二番艦以降の人員はまだあっさり蹴散らさられる。
「どうだハンコック? 大工組に頼んで出来るだけ固くて丈夫な木材を選んでもらったんだが」
「うむ、良い素材であった。おかげでほら、この通りじゃ」
そう言ってハンコックは、ブラウスの上に革製の胸当てを付けたうえで、手にしている木製の弓を引いて見せる。
いや、俺に弓の良し悪しは分からんのだが……。
まぁ、ハンコックが自慢げにしているという事はかなり納得のいく出来なのだろう。
「矢の方も、今大工組が復興の片手間に作っている」
「先ほど交代で戻ったトーヤに聞いておる。ある程度矢が揃ったら、弓の慣らしも兼ねて山で狩猟をするとしよう」
「あぁ、それは助かる」
「うむ、豆と魚の塩辛いスープばかりでは皆飽きてくるじゃろうて」
弓を作りたい。
ハンコック達九蛇の三人がそう言いだしたのは先日の話だ。
これまでハンコックは格闘主体でたまに剣やナイフを、妹の二人は槍を使って戦っていたが、三人曰く使い慣れているのは弓という事だった。
(言われて思い出したが、原作でも九蛇は結構弓使ってたな)
「九蛇だと弓兵は多いのか?」
「大抵の戦士は使える。アマゾン・リリーは外部との繋がりなど略奪程度しかないから、
その大砲もあまり使わぬがの、というハンコックの言葉に、原作を思い返す。
……確かに、大砲使ってたイメージあんまりないな。
「だから飛び道具として弓は大体の戦士が一度は触る。作成も容易く、矢ならあの島の中でも数が揃えられるし、覇気を込めれば威力とて銃にも負けぬ」
「なるほど、確かに理に適っているな」
マフィア勢力からの略奪というか、ここ最近の鹵獲品が多くて武器には困っていないが、後々の補充や整備を考えると、地盤を固めるまではそっちの方がいいのかもしれん。
親衛隊なら覇気を使えるし。問題点があるとすれば訓練時間か。
―― キャプテンさん、ハンコックさん!
しばらくハンコックの弓の調整を眺めていると、ロビンが来た。
「これ、ロビン。この王宮がもはや我らの領地に等しいとはいえ、お主にはことさら身の上の事情というものがあろう。あまり一人で出歩くものではない、用心せぬか」
「あ……ごめんなさいハンコックさん」
あぁ、そういや親衛隊は港の整備と民衆の居住区画の設営で大体出払っていたか。
「すまない、一部の民衆はともかく王族の方々が協力的だったので俺も油断していた。今度からは親衛隊を一人は付けるようにしておこう。それで、どうしたロビン」
「あ、うん。ダズさん達の船が哨戒から帰ってくるのが見えたんだけど、なんだか甲板の皆が忙しそうだったから……知らない船を二隻も牽引してるし」
あぁ、おおかたまた敵船が来ていて、武器なり兵器なりと一緒に鹵獲したんだろうな。
あるいは、珍しく引いた網が大漁だったか。
大海賊時代とはよく言ったものだよなぁ。
おかげで海賊が新造船やら大砲、火薬に弾をわんさか持ってきてくれるので、武装面では大いに助かる。
……一番肝心な人員に関しては、下手に中に引き入れることが出来ないので地道に増やして育てていくしかないっていうのが問題なんだが。
「わかった。ハンコック、しばらくの間ロビンを頼む。俺は港で状況の確認と指揮を執ってくる」
「
「うん!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「いくら大海賊時代っつってもこれはおかしくない?」
港では確かにちょっとした混乱が起こっていた。
武装関連の整理はさすがに現地民にはまだ任せられないので、基本ウチの船団員で行うことにしていたのだが……それでは追いつかないほどの武器で溢れかえっている。
お前ら海賊に人生賭け過ぎだろ。
これだけの装備買える金あるんだったらもっと上手い生き方しろよホント……。
「キャプテンか、助かった。人員を少し出してもらえないか?」
「あぁ、もうトーヤに頼んで信頼できる労働者の選別と、指揮役の親衛隊出してもらってるけど……」
大砲大砲、また大砲。
見たところそこまで使い込まれていない、比較的新しい型の大砲がゴロゴロと運び出されている。
銃の方もよく見かける
……銃かぁ。白ひげの中にも幹部で使ってる奴確かいたし、赤髪の副船長が銃で黄猿止めてたから効果的なんだろうけど、ワンピース世界で強い印象がまったくない……。
まぁ、兵隊の通常装備が更新できるのはありがたい。
大砲も含めて試射してデータ取ったら再編時に採用だな。
「敵の数は?」
「6隻だった。うち4隻はあまりに鬱陶しかったのでペローナに沈めさせた……すまない、できるだけ船は捕らえておきたかったのだが……」
「あぁ、別にいい。無理に船を手に入れようとして、鍛えた精鋭を多少でも失う方が痛い」
親衛隊もそうだけど、地区本部戦以降から傘下に入った面々もキチンと戦力として育ってきてるからな。つまらんことで失いたくはない。
そもそも船動かすのにも腕と経験がいるんだから、下手に部下が死ぬような真似はすべきじゃないし、それを実行したダズは相変わらず期待を裏切らない。
「にしても、えらい武装だなコレ……」
「あぁ、船に固定しているものだけではなく、見ての通り車輪式のものまで甲板にギッシリと並べていてな……とにかく砲撃が鬱陶しかった……」
「ホントに面倒くさかったんだぞちくしょう!!」
いつの間にか来ていたペローナが、水をゴクゴク飲んでぷはーっ! と妙にオッサン臭い仕草をしている。
どうしたペローナ。
「直接の戦闘はもちろん、我々の得意とする中距離での撃ち合いをとことん避けられてな……」
「しかもこっちのゴーストのギリギリ射程外にまで逃げるから途中でミニホロ使って敵の砲弾落としながら突撃してからの特ホロで! あーっ、疲れた!」
「……思っていたよりも対応されるのが早いな。アミスには?」
隊長としての指揮力を鍛えるためにアミスも船を出すようになっている。
ダズが帰ってきたのならば、次の哨戒の準備を進めているはずだ。
「すでに伝えた。念のために鹵獲品の中で射程の長い大砲を二番,三番艦に二門ずつ一度積み込むということだ」
「……弾や火薬は十分か?」
「数はある。奴ら、どうも射程外からの一方的な砲戦でこちらを仕留めたかったようでな……」
それが気になるというか不安というか……。
正確には、そこまでしてこちらを確実に仕留めたいほどの勢力が世界政府や海軍以外にいるというのがちょっと……嫌な予感がする。
どうもマフィアの連中とも違うようだ。
「……ダズ、トーヤが人員連れてきたら後の予定はお前に任せる」
「? 臨時居住地と復興作業の視察も?」
「そうだ。必要だと思ったのならばハンコックやロビンを使え。無論、ペローナやロビンを一人にしないようにだが」
横でガキ扱いすんなとペローナがゲシゲシ蹴ってくるがガキなんだから仕方ないだろう。
ハンコックみたいに能力なしでも戦えるならともかく。
「哨戒に同乗する。万が一の時のためにな」
俺だったら、最悪の場面でも海面なり空走って船の側面なりマストぶった切ればいい。
猫の手もロビン達がまた作ってくれたし、今ならそういうことが出来る自信もある。
「戦力の逐次投入なんて馬鹿な真似はしないと思うんだがな……」
俺達を潰したい奴がいるのならば、それぞれでこちらの戦術分析はそりゃするよねぇ。
西の海を封鎖している海軍との決戦までに、また余計な敵が現れなきゃいいんだけど……。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
(……なんでそうなるのさ)
あまりの事態に思わず頭を抱えてしまう。
「キャプテン・クロ、どうしますか?」
「……一応
哨戒に出ておよそ半日。アミスの指揮の下予定通りのポイントを通過して、このままただの哨戒の視察で終わりかと思いきや、見覚えのある船がこっちに来てやがる。マジかお前。
「アミス、電伝虫」
「はっ。スピーカーにはすでに繋いであります」
サンキュー。
だけどアミス、顔に出てるよー。
アイツら今すぐ沈めませんか? って言いたいのが顔に出てるよー。
んんっ、とりあえず――
「そちらに交戦の意思がないことは確認した。これよりそちらに乗り移る」
スピーカーを通して拡散された俺の声に、相手もスピーカーで返そうとしたのだろう。ザザッと小さなノイズが向こうの船――超見覚えのある船から聞こえ、
『ヘッヘッヘ、そこは普通船長一人でこちらに来いだろう。相変わらず妙な海賊だな。えぇ?』
「お前はそもそも、
「――ベッジ」
『ハッハッハ! 相変わらずだな、クロォ!』
おま、お前、なんでわざわざこっちに来るん!?
しかも白旗掲げてまで話し合い!?
『お前に話したいことがあってな。まぁ、とりあえず上がりな。まずはこっちの武装解除だろう? 話はそれからにしようじゃないか、ヘッヘッヘ』
話ってお前絶対にやっかいごとだろうがコルァ!!
わかってんだぞコルァ!!!!
本年最後の更新になります。
来年はワンピースと同じくコナンも大きく動くようですので、黒猫と同じくワトソンも更新して行くのを抱負にしたいと考えております。
何卒、来年もよろしくお願いいたします