とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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ちょっと最近本誌バレ勢多いので気を付けてくだせぇ


026:脱出

『貴様、七武海の地位に興味はあるか?』

 

 …………。

 

 ははぁ、七武海。

 

 七武海かぁ。

 

「……それは、お誘いでしょうか?」

『どうかね?』

 

 てめぇ、明言を避けやがったな!?

 

「……この非才の身に、五老星程の方々から目をかけていただいたのは大変光栄ですが……」

『断る、と?』

「ロビンの事もあります。うかつに自分が政府側に入るわけにはいかないでしょう」

 

 権力側に取り込めば後はどうとでもなるって言いたいのが丸見えじゃボケェ!!

 と言っても、同時にそこまで敵対したくないという意図も見えるし……。

 

 海軍側と妙なパイプを持ってしまった俺を、ニコ・ロビンという危険因子ごと取り込んで監視下に置きたいってのがまず思いつくことだが……中に入れば暗殺だって容易くなる。

 

 ……うん、やっぱうかつに入るのは拙い。

 

「なにより、七武海という制度に疑問を持っている自分程、その任に似付かわしくない者はいないでしょう」

『疑問? 七武海にか?』

「はい」

『……それは海賊に権利を認める事についてか?』

「いえ、土地と時間を与える事です」

 

 クロコダイルとかクソダサイキリドピンクグラサンとかがまさにそれだしなぁ。

 

「王下七武海は、文字通り世界政府の下略奪が認められている海賊です」

 

 ……いや、よくよく考えると文字通りっておかしいな。世界政府ってふわっとしたイメージでしかないけど連合国というかより実権を持った国連みたいな……それで王の下って――あぁ、天竜人がいたか。

 

「その海賊が、人物によっては世界政府加盟国に堂々と根を下ろし、長い時間をかけて同化できる。これは極めて危険です」

『……転覆を狙うことがあると? いかに認められたとはいえ海賊だぞ? 王はもちろん民衆が認めるとは思えん』

「いいえ。これから先の大海賊時代において、力ほど分かりやすい魅力はありません」

 

 そもそも、悪魔の実は図鑑が出来るくらいには知られているわけだし、人を操るやべぇ能力だって知られてると――いや、糸を操る能力で人まで操れるとは思わんか。

 

 ベッジだって城の能力でキャタピラ出してたし、考えてみりゃ悪魔の実ってなんかこう……アバウトというかいいかげんな所あるよなぁ。

 

「海賊は、政府や海軍が持っていない懸賞金という分かりやすいステータスがあります」

『……』

「ロビンがそうであるように、これは本来世界政府への危険度を表す金額ですが、民衆からすればそれは強さを表す数字に見えるでしょう。それが曲がりなりにも政府に認められている。これが話をややこしくします」

『民衆からすれば、危険度の意味がわずかに違う。だから読み違えると』

「加えて大衆はどうしても理解の及ばない物を避け、分かりやすい物に流れるものです。それが王だろうと海賊だろうと」

 

 クロコダイルの方はまだ分からんでもない。あれは本当に時間をかけて溶け込む作戦だった。

 でもドレスローザは……うん、ちょっとこう……。

 

「なにかの理由で王家に多大な不審を感じた時、その先に何があるかを見ずに力を持つ者を求めるのは想像に難くありません」

 

 まぁ、あの流れで民衆に何が出来たかっていうと仕方ないんだけどさぁ。

 

「そしてなにかが起こった時、海賊の行動がそのまま政府の威信に泥を塗りかねない。あまりにも……リスクが高すぎる」

『……『抜き足』のクロ。貴様、なぜ海賊になった。いや、きっかけは分かっておる。天竜人――ジャルマック聖の娘の奴隷要請を断ったからだな』

「はい」

『その後お前には生存のみで1000ベリーの懸賞金が懸けられた。……その額ならば、隠れ住むこともできたのではないか?』

 

 お前ら全員顎骨砕かれたいのか!?

 ……懸賞金付けた奴――多分あの名前知らんアフログラサン海兵も似たような考えだったんだろうけど。

 

「それがどれだけ少額だろうと、賞金首は賞金首です」

『…………』

 

 マジで物買うだけでもすんげぇ苦労すんだよ!

 下手に平和な東の海(イーストブルー)だったからなおさら!!

 懸賞金も低いから舐められて小遣い稼ぎに捕まえようとする奴チラホラいるしさ!

 

『七武海ならば、もう追われる事はない。ニコ・ロビンもだ』

 

 いらんわボケェ!

 七武海ってのがなんなのか分かってんのか!?

 ルフィのパワーアップ練習台のサンドバッグなんだぞ大体!?

 

 そもそも実績ない子供が七武海なんぞになろうものなら、功績目当てで玉石混淆だろうが海賊共がわんさか――それが狙いかお前ら!!

 

「この身には不要です。堅気に手を出したことはなくとも、略奪で生計を立てている罪人である事に変わりはない」

 

 正直ロビン――オハラもそうだ。

 人格者達の集まりではあったのだろうし、空白の百年の研究を禁止するなんてのも悪法ではあると思うが……法は法ではあり、世界政府にとっての罪人であったのは間違いない。

 

 まぁ、これから先20年に渡って逆らう罪人がわんさか出てくるのがこの世界なんだけど。

 

「まぁ……確かに海賊の他にも裏の道はあったと思います。空き巣、スリ、山賊やマフィア」

『そうだ、それを聞きたい。なぜわざわざ海に出た』

 

 いや、なぜって――

 

「それら全て、罪のない堅気を食い物にするからです。それでは私は自分の生き方として納得できない」

 

 

「空き巣やスリは当然、仮に犯罪者を相手に絞ったとしても、一つの土地に根を張るのならばいずれは手を出していたでしょう」

 

 

「縄張りが全てとなる山賊やマフィアでは尚更でしょう」

 

 

 ……あ、いや、コイツらひょっとして自分が空白の過去を暴こうとしているとかなにか考えている?

 

 

「誰にも迷惑を掛けずに生きるなど、堅気でも無理な話でしょうが……」

 

 

 今回の七武海勧誘は、権力に取り込む目的もあったけど、同時に会話でこちらの目的を探るためか?

 なにせ俺はロビンを仲間にしている。

 

 

「賞金首となったからこそ、せめて自分が納得できる生き方を選びたい」

 

 

 ゲロゲーロ、また面倒くさい連中に目を付けられたなぁ。

 仕方ないけどさ。

 

『ならば、せめてニコ・ロビンを渡せ』

 

「分かり切った答えを、貴方々は一々必要とされるのか?」

 

『……後悔するぞ。貴様の手元にニコ・ロビンがいる限り、我々は貴様を追い続ける』

 

「やはり、最大の目的は彼女でしたか」

 

『貴様は薄々何かに勘付いているようだが、だからこそその少女には消えてもらわなければならない』

 

「空白の百年は、政府にとって余計なものだと?」

 

『そうだ』

 

「余計な物を削り続ければ、その果てに待つのは先細りし、摩耗した世界ではないですか?」

 

『…………』

 

「すべての物事には意味がある。それが隠されれば、何年経とうともその意味を探す者は必ず現れる。その度に関係ない人間を巻き込んで全て消すのですか?」

 

『……そうだ』

 

 こいつらホント! 言っちゃなんだけど隠し方下手くそか!

 というか空白の百年に関しての方針、本当に五老星が決めてるのか!?

 もっとこう……ずっと愚直に守ってきた方針が合わなくなってきたとかそういう感じもするんだけどな……。

 

 これまでずっと守られてきた世界が、クローバー博士が言っていたポッと出の思想一つでそこまで混乱するんだろうか?

 

 ……いや崩壊するかもしれんな、ここ腐った貴族が支配するワンピース世界だったわ。

 

 …………。

 

 あれ? 崩壊した方がよくね?

 

「……理解はできます。表に出れば事態が大きく動く物を恐れ、それがどれだけの大火になるか分からないのならば蓋をしようというのは、分からなくもない。それもまた、確かに正義なのでしょう」

 

『ならば!』

 

「だが、私の仁義はこう言っている。ただ知識を得ただけで、それらを皆殺しにするような真似は断じて正義ではない」

 

『っ』

 

「そも、今回の奴隷の件も歴史と同じく、怠惰な安定だけを求めた結果の暴走ではないか。仮に今回の一件、捕まっていたのがただの一般市民だったのならば、海兵はどこまで動いた? 囚われた者達の心身に、果たしてどこまで寄り添った?」

 

 小さく、呻く声が聞こえてきた。

 おそらく海兵の誰かだろう。

 

 ……センゴクさんだったらマジですいません。そりゃあ後の元帥の心にダイレクトアタックですよね!

 

 でももうロビン拾った以上、俺には引き返す道も逃げる道もないんですよ!

 

「私と以前戦った海兵は私にこう言った。私が奴隷として捕縛されていれば済んだ話だと。世界はそうして回っていると」

 

『……その通りだ』

 

「違う。私にそれは出来なかったが、誰もがただ耐えているだけだ。奴隷にされた者も、そうなる恐怖に怯える者も、……今にして思えばあの時の中将殿も。ある意味で、そういう環境の中でしか生きられない天竜人もだ」

 

 ふと、ガープの事を思い出した。

 ガープとかまさに耐えてる人だろうなぁ。

 

「下がただ耐えるのは簡単だ。それを当たり前と思うのも簡単だ。だが、それではいずれ限界が来る。もたなくなる日は必ず来る」

 

 というか、もうすぐ来るんだよなぁ。

 まだ革命軍はないけど、ルフィが産まれる頃には革命軍出来上がってるんだろうし。

 

「その可能性から目を逸らし、世界政府という歪な組織の背筋を正さず、多くの犠牲を当たり前とする怠惰な安定こそが正義と謳い、ただ古い文字を読めるだけの少女一人を追い回し、殺すという」

 

「ならば私は、私の矜持の下にこう言おう」

 

 

 

 

 

「来い。受けて立つ」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 一隻の船が、海軍の砲撃を物ともせず、包囲網を突破する。

 

 わずか4人の子供の海賊と、その下に就く元新兵ばかりの名もなき海賊団が、後に語られるだろう船出を果たした。

 

「いや……だろう、ではないな。私が彼らを――この船出を語り継がねばならない」

 

 戦闘が行われていた海域から少し離れた所にポツンとある岩礁の陰に隠された船の上で、盗聴用の電伝虫を手にした一人の男が、全てを見届けていた。

 

「征くがいい。その気高き矜持を掲げて」

 

「世界がお前達に追いつくのか、あるいはお前達が世界を切り拓くのか」

 

 顔に大きな入れ墨をいれたその男は、海賊たちの船に追いつくところだった唯一の軍艦が大量のゴーストの群れに襲われ、更に帆が切り裂かれるのを見て満足げに笑う。

 

「私も、覚悟を決める必要があるな……」

 

 男は、必死に海賊船を追いかける海軍たちを尻目に、静かに船を出航させた。

 

 男の名はドラゴン。

 

 後に、世界に戦いを挑む男であった。

 

 




言ってやった言ってやった悔いはないんだ逃げ場はないんだタイムマシンはどこかなばっばばっばば!!

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