とある黒猫になった男の後悔日誌   作:rikka

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050:コンダクター

「エリアEより不審船発見の報告が来ています! ど、どうしましょう――」

「慌てるな、貴官らが慌てれば民にも不安が伝わる。ビグル大佐、コリー大佐」

「ハッ」

 

 休戦協定を結んで数日。

 こちらとしてはあまりよろしくないのだが、急遽モグワを仮の本拠として西の海軍戦力の一部が集結。

 モプチからやや離れているとはいえ近海といっていいモグワに海軍勢力が集まる結果になっているのはさすがに不味い。

 であれば、一刻も早く海賊連合を叩き潰すしかないとアレコレやっているのだが。

 

「それぞれの乗艦を以ってエリアEへと急行、もし敵艦ならすでに戦闘になっているハズ。すぐさま救援行動に。もし何もなければ、その二隻を以って近海の海賊への示威も兼ねて近くの加盟国への巡回を。少しでも民心を安心させてほしい」

「了解しました」

「失礼します、キャプテン・クロ! 一昨日救出した隣国カナンより食料、並びに医薬品が足りておらず、緊急の補給要請が入っております!」

「要請量は?」

「はっ……いえ、それが……要請だけでそこまでは……」

 

 なんで俺が海兵の指揮までやっているんだ!

 クザンはどこいったクザンは!

 

 他の将校はなにしてんの!? というか指揮系統どうなってる!!?

 

 えぇと、確かカナンの担当に任命したのは緊急再編で繰り上がった将校で、あの一件の後に繰り上げられたことに加えてクザンも「いいんじゃない?」とか言ってたって事は真面目で人柄と能力は確かなハズで……えぇとえぇとえぇと……。

 なら将校としての教育と経験の不足か! 人手不足に目を瞑ってでも補佐役もっと付けるべきだった!

 

「把握できない程混乱していると見るべきか。……アミス」

「ここに」

「親衛隊から二名、現場監督に長けた者を選出。海軍の船に物資を多めに載せた上で同乗、現地に。救護の補佐を行いながら情報を整理して報告させてくれ。必要ならば消費は許すが、無駄遣いさせるな」

「ハッ」

「それと、主役はあくまで海兵だ。目立ちすぎないようにな」

「畏まりました」

 

 えぇと、今ここに待機している海兵で使っても問題ないのは……医者の数もあんまり減らせないしできれば多少でも医療知識を持ってて理解のある……そうだ、確か両親が医者だった海兵がいた。名前は――

 

「バーセンジー大佐に伝令。今すぐ医薬品と食料を多めに積み込み、隣国カナンへ。追加援助と、現地活動中の海兵の救援を頼むと」

「はっ! 直ちに!」

 

 兵士としては熟練でも指揮者としては新米もいい所の人間が多すぎて草も生えない。

 助けて……助けてクレメンス……。

 この際赤犬でもいいからもう一人、いるだけで兵士を安定させられる人連れてきてクレメンス……。

 

「キャプテン・クロ! エリアAより敵船との交戦報告!」

 

 穀倉地帯の島がいくつかあるエリアじゃねぇか! やっぱり来たな!? 戦力多めに配置しててよかった!

 

 そしてお前ら報告一つでビビるな! 不安に思っても顔に出すな!!

 民衆の不安にこれ以上火が着いたらますます止まらなくなるぞ!

 

「敵の船種と数は?」

「はっ、ブリガンティン船二隻と!」

 

 二隻。一隻10~20人と考えると……。

 海軍が警戒を強めていることが明白な現状では明らかに少ない。

 

「囮の可能性がある。可能ならばソイツらを捕縛して欲しい。対応は交戦中だろう最寄りの二隻に加えてバセット、サモエド両大佐に。他の船は最大限の警戒を、島への上陸を狙う別働隊がいる可能性を忘れるな」

「了解!」

「伝令! 近海にて南東へと向かう海賊船の目撃情報! 数5!」

「ダズ、ロビンとミホークを連れて二番、三番艦で出撃。大量に物資を積み込める海軍船は少し手元に残しておきたい」

「分かった、すぐに出る」

 

「キャプテン・クロ! テリア大佐より報告! 初期に襲われた集落民に決起の気配あり!」

「食料を配って説得を。今ベッジの別働隊がルートを使って食料をかき集めてくれているからそちらは多少余裕がある。配った分もすぐに補充させる。もしそれでも海軍に反発するようなら即座に報告を。我々が海賊として襲う素振りを見せてプロパガンダを仕掛ける」

 

「ハスキー准将より入電! エリアAに向かう大艦隊を確認との事です! 数は10! 船種は――」

「エリア内の残存艦隊の半数を対処に。それとエリアDの担当将官に、援軍を出させろ」

「キャプテン・クロ、保護した避難民より陳情が――」

「管理部に関連物資の在庫数を挙げさせて――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は海賊だって言ってるだろうがどいつもこいつも!!」

 

 今日も……今日もどうにか捌き切った。

 いやまだ分からんけど、とりあえず日は暮れたし念のために穀倉地域には海軍部隊を手配している。

 予断は許さないが、各支部の予備戦力に余裕が出来たので対応力に厚みが出来た……はず……今日の所は……。

 

 どうしよう、ロビンとペローナ入れ替えるか? ちょっと攻撃力が欲しい。

 でもロビンは身の上の事があるから、出来るだけ目の届くところに置いておきたいし……。

 

 ペローナの殲滅力と偵察力は少ない数での防衛に最適だし……本拠地のモプチに海兵入れたくないし……。

 人が、人が足りんでありんす……。

 

 食料も医薬品もその他資材も、本部から運ぶ運ぶと言いながら出だし遅いし必要な量はバンバン増えるし……。

 ベッジが情報収集と並行して、ツテのある闇市の元締めから食料を流してくれてるからそれだけはなんとかなってるが……もう。もう!

 

「いやぁ、お疲れ。今日も八面六臂の大活躍だったって?」

「ぶっ飛ばすぞモジャモジャこの野郎」

 

 おっとつい本音が。

 オイ笑ってんじゃねぇぞホントこの野郎。

 

「そもそも大将が現場に出るとか……ドンと構えていてくれ……」

 

 どこに行ってたかと思ったらコイツ、前線に出てやがった。 

 

 普通そこは海賊を鉄砲玉にして数すり減らせながら、安全圏で民衆相手にいい顔して自分達の被害減らす所だろうが。

 

 なんで逆やってやがる。

 いや出来るだけ民衆の慰撫には海兵使ってるけど。

 

「現場もちょっとヤバい感じがしててね。……ほら、古参の将官が昨日怪我で動けなくなっただろう」

「あぁ……タキ准将殿」

「うん。あの御爺ちゃん」

「いい将校だった。戦力的な物は分からないけど、判断力に優れた上に人心掌握に長けた傑物で……自分も助けられてました」

「俺も、あんな人が西の海(ウェストブルー)にいるなんて思わなかった。……幸いお前さんの所の副総督君が助けに来てくれたおかげで一命を取り留めたけど、現場への影響が思ったより上っぽかったのよ」

「……せめて報告の一つくらい出してくれ。海兵が不安がる」

 

 ここ数日の共闘であまりに忙しくなったせいか、他の兵士や将校の目がない時はクザンとは完全に砕けた話し方をするようになっていた。

 あまり良い事じゃない気がするが、まぁ仕方ない。

 正直もうクザンは他人とは思えないくらいに、数日とはいえ苦を共にしすぎた。

 

「俺が従えと言っても、地区の将官たちは本気でお前さんに付いていかないでしょ。実力見せなきゃ」

「いや、だからクザンが指揮を……」

 

 そこで思い出した。

 そうだった、クザンも例の事件の影響で急遽繰り上がった新米大将だった。

 

「……割と一杯一杯?」

 

 なんとなくそう尋ねてみると、クザンは虚を突かれたような顔をして、その後気まずそうに頭をかいて誤魔化し始めた。

 ハハハ、こやつめ。

 

「お前さんには敵わないね。まぁ、そこまで追い詰められているわけじゃあないけど……」

 

 もうすぐ日が沈む。

 本来の住人が一人もいなくなった城の一室から、瓦礫の山となったかつての城下町をクザンが見下ろす。

 

 ……占領したばかりの頃のモプチを思い出すなぁ。

 あの時は焼けてない分まだマシな方だったけど。

 

「俺はね、てっきりおつるさんやガープさんが大将になると思ってたのよ。先生と並んで」

「大参謀に大英雄。俺もそれが順当とは思うけど……」

「結果は俺にボルサリーノ、それに……サカズキ。一番頼りにしてた先生は教官役の特別大将枠」

 

 先生ってのはゼファー先生か。

 にしても、まさかクザンが俺に弱音を吐くとは……。

 

 まぁ、多分原作と比べても相当早い大将就任だろうしなぁ。

 経験不足は否めないか。

 

「ホント、クロには助けられてる。お前さんがいなければ、これだけ広範囲を素早く引っ掻き回す海賊連合に対応できていたかどうか」

「ぜひ感謝してくれ」

「はっはっ」

 

 そして頼むから、せめて支部の手綱握って管理してくれ。

 アイツらの統率もうちょっと良ければ多少は楽になるんだよ。

 

「分かっていたつもりだったけど、先生達がどれだけ凄かったのか改めて思い知らされるよ」

 

 そう言ってシェリー酒の瓶に口を付ける。

 あんま飲みすぎないでくれよ? 昨日海賊として決起した連中、どうも進行方向からモプチを狙っているようだからその前に捕捉したいんだから。

 

 ……いや、まぁ、そんな連中がペローナの援護があるハンコックの部隊を抜けるハズがないのは分かってるんだが。

 

「…………多分、中核と言えるのは数人だと思う」

「指揮役かい?」

「ああ」

 

 連合の発生自体は偶然だったのだとは思う。

 前に推理した通り、リヴァースマウンテンの封鎖艦隊を突破するために手を組んだ連中だというのは今日までに捕まえてきた捕虜からの証言で分かっている。

 

「本来の意味で中核にいる連中は、海賊連合が壊滅した所で痛くない場所にいるからこの際気にしても仕方ない」

「やっかいだなぁ」

 

 まったくもって。

 

「策を考えている中核の人間と海賊連合の主力を繋ぐ、その人物を抑えればとりあえず事態は収まると思う。……あぁ、いやごめん。ウソついた」

「分かってる、大丈夫。……その後の立て直しでしょ?」

「政府が援助してくれるらしいけど……」

「大丈夫かねぇ……。クロ、お前さんはどう思う?」

「本部大将に疑われている時点でグレー」

「あらら。まぁ、そうなるか」

 

 まずちゃんと事態を把握できているのか?

 センゴクさんの上飛び越えて指示出されていたみたいだけど、俺もクザンも報告はセンゴクさんに出してるし。

 

 なんかおかしいと思ってモプチに残ってる事務方に被害報告の写し送って複製してもらったのをアチコチに配って情報の共有に努めているけど。

 

 それとも、政府の力を見せるってことで本気で凄い量を用意してるか?

 

偉大なる航路(グランドライン)も前半の楽園では海賊の被害が今のここ並みに拡大。新世界では四皇勢力の抗争の激化。……海軍も上手く動けない」

「……物資はともかく、増援は見込めないか」

 

 となれば、手持ちの戦力でなんとかするしかない。

 敵の目的は戦火の拡大。

 今はなんとか防衛線を構築して戦線を作ってる所。

 相手はそれを崩そうと手を打つだろう。

 

 ……なんとか、それを読み切って一手打たないとなぁ……。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「ソニア、マリー、民の様子はどうじゃ?」

「怖がっている者もいたけど、被害が出る前に抑え続けたからか生活は段々落ち着いているわ、姉様」

「どちらかと言えば、数年ぶりのしっかりした収穫期の用意を楽しんでいる」

「うむ、ならばよい。主殿から手の空いた者に出来るだけ多く薪を用意させろとの事だが、これなら問題なく作業に入れそうじゃ」

 

 西の海の全ての国が海賊の恐怖に怯えている中、このモプチだけはその恐怖が大きく薄れている。

 他ならぬ海賊に支配されており、かつその支配は自由と安全を保障したものだからだ。

 

 民は、全てを奪われる心配のない収穫期を目前にして、ささやかな祭りとして歌や踊りを楽しむくらいには余裕があった。

 

「ペローナ、潜んでいる敵船はないのじゃな?」

「おう、島の周囲から離れた所までチェックしてるけどなし。ウチの輸送船だけだ」

「全く、まさかあの拠点に客人とな」

 

 本来ならば兵士の装備の出来を確認する予定だったハンコック達三姉妹は、港へと出向いていた。

 しばらくは隠れておけとクロが命令していた非戦闘員の魚人達から、客人が来ていると報告があったのだ。

 

 急遽残されていた船に人員を積み、ハックと共に迎えに行かせていた。

 

「しかし、ハンコックに用事とはいったい何事だぁ? ……この忙しい時に」

「なんでもメイプルの幼馴染をここまで連れて来たらしい。ほれ、戦闘員として訓練してるイカの魚人がいたじゃろう、女人の」

「……?」

「刀を八本も使う贅沢な奴じゃ。見覚えがあろう?」

「あぁ! 親衛隊入り目指してる奴か。名前までは知らなかったぜ」

 

 メイプル――メイプル・リードとは、歳の頃はクロとそこまで変わらない開拓団の一員で、現在ハックに次いで黒猫と関わりのある魚人である。

 

「お、見えた見えた。ウチの輸送船が……待て。ハンコック、妙な船が一隻その後ろから来てる。ウチの船じゃねぇ」

「えぇい、見つかったか。ソニア、マリー! 兵を連れて船を出せ!」

 

 ハンコックの命に、妹二人は駆け出し、船へと乗り込む。

 

「ペローナ、いざという時はそなたの能力で先制を頼むぞ」

「任せろ、雑魚海賊なんざアタシの――」

 

 敵じゃねぇ。

 そう言おうとしたペローナの強気な言葉が止まる。

 

「? どうしたペローナ」

「あ、いや……」

 

 ハンコック達が目視できる距離にその不審船はまだない。

 状況の把握が出来るのはペローナだけだった。

 

 

 

「近づいていた船が、なんか急に真っ二つ(・・・・)になったんだが」

 

 

 

 

 

 

「……ミホークの奴め、とうとう増えたか。やりおる」




※メイプル・リード
知る人ぞ知るハチことはっちゃんのプロトタイプだったイカの魚人。八刀流。
多分レッツパーリーとか叫び出す

実は自分も知らず、資料探ってたら出てきたのでちょい役で登場
ひょっとしたら本編時代に魚人戦力としてちょっと出すかも

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