幻想水滸伝の5? だったかで一時期占領されていた街の描写があったけどアレと変わりなくてマジでやべぇ。
「よく、よく帰って来てくれたな」
巨漢の海兵が、若い海兵達を一人一人抱きしめている。
皆、ボロボロの身体で立つこともやっとの者もいるが、ゼファーが会いたいと零した所、それを聞きつけわざわざ訪ねてきてくれた海兵達だ。
むろん、誰とも会いたくないと拒絶する者や、反応する気力も湧かない者達もいるが……。
「教官……はい、戻ってきました」
その中で、一人だけほとんど疵のない女海兵がいた。
ついているのは手首と首のあたりの拘束の痣と、少しの傷、そして腕のあたりには戦闘で付いた切り傷のみ。
先日の海戦が勃発する直前に、『抜き足』のクロの船を降りて
「はい。……あの」
「迷ったのだろう? 当然だ。
うつむく彼女に集まる視線は様々な物だった。
感謝するような眼の者もあれば、羨望の……あるいは嫉妬や妬みが混じった暗い目もある。
「教官……ゼファー先生……私は……私は……っ」
だがそのような視線などまるで気にならないように、彼女は俯いたまま涙を零すばかりだった。
大きく武骨な腕で撫でられるがままの海兵に、ゼファーは思わずと言った様子で口を開く。
「……残りたかったか?」
野暮だと分かっていた。
分かっていたのだが、思わずゼファーは口にしてしまっていた。
海兵は、泣きじゃくるのを必死に堪えながら、肯定も否定もせずにただ必死に耐えていた。
だが、思わず膝をついてしまったその様子から、本当は彼女がどうしたかったのかが、ゼファーには痛いほどよく分った。
「すまない。すまない……っ!」
奴隷になりかけた者、奴隷として嬲られた者に対する謝罪。
そういった腐敗と戦わなくてはならない海軍が腐敗に蝕まれていた事への謝罪。
どれだけ鍛え、どれだけ多くの海賊を狩ろうとも無力な自身への贖罪か。
「本当にすまなかった……っ!」
老兵もまた傷ついた海兵達と同じように、涙を堪えていた。
安全な地で何も知らずに生きていた自分が涙を零すことは、必死に耐えがたきを耐えて生き抜いた者達への侮辱になると必死に堪えていた。
海兵が息を取り戻してから、ゼファーは海兵にもう一度語り掛ける。
「これは聴取ではない。ただの雑談であり、俺の好奇心でもある」
「どうか、お前が見たままの話を聞かせて欲しい」
「皆を救ってくれた、『抜き足』という海賊について。――クロという男について」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「いやぁ、必ずこの先に頭角現す子になると思ったけど勢いありすぎじゃない?」
マリンフォード内の将校用の執務室にて、クザンは西の海から上がった報告書に目を通して呆れていた。
最初に聞いたのは二月ほど前、爪痕に黒猫の横顔という変わった旗を掲げた海賊が、西の海に出現し、そこらの海賊やマフィアを相手に暴れているという報告だった。
様子を見ていた海軍の偵察船から、やけに海戦に手慣れていたというその海賊の話を聞いて、事情を知る者はあの黒い長髪を後ろで束ねた眼鏡の少年を思い浮かべていた。
大参謀と言われるつる中将をして、『風に助けられた所もあるが、急造艦隊の弱点を見事に突いた』と分析した海賊。
その手並みから、真相のほとんどが隠される事になったとはいえ危険度はさらに上がり、結果として『抜き足』の懸賞金は跳ね上がる事になった。
その一味もだ。
「……旗を掲げ始めてから二か月で、もう立派に西の海の一勢力になってるじゃない」
おそらく、例の海兵奴隷に関わっていたのだろうマフィア勢力によって、裏でクロたちには政府のかけたものとは別の特別懸賞金が懸けられていたが、それをものともせずに全てを撃退している。
本来ならばとっくに本部中将クラスかそれより上が探索に向かっている所だ。
なにせ、それほどの強敵の下に世界政府の潜在的不安因子のニコ・ロビンがいるのは間違いないのだ。
にも拘わらず、海軍が人をやれないのにはまた違う理由があった。
「おんやぁ? 君、センゴク元帥から呼ばれてなかったっけ?」
「ボ……いやぁ、
「また海賊かい?」
「いんや」
「革命を煽る連中が現れたんだとさぁ」
―― 下がただ耐えるのは簡単だ。それを当たり前と思うのも簡単だ
「まさか、例の海賊かい?」
本部大将となった同僚の言葉に、クザンは顔を横に振る。
「いいや、起こったのはグランドライン内の島。まだ西の海にいるクロ君は無関係だろうさ」
だが、クザン――青雉も黄猿も顔をしかめている。
これがもしクロの仕業なら、まだ話が早かった。
世界政府の存在を認めつつも、在り方に疑問を持っていた少年海賊が革命という手段に走るとはだれも思っていないが、そうなってもまぁおかしくはない。
―― だが、それではいずれ限界が来る。もたなくなる日は必ず来る
だが、立ち上がったのはまた違う人間だ。
そしてその立ち上がった世界政府への怒りは、瞬く間に広がりつつある。
「青雉、聞いたかぁい?」
「何を?」
「西の海の将校たちから、『抜き足』の七武海就任の嘆願が出始めてるってさ」
青雉は、あちゃあっと手を額に当てる。
「それを呑む子じゃないって……。ニコ・ロビンの事があるのに」
「そのニコ・ロビンの罪に関しての疑問が広がりつつあるって、センゴクさんが頭抱えてたよ」
きっと、これから先もあの少年海賊に関することで胃が痛い思いをし続けるんだろうなと、どこか他人事のように考えながら、青雉はあの時『抜き足』が言っていた事を思い出す。
「出来る事なら、わっしも一度話してみたかったねぇ。そのクロって海賊とは……」
「そりゃまたどうして……」
「本部の中でも噂の海賊だよぉ? モモンガ大佐が聞いたっていう海賊クロの言葉を聞いたセンゴクさんが、『訓示に使いたいほどの強い言葉だ』って言ってたの聞いたし、サカズキ――赤犬も普段海賊の事は誰だろうと罵るのに、『抜き足』に対しては何も言わないしさぁ」
あのサカズキが何も言わないという事にクザンは内心驚愕しながら、五老星とのクロの対談の時の様子を思い返すと同時に納得も出来た。
おそらく、クロという男は初めてサカズキの心を揺さぶった海賊なのだろう。
「ま、海兵の立場じゃ無理だって」
青雉クザンが自分の前に広げているのは、もはや西の海で知らぬ者はいないだろう男の手配書だ。
―― 『抜き足』のクロ 一億三千八百万ベリー
―― 『オハラの悪魔』ニコ・ロビン 七千九百万ベリー
―― 『鋼刃』ダズ・ボーネス 一千五百万ベリー
―― 『ゴースト・プリンセス』ペローナ 六百万ベリー
「海兵の立場じゃ話せないでしょ。こんなヤバい海賊の
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
旗揚げから更に二月、とにかく自分達は拠点の開拓と訓練と略奪を繰り返す日々を送っている。
「キャプテンさん、陸のマフィアの人達に動きはないよ? こっちにまだ気が付いていないみたい」
「砲撃訓練も兼ねている中で夜の襲撃はどうかと思ったけど、これなら上手くいくな」
「そのようだな……アミス、電伝虫で指示を。各艦砲手、照準合わせ」
「了解、
背中に大きく、そして右胸に小さく海賊旗の猫のマークが刺繍された黒スーツを身にまとったアミスが敬礼して、電伝虫で他の船に指揮を飛ばしている。
今回は、海兵奴隷の一件に片がついてから急に増えた誘拐からの人身売買の流れに歯止めをかけるための襲撃である。
ある筋からこの島に人身売買の拠点があると聞き、ペローナ、ロビンという我が海賊団の諜報畑のトップツーに調べてもらったが、一応当たりだということで夜を見計らい、事前に捕まっている人間にも砲戦で被害が行かないことを確認してからのこの襲撃である。
(少数精鋭で行くつもりだったハズが、もう船三隻の海賊団になってるしなぁ……)
略奪行為も、5大ファミリーのうち海兵奴隷の案件に関わっていたファミリーが他の人身売買や誘拐に深くかかわっていたので、コイツらの拠点や船を最大の目標にしてアレコレ攻撃していた。
すると、その過程で解放した売られる前の人たちや、中には家族を人質に取られて動けなかったという人達が参加を希望して……気が付いたら旗揚げ時の三倍の規模に増えている。
どうして……どうしてこうなったクレメンス……。
おかげで食い扶持確保のために略奪も開拓も急ピッチで進めなきゃいけなくなった……。
原作でゾロとの戦いで見せたあのカッコいいドリル技を、畑を耕したり俺が蹴って拡張してる洞窟の細かい仕上げのために覚えさせてしまってダズには本当に申し訳ないと思っている。
……いや、本人滅茶苦茶拠点作り楽しんでたけどさ。
わざわざ略奪で稼いだ金でいろんな本まで買っちゃって。
ペローナもロビンも、というか海兵組も含めて全員畑仕事や大工仕事めっちゃくちゃ楽しんでたけど……海賊の姿じゃねぇ。
満面の笑みで鍬振ったり種蒔いてるのはそれ農夫なんだわ。
考えてみれば戦闘や避難の訓練をわざわざするのも、なんかイメージする海賊と違うな?
(こりゃ、最低限の用意出来たらグランドライン入りも急いだほうがいいな……)
「にしても、キャプテン。敵はこちらが海で大砲を並べているというのに気付かないものだな」
「船を黒塗りにすれば、夜だと気付かないだろうと思ってたけど本当に気付かないとはな……正直、自分も予想外だった」
略奪品の中には武装の類も多く、刀剣や銃、弾や火薬の類もあれば、数門だが大砲まで揃えてあった。
ずっと使ってきたこの船に一門、横に並んでいる元マフィアの船を改造した暫定二番艦、三番艦にそれぞれ二門ずつ積んである。
「キャプテン、こちらの砲手より照準合わせ完了の報告が」
「他の船は?」
「二番艦完了。三番艦……今完了しました」
能力者の存在もあるし空飛べる奴も多いからあれだけど、なんだかんだ船沈めたら勝ちな事多いからなぁ。
通常の戦闘に関しての訓練はもちろん、海戦に関してももう少し練度高めるべきだな。
戻ったら一度演習するか。
「よし、全艦砲撃」
「ハッ! 全艦、砲撃開始!」
俺の号令と共にアミスが復唱し、同時に計五門の大砲による一斉射撃が始まる。
場所は港町があるそこそこ大きな島の外れも外れ。
騒音を除けば民間人に被害も出ないだろう。
「ペローナ、そっちは!?」
「ホロホロホロ! ボートの用意はできているぞ!」
砲撃による轟音の中、大声で尋ねるとペローナの返事が聞こえてくる。
「よし、ダズを始め戦闘員はボートに乗り込め! 事前に指定していた弾数を撃ち込んだ後、上陸! 敵残党を始末したのちに略奪に入る!」
ただ暴れるだけだと、この大海賊時代すぐに潰されてしまう。
キチンと経験積ませて、危機の際にも動ける人材に育てなけりゃなぁ。
「クロ殿」
ふと、船に同乗していた今回の情報提供者が声をかけてくる。
「私も戦闘に参加したい。同胞を救いたいという私の願いを聞き入れ、船を出してくれたのだ。せめて戦力として一助をせねば、私の顔が立たぬ」
船首に立つ俺の後ろに控えて状況を見ていた、黒スーツだらけのこの船の中で唯一白い胴着に袖を通した
「
つい先日ウチの島に偶然たどり着いた魚人の友達――聞けば魚人空手師範にして魚人柔術武闘家というすんごい武闘家が、そこにいた。
……微妙に聞き覚えあるような見覚えあるような……。
まぁ、いいか。
「すまない。ウチの戦闘員は、海戦はともかく白兵戦にはまだまだ不安がある。そういってくれると助かる」
「うむ、任されよ」
仲間になるかどうかはともかく、話の分かる魚人と知り合えたのは大きかったわ。
なぜハックと出会ったかについては次回