「海賊国家?」
「そうだ、お前らが今相手にしてるのはそう呼ばれている連中さ」
結局あの後船に不審な点がないことを確認してから、モプチの港へと戻った俺はアミスと共にベッジをいつもの会議室へと通していた。
こいつの部下達は港で待機だ。
少なくとも今回は敵ではないし、ベッジの事だからこうして話すことに価値があるだけの情報を持ってきているのだろう。
そういう相手を、部下とはいえ上陸するなと粗末には扱えない。
さすがに街中にはマフィア・アレルギーがある民衆もいるから通せないが、多少の自由は保障する必要がある。
「そう呼ばれるだろう枠組みを今まさに作っている所なのに、まさか
「へっへっへ。ここ最近のお前らの動きに、とあるファミリーはお怒りだぜ。麻薬の原料作ってた所が乗っ取られたってな」
「乗っ取ったんじゃなくて潰したんだが……」
「自分がやってたことは相手もやる物だと思ってんのさ。後ろ暗い真似は尚更な」
事実、ここの市民の収入源の一つが麻薬になる作物の栽培だった。
それをマフィアは安く買いたたき、加工して出来上がった違法薬物を高く売りつけ、その儲けで安い食料を買ってここの闇市で高く売る。
そういう真似をしていたようだ。
むろん、それだけではなかったようだが……。
まぁ、諸々全部燃やした。
繊維質としても使えるからそっち方面で活用しようか悩んだけど、ここでうかつに許したら生産力が落ちるのは目に見えていたので片っ端から火をつけた。苗も種もだ。
山とかに自生しているやつがあったら徹底的に駆除するように指示も出している。
「話を戻すぜ、クロ。モグワ王国。西の海の中じゃあ
ベッジとの会談は、一対一で構わないと思ったのだがダズとアミスがこれを拒否。
俺のそばにはアミスが控えていて、向こう側にもなんか見覚えのある男が控えている。
コイツ、あの時に船から急いで脱出するように俺が説得した男じゃん。
「モグワ……確かにこの国からは近い位置にある国だが……海賊国家? 一応、加盟国は海賊とつながりを持っていたら重罪だろう?」
七武海を除いてという話になるが。
原作でのアラバスタ事件のエピローグで、海兵がそんな感じの事を言ってアラバスタの……なんだっけ? チャカ? とかいう将軍に詰め寄っていたような?
「表向きは関係ないとして、裏で海賊と手を組んでる奴らはそこそこいるぜ。たとえば西の海で有数の海賊である八宝水軍なんか見ろ。頭の首に5億ベリーがかかっていても、同時に
……花ノ国ってグランドラインの国じゃなかったのか。
いかん、やっぱキチンと地理関係は頭に叩き込んでおくか。
関わったところやなんらかの形で関わるつもりの所しかチェックしてねぇ。
というか、グランドライン後半の物語でも普通に西の海の連中が来てるってことは、少なくとも20年後には割と行き来してる奴らがいるって事か。
今は……まだそういう話は聞いてないけど、いずれは四皇も見据えて対策を……遠いなぁ……。
自分だけじゃなくて仲間の命やら尊厳がかかってるから嘆いてポイとか無理だし……。
クレメンス……クレメンスどこ……?
「まぁ、確かに海賊との結託があからさまだと海軍に
違う方法って……そもそも、海賊とつるむ理由がねぇ。
あるとすればなんだ? 略奪による収入? んなもんに頼る国家なんざ論外だ。
となると戦力? それこそ自前の方が……自前の軍じゃ出来ないこと?
「……他国への圧力か?」
世界政府は一つの国家というわけではなく、国家群の集まりだ。
そして国家間の仲は決して良いものではない。
20年後の話とは言え、陰険チンピラドピンク腐れサングラスがSMILEをはじめ武器を売りさばいていたんだ。
火種なんてそこらにあるものだろう。
「へっへっへ、そういうことだよクロ」
「面倒な……と切って捨てるわけにもいかないか」
だったら、それが非合法な手段だと分かっていても他国より有利になりたい、あるいは他国の足を引っ張っておきたいという奴がいてもおかしくない。
「やつらの狡い所は、直接海賊と話し合うんじゃなく、自前の兵力を使って海賊を上手く利用する所だ」
「要するに、海軍戦力を海賊を
「おうとも。さすがだなクロ、そういうことさ」
アミスが持ってきたワイングラスに口を付け、美味そうにワインを一口呷る。
さすがマフィア、酒が似合うな。
「なにせ今は大海賊時代。
「当然、国力を落とす要因になる。が、それを追い出すだけの戦力があれば……」
「周辺国の国力をそぎ落とす武器になる。もっとも――」
「俺達がそれを片っ端から潰し始めた。連中からしたら面白くないわけだ。周りの国の足を引っ張る効率が落ちる」
「逆に、他の加盟国はお前達の事を歓迎してるぜ。どういうわけか、海兵奴隷の一件が噂で広がっているようだからな」
あぁ、それは買い出し組の面子から聞いた。
酒場で酒を補給した時に、俺達の話をしている連中がいたとかなんとか。
「余計な尾ひれがついた噂は面倒なんだがな……」
海兵奴隷の件で天竜人――世界政府への不信が広がるのは百歩譲ってまだいいが、内容が内容だ。
アミス達が妙な色眼鏡で見られかねない。
あまり心地の良いものではないだろう。
「あぁ……お前はそういうのが嫌いだろうが、悪名だろうが名声だろうがもらえるもんはもらっとけ。手札が多いに越したことはないだろうが」
「む」
言われて見りゃそりゃそうか。
雇うどころか養う人間が爆発的に増えた今、敬意だろうが恐怖だろうが懸賞金の額以外で名を知られるのは色々利用できる。
「……そうだな。受け止めるさ、ベッジ」
「おう、そうしとけ。それよりも問題は、海賊国家だ」
ベッジ、貴様葉巻吸うのは構わんが一言くらい言えこの野郎。
アミスが睨んでるだろうが。
「力で押さえつけていた連中ってのは、その力が弱まるとやり返されるのを恐れるもんだ」
「道理だ。自国民の安全を保障するという意味では……まぁ、そういう手段もある意味正道ではあるが……」
力を使った策は間違いなく強いし、数が揃っていれば成功確率も上がるんだけど、バランス感覚ないと難しいよなぁ。
「……ベッジ、お前達が来る少し前に、やけに装備の整った集団に襲われた。装備も船も新品だったので、新興の海賊かと思っていたんだが」
「モグワの海軍だろうな。お前らを潰して、内乱が形だけとはいえ収まったこの島を無理やり接収するつもりだったんじゃねぇか」
だろうなぁ。
ついでにその後も分かるぞ。
この島の住民は非加盟国民だからな。奴隷なり農奴なりとして生産力を無理やり高めるつもりだったんだろう。
近海の海賊という圧迫役が減ったのならば、それが回復するまでに自国の圧力を上げるのは当然だ。
「いいタイミングで来たようだな。女々しい嫌がらせなんざする国の軍がお前らに敵うわけもねぇ。それは向こうも分かったはずだ。そうなると、次にどういう手段に出るのか……」
……碌な事はしないだろうな。
あれだけの船と武装を失ったんだ。乗組員は一応小舟を与えて逃したが……。
ともあれ、すぐに補充を考えるはずだ。
それも手っ取り早い方法……。
「狙いは俺達か?」
「入ってるだろうな。だがそれだけじゃねぇ。近隣の国は元々モグワ国が自分達の所に海賊が殺到している理由だと察している」
「それが少し活気づいているなら、苛立たしいか」
「あぁ。理不尽この上ないがな」
非加盟国をまとめるために、まずは生産力確保したという実績を積みたい所でなんで加盟国のいざこざが飛んで来るんだよ馬鹿!
なんにせよ偵察が必要だな、ちくしょう。
顔の知られていない面子で調べさせるか。
「つまり、近隣諸国内にあるだろうお前の所の縄張りも荒らされそうだから、協力してモグワの圧力を削ごう……ってことか?」
そう言うとベッジはニヤリと笑い、
「察しが早くて助かるぜ、クロ」
「得もなしに手助けをするタイプじゃないだろう、お前は」
「へっへっへ。で、どうする?」
「分かっているだろう? 加盟国への実質宣戦布告なんざ……」
「避けては通れない道が今来ただけだ。乗ったぞ、ベッジ」
「はっはっは! そうでなくちゃなぁ! クロ!」
「ああ」
「同盟だ」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「加盟国が海賊を利用して、他の加盟国への間接的な攻撃に使っていると……。なんという」
「不快な思いをさせてしまい、申し訳ございません。王女殿下」
同盟が決定し、港内部の旧衛兵詰所へと案内してから、事態を説明するために王族の方々と面会している。
場合によっては、ベッジ達をこの王宮内に招くことがあるからだ。
後ろにはハンコックが片膝をついて頭を下げている。
ハンコックのそれは原作的に考えられない事だったため最初は目を疑ったが、「主殿が敬意を示す相手に、下につくわらわが示さぬわけにはいかぬ」という事だ。
……奴隷時代を経験させる前に救出したことが、思わぬ方向に影響与えているな。
元海兵組に礼儀作法のアレコレ習ってたりするし。
お前そんないい子だったのか。
すまん、正直使いやすいから色々仕事任せてしまうかもしれん。
「よいのです、クロ。貴方が気にすることはありません」
栗色の長い髪――少し前まで手入れもされないまま伸ばしっぱなしだった髪が、多少は手が入るようになっている。
「貴方は海賊であるにも関わらず私や母上、妹にも敬意を持って接してくれています。アミス達親衛隊の方々も、街へ出る際に我らを守ってくれ……おかげで少しずつ民に対し、王族としてせめてもの慰撫を行えるように……少し前まで、考えられなかったことです」
初めて会った時は、絶望からか海賊である俺達のご機嫌を窺うような発言が多かったお姫様も、少しずつキチンと話してくれるようになった。
「……王妃様は」
「母は、全て私に任せると……いえ、その実は、貴方に任せたいのでしょう。クロ」
玉座に座る事を良しとしなかった王族の最高位――王妃様はあまり表に出てこない。
体調が悪いわけではなさそうだが……人間不信か、あるいは恐怖か……。
「クロ」
「はっ」
「世界政府は、いつかこの島を攻めるでしょうか?」
…………うん。
「おそらく。我らがここを去ったとしても、ここが豊かになれば世界政府はなんらかの形でここを欲するでしょう」
多分、だけど。
世界政府としては、自分達こそ文字通り『世界』だという正当性が最大の武器だ。
その世界の手を離れて豊かになろうとする国があるとしたら、よほどの理由――例えば四皇や七武海の勢力下であるとか――がない限り、世界政府の中に加えておきたいハズだ。
(だからこその連合構想なんだけど……核になる国も人物もいないのがなぁ)
「……我らにはとうの昔に逃げ場はありません。貴方達が来なければ、裏社会の人間に嬲られ今頃売り飛ばされていたでしょう。……現に、父や兄はそうなりました」
元国王や王子の行方はこちらでも探したが、どうも東の海――あの橋の国ことテキーラウルフに送られたようだ。
もしまだ生きているのならば、労働力として働かされているのだろう。
「クロ」
「はっ」
「これは、この国の王族としての言葉です」
「貴方が先日おっしゃった計画も含め、貴方の思うままに事を進めてください」
「きっとそれが、この国にもっとも自由と豊かさを取り戻させてくれると信じております」
……いや、そういってくださるのは嬉しいのですが。
「この身は、海賊ですが?」
「いいえ。たとえ人があなたを海賊と呼ぼうが……」
「私は、あなたほどの騎士を見たことがありません」
そういう評価は巡り巡って事態をややこしい方向に引っ張りかねないんですけど!!?