とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

202 / 202
199:遠征に向けての再編

「で、アナタは相変わらず仕事に次ぐ仕事だったわけ? 感心するわよ。ヒナ感心」

「お前の所だって忙しかっただろう。イッショウの代わりに実務のほとんどをこなしていたんだし」

「一地方かつ、こっちみたいに民衆を抑えるんじゃなくて命令に従う軍人がほとんど。民間人も元軍属が多いからアナタに比べれば楽な物だったわよ。アラバスタ防衛戦と戦後処理、お疲れ様」

 

 北の海での橋頭堡となる前線基地の設営、並びに現時点で掌握できる地域の占領と運営を終えたイッショウ達別動隊が戻って来た。

 

 ()()()()を北の海に残してだ。

 

 ……うん。三万。

 五千の兵を引き連れて、なおそれだけの元海兵が集まっている。

 

 定時連絡で聞かされていたが……。

 

 つるさん。おつるさん。

 

 万が一があったら北の海から海軍仕切り直そうとしていて、そのための予備兵力をウチの看板利用してまとめましたね?

 

 特に戦乱の多い北の海じゃこっちも兵力引き抜けなくて、かつ他の海のように勢力拡大が難しいから。

 

 いや、裏という程の物じゃないし、なんなら双方にwin-winなんで安心できるんですけど……。

 

 その場合、三万もの海兵引き取った俺が治安維持側に関わらざるを得なくなって、仕切り直した海軍に深く入らないと不味い事になるんですがそれは??

 

「なにより、つる中将のお孫さんが非公式とはいえ委任状渡されてたから、分断されて匪賊化していた連中の統率も簡単だったわ。むしろ、支配下の民衆を宥めるのに苦労したかしら」

 

 後お前はナチュラルに人の腹を枕にするな。

 ロビンはおろかハンコックですらゆっくりやるのになんでいつもお前だけヘッドダイヴかましてくるんだ。

 三年ぶりに腹筋にダメージ入ったわ。

 

 ……いや、この前のアラバスタ側との社交界でクロコダイルとミホークが貴族の娘さんと踊ってる所見て必死に笑いを噛み殺した時に腹筋やられてたわ。

 

 変な所で真面目な二人だから、ちゃんと完璧に踊れるように仕上げててホント笑った。

 

「土地での生産は問題ないって話だが、どうだ?」

「ミホークが言ってた蕎麦を植えたら一気に広まったわ。それに比較的温暖な南側を確保できたから、麦や芋も十分育ってる」

「……穀物は確かに十分そうだが……野菜は?」

「そっちは正直、それぞれの菜園頼りね。民家が少ない分、皆大体裏庭に結構広い菜園作ってて……」

 

 ……管理出来ていないのはちょっと怖いな。

 

 こっちで教育した人間はまだ投入出来ないから、衛生管理のための農産物検査員の役所はおろか、専用の屠畜解体所もまだ設営できていない。

 これは偉大なる航路(グランドライン)内での縄張りの一部もそうだ。

 

 民間人が自由狩猟や自主栽培で得た肉や作物がそのまま市場に出回っている。

 規格もなく検査もなく規制もなくだ。

 正直凄くよろしくない。俺の精神に。

 

 衛生管理問題とか完全に海賊の管轄外だぞ……生活に密接する問題だし対策どれだけやっても終わりの見えない長丁場だし正直ぶん投げてぇ。

 

 いや、西の海は実際ぶん投げて来たんだけど、こっちでもぶん投げる人間が無限に必要になってきた。

 

 公衆衛生に関しては昔から色々やってはいるんだけど、突き詰めれば突き詰める程多方向に人材が無限に必要になって来るから統括役の選定に滅茶苦茶神経使う。

 

 …………。

 

 いっそこれからは陸軍の扱いにするか?

 補給に関する問題でもあるから、全くの無関係というわけでもない。

 

 あと必要なのは医者……この場合は獣医もか。

 政府に掻き集められる前に知識者をこっちに纏めないと悪いな。

 

 俺らが東の海に行っている間に、クロコダイルにドラム制圧してもらおう。

 

 そしてある程度部署が成長・巨大化したら各国に顔繋いで新しい機関として認知してもらうか。

 

「で、今度は東の海に行けですって?」

「安心しろ。今度は俺も行くし、そもそも縄張り広げるわけじゃないから」

「じゃあ何しに行くのよ」

「魚人島奪還戦に、ガープさんが参加しない理由を一つでも多く作りに行くためだよ」

 

 なぜか人のヘソを親指で押し込んでいたバカがグルリと身体を捩ってこっちを向く。

 猫かお前は。

 

「ガープ君の?」

「海兵が影を抜かれていた話はしただろう? あの時のやりとりで一回やり合ったんだが、正面から戦うにはちょっと骨が折れるし勝率も自信がない」

「なんでちょっと骨が折れる程度で片付けられるのよ。なんで自信がないで済むのよ」

 

 いや大変だったんだぞ。

 覇王色纏わせても相殺されるし、先手とってもなんか無理やりな体勢から迎撃されるわ海に叩き落とされるわ。

 

「仮にも海軍の英雄よ? あれでも」

 

 お前地味に酷いな。

 

「まぁ、なるほど。東の海に黒猫の気配が残っていれば、いざ戦争が始まった時に部隊を残したくなるということね?」

「特に東の海は世界政府の平和の象徴。世界政府側の勝敗に関わらず、何かあっては絶対にならない場所だ」

「それは政府の頭がちゃんと働いていればでしょう? アイツらの頭はまともじゃないわよ?」

 

 事実陳列罪はおやめください。

 人のシャツのボタンを爪でカリカリするのもおやめください。

 お前それホントに好きだな。

 

「まぁ、それが少々怖いというのは確かなんだが」

「北も酷かったのよ?」

「……そんなに?」

「これを機会に政府にもっと取り入ろうとする国に対して『人狩り』を奨励してたわ。それで連れ去られた王女様とか山ほどいて……」

 

 どこも地獄か。

 労働力不足で奴隷掻き集めている中でも、相変わらず女は高く売買される。

 

 高貴な身分というステータスがあればなおさら。

 

(荒れているだろう天竜人が収集欲で集め出してもおかしくねぇからな……というか、実際にありそうだ)

 

 食料事情も良くない中よくやる。

 

「北の海で、政府は軍事行動を?」

「いえ、確認されていないわ。お孫さん――孔雀への説明役としてきた海兵によると、政府は海軍に旧領回復を急がせてはいるけど」

「上手く行っていない」

「ええ、北の国では。……その、今って海軍の船は確実に物資が積まれている船だから……」

 

 

 

()()()()が始まっているの」

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

「へい、こちらで保護した海兵さんの中には、襲われた結果船から放り出され、海を漂っていた人もいやす。……残念ながら、助けられなかった兵隊さんの方が多かったのですが……」

「まさか、仮にも海軍が賊にとって美味しい標的になる日が来るとは……時代が変わったな」

 

 それこそかつて「海兵狩り」と呼ばれていた男が、盲目の剣客の話に重苦しいため息を吐く。

 

「熟練の兵士が大きく減った今、おそらく現場は訓練中の兵士の中で使える者をかき集めているだろうが……だからこそ、それを旨味と見たのだろう」

 

 その隣のダズ・ボーネスもまた、表情の乏しい顔は心なしか悲しそうに見える。

 

「そういう事態が起こるのは、航路が制限されているために待ち伏せがしやすい偉大なる航路(グランドライン)でこそだとキャプテンは予測していたのだがな」

「実際、クロの勢力圏――ブラックベルトがなければそうなっていた可能性は高いだろう」

「で、ございやすね。前半の海を東西に断つ勢力圏にして広域の経済緩衝地帯……でしたか。金や交換でまだどうにかなる地域があるからこそ、そのような略奪が少ないのでしょう」

 

 本隊と活動している時間は短いものの、黒猫海賊団のすでに重鎮――いずれ艦隊提督に任ぜられるのではと噂されているイッショウは、小さなお猪口に注がれた酒をチビチビと口にしている。

 

 時刻は夜。

 砂漠の国アラバスタは空気が澄んでいて、宙には美しい満月が浮かんでいる。

 

 クロコダイルとテゾーロが建てた黒猫向けのサロン――いわば第二の『黒猫館』と言えるその屋上では、アラバスタにいる黒猫幹部勢と、ほぼ幹部の客将によるささやかな酒の席が設けられていた。

 

 クロコダイルとハンコックはいない。

 

 盤上軍事演習で初めてクロコダイルに敗北したハンコックが再戦を申し出て、今三階の演習室を使って頭脳戦を繰り広げているからだ。

 

 時折階下から「クッハハハハハハ!」という笑い声や「おのれおのれおのれおのれおのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいっ!!!」という少女の絶叫がどこからか小さく漏れる度に、三人の男達は小さく笑う。

 

「ママが聞いたら笑いそうな話だけど……」

「事はそんな単純じゃない。ブラックラインという防波堤が崩れたら、この『楽園』も一気に崩れるぞ」

 

 そこには、幹部でこそないが幹部級の働きをしてみせる客将も二人来ていた。

 

 大海賊ビッグマム。その息子と娘――この三年でアラバスタ民や駐留海軍にも大きく認知された二人の客は、目が見えないイッショウの酒と肴を用意しながら、他の三人と同じようにランタンを囲んで月を見上げている。

 

「カスタード、クラッカー、お前達の『母』から新世界の情報は入っていないのか?」

 

 変則的ではあるがクロもその一角とされている、『海の皇帝』を指し示す称号。

『四皇』の一角であるビッグマム。その子供である二人は、定期的に家と連絡を取っていた。

 

「例の海賊――ドフラミンゴだったか。奴らがドレスローザという国を占領したという話はしたかな」

「うむ。クリスに伝えた所、ヴァイオレット姫が取り乱して大変だったらしい」

「そりゃあそうでしょう。なんせ、御父上が捕らわれの身になっているという話なんですから」

 

 新世界はミホークが乗って来た浮島拠点が稼働しており、現在別行動中である親衛隊のクリス指揮の下「白ひげ海賊団」と連携を取っている。

 が、そこらの新世界の海賊ならば返り討ちに出来るだけの戦力を乗せていても一部隊。

 攻め込む――ましてや国の奪還などまず不可能な話である。

 

「あぁ、そうだ。そういえば、ママじゃないけど兄さんから変な話を聞いたわ」

「兄さん?」

「ペロス――ペロスペロー兄さんよ。長男の」

「あぁ、飴の能力者だったか。それで?」

 

 姉弟も黒猫に馴染んで長い。

 新入りの中には黒猫の幹部、特にカスタードに至ってはクロやドールと並んで仕事をする事が多かったため、海軍からの出向組だと勘違いしている者すらいるほどだ。

 

「新世界でも出たらしいわ。『死体買い取り』の斡旋業者」

 

 ワインレッドの上下に白いマント。

 明らかに黒猫らしくないその恰好で、それでも黒猫の一員と見られているのは、海兵のドール同様に多忙だったこの三年間のクロの秘書役を完璧に勤め上げていたからだろう。

 

 恐らくクロが欲しがるだろう情報を手にしていた事に、ミホークは「ほう?」と軽く笑みを浮かべ、ダズはまたも溜息を吐く。

 

「シキか?」

「いや、余りに手が広すぎる。クロが言っていたように、やはりシキだけではあるまい」

「……という事は、ミホークさん」

「ああ。政府も動いているのだろう」

 

 三年の間に試作を重ねていた麦酒をジョッキで飲み干し、ミホークはこれからの戦いを想像する。

 

「俺が黒猫の客将として最初の大戦(おおいくさ)が正しくそうだったが……来るか。クローン技術によって量産・調整された兵士達との戦が」

「その作成のために、亡くなられたご遺体すら使おうとする。……恐ろしい話でございやす。一体遺体をどう扱うつもりなのでしょうか」

「恐らくは材料だろう。方やクローン、方やゾンビ。クロも技術面では疑問視する所が多く知者の意見が欲しい、とは言っているが……」

 

 大戦が近づいている。

 魚人島攻防戦は、限られた戦力同士の戦いだったために互いに時間を稼ぐしか出来ない戦いだったと黒猫では分析している。

 

 それが、今度の戦いは大きなぶつかり合いになる。

 クロがどういう策を練ろうとも、ここにいる全員が最前線に配備されるのは間違いないだろう。

 

「キャプテンは魚人島奪還戦に我らが勝利すれば、その後は恐らく技術の奪い合いになるだろうと予測していた」

「クローン技術のか」

「それも含めてだ。魚人島の奪還に成功するという事は、政府の面子を完全に叩き潰す事と同意だからな。つまりは……」

「次の時代の主導権争いが始まると言う事か。そして世界の盟主となるには手札が多くいる」

「勝てれば、だがな」

 

 未だ動きを見せない勢力。神の騎士団。

 

 一度クロ達はその一人らしき男と交戦した事があるが、相手は想定外の事態に困惑しながらもクロやレイリーらを同時に相手して逃げ切った。

 黒猫内部では相当な手練れであるという認識である。

 

「神の騎士団が動くか、動かないか」

「あるいは()()()()か。それで戦況は大きく変わるだろう」

 

 クロが現時点で、シキの一味と並んで警戒する軍事勢力。

 シキが数による圧殺を狙う勢力ならば、神の騎士団は質の集団。

 

 なお、戻って来たヒナと休んでいるクロは敵がラスボス勢力であることから「絶対クソ面倒なギミックあるんだろうな」と考えている。

 

 王らしき存在もそうだが、五老星まで『不老不死』であると読み切ったクロだからこその確信だった。

 

「実際、動けるのでしょうか? ダズ・ボーネス。貴方は総督からなにか聞いていないの?」

「大体の情報は共有しているだろう、カスタード」

「一応シャーロット家の者だもの。ひょっとしたら遠慮しているかもしれないわ」

「……キャプテンの態度からして、もう二人ともほぼ身内と見ていると思うが……まぁ、そうか」

 

 かなり心は許しているものの、それでもロビン一人では会わせない事を思い出してダズは納得する。 

 

「今現在、聖地が内戦一歩手前まで荒れているとは聞いている」

「……何度聞いても信じられない話なのだが……真に?」

「キャプテンも初めてリーク情報を目にした時は『早すぎる』と言っていたが……逆に言えばそれだけだ。キャプテンの予測でも聖地の衰退は避けられないとみていたのならば……」

 

 今の時点での黒猫海賊団の一番大事な仕事は主に外交交渉と経済活動なのだが、それと同じくらい情報分析は今後の戦略を組み立てるにあたって大事な要素だ。

 

 イッショウとヒナが連れて来た五千の元海兵らも、偉大なる航路(グランドライン)での兵力補充というよりは直接の聴取による海軍の現状を改めて調べるという意味の方が大きいのだ。

 

「ゆえに、おそらく騎士団は動けない。出た場合は厄介な能力を持つ少数精鋭が出てくるだろうとのことだ」

「……ならば、やはり我々の相手は私掠艦隊か」

「西の海でも、『錐』のチンジャオがレッドポートに向かったという情報がタキから入っている」

「……本部での待機か?」

「いや姉貴、艦隊どころか船団としても三流の私掠艦隊の訓練じゃねぇか? 何度か小競り合いで戦ったが、どいつもこいつも三流もいい所だった。あれでクロ総督や他の艦隊戦力にぶつけようなんざ……むしろどさくさに紛れて逃げ出しかねない」

 

 単体戦力でありながら軍隊のように戦える、ビッグマム海賊団最高戦力の一人クラッカーの意見に、全員があり得ると頷いている。

 

 私掠艦隊の仕事は非加盟国の略奪とその運搬。

 戦力として期待されていただろう彼らの仕事は、戦闘そのものではなくなっていた。

 

 無論、海戦の訓練など碌にしていないだろう。

 武装していない――あるいはそれが薄い所に襲い掛かり、奪っていく事が存在意義となったのだから。

 

「……いい機会だから、言っておこう。イッショウ、カスタード」

「む? なんでしょうダズさん」

「私も?」

 

 すでに各国は、『数』という意味では黒猫や四皇を越える『大海賊団』である私掠艦隊へ最大限の警戒を向けている。

 同時に、それに立ち向かってくれそうな勢力である『黒猫』へも。

 

「近々、イッショウを正式に黒猫『第四艦隊』の提督へ。カスタードも暫定的に特別指揮官に任命し、独自艦隊を編成させる方向で話が進んでいる。無論、カスタードは許可を取ってだが」

「あっしがですかい?」

「イッショウは北の海で、事あるごとに民衆を守る姿勢を示して来た。……つまり、まぁ……私掠艦隊やそこらの野良海賊に怯える民にとっての、希望の象徴として適任なんだ」

 

 確かに、とミホークは思う。

 ここしばらくミホークはアラバスタや近海の硫黄島の開発に取り掛かっていたために、武力を担当する事はハンコックやダズ、ペローナに任せっきりだった。

 

 その結果、アラバスタを目指す海賊を狩り続けたクロコダイルは「砂漠の守護神」「アラバスタの海賊騎士」と呼ばれ、多くの海賊を屠り、復興に手を貸し続けたダズやハンコックの名声は高まっている。

 

 一方、ミホークはアラバスタ兵への訓練でアラバスタ軍からは尊敬の念を集めていたが、民衆からはここでも「つなぎの人」だった。

 

「あの、それでは私は? いえ、総督がそういうのでしたら、全力で拝命させていただきますが」

「同じくだ。ハンコックに並んで――特に復興時や防衛戦で指揮を取る姿は民衆の励ましとなっている」

「……確かに、総督から臨時の現場指揮を任せられる事は多くありましたが」

「俺は一人で増やせる分、兵の指揮なんざ却って難しいからな」

 

 カスタードはなんだかんだでクロや幹部勢との仲を深め、親衛隊とはお茶や酒に付き合うくらいには黒猫に馴染んでいる。

 

 なお、それは『()』姿とはいえミホークの作業に付き合っているクラッカーも同じくである。

 

「要するに、ビッグマム海賊団の人間であるカスタードに、客将でいる間に緊急時の指揮権を持たせようという事だ。ここからの戦争は、我々『黒猫』と世界政府の戦争だ」

「……口実ですか」

「万が一の時に、黒猫の人員を統率して撤退や保護に動き回れる人間がいるとなれば、副である俺も心強い」

「なるほど」

 

 実際、カスタードは黒猫の客将となってからは兵隊の指揮をよく行なっている。

 だから人目に付く事も多かったし、いつか敵になるかもしれないという事を踏まえても兵の信頼を得ている。

 

「そして、東の海への遠征中この近海にちゃんとした戦力があるというアピールもある」

「……実際兵力はあるので大丈夫なのでは? 吸収した海兵や海賊も含めれば、この近海の防衛に十分すぎる兵がいますが」

「それでも、幹部勢が抜けるというのが不安なのだろう。西の海を発つ時にもあったことだが……」

 

 

「キャプテンや幹部勢に、女を(あて)がおうとする王族や貴族がこの三年で急激に増えてな……」

「あぁ…………」

 

 

 カスタードも思い出す。

 西の海を旅立ち偉大なる航路(グランドライン)に入ろうとするその時まで、とにかく多種多様な女性がクロへの挨拶と称して顔合わせを家から命じられていた事を。

 

 多くは小国の姫が主導したサロンという名の勉強会グループに所属し、皆官僚としての教育を受けているだろうが、それでもクロとの繋がりを期待する親のゴリ押しが酷かったとカスタードは耳にしていた。

 

「一番海賊を狩っていたハンコックも行くからな。それで不安に思うのだろう」

「……ひょっとして、他にも?」

「クロコダイルもそこのミホークも、既婚者は面倒事がやって来なくて気楽だなぁとテゾーロに絡んでいたぞ。珍しいダル絡みだ」

「なにやってるんですか先生」

「ハッハッハッハ」

 

 何という事のない、砂漠の国での夜。

 黒猫海賊団に新たな艦隊が編成される、一週間前の日のささやかな酒の席の話である。




もう一話で本章終了。
勢力まとめを書いた後に東の海編へ
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