とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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196:茶番から始まる熱き闘い

「良く生きておったな海賊! よくアラバスタを守ってくれたな海賊! お前ならやると思っておったぞ海賊!」

「……まぁ、そちらもお元気そうで何よりです。キムリック・ピンシャー卿」

 

 お元気すぎて本当に何よりである。

 殺意や敵意がなかったとはいえ、アミスの警戒や俺の見聞色の一瞬の隙を抜いてドロップキックかますとかさすがすぎる。

 

 アミス、ステイ。

 この人ホントに大丈夫だから。

 

 政府どころかこの世界で最も信頼できる人間リストの最上位、五本の指に入るから。

 

「うむ、これで後顧の憂いは無くなった! 魚人島攻防戦やその後の天竜人の返還の詳細を見て問題はないとは知っておったが、お前が政府への復讐ではなくあくまで事態の解決に終始している事はこの地獄のような時勢で唯一の救いじゃ!!」

「ありがとうございます、ピンシャー卿。ここは人目もありますので、一度アラバスタ王宮の方へ」

 

 ようやく来た海軍の増援を出迎えに出た所での奇襲である。

 海兵達は呆気に取られているし、指揮取ってるモモンガ准将はどうしていいか分からず唖然としている。

 

「さぁ、時は来た! 後は禍根を断つだけじゃ! 腐れ切った聖地が燃え上がる日はすぐそこよぉ!!」

「……ピンシャー卿、どうか落ち着いて――」

「儂とお前でこれから天竜人共を吊るす毎日の始まりじゃああああああ!!!!」

「落ち着け環境部門事務次官」

 

 モモンガさん? モモンガさん!!!?

 耳を塞いで大声上げろなんて号令されても兵士さん達困るってば!!!

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「大体、あんなことを堂々と衆目の前で叫ぶなんて貴方らしくない」

「お前が聖地を去ってから色々あってな。あの程度でどうこうなるなら疾うに儂は始末されておるわい」

 

 アラバスタ王宮の一室。本来ならば王宮警備隊の会議室として使われている場所に主要人物が揃っている。

 本来ならばキチンとした応接室で待ち構えるべき立場であるアラバスタ国王のコブラ陛下。

 その側近兼護衛としてイガラムらしき人物と文官二名。

 

 海軍よりこのアラバスタ海域での活動の責任者として派遣されたモモンガ准将とその部下二名。

 

 環境部門事務次官――いや、元環境部門事務次官キムリック・ピンシャー卿。

 なんでも緊急戦時対策委員会とやらの一員に任命されたけど実質閑職に回されていたらしい。

 

 そして我ら黒猫からは総督である俺にテゾーロ、そしてクロコダイルが参加している。

 

 ダズは占領した国家の管理と立て直しを。

 今日も一日奴隷や下層民衆を保護して悪代官の不正の証拠掴んで吊るして貯め込んだ財産を回収して一部を民衆に還元する仕事で忙しいのだろう。

 

 ハンコックはサンドラ河架橋計画のための測量と、場所の選定が決定次第ギャルディーノや魚人の能力を使って土台部分の水抜きを始めるために資材の搬入と保管、いざ作業が始まった時の運送ルートの敷設などの準備に現場や関係者の間を走り回っている。

 

 ロビンはペローナとタッグを組んで西部地域のデカブツの探索。

 

 ミホークは全力で農作業をやりながら、全力で暴れられる場所の整備中。

 

 …………うん、あの……プルトンがね……古代兵器がね。

 

 ……すごく……すっっっっごく頭が痛くなる場所にある事が判明したから……。

 

 しばらくの間ミホークとの斬り合いを欠かすわけにいかなくなったし、何ならレイリーに手紙送ってまた来てもらうか。

 今の俺にはデスマッチロードの毎日が必要だ。

 

 たまに手紙が来るけど、例のシャッキーさんとやらが開いているぼったくりバーで羽を伸ばしているそうだし……。

 さっさとシャボンディに来いとか気楽に書いてくるけどその余裕がないんだよなぁ!!!

 

 単艦なら行けなくもないけど政府のお膝元に俺が行ったら戦争待ったなしじゃい!

 組織が大きくなっちゃったから仕方ないんだよ!!

 

 いやホント! 暇ならこっち来てくれ!!

 こっち来て俺と割と本気の殺し合いをしてくれ!!

 なんならシャッキーさん連れてきていいから!!!

 

「では、政府からの支援は期待して良いのですな?」

「帳簿の上ではな。だが期待するな。もはや誰が味方で誰が敵か、見分けがつかん」

 

 ここだとばかりに、ウチの町で用意したキンッキンに冷やした水を飲んでピンシャー卿も落ち着いたようだ。

 

「政府の船を襲う船が、実は天竜人の影響下にある物だったという事があってもおかしくない」

「そこまでなんですか!?」

「確証はない。……と、いうことになっているが……」

 

 樽式のウォーターサーバーを設置させているのだが、それを使ってピンシャー卿は二杯目を満たしてすぐさまガブ飲みする。

 この砂漠の地では贅沢だし、なによりそれ運んだの黒猫なんでその……不用心というか……いいんです?

 

「天竜人は今、家同士での争いになっておる。あんな高地に居を構えておるせいで食料、水は運ばれた物に依存せざるを得ないし、その上で奴らのステータスである奴隷も相変わらず所望しておる」

「では、その徴収のために?」

 

 うっそだろ。

 なんで勝手に自滅しようとしているんだお前らは。

 

「天竜人を未だに絶対とする者にとって、奴らに雇われた以上成果を絶対に出さねばならぬ。その焦りじゃろうな」

「……不謹慎ではありますが、非加盟国からの略奪は?」

「仔細は不明だ。奪うだけの物も人もすでにないのか、あるいは団結に阻まれたか。ともあれ、所属不明船による政府関係の船や輸送船への襲撃が激増しているのは間違いない。海軍も輸送船が狙われる事が普通になり、とうとう全てを軍艦で行うようになったわ」

 

 …………黒……かなぁ…………。

 

 モモンガ准将に目配せすると渋々だが小さく頷いている。

 クロコダイルを見ると、最近お決まりとなった「ウッソだろお前ら」みたいな顔で絶句している。

 

 テゾーロも右に同じく。

 

 それどころかコブラ王やその側近、海軍のお付きの面々もだ。

 

「私掠艦隊の成果では不十分だと?」

「私掠艦隊がこれ位の奴隷を集め、これだけの食料をかき集めたと報が入り、ぬか喜びするじゃろう? そしてその運搬中に被害を受けて、聖地に届くのは報告に比べて微々たる物。分かるな? クロ」

 

 お、おう。

 なるほど、そういうことか。

 

「疑心暗鬼、ですか。海軍や私掠艦隊が横流しをしているか……あるいは、他の『家』が分捕っているのではないかと」

「そうだ。ゆえに天竜人は余所を介さぬ、自前の駒を揃えようとしているのじゃ」

 

 げ、ゲロ面倒臭ぇ!

 お前ら海を碌に知らないんだから、危険度とか安全にたどり着く確率とか――そもそも航海中にクルーや運搬している奴隷を維持するための消費量すらよくわかってねぇだろ!!

 

 聖地にいる間何回も説明して何回も説得したのに次の日には忘れて喚き出す鳥頭だったからな!!!

 

 お前らに海洋戦力なんて運用はおろか維持管理すら絶っっっっっ対に無理だから大人しくしてくれ!!

 

「ピンシャー卿」

「む。なんでしょう、コブラ陛下」

「そこまで把握していて、政府は対策を打たないのか?」

「……打てないのです、陛下。なぜならば、我ら政府の文官こそ天竜人に最も疑われている一派ですので」

 

 なんでや。

 今一番手綱を握る必要があるってのは分からんでもないが……。

 

「政府――いえ、政府というその機構そのものも二つに割れてしまっております。この大乱の中で組織を、その手法に善悪はあれど元に戻そうとする一派と、天竜人に勅命を受けてその命を愚直に受ける一派に」

 

 ……おぉう。

 

「……なる、ほど」

 

 コブラ王がまたも絶句し、どうにか深いため息を零す事に成功したのと同時に、テゾーロが苦虫を噛み潰した顔で口を開く。

 

「つまり、海軍と同じことが政府内部にも起こっているのですね?」

 

 ずっと無言を貫いているモモンガさんまで辛そうにしている。

 あんのカス共、マジで全てを崩壊させやがったな。

 

 しかしそうか……武力を持ってないからこそ突き上げが酷いかもしれんな。

 

「うむ。元より天竜人は、よほどのことがない限り口を出す事はなかったために回っておったのだが……この非常時に個人や家を守るために介入し、結果曖昧にしていた命令系統がグチャグチャになった。こうなれば文官も、政府の一員ではなく『どこの家に付く者か』と常に疑問視される存在となる」

 

 ……モモンガさん達海兵組の様子を見ると、マジで天竜人の口出しが酷いんだろうな。

 ついでに、それに流され天竜人の私兵になった連中まで出たとなれば綱紀粛正なんてあっさり吹き飛ぶ。

 

 それが、政府組織の中でも起こっているとなれば……。

 

(多分、五老星ももはや情勢が理解出来ていない。提出される書類や報告書の中に、正しい物がほとんどない。いや、どこから正しくてどこから間違っているのかの判別が難しい物だらけ、か)

 

 

「ピンシャー卿、五老星が手綱を握れていないのは何故です?」

「ハッキリとは分からぬ。ただ、五老星はどちらかと言えば一度戦線を縮小させたいようだが……」

 

 うん、それが普通だよなぁ。

 それを加速させるために起こしたのがレッドポート封鎖作戦だった。

 

 想定よりも戦線縮小でゴタ付いて取り残される海兵がポロポロ出て回収・保護と再訓練の仕事がクッソ増えてるけど。

 

「だが? なにか他の要因が?」

「うむ。……加盟国の王族が権益を手放そうとせぬ」

 

 ……………………。

 

 …………あ…………れ…………?

 

 てっきり、単純に階級差を付けるのは加盟国内部の引き締めを兼ねて今後()()()に付く王家とそれ以外の『剪定』を始めるためと予想して実際その通りっぽかったんだけど……あれってひょっとして……。

 

「ピンシャー卿。私は近々、加盟国内部に階級差が付けられると読んでいたのですが、もしや?」

「……まぁ、お前ならば読み切った所で不思議はないか。うむ、政府なりの下衆い目論見もあったのだろうが、加盟国の足並みを揃えさせるにはやむを得ないとなったのよ。私も渋々だが承認した」

 

 うぼえ゛ええぇぇぇぇ!!!!!!!!

 

 いかん、これ世界政府さん俺らの分析以上に滅茶苦茶追い詰められてるじゃねぇか!!

 略奪経済やってる場合じゃ……ん……いや、とにかく並行して足元見直さないと本当に全部飛んじゃう!!

 

 これまで政府の旗に靡いていればいいと適当に管理していた加盟国に足元見られてとんでもねぇことになってる!!

 

 俺と仲の良いと知られている反骨精神モリモリのピンシャー卿をよくアラバスタに派遣したなと思ったら、そうでもしないとホントに全てが地獄になるからだな!!?

 

「クロ。いや、サー・クロ殿」

 

 陛下! 敬称なんて海賊の俺には不要ですから!!!

 

「……はっ」

「先に頼んだ、サンドラ河架橋の話だが」

「ええ」

「我らアラバスタも可能な限りの人足と物資を用意する。可能な限り頑強な、()()()()()()()()()()()()頑強な物を築いてもらいたい」

「はっ。必ず、陛下のご期待に沿えるものを用意してみせましょう」

「うむ。代価として、貴公らから要望のあった西部の権益に関して()()()()()()()が口を挟むことはない」

「海賊の身にもったいなきご配慮、真に有難く」

 

 コブラ王もさすがに『黒猫』寄りの上での両面の構えで来るか。

 

 基本的に俺達黒猫が作る新経済圏にガッツリ関わり、また俺達がこのサンディ島で勝手に儲ける事を許可すると。

 

 だからその分、今の段階ではまだ世界政府側への()()()を残す事を許してくれという事だろう。

 

 ぶっちゃけそれは問題ない。

 状勢の見通しがマジで全く分からない以上下手に「こっちに付け」と言っても追い詰めるだけだし、加盟国側で善政を維持した以上袂を別つとまで言えば運営側を納得させたとしても国民が混乱する。

 

(……だが不味いな、世界が変わるという雰囲気は余計な熱狂を生みかねん。アラバスタは善政を敷いて落ち着いているが、それでも当てられる者が出る可能性はある)

 

 国民は当然、商人や軍閥。……最悪、貴族や身内の中にも。

 

「モモンガ准将。海軍の見解をお聞かせ願いたい」

 

 となると、その重しになるのは武力を持つ上で政府側の存在である海軍しかねぇ。

 俺らが主導しようとしたら訳わからん革命の追い風になりかねん。

 

 無限増殖する『虎の威を借る狐』とか対処に困る。

 それだけは防がないと。

 

「海軍としてはとにかくサンディ島に根を張り、四皇の一角である『黒猫』を見張れとしか受けておりません」

「それは、どこからの指示でしょうか」

「センゴク元帥より、厳命されております」

 

 ……()()()()サンディ島に根を張り、か。

 

 ………………。

 

 んんんんんんんん!!!!?????

 

 四皇!!!!?

 

 俺が!? ふざけんな! 新世界に縄張りなんて――あ…………いや、確認されるような縄張りはまだねぇぞ!!

 

「あの……准将」

「なんでしょう」

「……私が四皇というのは冗談ですか?」

「は?」

「えっ」

「……失礼いたしました。いいえ、冗談ではありません。白ひげ、ビッグマム、そして百獣に並ぶ者として。……いえ、正確には居所の不明な金獅子も入りますので、いわば五人目の四皇でしょうか」

 

 いらねぇよそんなギャグみたいな称号!!

 

 絶対そこに並べようと言ったの政府だろ!

 海賊の一括りにして名を上げさせることで『黒猫』を賊としてラベリングする印象操作工作!

 

 ピンシャー卿がちょっとブチ切れてるじゃん「余計な事を……!!」って!

 

 くそ、こうなったらますますアラバスタでの活動が重要になってきやがる!

 

(とにかく海軍本部とは非公式に休戦を結んでいる以上、見せかけの小競り合いも瑕になりかねん。暴走したどっかの工作員のせいで泥沼に引き摺られるなんざ最悪の中の最悪だ。今こそ正しく安全第一!)

 

「……サンドラ河を横断する橋が完成した折には、その両端にそれぞれ――アラバスタと我ら黒猫それぞれを中心とした街が出来る事でしょう」

「うむ、そうだな。交易の面でも当然だが防衛面からも、そうせざるを得まい」

「サンドラ河程の大河に極めて近い所となれば、我ら海軍も詰めることになるでしょう」

 

 よかった、モモンガさんはやっぱりキチンと仕事をする人だ。

 ここで『近隣の基地に詰めて監視に徹します』とか言われたら引き摺り出すための説得に時間がかかってた。

 

「はい。海軍本部の目があるというのは助かります。もはや世界中の混乱の浸食は避けられない状況。だからこそ、近隣の軍事・経済的な楔になりうるこのサンディ島は、万全の体制を敷かねばなりません」

 

 …………海賊を組み込んだ万全の体制?

 

 言っててなんか頭がおかしくなりそう……あぁ、でも原作の七武海とかそうか。

 

 じゃあ問題ないな!

 

 よろしくないけどヨシ!

 

「それは単に手を取り合うというだけではなく、()()()()からのくだらぬ工作や横やりに備えるという意味です」

 

 コブラ王、ピンシャー卿が共に強く頷き、モモンガさんも頷きはしないが顔には納得の色がある。

 

「となると問題は、海軍の存在になります」

「我らが邪魔ですか?」

「いいえ、今サンディ島は海軍本部の常駐を必要としています。ですが――」

「モモンガ准将、お主らのような『まともな軍隊』は今どこも喉から手が出る程欲しい存在なんじゃ」

「……そういうことです。モモンガ殿がここを誠実に守り続けていれば、いずれ戦力を割いてくれと陳情があるでしょう」

 

 モモンガさんは、言葉そのものには納得しているがソレの何が悪いのかという顔をしている。

 

「……今後の復興を鑑みても、これから先アラバスタとその周囲は軍・政両方の緩衝地帯になります。つまり、デリケートな所に」

「であれば、本部や他の支部が戦力を割くのはいいとして、ここの戦力は軽々と動いてはならぬのじゃ」

 

 ここに配備される戦力は安定の象徴になる。

 というかなってもらわないと困る。

 

 こっちはクロコダイルという砂漠での絶対戦力を置いた上で数は調整して、ここの海域での『黒猫』の本部はあくまで例の硫黄島とオブーレモという形をとる。

 

 加盟国相手に『黒猫』が防衛戦力ガッツリ投入するのは、アラバスタで相応に稼いでからじゃないと大義名分としておかしいからね。

 どうしてもここには海軍にどっしり構えてもらわないといけない。

 

「つまりモモンガ准将、不満かもしれませんが貴官らの部隊はアラバスタの安定を示す不動の見せ札。いわば『文鎮』であるのが一番効率的なのです」

「理解致しました。我らが動かぬ事こそ、この海域の安定につながると」

 

 うん。

 まぁ、海賊対策や海域の討伐は当然やってもらうし、その分訓練もガッツリ積んでもらわないと困るんだけどこの人ならば問題あるまい。

 

 一番の問題は――

 

「はい。ですが問題は、そういった役割を察せずに戦力を割いたり、横やりや余計な陳情を入れかねない連中がいる事です」

「クロ、やはり海賊らしく貴様一度聖地を焼いてこい。徹底的に」

 

 ピンシャー卿、お口にチャック。

 アンタあそこの復興に俺がどんだけ走り回ったか知ってるでしょうが。

 

 気持ちは分かるしあの時とは情勢変わったし、一応殴りこむつもりではあるけど今じゃないんすよ。

 

 コブラ王も困った顔してるでしょうが。

 

「真面目に言っておるのじゃぞ? お前が関わったプルミング家の数名は大分変わったようじゃが、だからこそあの地は厳しいじゃろう。さっさと焼き払って連れ去ってやらぬか。ロエニー宮やルセリナ宮など、今でもお前の写真を肌身離さず持っておるのじゃぞ?」

「いえ、そう申されましても……。一応今後の推移の予測と、逃げ出すタイミングはお伝えしているので最悪の事態は避けられるハズです」

 

 なんだかんだ信頼してくれるようになったあの一家は出来るだけ助けてやりたいしなぁ。

 ルセリナ宮とか、少なくとも今は全く罪ないし。

 

「……お前がそのような策を数年前に用意していたという事は、やはり政府はもうイカンか」

「あの時すでに天竜人の家と家の間に、根深い対立の火種がある事は把握しておりましたので」

 

 そして聖地を困窮させるための策を俺とシキが打ったんだから、そうなるのは目に見えていたんだよなぁ。

 

 出来るだけ多くを救う策でも、やはり多数の誰かを追い詰める事になるんだよなぁ。

 前世で散々悩んだ事が、ここに来てより大規模かつ深刻な物になって返って来るとか……吐きそう。

 

 あの時は『票田こそ命』と割り切ってあちこち飛び回ってたけど……。

 

「ともあれ、そういった政治工作や安易な陳情を跳ねのけるためにもアラバスタの復興を急がせた上で地力を跳ね上げ、他国や政府に対して主導権を握らなければ却って危険だと『黒猫』では分析しております」

 

 政府が安易に強権を振るわない国。

 すなわち、政治的な土台が固まっている上でしっかりした軍事力を手にする事。

 

(軍事力は十分。防諜はちょっと不安だけど、今マキシンがコブラ王承認の下でアラバスタの護衛隊と接触して防諜網を組み立てている。残るは……)

 

 問題は政治土台だ。

 

 国家としてのアラバスタはかなり堅牢だが、それでも過酷な地であるが故に付け入る隙はある。

 それこそ、原作でクロコダイルがやっていたように。

 

 なにより、今必要とされるのは国家としての政治土台ではなく、経済拠点としてのサンディ島の政治土台。

 

 なにせ流れからして、アラバスタが一種のハブ港となるのはほぼ確定してしまっているのだ。

 下手に横から介入されると一気にアラバスタが浸食されかねない。

 

(まずは我々が手を取り合って前に進む存在であることを内外に知らしめる必要がある、か)

 

「架橋工事はかなり早く進むでしょう。幸い黒猫は工兵が多く、更に土木作業に慣れた魚人が多くいます。もう少し海域が落ち着きさえすればオブーレモにネプチューン王家の方々をお招きするので、その時には更に労働力を投下できるでしょう」

 

 ジンベエが来れば更に楽になる。

 アラバスタの危険生物対策としても役に立つし、兵や民の管理人として最適だ。

 

 王家の皆様は……うん、あの……どうかオトヒメ様をよろしくお願いします。

 昨日報せが来たけど、しらほし姫がとうとう産まれたらしいね。

 トーヤを直衛に付けるのでその……身の回りをしっかりね。

 

「そして完成の暁にですが、橋の両端を用いて我々で何かしらのイベントを開きたいのです」

「……サー・クロ。それは祭りのような物を?」

「いえ、最初はその……私も形のある案があるわけではないのですが、誰が見ても茶番と分かる威嚇を互いに行う形にできればと」

「…………名目上は確かに対立しているが、どちらも乗り気ではないという事を周知させたいと?」

「はい。無論、これは我ら『黒猫』の都合であり理想であります。そちらの要望と合わせてすり合わせを行えればと」

 

 ピンシャー卿がいつの間にか五杯目の水を口にしながら、「ふむ」と無精髭を音を立てながら撫でている。

 

「この段階でそのような提案をするという事は、橋はかなり早く完成しそうなのじゃな?」

「はい。我々は長い海賊活動の間に復興作業や建設作業は多くこなしており、また制圧下にある『橋の国』を研究しているために架橋は特に得意としております」

 

 実際、陸軍は陸の輸送計画上川に橋を架ける仕事は良くあるし、そのノウハウは本隊も含めた各艦隊で共有している。

 

 橋の国陥落させておいて本当に良かった。

 目的は違ったけどあそこのデータがこれほど役に立つとは思わなかった。

 

「……よし、おおよその工程表を共有した後はこちらに任せておけ。ある程度形になる候補が出揃ったら改めて我らで協議に掛けよう。それまで『黒猫』の西部の整備と安定に力を注げ。東は海軍が受け持つ」

 

 海軍の人員は信頼できる。

 モモンガさんは誠実な人だし、その部下もかなり見極めて連れて来た人だろう。

 

 だけど……。

 

「モモンガ准将は信用しておりますが、文官は足りておりますか? 東部の復興となると人員の把握や整理で何かと人手が必要ですが」

「近々お前が鍛えた役人も呼び寄せる。あの娘らならば能力は確かじゃ。さすがお前の秘蔵っ子だな、黒猫」

 

 ジェネッタらが来るのか。

 …………ピンシャー卿から見て確かならば、尚更確かか。よし。

 

 俺としても、彼女たちがいるなら助かる。

 今足りていない物が一気に埋まる。

 

「分かりました。哨戒活動は変わらず広域で行いますが、我らは西部に専念いたします」

「我らアラバスタの兵はどうする。後々を考えると西部での経験も必要だと思うが?」

「威嚇合戦を一度やるまではしない方がいいでしょう。今は海軍と共に東部の復興を」

「うむ」

 

 そしてその後、会議は順調に進んだ。

 連合軍の捕虜の扱いに対しての話し合いから海軍との哨戒計画や上陸された時の防衛計画とその演習の日取りの決定。

 

 一番揉めると思った通貨交換比率も、前例がないが故にまずは手探りという事で、当面は穀物のベリーとCatの相場を参考に決めるという事でしばらくは事務作業のやり方を模索している事になった。

 

 

 

 

 そして、三年後――

 

 

 

『さぁ遂に開催までこぎつけたぜ! サンディ島から始まる新たな闘い! ダンスバトル・オン・サンドラぁぁぁぁ!!!』

 

 

――FOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!

 

 

 立派に作られた巨大な石橋を舞台に、世界でも最大レベルのダンス大会が開かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「クロコダイル君」

「こっち見んな」

 

 

 

「………………見ないでくれ。頼む」

「……………………おう……」

 

 

「………………あ」

「なんだ、クロ」

「ちょうどイッショウとヒナも戻って来るし、東の海(イーストブルー)にも進出しておくか」

「なんで今思いついたんだ」

「今だからだよ」

「? あぁ?」

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