とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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ちょっと薄味


035:前哨戦

 ルーチュ島。

 西の海の非加盟国であった王国に所属していた島であり、今では複数の盗賊団による支配と生存税という名の略奪から、日々をしのぐ金も食料も碌にない。

 

 そんなそれほど大きくもなければ小さくもない島は今、突然現れた海賊によって襲撃されていた。

 

 

 

―― 事前に調査をしていたから数字や伝聞で状況は知っていたが、思った以上にひどいな……。

 

 

―― キャプテン・クロ、では?

 

 

―― ここの賊も大体斬ったし、死体を片づけたらとりあえず炊き出しだ。そっちはアミスに任せる。

 

 

―― 敵勢力が食料を狙ってきた場合は捕縛を?

 

 

―― いや、暴力に酔った賊だ。生かす必要はない。自主的に降伏しないのならば迷わず斬れ。

 

 

 

 海賊団の名は、黒猫。

 

 先日より自分達三姉妹が世話になっている、質だけならばもはや九蛇を一部凌駕しているのではないかと疑うほどの海賊団だ。

 

 それほどの海賊が、海賊にしてはやや温い話をしているのが耳に入った。

 

「おい、(ぬし)殿」

 

 仮にも下に付くことになったのならば『おぬし』と呼ぶわけにもいかず、今では(ぬし)殿と呼ぶようにしている。

 

「あぁ、ハンコック。そっちはどうだ?」

「終わったぞ。略奪に慣れて戦闘を忘れたような俗物であったわ。あれなら、ミホークが相手していた宗教家崩れの連中の方がよほどマシであったわ」

「そいつらは?」

「あやつが全員斬った。生かす価値はないとな。ほれ、終了の狼煙も上がっておる」

「よし、それじゃあ残るはダズの所と残党狩りか」

 

 分かり切っていたが、黒猫としての最初の仕事は温いにも程があった。

 ただあの賊どもを排除するだけならば、恐らく目の前の眼鏡の優男と、妹達に覇気を叩き込まれているあの刃物人間だけで十分だっただろう。

 

「あぁ、ミホークが斬った連中だが、集落から捕まえた連中を奴隷にしておった。今はその解放作業に入っているハズじゃ」

「……どいつもこいつも、好きだな奴隷」

「全くじゃ」

 

 ろくに食事も与えられず、痩せぼそった体で重労働をさせられている男に、同じく痩せぼそりながら暴力の跡がみられる女たち。

 

 あるいは、それがあり得たかもしれない自分達の未来の姿だと思うと、背筋が凍り付きそうになる。

 

「アミス、先に彼らに食事を提供してやってくれ。各集落の説得の材料にもなる」

「了解。親衛隊5名を残して、我々で向かいます。南の方に見える、あの古びた教会ですよね?」

 

 うむ。と頷くと、親衛隊の隊長が、すでに九蛇の精鋭にも匹敵するだろう兵士を引き連れて動き出す。

 

(あのミホークと最低でも十分は渡り合える戦士達のやることが、弱者への飯炊きと配膳とは……)

 

 行動方針を決めてから二週間。

 それからは特にマフィアの船や拠点からの略奪を強め、そして戦果のほとんどを日持ちのする食料に変えてからの今回の攻撃である。

 

「クロ殿、我らは本当に待機でよいのか?」

「あぁ、退屈させてすまんなハック。魚人族に対しての理解が深いとは思えない地で、魚人という種族の頑強さ……言ってしまえば暴力に強い面を見せるとどうなるか分からなくてな……」

 

 ある意味で恩人の一人でもある魚人――この男がクロたちと出会わず、助けを求めなかったら自分達は今頃売り飛ばされていただろう。

 

「それに、魚人島は今難しい問題に関わっていると聞く。賊とはいえ人間を倒す魚人よりも、弱者に手を貸す魚人というイメージの方がプラスに働くはずだ」

「……すまぬ、クロ殿。魚人島に戻った時は貴殿の話をするとしよう。きっと皆驚き、そして喜んでくれる」

 

 そして魚人に手を貸し、自分達を助けた海賊は、あいも変わらず強者に似つかわしくない気配りを忘れない。

 

「まぁ、俺という海賊に手を貸す時点で不味いんだが」

「はっはっは、いずれ分かるモノには分かる。貴殿らが背中に背負う黒猫の意味と、その価値が」

「……そうか。なら、そうなるように微力を尽くすまでだ」

「うむ、我らはそれに手を貸すまでよ」

 

(海賊の(かしら)とは、もっとこう……このように穏やかなものではない……と思っていたのだが)

 

 自らが所属していた九蛇の皇帝しかり、沈めてきたいくつもの海賊船の長しかり、海賊とは傲慢で、他者に気を配るのではなく自らに気を配らせる者が海賊の長というものだ。

 そうでなくば、荒くれものが多い海賊達をまとめ上げる事は出来ないし、嘗められる。

 そして、嘗められたら敵は増えるばかりだ。

 

「む……主殿、四本目の狼煙が上がったぞ、賊の討伐は全て完了したようじゃ」

「ダズもやってくれたか。ハンコック、ここの警護を頼む。残党の奇襲がないとも限らん。島としては、ここはそこそこ大きいからな。隠れる場所も多そうだ」

「隠れられそうな場所は、畑や集落からは遠い。いっそ火を付けてみてはどうじゃ?」

「……その手があったか。……いや、いや今回は駄目だ、事後処理に時間がかかりすぎる」

「あぁ、それがあったか。いや、よい。それならばそれで守りを固めるだけじゃ。日暮れ前までには各地の集落民を一度ここに集めるのじゃろう?」

「あぁ、解放の宴という奴だ。出来るだけ派手にやりたい」

 

 だが、このクロという海賊は奪う事で利を得るのではなく、与えることで与えた以上の利を得ようとする海賊だ。

 

 それでいて、奪う事を決めたら徹底的に奪う一面もある。

 

(やはり、この男はよく分からぬ)

 

 分からぬが、知っておかねばならぬ。

 いずれは敵になるかもしれぬ男ということもあるが、かつての自分が知らなかった外の世界は思った以上に広く、そして思っていた以上に醜悪な存在がいることをこの目で見た。

 

 なればこそ、一文の得にもならぬというのにそれに立ち向かおうとしている男の事は、知っておかねばならない。

 妹達も、自分達の恩人であると同時に弟子にもなった男の鍛錬や、ペローナやロビンといった年下、あるいは年の近い娘と過ごす今の生活を気に入っている。

 

「夜が俺達にとっての本番だ。警戒を固めたら交代で仮眠を取るようにな」

「分かっておる。主殿こそ、適度に休息をな」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 休息なぁ。

 取るに越したことはないんだけど、ここから先は時間との戦いだからうかつに休めないんよなぁ。

 

 せめて、最初の冬――いや、多分来年の収穫期を無事に乗り越えるまでは俺も海賊団の面子もちょっとデスマーチに近い死地を潜り抜けなきゃすり潰されるからなぁ。

 

 グランドラインに行こうにも、どうも政府や海軍の船がリヴァースマウンテンに続く航路を見張ってるようだし、最低限これを突破できる力は必要だ。

 

(……まぁ、その結果偉大なる航路(グランドライン)入りを狙っていた海賊の略奪が西の海で増え続けて治安がますます悪くなっているのは……皮肉だよなぁ。俺ならガンガン偉大なる航路(グランドライン)に送って海賊同士で削り合わせるけど……)

 

 まぁ、ロビンを連れている俺達をグランドラインに行かせたくないという気持ちはよく分かる。

 

「ハンコック嬢の言う事には一理あるぞ、クロ殿。貴殿の顔色が悪いと、アミス殿やロビン嬢が不安がる」

「気を付けたい……とは思っている。正直、海賊として働くよりも、適当な茶でも飲みながら本を読んでいる方が好きだ」

「書物か。……確かに、主殿はそっちの方が似合いそうじゃ」

 

 うちのスーツを着たハンコック――ただし、アミス達に比べて少しドレス風に改造されていて、より細身のスラックスはくるぶしのやや上の辺りまで裾上げされ、それでいて少しスリットが入った物になっている。

 

 原作でもそうだけど、コイツ足に自信あんのか?

 ……あるか。そういやこいつの未来の必殺技は蹴りだったわ。

 

(悪魔の実、一応アミス達が三つとも持ち帰ったけどアレ食べるのかねぇ?)

 

 今は一応本船船長室――つまり船での俺の部屋の金庫の中にしまっているけど。

 

『キャプテンさん』

 

 む。

 

「ロビン嬢か」

「動きがあったかの」

 

 自分の腕に生えてた耳の隣にロビンの唇が咲いたのを見て、ハックとハンコックが島の向こう側に遠い目線を送る。

 

『キャプテンさんの言う通り、変な船が二隻……島の周りをウロウロしてる。ペローナさんが、北北西の方からさらに三隻来てるって』

 

 よしよし、狼煙なんて分かりやすい連絡方法使った甲斐があったな。

 

「近づく気配はないんだな?」

『うん、そういうつもりはないみたい。ペローナさんが、ゴーストなら船員の様子を見れるかもって』

「不要だと伝えてくれ。代わりに、バレないように船の数と位置を常に捕捉していてほしい。上陸しそうならすぐに俺とダズに報告を」

『うん、分かった』

「親衛隊の面子から離れるな。すでに上陸している奴がいる場合に備えてハックをそっちに向かわせる」

 

 おそらくマフィアの連中だろう。

 俺達が今回の目的としている国(・・・・・・・・・・・)に根を張っている奴らの兵隊と見た。

 

「餌にかかったようじゃの」

「あぁ、これで本命の制圧作戦が楽になる」

 

 今回、この島を解放することになったのは黒猫海賊団の行動方針の喧伝と、後々の生産拠点の一つにするためというのは正解だが、この島が選ばれた理由は別にある。

 

 これから俺達が制圧する予定である、ほぼ無政府状態といっていい非加盟国にほどよく近い場所にあったからだ。

 

「連中はこっちの強さを理解している。となると奴らが考えるのは奇襲だ」

「戦での負傷なり宴なりで身動きが取れない最中を狙うか。まぁ、効率的ではある。最初から見られていなければ、だが」

 

 ハックが苦笑しているが、正直油断のならない相手だ。

 やっぱり一度連中は徹底的に兵力を潰して後顧の憂いを断つべきだな。

 

「ハック、念のためロビンとペローナの護衛の増援に向かってくれ。魚人組で戦える者も連れてだ」

「ふむ、夜の役目は?」

「ロビンとペローナの二人が連中の上陸を確認したら、その後に奴らの船を強襲、接収してもらいたい。逃げ道を消す意味でも」

「なるほど……了解した」

 

 当初の計画からもうすでに大きく外れているが、今から始める計画には頭数と船数が必要になる。

 一隻でも多く、無傷の船が欲しい。

 

「ハンコック」

「む」

「予定通り宴を行う。集落民に酒と食事を振舞ったら、二番、三番艦の大砲から花火を上げる」

「照明弾を混ぜて、じゃな?」

「そうだ。おそらく日が暮れそうになってから上陸して、宴の気配が消える頃を狙うために隠れ潜もうとするはずだ」

「そこをダズやミホーク、そしてわらわ達で強襲する、と」

 

 そういうこと。

 

「逃げられたら面倒だ。照明弾や能力で確実に敵を捕捉し、確実に包囲し、そして的確に包囲網を狭めていく部隊の連携が試される。ロビン達と連絡を密にな」

 

 今回の作戦の最大の肝は、肝心の非加盟国制圧戦で一番厄介で、かつ俺達を目の敵にしている連中の兵力を事前に削り取る事。

 

 そして出来る事ならば、捕えた兵隊から目標の国の様子はもちろん連中のアジトや取引についてなど、とにかく片っ端から情報を引き出したい。

 

 別に痛めつけなくてもネガティブ状態にしまくって何度も質問すれば大体全員吐く。

 

「ハックは船の接収時、あるのならば電伝虫をすぐに野生に帰してくれ。ここからは相手に情報を与えないうちに動く必要がある」

 

 ある意味で電撃戦はうちの十八番だ。

 今回は規模が規模なので事前に兵力を削る作戦をあれこれ考える羽目になったが……。

 

「主殿」

「ん?」

「主殿は、ひょっとしたら下手な海賊よりも怖い海賊かもしれぬの」

 

 なんでじゃ。

 

 




ちょっと年始の頃まで、投稿がより不定期になるかもしれません
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