とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

201 / 203
198:これからの戦争

 アラバスタ王国を東西に分ける巨大な川。

 サンドラ河にかかった巨大な橋、その両端に大きな町が完成しつつある。

 アラバスタの主要都市がある東側に建設されている新たな町の名は『スフィンクス』。

 

 新たな大都市にして西側――海賊の支配する『ミケ』という町と橋を挟んで面するという、極めて危険な立地であるハズの町は、

 

――『黒猫』の船が来たぞぉ! 追加の石材が山ほど載せられてるって話だ!!

――魚人達が一人も川にいねぇ! 全員搬入に向かったんだ!

――すぐに山ほど運ばれてくるぞ! 石工衆と大工衆は用意しておけ!

 

 まるで、ここだけ戦前に戻ったかのように活気に溢れていた。

 

「大佐、『黒猫』よりアラバスタへの資材搬入の報告と監査要請が入りました」

「目録はあるのだな?」

「はい。一週間前に受け取っており、内容の精査も完了しております。こちらに」

 

 海軍本部大佐として長く現場に勤めていた歴戦の海兵は、船の貨物に関しての精細な資料に目を通す。

 

「主に建材か」

「はい。アラバスタ王家が購入という形で手配したものです」

「格安だな。……一応儲けは確保しているのだろうが、この額だとかなりギリギリだろう」

「はい。主計課の人間もそう言っておりました」

「となると恐らく、更に来るな。大量に買い付けたのだろう」

「薄利多売という奴ですか?」

「それにしては大掛かりな品だがな」

 

 その長い海兵としての経験で、まさか海賊から資材の管理報告書を受け取り、その精査を依頼されるなど初めての経験だった。

 

――お、いたいた。キジトラーー!!

 

「大佐」

「……あの幽霊娘め」

 

 そして億を余裕で超える大海賊。

 世間に『五番目の四皇』と呼ばれる男の()と言われる少女が、日傘を差したままふわふわと浮いてこっちに来ていた。

 

「大佐を付けろといつも言っているだろうが、小娘ぇ!」

「だったらちゃんと名前で呼べよオッサン」

「海賊の名を口にしてたまるか! ペローナ!!」

「言ってんじゃねぇか」

 

『ゴースト・プリンセス』ペローナ。

 今や四億もの金額が掛けられている大海賊が、平然と町の中に現れている。

 

 それどころか、道行くアラバスタの民衆は平然とそれを受け入れていて、中には手を振る者もいる始末。

 数年前ならば決してあり得ない光景だったが残念な事に今や、ココほどではなくても海賊や山賊の支配を進んで受け入れる島も出始めている。

 

「クロコダイルから伝言頼まれたんだよ。予定より船が早く着いたせいでクロもハンコックも仕事中だし」

「むぅ……。それで、なんだ?」

「ウチで搬入した石材やら煉瓦やらの六割をこっち側に持ってくるんだが、量が量だ。魚人だけじゃいつまでたっても倉庫から減らねぇだろ」

「まさか手を貸せと!!?」

「いや、そっち側がこっちに来るには手続きが面倒だろ。こっちの荷馬車を全部出す、けど、そうなりゃ……」

「…………なるほど、サンドラ大橋周りがその往来でごった返すか」

「おう、だからこっち側の整理を頼む。アラバスタ国軍にもペルを通して頼んである」

「あい分かった。交通整理のために要請を出しておこう」

「悪いけど頼んだ。こっちの人間をいつもより多くスフィンクス側に入れるとなれば、海軍挟まねえワケにはいかねぇからな」

 

 キジトラという大佐はとうとう頭を抱えてしまった。

 

 海賊と『仕事』の話をしている事もそうだが、その内容が余りに真っ当で、穏健で、どこにも暴力の気配がない知的な内容を海賊がしている事にとんでもない不合理を感じてしまったのだ。

 

「おい、そこの曹長……スペンサーだっけか。オッサンは急にどうしたんだ?」

「いえ、あの……なんといいますか。自分も気持ちは分かると言うか」

 

 

「他の支部を回った後でここに配属されたら、色んな意味で泣きたくなりますので」

「…………泣いてんのかオッサン? いい歳して」

「歳は余計だし泣いておらんわ小娘ぇぇぇぇっ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「お皿って砂で洗うの!?」

 

 鷹のように鋭い目を持つ凄腕の剣士が、最近青い髪の少女を連れて砂漠の暮らしを聞いて回っている。

 

 そんな噂の原因となっている二人組――いや、その後ろに髪を巻いた若者がついてきて三人組となっているが、彼らは町のありふれた食堂の女将に話を聞いていた。

 

「そうよお嬢ちゃん。こうして綺麗な砂でこすれば汚れも油もスッキリ落ちるのよ」

「……おう――屋敷の人達は、いつもお水とスポンジで洗ってたからそれが普通だと思ってた」

「ハッハッハ! お嬢ちゃんの所はいいお家みたいね。だったらお皿もきっと真っ白な高い物でしょう。このやり方だと傷がついちゃうから、そういう物だと目立っちゃうのよ」

 

 感嘆の声を漏らす少女の隣で、まるで真っ黒な十字架のような剣を背負う男も静かに息を零す。

 

「こうして洗った物はすぐ使えるのか?」

「大体は布で軽くふいて砂を落としてからお日様に当てるんですよ。ほら、そこの背の高い棚。そこだとお日様が良く当たるから」

 

 女将の言葉に三人が見上げると、階段状の踏み台と合わせて棚がある。

 これに砂で洗った皿を載せて日光で殺菌するのだろう。

 

「なるほど。水が少ない地でどうやっているのかと思えばこういう事か」

「外から来る人はこのやり方だけじゃ不安がる人もいて、そういう人は使う前にお酒で拭いたりしているわ」

「? お酒?」

「アルコールでの消毒だろう。ウチの団でもより高濃度の物でよくやっている。長い航海での生活では衛生管理が大切だからな」

 

 剣士の言葉に、髪を何層かのロール状に巻いた少女のお付きの男が頷く。

 

「そういえば、そちらの海賊団ではそういった事象についての学問研究がおこなわれているとか」

「公衆衛生学か。西の海にいた頃から医者をかき集めて研究を主導していたな。人的資源の減少率を下げる為に必要だと言って、クロはかなり力を入れさせていたぞ」

「こーしゅーえーせい?」

「…………病気になりにくい暮らしと身体を作ろうという研究だ」

 

 この町巡りそのものの発案者は青い髪の少女――ビビ王女だった。

 復興が進む中、皆の暮らしをその目で見たいと言い、自身の興味もあって鷹の目の剣士が護衛を申し出し、慌てて護衛隊の人間が同行する事になった。

 

「しかし、ミホーク殿も変わった所を見て回られる」

「そうか?」

「ええ。てっきり警備や練兵などに興味を持たれるかと思っていたのですが」

 

 だが、いつの間にか一行の行先を決定するのはミホークになっていた。

 正確にはこの三年間行動を共にする事が多かったせいでビビの興味の方向性がミホークに似てきているのだ。

 

 ミホークがここはどうだと行先を提案すると、ビビが「行こう!」と即断即決になるのだ。

 

「畑や漁場はともかくとして、ゴミの処理場まで目にされるとは」

「一応、砂漠での暮らしはクロコダイルが知っているために街作りは今の所問題ないが、こういうのは現地をよく知らねば思わぬ齟齬が出る物だ」

「最初にやらなかったの?」

「復興作業が最優先だったからな。無論、その作業の中で現地の風土や文化の調査はしていたが……」

 

 ミホークとビビが見ていったのは普通の物ばかりであった。

 先日は市場を見て回ってどんな物がいくらで売られていたのかを確認したり、その仕入れの流れを見ていた。

 

 その前はゴミがどこで処理されているかを確認して、どれだけの量と種類のゴミが運び込まれて焼き払われているのかを延々と見ていた。

 

 時には職人の働きを見て、時には農作の様子を遠くから観察して農法を調べてみたりして、アラバスタの民の暮らしを一つ一つ見ていた。

 

「しかし、単なる実験の一環で作った大量の油がここまで喜ばれるとは思わなかったな」

 

 そして今日は、昨年の間に西部からアラバスタに流れ込んだ品を興味本位で確認した所、ヒマワリの種や菜の花から搾り取った可食油が大量に取引されている事を知ったミホークの話にビビが興味を持ち、その行先を追ってきたのだ。

 

「五年前の騒動以来量は減ったけど、元々アラバスタでは油を使う料理は多かったのよ。さっきお出ししたお魚もそう。ワタと骨を取って中を小麦粉と塩で洗ったら、香草を詰めて油でサッと揚げるの」

「家庭料理でもか」

「ええ。とくにオリーブオイルは大量に使うわ。いろんな物にレモン汁とオリーブオイルを混ぜてよく練って、ディップみたいにして食べるのよ」

「ほう……む? しかし、この気候でオリーブの栽培は難しいのでは?」

 

 この砂漠地帯での耕作実験を繰り返しているミホークが一早くそれに気付く。

 

「あれ? 王宮の側には植えられていたと思うけど……」

「……確か北部でも少々……とはいえ、生産量は……」

「ええ。ここ数年はめっきり市場で見なくなっているわ。私達は五年前の大混乱が起こるまで普通に買っていたのだけど、きっと他の島から買い集めていたのね」

「………………ふむ」 

 

 王宮に基本住んでいるビビとお付きの男――イガラムは、自分達の知らない所で生活が悪化していた事への驚きで目を丸くしていた。

 

 いや、三年前の戦争で大きく暮らしが悪くなったのは当然知っているのだが、思いも寄らぬ形で些細な――だが確かな爪痕を知ったのだ。

 

「なるほど。今我らで生産した油がこちらに流れているのは、つまり代用品か」

「それでもヒマワリ油はアタシらみたいな小料理屋で大人気ですよ。オリーブとはまた違うけど香りが良くて濃厚だって。さっき出したひよこ豆のディップ(フムス)もあれで作ったのよ。美味しかったでしょう」

「ほう、さっきのが。生産者としては嬉しい事実だが、民衆が求めている物が届いていないというのは客将として無視できんな。王宮に陳情はしなかったのか?」

「……皆苦しい事は分かっていますからね。頼むよりも今ある物でどうにかしようとしているんでしょう。幸い、今話に出た油だって黒猫さんのおかげですぐに使えるようになったんだし」

 

 青い髪の少女がミホークの服を軽く掴むと、ミホークは分かっていると軽く頷く。

 

「女将、美味い食事と面白い話に感謝する。代金はここに」

 

 一応アラバスタではベリーが未だ主軸通貨である。

 それでも物価は上がり続けているため、買い物一つに随分と財布を重くする必要が出て来た。

 

 ミホークはベリーの札束――ではなく硬貨が詰まった袋をドンッと乗せる。

 

 かつての偽札事件から、紙幣という物への信頼は確実に落ち続けていた。

 

 おかげで会計にも時間がかかるようになる。

 女将が銀貨を数えている間に、ミホークがビビの前に膝を突いて、目線を合わせる。

 

「今日の()()から戻ったら、今の話をお前の父に話して来るといい。俺もクロに掛け合おう」

「持って来られるの?」

「ああ。知っていれば最初からリストに入れていたのだが……海賊という事もあって遠慮されていたのかもしれん」

 

 幸か不幸か、代用品が流れ込むタイミングもあったのだろうとミホークは顎を撫でながら考えていた。

 人員は十分いるし、ならば植えられる範囲は全て植えてみようと張り切った結果である。

 

「それに我ら黒猫は、世界政府加盟国であるアラバスタとは自由交易協定は結んでおらぬしな」

「ええ、聞き及んでおります。ですからミホーク殿……よろしいのですか?」

「構わん。むしろ新しい販路が出来るかもしれんのだ。テゾーロなら喜ぶだろう。団の方針としても、アラバスタへの助力を惜しまないという事で決定している」

 

 この三年で必死に復興を果たし生活も落ち着きつつあるが、それは戦後の後に組み立てられた暮らしだった。

 まだ、完全に取り戻せていない物があるという事が、こうして町を回っていると見つかる事がある。

 

 

「しかし……不足を堪え、不満もそこまで漏れずに回して見せるか」

 

 

「逞しいな。アラバスタの民は」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「三年前の侵攻国である連合国は全てその実権を我ら『黒猫』で完全に掌握が完了。以降は我らの保護国として扱わせていただきます」

「うむ。世界政府加盟国と非加盟国の戦争が各地で激化している以上、下手に我らアラバスタや海軍が介入すればいたずらに周辺国家を刺激してしまうだろう。すまんが頼んだぞ、クロ」

「すでに内部の鎮静化には成功しております。必ずや、陛下のご期待に応えて見せましょう」

 

 アラバスタ王宮に出張る日々にも慣れたもんだ。

 ここしばらくは『ジャヤ』に残りたがる連中の説得や交渉――絶対確保したかった『猿山連合』と協力体制を築きたかったので俺が出張るしかなかった。

 

 これでクロコダイルに任せたら欲しかった人材が干物になっちまう。

 ダズでも問題はなかったろうが念のためだ。

 

 ……今思えば、ミホークでも……。

 駄目だ、今のミホークは先が読めん。とんでもない化学変化を起こす可能性がある。

 

 なんかこの三年の間に「あれ? お前アラバスタの護衛兵だっけ?」ってくらいビビと一緒にいるし、ツメゲリ隊の面々を親衛隊みたいに鍛えてるし。

 

 なんというか予想外の方向に飛ぶんだよな、アイツ。

 出来るとかそもそも思っていないがコントロール出来ん。

 

「賠償に関しては事前通達の通り、各国の王宮や貴族屋敷から接収した私財の半分を譲渡、並びに今行われている捕虜らの収容施設での作業を続けさせる事で、アラバスタの復興を手伝わせる事で償わせようかと」

「収容所での作業内容はこちらも確認した。主に工房での建材や日用品の作成、それに農作業。ここまでは分かるが……植林作業の補助というのは?」

「サンドラ河に影響が出ないだろう最西部の山で、試験的にアラバスタに自生している木を増やしながら、植えてみようかと思いまして」

「特にこちらから意見はないが……何が目的なのかね? 材木の確保を?」

「山の保水効果上昇を第一としておりますが、なにより西部の開発には水場の把握と並んで開いた開拓地を砂嵐から守る防砂林がどうしても必要です」

 

 実際、ミホークがアーロン達を引き連れてこちら側の町の周囲にもう植樹してある。

 単純な移動とも言えるが。

 

「無論、すでにアラバスタの現地民から教えて頂いた方法で対策は各種取っているのですが、より良くするための試行錯誤をこちらで試すつもりです。そのための資材確保ですね。余り外の物を植えるのも後々問題が出そうですし」

「なるほど」

「問題は捕虜達の労務期間ですが現在既に三年が経過しており、アラバスタ国民の感情と合わせて考えますと――」

 

 

――バァン!!!

 

 

 そうしてコブラ王と、次の公式謁見の際にあれこれ決定する事になるものの事前調整を進めていると、思いっきりドアが開かれる。

 

「おのれ政府の屑共がぁぁぁぁぁぁぁ!! 人手が足りんとあれだけ言っておるのに何を渋っておるかぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 うん、やっぱりアンタか。ピンシャー卿。

 非公式とはいえ王城の中で、しかも王様の前やぞ。

 

「彼女達の派遣をまた断られたので?」

 

 ピンシャー卿は三年前から懐かしい顔を、かつて聖地で共に仕事を切り抜けたジェネッタらの派遣要請を出している。

 

 で、実際に派遣一歩手前まで行ったのだが急にストップが掛けられたらしい。

 それからピンシャー卿はほぼ毎日政府に鬼電して人員を寄越せと叫び続けている。

 

「そうだ! お前が鍛えた連中は、今度は南の海に派遣するとのことだ! 独立戦争を仕掛けていた島への人的資源投入と復興作戦じゃと!? 殺し尽くして空っぽにしてしまった島に貴重な人員を投入して何をしろと言うつもりじゃ!!」

「……彼女達は大丈夫なのでしょうか」

「ゼファーがついておる! 加えてTボーンやスモーカーといった海軍の優秀な兵士が集まっておるのだ! だからこそ経済要地となりつつあるアラバスタに結集させるべきだというのに!」

 

 いやそれが理由じゃね?

 

 大将であるゼファーさんは下手に動くことはないだろうけど、若手の優秀な兵士が集まってるとなると、それを『黒猫』に接触させるのは怖かろうて。

 リークにもあったけど、今の若手将校はかなり『黒猫派』が多いらしいし。

 

 んでもって俺達は今や完璧な軍……軍? でも、国家ってのもなんか違うし……軍閥?

 

 直轄地を使っての自給自足体制もとうの昔に整えたし、昔と違って装備の補充だけじゃなく研究開発も出来るようにしたんだから。

 

 というか、ジェネッタの下にあのスモーカー君おるんか。

 

 ………………。

 

 今は分からんけど当時は気弱な所があったし、番犬役としては十分か?

 

「戦力と分けて彼女達だけでも送ってくれないでしょうか。人手不足とは別に、今のままですとアラバスタと世界政府の繋がりが細すぎます。せめてもう少し、政府側に立つ一団をスフィンクスに派遣していただきたいのですが……」

「儂もそう言っておるのだが梨の礫じゃ! あのボケ共め、そんなに儂に焼き払われたいか!」

 

 なんでだろう。

 最近なぜか、海賊の俺よりピンシャー卿の方が問題児扱いされている気がする。

 アラバスタ王宮の人達から。

 

 お付きの兵隊さん達が微妙な顔をしている。

 ついこの間、似たような顔を海兵さん達がしていたなぁ。

 

 あの、ホント違うんです。

 確かにこの人発言はエキセントリックでイカれているとしか思えないし実際イカれてるんですけどちゃんと仕事はこなす有能な役人なんです。

 

 直属の部下を持つ事でこそ輝く人なんですけど、ちょっと今肝心の……この人の考えをある程度察せて動ける人が足りていないんで。

 

 割とワンマン気味なせいで、部下の育成とか教育が死ぬほど苦手なんですこの人。

 前の俺が死ぬほど付き合い続けて来たタイプだわ。

 出来ん奴はさっさと辞めろ。残った者を鍛え上げる! って感じの……はい。

 

 そこらへんはピレニーズ卿の方が上手だったな。

 

 ロビンなら手伝えると思うけど、さすがにロビンを世界政府役人と共に働かせるわけにはいかんし……聖地の時みたいに俺が下について動かすってんなら出来なくもないだろうけど、俺にも海賊団の長としての仕事が山積みだし……。

 

「サー・クロ」

「はっ」

「其方の見解を聞きたい。政府はアラバスタの地をどう扱うつもりなのかを」

 

 俺が聞きたいわ!!

 ジェネッタ達が来られないのはともかく、せめて使節団くらい寄こしやがれ!!!

 

 もう来年には次の世界会議(レヴェリー)開催されるんだろう!?

 

 こう、なんていうか……っ!

 

(政策の悉くが内向きなんだよな。それが加盟国という枠全部ならまだしも、聖地オンリーに)

 

「恐らくアラバスタ、並びに現地海兵による将来的な排除を試みる一団と、このまま黒猫との共存により比較的安定するだろう海域経済の利用を試みる一団が(せめ)ぎ合っている……かと……。その、可能性が高いのは、ですが」

「……やはり君もそう考えるか」

 

 あるいはシンプルに決断できない程聖地や各セクションの混乱が止められないか。

 一番考えたくないというか、あってほしくないルートなんでホント外れて欲しい。

 

 まぁ、実態はどうあれおかげで好き勝手出来ているとも言えるが、魚人島奪還戦後に絶対必須の政治的パイプが皆無で涙が出てくる……。

 

「恐らくですが、我々『黒猫』を排除すべきだという声の方が強いのでしょう」

 

 まぁ、排除ではなく距離を取っておくべきだという意見かもしれんが。

 

「うむ。もし其方らの利用を狙う一派が優勢ならば、とうに使節がスフィンクス、あるいはアルバーナに何度も来ているだろう」

 

 間違いない。

 でもそういう動きは一切ない。

 海軍もモモンガさんが言うには今の所海軍で奪還計画が立てられている気配はない。

 

 あるいはと思って幹部級全部撤退させて、新しく作った町『ミケ』やら『レインベース』の占領をするか様子を見たけどその素振りはなかった。

 

 後々占領という手段を取るつもりなら街の間取りくらいはチェックしに来るハズだが、完全に静観を貫いていた。

 

 むしろ、アラバスタの防衛力が下がったと見て哨戒を増やしていたくらいだ。

 分かっていた事だったが、モモンガ准将は信頼できる将校だと再確認出来たのが収穫と言えば収穫か。

 場合によっては戦闘になるけど。

 

 少なくとも、東の海への遠征には問題ないと見ていいだろう。

 

「であるのならば、やはりアラバスタ海域の安定こそが『利用派』とでも言うべき存在への援護になり、ひいてはアラバスタを戦火から遠ざける事に繋がります」

「……となると、経済圏の拡大か」

「はい。アラバスタ無くして国は保てぬ。そう周囲の加盟国に思わせるのが肝心かと」

「だが、それは武器を持たぬ侵略ではないか?」

 

 ……それを言われると弱い。

 自分としては、外交とは軍事的にせよ政治的にせよそれぞれの銃を付きつけ合って都合の悪いイカサマを防ぎながらやるポーカー、あるいは麻雀だと認識してるから……。

 

「いや……すまぬ。時勢がそれを待ってくれぬのは分かっている。心の弱さゆえの愚痴だ。許してくれ」

「いえ……」

 

 一応、陛下が何を恐れているかもわかる。

 

「陛下は、諸外国への介入の果てに、アラバスタへの反感が育つ事を恐れていらっしゃるのですね?」

「…………うむ。戦乱という特殊な環境の中、どこまでの干渉が許されるのか。後の世でその火種が再び灯った時に、果たしてその時のアラバスタに対応する力を私が残せるのか」

 

 ……天竜人の末裔と知れ渡った事が大きいな。

 やはりコブラ王は、アラバスタが孤立することを恐れている。

 

 ……というより、火種一つで瞬く間に孤立し、包囲されかねないと考えている。

 現に上陸されて、アルバーナまであと一歩の所まで侵攻されたからな。

 

 今でこそ海軍が常駐するようになったが、あの時は海軍と政府の政治的拮抗に足を引っ張られたのもあって応援も遅れる始末。

 まぁ、これに関しては哨戒が念入りに沈められていたのがデカいんだろうが。

 

(ウチの中でも、アラバスタ王家が天竜人の家系だと知って鎮静化にちょいと手間取ったしなぁ)

 

 ピンシャー卿。

 こういうときだけ無言で私の脇腹肘で突かないでください。

 シバき倒しますよ?

 

「確かに、これより先の外交交渉は今まで以上に危険な綱引きとなるでしょう」

「綱引き。絶妙な言い回しだな。手を抜けば瞬く間に敗北し、だが引きすぎれば――」

「ええ。相手は倒れて崩れ、陛下が恐れる遺恨と反感の芽が育つでしょう」

 

 正直、アラバスタは扱いに困る国だというのは本当だ。

 魚人島の解放が成功した時はともかく、本格的に新世界に根を張る段階まで行った時に果たしてどう扱うか。

 

(まぁ、このまま西部を開発してゆくゆくは、()()()()の町として扱うかね)

 

 世界経済新聞、そして世界新報両方で発表された速報。

 

 

――『天夜叉』ドンキホーテ・ドフラミンゴ。七武海就任。

 

 

(いつか来るとは思っていたが、三年前の足止めといい絶妙なタイミングでやりやがったな。こっちの勢力圏が魚人島周辺に届くか届かないかって所で……)

 

 原作通りの形かどうかは分からないが、ドレスローザは奴の手に落ちた。あるいは落ちると見ていいだろう。

 幸い、奴の手に渡しては拙かったヴィオラ王女とトンタッタ族のマンシェリー姫は無事に保護している。双方、能力持ちである事も確認済み。

 

 浮島に残っているクリスからの定時連絡では、例の浮島船ことリオン島は無事に凪の帯(カームベルト)を再突破し西の海に一度帰還。

 ヴィオラ王女達はモプチで保護したということだ。

 とりあえずは一安心と言っていい。

 タキとトロイの下にいればそう簡単に手は出せまい。

 

「ですが、それでも火中の栗に手を出さねばならぬ時勢です。恐れず踏み出さねば、国という船が沈む。それが今の時勢なのです」

 

 連合国家も、雑なやり方は腹立たしいが狙いは理解できる。

 

 ネフェルタリ家を天竜人の一角としたうえでそれを討ち取り、その武名で周辺国家を呑み込み世界政府と戦える連合国家を作ろうとしたのだろう。

 

 今は大海賊時代であるのと同時に、大戦国時代でもある。

 生き残るためには周辺国家を食って大きくならねば、すぐさま取って食われる。

 

 なまじ、世界政府が急激に弱体化したように()()()のもこれを加速させているのだろう。

 誰もが次代の『頂点』に立ちたがっている。

 ゆえに、世界政府対非加盟国連合のような陣営同士の戦いになっていない。

 

 二派の対立ではない。群雄割拠の時代なのだ。

 だからこそ世界がややこしくなる。

 

「そうじゃな。七武海に入ったあの男の策略のせいで、このアラバスタは良くも悪くも目立つようになった。多少無茶をせねば危ういであろう」

「ドンキホーテ・ドフラミンゴ、ですか」

「うむ。……おのれ、政府はなぜ奴を……先のアラバスタ戦役の本丸かもしれん奴を……」

「分かりやすいからでしょう」

 

 天竜人からすれば、だが。

 

「分かりやすい?」

「はい。ドンキホーテ・ドフラミンゴとは、ネフェルタリ家と同じく下界を選んだ天竜人なのです」

 

 ……ピンシャー卿、ひょっとしなくても知らされてなかった?

 滅茶苦茶驚いているけど。

 

「ただ自らの意思で選んだのではなく、その道を選んだ父に連れられて下界に下りたのです」

 

 そして驚愕したまま、同時に納得した顔を見せる。

 

「つまり奴の狙い……か、どうかはともかくじゃが……天竜人に戻るために?」

「実際、そのために父親の首を持って聖地に戻ろうとしています」

 

 向こうからすれば、天竜人に戻りたがると言われれば信じるだけの材料が揃っている。

 

「しかしアラバスタの地を荒らしておる。それは?」

「奴らが姿を現したのは我々『黒猫』が参戦してから。我らへの敵意は確かですし、奴らの戦力と思われる巨大生物に関しては情報が足りていないので、政府としても一度取り込んでから調べるつもりなのでしょう」

「……上手くいけば、使えるやもと?」

「はい」

 

 島を荒らすだけの兵器なんて、俺からすれば殲滅するべき存在なんだけど政府側からすれば見せしめに効果的な存在に見えるだろう。

 なにせインパクトはある。

 

「しかも、彼の下に魚人の一派が付いているのも確認されています」

「それが大事な事か?」

「魚人島の運営にはどうしても魚人が要ります。ミホークの話では、各地で捕らえられた逃亡魚人が労働奴隷として投入されていたと」

 

 ミホークが魚人島を強行突破した際にぶった切ったっていうデカい塔のような物。

 それは恐らく、一種の『ガイドライン』なのだろう。

 本来ならば複雑な海流で行き来が難しい魚人島への道のりを、より確実な物にするための。

 

「我ら黒猫はネプチューン王を擁して正当なる魚人勢力を立てております。だからこそ、それとは違う一派がどうしても欲しい。将来政府主導で魚人島を扱うためにも、政府の下にいる魚人は極めて貴重な存在なのです」

 

 五老星も、ドフラミンゴに狙いがあるのは薄々分かっているのだろうがそれでも使わざるを得ないんだろうな。

 

 魚人を擁する組織かどうかってのは今非常に大きい。

 

 現に、魚人の傭兵が増えつつあるって情報も入っている。

 

 膂力もそうだし、敵の海上輸送を直接叩ける魚人は余りに戦力として強力なんだ。

 

 総合的に見れば、あるいは巨人よりも。

 

「戦力としても政治的にもリスクはあるが、黒猫に対抗する戦力としては申し分ない」

「……クロ」

「なんです、ピンシャー卿」

「軍事に明るくない儂でも、政府がガムシャラに戦力をかき集めておるのは分かる」

 

 ですね。

 政府が『自由略奪許可証』なんてもの発行してまで、とにかく統制のための見せしめ役を欲しているのは重々承知だ。

 

「しかし、これでは仮にお前ら黒猫を魚人島での決戦で撃ち破ったとしても統制が出来るとは思えん。政府がまともならば、何かしらの札があると思うのじゃが……お前ならば分かるか?」

「はい」

 

 コクリと頷くとピンシャー卿、それにコブラ王もガタリと立ち上がる。

 

「まず間違いないでしょう。今現在、政府は全力で――」

 

 

「クローンによる兵団を作成していると推測しています」

 

 

 うん、DVネグレクトキングの所に何度も政府船が通ってるって目撃情報あるし、まず間違いあるめぇ。

 各地で戦死した兵士の死体を買い取る連中が異常に発生しているって報告もあるし。

 

 最初はあの筋肉達磨(モリア)の手の物かと思ったが明らかに数が多いし広範囲すぎる。

 ゾンビ兵も量産しているだろうが、作れるのがモリア一人な以上限界がある。

 

 それが分かっているからだろう、奴らもクローンに目を付けて装置らしきものを強奪していったって海軍政府双方からリークも来ている。

 ……十年もすれば、クローン技術は下手したら拡散しているかもしれんな。

 

(クローン大戦、か)

 

 絶句している二人を尻目に、渇いた喉をお茶で湿らしながら、静かに思う。

 

 

 

 

 …………ここって実は遥か彼方な銀河の物語だったのかな。

 覇気の類、実はフォースってルビついてたりする?

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