とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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002:とっさの一言

 

――ガァァァンッ!!

 

 最悪だ。最悪すぎる。

 

「クソ……今の蹴りですら通らないか」

「全身刃物なのでな」

「そのまま全身鋼か」

 

 なんでよりによって悪魔の実食べた後のMr.1に会うんだよ!

 というかなんで悪魔の実をあっさり見つけて食べてるんだよ!

 ズルい! 俺も欲しい!

 

 ……いややっぱいいや。なんかどっかで海に落ちて大惨事になる気がする。

 それならどこかに売って資本金にした方がマシだ。

 

「どうした、よそ見か」

 

 あっぶね!

 刃物化で槍のようになった腕による突きを蹴り上げて軌道を逸らす。

 靴の底に鉄板仕込んどいてよかった! 敵の顔や股間を効率的に踏み抜くための装備だったけど役に立ってる!

 

(大丈夫だ、少なくとも無抵抗に殺されるほどのレベルじゃない)

 

 本当に実を食べてそんなに経っていないようだ。

 それなりに時間が経っているからかある程度能力を把握しているようだが、おそらく試行錯誤の期間なのだろう。

 アラバスタでゾロ相手に見せた技の数々――特にあのドリルみたいな奴を出してこないし、体の一部を刃物化しての普通の格闘しかしてこない。

 それに今ので気が付いたが、まだ刃物の鋭さがあの頭おかしいレベルじゃない。

 

(能力で鋼鉄になっても真芯で入った蹴りは多少ダメージが入っている……ような感触がある。能力手に入れても完全に無敵になったわけじゃない)

 

 無理もない。

 食べたことがないから分からないが、自分の身体が急に変化してそれを使いこなせるはずがない。

 

 悪魔の実を食べてすぐの戦闘で、多少の試行錯誤をしながらも使いこなして麦わらの一味と真っ向からやり合えたCP9の面々、カクとカリファのセンスがおかしいだけだ。

 

「抜き足」

「……っ、消えた!?」

 

 そして、速さにおいてはこちらに分がある。

 なにせ俺はキャプテン……ではまだないがあの百計のクロ。

 ワンピース世界でも速さにおいては屈指のキャラ……だったハズの男だ。

 

 そして超人系(パラミシア)自然系(ロギア)とは違い肉体が触れなくなるわけではない。

 そしてこっちには一つ切り札がある。

 

「どれだけ加速しようが、この身体には傷一つ付けられん!」

 

 と思うじゃん?

 ほれ、パス。

 

「!!?」

 

 とっさに切り札を投げつけて、ダズの身体に触れさせる。

 

「踏ん張れ」

 

 さすがにコイツは殺したくないというか子供と言えど殺せる気がしないというか。

 ただ、今のダズなら逆に殺される気はしない。

 

 抜き足で加速させた状態ではなった回し蹴りで、投げつけた切り札――座礁した海軍の船から回収していた海楼石を、ダズの身体に埋め込まんばかりの勢いで踏みつける。

 

――ドゴッ!!

 

 これまで散々響いた金属音が、初めて肉に衝撃が走る音へと変わった。

 

「がは……っ!?」

 

 どれだけの蹴りをどこに入れてもほとんど変わらなかった表情が、ようやく苦痛へと変化した。

 

 押し付けた海楼石を蹴り上げて回収する。

 これ失くしたら俺はただの足が速くて鉄板仕込んだ靴で顔とか股間を潰すだけの雑魚になってしまう。

 

 本当は対能力者ではなく、船の底に敷き詰めてカームベルトを渡る船を作るためにあの時出来るだけ回収した。

 

 おかげで大量に運んでは隠して運んでは隠してを繰り返している最中に他の海軍に見つかってエラい目にあったわけだが。

 

 とにかく、これはいい。

 

「ぐっ……なるほど、その石が切り札か」

「ああ」

 

 海楼石(かいろうせき)

 能力者相手に反撃の余地があるというのは実にいい。

 

「つまり、その石にさえ触れなければいいわけだ」

 

 俺の低スぺ戦闘能力で通用する相手ならば。

 そして相手は後の強敵Mr.1。

 

 うーん、これはダメかもわからんね。

 

 相手も油断なく構えている。

 というか、さっきよりも構えが綺麗だ。

 コイツ、戦闘の中で成長しやがったな!?

 これだから原作強者は!!

 

 お前も中身がヘタレになーれ!!

 

「そうだ、実際今の俺の腕ではこの石なしではお前にダメージは与えられない。延々蹴り続けられれば蓄積したダメージで倒せるかもしれないが、それにどれだけの時間と体力が必要か見当がつかない」

「……」

「だが同時に、お前も俺を捉えきれない。違うか?」

 

 正直な話、逃げようと思えば逃げられる。

 足を特に鍛えていたのも、クロだから足は絶対に育つという判断もあったけどいざという時の逃走確率を高めるためでもあった。

 

 情けない男と笑わば笑え!

 少年漫画でしかも海賊の世界とかいうフラグ乱立地での生存確率を上げるためならなんでもやったるわい!

 

「ダズ、だったな」

 

 尋ねると、ダズは意外と素直に小さくコクリと頷いた。

 

「親はどうした」

「……ファミリーに殺された。なにをやったかは知らないが、報復だそうだ。そこから逃げて、今は一人だ」

 

 ……。

 

 うろ覚えだけど、そういえばコイツの夢って確かヒーローだったな。

 あれはひょっとして……そういうことだったのか?

 

「お前、今何歳だ?」

「……10……だと思う」

 

 マジか。

 俺と違って内面も10歳でそんだけ強いの?

 

「お前は強いが俺より遅い」

「……」

「俺は速いがお前よりも弱い」

「自分で言うのか」

「間違っているか?」

「……わからん」

 

 この年でこの冷静さ。スゲェよダズは。

 普通もっとこう……浮かれたりするだろう?

 クロコダイルが連れて行く訳だわ。コイツ頼もしすぎる。

 

「なら、俺とお前が一緒なら出来る事がもっと増える。そうだろう?」

 

 味方なら。

 味方なら――これ以上なく頼もしい。

 

「俺と一緒に行こう、ダズ・ボーネス」

「……俺は賞金稼ぎで、お前は賞金首だ」

 

 今はそれでいい。俺もまだしっかりとした旗を上げるには早いと思っている。

 

「俺とお前で賞金首をとればいい。俺は表に出られないけど、お前なら換金できる。お前の能力と俺の足なら、今よりもずっと効率的に稼げる」

「……」

「俺がここに来るまでにどれだけ短期間で大量の山賊を蹴散らしたか知っているだろう? 換金していればどれだけの額になったのかも」

 

 子供を相手に舌先で言いくるめようとか外道の所業ではあるが、もうこの際なりふり構っていられない。

 

 予想を超えた優秀な人材が転がっているんだ。

 しかも能力者。

 勧誘せずにはいられない。

 

「この海を俺はよく知らないが、マフィアの影響力がいかに強いかはよく分かった。お前の両親の件も」

「……」

「お前の両親はマフィア――どこかのファミリーの不興を買って殺されたんだろう。で、お前は?」

 

 大抵マフィアってのは情報網を持っている。

 さっきの会話で気付いたけど、俺が西側に来たのがバレていたところからみてかなりガチだろう。

 

「その息子っていうお前の事もバレているんじゃないか? 先日チンピラを返り討ちにしたっていう噂は、それじゃないのか?」

 

 眉がピクッと動いた。

 当たりっぽい。

 いや、当たりじゃないかもしれんが、本人はそうじゃないかと思っている。

 

「お前は強い。多分大体の敵は返り討ちに出来る。だけどこのままじゃあ、追手とずっと戦う事になるんじゃないか?」

 

 俺はこの男がいずれ偉大なる航路(グランドライン)に出る事を知っている。

 海賊王や一繋ぎの財宝(ワンピース)を目指す男とは思えない。

 おそらくクロコダイル――というかバロックワークスの勧誘リストに載ってそのまま話に乗ってグランドライン入り……といった所だと思う。

 

 大事なのは理由じゃない。

 西の海を離れたという事実だ。

 つまり、サンジにとってのバラティエやウソップにとってのカヤのようなこだわりが西の海にあるわけではない。

 

 多分。

 

「だが逃げてどうする。世界は弱者に優しくない。搾取されるだけだ。……俺の家族のように」

「なら、共に力を手にすればいい」

 

 なんとしてもここで壁役ゲフンゲフン――優秀な戦闘員候補を味方につける事は後々大きいアドバンテージになる。

 

 回れ俺の頭脳!

 

「弱者が虐げられるのは、強者が敬意を忘れつつあるからだ」

 

 回れ俺の舌!

 

「強者が敬意を忘れつつあるのは、自分達も弱者であったことを忘れつつあるからだ」

 

 思考の海に沈むんだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダズ・ボーネス! 俺と一緒に世界をひっくり返そう!!」

 

 

 もっと穏当な言葉をチョイスできなかったのかマイブレイン。

 

 

「この出会いは運命だ!」

 

 

 誰が俺の人生を泥沼に沈めろと言ったマイマウス。

 

 

 駄目だ、百計に到底及ばないこの頭脳とうろ覚えの原作知識だと、海賊王と冥王の伝説の名シーンの劣化パクリしか引き出せねぇ。

 

 ダズ・ボーネス少年も目を見開いて呆然とするばかりである。

 

 助けて。助けてクレメンス。

 

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