とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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023:ROMANCE DAWN

「ホロホロホロ! 結局この船の人員はほとんど変わらねぇな!」

 

 うん。ホントなんでだろうね。

 

「キャプテン。作戦は分かったが、配置は以前のままで問題ないか?」

 

 うん、なにせ人員がほぼそのままだからね。なんでだろうね。

 

 …………。

 

 ねぇ、ホントなんでさ。

 

「海軍がどう動こうとも、鍵を握るのは速さだ。操舵もそうだが(かい)も使う時があるかもしれない。操船寄りに人員を割け。ロビンは補助を」

「了解」

「分かりました」

 

 いやまぁ、最悪ロビンに操船任せて俺が船に乗ってくる奴や砲弾全部蹴り飛ばすか、あるいはロビン抱えて走って適当にかく乱したうえで逃げるつもりだったからスゲェ助かるんだけどさ。

 

「私は防御を考えなくていいんだな?」

「あぁ。砲弾は俺が受け持つ。ダズ、甲板に乗り込んだ奴は基本的にアミス達にやらせろ。上手く指揮を執れ」

「ホロホロホロ。一応ゴースト化もしてるんだ、任せろ。連中をビビらせてやる」

「了解した、やってみせよう。アミス、いいな?」

「はい! 持ち場を死守します!」

 

 おかげで取れる作戦は大幅に増えた。

 相対する数は圧倒的。

 だが、向こうには多くの不安要素がある。

 

(こちらの想定通りに動いてくれれば活路はある。……活路はあるんだけどなぁ……)

 

 モモンガという大佐が牽引する臨時避難船が徐々に遠ざかっていく。

 あるいは向こうに砲弾が撃ち込まれるかもしれないと警戒していたが、本部大佐がいるとなるとうかつに撃てないか……あるいは――。

 

(より逃げ場のなくなる基地の近辺ではなく、やや離れたここで襲撃をかけたのは被害者家族の目を避けるためか……)

 

 案外、こっちが海兵を何人か返したのは向こうにとっても渡りに船だったのかもしれない。

 なにかしらの言い訳の材料にはなると考えたかもしれない。

 

 式典そのものは予定通り用意が進められていたにも関わらず、こうも大げさに仕掛ける。しかも中途半端に民間人の目を避けてだろうし……。

 

 だがやはり、やり口が雑で適当だ。

 行き当たりばったりの思い付きとしか思えない。

 

(やはりセンゴクさんはいないと見ていいか……)

 

 センゴクさんがいた上でそういうことになる可能性もなくはなかったが、それにしても仕掛け方も仕掛ける場所も雑だ。

 

 仕掛けてこなかった時点でサカズキもいないし、クザンはマリンフォードにいることがほぼ確定。

 

(……駄目だ。事態を抑えられる人間がいない)

 

 なにせここにいる一番のお偉いさんが――

 

 

『よぅし……それでは全軍でお前達を攻撃する! 後悔するなよ『抜き足』ぃっ!!!』

 

 

 あの馬鹿である。

 敵船一団の動きを見て、ダズは深いため息を吐いた。

 

 

「……キャプテンの予想した通りの動きだな」

「ロビンの身柄が欲しいんだ。まぁ、だから包囲したがるのは理解できるが――」

 

 

 

 

「――もっとよく考えるべきだったな」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「モモンガ大佐より、安全圏まで下がったとの報告が入りました」

「よし……艦隊に指示を出せ! これより『抜き足』の一味を包囲する! 全員、海楼石の手錠を用意しておけ!」

 

 勝った。

 西の海(ウェストブルー)統括支部長の頭は、すでにニコ・ロビンを確保した後の事に想いをはせていた。

 

(事後処理は本部からでしゃばった大佐に任せればいい。どうせこの支部に残ってる将校は関係ない奴も全員取り調べを受けるんだ)

 

 身体の一部を好きな場所に、植物のように咲かせる能力を持つと聞いているが所詮は子供。大して戦闘慣れもしていない能力者など脅威にはならない。

 

(海賊に成り下がった海兵共は、新兵やら技能訓練しか受けてない連中。顔しか取り柄のない雑魚だ)

 

 ならば大した脅威ではない。

 

「14の身と言えど相手は海賊! 容赦するな! ニコ・ロビン以外は全員斬り捨てろ!」

 

 海賊を討つという大義名分を得た以上、理は自分にある。

 特に口を割りそうな残った連中さえ全員殺せば、少なくとも逃げてジョーカーの手の者と落ち合うまでの時間は稼げる。

 

 そう男は考えていた。

 

「まずは脅しで大砲を撃ち込め! 反転する間を与えるな!」

「と、統括支部長!」

「なんだ!? さっさと砲撃を始めろ!」

「そ、それが――」

 

 

「抜き足の一味、反転せず! 帆を上げてまっすぐこちらに突っ込んできます!!」

「………………」

 

 

「ば、馬鹿なのか!!?」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

「帆を張れ、進路二時の方向! 風を逃がすな!」

 

 残った海兵――元海兵で、あの島で過ごしている間に帆船の扱い方を練習していた面子が帆を張り風を受け、手の空いた者は(かい)を漕いで船を加速させている。

 

「確かに包囲は効果的だ。だが結果として敵は数を分散させ、船団の層が薄くなっている。そこを突破し、そのまま海域を脱出する!」

 

 それに包囲のために動き始めた艦隊の両翼は動きがバラバラだった。

 慣れていない事が丸わかりだ。包囲のための艦隊機動訓練を行ったことがない組み合わせなのだろう。

 おかげでいくつかの船団と船団の間に隙が存在する。

 

「沖に向けて反転していればその間に距離は縮まるし、それで逃走に一時成功しても逃がすくらいならばと数に任せた砲撃をされかねない」

 

 敵もこちらの行動に泡を食ったのか慌てて砲撃してくるが、明らかに脅し目的で直撃は一発もない。

 離しすぎだ馬鹿め! 威嚇目的でも当てるつもりで撃たないと意味がない。

 これでは、ロビンの身柄をなんとしても生きたまま確保したいという意図が透けて見えるだけだ。

 

「幸い風は追い風だ! 船の軽さと小ささ、そして喫水の浅さがこちらの利点。相手の航行が難しい地点を切り抜ける! 操舵手の腕が試されるぞ!」

 

 実際、妙に風がさっきから強くなってきた。

 これなら問題ない。想定よりもかなり速度が出ている。

 

 ……ちまちま反転してたら横転しそうなくらいにはな!!!!!!

 

 神様仏様クレメンス様! 海賊やってる今はともかくとして俺前世でなにか悪い事しました!!?

 

「接近すれば当然危険だが、向こうからすればロビンを奪うチャンスと取る! そうなれば砲撃の可能性は更に減る!」

 

 砲撃さえ無くなれば俺も甲板掃除に参加できる。

 なにせ今回は狙いがロビンだ。

 

「ダズは今回あまり前に出るな。ロビンを捕らえるとなると、対能力者装備を揃えている可能性が高い。アミス達を上手く指揮して対応しろ。鋼の身体だからと油断すれば捕えられるぞ!」

 

 海楼石の錠はもちろん、あの変な網もあると考えた方がいい。

 いざとなったら本気の速度解禁して、まだ練習中の杓死(しゃくし)を使う必要があるかもしれない。

 

「私は敵の足を奪えばいいんだな?」

「そうだ、とにかく近くの船を無力化していけ。同時にミニホロで舵輪や櫂を破壊することも忘れるな」

「ホロホロホロ! 任せろ、片っ端から凹ませてやる!!」

 

 よし。以前ゲッコー・モリアのゾンビ兵と戦っただけあって全員士気が下がってる様子はない。

 

「キャプテンさん! これ! 出来たよ!」

 

 船室に戻っていたロビンが、俺の装備を持ってきた。

 

 密輸船や先日の隠し倉庫から頂いた大量の武器や火薬、その中でサイズが均一な脇差サイズの物を解体して、俺の言葉を元にロビンや手先の器用な人員がアレコレ試行錯誤しながら作ってくれた装備だ。

 

「助かる、ロビン」

 

 黒くて丈夫な革手袋。

 元は密輸船の中にあった略奪品の一つだったそれに、その指先一本一本に刀の刀身が取り付けられた一見珍妙な武器――『猫の手』と呼ばれるものだ。

 

 初めて手にして、初めて装備したにも関わらずしっくりくる。

 重さも気にならない。最低限にと鍛えていた分が幸いしたようだ。

 

「さて、敵も泡食って進路を変え始めたようだ」

 

 当初は自分達が反転して逃げた時くらいの距離を想定して船を進ませていたんだろうが、こちらが想定外の速度で接近したことで慌てているのだろう。

 おかげで大砲の照準合わせも手間取っているのか、少しの間だろうが砲撃が止んだ。

 

「よし、行くぞ」

 

 あぁ……やっぱり俺、あのクロなんだよなぁ。

 すっかり馴染んだ仕草で眼鏡の位置を直して、さらに隙が増えた艦隊を見る。

 

 やはりだ。

 個々で統率力の高い船はあるようだが、一番上で指示を出す奴が海戦に慣れていない。

 船団としては二流だ。

 

 うん、問題ない。――いける。

 

 

「諸君――出航(・・)だ」

 

 

 背後で、鬨の声が上がった。

 

 




今週のジャンプ、長期連載のワンピ二次作者ほど頭抱えてるんじゃなかろうか

次回はマリージョアの描写を入れながら海戦

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