね」
「速く正確に走るには、いい目も必要だったので」
「ちぃっ、うっとうしい蠅小僧に氷の
ゲッコー・モリア。
グランドラインでも上位に入る大海賊はやはり覇気も、これまで経験した敵の中でも桁違いだ。
何度か覇気を纏わせた氷を撃ったり、あるいは氷の剣で斬りかかっているが全て防がれている。
「それにしても、さすがゲッコー・モリア。ちょっとこれは厳しいかな……」
「いえ、そうでもないようです」
大量の蝙蝠を周囲に羽ばたかせ、守りを固めたまま退路を塞いでいる大海賊を前に、駆け出しと言っていいハズの少年海賊は堂々と向かい合い、
「中将の攻撃を覇気で防いでいるのに、こちらの蹴りは純粋な身体能力のみで防いでいます」
「君の蹴りに覇気は不要と判断したんじゃ? 実際、ダメージほとんど入ってないし」
「ずっと覇気を纏われていれば、とっくに自分は戦力外になって中将に全力を注がれているハズです」
「なるほど、そりゃ確かに――っ」
下から気配を感じて飛びのくと、能力の蝙蝠が集まった太い槍が飛び出す。それも連続でだ。
「クロ君!」
「問題ありません」
よほど邪魔だと判断したのか、彼を狙って執拗に連発される槍と蝙蝠の攻撃を全て避けながら――驚くべきことにときたま見失うほどの速さで全てを回避する。
「クロ、おめぇの速さは大したもんだ。だが――経験が不足してるなぁ!!」
「――ちっ」
だが、それをモリアは捉えた。
クロの回避先を読み切ったモリアの、回避した瞬間のクロ目掛けて床ではなく壁から横に飛び出した黒槍が、クロの身体を貫いた。
「キシシシ! やっと捕まえたぞ蠅やろ――ぅごぉっ!!?」
左肩と右足を貫かれて、だがそれでもクロの速さは衰えを見せなかった。
一撃を入れてモリアが油断した瞬間に、足から血を噴き出しながら、その足に渾身の力を込めてモリアの喉に突き立てていた。
「中将!」
「っ!
崩れた所に、巨大な雉を模した氷塊を撃ち込む。
今度は覇気を纏う暇もなかったのか、それでも頑強に鍛えられた肉体は氷塊の一撃に耐えて見せた。
「くそがぁ……! なんて面倒くさい連携しやがる! お前ら本当にどういう組み合わせだ!」
「いいコンビでしょう? いや、俺もクロ君が合わせられることに驚いているんだけどね」
(にしても……触れば勝てそうなんだけど、簡単に触らせてくれないか。ロギアとの戦い方を分かってるな)
「クロ君、足大丈夫?」
「ええ、大丈夫です」
この海賊があのモリアを攪乱してくれているおかげで何とか渡り合えている。
だが、現状では決定打に欠ける。
攪乱と足止め役を務めていたクロが足を負傷したのならなおさら。
「先ほどの続きですが、恐らくモリアはもう限界です」
さてどうするかと考えていると、『抜き足』が眼鏡を直しながら口を開く。
「覇気を長時間纏うことが出来ない。だから防御ではなく可能な限り攻撃にそちらを振る。それに、攻撃に移り変わる時の覇気を纏うタイムラグも徐々に大きくなっています」
「……ねぇ、クロ君」
「はい」
「覇気の事、よく知ってるね」
クロの眉がピクリと動いた。
後ろの方で戦っている剣戟の音を聞いて、もう一つ思い出す。
「あの子達に塩を使うよう指示を出したのも君でしょ? 能力で作られたゾンビの弱点とかどうやって知ったの?」
「……海賊の
「
戦力として脅威なのは、言わずもがなゲッコー・モリアである。
新世界の海賊として、四皇の一角と渡り合った実力は洒落にならない。
だが、自分の勘がより脅威になる存在だと囁いてるのは――
(……こんな得体の知れない子が、あのニコ・ロビンの保護者とはねぇ)
――『お願い、急いで!!』
――『キャプテンさんが戦ってるの!!』
(全く、世の中どうなるか分かったもんじゃないね)
「クロ君」
「はい」
「多分だけど、覇気が弱まっているなら自分が触れば勝てると思う」
「だけど触らせてくれない。……動きを止めればいいんですね?」
「分かりました――もう一度、自分が前に出ます」
(ホント……海軍にとって怖い海賊になるねぇ。この子はきっと)
―― ……ザン……クザン。
―― ……っと、あららごめんね。うたた寝しちゃってたみたい。
―― えらく気持ちよさそうに寝てたな。
―― 君と初めて会った頃の夢見てたのよ。
―― また懐かしい話を……もう二十年近くになるのか。
―― 君、こーんなに小さかったのにね。
―― 当時から思ってたけどそっちがデカすぎ……いやいい、我々の島が見えてきた。
―― あらら、それじゃ準備しますか。
―― あぁ、頼む。新入りとはいえウチの『隊長』任せるんだから、身なりはそれなりにな。
―― わかってますよ……