とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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女ヶ島はマーガレットメッチャ好きだけどモブにも可愛い子何気にいるんだよなぁ。
ちょっとバランスおかしいけど髪短い子好き

調べたら名前あったわ……ランか


031:未だ至らずとも

「さらに、さらに加速するか……。これだけの連撃でも捉えきれないとは」

 

 避けたってか掠った! 掠ってるんだってばねぇ分かってる!?

 

「そして浮かべる笑みに曇りなし……面白い。久々に落としがいのある首に出会ったな」

 

 いぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいぃぃぃぃやぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁっ!!!

 

 ホントなんなのマジでなんなの! なんなのコイツなんなの俺の運命!!?

 

 斬撃がさっきから首周りというか喉元でちっちちっちって薄皮削って熱おわあああああああああぁぁぁぁぁっ!!!

 

 っっぶねぇ! 完全に終わるかと思った!

 

 目が間に合う限界ギリギリまで加速してんのにコイツ一回蹴ったらますます笑うしもう捕捉し始めるし猫の手片方斬り飛ばすしホントなんなの!? 完全に覇気纏ってんじゃん殺る気満々じゃん!

 

 これロビンがトーヤ達と一緒に一生懸命作ってくれたのにてめぇこの野郎!

 

 なんなの俺の第二の人生!?

 

 俺なんか悪い事した!?

 

 そりゃあ駆け出しのころは俺を売り飛ばそうとしたクソ野郎共逆さ吊りにして股間に油ぶっかけて火を点けたりしたけど可愛いもんじゃん!? 正当防衛じゃん!?

 

 助けて! ほんとそろそろ一回くらい人生の難易度下げてクレメンス!

 

「だからこそ惜しい。貴様が覇気を纏えていたのならば、更なる強敵になったであろう」

 

 じゃあ見逃してくれませんかね!? ねぇ!!?

 

「ならば、一つ賭けといかないか? 海兵狩り」

 

 唯一いいことがあると思うならば、モリアと違い重量の差がそれほど酷くないこと。

 

 もっとも、モリアとは逆に攻撃が早くて見切るのにずっと集中してなきゃならないんだが、あの時みたいに攻撃の始点をずらすことが出来るのはデカいアドバンテージだ。

 

「お前は俺より強い」

「そうだな……。貴様には決定打が欠けている」

 

 ね。

 

 毎回毎回あれこれ考えて、西の海レベルの海兵ならまず苦戦しない程度には強くなってるのになんでモリアとかお前みたいなヤベー奴ばっか出てくるの?

 

「ならば、だ」

 

 

「仲間が下を抑えてここに戻ってくるまで俺がお前を圧倒し続ければ、仲間の事は見逃してくれないか?」

 

 いやもう情けないけど、こりゃ本気で死ぬ覚悟で頼み込んで仲間逃がすくらいしかできねぇ。

 ぶっちゃけ命乞いしたいレベルだけど、それやると首チョンパ待ったなしだからなぁ。

 

 仲間守るには、この死神相手に仲間以外の俺の持ち物全部をベットするしかない。

 

 …………。

 

 うん! これは死ぬしかないな!

 

 こんなに月が綺麗な夜なんだ、死ぬには出来すぎなくらい良い日だ!

 

 ハッハッハッハ! シバくぞ神様!!

 

「……いいだろう。来い」

「ああ、行くぞ」

 

 この夜のほどよい暗さ、静かさ。

 そして死ぬほど集中したおかげで覚えた鷹の目の()

 

 多分――行ける。

 

 

 

「――杓死」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「ダズ殿! 突出しすぎだ! 攻撃を一人で引き受けても、味方が戦線に間に合わなければ意味がない!」

「く……っ」

 

 崩壊した建物の地下入り口を発見したダズ達は、破竹の勢いで勝ち進んでいた。

 

 迷路のように入り組んでいた道はペローナのゴーストの物量偵察によるマッピングと、ロビンの能力による情報の伝達で道を探る。

 

 それを活かして、ダズ率いる黒猫海賊団戦闘員は次々に進撃を続けていた。

 

 (つたな)い所は未だあれど、海賊として――正しくはクロの部下として戦う事を覚悟した黒猫海賊団の元海兵組は、覚悟が違った。

 

 道を塞いで守りを固めているマフィアに雇われた兵隊も、盾役をこなすダズとその後ろで他の人員を統率して討ち取っていくハックとアミス達の部隊によって討ち取られた。

 

 だが、快進撃を続けているダズの顔は、これまでのどの戦いよりも苦い顔をしていた。

 

「アミス」

「はい」

「あの男は……強いのか?」

「……多分、これまでキャプテン達が戦ってきた誰よりも強いと思います。私が捕まる前の話ですが、当時の本部中将が船ごと(・・・)斬られたっていう、嘘みたいな話が広まっていましたから……」

 

 ダズの脳裏をよぎったのは、かつて戦ったゾンビを使う敵。

 正確には、その敵と戦う前に見た大穴を空けられ転覆していた密輸船の姿だ。

 

「……さっさと雑魚を蹴散らし、一刻も早く目的の開拓団の面子を救出して脱出する。いつものような貨物の持ち出しは一旦なしだ」

「一旦、ですか?」

「外が片付いていれば後で回収すればいい」

 

 そしてダズが、最後の扉を蹴破る。

 

「クソッ! 辿り着きやがったか! あいつら全員クソの役にも立たねぇ!」

 

 そこには、なぜか頭から血を流して倒れている男と、その横で悪態をついているいかにも高そうなスーツを着ている男、その後ろに控える多くのマフィアの兵隊。そして囚われている魚人たちや、自分達とそう歳の変わらないだろう少女たちがいた。

 

「隠し倉庫で、かつ捕らえた人間が逃げにくいように出入口を一つだけにしたのが裏目に出たな。そのためにお前達は逃げ場を失った」

 

 ダズの指摘に、スーツの男は「黙れクソガキが!」と苛立ち混じりに叫ぶ。

 

「野郎共! コイツら全員ぶち殺せ! ここは海楼石で覆われている! この中なら噂の幽霊やら生えてくる手足は出てこねぇ!!」

 

 マフィアの男は、黒猫の快進撃を能力ありきだと捉えていた。

 あながち間違ってはいない。いなかった。

 

 黒猫海賊団でもっとも活躍している者が誰かとなると、強力な能力者であるペローナが第一に挙げられるだろう。

 

「だからなんだというのだ」

 

 だが、それを一番分かっているのは他ならぬ黒猫に所属する全ての人間である。

 そしてゲッコー・モリアとその軍団と戦っている古参組は、それが通用しない相手がいる事も理解していた。

 

 だからこそ、誰もが出来る事を磨いていた。

 

「確かにペローナやロビンの援護はここには届かない」

 

 力がなければ奪われることを誰もが知っていて、だからこそ誰もが旗揚げの――いや、それ以前から自分達を鍛えていた。

 

「だが、それだけだ」

 

 

 

「貴様ら程度で我々を止められると思うな」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 少女達にとって、海賊とは戦士の事だ。

 

 戦士であるから強者でなくてはならない。

 強者でなくば戦士ではない。

 

 強いから奪う事を許され、弱者は抗う事を許されない存在だ。

 

 だからこそ、まだ見習いの身でありながら乗船を許されるほどに自らの身を鍛えぬいた。

 強者として弱者を踏みにじり、奪い尽くし、そうして故郷で戦士としての誉れを受ける。

 

 だが、それでも自然には勝てなかった。

 

 なぜか動きの鈍いグランドラインの海軍戦力を見て、今なら旨みがあると見た彼女の島の皇帝――海賊の皇帝の判断により新世界へ進出したが――想像を超える異常な気象と海流により、彼女は自分の妹たちと共に転落、遭難してしまった。

 

 運よく三人とも一命を取り留めたが、その先に待っていたのは想像したこともなかった囚われの身。

 

 海楼石と特殊な合金による二重の拘束で抵抗することは許されず、口を開いただけで物を投げつけられたり、顔に傷がついたら価値が下がると腹や背を鞭や警棒で殴られることもあった。

 

 奪われるとはこういうことなのだと、その身に思い知らされた。

 そして、ここから先が自分達にはないのだとも。

 

 だから、この光景が信じられない。

 

「どう……なって……」

「言っただろう。我々は止められんと」

 

 あれだけ怖かった、自分達を支配し、更なる支配者に引き渡そうとしていた男たちが瞬く間に全滅していた。

 

「数を揃えただけで、武器を揃えただけで勝利が決まるわけではない」

「く……そ……正義の……味方ごっこの……ガキが」

 

 自分達が万全ならばと苦痛から逃れるための空想が、現実となって起こっていた。

 

 

―― ハックさん、鍵束を見つけました! すぐに全員解放を!

 

 

―― すまぬ。皆、待たせてすまなかった! 助けに来たぞ!

 

 

 次々に、自分達と同じように囚われていた異形の者達が解放されていく。

 

「ごめんなさい。怖かったでしょう? すぐに外すから待っててね?」

 

 髪を短くしている黒スーツの女が、自分達の元に駆け寄り鍵を外そうとしてくれている。

 

「アミス殿、同胞が言うには、どうやらその者らの鍵は金庫の中に入っているそうだ。金庫の鍵を!」

「分かりました。総員、敵兵の拘束が完了次第捜索を!」

 

 

 

「正義の味方ではない。キャプテンの言葉を借りるなら、我らも略奪で身を立てる者」

 

 

 

 能力者なのだろう。

 銃弾も刃物も通さず、刃物に変化する自分の手足で次々に男たちを血の海に沈めた、自分と歳の変わらないだろう男が、散々自分達を甚振った男を見下ろしていた。

 

 

「海賊だ」

 

 


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