とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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043:『鋼刃』ダズ・ボーネスー①

(なるほど、キャプテンの言っていた通り油断ならない! 質の高い兵隊で数を揃えるとこうなるのね)

 

 まだ『黒猫』の旗がなく、ただの『抜き足』の一味だった頃から世話になり、その後正式に一員として黒猫を背負う事になった女兵士――いまは『抜き足』キャプテン・クロの周りを固める精鋭部隊、親衛隊の隊長となったアミスは、傷ついた兵士を盾に自分を押しつぶそうとしてくる同じ顔の兵士たちを一刀の下に斬り伏せ、後ろから銃や弓、槍で攻撃している一般戦闘員へと迫る脅威を押しのけていた。

 

 横に並ぶ親衛隊のメンバー――つまり、元海兵組も刀を振るい、次々に同じ顔の兵士の死体の山を作る。

 

 これまで乗り越えてきた戦闘と違い、確実に殺すように刀を振るっている。

 腕一本足一本――いや、命さえ残っていれば最後まで足掻く、かつて戦ったゾンビ兵以上にゾンビのような敵だからだ。

 

 親衛隊の中で唯一、魚人空手による徒手空拳を得意とするトーヤは敵を倒すことよりも、守りが崩されそうな所への遊撃と、相手を倒すよりも吹き飛ばして場を仕切り直す事を優先させている。

 

(キャプテンの予想通り、空になった船には目もくれない。早く船員をこちら側に移し終われば、その分戦力のバラつきも減らせる)

 

 何度もミホークに叩き潰されながらも必死に振り続け、ようやく身につき始めた生き残るための動きを必死で行いながら、アミスは事前の作戦会議を思い出す。

 

 

―― 下手に船を守ろうとすると却って沈められる。だから、全ての船を空にする勢いでまずは戦場となる最初の敵船に全員を移りこませる。これが大事だ。

 

 

 

―― ジェルマは船団国家。彼らに本来の意味で国土と呼べる国土はない。

 

 

 

―― つまり、彼らは国土である船の修繕や新造に必要な材木などの物資の調達が、他国に比べて実に難しい。あるいは金がかかる。

 

 

 

―― ベッジの部下が撮ってきた写真からも分かる。船の一部修繕跡に、すでに使用されていた船材を再利用したような跡が見られる。敵にとって、船はそのまま貴重な資源でもある。

 

 

 

―― ならば、出来るだけ船を無傷で手に入れようとするはず。突入する船は大砲不要。とにかく軽くしてくれ。あと、人員や装備の移動のため梯子やロープをしっかり積むように。

 

 

 

―― 戦場を向こうに選ばせず、こちらで選べば質の高い人員が揃っているこちらが勝つ。

 

 

 

(いつもの事ながら、どこであれだけの知識と洞察力を……)

 

 事実、キャプテン・クロの言う通り戦況は安定している。

 敵兵一人一人の質は高く、実際一般戦闘員にはある程度被害が出ている。が、それだけだ。

 

 クロとミホークという特級戦力によって隊列を崩された敵の一団を切り崩すのはそこまで難しくはなく、その後敵船の建造物などを利用した戦線の押し上げも、容易とは言わないが不可能ではない。

 

『アミスさん!』

 

 耳元で、一緒に生活している女の子の声がする。

 

『敵が下から甲板を崩して抜け道を作ろうとしてる!』

「……ミアキス、キャザリー!」

「はい!」

「ああ、ここにいるよ」

 

 親衛隊では珍しい、小太刀二本で戦う女兵士――対ゾンビ兵士戦の時に崩されてから、防御を自らの課題として訓練を続けていた兵士と銃火器を好む女性兵士を呼ぶ。

 

 どちらも訓練や幾度の実戦において、単独での防衛に定評のある親衛隊員だ。

 

「後方に待機。敵は下から甲板を崩して戦場の混乱を狙っている!」

「……後ろの人員の層の薄さがバレましたかね」

「隊長、正確な場所は分かるかい?」

 

 二人の隊員がアミスに近づいていたため、その疑問が耳に入ったロビンが、

 

『その真上に私が手を伸ばすよ』

 

 と提案してくる。

 それを耳にした隊員のキャザリーは、

 

「場所は廊下? それとも船室かい?」

 

 と尋ねる。こと、銃火器を使う彼女は戦い方に差が出てくるからだ。

 

『廊下。広さは大体、敵兵士三人が同時に歩けるくらい』

「了解した、ロビン君。隊長、もう一名隊員を借りていいか? 敵は精鋭だ。ミアキスともう一人前衛がいないと、突破されかねない」

 

 話している間にも敵の行動は続いている。

 アミスは親衛隊の隊長として、即座に指示を下さなければならない。

 

 戦場を見ると、前方でミホークが上に飛ばした斬撃を、おそらくそこにいたのだろうキャプテン・クロが下へと弾き返し、それを更にミホークが飛ばした斬撃で細かく切り裂き、甲板上に斬撃の散弾――散斬を巻き散らして敵を文字通り一掃していた。

 

(あそこまで前線を押し上げたら、後は内部の制圧戦になる。船内にも敵は多いだろうけど、敵の引きつけの維持のために出来るだけ親衛隊は残しておきたい……)

 

 甲板上ではクロとミホークが前線を斬り拓き、親衛隊が戦闘員を引き連れそれを押し上げ、敵の密度が濃い所をペローナの爆撃によって潰している。

 

「右舷側から二名連れて、ロビンちゃんのマークした所へ。戦闘員も好きな数だけ」

「中から押すんですね?」

 

 小太刀使いの言葉に、アミスは頷く。

 

「挟撃されるようなら、その場で持ちこたえて敵に圧を。親衛隊ならやってみせて」

「了解」

「もちろんだとも」

 

 実際、出来る。

 親衛隊は、下手すれば手足を失い脱落しかねない程のミホークのしごきに食らいついてきた者達だ。

 

 刀ではなく、少々変わった武器を使うこの二人も――いや、だからこそこの二人は親衛隊の中でも上位に食い込む猛者に数えられている。

 

 親衛隊は、そもそも奴隷として売られる所だった元海兵達の集まりだ。

 

 強くなければ奪われ、尊厳すら踏み躙られる事を身に染みて理解している者である。

 だからこそ、鍛錬においても実戦においても死に物狂いで強くならんとしてきたが故の親衛隊である。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「あのクソ野郎! 普通この混戦の中で俺に向かって斬撃飛ばすか!?」

 

 一度上空から敵の配置を見て、ロビンを通じてペローナの爆撃支援を頼もうと思ってた矢先にあの全自動惨殺死体製造機がいきなり人に向けて斬撃放ちやがった。

 

 いや、何がやりたかったのかはわかったよ。今真下がひでぇことになってるもん。

 だけどこう……あるだろう!? なんか斬撃のイメージが浮かんだから反射的に噛猫撃ったらこのありさまだよ!

 

「ロビン、敵の動きは?」

『もうすぐ甲板に穴が開く。そしたら、親衛隊の人が中に突入して中から圧をかけるって』

「人選は?」

 

 ロビンの能力は戦況把握と、傍受の心配がない通信としては満点だ。

 だが、同時に話すことが出来ないのが唯一の難点だな。

 

『ミアキスさんとキャザリーさん、それにミホークの後に続いている人……クリスさんを下がらせるって』

 

 攻防両面で完成しつつあるミアキスに中・後衛のキャザリー、それに本気出したミホーク相手に最低十分は食らいつける隊員。

 よし、バランス的にも問題ない。

 

 敵の内から圧を掛ければボコボコ穴を空けて奇襲を画策する余裕も無くなるだろう。

 

(そろそろ俺も内部に突入するか)

 

 ベッジ達は上手く敵の動きを止めてくれている。

 いざという時は見捨てていいとしたうえで大量の大砲をくれてやった甲斐があったというものだ。

 

 そもそも、大量の大砲なんて今の俺達の手には余る。

 それを活かせるのは、文字通り『城』持ちのベッジくらいだ。

 

(ホント、これが終わったら内政に専念したいんだけどな……)

 

 勢力を拡大させるのに必要な土台が脆いままだ。

 本格的に動くためにもせめて冬が来るまでは開発に専念するつもりだったのにガチ泣き嘘だと言ってくれDVネグレクト野郎めホント余計なことしやがって!!

 

 ……いや、そもそもの原因は海賊国家とその取り巻きの国か。

 今頃ベッジの手下がお前らの国内かき回してるからな、コイツら仕留めたら覚悟しておけよ!?

 

『! キャプテンさん、一番大きい船が回り込んできてる!』

 

 来たか。だが――

 

「問題ない」

 

 

「奴が見落とすわけがない」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 槍を持ったその男は、『怪鳥(ガルーダ)』の異名を持っていた。

 科学の力によって空を飛び、科学の力による高速移動によって目にも留まらぬ速さで敵を仕留める。

 

 これまでそうして来ていた。

 男は、科学の産み出した産物で身を固めた軍隊によって蹂躙し、科学の力で自国の国民(兵士)を肥やし、科学の力で国民(兵士)を増やし――科学の力で全てを奪ってきた。

 

 今度もそうだ。

 確かに海賊はこちらの想定をはるかに上回る強さを持っていた。

 

 だが、所詮賊は賊だ。

 兵士からも、精鋭と呼べるのは50~60名程。その中で脅威と呼べる最精鋭は20名ほどだと聞いている。

 それ以外をすり減らせば、どれだけ強かろうが数で圧殺できる。

 

 

 

 男は、そう思っていた。

 

 

 

「ぐ……ぬっ……」

 

 

 

 側面からの奇襲で、雑兵を蹴散らし後方から混乱させる。

 そうすれば、前線を維持している精鋭達を逆に挟めると。

 

 

 

「馬鹿な……っ」

 

 

 

 

 そう思い、近づけた船から装備を使い、敵が群れている自船の甲板目掛けて飛び立った。

 

 

 

「能力者とはいえ、こんな子供に止められるだと!?」

 

 

 

 

 だが、急に敵海賊が下がり、ぽっかり空いた広場にただ一人残った子供に自慢の槍が素手(・・)で掴まれ、止められていた。

 

 

 

 

「ジェルマ王国国王、ヴィンスモーク・ジャッジとお見受けする」

「貴様は――」

 

 

 

「船長命令だ。ここで無力化する」

 

 

 

 そこには『怪鳥(ガルーダ)』を狩らんと待ち受けている狩人が。

 

 

 

「懸賞金1500万ベリー……ダズ・ボーネス!」

 

 

 

 『鋼刃』と呼ばれる海賊が、待ち受けていた。

 

 




※ジェルマの船は原作だと城でしたが、そうなるまでに今は電伝虫がそこまで大きくなく、底が平らな帆船を乗せているという感じでお願いします。

読み返しててイメージと違っていたのでちょっと冷や汗かいた……



※ミアキス
小太刀二刀流というロマン溢れるファレナ女王国女王騎士黒猫海賊団親衛隊。

※キャザリー
ピストルやライフルといった銃火器を使う魔弾の射手黒猫海賊団親衛隊。
濃い紫の髪を短めにしている長身の女性

その場で適当に作ったモブです。はい、気付いた人もいるでしょうが元ネタは幻想水滸伝5
見た目もそのまんまで黒猫スーツ着せたイメージにしてます

本当にモブですので、集団戦闘以外で出る予定はあまりないです。
筆者のイメージしやすさのためですご了承ください
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