とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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187:アラバスタ防衛戦ー⑪

「くそっ、本当に……しぶとい女だ!!」

 

 まるで子供が遊んでいる最中のトランポリンのように揺れ続ける砂漠の上で、戦いは続いている。

 

「トレーボル、テメェしっかり当てねぇか!!」

「だったらお前は動きを止めろよ!!」

 

「コイツら……」

 

 二人の男は互いに口喧嘩を挟みながら、攻撃の手そのものは緩めていない。

 だが、両手とその口合わせて三本の刀を振るい、その全てを捌き切ってみせる。

 

(連携が悪いわけではない。恐らくはこの海賊団ではそれなりの古参と言うわけなのだろうが)

 

 だが、致命的に圧が足りていない。

 攻撃も強弱や速度に緩急がない。

 はるか格上の相手を、一秒でも長く足止めし、一瞬の隙を作るために自分達が積み重ねて来た物がこの乱撃にはない。

 

 さっきまでと変わらない。

 数が増えただけで、その実態はただの力押しだ。

 

 さすがに四人、五人ともなれば脅威度はあがるが、この二人だけならば問題ない。

 

(大体見極めた。エルマルの方に妙な気配があるし、さっさと終わらせる)

 

始斬(しざん)

 

 両手の刀を鞘に戻し、咥えていた一本を構えて踏み込み、振り下ろす。

 まずは斬撃を両者の間に飛ばすことで、両者を分断する。

 

弐断(にだ)ち」

 

 その一本を左手に、そして右手でもう一本を引き抜きそれぞれを×の字に交差させるように斬撃を放つ。

 

「分断した所で!」

「べっへへへ! しゃらくせえ!!」

 

 敵は能力者にして覇気使い。

 こちらも斬撃に覇気を込めているが、敵の方が質は高い。

 それぞれ剣に、あるいは能力による攻撃によって打ち上げられる。

 

三断(さんだん)

 

 だが、それはどうでもいい。

 むしろ手間が省けたまである。

 

 最後に、一本を口にくわえてもう一度刀を抜く。

 計三本。三刀流。

 人間ではまず持つ事がない数の刀を使いこなす、あの魚人島の戦いでの偶然を経て組み立てている、未だ未完成の剣技。

 

 総督も、この剣を磨くことを認めながらも「ウッソだろお前」とどこか呆れていた、自分でもどこか馬鹿げていると思っている黒猫式を改造した自己流剣術。

 

 それによる三本の斬撃を、敵の()()目掛けて放つ。

 

「っ! 足場の悪さがやっと効いたか!? 手こずらせやがって!」

「ようやく――」

 

 

「――いや。もう終わりだ」

 

 

 敵も気付いたのだろう。

 頭上から奇妙で、不快な音が鳴り響き始めたことを。

 

 まるで砂と硝子の破片をこすり合わせるような、嫌な音を。

 

 最初から戦っていた大剣使いの男が上を見る。

 ベタベタした男がとにかくその場から逃げようとしているが――遅い。

 

 二人の頭上では、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が十分な質と量になっている。

 

「総督の訓練時の五分の一以下の質量。加えて攻撃は一方向。二人がかりならば十分切り抜ける余地はあるでしょう」

 

 実力さえ伴っていれば。

 

 内心でそう告げるが、口に出さない。

 どうにか迎撃しようと大剣を構える男も、逃げようとしているベタベタ男も届きはしない。

 迎撃という初手から間違えている。

 

「!?!?!? っ、クソ女ぁ!!」

「ま、待て、話を――」

 

 

――死連鎖(しれんさ)

 

 

『ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!』

 

 

 未だ跳ねる砂漠の大地ごと、肉を切り裂く刃の雨が降り注いだ。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 かたや直接宙を蹴り飛び、片や能力で生み出した糸を駆使してエルマルという港町の上でぶつかる影が二つある。

 

「クソがぁ! いいかげんに倒れろ!!」

「こちらの台詞じゃ! おのれ、能力を体や衣類に使ってダメージを軽減しておるな……っ」

 

 黒猫海賊団第一艦隊提督、ボア・ハンコック。

 対するはかつての静かなる北の海の雄、ドンキホーテ・ファミリーを率いるボス。

『天夜叉』ドンキホーテ・ドフラミンゴ。

 

「主殿が少数を、しかも広範囲で配置せざるを得ない状況を作った上でこのような奥地まで来るとは……そこまで主殿に執心か!」

「分かってるならそこをどけ!!」

「たわけぇっ! 申したではないか!!!」

 

 互いが同時に利き脚に覇気を込め、互い目掛けて飛び込む。

 

「お主の相手は、主殿に代わり妾が務めると!!」

 

 覇気がぶつかり、黒い稲光が走る。

 兵士達は一瞬身構えるが、戦っているハンコックの姿を見てすぐさま避難民を落ち着かせに走る。

 

「代わり?」

 

 拮抗しているが故に発生している稲光り。

 それをサングラスの向こう側で忌々しそうに睨む男が、

 

「代わりだと……っ!?」

 

 忌々しそうに、口を開く。

 

「ふざけるな!!」

 

 その言葉が、その声こそが忌々しいとばかりに、

 

「ふざけるなよぉ!!!!」

 

 海賊は叫ぶ。

 

「お前が! よりにもよってお前がそんな言葉を吐くのか、ボア・ハンコック!」

「っ、こやつ、覇気がより……っ」

 

 互いの蹴りを通した、稲光りの競り合いが徐々に『天夜叉』へと傾き始める。

 

「親衛隊に並ぶ古参にして中核! 黒猫第一艦隊提督!」

「――ちぃっ!」

 

 それを察したハンコックは、競り合いを諦め膝を使い、相手の足を蹴り飛ばす要領で大きく距離を取る。

 

―― メロメロ・甘風(メロウ)

 

 相手が異性であるならばほぼ必殺の技。

 見る者が僅かでも好意を抱けば、瞬くに石化し、問答無用で無力化される文字通りの必殺技。

 

「奴の道を斬り拓く、黒猫の先槍であるお前が!!」

「――っ、こやつ、わらわを見ておらぬのか!?」

 

 だが、効かない。

 対多数での必殺技として、数々のならず者を一瞬で石化させてきた技が、通用していなかった。

 

「代わりだと? 代わりだと!!?」

 

「どこにいるんだ。……なぁ!!!」

 

 

「この世界のどこに、あの男の代わりがいるというんだ!!!!!」

 

 

「言ってみろ!! ボア・ハンコック!! あの男の――!!」

 

 

「クロの手が届いただけの女ぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

(……覇気が更に強まった。思った以上にやべぇ奴だったか。だが……)

 

「総督、マリーさんから通達です! 第一艦隊到着! エルマル、アルバーナ双方に兵六百を送り、姉妹それぞれが指揮官となり戦況を立て直すと!」

「ギャルディーノは!?」

「アルバーナにて指揮の補佐に!」

「よし!」

 

 だが、今は動けない。

 今ここに来て、精鋭千二百が到着した。

 加えて、アルバーナで暴れているミホーク率いる親衛隊や候補生、並びに魚人の混成部隊がペローナの夜間観測の下で暴れ回っている。

 

(状況は確かに有利になった。だからこそ、今こそが犠牲を抑えられるか否かの瀬戸際……っ!)

 

 通信妨害は続いている。

 いつものように指示は即座に伝わらず、ロビンの視覚情報を元に戦況を予測して伝令の速度を読み、先んじて一手を打ち続ける必要がある。

 

(ミホークが、あのミホークならギャルディーノと合流するだろう。奴ならこの戦況を理解し、最善を尽くすために群を動かすための個として働くハズ!)

 

 砲兵部隊も、落ち着いて一方的に撃てるいつもの夜間奇襲ならともかく、今回は戦線維持のための防衛砲戦。

 

 しかも砂漠の夜は特に気温が下がるために空気の密度がいつもの夜戦演習以上に高まり、大砲の砲弾はより硬くなった大気の壁に阻まれる。

 気温が冷えているから火薬の燃焼温度も下がり、初速もそうだが効果も落ちる。

 

 通常の砲戦に比べて飛ばない戦闘は、かなり神経をすり減らす戦いだろう。

 事前により遠くを狙うように言っているが、一歩間違えば兵士に誤射しかねない。

 

「ティティ様、申し訳ありません。事態が正念場を迎えたので、今しばらくは指揮に専念させていただきます。どうか、ミアキスの側を離れぬように」

 

 もう気を使っている余裕がない。

 ミアキスもここが分水嶺――勝利か敗北かの二択ではなく、急に流動性が高まった戦線で生まれる被害の大小を大きく分ける段階だと察している。

 

 だから奴の襲撃で少しバラけてしまったティティ様達をまとめ直して、見聞色を限界ギリギリの範囲まで展開した上で維持している。

 もしここで馬鹿をやらかす奴が出れば、『死の舞踏』の二つ名に懸けて馬鹿の首を即座に掻っ斬るだろう。

 

「分かりました、全てを貴方に委ねます。どうぞ、よしなに」

 

 よし、言質はいただ――全てを!!!!?

 せめてそこは戦闘に限定してもらわないと! ほら大臣さん顔面蒼白で目を剥いてるじゃん!!

 

 …………。

 

 と、とりあえず彼に向けて小さく頭を下げておこう。

 向こうもこちらの内心を察してくれたのか、頭を下げ返される。

 

 ……ヨシ! なんだかわからんけど、多分ヨシ!!

 

「ロビン、負担かけて悪いが、観測と戦況図の更新に全てを掛けてくれ!」

「了解よ」

「ペル殿、アラバスタをよりかつての姿に取り戻すために今もっとも必要なのは、一刻も早く正確な命令伝達です。さらにコキ使ってしまいますが、構いませんか?」

「ハッ! 如何様にも!」

「クロ殿、我々の運搬に用いた超カルガモ隊をお使いください。この砂漠の地で、いかなる馬や駱駝(ラクダ)よりも早くたどり着けるでしょう。同行させていた兵士ならば乗りこなせます」

「感謝します、大臣」

 

 確か、数は七だったな。

 恐らく、いざという時にティティ様を乗せて逃げるための物だったんだろうが、使わせてもらえるならありがたい。

 

(散々飛び回らせているペルはともかくとして伝達速度の確認、追加された戦力の再把握と編成。どうみてもヤバイ怪物に対応するために、第一艦隊のマリーはもっともキツい北部戦線――川辺沿いに部隊を展開している)

 

 ロビンが観測した結果を、固定化した砂盤の上に駒で示していく。

 

 アミスは――勝ったか。浮いていた砲兵部隊を纏めて撤退を援護している。

 

(有利になったからこそ不確定要素が爆増した。この戦いが辛勝に終わるか、大勝で終わるかはこれからの十分にかかっている)

 

(戦力の温存はもう関係ない。俺が立たなくても十分な数と力が集まった)

 

(だから、俺が俺の全てを振り絞るのは――)

 

 

(――今!)

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「まさかと思っていたが……やはりあったか……」

 

 黒猫海賊団、第三艦隊第二分隊。

 先行していたクロコダイル率いる先遣隊の後詰、並びに開拓に必要になる物資の搬送任務を受けた彼らも、ついにアラバスタの戦場へと到着していた。

 

 サンドラ河中域。

 輸送船も含めて計四隻で構成された部隊は、内二隻を連合艦隊の逃走を阻む親衛隊の援護に回し、残る二隻は戦線に合流せず、アラバスタ最大の大河であるサンドラ河の調査に向かっていた。

 

 状況は親衛隊の指揮する船に、客将として同乗していたベルナデット姫から報告されていた。

 

 西の海(ウエストブルー)における黒猫勢力圏の一角、カナン王国の第二王女。

 

 総督からの信頼が厚い姫の一人であり、カナン国王からの要請もあって偉大なる航路(グランドライン)に同行した才女にして戦士。

 

 その彼女が常に情報を更新、整理していたために後続は状況の確認が容易く、ほぼ同時に到着した第一艦隊と共に行動方針を決める事が出来た。

 

「艦長、あの妙な木はなんでしょうか?」

「……大方、仕掛けだろうな」

 

 そして戦力としては中途半端な第三艦隊後続隊がまず取り掛かったのは、サンドラ河中流の調査だった。

 

「敵生物は、川を挟んだ東西双方に展開されている。海からはもちろん、サンドラ河底部を使って輸送されたハズだとキカ船長やベルナデット様は言っていた。それだけで都合よく二つの町だけを襲うハズがないともな」

 

 上陸させた時もそうだが、なんらかの痕跡――運が良ければあの異形の大軍を目的地へと誘導する何かが見つかるハズだと。

 

 果たして。

 恐らく上陸させただろう場所に、奇妙な木々が壁になるように植えられていた。

 上から真っ黒なシーツを掛けられているため高高度からでは分かりづらいだろうが、直接その場に足を運べばハッキリと見える、緑に輝く何かを放出し続けている――妖樹が。

 

「全員、防護服装備」

「防護服ですか?」

「ふん、獣を誘導する物など二つしかない」

 

 後続部隊を指揮する男――元海軍支部長だった男は鼻を鳴らしてその光景を見据える。

 

「毒と餌だ」

「では――」

「そうだ。戦闘員も含めて全員だ。こんなところで貴重な兵を壊すわけにはいかん。慎重に接しろ」

 

 副官を務める元海兵――ただし、西の海からの古参ではなく、偉大なる海(グランドライン)で投降した比較的新入りがその言葉に敬礼で答え、指示を叫びながら甲板を走っていく。

 

「……連合軍、怪物、そして海賊共め」

 

 一端の()()()の船長がそう呟きながら、今も輝く胞子を吐きだし続ける樹木を睨みつける。

 

「出遅れた借りは返させてもらうぞ……っ!」

 

 

 

「防護装備を着用完了次第、作戦を開始する! 木々を守る伏兵の可能性を考慮した上で揚陸!! あの木々を確保し、怪物共の道筋を乱し戦の趨勢を変える!!」

 

 

「我ら第三艦隊の本分、今こそ戦場で示す時である!!」

 

 

「総員、奮起せよ!!」

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