とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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予約投稿しそこなって早く投稿してしまいました、すみません


030:『海兵狩り』

「!? アミス殿! 全員下がらせよ!」

 

 最初にそれに気が付いたのはハックだった。

 

「ダズ! 前に出るぞ!」

 

 仲間ではないとはいえ、今いる面子の中でおそらく一番戦闘力の高いだろうハックが下がれという事はかなり不味い敵なのだろう。

 

(やっぱ倉庫の守り役に腕の立つ護衛を用意してやがったか!)

 

「アミス、ハック! 俺とダズが敵の相手をする! その間に目標建造物内部に突入! 中に囚われている者を救出して脱出しろ!」

 

 目標の施設は目の前だ。

 幸いもう数だけの雑魚は壊滅している。

 

 どれだけの強敵か分からないけど、救出までの時間を稼いで終わったら全力でトンズラすればいい。

 

 

―― ザンッッッ!!

 

 

 そう考えていた瞬間、目の前の建物が真っ二つ(・・・・)になった。

 

 …………。

 

 真っ二つ?

 

 

―― この一月、ろくな海兵が来ないはずだ。愚か者め……

 

 

 崩れ落ちる建物をバックに、一人の男――剣士が、血まみれの男を引きずって出てくる。

 鷹のように鋭い眼(・・・・・・・・)の男だ。嘘じゃん。

 

 嘘じゃん!!!!!!!!!!!!???

 

「嘘……海兵狩り(・・・・)のミホーク!?」

 

 ワッツ!?

 何その呼び名、ミホークにそんなんあったっけ!?

 

「アミス殿、あ奴を知っておるのか?」

「はい。ここ数年で多くの海軍将校を狙って襲っている賞金首です! 最近ではもっぱらグランドラインで活動していたはず……どうして西の海に!?」

 

 なにしてんのコイツ!?

 

 いや、そもそも七武海って海賊の集まりだしそりゃ政府に睨まれるような事しとるわな!?

 

 だ、だだだ大丈夫だ。

 海兵が狙いというならまだ大丈夫まだセーフ。

 対話だ。まずは対話を試みて――

 

「だが最後の最後で運がいい。気になっていた男が会いに来てくれたのだからな」

 

 ? 誰のことだ? ハック?

 

「グランドラインに出ていないにも関わらず億を超えるほどの海賊、『抜き足』のクロ」

 

 …………………………………………………………。

 

 ダレノコトデス?

 

「ミホーク殿、我々の目的はその先に囚われている人々だ」

「そうか、今の俺の目的はお前だ。抜け」

 

 会話を! 会話をしてくれませんかお願いだから!?

 

 お前ってこんなに戦闘にギラついてる……奴だな! 暇つぶしで艦隊沈めるしな! 若い頃なら特に!!

 

「キャプテン、俺が――」

「駄目だ、下がれ! 命令だ! ペローナもロビンも手を出すな!」

 

 ダズが前に出ようとするけどミホーク相手じゃお前はアカン!

 

 この西の海は凪の帯(カームベルト)を通して新世界に繋がっている海だ。

 アミスが言うようにグランドラインで暴れて新世界まで来てから、どういうわけか凪の海を渡ってきたとするなら覇気を習得済みの可能性が極めて高い。

 

 現状、指揮官寄りの成長をしているダズの戦闘スタイルは、どうしても敵の攻撃を鋼の身体で受けるタンク役に近い所がある。

 

 それだと覇気持ちかつ剣士のミホークとは相性が悪すぎる。

 

 というか勝てる奴が誰もいねぇ!

 覇気持ちならモリア同様にペローナのアレも通用しねぇし!

 

「海兵狩り、この施設が何かは知っているのか?」

「知っている。姿は見ていないが、捕まっている連中は隠し扉の下だ。救いたいなら好きにすればいい」

 

 好きにすればいいって俺がそっちにいったら斬りに来るんでしょう!? 知ってんだからね!?

 

「もっとも、よほど大事な物らしく倉庫の中にまで人員を配置していたようだ。せいぜい気を付けることだ」

「……随分色々と教えてくれるんだな」

「手下を行かせる理由は多い方がいいだろう」

 

 そうだけどもさぁ!!

 

「……ダズ、聞いたな? コイツはなんとか俺が抑える。お前はアミス達と共に、一刻も早く囚われている人たちを解放した後船まで走れ。最悪、俺ごとここら一帯に再度砲撃しても構わん」

 

 砲弾程度なら避けられるし、多少でもコイツの気を逸らせれば逃げるチャンスが増えるかもしれん。

 

「ちなみに、捕えられている人間は見たのか?」

「いや、見ていない。そもそも興味がない」

 

 うん、だろうね。

 例によってまた海楼石で囲まれてるっぽいから、魚人開拓団のメンバーなのかどうかだけでも確認したかったけど。

 

「ダズ、急げ。お前達の行動が早ければ早いほど、俺も体力を残せる」

 

 まぁ、その前にズンバラリされたらマジでスマン!

 その時は全力で逃げてくれ!!

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「一閃!」

 

――カァンっ!

 

 あるいは音を超えているのではないかと思わせる程の速い一撃が、首を落とそうと走らせた刃を側面から蹴り上げ、防いだ。

 

「なるほど……。これが今の西の海最大の(ゆう)か」

 

 鷹の目と称される男がこの西の海に来たのは、今現在、この西の海がグランドライン並みの鉄火場になっていたからだ。

 

 海賊やマフィアはともかくとして、投入されている海軍戦力は本部中将クラスがゴロゴロと転がっていた。

 

 そしてその海軍戦力に執拗に狙われているマフィア勢力は、鷹の目にとってちょうどいい撒き餌に見えた。

 

 事情は不明だが、グランドラインでも中々お目にかかれない執拗な、海軍勢力による徹底攻勢。

 

 胸が躍った。血が沸き立った。

 

 マフィアを適度に攻撃して腕を見せ、もっとも激戦区に放り込まれるように図った。

 結果、何度かいい戦いが出来た。

 

 剣の腕を磨いた者、銃の腕を磨いた者、六式を磨いた者。――そして能力を磨いた者。

 

 海賊を打ち倒し、秩序を守らんと武を磨いた兵士たちと戦い続けた男の結論として、それらすべてを極めるのに必要なのは『覇気』だということだ。

 

 技術があっても覇気を習得せねばそれを持っている者に覆され、覇気を纏う者もそれを磨かねばさらに強靭な覇気の持ち主に破られる。

 

 だからこそ、新世界クラスの戦力がいる今の西の海での戦いは、鷹の目という剣士を心の底から楽しませていた。

 

 ここしばらくは、小賢しい小細工のせいでそれもなかったが……。

 

(だが、この男は――)

 

 抜き足と呼ばれる海賊は、確かに覇気を纏いつつある。が、まだまだ未熟。とても実戦で通用するレベルではなかった。

 仮に敵がロギアの能力者だった場合、何度も攻撃を繰り返してようやく小さいダメージが蓄積するだろうという程度の物だ。

 

 覇気使いというにはほど遠い。

 にも拘わらず――

 

(覇気というものを理解した上で、こうも食らいついてみせるか)

 

 海賊の攻撃の主軸は足である。

 指一本一本に脇差を取り付けた奇怪な武器も油断こそ出来ないが、鷹の目に致命打を思わせる攻撃は少ない。

 あくまで補助だ。

 

(実質足だけで、この俺を足止めしてみせるつもりか)

 

 この海賊は、鷹の目に勝てないと踏んでいる。正しい。

 実際、この男がもう少し攻撃に集中すれば、その瞬間に鷹の目はこの男の足か首を落とせるだろう。

 

 もっと防御だけに集中していれば、その守りごと覇気を込めた一撃で男の頭蓋を叩き割れるだろう。

 

 だが、この男は崩れない。

 最適な攻防のバランスで、的確に鷹の目の斬撃をずらし、動きを鈍らせるための軽い一撃を読み切って鉄板を仕込んでいるのだろう靴と手に嵌めた武器で防ぐ。

 

 そして――

 

(余裕があるわけではないだろうに、これだけの死合いの中で笑みを浮かべるか)

 

 殺し合いの中で、これほど静かな笑みを浮かべる男を、鷹の目は初めて見た。

 

 静かで、どこか透明さを感じさせる――菩薩のような笑みだ。

 

「名を上げたと言えど4つの海の海賊。貴様を討てば、更なる強者が群がってくるだろう程度にしか考えていなかったが……すまない、謝罪しよう」

 

 その笑みを前に、鷹の目を持つ男は真逆の――猛禽を思わせる笑みを浮かべた。

 

「本気でいかせてもらう。どこまでその首を守れるか、やってみせるがいい」

 

 男の宣言に海賊はその笑みを崩すことなく、静かに手の平で眼鏡の位置を直し、武器を構えた。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

―― 来やがった、黒猫だ!

 

 

―― 一列に並びやがって! ぶっ放せ!

 

 

―― 出番だぞお前ら! 高い金払ったんだ、アイツらの首を取れ!

 

 

「くそっ、頼むぞお前ら……。コイツら売り飛ばすだけで一億二億どころじゃねぇ金になる。ファミリーを盛り返すことが出来るんだ……っ」

 

 倉庫の中でも特に最奥。

 落ちぶれたファミリーにとっての最後の希望をしまい込んだそこには、十数名の魚人や人魚たちが繋がれていた。

 

 そして、その横には三人の人間の少女が繋がれ、なぜか厳重に鎖でグルグル巻きにされている金庫もある。

 

「兄貴、いっそ金庫の中身を誰かに使わせるのはどうなんですか?」

「馬鹿野郎! 相手はセットでお望みなんだ!」

「で、でも一つくらいは……」

「一つだけでも五億以上はする代物だ! うかつに食える(・・・)わけねぇだろうが!」

 

 ファミリー最高幹部の一人――正確には、海軍に次々と最高幹部たちが捕えられたために、否応なしに繰り上がってしまった男が、部下の頭を空の酒瓶で殴り倒す。

 

「くそっ!」

 

 男は繋がれて怯える三人の少女――その中で最も顔が整っている少女の黒髪を掴み上げる。

 

「待っていろ。上の奴らを片づけたら、一月後にはお前達は天竜人の玩具だ。焼き印を付けられたら、手始めに三人ともそこのクッソ不味い実を食わされる。吐き出すことも許されず、全部無理やり飲み込まされる」

 

 男は下卑(げび)た笑いを浮かべる。

 

「喜べよ。なんと五億……いや、下手したら十億以上の価値があるものを食わされるんだ。そしたらお前達が今している枷は、ますますお前達には辛くなるがな。なにせ力が一切入らず、抵抗も一切できなくなる」

 

 

「そうしたらお前達はどういう遊ばれ方をするのか……。まぁ、お友達と一緒に買ってやると言ってる天竜人に感謝するんだな。能力者の奴隷コレクションだなんて、悪趣味だとは思うんだがね」

 

 

「恨むなよ? 凪の帯(カームベルト)の辺りで遭難していたお前らが悪いんだからな」

 

 

 およそ10歳ほどの黒髪の少女は隣に並ぶ少女達のように震えるばかりだ。

 

「まぁ、なにせ悪名高き九蛇(くじゃ)の海賊だ。奪われたらそれでおしまいってのは分かってる。なぁ?」

 

 少女の両耳につけられた蛇を模したピアスが、少女の震えを受けてチリ……っと鳴った。

 

 

 




わ…………ぁ…………


※海図を確認したら女ヶ島は南の海に面しているようですが、新世界に乗り込んでの海賊行為の過程で遭難したという解釈でお願いします。

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