とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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188:アラバスタ防衛戦ー⑫

「アミス隊長! 迂回こそしたが、部隊の後退に成功したぜ!」

「それと今しがた、エルマル本部の方から赤色、黄色信号弾がそれぞれ同時に二発発射されたのを確認しました! 援軍がこちらに向かっているようです!」

 

 先に先行させていた部下二名――フリックとアメリアが駆け寄りながら行う報告に、ホッとしながら次手を考える。

 おそらくは後続の第三艦隊が到着したのだろう。

 

 それに加えて強い覇気を複数感じるのは、これまで黒猫の旗を立てて来た国の精鋭が援軍として駆け付けてきてくれたか、あるいは他の別動隊が独自判断で到着したか。

 

(そもそもの最重要制圧目標であるハズの火山島が手つかずのまま。先んじてそこに向かえば、異変に気付くのは当然よね)

 

 あるいはこの気配は、第一艦隊の精鋭かもしれない。

 ただでさえ第一艦隊の精鋭――黒刀持ちは隠密性に特化している部隊なので、少し離れただけでその気配が酷く読み辛くなる。これだけ離れて、かつ混乱していたら尚更。

 演習での紅白戦でも油断すればミホークですら隙を突かれ急所へのナイフアタック判定を受けそうになるほどの猛者揃いなのだ。

 

「奴らを拘束して一度引きましょう。幸い、大砲の火線が集中して大型種の鎮圧や足止めが容易になり、より多くの大型種がそのまま壁になっています」

 

 倒した二名は全身を切り裂かれて動けなくなっている。

 やはり、強いだけで粘りがなかった。

 

 とはいえ相当な強者であったのは間違いなく、悪魔の実を口にしていることから敵の中でもそれなりの位置にいる者と見える。

 

「援軍の到着といい、戦いは終盤に差し掛かっています。コイツらから情報を引き出せれば――」

 

 終盤に差し掛かり、援軍の到達が知らされたとはいえ――いや、知らされたからこそ気が抜けない。

 ここで伝達一つ、伝令一つ間違えれば生まれる犠牲が大きく変わる。

 

 だからこそ、あり得なかった。

 

 この瞬間に私やこの二人が()()()()()()()()()

 

「――っ!? 隊長!」

「覇気を全力で流し込め! 後先の事は考えるな!」

 

 突然、我々三人の腕が――いや、身体が変質していた。

 まるで出来の悪い()()()()()絵画のように身体がねじ曲がり、武器を手に出来なくなっていた。

 私が指示を出すまでもなく、それが能力による攻撃だと捉えた全員が武装色の覇気を身体中に流し、肉体変化を解除する。

 

――ミサイルガール!!

 

 だがそれより少し早く、爆発が起こる。

 場所は倒れている二人と我々の間。

 

「ちぃっ! 徒手(としゅ)我流(がりゅう)……っ!」

 

 変化を強制解除した我々は刀を拾いあげるその行動そのものが隙になる。

 射程も威力も落ちるが素手で――。

 

爪研(つめとぎ)!!」

 

 飛ぶ斬撃。

 本来ならば足で放つそれを、視界の悪さを突いた奇襲に警戒するためにも体勢をあまり動かさない手刀によるもので、砂埃を斬り裂く。

 

「……隊長」

「まぁ、仕方ないわ」

 

 そして晴れたその先には、もう誰も残っていなかった。

 

「……逃げられたかぁ」

「見聞色を集中させれば追えると思いますが。微かにですが、海の方向に流れていく気配を捉えています」

「ただでさえ視界の悪い夜間かつペローナさんを一方面に貼り付けなければならない戦場で、そんな余力はないわ。覇気にせよ体力にせよ――そして戦力としても」

 

 それぞれの刀を拾い直し、腰に差す。

 

「戻るわよ。戦線の後退と安定という目標は達成した。総督の元で現状を確認する」

「「ハッ」」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「クロ、第三艦隊の後続の人達がサンドラ河中域に上陸したわ。覆いか何かで隠されていた、変な光る木が大量に見つかったわ」

「光る木!? その木は積まれているのか? それとも植えて?」

「ちょっと待って……。うん……。どうやらその場に植えられているみたい。上陸部隊の人達は、皆防護服を着ているみたいだから危険な物みたい」

 

 化け物共を誘導していたのはそれかぁ!!

 

 ロビンが障害物を示す駒で木々の位置を大雑把に指示していくが、エルマルからかなり北に真っ直ぐ横一直線に植えられているようだ。

 

 この分じゃ西部も同じくなんだろうなぁ!!

 

(日暮れ前を狙ったもう一つの理由はこれか! 完全な暗闇の中での光物を使った工作なんざロビンが見落とすわけがねぇ! 真昼間の中でダラダラやっても同じく!)

 

「ごめんなさいクロ、全然気が付かなかったわ」

「気にするな、向こうはこちらを分析している。戦場が広いため、かなりの高高度に凧を設置するだろうと読まれたのさ」

 

 これ絶対今ハンコックとバチクソやり合ってるクソ鳥の仕業だろうがボケェ!!! 

 

 クソが! 相当にこっちの戦術を分析してやがるな!?

 どっからウチの交戦記録手に入れやがった!

 

 あれか、どっかに潜んでずっと観察してやがったのか!!?

 

 魚人島奪還戦をあまり後回しにするわけにはいかないからこっちも全力で戦う必要があったもんで余計におのれおのれおのれおのれおのれおのれ――!

 

「ペル……だめだ、鳥形態で対応できる防毒マスクがない。……ミアキス!」

「はーい!」

「ここは大丈夫だ、すぐに簡易防護装備着込んで第三艦隊後続の所まで行ってくれ」

「伝令兼護衛ですね? 指示は?」

「木々を除去してくれ。ただし火を使うのは奥地のみ! 河口付近や町に近い部分では厳禁とする! 万が一灰にまで毒素が残って避難区域に舞いこんだら洒落にならん!」

 

 あのクソみたいにデカい化け物共が近づかないのだとしたらほぼ確実に強力な毒性がある。

 人間に対してもそうなのかは分からないけど、うかつに近寄るわけにはいかねぇ。

 

 でも火を使わなきゃこの緊急事態じゃどうしようもねぇしチクショウ!

 ……そうだ! アルバーナ側には魚人戦力がいる!

 

「ペルはこの情報をアルバーナ方面の軍に届けてくれ。おそらくあちらにも、化け物共をアルバーナに追いやるように植えられているハズだ」

「ハッ」

「並行して第一、第三艦隊を回って使える防護装備の数とそのアルバーナまでの運搬の段取りを依頼してくれ! 向こう側の魚人に防護装備が届けばやれることが大きく増える!」

「了解です、総督」

 

 ヨシ、ヨシ!

 種が割れた以上、対処法は思いつける。

 後はそれを一番被害を少なくできる方法で実行するまで!

 

 しかし――どう考えても人間だけで出来る所業じゃない。

 人力でやるならば数日がかりで、しかも大勢で仕込まなきゃならない。

 ここ最近の攻防戦の中でそんな真似をされていたら、さすがにロビンやペルが気付いたハズ。

 

 それを極めて短い時間でやれるとしたら、個人で既に強力な膂力を持つ存在が不可欠。

 ……クソッ、相当な数の()()を取り込んだなカスピンク!

 

(魚人島の騒動を受けて、各地で旗揚げした魚人海賊団が多数出ているってのは知っていた。だから偉大なる海(グランドライン)に入ると同時にジンベエにその説得と取り込み――最悪鎮圧を頼んだんだが……これでもまだ遅かったか!)

 

 魚人島での戦いを経て、魚人が他に流れる事はないと驕っていたな。

 こっから先はどの艦隊にも魚人戦力を割り振らないと、ともすればあっさり壊滅しかねん!

 

「クッソ、船医だけじゃなく拠点から医療技官も数名連れて来るべきだった……っ。研究用にサンプルも残しておいて……あぁ、ちょっと待て。念のために走り書きを用意しておく」

「サンプル?」

「今回は砂漠の国という、人口密度がある意味でまばらになっている地域での投入だったからまだ何とかなったが、アレが他の島だと途端に脅威度が跳ね上がる」

 

 あの化け物に対する対抗策を用意しないと、人口密集地帯に放り込まれたら一気に生産や輸送に大ダメージだわ!

 それが嫌がるのだろうロビンが言う光る木の回収と調査は必須!

 

 わざわざ置いた以上、敵はあまり固執していない――恐らくは見せ札であり、本命の何かに対する目くらましなんだろうがそれでも対策に成り得る以上研究は必要だ!

 

 おのれぇ! 嫌な方向に手札を増やしやがって……かといってこんな破壊特化の札はドフラミンゴらしくねぇ!

 

 ヤツはもっと姑息……というか、()()()()()()()()()()()を好む。

 西の海の騒乱がそうだ。

 賄賂なり裏からの手回しで操り人形となった統括支部長を使って事を引っ掻き回した。

 

(こういう、より純粋な武力や戦火を求めるのは……どちらかと言えば聖地で戦ったあの腐れトサカとかだろう……。本格的に手を組んだのか、それとも利用し合ってるのか……クソ、確証がねぇな!)

 

「よし、ペル。やるべきことは全部書いた。完了したら一度アルバーナの戦況把握に努めてくれ」

「承知いたしました!」

 

 ロビンが必死に能力を使って戦況図を更新し続けている。

 北部、そして西部から迫る軍勢に対して、第二防衛ラインまで後退し火線を敷き直した。

 

 夕暮れの戦闘開始時に比べて敵の足はかなり遅い。

 巨体故に消費するエネルギーも相当な物だろう。あと少しだ。

 

 ……とはいえ、その少しが遠いのも事実。

 

(いざという時は仕方ないが、可能な限り最終防衛ラインまで到達させるわけには行かない。そこまで行けばエルマルからも敵勢の勢いが丸わかりだ。市民のパニックを誘発しかねん!)

 

 なんとしても、ここで押さえなくては……っ。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「いい加減に墜ちろ! 足剃糸(アスリィト)!」

「させぬと言うておる!!」

 

 エルマル市街地での戦いは、徐々に北部へと押しやられていた。

 建物に糸を仕掛けて疑似的な空中戦を行うドフラミンゴに対して、ハンコックはクロ仕込みの足技による完璧な空中戦を可能とする。

 

 片や切断のための覇気を込めた蹴りが、片やそれを防ぐための覇気を込めた蹴りが。

 エルマル北部にてぶつかり合う。

 

「なぜ主殿にそこまで固執するのじゃ!」

「決まっている! 奴が――!」

 

 歳は十程離れている。

 片や二十代半ば、片や十代半ば。

 それでいてなお、両者に差はなかった。

 むしろ周囲の被害を考え戦場を無理なく移させたハンコックの方が上手ですらある。

 

「奴が! 腹立たしい()()()()()だからだよ!!」

「なに!?」

 

 だがドフラミンゴもそれに食らいつく。

 

「認めるさ! ヤツは大物だ、そこらの木っ端とは物が違う!! だがなぁ!!」

 

 ハンコックもその攻撃の正体には気が付いていた。

 能力者。自らの身体から物体の切断すら容易な()を編み出す能力だと。

 

 加えてその能力は練り上げられており、多種多様な攻撃を繰り出すことを可能としている。

 

 かつての西海海戦にて戦った多数の強者に並ぶ敵だと、ハンコックは悟っていた。

 

「善人だからこそ手が遅い! 足が遅い! 見ろ! お前が、お前達がジリジリと善人らしく人助けをしている内に、こちらはここまでの戦力を整えた!!」

 

 何よりも――重い。

 体格差による一撃もそうだが、込められた感情が極めて重い。

 

(海軍の連中とは真逆じゃのう! 赤犬やクザンらと違って、良くも悪くも迷いがない!)

 

「お前らも戦力を整えているが、それを動かせるか!? 無理だ! お前らは善を掲げているからこそ、戦力を増やせば増やすほど動かせねぇ!」

 

 男の一挙一動で、避難を終えている区画とはいえエルマルの町が崩される。

 人が住んでいた家屋が切り裂かれ、何かの工房が吹き飛び、崩れ落ちる。

 

「善にこだわるからそうもなる! 世界政府を打ち倒すのに必要なのは善悪じゃねぇ!」

「こやつ……っ、黒猫の将兵が守った物を……っ!!」

「守った? あぁ、守ったさ。だがそれはいつか奪われる物だ!」

 

 ハンコックも必死にいなしているが、ハンコックを狙った上である意味無差別な攻撃の嵐を全て防ぐのは難しかった。

 

「えぇい、先んじて潰すしかないか!」

「そうだ! わかっているじゃないか! それでこそだ、ボア・ハンコック!!」

「貴様の情緒はどうなっておる!!?」

 

 怒りに任せた攻撃の中に喜色が見える。

 見聞色に長けているとまでは言えないハンコックでも視えるソレに、混乱しながら足技の応酬が続く。

 

芳香(パフューム)――!」

羽撃(フラップ)――」

 

(フェムル)!!」

(スレッド)!!!」

 

 能力を纏わせた糸による弾丸の嵐を、ハンコックが相殺する。

 いつか被害が出る物だとしても、黒猫の将兵が命を削って守り通したこの町をこれ以上無意味に破壊させるわけには行かなかった。

 

「お前らは強い! お前らなら()()に届くだろうさ! だけど、今は足りねぇ!!」

「抜かせっ!!」

 

 技を繰り出したその隙を付き、ハンコックが自身の技の勢いを利用して更に踏み込み蹴り飛ばす。

 

 それを受けて、ドフラミンゴは轟音を上げて地面に叩きつけられる。

 叩きつけられ、血を吐きながらドフラミンゴはなお嗤う。

 

「善悪なんていうくだらない枷がお前らの弱さだ! か弱い民衆様はおしなべて善か!? 権力者は絶対の悪か!? 違う、違う、全部違う!」

 

 黒猫の在り方を、嘲笑っていた。

 

「善悪は! 正義はいつだって覆される! 過程や事実、体験すら塗りつぶしてそう成るんだよ!」

 

 その覇気に衰えはない。

 むしろ滾っていた。

 血に濡れて、肉が削れ、

 

 それでも『天夜叉』は立ち上がった。

 

 

「分かっているだろうボア・ハンコック! 分かっているハズだ『黒猫』!!」

 

 

「お前達が散々守ってきた奴らのどれだけが本当に正義を求めた! 真に高潔な者が奴以外にどれだけいた!?」

 

 

「どいつもこいつも、正義を謳いながら正義なんて求めてねぇ!!」

 

 

「なぜなら!!」

 

 

()()()()()()()()()()()()()()!!!」

 

 

 そして地を蹴り、『黒猫』の一匹――ボア・ハンコックに襲い掛かる。

 

 

「っ、こやつ! ここに来てまだ覇気を……っ!」

「あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」

 

 能力により生み出した糸を使う無数の斬撃。

 さきほどまではハンコックもまた能力を用いた蹴りで迎撃できていたが、反射的に回避する。

 

 ここで下手に受け止めようものならば足に多大な負担が――最悪斬られると感じたのだ。

 

 

「だから人が求めるのは正義じゃねぇ! 己が正義である証としての()こそを求める!」

 

「どこまでも愚かしく! 怠惰に! 正義(自分)と違う(殴れる誰か)こそを探し続けるのが弱者だ!! お前らがお大事に抱える民衆の正体だ!!」

 

「クロは正しい! あぁ、()()なんだろうさ! だからこそ、ヤツの温いやり方は見てられねぇ!」

 

「今だからこそ、力だけが正義だ! 弱い奴(足手まとい)を踏みにじってこそ時代を切り拓く資格が――!」

 

 

 ハンコックは、なお覇王色を強める男の目を見る。

 サングラスで隠されたその先に。

 憎悪を見た。

 怒りを見た。

 自分に向けてではない――だが含んでいる恐ろしく広い何かに対しての、殺意も。

 

「随分と善悪の二極に拘るではないか。貴様は」

「……なに?」

 

 その目に、気配に、ハンコックは酷く覚えがあった。

 

「善と悪、敵と味方。人や物事を二極に別けたがるのは人の(さが)じゃが……貴様のように

強くそれを分けて広めたがる者は、散々見て来た」

 

 黒猫に拾われてから六年。

 そして偉大なる航路(グランドライン)に入り、クロの本隊と別の艦隊行動を続けて二年に渡って様々な物と戦いを続けてきたハンコックは、ようやく目の前の敵の正体を捉えた。

 

「己の不安に耐えきれず、目に見える敵を欲すだけの者。己の権勢を強めるために存在しない相対する存在を作り上げる者。己の意を絶対と勘違いして叫ぶ者」

「弱い奴がそうするのさ」

「そうじゃな。じゃが気付いておるか? それとも、目を逸らしておるのか?」

 

 

「今の貴様がやろうとしておることは、正しくその弱者の行いと被っておる事に」

 

 

 再び『黒猫』に噛み付こうとした夜叉の動きが、止まる。

 

「……悪に縋る者も、見て来た。二極化を煽る大衆と何も変わらぬ。その根幹はなにも変わらぬのだ」

 

 ハンコックは、自分が恵まれている事を知っている。

 在り得ざる厚遇だと。在り得ざる環境だと。

 覇気が使えたと言っても妹とたった三人だけ。

 しかも拾い上げられた勢力は、多少の覇気の差など容易く覆せるだけの強者がすでに揃う一団。

 

 自分の価値など、いかほどだったろうか。

 

「今更じゃが聞いておこう。貴様、名は?」

「……ドンキホーテ・ドフラミンゴ」

「ならば、ドフラミンゴ。貴様の胸の内を当ててやろう」

 

 あの時の恐怖と、それゆえにあの地下牢で芽生えていた敵意を、ハンコックは忘れていない。

 その根幹にあったものにも。

 

「貴様がそうして力を強調し、悪を自称するのはこの世界――あるいは世界政府への恨みであろうが、根幹を直視出来ておるのか?」

「なに?」

 

 

 

「貴様は今、あるいはずっと……誰かに――主殿に救ってもらいたいのではないか?」

 

 

 

 男の口から、歯に罅が入る音がした。

 




あと二話くらいで終戦かな
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