とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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今回は短めです


041:開戦

「ふん、やはり西の海は安酒ばかりか。碌な物がない」

 

 家族を連れてこなくてよかったと、一国の王であり科学者であり、そして傭兵である男は酒杯を乱暴にテーブルの上に叩きつける。

 

(モグワ国王……あの愚物め、金さえ払えばいいと思っている)

 

 だらしない肥満体に、汚い髭が印象的な――否、それくらいしか印象に残るものがなかった国王らしからぬ男の印象を振り払うように、給仕として連れてきた女に酌を急かせる。

 

「海賊国家と呼ばれるわけだ。あのような下品な男が王とは……」

 

 男――ヴィンスモーク・ジャッジは、国土無き国の王である。

 土を踏むのは戦場のみ。

 国土として認められるのは船の上だけ。

 

 だからこそ、いつか必ずかつて――三百年前には確かにあった『ジェルマ王国』の復興を、先祖が代々受け継いできた一族の悲願を達成しなければならない。

 

「まさか、海賊の方がよほどマシとは……」

 

 酒杯の横に広げられているのは、こちらに着いてから手に入れた敵――『抜き足』のクロに関する調査資料である。

 

 ジャッジが特に興味を引かれたのは、『抜き足』の一味が過ごしていたという無人島の開発記録だ。

 本来ならば手に入らないハズのものだったが、海軍内部の伝手(つて)を使って詳細な記録を抜き出していた。

 

(海賊にしては、拠点や陣地の構築に長けている……)

 

 とある事件において、『抜き足』の一味が救出した海兵達と過ごしていた拠点跡地。

 地区本部海戦の直後に放棄されたその拠点は、ちょっとした村と言える程に設備が整っていた。

 

 寝泊まりする家屋はもちろん、土ごと植えた物は持ち出されていたがそれなりの規模の畑跡地。

 

 怪我人や病人を収容する立派な小屋。

 

 石と木材で作られた入浴設備。

 

 狩った獣を解体し、得た肉を干し、皮をなめす作業所。

 

 船の修理に使う板材を用意するための、原始的だが充分使える木材加工設備。

 

「海賊というより冒険家……いや、開拓者だな。それも、一流の」

 

 おそらく、そう悪くない生活環境を作り上げていたのだろう。

 

 現場を検証するためにその場に連れてこられた、一時『抜き足』と共に生活していた海兵達の中には、誰もいなくなった拠点跡地を見て泣き崩れる者が多く出たと記録にはある。

 

 その後、海軍を除隊した者も少なくないと。

 

「陛下」

 

 出来る事なら手元に置きたい人材だと考えていると、指揮官タイプのクローン兵が報告に現れた。

 

「武装船団がこちらの行く手を塞いでおります」

「例の海賊か?」

「ハッ、前方に三本爪の黒猫のマークの船五隻に、旗が違いますが質のいい武装船が一隻。右舷側より二隻ずつ」

「計十隻か」

 

 男は兜を被り、槍を手に取る。

 

「出来る事なら幹部勢は生け捕りにしろ。手にすれば有用な人材であるし、そうならなくても生かしておいた方が世界政府への手土産として高く――」

 

 そして指示を出すため直接敵の船を見ようと立ち上がった瞬間、これまで一度も揺れた事のない本船が、轟音と共に大きく揺れた。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「……ほう」

 

 遠くに見える船団。――巨大な電伝虫に背負われた巨船の集団という異形な相手に対して、剣士は抜いた刀を鞘に納め、呟く。

 

「距離があるとはいえ、生物ならば斬れると思ったが……存外丈夫な生物だな。動きを止めるだけか。科学の軍隊……面白い」

 

 

「「「「「だから斬る前に一言言えっていってんだろうが!!!!!!!!!」」」」」

 

 

 こいつ! 何も言わずに船首に向かった時点でやるんじゃないかと思ってたけども!!

 

 ハンコックに背中をゲシゲシ蹴られているミホークは首を傾げているが、お前そろそろ『ほう・れん・そう』の一つくらいは覚えてくれマジで!

 

「えぇい、まぁいい! ミホーク、感触としてはどうだ?」

「あの固さなら、恐らく砲弾を直撃させたとしても簡単には沈まん。少なくとも数発では無理と見た。砲戦となれば長期戦は免れんだろう」

「……やっぱりそうか」

 

 砲戦は確かに俺達『黒猫』の十八番(おはこ)ではあるのだが、同時に問題がある。消耗戦だということだ。

 

 砲弾に火薬、そもそも使用する大砲だって実質消耗品だ。

 今でこそ多数の鹵獲品のおかげで戦闘には困らないし、こちらの戦力を喧伝するためにもバカスカ撃っているが……強敵相手ならこそ出来るだけ短期間で決着を付けたい。

 

「主殿、どうやら向こうは、船が揺らされるほどの攻撃を受けたことがないようじゃ。動きが鈍い」

 

 一通り蹴りを入れてとりあえず満足したハンコックが、手入れに手入れを重ねて職人の作った一品並みの出来栄えになった弓で敵船を指す。

 

「よし、ペローナ、ネガティブとミニホロ両方用意しておけ。ペローナの能力の効果次第だが、この本船を主軸に突撃、ペローナの能力による援護を元にまず一隻制圧する」

 

 巨船故の小回りの利かなさをついて姑息に戦うつもりだが、それでも兵力差は歴然。

 全自動人斬りマシーンとその訓練を受けた精鋭がいなければ、後々ジリ貧になること覚悟で砲戦に徹底していただろう。

 

「アタシの能力が効かねぇのか?」

「ジェルマの兵士は恐怖心を抱きづらく調整(・・)されていると聞いた。もし効いてくれたら滅茶苦茶助かるんだが……まぁ、万が一に備えろ」

 

 覇気という存在を知って自分の能力を過信することはなくなったが、それでも自分の能力に自信を持っているウチの広範囲制圧型非殺傷兵器(ノン・リーサルウェポン)は不満そうだ。だが、爆破主体ならばむしろ混戦で大活躍できるだろう。

 

 ミホークみたいな人型決戦兵器を除けば、戦力というか火力面で一番ヤバいのは間違いなくペローナだ。

 

「繰り返すがまずは一隻。一隻を確実に制圧する。ミホーク」

「ああ」

「ゴーストが効こうが効くまいが、俺とお前で先陣を切る。いいな?」

 

 うちの最強のカードがニヤリと笑い、「無論」と一言だけ返す。

 

「その後、ベッジの船や六、七番艦による砲撃支援の下、一番から五番艦の戦闘員全員で乗り込み制圧。今度はその船を主軸に他の船の攻略に入る。俺とミホークは好き勝手に暴れて敵勢力の圧を削る」

 

 ジェルマの最大の武器は兵隊だ。

 簡単には倒れない兵隊による質を備えた数による圧殺。

 

 逆に言えば、多数を圧倒出来る人員でそれを削ってしまえば対処は大幅に楽になる。

 

 そしてここに、現時点でも最強レベルの剣士がいる。

 そりゃぶつけて削りまくるしかねぇだろ。

 

「その間は奪った船の船上を主戦場とする。アミス達親衛隊は他の戦闘員をまとめて奪還に来るだろう敵軍を迎え撃て」

 

 攻めさせるところを一か所にまとめて敵の分散を防ぐ。

 激戦になってしまうが、今の親衛隊なら問題ない。

 どれだけ長時間かつ劣悪な環境だろうと戦い抜けるとミホークのお墨付きだ。

 

 なにせアミスの他に何名かはミホークから「面白い相手」判定を食らう程になっているのだ。

 

「今回ペローナは戦闘員の攻撃の補助を主とするため、敵の観測はロビンに一任する」

 

 ロビンが力強く頷くと、アミス達が戦闘前だというのにニコリと微笑んでいる。

 ペローナが構ったり引っ張り回すおかげか、ロビンは色んな面子から――特に親衛隊の面子からは可愛がられているからなぁ。

 

「ハック達魚人組は、すまないが移動の補助や落ちた船員の救助を頼む」

「うむ、心得た」

 

「そして――ダズ」

「ああ」

「今回、俺はとにかく数を削る。そうしなければこちらが圧し負ける」

「道理だ」

「そうだ、道理だ。だから――命令だ」

 

 

 

「敵の首魁――ヴィンスモーク・ジャッジはお前が倒せ」

 

 

 

「……キャプテン」

「ああ」

「アンタと共に海賊を始めて、色々あったが――」

 

 

 

「その命令をずっと待っていた」

 

 

 え、えらい気合入っているな……。

 いや、とにかく全員士気は高い。

 二番艦以降の船も、それなりに経験を積んだために艦隊行動に乱れはない。

 

「よし、なら――行くぞ」

 

 

 いける、いけるぞ。

 

 

 

「開戦だっ!!」

 

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