とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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192:金の危機、物の危機。併せて深刻な経済の危機

「おい、クロ」

 

 はい、クロコダイル君。

 

交換比率(そいつ)は……爆弾にならねぇか?」

「……その意見はまぁ、至極真っ当な物なんだけどさ。でも、政府に対応するために交渉の準備だけはしておく必要がある」

 

 多分、ここにいるほとんどの人間は理解しているだろうが……。

 

「まず、大前提として認識を共有しておく。今現在、俺達は勢力下での戦時避難通貨としてCat(キャット)を運用。これを偉大なる航路(グランドライン)傘下、並びに西海諸島連合加盟国内での取引に使用している」

 

 俺の言葉に、全員が頷く。

 一応ベリーも回収してはいるけど、既に商取引のほとんどはCatに移行している。

 

 少なくとも、勢力圏内部での取引は。

 

 軍事拠点――正確には軍事教育拠点となっているサボテン島ことウイスキーピーク基地なんかはCat95%だ。

 残る5%は、時折初手でこっちを目指す海賊や冒険者相手の売買や回収品となっている。

 

 貨幣価値としては……外食での計算になるが、一回の食事のおおよそが10Catから20Cat。50も払えば牛肉を腹いっぱい食えるくらいで今のところは安定している。

 

「だが、これはあくまでエリア通貨。通貨という価値そのものではCatは極めて脆弱だ」

 

 その言葉に、改めて全員が頷く。

 

「確かにベリーは落ち目だ。価値が暴落し、場所によっては文字通り紙以下の存在だ。……だが、それでも舐めてかかっていい相手ではない。だからこそ、繋がる用意をして塗りつぶされないよう備えなくてはならないんだ」

 

 なんだかんだで世界共通の通貨だ。

 それも現実のユーロのような代替可能な共通通貨ではなく、文字通りほぼ唯一の世界通貨。

 

 だからこそ、これだけ暴落しても万が一の時にとベリーを貯め込んでいる国は多いし、海賊船もしっかり詰め込んでいる。

 

「しかし主殿、実態としてベリーの暴落は深刻な物じゃぞ? わらわが通った加盟国でも酷い物じゃった。芋一つがどこも四桁に余裕で届いておったぞ」

 

 とはいえ、偽札の可能性があるため紙幣は嫌われ、結果使い道が限られるか札束じゃないと意味がなくなるわけだが。

 

「西の海の加盟国も、裏でCat通貨を用いた売買――というより、通貨経済圏への参入を求める声が上がっているとタキ様から通信で報告が入っています」

楽園(こっち)で見て来た見捨てられた元加盟国でも、最初に持ちかけられるのは物々交換だった」

 

 そこで経済的な実務に触った事がある幹部勢から声が上がる。

 テゾーロやクロコダイルはともかく……ハンコック、お前しっかりやってたんだな。

 

 いや、原作と違ってすごく真面目で理想的な艦隊提督であるお前だけど、そういう仕事はギャルディーノに任せっきりかと思ってた。

 

「まぁ、そう言う所があるのも間違いないんだが……」

 

 実際、見て来た限りでは酷かった。

 

 西の海を出発する頃なんて、ヤバい所ではベリーは紙幣だと銃弾防げそうな札束じゃないと役に立たないって所も珍しくないほどだった。

 

 西部劇系カートゥーンのベタな銀行強盗みたいに、鞄一杯に零れそうな程の紙幣や銅貨を詰め込むのが普通のレベルだという有り様。

 

「逆に、今現場を見ている諸君に問う。アラバスタはそこまで混乱が酷いか? 物価は恐ろしい程に高いか?」

「……ぬ」

 

 特に現場を駆け回る事になっているハンコックが、すでに町の中での売買が復活しつつある首都アルバーナや港町エルマルの様子を思い返しているのだろう。

 

 俺も現場を完全に把握できているわけではないが、襲撃により多くの者が奪われ、失ったとはいえ平静を取り戻し、かなり高額になっているとはいえ安定した売買の場が既にポツポツと出来ていると報告にある。

 

「先日我々本隊、並びに第三艦隊がやむを得ず占領したオブーレモもそうだ。確かにあの国は大勢の農奴や奴隷を用いた上での経済だったが、それでもベリーによって国は確かに回っていた」

「……つまり地域差……いや、海域差が激しい」

 

 カスタードが納得したように頷く。

 

 ……そういえばビッグマムのトットランドって領地内での売買というか取引はどうなってんだ??

 税金は魂――というか寿命だったよな。

 でも、住民間でそれは無理だし……。

 

 ……あぁ、でも魚人島編のラストであのハンプティ・ダンプティみたいな奴が船の補充に金が欲しいみたいな事言ってた覚えあるな。やっぱ基本はベリーか?

 

 今度カスタードに詳しく話を聞いてみよう。

 クラッカーと三人で酒飲む機会そこそこあるし。

 

 クラッカーはあの見た目で酒が弱いのか、ちょっと酒入れるとすぐ引っ込んじゃうけど。

 

「理由は単純。まずそういった国内の物資とベリーが激減したことが始まりだ」

「天上金か?」

「加えて、聖地復興のための大規模徴収令の影響がデカかったんだろう」

 

 リーク情報によると、俺が残した見積もりとか段階的復興計画とかの全てを結局踏みつぶして相当好き勝手やったみたいだからな。

 

「物資の提供命令が出たものの、それに応えられるだけの余力がない。無理してベリーで払ったがその直後に海運が死亡。結果、物も金も無くなり、しかも外から流れ込むはずだったそれらが断たれた」

「おまけに海賊の増加か」

「……あ。そうか、それもあるな。防衛のためには戦力が必要だから、常に軍事的な人的資源にも負担がかかり続けているのか」

 

 海賊問題すっかり忘れてた。

 ピンク鳥の件があったとはいえ、勢力圏内では中々外部の海賊からは襲われないからな。

 

 しかしこうして見ると本当に酷い。

 国を一つの生物とするなら、ほんのわずかな食料と水でずっと徹夜で活動を続けているような物だ。

 一応、運営出来ている島も珍しくはないんだが……。

 

「で、まぁ、そういった島が国内取引をどう行うのか。今のご時世、皆が皆畑を持っている訳じゃない。となれば食うためには物と物を交換する必要がある。……が」

「……物々交換は、需要と供給がその場で双方揃って初めて可能になる取引だ」

「その通り。個人間での取引において、実は物々交換とは極めて困難な物になる」

 

 アーロンが用意してくれていたホワイトボードに、大きく『麦』と書く。

 その右側に同じように……『鎌』にするか。

 

「差し出せるものが『麦』で、そいつが『鎌』が欲しいと言っても、鎌を持っている側が『麦』を欲しがらなければ意味がない」

「逆に、『鎌』側が交換に応じようとしても、『麦』の量に見合う量と質ではないと『麦』側が満足しなければ取引は成立しない」

「そう。繰り返すが、物々交換は個々人間の取引としては極めて難しい取引なんだ。調整で揉める可能性が高いし、その上取引が成立した後でも再燃する可能性がある」

「……じゃが、さっき言った通り実態は物々交換が多かったぞ、主殿。女ヶ島(にょうがしま)に辿り着くまでの間の取引は、ベリーやCatと言った通貨取引を断る所が多くあった」

 

 だろうな。

 使えない貨幣よりも現物が欲しいってのも島民にとって重い本音だろう。

 とはいえ、だ。

 

「あぁ。となると恐らく、今現在個人資産という考えはかなり薄れている。個人の力では大規模な物々交換が極めて難しいのは変わらない。これは絶対だ」

「……つまり、国がまとめて管理を?」

「いや。……まぁ、島の規模によってはあるかもしれんが、資産の共通管理なんてただでさえややこしい真似を広範囲でやればポッケナイナイやら本当の紛失、なにより取引成果の分配やらで揉めまくるに決まっている。恐らく、村規模での管理だろう」

 

 村々で資産を管理し、それぞれの過不足を埋め合うように取引をして少しでも生活を安定させる。

 場合によっては小競り合いでの奪い合いも出ているかもしれない。

 

「……そういえば我らの航海の途中、取引に応じたのは大体が立ち寄った港町の長であったな」

「思えば、第三が関わった所もそうだ。『鋼刃』、お前の所は?」

「む。俺の所は海賊被害でボロボロだったが……言われてみれば、村落ごとの発言力が妙に高かったように見える」

 

 …………。

 

 いや、出ているだろうな。

 内乱が起こっている国が出ているのはまさにそう言う事だろう。

 

 弥生時代の亜種かな?

 異聞帯? 誰かカルデア呼んできて俺の手元にダヴィンチちゃんとホームズ寄こしてくれ。

 

「そういった形でどうにか日々を凌いでいるのだろうが、この生活には問題がある」

「ああ、そもそも長続きしねぇな」

 

 クロコダイルが断言し、テゾーロが頷いている。

 

「そもそも、今の時勢じゃなにかと食料なんかが目当てにされるもんだが、交換する以前にその保存に四苦八苦してる地域なんざ腐る程見て来たし、その交換に応えられそうなモンだって大抵は消耗品だ。だろう? テゾーロ」

「ええ。物々交換が貨幣取引と違うのはそこです。取引のその瞬間、交換対象が万全の状態で揃ってなくてはならない」

「……確かに。腐りかけたパンすら有難がる今では……」

 

 そうだ、これまで貨幣での取引に慣れてた連中がいつまでも物々交換に甘んじている訳がねぇんだよ。

 どんな時でも一定の価値が担保されるからこその貨幣。

 

「そこで各国が緊急で発行した代理貨幣が定着しつつあるのが、今発生している大量の外貨だ。世界政府はこれらに対し『架空通貨発行罪』を施行し禁止しているが……」

 

 せめて政府が主導して、これらの代理通貨(トークン)を認める形で不味い事になってる国を引き留められれば良かったんだが……。

 その意思があったかどうかはともかく、第一次魚人島攻防戦からの混乱でそれを出来るだけの政治力を発揮できずじまい。

 

「民衆は今現在、とにかく安定し商取引が出来る代理通貨を求めている。確実に交換できて、かつそれを用いた更なる交換に困る事がないチケット、あるいはトークンをだ」

 

 俺がいない間の話だけど、西の海で一時期俺達の発行した『食料交換チケット』が金の代わりになってたのもそういう理由だろう。

 あの時、確実に食料を確保できるのはほぼ黒猫(ウチ)だけだったから。

 

「なぜならば、価値が安定しないという事は担保になりづらく、つまりは今の状況は借入(かりいれ)貸付(かしつけ)といった行為が大変難しいということだからだ」

「……? ようは……借金……じゃな?」

 

 ハイ。ぶっちゃけそうです。ハイ。

 でも、金の貸し借りが出来ない社会情勢って経済観点で見るとかなりしんどい……。

 

「つまり、金を一時的に増やして投資するという経済のカンフル剤をぶち込む事すら出来ないのが世界政府加盟国――特に取り残されつつある海域の今だ。生きるのに必死で新しく産業や工業、大規模な農場を開く事すら難しい」

 

 銀行が融資すら出来ないって状況だからな……。

 それどころか銀行が潰れたり、あるいは民衆の手で潰されて略奪されたりの世界になってしまったから……。

 

「借金、債務と聞くと響きは悪いがこれらは一時的に所得を増やし、経済活動の拡大に投資し循環させる立派な経済システムだ」

 

 デカい会社やら工房ほど不味いんじゃねぇかな。比較的無事な所でも。

 物価が上がって流通路が絞られた結果、予想していた必要借入額が膨れ上がって……そっちの調査もしておくか。

 

 場合によっては貴重な生産技能者やその管理者をこちら側に引き込める。

 

「ベリーを発行している世界政府直下の銀行ならば、どうでしょう? 我々の視点では今の動きがよく見えませんが、今の情勢はどう見ても資金を投入すべきタイミングのはずでは?」

「無理だろ。このアラバスタみてぇな地域ならばともかく、ベリーが紙くずになっている所はそもそも行き来が難しくなっている以上……。そもそも銀行に金がどれだけ残っているのか以前に、紙幣を刷った所で信用が右肩下がりな今じゃあ……」

「そうじゃな。ベリーは偽札被害を受けて新貨幣に移行したとはいえ、結局いたちごっこになっておると聞く」

「ならばせめて重要海域だけでも……海域の格差が広がるだけですね」

「うむ……」

 

 話せば話すほど皆顔がシオシオに(しな)びれている。

 

 敵が安定してないってのは一見いい事だけど、世界政府クラスの大規模勢力が回復の兆しすら見せてくれないとこっちの負担も半端ない。

 

 ……ピンシャー卿やセンゴクさんに預けた計画ならば、あの時点で経済・物流的に危ういイエローゾーンのリストアップと、開示された情報から計算した公的資金の順次投下とその見積もりが入っていたハズだけど……アレも実行難しいかな……。

 

 ……難しいか。

 よくよく考えなくてもレッドポート封鎖作戦で、俺達が海軍と政府のリソースを相当削っちゃったもんね。

 

「で、本題はここから。今テゾーロが言った通り、海域による格差は広がりつつある」

「広がるってより、下がひたすら下がり続けているってのが正解だろう」

「そしてそれに足を取られて大国もまた陰りが出ておる」

 

 うん。

 アラバスタはマジで凄いと思うわ。

 この状況下での軍事侵攻に天災レベルの怪物被害。

 

 これだけ荒らされて色んなもん失って先が見えないのに、まだ民衆が平静を保てている。

 普段からどれだけ善政を敷いて信頼を勝ち取っていたのか。

 

(まつりごと)の能力は、俺やピンシャー卿よりも上か……さすが原作最高クラスの王様)

 

「この国は恐ろしく安定しているが、これは例外中の例外。他は多少ピンキリな部分はあるだろうがおおよそ酷いだろう」

 

 問題は、その優秀さが厄介なモン引き寄せるんだよな。

 

「今回、海軍の動きは鈍かった。恐らく担当していたのがいわゆる政府派で、かつアラバスタに対し何かしらの思う所があるのだろうが、今回襲われ被害が出た事で海軍は駐屯の大義名分を得ただろう」

「何もしておらぬのにか?」

 

 ハンコックは例の影を取られた海兵の救助活動と引き渡しによって、センゴク派の人間とそれなりに顔通しをしている。

 ゆえに今の海軍内部の生の情報を持っており、前線に出ず消耗を避けながら旨い所だけ持っていこうとする政府派に嫌悪感があるのだろう。

 

「実際、防衛の兵力が足りていないのは事実だ」

「ふん。碌な兵士が政府派とやらにおれば良いがの」

 

 めっちゃくちゃ不機嫌そう。

 

 もしロビンがあそこにいたら気晴らしで、発火しかねないレベルで撫でまわされていたのは間違いない。

 

「アラバスタに干渉するにはちょうどいい。楽園側でもっとも栄えているここへの干渉権は何としても握りたいだろうし、アラバスタが改めて世界政府の『加盟国』であることを知らしめる機会にもなる」

「――ちっ、いい御身分だな。こっちはテメェらに気を使って支援物資の投入一つに気を揉んでいるってのに」

 

 クロコダイル君、不機嫌そうなその顔に滅茶苦茶深い隈が目立つけど大丈夫?

 西部の測量調査と並行しての救助活動で疲れてるもんね……。

 

「そうなれば本格的に政府の手が入るだろう。人員が投下され、物資が投下され、まぁともかくここら一帯は落ち着く」

「つまり、そこで政府が金に関して干渉してくるから比率を決めておこうと?」

「多分」

「ハッ、散々負けておいてウチから毟り取ろうってか」

「いや。……多分だけど」

 

 

「助けを求めてくると思う」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「それは……今の世界政府の苦境を救えと、そう言ってくるというのか? 主殿」

「うんにゃ。もっと即物的なモンで、しかもどうしようもないもの」

 

 ロビンがミホーク印の緑茶を淹れて回っている。

 全員限界だと感じたのかもしれんがクロコダイル君は変わらず白湯だ。

 

 ……あれは相当胃をやってるな。

 補給の医薬品の中に胃薬あったっけか……。

 

「現在各海域の行き来が難しく、それが深刻な格差の引き金になっている」

 

 全員が頷く。

 

「そして政府は事態に対処しているアピールをするためにも、並行してアラバスタになんらかの目的で干渉するために恐らくここを拠点にして事態を解決しようとするだろう」

 

 またもや頷く。

 

 クロコダイル君が「碌なことはしねぇんだろうな」と呟き、ハンコックが「じゃろうな」と肯定している。

 もはや政府への嫌悪感しか見えなくて笑えない。

 

 頼むから実際に接触する時は上手く隠してくれ。

 

「そうなればアラバスタは一種の最前線になる。船の往来は増え、政府はそれを守るために戦力を置き、徐々に各地の統制を取り戻そうとするだろう」

 

 まず間違いなく、向こう側から接触がある。

 

「で、海域の航行がある程度保障されたらどうなるか」

 

 あ、と。

 テゾーロが小さく息を呑み、そして頭が痛そうに顔を歪める。

 

 …………。

 

 御免、最初からそうだったね。

 

「……周辺加盟国は、全ての面においてアラバスタを頼りにする事になる」

「主殿、全てというのは」

「全てさ。政府の――いわば代官所みたいなものが出来でもしたら尚更」

 

 資金援助から人足の要求。おそらく駐屯するだろう海軍の派兵要請。

 ここら辺まではまぁ政府が対応することになるだろうが――

 

「なによりまず、真っ先に物資を要求――いや、取引しようとするだろうな。なにせ、ここアラバスタはベリー相場が『()()』しているんだから」

「っ、そうか!」

 

 バンッ! と、ハンコックはテーブルを叩く。

 

「今のままでは、アラバスタから物が流れた上であぶく銭が逆流するということか!!」

 

 多分。

 いや高い確率でそうなるだろう。

 

「……まぁ、アラバスタサイドも当然策を練るとは思う。諸外国からの購入に税をかけるなり、量に制限をかけるなりだ。だが……」

「国と国の取り決めじゃ。初動からそう上手くはいかぬな」

「……………………ちっ」

 

 世界政府がアラバスタをどう見ているか分からんが、少なくとも今すぐ使い潰す事はないだろう。

 でなければ、世界会議(レヴェリー)に連続で呼ぶことはない。

 となれば、恐らくこの近海の加盟国に対してもある程度いい顔をしようとするハズだ。

 

「それでも物が足りずに国内の物価が高騰している国は、まず間違いなく海が安定次第この国に応援を要請する」

「そしてアラバスタも物が減れば価値は高くなる。今まで安定していたこの国が、一気に苦しくなるのじゃな」

「要請に馬鹿正直に応える必要はないが……関係の悪化はどうしても頭をよぎる。しかも非加盟国に襲われたばかり」

「……この国を治める者であれば、孤立こそを最も恐れるであろう。しかし、周囲を助ければ物価の上昇、備蓄の喪失からの更なる消費……下手すればアラバスタがまた違う火薬庫になりかねぬ」

 

 ……実際、アラバスタが民を飢えさせるほど物を提供することはないだろう。

 ここら辺は線引きが難しいが、仮に海軍が全面的に協力したところで帆船の輸送力には限界がある。

 そして見た所アラバスタの政務官は優秀だ。政府の無理難題を流す事は可能だろう。

 となると、政府が常にここへ輸送し周辺国へのハブ港として運用するだろうが……。

 

 

「それを解消するには、世界政府が本格的に各国への支援をする必要がある」

「つまり……金と物資が溶けるのじゃな?」

 

 全体的に何もかもが不足している事態は変わらない。

 

「ベリーの価値が暴落している所に向けて……そうか」

 

 クロコダイルが、今日初めて葉巻をくわえて火を付ける。

 

「ベリーという通貨に混乱が起こるのは、これからなんだな?」

「そう見ている。少なくとも、これまで混乱をどうにか防げていた所にこそ相応の負担がかかるだろう」

 

 本部戦力とは休戦協定を非公式に結んでいる。

 政府はどこまで気付いているかは不明だが、それでも海軍を今排除することは出来ない。

 

「……負担が重ければ重い程、余所から徴収しようとするじゃろうな」

「だがハンコック、政府に黒猫を相手に戦う体力があるか?」

「油断は出来ぬぞ、クロコダイル。戦とは正面から起こるものばかりではあるまい」

 

 実際、どういう手で来るか。

 偉大なる航路(グランドライン)で傘下に置いた国に密かに接触し、横流しを誘発させるくらいは普通にやりかねん。

 

「だから、先に条件を整え戸口を開く必要がある。向こうが姑息な手で出る前に『我らには要請があれば取引する用意がある』と喧伝しなければならない」

「……それが通貨の交換比率か」

「万が一要請があった際に、交渉を素早くまとめるために……じゃな?」

 

 そう。

 別に、今ここですぐに決める必要はない。

 

 ただ――

 

「政府は現在、全てにおいて後手に回っている。だからこそ、何を起こしてもいいように備える必要がある」

「……国王――コブラだったか? が帰って来る際に同行しているだろう政府役人は、まずは場を固めようとするはず。……さすがにいきなりは切り出さねぇだろう。そもそも周辺国の実態が把握できていねぇ」

「アラバスタに到着して……挨拶位はともかく政府が。まずは対応できる海軍の派兵、駐屯までで早くても半月。そこから周辺加盟国の把握……。テゾーロ、お主はどう思う?」

「我らに堂々と接触するだけの体制を政府が整えるのに、万全を期すなら最低でも三か月は必要でしょうが、向こうも急ぐでしょう」

「……二月と見て動くか。猶予はあるが余裕がないのう」

 

 そうだ、余裕がない。

 

 だけど、恐らく切り出されるだろう物資の提供要請から引っ張って通貨交換比率に何かしらの協定を結ぶことが出来れば、それは世界政府がCat経済圏を認める事になる。

 

 西の海の頃からジリジリと積み立てて来た大義名分に、より強い補強がかかる。

 

「とりあえず、コレが最大の懸念だという事を認識してくれ。本来は増え続ける観戦武官の同行要請やウィスキーピークの基地機能移転など、話し合う問題が山積みなんだが、まずはこの問題に対して何が必要なのか。調査か、資料か、あるいは必要な人材、人脈か。それを詰めていこうと思う」

 

 そして全員の体力にも余裕がない。

 とりあえず一旦ロビンは下げよう。寝かさなきゃ。

 

 あとミホークは……もうこのままペローナと一緒に作業に入ってくれ。

 お前は鍬なり鋤なり振ってた方が役に立つ。

 

 ……お目付け役はマキシンでいいか。

 よし、頼むぞマキシン。

 

 …………なぜ更に死にそうな顔に!!?

 

 仕方ない。代理指名! ドール!!

 

 …………。

 

 お前もかい!!

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