とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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189:アラバスタ防衛戦ー⑬

「ふざけるな! 私の国が襲われているのだぞ!? 今すぐ帰国する!」

「陛下、どうかお待ちください! 今現在護衛の艦隊を集めておりますゆえ!」

「それでは遅すぎると言っておるのだ!!」

 

 世界会議(レヴェリー)

 膨大な世界政府加盟国の中から選ばれた五十の代表国家による、世界の行く末を話し合う四年に一度の大会議。

 選ばれる事それそのものが名誉であり、国と王の権威を裏付ける事につながるにも関わらず、出席している国家はたった二十少々のみ。

 半数に満たない有り様だった。

 

 前回の世界会議(レヴェリー)では欠席を表明したのは十ヵ国。

 それが急速に広がっている。

 もはや目に見える程に形骸化が始まっているその会議の中で、一人の若い王が叫んでいる。

 

「海軍の精鋭が現在向かっております! 今向かった所で反乱軍の討伐は既に終わって――」

「そういう問題ではないと言っている!!」

 

 数年前に代替わりをした、新たな国王。

 ネフェルタリ=コブラ。

 

 つい今しがた、反乱軍による襲撃の報せが入った大国アラバスタの王である。

 

「残された民を守るために、後事を託した者達が戦っておるのだ! 一日――いや一秒でも早く祖国に戻りこの目で状況を確かめ、民たちに声をかけねばならん!! 国から離れた安全な地でのうのうと危機が去るのを待つなど、王のやる所業ではない!!!!」

「し、しかし――」

 

 それに応対するのは海軍に所属する()()中将。

 海軍本部において、徐々に戦力を伸ばしつつある新興勢力の代表である一人。

 それが元帥センゴクを差し置いて、各国の王達に応対していた。

 

 世界政府による海軍内部の仕切り直しのための政治戦術であったが、ここに来てそれが裏目に出ている。

 ただでさえ海軍の一斉離反を防ぐための分断工作をしていた矢先の展開力の激減が、一番あってはならないタイミングで起こった事件への対応が後手後手に回る結果に繋がっていた。

 

「……これの責任として、私を解任するつもりだろうか」

「それこそまさかだよ。この状況でそんなことをしたら、輪をかけて悪化するのが目に見えている」

 

 その状況を尻目に、密かに部隊展開を指示していたセンゴクは溜息を吐く。

 なにせ、襲撃が起こっているのはアラバスタだけではないのだ。

 

南の海(サウスブルー)でも大蜂起が起き、参加していた国の内二ヶ国がすでに陥落。世界会議(レヴェリー)出席の要請を断った三ヶ国は今も応戦中」

偉大なる航路(グランドライン)もだ。世界会議(レヴェリー)の時期を狙っての一斉攻勢。離脱した元加盟国群による新勢力の攻撃に合わせて海賊も動いている」

「…………王族を人質に取られた国も出ているよ。身代金の要求が出ている」

「せめてクザンが動ければ……」

 

 すでにセンゴクも自ら出陣することが決まっている。

 政府からは聖地防衛のために動くなと言われているが、すでに状況はそれどころではなくなった。

 

 世界政府という組織に未だ価値があるかどうか。

 今まさしくそれが問われていた。

 

「アラバスタへの部隊は?」

「モモンガが向かっている。……ただ、どうなることかね」

「戦力に不安があるとでも?」

「いいや、情報が入った」

 

 

「坊やが先んじて動いたかもしれない。監視船から、アラバスタ方面に向けた黒猫本艦隊の動きを察知した」

 

 

 センゴクが、思わず歯を食いしばる。

 また、かと。

 まだ、かと。

 

 まだ戦い続ける道を選ぶのかと。

 

「本艦隊を指揮しているのは誰だ? 主要な者達は西の海に残るか、あるいはリュウグウ国の王族の警護に付いているだろう」

「少なくとも、アイリちゃんの姿を確認している。西海海戦において、ゼファーと戦った一人だ」

「ここ最近は内政に当てられていたと見られる親衛隊か。彼女らが投入される程の戦場となれば、アラバスタの一件は想定を超えているかもしれんな……」

「モモンガに報告しておくかい?」

「……いや」

 

 

「余計なノイズが()()()かもしれん。そのまま行かせろ。俺は南の海(サウスブルー)を落ち着かせて来る」

「急ぐよ。今の政府は追い詰められている。どこで何が暴発するか、分かったもんじゃないよ」

「えぇい、分かっておる!」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 アラバスタ王宮。

 もはや()()といえる有り様のそこでの戦いは、周囲諸共押しつぶそうとするピーカの大規模質量攻撃と、それを最小の労力で(さば)いていくダズ・ボーネスの技術の比べ合いになっていた。

 

舞踏石(チャールストン)!!」

 

 取り込んだ城壁の化粧石で作り出した巨大かつ大量の槍。

 アラバスタの王宮警備兵を蹴散らして、惨殺してきたその技も、

 

城塞槍(フォート・スピア)

 

 それを迎撃する様に撃ち出される、似たような――ただし鋼の刃で構築された即席の真似技によって打ち砕かれる。

 

「能力そのものの範囲は素材と一体化して精密に動かせるお前の方が上。だが、純粋な強度の比べ合いでは、刃であり鋼である俺の方が上のようだな」

『黙れ、ダズ・ボーネス!! 貴様らのような温い海賊ごっこの連中などに!!』

「……地獄は人の数だけある。お前らが見てきて、作り出して来た物も確かに地獄であったのだろうが……」

 

 岩石の巨人(ピーカ)にとってもっとも重要な任務だった王女(ビビ)誘拐はもはや不可能である。

 ピーカはともかくとして、ダズは確信していた。

 いるはずのない、だがよく知る気配と覇気が側に突然現れた。

 

(相変わらず自由な……。だが助かる)

 

 恐らく数日後には懐かしい地獄の日々が始まるのだろう。クロの。

 未来視をしたわけではないが視えた未来を見て、ダズ・ボーネスは小さく笑う。

 

(これでもう、わずかにあった敗北の可能性は無くなった)

 

 黒猫側の最大の問題であった数の不足。

 将、兵、双方が、精鋭であっても対処しきれない程に数が足りていなかった所に、黒猫最強の男とその最精鋭が揃った。

 

 つまり――

 

(後先を考えなくていいのは楽だな)

 

「もうこの一戦は終わっている。降伏を進言するが?」

『ふざけるなぁ!!』

「だろうな」

 

 降伏を口にした時点で、すでにダズ・ボーネスは駆けだしていた。

 斬るためではなく滑り加速させるため、足をアイススケートのようなブレードへと変化させる。

 

微塵(アトミック)――」

 

 岩石と同化し制御する能力による、面での制圧力は極めて強い。

 能力の覚醒を経て近い事が出来るようになったダズだが、地の能力特性の差がある。

 

『しゃらくさい!! 押しつぶしてやる!! ピッキャラララ!!!』

 

 巨岩の拳がダズの身体に迫る。

 仮に直撃を受けた所でダズが身体を鋼化させればほぼ無傷で済む。

 武装色も劣らないダズならば尚更である。

 だがそれはピーカという戦力がフリーになり得る間を与える。

 

 もっとも、仮に今からビビを探し出した所で、その側にいる鷹のように鋭い目を持つ男に細切れにされて終わりだろう。

 

 だが、ダズ・ボーネスはそれでヨシとする男ではない。

 

 より速く加速し、細かく軌道を変えて巨岩の拳とそれが生み出す破片を切り抜け、その根元へとたどり着く。

 

 そして無言のまま、右手を構える。

 右手の指一本一本。

 計五本のそれが鋭い斬撃へと変わっている。

 

 そこに更に武装色の覇気が流し込まれ、黒く染まる。

 

速力斬(スパート)!!」

 

 高速で敵に近づき、すれ違いざまに全力で斬り裂く必殺技。

 その一撃で狙ったのは――

 

『!? 貴様、胴部を!?』

「いい加減鬱陶しい。動きを止めさせてもらう」

 

 地面から生えていた胴の部分を、真っ二つに地面から切り離していた。

 地面に突き刺さっていた巨岩の拳も同時に斬り裂くあたり、ダズ・ボーネスの仕事に抜かりはない。

 

 宙に浮く形になった残る巨岩は、形を変化させるがそれだけだ。

 周囲の壁や残骸はピクリとも動かない。

 

「やはりそうか。岩石と密着していない状況だと、操れるのはそこ止まりなのだな」

『それでもこの質量だ! さぁどうする!! 鋼刃!!』

 

 斬撃の鋭さは新世界でも一級品のモノだった。

 大きく斬り飛ばされた巨体が再び地に着くまでには時間があるが、同時にそれだけとも言える。

 

「どうする……か」

 

 既に鋼化をダズ・ボーネスは解いていた。

 宙に残る岩石をまとめあげ、巨大な棘だらけの球体と化して押しつぶそうとする(ピーカ)を見上げて、

 

「別に、どうも」

 

 と呟く。

 

『何!!?』

 

 それと同時に、ダズを取り囲むように、その地面の下から大量の半透明の何かが沸き上がって来る。

 

――ホロホロホロホロホロホロホロ!!!!!

 

 ダズにとっても聞き慣れた笑い声と共に。

 

『!? ゴースト――』

『質量任せの能力頼り! 覇気を流そうにも余りにデカいデカブツ中のデカブツ! だったらよぉ……!!』

 

 自由な男の介入によってフリーとなった、ゴーストプリンセスが降臨していた。

 

 いつの間にか現れ宙に漂っている彼女は、その名に恥じぬゴーストの大軍を率いて巨体の中へと忍び込ませる。

 

『一気に纏ってるもん吹き飛ばしゃあ剥き出しのお前が現れるって寸法だよなぁ!!? ラップ!!!!』

 

 アラバスタ宮殿そのものを弾き飛ばすような轟音が鳴り響く。

 圧殺しようとしていた棘だらけの球体は()端微塵(ぱみじん)となり、もはや影も形もない。

 

「……お前にしては派手に吹き飛ばしたな。王女がいるとは思わなかったのか」

『お前が真正面からやり合ってる時点でここにいるはずねぇよ。つーか、ミホークの側にガキの姿があったしソレだろ。多分』

「……重要人物の顔くらい覚えておけ」

『いや、そもそもこの砂嵐の中じゃ無理があるだろう』

 

 

 

『貴様らぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!』

 

 

 

 もはや戦闘は終わったとばかりの様子を見せている二人に対して、宙から人影が飛び出す。

 

『終わったとでも思ったのか、鋼刃! ゴーストプリンセス!』

 

 全身に覇気を纏わせた巨漢。

 先ほどまでの巨体はなくとも、個人の技量でも十分に戦える『海賊』の一人。

 

『……って言ってるぞ、ダズ』

「まぁ、致し方ない。とはいえ……岩石人間」

 

 

 

「黒猫を相手にして無防備に宙に飛び出したのは愚策だったな」

 

 

 

 海賊(ピーカ)にとって、脅威と言えるのは目の前の二人。

 ゴーストプリンセスと鋼刃。

 まごうことなき黒猫の要が、無防備に並んで立っている。

 このどちらかを落とせば、戦果を上げたと言う事が出来る。

 

 海賊(ピーカ)はそう判断して二人――ダズ・ボーネスに襲い掛かろうと拳に覇気を込め、

 

 

――タァ………ンッ!!

 

 

「がはっ!!?」

 

 次の瞬間には、その身体に大きな穴が開いていた。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 アラバスタ王宮外壁の中で、無事だった一角に残っている見張り塔。

 その最も高い場所――見張りのための一室のその更に上の屋根部分に、フードを被って砂嵐を防いでいる女が、成果を見届けて覗き込んでいたライフルから一度目を放す。

 

「やれやれ、とりあえず親衛隊としての仕事はキチンとこなせたかな」

 

 フードを外した髪の短い女性――黒猫海賊団親衛隊で屈指の狙撃手(スナイパー)であるキャザリーがホッと一息吐いて、先ほどまで向き合っていた怪物達の群れに再び目を向ける。

 

「……怪物達から感じる狂気が薄れている」

 

 弾丸を込めて、遠くの群れに狙いを付ける。

 夜風が強く、そして気温が低いために空気密度が高まり、正確な狙撃が難しいこの戦場で、彼女は未だ無駄弾を一発も出していなかった。

 

「総督君か、あるいは他の誰かがやってくれたかな?」

 

 アラバスタの兵士達の中でも精鋭らしき集団が隊列を組んで必死に押しとどめ、他の兵士が必死に矢や銃弾を叩き込んで動きを抑えている大物の額に――正確には風や気温を考慮し、そこに当たるだろう場所に狙いを付けて、銃弾に覇気を流し込んで……引き金を引く。

 

 次の瞬間、ライフルスコープの向こう側で凶悪そうな形相の怪物の額に穴が開き、その場に崩れ落ちていた。

 

「そろそろ締め、かな」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「ぐ……はぁ……っ……!」

 

『黒猫』にとびかかろうとしていたその海賊は、逆に黒猫の爪によって切り裂かれていた。

 重傷を負い、覇気はおろか力を入れる事も叶わず地面に叩きつけられた巨漢を、ダズとペローナは見下ろしていた。

 

『あ~あ~……バカスカ暴れて見晴らし良くなってる所で飛び出すから』

 

 ペローナは呆れた口調でそう言うが、その弾丸が飛んで来た先を見てダズは小さく苦笑する。

 

 確かにアチコチがボロボロであったが王宮の内装やその残骸は未だに健在であり、空間が広くなったとはいえ密閉されたままだった。

 にも関わらず弾丸が飛んで来た――キャザリーがいる方向には、綺麗に弾丸が通るように丸い穴が開いている。

 

 何層もある壁や残骸のそれぞれに。

 

 まるで、爆発で無理やりこじ開けたような穴がだ。

 

(最初の大爆発の時点で、先んじて射線を空けていたのか。道理で妙に俺と並んで突っ立っていたわけだ)

 

 狙いを集中させることで、あの爆発で仕留めきれなかった場合の敵の動きを誘導したのだろう。

 

『まさか海賊が騙し討ちなんて卑怯だとか言い出さねぇだろうな』

「言えば恥だろう」

 

 そしてダズ・ボーネスは、戦場だった一角を軽く睨んで、

 

「おい」

 

 そこにいる何者かへ、声をかける。

 

「連れていくならさっさとしろ」

 

 その言葉に、ペローナは意外そうな顔をしながら差していた日傘を畳んで剣のように構える。

 

 気配は未だ動かない。

 だがそこにいると確信しているダズは、にも関わらず背を向けて立ち去る。

 ペローナも怪訝な顔をしながら、それに続いて背を向ける。

 

 水音のような――あるいはプールで泳ぐような音がしたのはその時だ。

 王宮であるがために水道は通っているが、それでも破壊されたために碌に機能していないハズのここで、バシャバシャと水を掻き分けるような音がする。

 

 ペローナが気になって振り返ったその時には、この王宮を散々荒らしまわった巨漢の姿は、もうどこにもなかった。

 

『……よかったのか?』

「潜伏に特化した敵だ。奴を確保して警戒を続けるのは、この後の掃討や――最悪連合軍の後始末や復興中にまでリスクを抱え込むことになる。ならばさっさと撤退してもらった方が管理が楽だ」

『それでまた襲ってきた時にはどうするんだよ』

「決まっている」

 

 

 

「蹴散らすのみだ」

『ま、そりゃそうか』

 

 

「行くぞ。ミホークらと合流し、残敵を掃討する」

『OK』

 

 

「ついでにミホークになぜここにいるのか問い詰めて、キャプテンに説明する時の想定を考えておくぞ」

『…………クロの奴、また胃痛でぶっ倒れるんじゃねぇだろうな……』

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